誕生7  



「俺、アイツの眷属なんだ…………魔晄に漬けられていた年間でそう創り変えられていた」

「あいつみたいに意識が融合するのか

スコールの質問にクラウドは声にせず首を横に振った。


「アイツはジェノヴァを見つけた瞬間から意識の境目が無くなった、みたいな話だったけど、俺は”支配”される

アイツに命令された目標に向かって無意識に従ってる時もあるし、意識から乗っ取られる時もある、身体だけ乗っ取られる時もある。

とにかく俺に拒否権は無い。どんなに嫌な命令でも、いつだって従う。それ以外に無い

でも結局は自分の意志でやった事じゃないから、無意識の行動でも後になって自分の行動の破綻に気がつく

アイツみたいにジェノヴァと境目が無くなる事は無い」


クーラーの効いたコンテナの中はとても居心地が良かった。

強すぎる日光を遮るために窓は全て塞いであり壁も遮熱処理がしてあるため外の音も殆ど聞こえず、昼間なのに電灯をつけている密室感。しかもスコールと2人でいる安心感などから、クラウドはTV放送発覚以来、ようやく一息がつけた。

もっともこのコンテナを手に入れるためには、モンスターや強盗と戦ほどこなした後に、モンスターと強盗人を伴ったコレルプリズンのボスとの戦闘が必要だった。

だがスコールと組んだ状況では、全て瞬殺だった。


「セフィロス、お前そっちで勝手に話してろ。俺はこっちでスコールと話す」

クラウドがどこに言うともなく呟いた。

...ソレ、あいつに聞こえてるのか

スコールが眉をひそめて聞いた。

「あぁ。ちなみにアイツが俺に命令する時は言葉はいらない

ココに直接、星の裏側にいても届くみたいだ。距離とか関係ない」


人掛けのソファーのひじ掛けにゆったりと持たれながら自分の頭をコツコツと指さしながら、白けたようにクラウドは告白した。

そんな言い方をしたのは、スコールに同情されたくなかったから。

スコールもキツイ運命を乗り越えてきている。だから30も年上である自分が乗り越えられていない姿なんて格好がつかなくて嫌だった。

ガーデン訓練所破壊の件や、ついさっきのステイタス異常の件でとっくに格好などつかなくなっていることはクラウド自身分かってはいたが、、、でもやっぱり情けない姿は見られたくなかった。30も年上なのだ、たとえ見た目がどうであろうと格好つけたい。


クラウドが座るソファーの前に置かれたローテーブルは、車のタイヤを積んだ上に強化ガラスを置いただけのもので、スコールはそのガラスの端にクラウドに背を向ける形で腰をかけ足を組んでいた。

その背中に向かって溜息を吐く様に、クラウドは言葉を続けた。


「メテオを呼ぶ黒マテリアは仲間を犠牲にしてまで手に入れたものだった

絶対にセフィロスから守り通さなきゃならない。強く、メンバー全員、俺だってそう思ってた

なのに俺が黒マテリアをセフィロスに手渡した。アッサリと

その時はまだ自分がそんな風に作り替えられてるなんて知らなくて、全然訳が分からなかった

ずっと後になって気が付いた。それが無意識下のコントロールだった


仲間だった古代種の末裔の女性。お姉さんぶって明るくておせっかいで...好きだった

こんな姉がいたらよかったな…って思うくらいに良い人で、強くて、楽しくて、優しくて、大切な仲間だった

俺は………優しくしてくれた彼女を酷く.........殴った

分からない

自分で自分が分からない、自分が怖い、信用できない……

何故黒マテリアを渡した?何故彼女を殴り続けた?

