誕生4


スコールがバトルステージを降りた時には取り巻く環境が一変していた。

ステージに立つまでは自分に接触する者などクラウド一行だけで落ち着いたものだった。

ところが連続96戦を終えステージを一歩降りれば、マスコミやゴールドソーサー関係者、バトルマニア、女や諸々に行く先々で纏い付かれ、無理矢理自室に戻ってもノック、呼びかけ攻撃が止まず、体力も限界を超えていたとうのにあまりの煩さに眠るどころではなく、急遽また...不本意ながらサイファーの部屋に転がり込んだ。

有り難い事にサイファーは部屋に押し入って来るなり何も言わず糸の切れたマリオネットのように床に崩れ落ち、眠り込んだスコールをそのまま放置して出て行った。


翌日クラウドから渡されていた携帯の鳴る音で意識が戻った時、昨日部屋に入るなり倒れた状態のまま床に寝ており、毛布一つ掛けてなく、サイファーが部屋に戻った様子も無い、その完璧な放置っぷりに、ここに来たのは正解だった、とスコールは思った。

そして何となく、日続けてサイファーの部屋に泊まるのは嫌だから今日は雷神の部屋に押し入ろう...雷神を追い出してやる...と、疲れがまだ取れておらず、痺れた脳みそで考えているところを、鳴り続けている携帯の呼び出し音が現実に引き戻した。


......はい......

起き抜けで声が上手く出なかった。

『眠っていたようだな』

セフィロスだった。

「……用件」

ゴールドソーサーに行くとも言ってなかったし、携帯番号も教えていなかったにもかかわらず何故か当たり前の様にセコンド席に座り、渡されたばかりの携帯に電話までかけてきている。クラウドや他の連中も教えるわけがないのに、何故知っているのか。

どこからどうやって情報を手に入れているのやら、その手段を考えると嫌な予感しかしなかった。


『君はプレミアバトルを明日に指定したそうだな』

「それが

『他でもない、それについて色々教えてやろうかと思ってな』

...アンタ経験者だったのか」

『ああ、私の時は"裏バトル"と言ったのだがな。聞くか

...ああ...


30分後に指定されたレストランにスコールが着けば、案内された個室に既にセフィロスが席に付いていた。

「いい香りがするな、風呂に入ってきたのか

「毎度不愉快になる挨拶はわざとだろ」

セフィロスに一瞥もせずスコールはボーイに引かれた椅子に座った。

「昨日は結局どこに泊まっていたのだ部屋にはいられなかっただろう

「サイファーの部屋」

......

「気持ちの悪い反応を止めろと言っている。2度目だ。3度目は殺す」

「機嫌が悪いな」

そう言いながらセフィロスは上機嫌で笑う。

「機嫌は通常。アンタが不愉快

アンタ殺しても復活する体質らしいから気軽に殺せる。せいぜい口の利き方に気を付けろ」

「私を気軽に殺せるほどの力を持つのはクラウドくらいだ。君の実力では無理

その程度の力量も見極められぬか?」

「やっぱり頭悪いなアンタ。"気軽"のかかってる場所が違う

会話力を身につけろ、バーカ」


スコールはやってきたウェイターに食事をオーダーすると、セフィロスの反応を待たずに持って来た書類を渡した。

「プレミアムバトルについて貰った案内だ。そこに書いある事以外で何を知ってるって

セフィロスはただ溜息をついた。

可愛気の塊のようなクラウドが唯一信頼している相手がこの欠片の可愛気も持ち合わせていない男だというのが…どんな皮肉だか。

だが約束は約束なので、セフィロスは割り切り書類に目を通し始めた。


プレミアバトルのルールはセフィロスやクラウドの時代とは少し違っていた。


セフィロスが唸るように言った。

...ラッキーとCUREが無い」

「ドラム目が24目。どの目を出しても必ずハンデになる

その中のA-ステータス異常&攻撃力半減、B-アクセサリ無効&魔法マテリア封印、C-アイテム&全マテリア封印

以外は全て0ポイント。合計8戦、ハンデは全て蓄積」

「……勝負ステージを最初から決めておかなければならない...か。どこで上がるつもりだ

「決まってるだろ」

...最終戦か...私が闘った時はアルテマウェポンだった」

スコールは苦笑した。

「アルテマウエポン相手に一人で戦えって

「しかも全てのハンデを加算した8戦目だ

昔はこんなドラム目ではなかったが、私は最高ポイントになる全マテリア封印で戦った」

口だけで笑いながら”お前には無理だろう”と暗に嘲ったセフィロスに、スコールの表情が一段引き締まった。

......アイテムは使ったか

「ああ、戦目の時に"SICK"を喰らったからな、戦目に入って直ぐに万能薬で解除した。アルテマウエポン相手にステータス異常では戦えない

だがこのスロットの傾向からいっても、今度の最終戦にはアルテマウエポンより厳しいモンスターが登場するだろう...ルビーウエポンかエメラルドウエポンかダイヤウエポンか...

