誕生5
収容人数5000人のプレミアステージは、すり鉢型で観戦席がバトルステージを囲むようにして設置されており、一昨日の100人程度の観客席すら疎らだったバトルスクエア初戦とは打って変わった満員御礼の熱気に包まれていた。
客達が各々に持っているパンフレットには挑戦者LEONの顔写真を始めとし、一昨日の戦歴・バトル内容・様々な戦っている写真などが記載されている。
たった1日でここまで人を集め、パンフレットまで用意するとは...戦闘をショー化させる姿勢は悪趣味だとしてもスクエア運営者としてはなかなかのプロ根性だな、とクラウドは感心した。
が、バトルスクエアのプロ根性はそんなモンじゃない!と、後にクラウド自身で思い知ることになった。
挑戦者のセコンド席に通じる通路の係員の動きがにわかに激しくなった。
その気配に通路付近の観客たちが騒めき始め、そこから波及するように…ドォォオオオッ…!!と観客の歓声、ウェーブが会場全体に轟きはじめる。
四半世紀ぶりかで現れたプレミアバトル挑戦者、観客たちのBIGイベントへのはち切れんばかりの期待がウェーブを巻き起こす。
それまでそこに在る事すら殆ど誰も気付いていなかった会場内に設置されたスクエア大画面4面が、頭上でパアッと明るくなった。
大画面に本日の主役LEONが、通路を歩く姿が映し出された。
観客たちの歓声は増々割れんばかりに力を増し会場内空気を轟かせる。
高い等身に引き締まった身体、真っ直ぐに伸びた長い手足は、歩く姿すらランウェイ上のモデルの様に目を引き付ける。
昇り続ける会場の熱気とは対照的に、白く無機質な通路を淡々と歩く挑戦者LEON。
LEONを追うカメラに段々会場のざわめきが入ってくる。それを受けて更に会場は熱く轟く。
そして一気に眩いスポットライトを幾重にも重ねられたアリーナ通路に現れたLEON。
そのアップが大画面に映し出される。
眩し気に瞳を細め、不機嫌そうに顰められた眉。
その表情を撮るためにスコールの真正面に立ち、進路を塞いでいるカメラマン。
眼を眇めたまま、進路を塞ぐカメラマンを忌々しそうにジロリ…と睨みつけるプラチナに近いほどの淡いブルーグレーの虹彩。
その風格はまるで獅子の王を思わせる。
カメラマンが退き道を開け、再び歩き出したスコールは、その大歓声と狂気に近い熱気の中でも淡々と、まるでそこだけが違う空間かの様に普段と空気が変わらない。
セコンド席に辿り着いたスコールに、大歓声にも負けない一際大きい罵声が浴びせられた。
「あいっ変わらずチンタラダラダラ歩きやがって!ちったぁキリッ!と歩けねぇのかよ!鬱陶しい野郎が!」
噛みつかんばかりのサイファーをスパッと無視したスコールはジャケットを脱ぎ風神に渡しながら、フレイムタンを片手で肩に担ぎあげ言った。
「コレでいけるところまでいく。交換する時が来たら知らせるから、投げてくれ」
風神が守っていたライオンハートを指差してスコールは言った。
「了解。頑張!」
片手を風神に挙げ応えると、スコールはバトルステージに出て行った。
会場がひと際大きくドオォォォォォォォウン!!と大歓声と共に揺れ、轟き、強烈なエネルギーの塊が暴力的にスコールを中心に生産されていく。
だがその中心にいるスコールの思考は、やはりその熱狂と反比例するかのように落ち着き、冷え切っていった。
『バトルステージ、合法的に際限なく暴れまくれる。良い場所だ。
戦って・戦って・戦って・目の前に現れた何もかもを命を懸けて破壊しぶっ殺す。
精根尽き果てるまでの暴力の応酬、命を懸けたバトル
全力を闘争に向けられる破壊の場所。
ガーデンをリニュアルする時にこんな場所も作っておけばよかった...
