誕生2 「昨日、あれから随分盛り上がってたな」 ジュノン港からゴールドソーサーへ向う船の中、デッキを見下ろせる3Fのバーで一人グラスを傾けていたスコールにクラウドが話し掛けた。 スコールが仕草で隣の席を促した。 「あいつらこっちの世界に来てからずっと大人しかったから、昨日は凄く楽しそうだった 初めて見たよアイツラがあんなに笑うの」 勧められて腰を落としかけた時、スコールがフッ…と笑った。 不審気な視線を自分に向けているクラウドに気がつき、スコールが言った。 「アイツラにもプライドがあるからな」 「プライド?」 「..................」 2度目のクラウドの質問には答えずスコールはグラスの中の氷を見詰めた。 暫くそうしてグラスの中を見ていたが、やがて隣に座っているクラウドに視線を移し、互いに目が合ったままでもスコールは視線を外さなかった。 「言いかけて途中でやめるな!」 スコールの迫力のあるドラマティックな眼に見つめられる事に耐えられず、クラウドは喋る事で緊張の糸を断ち切った。 それでも答えもせずただただ見詰めてくるスコールに、クラウドが耐え切れなくなってきた頃、漸く視線をグラスに戻しスコールはカラリ...と氷の音をさせ、口に運んだ。 クラウドは訳の分からないスコールへの気まずさから、興味もないことを聞いてみた。 「それ何?」 「ワイルドターキー、だそうだ」 スコールはグラスを揺らし、カランカランと氷の音をさせながら相変わらずグラスの中を見ている。 琥珀の液体は残り少ない。 手に持っていたロックグラスを目の高さに持ってきてカラカラ...と2~3回振り、グラスを空にした。 クラウドは仕草でウェイトレスを呼び、スコッチのブリックラディックと摘み立てブルーベリーをオーダーした。 スコールも注文したければするだろうと思っていたが、スコールが注文する前にウェイトレスが「ケスラーでよろしいすか?」とウィスキーメニューを見ているスコールに話し掛けた。 スコールはただ頷いた。 ウェイトレスは嬉しそうに「フフ...」と微笑みカウンターを離れた。 ウェイトレスを見送りながら「何でアンタが注文するのが分かった?」とクラウドが聞けば 「多分、メニューの上から順番にオーダーしてるからだろ」とスコールは答えた。 メニューを見てみれば、バーボンのコーナーの上から5番目にワイルドターキー、6番目にケスラーと記されてあった。 「...アンタ、酒飲み?」 「バカンス中に酔っ払ってて何が悪い」 「酔ってるのか?」 「まあ、それなりに」 「なるほど、だから今日のアンタの視線はシツコイのか」 「シツコイ?」 「カナリ」 「そうか、悪いな」 全然悪びれずにそう言った。 昨夜あれだけサイファーと喧嘩して暴れまわって力尽きた後、部屋に戻って風神・雷神たちと酒盛りしたはずなのに、気が付けばここで酒をがぶ飲みしている。 しかも多分オーダーした数からいって船に乗って直ぐだ。 タフな奴だなぁ...とクラウドは秘かに感心した。 再びウェイトレスが戻って来て、スコールの前にケスラーのロック、クラウドの前にブリックラディックのロックとガラスの小鉢に入った山盛りのブルーベリー、そして口汚しのピーナツを置いて去った。 早速グラスに口をつけるスコールの前には、同じく最初に置かれたであろうピーナツがそのまま残っていた。 つまり...店に入ってから今まで、酒しかオーダーせず、酒しか飲んでないということか。 呆れたクラウドが改めて見ると、スコールは窓の向こうの階下デッキを見ていた。 そういえば来た時も同じ場所を見ていたな...と、視線を追えば、そこには浮かれている観光客親子がいた。 きっと手に入れて間もないのだろう、カメラの扱い方について妻と相談しているらしい夫、妻のフレアースカートの裾は潮風に弄られゆるやかに揺れている。 その直ぐ近くに置いてあるゴム製の浮き輪で飛び跳ねて遊ぶ兄弟。 随分と良くできたファミリードラマ的な一コマだが、その光景を見ているスコールの瞳は酷く暗い。 デッキの子供達は飽くことなくキャッキャ、キーキーと飛び跳ねて遊んでいる。 