誕生3


ゴールドソーサーに着き、そのままホテルにチェックイン、部屋に入ったスコールは直ぐに闘技場バトルの準備にかかった。

前回クラウドがスコールの世界に行った時同様、スコールもクラウドの世界でのお金を全く持っていない。

故に週間の滞在費用捻出の為にゴールドソーサーの闘技場バトルで元手を稼ぎ、そのお金をクラウドが出場したチョコボレースに賭け一週間分を稼ぐ...という予定だった。

クラウドが金の心配はしなくていいと言ってもスコールが固辞した。


スコールはベッドの上でフレイムタンの手入れをしながら闘技場から貰って来たパンフレットを見てバトルシステムをチェックしていた。

スロットで戦ごとにハンデが加算されていくモンスターバトル、戦連続でセット。

途中リタイアはできるが戦目に大きくポイントが振り分けられているので、リタイアの場合はほぼそれまでの戦いが無駄になる。

スロットの目は、全マテリア封印、、魔法マテリア封印、、攻撃力半減、、各マテリア(魔法・コマンド・特殊技・召喚・支援・独立)どれか一つの封印。


手っ取り早くポイントを稼ぐには大きくバトルポイントが振られている戦目にハンデの高いスロット目を出し、それまではできるだけハンデの軽い目を出し後につなぐバトルを繰り返す。

そうして総合計バトルポイントが10万を超す事が出来ればプレミアムバトルの出場権を得られる。

プレミアムバトルへの最短コースは、最後の戦目で最もハンデがきつくポイントの高い「全マテリア封印」を使って10セット。

つまり最も少ないバトル数で80戦はこなさなければプレミアムバトルには行けない。


今回この世界にスコールが携帯してきた武器は「フレイムタン」と「ライオンハート」の本。

闘技場バトルのレベルの高いバトルにはフレイムタンを使い、ライオンハートはプレミアムバトルに残しておく。

それ以外の雑魚バトルでは闘技場レンタルの武器を使う事にした。

部屋に入る前に闘技場に寄ってレンタル武器、剣本、刀本、短銃丁、ライフル丁をオーダーして来たが、一度にそこまで大量にオーダーをかけたスコールは訝しがられてしまった。


闘技場バトルの10万点クリアを頭の中でシュミレーションし終わった頃、フレイムタンの手入れも万全となり、スコールは地下闘技場に降りていった。

受付にチェックインすると頼んでおいた武器は挑戦者セコンド席に既にセットしてあるということだった。

闘技場受付譲は自らも手に武器を持ち、更に異なる武器種類、計15本もオーダーしたギガイケメンにあからさまに好奇の目を向けていた。


ステージに向って行くと、四角いバトルステージの四方をグルリと囲む形で設置されている凡そ100人程度収容の観客席は、午後の部一番のファイトだということもあり、チラホラ埋まっている程度だった。

そしてその観戦席の最前列の一部が挑戦者のセコンド席になっており、他の観客席と区切られていた。

そのセコンド席には武器15本と……呆れ顔のクラウド、セフィロス、物憂げなサイファー、そのサイファーを心配そうに見る風神、ワクワク顔でたくさん並べられた武器を見ている雷神が待っていた。


...ようスコールこんだけの武器揃えたってことは、プレミアバトルの挑戦権取るんだな!?

スコールが入ってきたのに気づいたサイファーは、上機嫌な王様のようにスコールに言った。

「ああ」

仕草で雷神をシッシッと退けて場所を作り、借りた武器点をチェックし始めながらスコールが言った。

「サイファー、風神が心配してるようだが何かあったのか

うっせえてめぇはこれからあのステージで大恥かく心配でもしてやがれ

威勢は良いが妙に空々しいサイファーの罵声をスコールは受け取ることもなく虚しく宙に散らせた。

昨夜の2人会話。

そして船で聞いた"奴らにもプライドがある"

この時、その意味にようやくクラウドは気が付いた。


笑え、サイファー。風神雷神の分まで。

お前にはその義務がある。

サイファーを見もせず武器をチェックするスコールと、空回りしていようとも横柄に振る舞う演技を続けるサイファー。

人の間に目に見えない鎖がつながっている。

クラウドはその重い鎖が羨ましく、妬ましく………気に入らなかった。


「スコール...アンタ今酔っぱらってるだろ

プレミアバトルに行くには一番キツイハンデで戦って80戦やらなきゃならないんだから、無理しないで適当なところでやめておけよ

少し稼げば明日のレースで大きくできるから」

純粋に酔っ払いへの心配で言ったクラウドだったが、スコールは武器のチェックに集中するフリをしながら無視した。


「ナメんじゃねえ」

クラウドが不愉快全開の不穏な声に視線を向けると、サイファーが睨みつけていた。

「スコール!!このお嬢さんにガーデン魂見せてやれ!!