訓練所じゃない、もっと暴力・破壊に特化した場所。
傭兵学校のような組織にはこういう場所が必要だ。
進む道に一筋の明かりも射さない。何も見えない。
耐えられない怒りの衝動、突き上げる殺意。それを精根尽き果てるまで解放できる場所。
子供の頃にここがあれば良かった......そしたらきっと今とは違った未来があったはずだ。
自分に向かってくる暴力、力尽きるまで自分から返す暴力、......造っておけばよかった』
そんな事を考えながらスコールはステージのセンターに立った。
試合開始のゴングが鳴り、スロットが回り始めた。
1戦目ツインヘッド。出た目は独立マテリア封印。
モンスター登場と共に殺気を纏い始めたスコールに、セコンド席にいた全員が気付いた。
「......プロだな。見事な殺意のコントロールだ
あれだけで対戦前に勝負がついてしまっている。ツインヘッドは敵にならない」
セフィロスの言葉に誰も返事をしなかったが、誰もが同意していた。
あれは闘気ではない、一般人が持っていないコントロールされた殺気。
「なんか、スコール変わった...昔と違うだもんよ」
雷神が呟いた。
「昔って?」
クラウドが聞いた。
雷神がクラウドの方を向き、答える前にサイファーが会話を遮った。
「黙ってろ!」
クラウドはその先を聞きたかったが、スコールがツインヘッドを一撃で倒し2戦目突入でステージに正体不明3が登場したため、そちらに集中した。”サイファーのバカ!!”と内心思いながら。
2戦目コマンドマテリア封印。
しかも1戦目と同じく2戦目もアッサリとモンスターの攻撃はスコールをかすりもせず危なげなく、ノーダメージのままリミットも無いままバトルを進めていた。
「あの正体不明3相手にノーダメージってのは凄いな」
そう呟いたクラウドにサイファーが反論した。
「んな雑魚にダメージ喰らうわけねえだろ」
そんなサイファーにクラウドが呆れて言った。
「お前な...今度アイツのいるフィールドに連れてくぞ?お前なんか何もできないまま一撃で終わりだ」
クラウドの向こう側にいたセフィロスがクッ!と喉の奥で笑うのが聞こえた。
サイファーのこめかみに青筋がビキビキッと浮かんだ。
3戦目スコールの出した目は召喚マテリア封印、そして登場したモンスターは...ダークドラゴンLV100、HP32000。
登場と同時にスコールが先手で9999の往復攻撃で19998のダメージを与えたが、剣攻撃のため至近距離に入ったところをドラゴンにレーザーを当てられ、ギリギリでなんとかかわしたが、それでもスコール側に4800のダメージが出た。
肉の焼け焦げる臭いとスコールの着ていた黒のTシャツがボロボロになるが、そのまま引かず再び9999の往復攻撃で、総ダメージ39996で3戦目ダークドラゴン、クリア。
スコールの残りHP5199
続く4戦目のハンディスロットで出したのは、「アクセサリ封印」
会場がどよめいた。
ハンディスロットでA・B・Cを出さない限りは賞品も賞金ももらえない。
残りHPがほぼ半分になった状態でも、まだ勝負をかけてこないファイターLEONに会場がどこまでもヒートアップして行く。
登場したモンスターはウルフラマイターLV100。魔法「デス」を登場した途端にスコールから喰らい、なんとそのまま戦闘不能。ノーダメージクリア。
「LV100のモンスターにステータス攻撃か…成功させるのも凄いが、よくやろうと思ったな…」
クラウドが呟いた。
LV100モンスターともなればステータス攻撃はほぼ無効、そして失敗すれば1ターンを無駄にし、確実にカウンターでダメージを入れられる。
スコール残りHP5199
5戦目ハンディスロット、「最大MP半減」
登場したキングべヒーモスLV100、HP38000、ステータス攻撃全て無効、弱点無し。
先手スコールの剣攻撃でべヒーモスに一刀入れたところでダメージ8700、剣単体攻撃で上限9999に届いていないことに気付き、返し刀をべヒーモスの巨体に食い込ませた瞬間、バンッ!という音と共に閃光がその巨体の中に吸い込まれた。ダメージ9999。
昨日を含め、闘技場に入って初めてスコールはガンブレードのトリガーを引いた。
クラウドはその武器の使い方をサイファーのバトルで見て知っていたが、その武器を見慣れぬ会場の観衆は剣が火を吹いたことに驚きもう何度目かのオオォォォォォ...という地響きのようなどよめきが起こった。
しかし敵に深いダメージを与える為に立ち位置が最接近したその隙にべヒーモスの前爪が、スコールの左肩から腕にかけてをザックリと切り裂いた。
鮮血が噴出す。スコール側ダメージ3300、残りHP1899で、スコールのHPゲージがイエローゾーンに入った。
しかし血を噴出したまま再び閃いたガンブレード反撃で、べヒーモスのダメージ9999、そして返し刀でもう一度9999を入れてべヒーモス戦闘不能。
スコールは自分にケアルをかけない。血が流れ続けている。
スコール、イエローゾーン残りHP1899
続いて6戦目、ハンディスロット「アイテム封印」。
会場からどよめきと悲鳴が巻き起こる。残りHPが既にイエローゾーンに入った状態で、まだ勝負をかけてこない。
さすがにクラウドも不安になってきた。
最終バトルで勝負をかけると昨日の打ち合わせで決めていたのだが、今のスコールの状態がかなり厳しい。
だがそんなクラウドの不安を払い取ったのが意外にもセフィロスだった。
「一昨日途中から競技場を抜けたお前は見なかったから仕方ないが、彼はこうなってからが長いんだ
逆に言えば追い込まれた状態で戦っていない時は本気ではない、彼は今から本気モードということだ
愉しみだな、何をしてくれるか」
セフィロスは他人に興味を持たない。
関心が無いから、見てもいないし、相手を覚えてもいない。
それはセフィロスが英雄だった時代から有名な話だった。
なのに今、細かくスコールを分析し、頼みもしない説明までしてくる。
「...腹立つ」
「どうした?」
ボソ...と呟いたクラウドにセフィロスが問いかけた。
セフィロスが...あの英雄セフィロスが...俺をできそこないの無能呼ばわりしかしなかったあのセフィロスが!!
