誕生8



アイシクルエリアの"忘らるる都"の入り口近くに飛空艇は置いてあった。

一年通して気温が-度前後で空気も乾燥しており風も無い、人も近づかないためそこに置いておいた。

30年以上ぶりに飛空艇に入り、心臓が飛び出しそうなほど驚いたのが...


「クラウドはんお久しぶりです~」


セフィロスとの闘いを終え、操作の必要なくなったケットシーはそのまま飛空艇に置き去りにしてあった。

埃の被ったソレがクラウドが船内に入った途端、埃を巻き上げながら急に動き始めたのだ。

あまりの驚きに言葉が出ず固まっていると、続いて入ってきたスコールも操縦フロアでボッフボッフと積もった埃を舞い上げながらビョンビョンボンボン飛び跳ねている巨大なぬいぐるみに絶句、固まった。

だがそんな彼らのリアクションを、ケットシーの中の人は誤解した。


「あれぇクラウドはん~。何か怒ったはります~??あ、セフィロスですか~ですよね~!アイツ、ほんま困りモンですわ~

アイツてアッタマおっかしいですやん同じ言葉喋ってんのになんでこんなに通じへんのやろって、ボクもいつも思ってます~!

ほんで今回こんな大変なことになってしまいましたし~、ホンマ呆れて言葉もありませんわ。オマエそのアタマん中、おがくずでも詰まっとんのかて、今度こそ私もヤツを張り倒したなりました~

けどな~アイツ、こんなんやからこそ野放しにしたらあきませんのです~

アイツ、中身おがくずのくせに頭良さげぶっとるアホやからロクなことしやしまへん!そのへん、クラウドはんもピンとくるもの、ありまっしゃろ?

私かてホンマはあんなアホのトンチカチンのポンポロピーと付き合いたくなんかなかったですわ。でも一応元神羅の人間としてね~…責任感じますやんアレには」


左右にボヨンボヨン揺れながら謝罪かつ言い訳をするデブモーグリ、舞い上がった埃で空気にスモークがかかってきている。

リーブも画面の向こう側が白くなっている原因はもしかして自分の踊りにあるのではと気が付いたようだったが、久しぶり過ぎる操作でどうすれば体の揺れを止められるのか忘れてしまって、色んなボタンを押して止めようと試みて変な動きをしている。

クラウドにはリーブが操作画面であたふたしている姿が想像できて、微かに笑ってしまった。


「おい、埃だらけのぬいぐるみが喋ってるぜ……」

後から入ってきたサイファー達が唖然と面食らっている。

「否、頭上子猫喋

風神は頭の上の猫の方が喋っていると主張した。

「今このヌイグルミ、神羅の人間て言ったもんよ…ヌイグルミなのに人間...でも可愛い...

雷神が怯えながら萌えている。

「これはセフィロスの上司でクラウドの元仲間のリーブって人が中の人だ。電話の声と同じだ」

スコールが言った。

異世界人の存在に気付いたリーブが挨拶をした。


「どーもー。はじめましてー

ボクはゴードソーサー出身の占いロボットでぇ、クラウドさんの昔の仲間ですー。ケット・シーいいます~

こう見えて高性能なんですよ~

頭脳は子猫体はヌイグルミ全部合わせて占いロボット、ケット・シ~はい~どなたか占いましょか~

リーブは昔のキメ口上を噛まずに言えてご機嫌だったが、サイファー達は益々困惑した。

頭脳が子猫ってのはセールスポイントにならねぇだろ…と。

そしてこのバカデカイ占いロボットがクラウドの戦闘仲間っていうのは何だ防御壁代わりか何かかで、そのリーブってのはどこいったと増々混乱した。

「ケットシーは遠隔操作されてるロボットだ。頭の上の猫が通信部分になってる

こう見えてもロボットだから戦闘能力は高い。でも基本が娯楽ロボットだからバトルよりもそれ以外の方が有効に使える

で、このロボットを操作をしているのが元神羅の都市開発部門統括をやっていたエライ人

最初のころは神羅側のスパイとしてアバランチに入ってきた。でも結局本当に協力してくれるようになった

今も政府の閣僚をやるくらい凄くエライ人で、セフィロスを隠密で使ってる

お・前・た・ち・の住んでる・家・を紹介してくれたリーブだ。何か言う事あるだろ」


サイファーと雷神が目に見えて狼狽した。

「多謝

風神が両手を合わせて頭を下げるエスニックな挨拶をした。

その風神を他2名も倣って両手を合わせ頭を下げた。

リーブとクラウドは知らなかったが、風神の言葉は"感謝"の意味だったが、ポーズは"すんません!"の意味があった。

だがその見慣れないエスニックなポーズにリーブはなんだか照れてしまった。


「ん、もう。ボクは占いロボット・ケットシーです~。中の人とかいませんからぁ」

「補足。リーブはなぜかケットシー操作中は別人格になるらしい

リーブのくせに絶対にリーブとは認めないんだ。あくまでもこの姿でいる時はケットシーで通してやってくれ

いちいち否定してきてメンドクサイ

でも時々本人も混乱してリーブ本人になってる。な、リーブ

「ウォッホンところでクラウドはん~。荷物どうでした~

何か足らないものあったら言うてください~

こんな状況です。私、ケットシーが動きますよ~。何でも言うて言うて~

「大丈夫だよ十分だった。リーブの部下の人も親切だった。迷惑かけ通しでごめんな」

「ややなぁ、もう水臭い~そんなん言うたらあきませんでもそう思てくれはるなら~ボク、スコールはんとチョロっとお話してみたいです~彼、カッコよろしいなぁ。ウチの子になりません~