分からない

頭の中が滅茶苦茶で......俺なのか


………俺の家は母子家庭で、田舎町で母一人で子供を育てる大変さは、子供の俺から見ても分かってた

でも俺はいつも問題ばかり起こして、いつも村の奴らに怒られて、嫌われて…

でも母さんだけはいつも俺の味方で、俺を誇ってくれて………

俺、照れくさくて一度も口に出したことは無かったけど、母さんが大好きで……

だから俺にとって女性は守らなきゃ駄目だって……

俺は母さんみたいな女性を守れる男になりたかったし、本当の意味で、本当に母さんが誇れる男になりたかった

なのに仲間に止められるまで、俺は、俺に優しくしてくれた彼女を殴り続けた

ソルジャー体質になって力も増幅していた俺が、非力な彼女を殴り続けた


彼女はアバランチから抜けた

でもそれは彼女の……古代種の末裔の役割を果たしに……俺が黒マテリアをセフィロスに渡してしまったせいで、彼女はホーリーを唱えるために古代種の神殿に行った

彼女は俺の夢に出てきて"気にしなくていいからね"って………あんなことをした俺を逆に心配してた

俺、思ったんだ。彼女が危ないって

メテオの邪魔をするホーリーを唱えようとする彼女をセフィロスが放っておくわけがない

俺……俺達は彼女が心配で皆で彼女を追った

彼女をセフィロスから守るために彼女を探した

後になって分かったけど、これもセフィロスのコントロールだった

で、彼女を見つけた

古代種の神殿の中の祭壇で祈ってる彼女を

その時、セフィロスの声が俺の頭の中に響いた


殺せ


古代種の女


殺せ


その女を殺せ


俺、また頭がおかしくなった

そんなのするわけがない、絶対に嫌だ

でも頭がかき回される

嫌だそんなの嫌だ

彼女を守りたい

彼女は俺に優しくしてくれた

セフィロスがどんどん俺の頭の中で存在を広げてきた

声が俺を支配する

でも嫌だ、彼女、優しかった。楽しい人なんだ。

絶対に、どうしても、死んでも嫌だった。

そしたら


この血、この肉にセフィロスの侵入を感じた


彼女が目の前にいる

...絶対に嫌だ。絶対に嫌だ。絶対に嫌だ

彼女の優しさや明るさが辛い事をたくさん乗り越えてきた強さから来てるんだって知った

そんな女性こそ守りたいんだ、俺は

彼女みたいな人を守れないなら俺が神羅に入った意味なんかない

俺が生きてきた意味なんてない

全力で抵抗した。

セフィロスが俺の体を動かす

止めろ嫌だ、嫌だ。止めてくれ

絶対に嫌だ。そう思ったのに……!


手が剣を握った

嫌だ。嫌だ。嫌だ

彼女を失いたくない

エアリスはこんな俺に、姉さんみたいに優しくしてくれた

彼女だけは守る

エアリスは母さんみたいに苦労して、でも明るく生きてきた人だ

絶対に守りたい

絶対に剣を振り下させない

絶対に絶対に嫌だ

俺が死んでもいい。俺が死ぬ

そんな事をするくらいなら俺を殺せ

嫌だ、絶対に嫌だ

俺を殺せ、俺が死ぬ

神経が焼ききれるくらい抵抗した。

でも


俺は彼女に剣を振り下ろした


けど寸前で仲間たちが彼女を逃がしてくれた

俺は拘束されてた


直後にセフィロスは思念体を飛ばして彼女を殺した


俺の目の前で


おせっかいで、元気で、明るくて、優しくて、姉さんみたいだったエアリス…………


嫌われ者でできそこないで頭がおかしくなってた俺に優しくしてくれたエリアス………


俺の目の前で長い剣に貫かれ


崩れ落ちて


命を失っていった


結局、エアリスの居場所を見つけた時点で俺の役目は終わってた

俺が彼女を殺すのなんか、アイツの余興みたいなものだった



俺……、エアリスに会うまでの俺は本当に…クズだったんだ

人にも言われてたし、自分でも分かってた

でもエアリスは優しくしてくれた

元気をたくさんくれた

俺がどんなにダメな奴でも………彼女は温かく笑いかけてくれた

大切な人だった

でもどんな事も、結局俺はセフィロスの傀儡が根本にある

命を懸けて抵抗したって結局は従うんだ

こんなことなら死んだ方がいい

俺がいなくなればいい

本気で願い続けた

でも、どんなに強く思っても死ねないんだ、俺

生き返る。


今あいつが強くならないのは強くなることに興味を持っていない事と、いざとなれば俺を自由に使えるからだ

馬鹿みたいだ

こんなの不毛だって自分で分かってる

けど、弱すぎて守れないのだけはもう二度とごめんだから......