スコールの戦闘を”愉しい”だと!?
「ムカつく!」
昨日も俺を出し抜いてスコールを誘ってた!!
スコールが疲れてるだろうからって、少し遠慮したら出し抜かれた!!俺がプレミアバトルを教えてやるつもりだったのに!!
「どうした?何があった?」
「うるさい!」
無神経セフィロスにもさすがにクラウドが何かに怒っているのは分かった。
だが嫌われている自分が(自覚はある)これ以上深追いをすると藪蛇になる。
そんな事よりも今は何気ない風を装いながら、クラウドの横に座れた事を喜ぼう!
2人並んでバトル観戦!まるでデートではないか!(観ている対象が気に入らないが)悲願達成!!WINNER俺!!……浮かれ過ぎていた。
普段なら気がついた会場の仕掛けも、この時ばかりはサッパリ見逃していた。
登場したモンスターは、キマイライレブンLV120、HP30000、レベルの割に最大HPは低いものの、防御力と攻撃力が異常に高い。
HPがイエローゾーンのまま、スコールは自分にプロテスをかけた。
その隙にキマイラは「ファイガ」「ブリザガ」「サンダガ」を3連続で入れてきたが、スコールは支援マテリアの属性魔法吸収をつけていたため、HPMAX9999まで戻った。
しかし魔法吸収はケアルとは違う。
先のキングべヒーモスで引き裂かれた肩から腕にかけての傷口から血が流れ続けているので、時間、秒と共にどんどんHPが落ちて行く。
スコールはキマイラにガンブレード一撃4000を叩き込み、反撃が来るまでの一瞬の間に再びガンブレードを打ち込み4200のダメージでキマイラ側に8200を負わせ即座に立ち位置を移動する。
防御力がやたらと高いため、剣の"斬"と銃の"撃"を合わせて使ってもダメージは深くは入れられない。
逆に属性攻撃が吸収されることをラーニングしたキマイラが物理攻撃の斬撃に切り替えてきた。
しかしスコールにかかっているプロテスにより、その威力は半減でスコールダメージ3000で、残りHP6999。
そのまま連続物理攻撃でキマイラが接近した瞬間にスコールからの攻撃が3回入り、キマイラダメージ13000、残りHP8800。
同時にキマイラからのカウンターでスコールダメージ2900で、残りHP4099。
キマイラが安全な距離を取る為体を避けた所、スコールが更に踏み込み連続攻撃を叩き込みマキシムキマイラダメージ9000により戦闘不能。
スコール残りHP4099
続く7戦目、ハンディスロット「支援マテリア封印」
ここにきて会場の観衆は悟った。LEONの勝負場は最初から最終戦のみだったのだ。
クラウドの時代は、この7戦目がマキシマムキマイラだった。そして8戦目がアルテマウエポン。
これまでの傾向でいけばこの7戦目でアルテマウエポンが出てくる。
対策は昨日セフィロスを含め3人で話し合った。
スコールには最終戦で是非勝ってもらわなければならない。
最終戦はハンデが最もきつくなり、そしてモンスターも飛びぬけてキツイものが用意されている。
この第7戦でてこずるわけにはいかない。今の状態で1ターンでも渡してしまえば致命傷になる。
そして登場したモンスターは...胸の部分に赤く光る大きなマテリアを持った
「アルテマウエポン!!!!」
やっぱり...クラウド達の予想通り...しかし厳しい。
HP260000、MP800、全てのステータス攻撃が無効、属性攻撃吸収、防御力、攻撃力、速さともに異常に高い。
勝ってほしい...そうでなければ仲間になれない。
惑うクラウドに、サイファーが楽しそうに話しかけて来た。
「クラウド、もしお前が今のアイツの立場だったら、どう戦う?」
「......既に深手を負ってる
最終戦事を考えたらケアルガで傷を塞いで、ウォールでプロテスにシェル...」と、言いかけたところを、「フン!」と、サイファーが笑った。
クラウドが眉を顰めると
「アイツは2ターンで終わらせる...。それ以外にねぇ!」
得意気にサイファーが言った。
「……あの剣は9999が上限じゃないか。2ターンだったらクリティカルで連続で入れられたとしても40000弱しかダメージを与えられない」
「まあ、観てな、あれが学校で字ぃ教えられる前に人殺しを教えられてきた奴の戦い方だ
2ターン!それで極められなきゃこのバトルでThe Endだ!」
いかにもスコールの事を分かっているかのように、いかにもクラウドが何も分かっていないかのように、戦っているスコールを愉しそうに見ているサイファー。
酷くイラついた。物凄くイラついた。
腹が立つ!!許せない!!