言われてクラウドがスコールの姿を探してみたら、、一緒に飛空艇に乗り込んでいたセフィロスが操作の確認作業をしているのをスコールが後ろから見ていた。


「スコール、どうした

「あぁ、俺の飛空艇とは全然システムが違うな。面白い」

「お前の飛行機は凄くカッコイイよな。スピードも凄く出そうだ」

「出る。それにあれは真空の宇宙を移動することもできる

でもこれは全く違うカッコ良さがある。スチームパンクだカッコイイ

そう言いながらスコールは30年以上も眠りについていた飛空艇を目覚めさせようとあちこちを操作するセフィロスの動きを目で追っていた。


いくつかの操作を繰り返した後、セフィロスはクラウドに「発進できるようになるまで1時間、といったところだ」と言い、エンジンルームへ移動した。

すると何故かスコールもついて行った。


「邪魔だ」

エンジンルームで作業をしているセフィロスが振り返りもせず言った。

「気にするな」

腕を組んで見学するだけで手伝いも退きもしないスコールをセフィロスは無視することに決めた。


バーナーで氷結していた部分を溶かしたり、老腐化したオイルを抜き取り、癒着していた部分を切り取り剥がし溶解し、セットし直したり新しいオイルを注したり、部品を解体、乾燥させ、再組立てをし戻し、また別の部分を解体取り換えメンテをしたりしていた。

バーナーの炎のゴォーーッという音や、部品をいじる金属音やタオルの柔らかな音、船底を歩く音や動くセフィロスの衣擦れの音、長い髪が動くサラサラという音だけがエンジンルームに響き、そのメンテ間に40分がアッという間に過ぎて、リーブと話し込んでいてまたスコールがいなくなっているのに気が付いたクラウドが探しにやってきた。


「スコール

ヒョコッと顔を出したクラウドに返事をしたのはセフィロスだった。

「クラウド、あと10分もあれば動くようになる。」

クラウドはセフィロスを見もせず返事もせず、スコールに言った。

「リーブの持ってきた酒を確認するか

「いい、見たってどうせ分からない。あるものを飲むだけだ」

クラウドは困ったように微かに笑い

「お前今のうちに寝ておいたらハイウインドは寝室は無いけど会議室がある。そこにソファーがあるし防音部屋だから結構休めると思うぞ

操縦室の向かいの赤い絨毯の部屋」


結局スコールはゴールドソーサーの連続バトル後、殆ど休んでいない。

クラウドから見ても限界を超えたバトルだったのは明らかだったが、その為の休息を自分が無理にストップさせてしまったのでずっと気になっていた。

「へえ旧式な飛空艇なのに防音部屋とは念の入った事だな」

"旧式"だからな。動き出すとけっこううるさいぞ

元々は神羅のエライ連中が使ってたみたいだからそういう部屋も必要だったんじゃないか

部屋のロックは壊れてるが、入って直ぐ左にある"在室"スイッチをつけておくと部屋の外に"在室"表示されるから誰も勝手に入らなくなる」

「分かった。後で使わせてもらう」

スコールがそう言うと、クラウドは"了解"の合図に片手を軽く上げて去っていった。


「酔うために浴びるほど飲む。そんなに正気でいられないか」

最初から最後までクラウドに無視されていたセフィロスが機械をいじりながら嘲笑まじりに呟いた。

「今は飲んでないし酔ってもいない」

答えになっているのかいないのかスコールは事実だけを言い、セフィロスは返事をしなかった。

人の間に流れる空気はどこまでも白々しく覚めまくって、ともすれば刺々しかった。


作業が終わり再び操縦室に戻りスイッチを入れていくと次々にブウゥゥ...ンと稼働していく音がした。

操縦室で操作をしていたセフィロスがどことへ言うでもなく「準備OKだ、飛ばしていいのか」と言い、どこからか返事が聴こえたらしく、新たにいくつかのハンドル・スイッチを動かした。

エンジン音が本格的に大きくなり船全体から大きな風が巻き起こり雪や土埃を巻き上げハイウインド操縦室の視界がになり、それぞれの場に散り散りになっていた皆が操縦室に集まってきた。