本当に子供ってのは猿みたいだ...と関心していると、スコールが呟くように言った。 「俺の世界には相手をカエルにするとかミニマムサイズにするなんて魔法は無いんだ 良かったら今度教えてくれないか?」 全く予想外の方向からの提案に面食らったクラウド。 「あ、うん。いいよ。確かにあのステータス攻撃は使える。...けど、どうした急に?」 クラウドの問いにスコールは相変わらず暗くドラマチックな瞳をデッキの家族連れに向けている。 「何となく」と呟いた。 ……このワケの分からなさ、酔っぱらってる…秘かにクラウドは確信した。 「言っておくが、あれはかけられた方が体に滅茶苦茶負担がかかる。やられるといっぺんにHPが1になる。遊びでやっていい魔法じゃないぞ?」 「遊びでやっていい魔法って何だ。それにアンタはセフィロスにやってた」 「アイツは何をやっても直ぐに復活するし、第一懲りない、堪えない。言葉が通じない。自分の思うようにしか動かない。だから俺もやりたいようにやる」 そう答えたクラウドにスコールは「そうか」と言っただけで暫くまた何かを考え込むように沈黙した。......ように見えて恐らく何も考えていないのだろう。 顔がツクリモノの様に整っているから何かと深読みをしているように見えるが、実は何も考えていないパターンが殆どの奴だ、とヴィンセントが言っていた。 「......ソレ、綺麗だな」 カウンターについたクラウドの手首にあるシルバー細工のブレスレットには5種のマテリアが嵌め込まれており、スコールはそれを指した。 「あ......ああ...これは......この黄緑のは、コマンドマテリアのW魔法を隕石マテリアに育てたもの これで呪文1回でコメテオ連続2回発動できる こっちのエメラルドグリーンは支援属性マテリアを育てながらアルテマに育てた、これでアルテマの後に追加斬りが発動できる」 スコールはまた別の赤く輝くマテリアを指差した。 「これもすごく綺麗だ...中心に向うほど明るくなって...まるで炎の結晶みたいだ」 「召喚マテリアだ。これはヴァルキリー。中心が明るくなってるのは、この召還獣が健康な状態だからだ これが戦闘でHPが減ってくると、この中心の明るさも弱くなってくる 家に帰れば他の召還獣達のマテリアもあるから見せてやる」 「是非頼む」 「そういえば俺も聞きたかったんだが、カーバンクルやジャボテンダーが仲間にいるだろ、どうやって仲間にした?俺も欲しいんだが」 ガーデンから帰ってきて直ぐに所持していたチョコボ宿舎に行きチョコボ宿舎を屋敷敷地内に移設するのには成功した。 しかしモーグリ一家の招致は実現しなかった。モーグリが住むにはミッドガルは環境が悪すぎたのだ。 だが招致するにあたって野生のモーグリたちと何度か接触したおかげで友達にもなれて触れられる機会も格段に増えた。だから一応それで良しとしたが、…実はあの召喚獣達が集合した時、他にも気になっていた召喚獣がいた。 召喚獣カーバングル、信じられない愛らしい姿に、触り心地の良さそうな毛並み、きれいな緑色の体毛に真っ赤なガーネット。 召喚獣ジャボテンダー、デカイ。ヒゲが面白い。あんなマスコット欲しい。 召喚獣達のレベルでいえば自分の方が遥かに上の召喚獣達が揃ってはいたが、バラエティさでいえば傭兵経験がずっと浅いスコールの方が多くの召喚獣を保有していた。 自分は傭兵になって以来30年以上ずっと前線で戦い続けてきた。 誰も踏み入れられない未開の地や混乱の地に踏み込んだからこそ見つけられた召喚獣もいた。 だがスコールはガーデンを背負う指揮官。 一介の傭兵が踏み込むような場所にはスコールは行けない、行かせてもらえないはずだ。 なのに凄くたくさんの召喚獣達と契約しているし、人間同士のようにコミュニケーションもとっている。 別に数が欲しいわけじゃない、ただ…納得がいかないというか…… カーバンクルにも触ってみたかった…他の召喚獣達に混ざって微かに「キュ…キュ…」と可愛い可愛い声で鳴いてた。もっと近く、ていうか耳元で聞きたかった…。