俺がどんなに痛い目を見てレベルを上げても、それは俺のレベルが上がってるんじゃなくてジェノヴァの力が増強してるだけだ、結局

戦闘レベルが上がれば上がるほど俺の人間の部分が喰われてジェノヴァ化していき、セフィロスの持ち駒が強力になっていくだけの事

どうしようもない

昔はどんな事よりも強くなることを望んだ

強くなれるなら何だってするって思ってた

なのにこんなの…、最低のスパイラルだ

でも…………」


「アンタは与えられた状況の中でベストを尽くしてる

俺がもしアンタと同じ立場になってもやっぱりそうするしかないと思う」

ローテーブルに座っていたスコールがクラウドに背を向けたまま言った。


「……………俺、間違ってない

クラウドは必死に涙をこらえ言った。


「間違いかどうかなんて俺に判断する資格は無い

当事者じゃないし、そもそも傭兵なんて職業をやってる時点で常識だの倫理だの言えるような身分でもない

ただ俺がアンタの立場になったら同じようにすると思う。そうする意外にないから

でもつ疑問があるんだが、他のソルジャーは全員死んだんだろ

ライフストリームに散って、ジェノヴァ細胞が弾かれる

リユニオンする側のセフィロスがそのジェノヴァ細胞を吸収して生きているのはまだ納得いくんだが、アンタは散る側なんだろ

そのソルジャーstザックスと同じ研究材料だったんだよな彼は散ったんだろ

アンタは今までに何度か死んだんだよな何で復活してる

「分からない。……俺、研究される側だったしな

けど、ザックスだけは度復活したんだ

30年以上もかけて復活したんだけど、今はもういない

ただザックスとセフィロスの復活が同時だったのは古代種の意思だったらしい

当時同じようにライフストリームに入ってたヴィンセントが言ってた

最初の復活にそんなにかかったのは、ザックスのカケラが次のサイクルに入ってしまってたから、それが戻って来るのを待ってる間の30年間、古代種がセフィロスの復活とリユニオンをライフストリームの中で邪魔し続けてたらしい

そこからいくと不死に関しては古代種の意思がかなり大きく関係してるんじゃないかと思う

俺は年魔晄に漬けられてたあの時以来大怪我をしても直ぐに治るし死んでも直ぐに生き返ってしまう

多分ライフストリーム自体に戻ってもいない

どうしてなのか俺には分からない。調べようもないし......あれ

「どうした

...サイファー達が外でランドウォームと戦ってる」

スコールがクラウドを見た。

クラウドがスコールを見つめ返すと...ニヤリと悪く笑ったので、クラウドも何となく(何だ)と微笑んだ。


遮光遮熱扉で塞いであった窓を開け、人でサイファー達の戦いっぷりを見学することにした。


クラウド:「サイファーは剣筋のセンスはいいんだが、とりあえずあの大振りは直さないとなぁ...

スコール:「まあな。両手剣を片手で扱ってる時点で無駄なハンデを背負ってる。あんなんじゃどうしたって大振りになるのに改めようとはしないんだ。まぁ、そこがサイファーらしいところなんだが

結局あの人の中で一番手強いのは実は風神なんだよな。アイツ殆どのステイタス攻撃が効かないし」

クラウド:「うん。スピードも速いし。攻撃に容赦ないからクリティカル率高いし、やられたら嫌なことを確実にやって来るんだよな。彼女は敵に回したら非常に嫌な相手だ。虫には面白いくらい弱いけど。あ、雷神が仕留めた」