サイファーもセフィロスも「お前は向こう側だ」と……まるで線を引いた同じ側にスコールを入れて、俺をはじく!
確かにスコールは自分とは出来が違う。そんな事言われなくたって分かってる!
スコールなら英雄時代のセフィロスの隣に立っても全く引けを取らなかっただろう。
いや、むしろスコールの方がずっとずっとずっとずっと!カッコイイ!
俺は神羅にいた時は兵士の最底辺でコンプレックスだらけで…トラブルメーカーって蔑まれて...辛くて………
…………どうでもいいや……
………忘れた。
昔を思い出そうとするとどうにも気力が無くなる。眠くなって何も手につかなくなる。
神羅時代なんか大昔だ。今更どうでもいい。
アルテマウェポンの姿が完全に具現化して直ぐ、魔法メテオを呼び起こし始めた。
「おぉぉおおおぉぉぁぁぁあぁぁああぁっっっ!」会場がどよめく。
スコールの全身からゴウッ!と、蒼く透明に光る闘気が放出された。
メテオをまだ呼び出しているアルテマウェポンに剣を振り上げる。
閃いたその剣がウェポンの身を裂いた瞬間にガンッ!と閃光が走る。アルテマウェポンダメージ9999。再び返す刀で身を裂き閃光を走らせ9999ダメージ。
そしてそのまま振り上げ袈裟斬りで閃光を走らせ9999、逆側に袈裟斬りで9999、胴と馬の部分に切り込みガンを発射させ9999、振り抜いた刀をもう一度胴の部分に今度は深く斬り込み再び閃光を走らせ9999、息もつかせぬスピードで斬り続けるその技は...超究武神覇斬と同じ...。
しかしクラウドの斬馬刀では作り出せない圧倒的なスピードとそれに伴う斬り込み回数、そして刃の先がモンスターに入り込んだ瞬間に引かれるトリガー、モンスターの体内のあちこちから放出される眩い銃撃光、ヴィンセントが華麗な剣技だと言っていた意味...これなのか...とスコールの技に魅了されていた。
連続斬りが8回でアルテマウェポンに79992のダメージが入ったところで、アルテマウェポンのメテオがスコールに向けて発動した。
降りかかるメテオ隕石を受けダメージを負いながらも、スコールは身体を回転させながらその衝撃波で更にアルテマウェポンにダメージ20000を与える。
「え......な...何で上限9999の剣で20000のダメージが出せるんだ?」
「衝撃波だからな、アイツ自身のパワーだ。物理上限は関係ない」
クラウドの驚愕に、同じガンブレード使いのサイファーが自慢げに答えた。
...またイラついた。
アルテマウェポンのメテオでスコールのダメージは4500以上、残りHPは2500を切った。
アルテマウェポン側のダメージは99992で、残りHPは約160000。
スコールの残り僅かなHPはアルテマウェポンが腕の一振り、それとも尾の一振りを当てただけで簡単に終わる。
アルテマウェポンは魔法を呼び出す為のロスタイムに攻撃されるよりも、全マテリア封印をされているスコールが剣撃の為接近したところを一撃で仕留める方法を選んだ。
だがスコールの次の攻撃の方が更に早かった。
スコールから迸り出る闘気は絶えることなく更に蒼く透明に勢い良く闘気が放出され、アルテマウェポンが対応できない速さで斬り込み、食い入ったところで閃光を走らせ先ず9999、そして返す刀で9999を浴びせる。スコールがガンブレードを振り上げる度に、それまでのモンスターとのバトルで受けた傷から血が吹き出て、全身を赤く染めていく。
ヒュンッ!と風を切る音と同時にザクッ!とフレイムタンがアルテマウェポンの体を切り裂く、それと共に、ガンッ!という銃撃音と共に閃光がモンスターの体内へ吸い込まれた。