しっぽに触りたい…顔を埋めたい…。 「人間と契約した召喚獣は人間の脳に棲むが、契約していない召喚獣はエネルギーが集まるいろんな場所に棲んでる カーバンクルは、モンスターの中で眠っていたところを引き抜いた 召還獣には召還獣同士の相性っていうのがある カーバンクルはセイレーンとの相性が最悪なんだ セイレーンとはちょっと色々あって嫌われてるんだが、俺がよくカーバンクルをジャンクションするから、そういう意味でもダブルで嫌われている ジャボテンダーは、ガラパゴス化したサボテンダーの島があるんだが、そこで砂から出たり潜ったりして遊んでたところを捕獲した ジャボテンダーは召喚獣としては戦闘では殆ど使えないが、アビリティにレベルアップ時の各ステータスボーナスを持っているから、MAXステータスアップしたい者に貸し出している」 「戦闘で使えない召還獣?...ソレ、面白いな」 「召喚獣との関わり方は一つじゃない、戦闘嫌いな奴や苦手な奴はジャンクションはするがバトルでは使わないってだけだ あ、でもジャボテンダーは時々バトルで使ってる アイツは召喚すると物凄く可愛くて楽しい登場と戦闘をするから、敵を倒すためではなく”癒し”に召喚している」 「癒しって!回復とかじゃないのかよ!」 クラウドは笑った。 「ジャボテンダーは回復はできない。針一万本はやるけどな 癒しってのはそのまま。あまりにも戦闘、戦闘、戦闘、戦闘でウンザリする時にジャボテンダーを呼べばホッと一息。気分がリフレッシュ」 「何だよソレ...すっごく見たいじゃないか!気になる!!」 「残念。今回は連れてきてな...」 ピーーッ!という笛のような音と共に、展望ガラス面いっぱいにジャボテンダーのドアップがイキナリ登場した。 『よんだ?』とジャボテンダーが手足をパタパタさせスコールに言っている。 クラウドはいきなりのドアップの登場に驚いている。 『このほしにもサボテンじまあるのしってた?』と口は動かないが手足は盛んにパタパタしている。 「...友達できたか?」スコールがジャボテンダーに聞いた。 『ここでもおやぶん』 「そうか」 登場した時と同じように、唐突にピュッ!とジャボテンダーはガラス面から引っ込んだ。 なんだかクラウドは笑ってしまった。 「クソッ!......あんなの反則!欲しい!凄く欲しい!」 飛びぬけて長生きし、自ら動けるようになった元サボテンダーはいつの間にか"友達"といえる存在がいなくなっていたそうだ。 「アイツ..."俺が友達になってやろうか?"と言ったら、"すこーるはともだちじゃない"ってキッパリ断られてしまった...ショックだ」 と、当時言われた時の事を思い出したようにスコールは楽しそうに笑った。 ......それ、笑って言う事か?結構傷つかないか?とクラウドは内心思ったが、違う事を言った。 「アイツはどれくらい生きてるんだ?」 「知らない。聞いたことが無い だが他のサボテンダーのサイズと比較しても、普通のサボテンダーの15倍くらいは長生きしてるんじゃないか?」 「...15倍...はキツイな」 「まぁ、アンタは見かけによらずジジイらしいが、まだアイツの足元にも及ばないって事だな 上には上がいるもんだ」 「...お前、友達いないだろ」 クラウドが睨みつつ言うと、スコールはさも意外そうに「いなきゃいけないか?」と聞き返され、ぐうの音も出なくなった。 確かに、そんな事を言ってしまったクラウド自身、友達の一人もいないのだから。 スコールはクラウドの質問などどうでもいいように、懐から1枚のカードを出し見せながら話を戻した。 「俺の世界に、凄く可愛いモンスターがいた」 カードに描かれていた水色の情けない顔をした一筆描きで描けそうな宇宙人に「何だコレ!?」思わずクラウドは口に出していた。 他の召喚獣達やモンスター達のカードはやたらと筆細かく丁寧に強そうに描かれているのに、このカードだけはとてもチープでシンプルだった 「ミッション中にそいつと偶然エンカウントしたんだが、ソイツがマジックポットみたいに"エリクサ―ちょうだい"って何回も頭下げて、困りきったように言うんだ その仕草がとにかく可愛くてエリクサーは貴重品だがあげたんだ そしたら"ありがとう!