倒したランドウォームがエーテルを保有していたらしい。雷神が嬉しそうにアイテム袋にしまった。

スコール:「雷神はパワー...だけだよな」

クラウド:「うん。アイツは馬鹿みたいにお人好しだ。無駄にお人好しで戦士に向いてない。あの体格だから本当は武器職人とかが向いてるんじゃないか

スコール:「意外だろうが雷神は手先が器用で繊細な仕事もあの武骨な手でこなす。武器職人よりも、もっと緻密な技術が必要なアクセサリー職人の方が向いてる

アンタ、マテリアを卸したりしてるんだろ一度雷神にそのマテリアの台を作らせてみな、面白いもの作ると思うぜ

クラウド:「へえ...あいつが。じゃあ帰ったらやらせてみる」

スコール:「雷神は元は今よりももっとお人好しのバカだったからガーデンでも皆に揶揄われて虐めの標的にされてた

でもあいつ、バカだし丈夫だし鈍いからどんなに卑怯で悪辣な事をされても許しちまってた

で、そんな雷神をサイファーがガンガン叩き始めて虐めまくって、当時それがあまりにも容赦ない暴力だったから逆に他の連中がドン引きで虐めなくなった

雷神を虐めるとこっちまでとばっちりが来るって

気が付けば雷神はすっかりサイファーの子分としての地位を確立してた

しかもバトル自体ができない奴だったのが今の状態まで成長した...まあ、今の状態が限界だろうが」

クラウド:「……風神と雷神が話してるのを聞いたことがある。あのガーデンて昔は本当に酷いところだったんだな

…………お前の話もしてた」

スコール:「あぁ、文字通り地獄だった、子供には

弱い奴は餌にも的にもされた。それで死んだらゴミのように捨てられるだけ

近くにちょうど都合のいい捨て場所もあったしな

...お、デスクロー。モンスター連戦だな」

クラウド:「おお風神エライプラチナバングルぶんどった凄いこんな強盗だらけの土地でぶんどりやらかすなんてさすが風神

スコール:「………なあ…もしかしてアイツラこっちに向かってるのかセフィロスはどうした。……あ」


名前が出た途端、死角から登場したセフィロスは人に手をあげ挨拶し、人のバトルに参加し……ターンでデスクローを仕留めた。

...............

スコールとクラウドは瞳で確認し合った。"あいつ...俺たちの会話をずっと聞いてたな"


(汗だくの人)+(涼しげな顔をしている1人)がスコールとクラウドのいるクーラーの効いたコンテナに傾れ込んできた。

「あっつい!!!!死ぬ!!畜生!!テメーらだけなんでこんなトコ来てんだよ!!

碧眼のサイファーは光に弱く、スコールのものと似た形の黒のサングラスをかけているが、なぜかサイファーがかけると中堅クラスのヤクザに見える上に今は怒鳴っているので、素晴らしくヤクザだった。


「うん。でクラウド、黒マテリアがセフィロスの手に渡って、彼女がライフストリームに還って、で

怒鳴るヤクザをわざとらしく無視したスコールが人掛けのソファーにクラウドを戻しつつ自分も座った。


……人掛けソファーに何故か並んで2人……。

クラウドは"あれ"と違和感を感じつつも、その前にスコールと人きりで話していたことで落ち着けたので、その先を簡潔に話した。

「えーと...その後ジェノヴァの幻影が俺達を襲ってきて、でも俺達は返り討ちにした。そしたら黒マテリアを奪還できたんだ

でもその後でセフィロスがまた俺をコントロールして、俺はまた黒マテリアをセフィロスに渡してしまってメテオが降ってきた」

「ウルゥア!!まぁ~~~て待てコラとりあえず聞けオウ聞けお前ら!!

俺の疑問は一つだそれさえ答えたら後はお前ら勝手に喋れセフィロスお前だ

部屋の中を探って風神がキンキンに冷えた水を持ってきたので、サイファーはそれをゴッゴッゴッと一気飲みをし、話した。

「お前!!なんで今クラウドのストーカーやってんだそれだけが分からん!!