ゴオォォォー...と船が細かく揺れ、ふわり...と空に向かって上昇を始めた。

船体が上昇するにつれゼロ視界だったものがどんどんクリアになり、ゆっくりと空高く高く上昇をしてゆく。

ハイウインドの足元を見下ろせば、今まで停泊していた地が何故ボーンビレッジと呼ばれているのかよくわかった。

永久凍土の所々から顔を出している山のように大きい恐竜の骨。ハイウインドが地に停泊していた時は岩だと思っていたものが骨だったのだ。


「今からガイアの絶壁に向かう

リーブの部下がホテルに置いて来た俺らの荷物を持ってきてくれてるそうだ」

操縦室に中央広間から入って来ながらクラウドが答えた。

「この後時間くらいで山の麓に着陸する

絶壁付近には竜巻やブリザードが吹き荒れる絶壁の迷宮や、磁場が狂いまくってる大雪原がある

どれも一歩間違ったら本当に死ぬ

大雪原の真ん中には俺のロッジがある。そこを休憩地点にして先へ進む。

行先は全部案内するからそれまでは勝手に出歩くな

進み方さえ間違えなければチョットハードなアトラクションみたいで楽しめるだろうから」

OK


即答したスコールに逆にクラウドは疑惑を持った。

自分で言っておいて何だが、スコールは”やめろ”と言われて止めるような性格じゃないはずだ。"後で使わせてもらう"と言っていた会議室にすらまだ入っていないくらいだ

クラウドは再確認することにした。


「本当に行くなよ分からない奴がいけば絶対に迷うから

気温マイナス25度の竜巻の中は防寒着なんて関係ない、秒速で氷結するからな

「クラウド」

スコールの笑っていない笑顔に、クラウドは今失言をしたのだと気付いた。

「行くなよ絶対に行くなよアブナイからなアンタも地元民にそう言われたんだろ

だからアンタは言われた通り行かなかった。そうだな

で、そんな誰も立ち入れない、住めないような危険な場所にアンタのロッジを建てたのは誰だ

そんな場所なら普通の建築家は来ない、鳶すら来れないよな?で、誰がその家を建てたのか教えてくれ、クラウド

それとも元々そこに建てられてあったのを見つけたのかで、アンタはどうやってそのロッジを見つけ、自分のものにした

教えてくれ」

「………………………」

スコールはわざと顔をグッと答えられずにいるクラウドに近づけた。

「俺は答えを待っている。どうやってそこを手に入れた」

クラウドは後ずさりこそしなかったが、下を向いてしまった。

するとスコールは少し屈み、クラウドを覗き込み無理矢理視線を合わせるようにして声を低くして言った。

「アンタは半召喚獣だから別格か

死なないから何をやってもいい

で、俺はただの人間だから身の程を弁えろ、か

「そんなこと言ってない

執拗に追ってくるスコールの視線から逃げるため露骨に下を向き、更に目を逸らし横を向いてしまっているクラウド。

そんな子供っぽい可愛らしい反応にスコールは軽くため息をつき、背筋を伸ばし、ポンッとクラウドの両肩に手を置いた。


「絶対に誰も来ない

 誰も知らない

 一切の人の気配がしない

 この世のどこからも切り離された

 そんな場所、欲しいよな」

クラウドはいきなり肩を掴まれたことに大きく動揺していたが、必死にその動揺を隠していた。

「死んでもいい

 何もかも全てを切り捨てたい時はある

 で、意外とそんな時こそ妙なものを見つけたりもするんだ」

スコールは下を向いたままのクラウドの両肩に置いていた手を退けた。


ただ長い沈黙が続いた。


その間を不審に思いクラウドが顔をあげると、自分を見ているスコールと目が合った。


「…………」


必死に平静を装うクラウドだがスコールはそんな内心の焦りを知ってか知らずか、澄んだアイスブルーの瞳で人形のような無表情でクラウドをただ見下ろしていた。

そしてフッ...と目を逸らした。


「疲れた。休む」

そう言い、操縦室から出て行った。

クラウドは見送ったまま追う事が出来なかった。


スコールが分からない。

振り回される。

もう本当に…困る。

あの人をジッ……と見る癖は何とかならないか。

いや、癖か

あれはどう受け取ったらいいのか、どうしたらいいのか何を考えているのか本当に分からなくて困る。


それまですっかり気配を消していたセフィロスが急に操縦席から立ち上がったのでクラウドは更に驚いた。

「分かりにくいがアイツは今、相当荒れている

間違いない

まあ、アイツの身に起こった事件はせいぜいここ年くらい、女が消えたのは週間前だったな

今のアイツはうわべを取り繕っているだけの手負いの獣だ、近づけば無意味に噛みつかれる」


スコールに振り回されていることを無神経なセフィロスなんかに見抜かれて、クラウドは恥辱を抑え込みつつきつく睨みつけた。

セフィロスなんかに!スコールを理解しているかのように語られるなど我慢ならなかった。許せなかった。



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