アルテマウェポンが己が身を切り刻む細くしなやかな人間の体を怒りをもって引き裂こうと手を振り上げるが、振り下ろした時にはもうそこにはいない。
また違う場所がザクッという音と共に腹が斬り付けられ、爆発音と閃光と共に銃弾がその体内に撃ち込まれる。
痛みに撥ね上がるアルテマウェポンの巨体に更にヒュンッ!ザクッ!と脇腹から胸にかけ斬り上げ、ガンッ!とトリガーを引き弾丸を埋め込ませる。
スコール自身も既に深手を負っている為、血を迸り流しながら、アルテマウェポンを斬り付け続け、その赤紫の体液を飛沫を上げさせていく。
もはやその全身を染める真っ赤な色は、スコール自身によるものか、それともアルテマウェポンの体液によるものか判別が出来ない。
それでもスコールの攻撃のスピードは落ちない。そしてアルテマウェポンはそのスピードに追い付けない。
逆を言えば、ほんの少しでもスピードが落ちたらアルテマウェポンはスコールをバッサリと引き裂く。たった一撃で終わる。
眩い閃光が目にも止まらぬ速度で何度も何度もバンンッ!ガゥンッ!という爆発音と共に幾筋もに翻り、その都度赤紫の血飛沫があがり巨体がうねり、巨体のあちこちが光り輝き、輝いたその場所には既にスコールの剣は無く、次の場所を斬り込み銃を撃ちこんで閃光を再び走らせる...まるで剣攻撃の斬撃というよりも、光撃といった印象。
スピードのある華麗な剣撃に目を縛られ、心を奪われる。
アルテマウェポンは、捕えられない速さにカウンターのヒット攻撃を止め、物理魔法のリヒト・ゾイレを繰り出そうと呪文を唱え始めた。
だがその隙にスコールは連続攻撃を止め、ガンブレードを天高くかかげ多かと思うと...ユラユラ...ユラユラ全身から闘気が放出し始め、それがどんどん質量と勢いを増し、ゴォォォ...と闘技場を突き抜け、天に向って真っ直ぐ光の柱が伸びてゆく。
そしてグラリ...と光の柱の根元...ガンブレードが傾き、ギュュュュオォォォォォン...!と、空気を捻り切り裂く音と共に光の柱が地上のアルテマウェポンを目がけ振り下ろされ、アルテマウェポンを一刀両断し、最終ダメージ50000でパアァァァ...ン...と光が散ると共にアルテマウェポンも戦闘不能で霧散した。
「......ダメージ一気に50000って...」
呟いたクラウドに、答えたのはセフィロスだった。
「さっきのは衝撃波だったが、今のは剣を媒体にした彼自身の闘気だな...
闘気をあんな形で力に変えられるとは...ナルホド、特殊な育ち方をしたようだ
あれは人間が辿り着ける領域のものではない」
クラウドの驚愕の視線に気が付き、セフィロスが視線を合わせようとしたが、寸前に愛しい視線はステージに逃げてしまった。
『クラウドと見つめあい』イベント!は不発に終わったが、セフィロスはゴキゲンでより深く解析をした。
「私がジェノヴァ細胞から作られたように、彼も何か根本的に普通の人間とは違う何かが加えられている
間違いない」
思いもしなかったセフィロスの断言にクラウドは聞き返した。
「...ジェノヴァ細胞みたいな?」
「そうだな、それもソルジャーのように後天的に与えられたものではなく、もっと私のように先天的なものだ
そして幼い頃から戦闘の中で生きて来なければああはならない。あれは人間の領域を超えている
彼にはまだまだ秘密がありそうだぞ?」
「.........」
この時のセフィロス、デート中に『見つめあい』はできなかったが、なんと!会話が数ターンも成立した!気分は最高潮!
しかしクラウドはそれどころではなくなっていた。
スコールが人体改造されている?