お前敵だったんだろ!?でもってクラウドを操作できるんだろ

ストーカーする意味が全然わからねえし、そんな必要もねえだろ

サイファー達に続いてシレッと入ってきたセフィロスだったが、スコールとクラウドが仲良く人掛けのソファーに肩を組まんばかりにくっついて座っているのを見咎め、内心抗議の言葉でいっぱいになっていたが自分がそれを言うとクラウドが反発して尚更ろくでもない事をやらかすのが目に見えていたのでイライラしながらも黙っていた。

勿論それがスコールの自分への煽りである事は分かっていたが、問題なのは人にパーソナルスペースに入られる事すら酷く嫌うクラウドが至近距離どころかベッタリと接触しているというのにこの状態を受け入れているいや、むしろ喜んでいるように見えるのは気のせいか気のせいだ許すまじ許すまじ!!

イライライライラムカムカムカムカが天井知らずのうなぎ上りだったが、これ以上事態を悪化させないため理性で黙っていた。


「………私は死なない。生き続けるには希望が必要だ

私の希望はクラウドだ。傀儡ではないクラウドが必要だ

だから私はクラウドの傍にいるし、操作もしない

ジェノヴァだった頃の私との違いを指摘されても、あの時はそうだったとしか言いようがない

私の中では矛盾していない」


あまりに堂々としていて絶句するセフィロス以外。

だが反論したのはスコール。

「お前はそれで良くてもクラウドはどうする

お前、相当頭悪いようだから具体的に言ってやるが

、クラウドの母親を殺した。

、クラウドの家も故郷も焼き払った。

、クラウド本人を殺した。

、オマエのオヤジが勝手にクラウドの身体を改造し死を奪い、お前の眷属にした。

、ジェノヴァを使いクラウドの頭の中を引っ掻き回し、意志も体も自在にコントロールする。拒否権は無い。

、クラウドの仲間を目の前で殺した。

、殺しても殺しても蘇りどこまでも付きまとう。

、クラウドを気に入っているから、愉しむために操作しないでいてやっていると宣う。

以上、このつの中で事実ではない事はあるか?そして許されていいことは1つでもあるか?


スコールがクラウドの隣で長い脚を真っすぐに重ね合わすように組み、腕組みをしたままセフィロスに問いかけた。


「無いな」

「で、お前は何で今ここにいるここにる資格はあるのか

「無いというのはお前に答えてやるものなど何も無いという事だ。全ては私とクラウドの問題。お前たちは部外者だ

お前達の問題に私が部外者であるようにな

だがあえてつ答えてやろう

ここに私がいるのはそうしたいからだ

クラウドに付いて廻るのもそうしたいからだ

それがお前達の気に召さないのならいくらでも私を痛めつけるがいい。で・き・れ・ばの話だが

過剰だろうが私が反撃するのは仕方ない。防衛本能だからな

そしてこれからも私がクラウドの傍から離れる事はない」


セフィロス以外の全員が頭を抱えた。もう…宣言しちゃったよこの人

...会話になってないし……。


「気色悪

風神がハッキリと本人に向かって言った。

「コイツ、言い方がいつも微妙にセクハラくさいんだ。イラつく」

クラウドがこめかみを指で抑えながらウンザリしたように言ったが、クラウド以外の全員が"微妙"じゃなくて”本気”のセクハラだぜしかも逃げ道無しと、今宣言しただろ...と言いたかったが全員黙っていた。