「お前が言うな。ガーデンテロリスト。改築費請求するぞ」

バッサリとツッコミを入れたスコールは着てきたジャケットを脱ぎ、サイファーに投げつけた。

受け取ったサイファーは、それをバサッと床に打ち捨てた。それを風神が拾ってたたみ、雷神に渡し、「スコール気合」と、拳を見せエールを送った。

Tシャツと黒のスリムジーンズだけになったスコールは、銃をホルスターにセットし、剣を携えるとステージに出て行った。


バトルが始まると、スコールはハンディスロットル目押しで戦目魔法マテリア封印か、攻撃力半減で勝負をかけた。

全マテリア封印は確かに最高ポイントを稼げるが、武器が借り物である今、特殊技が出せないので避けることにした。

だが剣・刀・短銃・ライフルの種を適時使い分け、結局戦を12セット完全無休連続、

機械系のガードスコーピオン、ミサイルランチャー、モーターボール、アイスゴーレム、ハードアタッカー、ガーディアン、ロケットランチャー、デスマシン


モンスター系の、チュスタンク、ヘルハウス、ディーングロウ、ソードダンス、ヴァギドポリス、マンドラゴラ、ミドガルズオルム、マドゥジュ、アークドラゴン、ゼムゼレット、フォーミュラ、コカトリス、ボム、デスクロー、ランドウォーム、ジョーカー、タッチミー、キキキアチヨ、グリフォン、バジリスク、スティンガー、バルロン、ベルチャタスク、ミラージュ、ファニーフェイス、ギロフェルゴ、ズー、ドラゴン、スクリーマー、マテリアキーパー、アダマンタイマイ、ジェジュジェミ、ヘクトアイズ、デモンズゲイト、ゴーストシップ、ダイバーネスト、ウルフラマイター、スパイラル、ネックハンター、サハギン、デザートサハギン、ヘッドボンバー、モルボル、スティルグ、アイロネート、ドラゴンライダー等々、モンスター計96体倒し、バトルポイント10万を越え、あっさりとプレミアバトルへの挑戦権を獲得した。


バトルステージを降りた時は既に夜になっていた。

延々休みなく続いたスコールのバトルにセコンド席でフォローを入れたのは、風神雷神。

サイファーは観客席の誰よりも大きな声で野次りまくった。叫び過ぎて声が枯れるほどに思いっきり罵詈雑言を含め野次りまくった。

その罵詈雑言は一体誰に向けて言っているのか何を言っているのか明らか無関係・意味不明なものも多く混ざっていた。

バトルが始まった時はチラホラ埋まってるだけだった観客席も、イケメンが休みなく続けるバトルがクチコミで広まり100人収容の競技場も途中から立ち見で通勤ラッシュ並みに詰め込んでも入りきらなくなり、ステージと客席の間のスペースも埋まり入口からも客が溢れ、競技場のエアコンが全く追いつかなくなり人の熱気で観客たちが汗をダラダラと流しながら観戦していた。


一方クラウドは途中で席を立っていた。

スコールのプレミアバトルへの挑戦権獲得を確信したからだった。

席を立ちはしたが、闘技場からは出ず、バトルショールームで人佇んでいた。

ショールームならば何もせずただ突っ立っていても不審に思われない。……そう考えての事だったが、展示物を見もせずただ俯いて立っている姿はどこから見ても不審だった。


熱気に包まれ連続バトルを続けるスコールの様子を一人そこで感じていた。

間抜けなアドバイスをした自分を恥じていた。

こっちに来てからずっと酒飲みでロクデナシ上等でいたから忘れてしまっていた。

スコールはガーデンを率い、召喚獣達を率い、世界を救った真の英雄。

大切な時にしくじり続けた自分とは違う人種だった。決める時にはどんな状況でも逃さずちゃんと決める奴。

昔、英雄だった頃のセフィロスと同じ人種...セフィロスは偽物だったけど、スコールは本物の英雄。

自分なんかがアドバイスなんかしていいような立場じゃなかった。

どこまでも昇りつめてゆく闘技場の熱気、歓声が轟くほどクラウドの気持ちは沈んでいった。


「あとセットで終わる」

日々ストレスの原因がショールームに現れた。

クラウドが無言でエントランスに出ていこうとしたが、その手首をセフィロスが掴んだ。

反射的に睨みつけたが、セフィロスは動じなかった。


「昨夜の話

彼らは随分酷い場所で育ったのだな」

クラウドは返事をせず、バシッとセフィロスの手を振り払った。

「そして贖えない罪を背負っているのも同じだ。私と

戦いの中にしか生き場所がなかったのも同じ。だからお前よりも私の方が彼らの事は分かる」


スコールのバトルステージが終わりそうな気配だ。


「クラウド、お前は自分で判断できる年になり自分の意思で神羅に入った

それまでは一般の生活をしていた

だからお前は傭兵である前に人間だ。物心つくまで人として育った

だが彼らや私は生まれた時から道は決められていた

お前が戦いを前にした彼を見誤ったのは当然だ。彼をお前と同じ人間として見たからだ

違うぞ彼はお前が思うようなマトモな人種じゃない

彼も、大将も、私も、人間である前に傭兵だ

たとえ命が一つしかなくとも、それに大した価値など持っていない。そういう生き方をしてきたのだ」


クラウドは俯いたままでいたので、その表情はセフィロスからは見えなかった。

スコールの最終バトル96戦がフィニッシュし闘技場方向から割れんばかりのウオオォォォ!!とかピーピーという空気のどよめきや歓声があがった。

セフィロスはバトルスクエアの方を見て感心したように言った。


「彼を中心にもの大変なエネルギーが生産されている

彼はあちらの世界での世紀のカリスマだろうな...見なくとも分かる

あれほど多くの人の気持ちを吸収し昇華させる奴、俺も見たことが無い...


セフィロスが向き直ると......既にそこにクラウドの姿は無かった。


クラウドはホテルの自分の部屋に向かいながら口にせず答えていた。


"俺は見たことあるよ、世紀のカリスマ

そいつを追いかけたこと、ずっと、死ぬほど後悔してる"



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