でも、あっちの世界のリヴァイアサンはそんな態度ではなかった。ジェノヴァの存在を"穢れ"とまで言った。
あのリヴァイアサンはスコール信者だった。
リヴァイアサンはライト属性だった...。
……ジェノヴァはダーク属性。
スコールはライト属性の何かで改造されていると言う事だろうか...。でなきゃリヴァイアサンが認めないだろう。
「風神!」
ステージ上からスコールが燃える炎のようなフレイムタンをセコンド席に投げ寄こした。
クルクルと回転し、床にガッ!と突き刺さった。
逆に風神がライオンハートをステージ上のスコールに投げると、パシッ!と受け取り、片手を挙げて風神に礼を言った。
床に突き刺さり残ったフレイムタンを見てサイファーが言った。
「こりゃー.....もう使い物にならねえな......」
モンスターの血と体液と内蔵を散々こびり付かせたフレイムタンは刃毀れが酷く、重心が曲がり、銃部分の細かなパーツの目も詰まっていた。
「武器天寿を全うさせたな」
セフィロスが言った。
よくこんな状態でアルテマウエポンと戦ったな……。
クラウドは声に出さず感心した。
最終ラウンド、ハンディスロットのドラムが回り始めた。
これが最後、オーラス。
Cを出せば1億ギルの賞金になるがハンディは、アイテム&全マテリア封印、つまり一切の回復も魔法も使えない。通常攻撃と特殊技でしか戦えない。
Bにすれば8000万ギル、アクセサリ無効&魔法マテリア封印、少なくともアイテムは使える。
回復ができるし、ステータスを有利にするアイテムも使える。
Aにすれば7000万ギル、ステータス異常&攻撃力半減。これになればかなり有利だ。
アイテムも使えるし、魔法マテリアも使えるし、アクセサリも有効で、スコールは昨日クラウドから借りたリボンも装備している、1ターンもいかないうちにステータス異常は解除される。
攻撃力半減も、ヘイストを使えば無効にできる。
昨日3人で打ち合わせた時は、ハンディは状況を見て決める...と、スコールの判断に任せていた。
これから出てくるのはパターンでいくと、恐らく「サファイアウエポン」「ダイヤウエポン」「エメラルドウエポン」「ルビーウエポン」のどれか。
あの徹底した攻撃力と、速さで1度でもヒットされるとほぼ重傷を負わされる。しかもHPの並外れた高さを考慮すれば何ターンかは覚悟しなければならない。
回避と即効の回復は最重要ポイントになる。状況的には魔法マテリアもアクセサリーも使えるAがいいに決まっている。
それに比べアイテムしか使えないBは回復だけで確実に1ターン潰れてしまう。その間にウエポンの攻撃は必ず入るだろうから、そうすれば回復だけでターンが延々潰れていく事になる。
サファイアウエポンやダイヤウエポンくらいならBパターンでもなんとか対応できるかもしれないが、7戦目でアルテマウエポンが出てきたということは、やはりルビーウエポンかエメラルドウエポンが出てくる可能性は高い。
そしてスコールが出した目は...、クラウドは空いた口が塞がらなくなった。
セフィロスも同様だった。
会場にハンディスロットのアナウンスが入る。
『最終ラウンドー!ハンディスロットC!!全アイテム&全マテリア封印ー!!賞金1億ギルに挑戦ーーーー!!』
スコールの残りHPは、アルテマウエポン戦で残り2499になり、そして肩から胸の深い傷から血が流れ続け最終バトル前既に残り1900まで落ち込んでいる。
戦う前からHPがレッドゾーンに入っているのだ。
「...あいつ...あいつ...どうかしてる!!馬鹿!!勝つ気ないのか!!馬鹿!!」
「スロット失敗しちまった?...あつっ!」
雷神の何気ない言葉を風神の手刀が掻き消した。
その無茶なスロット目は会場のオーディエンスも同じ思いで、囃し立てる声など無く、最高潮に達していた会場の熱が一気に覚める気配が目に見えるようだった。
ブーイングまでも出始めている。
先程のアルテマウェポンですらHPが100000もあった。これから出るのが何であっても少なくともそれよりも速さも体力も防御力も高いのは間違いない。
いくら先制攻撃をかけても一度で100000は攻撃しきれない。事実先ほどの反則級の勝負をかけた攻撃でも50000だった。
しかもスコールは負った傷が塞がっておらず刻一刻と血が流れ、HPが減っていっている。
試合を投げた……。
1ターンで戦闘不能になるのが見えている。
会場のブーイングがどんどん強くなっていく。
勝つために今までやって来たのではないのか!面白くない!勝負をしないバトルなどつまらない!