そこは口に出してはいけない部分だと皆知っていた。

必死に現実から目を逸らしているクラウドに言ったら繊細な子だもの、壊れちゃう。


スコールが腕組みしたまま少し考えた後に言った。

「なら、今言ったお前の言葉に責任を持ってもらう」

セフィロスが不愉快気に顎を上げ、その言葉の意味を促した。


「クラウドを操作しない

お前はそう言うが、操作された経験者にしてみりゃそんな言葉はゴミだ。信じられるわけがない

だから今後一度でもその能力でクラウドのココに入ったり」

スコールはクラウドの頭をワシャワシャと撫でた。

「ちょっ

クラウドが微かに赤面し慌てた。

「ココら辺に入ったり」

更にスコールは指先でクラウドの心臓の辺りをグ~ルグルとなぞった。

「お、おい

くすぐったさにクラウドはまた少し顔を赤くしながら笑いながら抵抗した。

「支配に関する一切がアウトだ」

………毒蛇挑発パネェ……とサイファー達は気づいていたが、面白そうなので黙って見ていた。


「ペナルティは未来永劫クラウドの前から消える事

半径10キロ以内立ち入り禁止

クラウドから近づいても同じ。お前が去れ。お前はクラウドを無自覚なまま支配することができるからな

そのペナルティを守るのが面倒だったらお前のオヤジがヴィンセントをそうしたように、永遠にお前自身を棺桶の中に封印してもいい。土の中でも構わない

で、以上の約束を何に誓ってもらうか...だ」

「私に誓う。私が最も信じているのは私だ」


ソファーに深く座り背に凭れたまま腕を組むスコールは、立ったまま真正面から同じく両腕を組んで睨みつけてくるセフィロスを、同じように睨み返していた。

セフィロスが酷く簡単に受け入れたことにスコールは内心驚いていた。

生き方に関わるきついペナルティをいとも簡単に受け入れた。

こんな場合の理由は2パターン。

守る気が最初から無い場合か……覚悟などとっくにできていた場合。


「…分かった。じゃあお前自身とクラウドに誓ってもらう

言うまでもないが、クラウドに誓うってことはクラウドが契約している召喚獣達、クラウドと契約した俺、俺と契約している召喚獣達全部に誓うのと同じだ。分かってるだろうが

それからもう一つ

これはできなくても構わないが、お前自身のバトルレベルを上げろ

少なくともクラウドと同じレベルにまで

ジェノヴァ因子を埋め込まれ、何もかも奪われたクラウドが今も自分を犠牲にして仕事をしているのに

その原因であるお前が高みの見物ってのは、どう考えてもおかしいだろ

ま、これは人として、の問題だから倫理感が欠落しているお前ができなくとも仕方ない

母親を殺した上に本人から何もかも奪っておいて、更にストーキングでセクハラ三昧なんてのは、ほんの少しでも倫理のある奴なら死んだってできないからな

そこは期待してない。だからお前にで・き・れ・ばの話だ」


「あ、の…三昧っていうか……」

クラウドの微妙な男心としてセクハラ三昧されているとは思われたくなく、ちょっとそこだけは訂正したかったが

スコールが憂う瞳で見て優しくクラウドの肩を抱いた。

「そこ、突っ込まなくていい」

「………あ…うん」

クラウドはどう言ったらいいのか分からないが、とにかくスコールという人間の測れないほどの強さを感じた。

自分が今までずっとどうしようもなく悩んできた事を、スコールはまるでルービックキューブの面を合わせるようにカチャカチャカチャと解いて、そして整然と正しい色にして、道を造っていく。


「お前は口の利き方を知らないのか

クラウドの肩を抱いたまま離れないスコールと、どういうわけかそれを拒否しないクラウド。

セフィロスは苛立ちの波動がどうしても殺意に切り替わってしまうのを必死に堪えながら核心をブラした言葉を選び「離れろ!」「触るな!」と念を送り続けていた。

勿論確信犯のスコールはクラウドから離れず、顔だけをセフィロスに向け、睨みつけた。


「俺はお前の全ての権利を無視する。お前を認めない

かつてお前がクラウドにそうしたように」


ハインに乗っ取られ、アルテミシアに変化していったリノア。

ジェノヴァ細胞を植え込まれジェノヴァ化が進むクラウド。

リノアは最後に助けを求めたのに、どうすることもできなかった。

訓練所でのクラウドの慟哭。

クラウドを救う事などできないのはスコールは最初から知っていた。

それでも、クラウドのために何かがしたかった。

リノアに何もしてやれなかった自分のために。

先に消えていく自分のために。

永い時リノア一人を残し、最期の果てに殺してしまった自分のために。


「で、今後の事だが。セフィロスがこの星で35年近く前の有名人なのはわかった

今後の対応がハッキリ決まるまでは人のいる場所にはどこにも行けない、っていうのが今の現状なんだな

セフィロスは腕を組み、目を瞑ったまま頷いた。

いつまで経ってもクラウドの肩から腕を退けないスコールのせいで、殺人光線が隠せず目を瞑るしかない。

そんなセフィロスを見てスコールはようやくクラウドの肩に回していた腕を外したが、そうして自主的に腕を外されるまでクラウドは一切抵抗をしないばかりか嫌がる気配も無かった。

『クラウド嫌じゃないのか嫌だろう!?何を忘れているお前は人に触れられるのが嫌なのだ我慢ならぬのだ思い出せお前は今不愉快なのだ重要な事だ忘れるのは許されぬお前は今不愉快なのだ早く隣にいる奴を蹴り飛ばせ俺が葬り去ってやってもいい!!