ありがとう!"って、何回も頭下げた 頭を下げる度に、その頭の上に付いてるやつがプンプン動くんだ それがまた...非常に可愛くて可愛くて、ソイツがまた"エリクサーちょうだい"って頭をプンプンさせながら頼んでくるから、やった。可愛かったから エリクサーはソイツの乗ってた宇宙船が壊れてて、それを修復するのに必要だったらしい そいつは行ってしまったがお礼にって、そのカードをくれたんだがそれをカード変化させると召還獣に"食べる"をマスターさせられる 召喚獣アビリティに"食べる"を入れて、戦闘で成功させると自分自身の戦闘基礎ステータスを上げる事が出来る カナリ使えるカードだが、こんなに可愛いし...アイツ本当に可愛かったし、想い出もできてしまったからな、記念にとってある」 「見たかったなぁ...こんな生物いるんだ...」と呟いたクラウドにスコールは 「コイツの可愛さは会って、動いてるのをみなきゃ分からない 実物はこのカードからは想像もつかないほど可愛い。驚くほどに可愛い チョコボやコモーグリやカーバンクルとはまた違う、新ジャンルの可愛さだ!」 「うううぅぅぅ~~~~~!!!あ~…いいなぁ…いいなぁ。畜生!俺も会ってみたいなぁ~…」 スコールは微かに笑って、クラウドの持っているコヨコヨカードの角をトントン...と、指先でつつき言った 「こいつは気がついてない様だったが、実はこいつの宇宙船を壊したのは俺なんだ」 驚いたクラウドに、スコールは口端だけで笑った。 「変なものが空を飛んでいたからな、とりあえず攻撃してみたら墜落した」 思わずクラウドは「ヒデー...」と、クスクスと笑ってしまい、更にその時の場面を想像するとアハハ...と声に出して笑ってしまった。 それからスコールに残りのカードも見せてもらったが、殆どが自分も持っているカードと同じモノだった。 だが世界で1枚しかないという召還獣のカード達は、強くクラウドを惹き付けた。 「デブチョコボのカード...俺も欲しいな......」 スコールは嬉しそうに「や・ら・な・い」と答えた。 ムッ!としたクラウドだったが、スコールの手持ちのカードが全てLV9までであることに気がついた。 「LV10のカードっていうのは存在しない?」 「いや、キスティスやサイファーや俺のカードがLV10 持ってはいたんだが人間の顔のドアップが描かれたカードなんて気持ち悪いじゃないか だからファイナルバトル前に全部カード変化で処分した そしたら戦争が終わってLV10カードを全部変化させたことがガーデン内のカードクラブ団にバレて破門にされた 特にキスティスなんか最終戦前にカード処分したのを知ってたくせに、さっきの水色のモンスター...あれはLV5のカードなんだが、あれと召喚獣のカードを残したと知った途端、凄い勢いで敵になった。心狭すぎだろ」 スコールの潔いまでの偏りっぷりに、もうクラウドは耐えられず「あはははは!」と腹を抱えて笑っていた。 そしてひとしきり笑いながら風神雷神のカードを出し、「こいつらはエクスポーションだった。アンタは何に変化した?」と聞いた。 「俺はスリースターズ3つ、アビリティで1度の魔法で3回攻撃の技を覚えさせれる。それが3つ サイファーはダイヤアーマー3つ、アビリティでHPを4割増やせる、それを3つ キスティスはソウルオブサマサが3つ、アビリティで魔力を4割上げられる」 そこでクラウドは一つの法則を思いついた。 「じゃあLV10のカード変化ってのは、あとは...力の4割アップが3つと、速さの4割アップが3つと、精神の4割アップが3つか?」 「.........似てるが違う。精神の6割アップが3つ、力の6割アップが3つ、魔法防御4種が3つ。それと速さの4割アップが3つは当り」 「6割って...あのキスティスよりもステータスが上の奴がいるのか」 「...