「俺の世界にはオメガウエポンというのがいた」

「ほうそれはどんな

LV100HP1161000、強力な必殺オリジナル攻撃を連発してくる

4人パーティで3人フォローで犠牲になってもらい、必殺技を連発でようやく勝てた」

「エメラルドウエポン以上のHP...それは凄いな」

当時のハードな戦闘を思い出し、辟易した顔をしたスコールに、セフィロスは腹黒い笑いを浮かべた。


「最終戦で『アイテム&全マテリア封印』で勝利したら、私は君の味方になると約束してやってもいいぞ

「断る」

初日同様、即答で返したスコールに気を悪くした風でもなくセフィロスは意外そうに聞き返した。

「何故君から見て私はそれほど価値が無いか

戦闘力は俺より上、クラウドより遥か下。傭兵能力は高いが、その派手な容姿は仕事内容を選ぶ

総じてアンタは『利用価値の高い傭兵』だ。だがその性格で全て帳消し。アンタみたいな味方はいらない」

怪訝な顔をしたセフィロスにスコールは言い放った。


「アンタにとって大抵の事はどうでもいい事だ

 仕事で痛い思いをしようが死のうが、上司や他人にどう思われようが評価されようがどうでもいい

 唯一譲らない拘りは”クラウド”

 そして俺はクラウドの周囲をウロつく害虫。隙あらば排除するつもりだ」

スコールはせせら笑いおどけながらセフィロスのモノマネのような言い方をした。

「”私のクラウドに近づくな”……そんな奴を信用するわけがない」

スコールは纏わりつく小虫を払い除けるセフィロスの仕草までして煽ったが、当の本人はニヤリ…と邪悪に笑い返しただけだった。


スコールの携帯が鳴った。

...はい。...ああ、今ワンダスクエアのレストラン街に来てる。毒蛇と一緒だ」

言った瞬間、電話が突然切られた。


「怒らせてしまったな」

言葉とは裏腹に嬉しそうなセフィロス。

...ジェノバの能力とやらかアンタらはいったいどこまで聞えてるんだ

「クラウドはこの店の名前を聞かなかっただろ


昨日のマラソンバトルで疲弊しきったスコールが泥のように眠っているだろう事を分かっていながら、セフィロスが朝無理矢理誘い出したのには理由があった。

何もこんな微塵の可愛げもない小僧なんかと食事もしたくなければ、裏バトルについて教えてやる義理もない。

ただコイツにはクラウドが懐いている。

という事は、この忌々しいガキを捕まえておけば、クラウドの方から追いかけてくる。…ということは”明日の打ち合わせ”という大義名分を掲げてパワーランチの型を作っておけば、クラウドと食事ができる

ゴールドソーサーで共に食事まるでデートではないか

クラウドとデートイベント発生!!(邪魔なのはいるが)WINNER!!

セコくも復活以来の悲願達成を目前にしたセフィロスは、自分の計画の素晴らしさに超上機嫌になっていた。


「……店の外からでもこの個室声が聞えるなんて、冗談にしてくれよ」

スコールのそんな懸念自体が既に凡人のものだとセフィロスはせせら笑った。

先ほどのクラウドからの電話、セフィロスには電話を叩き切りざまクラウドが凄い勢いで部屋を飛び出した音が聞こえていた。

今はエレベーターの中、足をタンタンタンタンタンさせている。

どんな表情をしているのか目に見えるようだ。

可愛い。クラウドは何をしても本当に可愛らしい。

上機嫌天井知らずになっているセフィロスは、全く可愛げのないスコールに一昨日の種明かしをしてやった。


「君とサイファーの一昨日の会話も聞こえていた

言っておくが聞く気は無かった。聞こえてきただけだ」


スコールはハァ...と溜息をつき何かを振り払うように手をぷらぷらさせた。

その仕草の意味が分からず、セフィロスはアクションで問いかけた。

「アレを…よくもそこまで楽しそうに聞いたなどと言えるな」

思わずセフィロスは驚いた。

確かに気持ちは未だかつてなく高揚していた。それは仕方ない。クラウドとのデートイベントが発生しているのだ(お前が邪魔だが

だが今までに機嫌の良し悪しなど他人に見抜かれることなど滅多になかった。

それがこんなハナタレ小僧に見抜かれるとは…。


「お前たちの過去など私には何の意味もない

だが、クラウドはそうではない

集団生活で苦労したのはお前たちと同じ。聞き流せないのだろう

雑音など我々も聞きたくて聞くのではない」

スコールはシニカルな薄笑いを浮かべ「雑音、ね」と顎を上げた。



程無くボーイに案内されたクラウドが入ってきた。

全身から怒りが発散されていた。


「セフィロス

「いや、彼にプレミアバトルについて教えてあげていたのだ。それとソルジャー能力についても少々...

「俺が言うつもりだった!!