どれほど自制、葛藤しようともセフィロスは目を開けられずにいた。


「とりあえず今、どうしたいか一人ずつ聞いて行こうか

先ず俺はバトルスクエアで稼いだ金を全部使いたい

クラウドは

「え……俺はこれ以上トラブルが起きなきゃ何でもいい」

それに続いたのは、物入代わりになっているドラム缶の上に座っていたサイファー。

「ってぇことは人がいる所はどこもNGって事だろ……だったら探検かサバイバルかくらいしかねーだろ」

「我幾様可」

「ワシも何でも大丈夫だ」

「だったら俺はこの世界のどこかにある、かもしれないマスタートンベリのコロニーを探したい」

「あ?マスター……トンベリってモンスターのか?」

「頭の上に星が浮かんでる希少種トンベリだ

あの大空洞にしか生息してなかったらしいが今はいないらしい

大空洞内部にいたくらいだから前人未到の地に生息してる可能性が高い

と、いうことで未開の地探検とサバイバルで金を使いまくる、決定!

となると、金の使い道は交通と食料と…あ………ちょっと待ってくれ」

スコールは少し手を上げ、唐突に話を切って目を閉じた。


ミーティングへの参加権のないセフィロスは黙って流れに身を任せていたが、何の可愛げもない小僧が「決定!」などと一方的に決めているが、仕事でもないのに何故モンスター捜査などをする?何故話している途中で突然瞑想に入る!?何故誰もこのおかしな方向性に異議を唱えないのか。

スコールという人間を知ったばかりのセフィロスには今の流れが全く理解できずにいたが、古い付き合いのサイファーたちにはおおよその見当がついていたし、クラウドにはその全てが理解できていた。


マスタートンベリに会いたくてスコールにお願いしてやってきたトンベリキング。

いなくなってしまっていると知ったあの時点で、マスタートンベリ探しはスコールにとってやりたい事のかなり上位に来ていたのだろう。

そして今、唐突に話を切ったのはジャンクションしているキングと話し合っているのだろう。

クラウドにはスコールの中で嬉しそうにほうちょうとランタンを振り回しているキングが目に浮かぶようだった。


だが、キングとの打ち合わせ?が終わり目を開けたスコールの眉間にはなぜかしわが寄っていた。

「…………クラウド、先ずはガイアの絶壁というところに行きたい

そこはシヴァの故郷になるくらい滅茶苦茶寒いんだろ?防寒に関する一式を揃えたい

それから誰も知らない地を発見するくらいの長距離飛行できそうなそこそこ大きめの飛行機とか個人チャーターしたい

「………飛行機っていうか、飛空艇なら俺、持ってる

何十年か前に使ったきり動かしてないから使えるかどうかわからないが」

「何十年物の放置か………55歳の青年は歴史の桁が…あつっ

クラウドは少し顔を赤らめ隣のの肩を小突き、スコールは笑った。


態度にこそ出ていなかったが、不自然に瞑ったままの目や不自然に笑ったままの口元が実に不自然で逆に分かりやすく、セフィロスの内心の大荒れギリギリギリギリギリメキメキメキメキギリギリギリギリバキバキバキバキギリギリギリギリギリガリガリガリガリギリギリギリギリギリギリギリギリギリの止まらない忌々しさ、うなぎのぼりの憤怒はクラウド以外の全員にバレていた。

「で、その飛空艇はどこにある動くかどうかだけでも先ずは確認したい」

「置いてある場所はここからカナリ離れてるけど、俺の昔の仲間で、セフィロスの今の上司みたいなのがいるんだが………ちなみにその人は、今ミッドガルで住んでる家を紹介してくれた人でもある」