精神の6割アップは元々が傭兵じゃなかったし、もう戦闘から引退した 力の6割アップもバトル能力は高いが傭兵としての能力は低い。傭兵としての能力ならキスティスの方が遥かに上、実用性があるし信頼できる 結局傭兵能力ってのはステイタス値とはあまり連動しない」 スコールがテーブルに置いた自分のグラスのフチを撫でている。 つい今までスコールの気持ちはここにあり、互いに笑い合っていたはずなのに、また気持ちがどこかに飛んでいる。 本当に今日はなんだかおかしい。妙に捉えどころがないというか...酔っ払いだからか?と、秘かにクラウドが思っていた時、展望ガラス越しの空に見たこともない召喚獣が姿を現した。 「え...」 明らか戦闘型の召喚獣なのに何をするでもなく、逃げるでもなくただ空に浮かんでこちらを見て?いる。 召喚獣は電流のような形の無いエネルギー体のようなもの。 今そうして召喚獣の姿を具現化しているだけでも召喚獣の消耗は激しいはずだ。 なのに何もせずに具現化したまま、ただそこにいる...。 クラウドが思わず隣人に教えると、「あぁ...」と言いスコールは小さく片手をあげてその召喚獣に挨拶をした。 すると鎧に包まれ大きな黄金の剣を持つ戦闘型召喚獣はフッと消えた。 「お前の召喚獣?」 「違う。だが俺の世界で知り合ったクリュサオルって奴 契約の話はしたんだが蹴られた。直ぐに死ぬ人間とは契約しないと言ってた だが奴の親のポセイドンと娘のエギドナは俺の仲間だ」 そう言って笑うスコールは、何故だか酷く寂しそうにクラウドには見えた。 「ヴィンセントも言ってたが、召喚獣って意外に次元の垣根が無いんだな」 「そうだな。俺もまさかジャボテンダーやアイツまで当たり前に自由に来てるとは思わなかった だが考えてみれば召喚獣は元々が見えているものも時間の流れ方も生命体も存在意義も俺らとは違う 次元の壁なんか彼らには問題じゃないのかもな ”人間”という括り一つにしても、アイツラ召喚獣が見えてるのは極一部の戦闘員だけだし、奴らが見えていない人間にとってはこの世に召喚獣なんて存在しないのと同じ 召喚獣が見える奴も、全ての召喚獣が見えるわけじゃない。見えても合う合わないもあり、その選択は人間にはできない ただ受け入れるのみだ」 「そうだな......そういえばお前はいつから召喚獣が見えるようになった?」 スコールは思い出すように少し考えた後言った。 「初めて見た...ような気がするのはガーデンに入った頃だから6歳頃か...物凄く大きくて透明な召喚獣を見た............と思うんだが...気のせいかもしれない どんな形をしてたのかも思い出せないし、本当に見たのならデカ過ぎたし、その時の記憶もハッキリしてないし だが初めて仲間になってくれたのはケツァクァトルで10の時だった」 「アイツか!アイツ、カッコイイな!」 スコールは自慢気にケツァクァトルのカードをピシッ!とカッコよく見せた。 「コイツを召喚するところ見たことないだろ。本当にカッコイイんだぞ! 登場から戦闘までは何度見ても感動する!とにかくカッコイイ!11年の付き合いだが未だにカッコイイと思う。」 「だよなぁ…空にいるだけでカッコよかったもんなぁ。いいなぁ。見たいなぁ...もう!」 訓練フロアで一度見ただけの、上空で翼を広げて留まっていたその姿が印象的だった。 「残念。今度こそ無理だ。今アイツはアッチの世界で仕事中だ」 「そうかー...」 と言った後、クラウドは他にも気になっていた召喚獣を言った。 「エデンは?すっげえデッカイ召喚獣だなアレ!デカすぎて規模が分からない!アイツも今仕事中?アイツはどんな事をするんだ?」 「エデンかー...アレはとにかく規格外というか...全てが強烈だな 攻撃力は上限が無いし、戦闘は...アレはなんて言ったらいいのか、とにかく規模が違う しかもアレをジャンクションしてると相手モンスターの能力を奪い取ることもできる とにかく凄い召喚獣だが、その分半端じゃなく魔力を使う。