「クラウド、まだバトルの話は少ししかしていない、あとはお前から説明してくれ

それとバトルマスターとしても。お前しか教えてやれない事がたくさんある

とりあえず座れ」

セフィロスはウキウキと自分の隣の椅子をひいたが、クラウドは睨んだまま立っている。


「へえアンタもプレミアリーグの経験者だったのか。マスターということは最終戦クリアか

スコールが聞いたがクラウドはまだ怒りおさまらぬまま強い口調で答えた。

「俺の時は裏バトルって言った

「それは先ほど私から教えてやった」

「いちいち煩いぞ毒蛇。それとお前、もう用は無いから帰れ

座れ。クラウド」

スコールが隣の席を引いてやると、クラウドは憤懣やるかたない顔でセフィロスを睨みながら座り言った。


…まあ、対面で座るのもそれはそれで良い。……と、セフィロスは自分に言いきかせた。

が、隣に座るスコールがフワリ...とクラウドの肩に優しく触れた。

「メシ食ったか

...まだ...

人に触れられるのが苦手なクラウドは驚いたが、スコールは触れた手を退けず、またクラウドもそれを避けようとはしなかった。

「…………」

向かいのセフィロスが殺人者の目になっている。

「そうか、こっちもまだオーダーしたばかりなんだ。一人分追加してもらおう」

スコールは呼んだウェイターに一人分の追加を頼んだ。

ウェイターに頼んだ振り向きざま、スコールは殺人光線を出しているセフィロスを視線で更に煽った。


たとえお前にとって塵ほどの軽さの存在であろうとも、ウィークポイントが使える以上、お前も等しく軽い存在だ。

スコールのメッセージは正確にセフィロスに伝わっていた。


来た料理を食べながらクラウドとプレミアバトルの打ち合わせをしながら、時々セフィロスを邪魔者にしながら、最終戦のウエポン対策などを練っていた時、会話の流れのままスコールが言った。


「クラウド、考えたんだが...

「ん

「俺の仲間にならないか

隣で一緒に資料を見ていたクラウドの蒼い瞳が資料からスコールへと移った。


「昨日、船で言っただろ。

アンタが欲しい。俺の強力な切り札になる」

200人以上を相手に修業を積んだテクニックその1

優しい瞳でクラウドを見つめる。

テクニックその2。

セフィロスの前でクラウドにオファーを出す。

セフィロスではなく、クラウドに。


...じゃあ、お前も俺の切り札になれよ

「勿論だ。俺がどの程度役に立てるのか疑問だが、俺にできる協力はする」

「うん。じゃあいいよ、俺も協力する」

スコールはクラウドに、契約成立の手を差し出した。

「ま、待てクラウドお前はそんなに簡単に約束していいほど安くはない!!

クラウドは無視して握り返そうと手を差し出したが、セフィロスがテーブルを超えてその手首を掴み引き離した。

「せめて最終バトルをクリアしたらと条件くらい出してもいいだろう!!我々がここまでアドバイスをしているのだ

それでもクリアできないようであれば話にならんだろう

..................

クラウドはセフィロスを嫌そうに睨みつけてから自分の手首を掴んでいるその手を見て、再びセフィロスを睨んだ。

”触るな”というメッセージに、セフィロスは手を離さざるを得なかった。

スコールには許したのに…という言葉を飲み込み、セフィロスは大人しく座った。


......スコール、最終バトルをクリアしたら正式に仲間になる」

「分かった」

セフィロスの口端が攣りあがったのに気付いたスコールは、逆にセフィロスを真っ直ぐ睨み返しながら口だけで笑った。

するとセフィロスの眉間にしわが寄った。

残念ながらスコールの言いたいことがセフィロスに伝わってしまった。

『防戦一方だな


「じゃあもう一回、ウエポン対策とスロット対策考えようぜ

そして渦中のクラウドは一人呑気にとても嬉しそうだった。周囲に花でも撒き散らしそうな勢いで嬉しそうだった。

そんな生き生きとして嬉しそうなクラウドを見ていると、目的からはほど遠いがセフィロスがため息をつきつつこれでいいと思うようにした。

クラウドが笑っているのなら、それでいい。

自分にはそうしてやることはできないのだから。

だが異世界人スコール・レオンハートという不愉快極まりない若造は『早く死ね!』と呪った。



その日の夜、クラウドの部屋に雷神がやってきた。

雷神が言うには、マスコミやにわかファンの攻撃で部屋に泊まれなくなったスコールが、自分の部屋に押し入ってきて「サイファーの所へでも行け」と追い出されてしまった。

サイファーの所へ行ったが、自分はイビキがうるさいので泊めてくれなかった。

故にクラウド、泊めて欲しい、ということだった。

しかしクラウドはキッパリ

「嫌だ。お前のイビキはマジで我慢ならない

あれだけ破壊的な騒音の中で眠っていられるのだから、騒がしいスコールの部屋でも眠れるはずだ

スコールの部屋で寝ろ」と言い、バタンとドアを閉めてしまった。

行き場のなくなった雷神は仕方なく、ドアの前にマスコミ・バトル関係者・ファン・その他諸々のギッシリと群れるスコールの部屋に向った。




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