満席の会場からオオオォォォォオオオオ!と、歓声があがった。
試合を投げた挑戦者LEONに対してではない、登場したモンスターに対してである。
「何だありゃ?馬鹿デケェ...」
サイファーがクラウドの横で驚いた。
だが、誰よりも最も驚いたのは...セフィロスとクラウドだった。
「ジェ...ジェノバ...統合体」
昔セフィロスが融合していたジェノバ・母体である。
第二形態がセフィロス、第三形態もセフィロス、最終形態もセフィロス、その第一形態が登場したのだ。
「な...んで...」
クラウドの驚きは声になって出た。
大空洞最奥でバトルになったジェノバ統合体は、その場にいた者しか知らないはずだ。
何故こんな場所に複製されているのか。
「...リーヴ...」
セフィロスが呟いた。
「多分アイツだ...、ジェノヴァ統合体の情報なら相当高く売れただろう」
セフィロスの呟きにクラウドも考えてみたが...確かに...犯人として思い当たるのは、意外に商売根性のあるリーヴ以外にいない。
「あいつ...」
やってくれたな…とは思ったが、単純に責める事もできない。
リーブは確かに変なところで商売根性を出すが、それは私財を増やすためでなく星の復活の為だからだ。
「投げていないぞ、彼は
剥き出しの闘気がこっちまで伝わってくるだろう?」
セフィロスは見たこともないほど楽し気に笑っている。
確かに…スコールから眩い闘気が今までより更に強く放たれているが…。
今、目の前にいるのはセフィロスの母のようなもの。しかも統合体の第2形態はジェノヴァ・セフィロス自身だった。
まるで他人事のように、しかも楽し気に分析しているセフィロス。
プレミアリーグ、衆人環視の前でショーのように始末されようとしている自分の母親について何も思う事は無いのか?と、クラウドは驚いた。
ジェノバの触手がスコールに向って撓る。
途端、スコールの体から黄金に輝く闘気が噴出し、向ってくる何本もの触手をかわしながらジェノバ本体の懐に突進していく。
一太刀目ジェノバ本体に切りつけ、刃先がジェノバに垂直になったところでライフル銃が発射される。
ライフルは玉に回転を加えて発射する為、玉が体内に入ると周辺の内蔵を引っ掻き回しながら進む。
今までのフレイムタンに比べ非常に殺傷力の高い銃ではあるが、その分発射側への反動も大きく狙いを命中させ難く、そして連射ができない。
振り下ろした剣を対角線に切り上げる、そして剣が再びジェノバに垂直になったところでライフル発射。
ジェノバダメージ45000
剣をジェノヴァから抜き、空中で一回転させるとライフル銃が新しく込め直される。
思わずクラウドは叫んでいた。
「スコール!!触角と本体と頭を同時に殺れ!どれか一つでもHPが半分以下になったらアルテマ連射が来る!!」
戦闘中のスコールからは何の返答も無かったが、それが聞えていた事はスコールの攻撃が分散されたことで分かった。
スコールはジェノバの懐に飛び込んだまま、アルテマウエポンの時から更にスピードアップした斬撃を繰り返し、頭・触覚・体の3点にトリガーを炸裂させ続けている。
一撃ごとに弾を込めのガンブレード一回転をやるので、速さとの相乗効果で観衆はスコールの動きに目が追いつかない。
ただ水晶のような透明なブレードが、その弾篭めの回転をする時に闘技場の強いライトを反射しスラッと輝くのと、
統合体内部にライフル銃が放た時の火花が体ののあちこちで輝くのが分かるだけだ。
スコールの動きが見えているのはソルジャー体質のセフィロスとクラウドだけ。
そしてジェノバ統合体は、見えてはいてもその速さに動きが追いつかない。
頭・体・触覚を次々と斬り付け、ライフル銃を撃ち込んでいくスコール。
斬で9999、撃で9999、頭斬9999撃9999、体斬9999撃9999、触覚斬9999撃9999乱打で息も尽かさずたたき出していくダメージ
ジェノバのHPが残り半分の240000の危険領域に近付いてくる。
攻撃を変えなければならない。ここから一気にゼロまで落とし込まなければアルテマ連射で必ず負ける。
以前、クラウドの時はパーティを3つに分けて8人で一気に攻め落とし、連発で来るアルテマも3パーティに分ける事で的を分散させ防御と攻撃の役割をパーティごとに移動させながら統合体を落とした。
だがスコールは一人。
HPは胸の深手により、既に残り1000をきっている。
アルテマがくれば避け様が無い上に、耐えるHPも残っていない。万が一残ったとしても回復する時間もアイテムも無い。