召喚する時はそれなりの覚悟が必要だ その代わりアイツを出せばどんな敵も1ターンで倒せる 俺は大抵の召喚獣とは会話できるんだが、エデンとは契約はしたがコミュニケーションは一切無い 多分、エデンを"召喚獣"っていう括りにすること自体が間違ってると思う アレは1つの個体を模っただけの力の集合体...のような気がする 違ってるかもしれないが、宇宙の歪みの中で生じた力の溜まった場所が"エデン"のような感じかな... 違うかもしれないが。とりあえず色々宇宙規模なのは確かだ」 「へえ...」 スコールはそれぞれの召喚獣の種族のその奥にある個性まで見分け、それぞれ個々と付き合っている。 傭兵仲間に対してもそうだ。サイファーとあんなに仲が悪いのに絶対に見捨てないし、キスティスは命を預けあうほどの信頼でつながっている。 『友達』なんてスコールには必要ない。それ以上に強く結びついた関係がある。 『いなきゃいけないか?』……大違いだ。 自分にはそこまで理解している召喚獣もいなければ命が繋がってる奴もいない。何も、誰もいない。 自らがそう選択してきた結果だ。 もし自分がスコールの仲間になったら、スコールは自分と命を繋げてくれるのだろうか。 1つしかない命を預けてくれるだろうか...聞いてみたくなったが、そうストレートに聞くほどクラウドは素直ではなかった。 でもどうしても聞いてみたくなった。 「...もし俺がアンタの仲間だとしたら、アンタは俺をどう使う?」 スコールはまたデッキの親子連れを見ていたが、クラウドに問いかけられグラスに口をつけながら瞳だけをチラッと寄こした。 そんな仕草がまたクラウドには、映画の1シーンのようにやたらとキマって見えた。 「えと…聞いてみただけ。…だけど…」 恥ずかしい質問をしてしまったか、とクラウドは焦った。 「切り札」 「...え?」 「アンタの戦闘能力は俺の星の誰よりも高い。間違いない それにたくさんの高位の召還獣と契約してるし、彼らとの信頼関係も強い アンタの能力は実際に見た者でなければ誰も信じはしない だからいざという時にだけ使う。誰も目撃者が残らない場面で切り札で出す」 何故かクラウドは赤面した。 「え、と...あ、でも俺、単独バトルでしか使えないっていうか 他の傭兵とのコミュニケーションとか全然ンダメだし、召喚獣達は強いけどお前みたいに仲良しってわけじゃないし」 「傭兵はマルチプレイヤーである必要はない。アンタは飛びぬけた戦闘能力を持ってる。それだけで十分 ここぞってステージができた時に...」 スコールはパチンッ!と鳴らした指でそのままクラウドを指差し「切り札!」と、ウィンクをした。 ゴトッ.........! 「あっ!」クラウドは手に持っていたロックグラスを思わずテーブルに落してしまった。 グラスは垂直に落ちただけなので、飛び散った水分は少しだったけれど、それをペーパーナフキンで拭くクラウドは隠しようもなく真っ赤になっていた。 「よ・酔っ払いが!お、男にウィンクなんかするな!ビ・ビックリしたじゃないか!」 「フン、俺はバカンス中。ロクデナシ上等だ!」 読めない! 最初は機嫌がいいように見えた。でも機嫌が悪いようにも見えたり、今は全く上機嫌で悪びれないスコール。 振り回される! 何だコイツ!何なんだコイツ!静まれ!静まれ動悸!!コイツは俺よりもずっと年下!ずっとずっと少ししか生きてないんだ!振り回されてるんじゃない!鎮まれ!鎮まれ!心臓!! ……クラウドは必死に自分に言い聞かせていた。 「俺は召喚獣達との距離が近いってだけだ。アンタは俺とはまた別の関係でつながってる ガーデンの訓練施設をリフォームした時もそうだ アンタが指示したわけじゃないのに召喚獣達がアンタのために勝手に動いた。文字通り身を削ってな 俺は契約してる召喚獣の中じゃイフリートとセイレーンに特に距離を置かれているが、彼らは俺個人の為には多分指一本動かさないだろう あとトンベリやセクレト(ブラザーズ)に至っては足を引っ張るし トンベリは戦闘で使えないのに戦闘に出たがるし、買い物が好きの値切り好きときてる 値切るつもりなんか無くても値切らされる。