クラウドはサイファー達を睨んだ。

セフィロスの葛藤を見ていて笑いをこらえるのに必死だったサイファー達3人は不意に的にされ視線を彷徨わせた。

「その人がここまで個人飛行機を飛ばして、行きたい場所まで送ってくれるって言ってた

だからここに来た飛行機でそのまま飛空艇まで飛んでもらえれば...あ、その途中で一旦停まってサバイバルグッズとか衣料品や燃料を買っていくか飛空艇は大きいから長距離飛行はできるけど小回りが利かないから

あ、でもお前、本当にいいの金、そんな使い方して」

"いいか"って他に何に使うんだ俺、日後にはいなくなるんだぜ使いもしない金残しても仕方ないじゃないか」

スコールが隣のクラウドに優しく微笑み言うとクラウドは目を逸らし、答える代わりに懐から携帯を取り出し電話を掛けた。

クラウドの目元は微かに紅潮していた。

眼を閉じたままではいたセフィロスだが、顔に貼り付けているはずの口元の笑いも、なぜか片側は解除されてしまっていて、もはや不穏でしかなかった。


「あ、俺。うん。こっちはいつでも大丈夫だ」

クラウドがここまで言った時、隣に座るスコールがクラウドの耳に当てている携帯を反対側から聞く様に耳に当てた。

顔と顔が携帯を境にくっつきクラウドが驚くと、スコールが「悪いな。ジェノヴァ能力ないからこうしないと聞こえない」と微笑んだ。

スコールのセフィロス煽りはどこまでも続く。

もーーーーーーーーーーーーーー我慢ならん!!!!許されぬ!!!とセフィロスは必死に瞳孔を開き、口端を上げ、諭すようにクラウドにアドバイスをした。


「クラウド、ハンズフリーにすれば皆が聞けるぞ

怒りに震えるのを抑え、優しく穏やかに、クラウドを怒らせぬよう言葉に気を付けたが、やっぱり逆効果となった。

クラウドはそのまま電話を継続し、スコールは反対側から携帯の声を聞きながらセフィロスに向けて中指を立てた。


「(あれどうしましたクラウドモシモシ)」

「あ、うん、ごめん。で、行先なんだけど飛空艇のあるアイスランドエリアまで行きたいんだ」

「(お安い御用ですよ。)」

「ありがとう、ごめんな

で、途中で酒や食料や防寒具をとりあえず日分買い溜めたいんだけどどこかデカイとこ寄っていいか一人アル中がいるんだ」

クラウドがニヤと笑いながら隣のスコールを見るとスコールはムッとしたように睨みながら、でも「よろしく」とアクションで言った。セフィロスは泣きそうになっていた。

「(デカイとこってショッピングセンターとかですか)」

「そう、量を売ってるところ」

「(そんなん逆効果でしょう。LEONさんにしろセフィロスにしろ相当人目引きますよ。サイファーも風神も雷神も目立つし。あとクラウドも地味に人目引きますし。)」

「お前...俺だけ"地味"って区切ってんじゃねえぞ

「(ははwでもそれだったらこっちで一揃えして飛行機に乗せて行きますよ。飛空艇に乗せた段階で足らないものだけをチョコボで買いに行くってのはどうですか)」

「あー、ありがとう。じゃあそっちで買ってくれたものは払うからレシートか領収書も持ってきてくれ」

「(えー..そうした方がいいですか)」

「うん。面倒で申し訳ないけどそうしてもらえるかそしたらその場でキャッシュで払うから」

「(わかりましたー。では...んー、30分後にプリズンパブ辺りに着けます。飛行機には私の部下たちが乗って行きます。私は今チョット離れられないんで。)」

「ありがとうな、リーブ。色々すまない」

「(いいんです。元はと言えばセフィロスが全部悪いんですから。じゃ、また後で。)」

「うん」


携帯を切りながら"また後で"とクラウドは疑問に思ったが、あまり気にせず流した。




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