ジェノバの体勢が変わった、アルテマ連発の体勢になったのだ。
すると今度はスコールから黄金の闘気が迸り出て全身を包み込み、その手に持つ水晶のような剣を伝い更に伸びてゆく。
スコールが体を回転させはじめた。
剣先から長く伸びている闘気は鋭いエネルギーを放つ巨大な輝く円月輪へと変化してゆき、どこからどこまでがスコールの身体なのか、剣なのか、オーラ、凶器なのか...眩くて判別が出来ない。
スコールそのものが輝く凶器になっていた。
そして...高速回転し大きな閃光を描いた円月輪はジェノバ統合体へ突っ込んでいき、連続剣のパワーに回転を加えた連続円月輪で一気に骨肉を切り裂きパアァァァァン!!と大きな衝突音をさせながらジェノヴァ統合体を通過した。
眩く輝いていたスコールの闘気が消えた時、ジェノバの魔法アルテマも止まっていた。
ジェノバの頭・身体・触覚...全てが2つに割れ...ズレて...大きくズレてギュオォォン!!と音をさせながら霧散した。
「...闘気と凶器と爆炎のリンクか...よくそんな事を思いつくものだ…」
会場、セコンド席、アナウンス席を含め誰一人として言葉を無くしている時、ホゥ…と息を吐いたセフィロスが呟いた。
そしてガーデン3人組は口には出さなかったが、最終リミット技に覚えがあった。
『あれは、リノアの最終リミット技……あいつらどんな恋人同士だったんだ…』
たった2ターンでアルテマウェポンを葬り去り、それより格上のジェノバ統合体をまるで手を出させずに1ターンで終わらせた。
逆を言えば1ターンでも渡してしまえば負けが確定したのだが、その1ターンさえ渡さない速さと威力と技術が…人間離れしていた。
最後は一気に240000もダメージ与えた戦士LEON。
さすがに…クラウドにもスコールが人間の領域を超えているとしか思えなかった。
水を打ったような静けさの中、悲鳴の様に響き渡る場内アナウンス!
『Wiii---nneeeee-------er!!Leee---------on!!』
長年滞っていた新バトルマスター誕生に会場が歓声を上げ沸き立つ。
眩しいステージの中でスコールは魔法ケアルを唱え、ポア...と全身が黄緑の光りに包まれる。
選りすぐりの凶悪モンスター達に喰いつかれ引き裂かれ焼かれ、血を流して痛みに苦しげに顰められていたスコール表情は、救急ケアに包まれ回復する快感に心地良さそうに瞳を閉じた。
ケアルが完了したところで、スコールはフゥ...と息を小さく吐いた。
「スコール...相変わらずカッコよくて色っぽい奴だもんよ~」
「お前...そこかよ観てんのは。ゴリラのくせに」
サイファーが嫌そうに雷神に突っ込む。
スコールはセコンド席に戻って来ながらボロボロになったTシャツを脱ぎ捨てると、バトル前に脱いでいたジャケットをそのまま素肌に羽織った。
そして踵を返し表彰台に向かう途中、思い出したかのように立ち止まり、振り返り、クラウドを指さした。
「Got you!」
口を歪ませステージに戻っていった。
ボアッと音を立てたように顔が赤くなったのがクラウド自身、分かった。
"Thank you!!"ではなく"Got you!"
『手に入れた!』と、スコールは言った。
敵わない。
セフィロスやザックスへ向けた嫉妬や屈辱の混じった想いではなく、完璧に感服し、ただひたすらに惹かれてしまう。
完璧な戦士。パーフェクトな男。非の打ちどころが無い。
昔、何も知らなかった、何もできなかった頃、英雄セフィロスに憧れた。
今は違う。
経験も戦闘能力も自分の方がスコールより上だ。
それは分かっている。...それでも敵わない。そう悟った。
根本的な人間の強さ、魅力、カリスマ性が全然違う、何もかもが比べものにならない。
戦力のみを期待されていたとしても純粋に仕えられる...この本物の英雄に。
クラウドは心の底からそう思い、救われる様に溜息とともに微かに涙を浮かべ微笑んだ。
その隣では元英雄が、デートイベント(勘違い)最後の最後で一気に全部持っていかれた怒りが抑えきれず、ウッカリ殺意に切り替わってしまい、それをクラウドに悟られぬよう口だけ意識して笑う形に歪ませ、目は意識して伏せていた。修行僧の様に。
「殺す…!」自然死など待っていられない。
奴は入り込み過ぎた。
このままでは奴が死んだ時にクラウドが危険すぎる。きっと持ちこたえられぬ。
今以上酷くなる前に、奴には死んでもらう!
伏せた目でセフィロスは決意していた。
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