値切らなきゃトンベリが納得しない さっさと仕入れて次の仕事に行きたいのにトンベリのせいでショッピングセンターから...あ...」 突然スコールから緑色のものが出てきた。 「あ、久しぶり」 クラウドが手を振ると相手も挨拶を返すように特注巨大ほうちょうがフリフリ目の前で振られた。 ...悪気が無いのは分かっているのであえて何も言わない。 『す・こぉ~るぅ~?』 トンベリの頭上の王冠が斜めになってクルクル回っている。...うん、そうだろう。そうだろう。怒ってるんだな。 クラウドが隣を見たら意外にもトンベリを怒らせているご当人は自分に向かってふんふん振り回されているカンテラやほうちょうを楽しそうに見ている。 『ぼ~...く~の...わ~...る...くち.........い............た?』 「言ってない。俺がキングをどんなに好きか彼に教えてた」 凄く良い笑顔で嘘をついている。 短い付き合いではあるが今までに一度もスコールのこんな綺麗な笑顔を見たことがない...というよりも、そんな風に笑える奴だとは思っていなかった。相手が召喚獣だからだろうか? そういえば以前もコモーグリと話す時は凄く良い笑顔じゃなかったか?…コモーグリ……まだこの世界のコモーグリには出会ってない……あの子、ふわふわでぷにぷにしてそうだった…触りたかった…抱っこしたかった…。 『.........そ~............????』 トンベリの王冠が若干正常位置に戻りつつあるのが何故か気に入らなくてクラウドは言ってしまった。 「いや、言ってた。値切りもほどほどにしてくれってさ!」 トンベリの瞳が車のテールランプのようにピカッと光ったかと思ったら、スコールが何も言わずにグラスを持ちカウンターの下に潜った。 突然トンベリが地団駄をドッスンバッタン!ドッタンバッタン!踏み始め、滅多なことでは揺れないはずの大型豪華客船が右へ左へ上へ下へ大きく揺れだし、しかもどこからか大きな金ダライやヤカンがガランガランと落ちてきた。 それまでのんびりと退屈と平和を満喫していた豪華客船は原因不明の大揺れにより一瞬にして悲鳴や鳴き声と共に緊急避難放送と共に阿鼻叫喚の世界となった。 「お前な...状況を考えて言えよ...」 まだ周囲が走り回る中、船の揺れが収まってきたところで一人被害を免れていたスコールがカウンター下から出てきて呆れたようにクラウドに言った。 「あいつ"ほうちょう"と"みんなのうらみ"以外の技があるんだ...」 ウッカリとトンベリの地団駄に巻き込まれ頭にヤカンが落ちてきたことに驚きつつも、技名『地団駄』というにはあまりに可愛い、失敗スキップのような動きに”もう一回見てみたいかも…”などと、阿鼻叫喚の状況を無視してクラウドは思っていた。 そしてもう一人、同じく状況を無視したバカンス中の男… 「いいだろ、アイツはトンベリの"キング"だからな! 伊達にアイツを手に入れるためにディアボロスにトンベリを30体倒させたわけじゃない ...ちなみに今、アイツは俺の中で思いっきり俺を罵っている。ありがとう、クラウド」 「え、トンベリの言ってた仲間をたくさん虐めたっていうのはヴィンセントのことだったのか!?」 意識的にスコールの嫌味と睨みを無視して元仲間の話に変えた。 「そう。トンベリはやたらとHPが高いから割合攻撃のディアボロスに任せて倒し続けた トンベリが多く生息する島でトンベリを延々と倒し続けるとトンベリキングが出現することがあるって都市伝説があって、やってみたら本当に出現した おかげでディアボロスはトンベリと同じ闇属性なのにトンベリに嫌われてる」 「...そうさせたのはお前だろ」 「そこは仕方ない。それが召喚獣の仕事だしディアボロスも納得してる それにそうしないとキングが出現しなかった ジャボテンダーと同じだ。トンベリキングに会うためのステップ だが仲間になってもらったその後は俺なりに色々と召喚獣に奉仕してるつもりだ 俺は元々買い物なんか面倒で嫌いだが、キングの趣味に付き合って買い物に行くし、かったるい値切り交渉にも付き合う キング用の特注巨大ほうちょうもカンテラも造らせた あのほうちょうは相手に届けば威力絶大だが、そもそも届く前に相手が逃げてる 分かっていたがキングが欲しがってたから造らせた それにこの世界のマスタートンベリとかいうのに会いたいっていうから連れてきた 俺なりにキングを大切に思ってる!」 と、クラウドに説明する体で明らかに中にいるトンベリに聞かせているようだ。 恐らくまだスコールの中でご機嫌と王冠が斜めになったままなのだろう。 スコールは召喚獣達と接している時の方が人間と接している時よりもなぜか人間臭くなる。 「昔はマスタートンベリは、あの大空洞にいたんだ あそこがマスタートンベリの巣窟になっていて、アイツは頭の上に星が浮かんでてくるくる回ってた でも今回の”新種モンスター増殖”の依頼を受けて行った時には1体もいなかった 多分どこかにコロニーごと移動したか……」絶滅したか… 大空洞にしか生息しなかったレア種族。多分可能性は後者の方が高いと思う分、クラウドは言葉にはできなかった。 それがスコールに伝わったのか、それとも中にいるキングに伝わったのか…話題が切り替わった。 「ところでクラウド、昨日大空洞からミッドガルまで皆で乗ってきた黄金に輝いてたチョコボなんだが…」 見た目が普通のチョコボと見分けがつきにくいからバレないかもとクラウドは踏んでいたが、スコールは抜かりなくチェック入れていた。 『油断も隙も無いな!俺はコモーグリに触れなかったのに!』 チョコボの聖域を自分で教えておいて腹を立てていたスコール同様、クラウドも萌え心をくすぐるものに対する独占欲は限りなく高かった。 「海チョコボな…」 「海の上を走れるから海チョコボ?」 「まあ、そうだな。でも走れるのは海だけじゃない。断崖もも森林も、アイツが行けない場所はまずない」 「やっぱりこの世界でもアイツは希少種なのか?」 「うん、スーパーレア。アンタが伝説のチョコボの聖域を見つけたように、あの海チョコボも伝説だった これから行くゴールドソーサーにチョコボレーシングっていうのがあるんだが、そこでクラスB~Cに入れるチョコボを育てて、そのB~C同士をかけあわせる。その時に『カラブの実』で栄養をつけさせる カラブの実はゴールドソーサーのワンダースクエアの景品でしかもらえない で、そうするとレアな確率で山を登れる山チョコボか、川を渡れる川チョコボが生まれてくる その山チョコボと川チョコボをかけあわせる。その時にもやっぱりカラブの実で栄養をつけさせる。そうすると更にレアな確率で山も川も制覇できる山川チョコボが生まれてくる その山川チョコボとチョコボレーシングでAクラスのチョコボとかけあわせる。その時にはゼイオの実を与える。ゼイオの実はゴブリンアイランドのゴブリンからぶんどる事でしか手に入れられない で、そうすると超レアな確率で海チョコボが生まれる」 「なんだか…聞いてるだけで気が遠くなりそうな確率だが、それは掛け合わせを初めてから海チョコボに辿り着くまでどれくらいかかった?」 「掛け合わせを始めてからというよりも、何よりも苦労したのがチョコボを見つけることだった 見て分かっただろ?この世界は環境が悪い チョコボの数がそもそも少ない。野生のチョコボを見つけるのも苦労するのに、レースでBクラスに入れるようなチョコボに育てるのもカナリ難しい もっともBクラスを2匹以上見つけたら、あとは掛け合わせで山・川チョコボにならなかったとしても、レースで使えるし、Aクラスにまで上がる子もいるからいいんだけどな? でも捕まえるところから確率でいったら…10万工程分くらいだと思う」 「………凄いな…」 「まったくだ。お前らの頭がな」 阿鼻叫喚の船内がやや落ち着いてきたとはいえ、まだ船内やバー店内が滅茶苦茶になっている中、かまわず座ってチョコボ談義を続けている良くも悪くも目立っている2人に、皆の安全を確認しに来たサイファーが呆れたように言った。 「よー、一応聞いておくがよ。今の騒ぎはお前らのせいだろ」 「ああ、悪かった」 全く悪びれずにアッサリと答えるスコールに心底呆れたようにサイファーは一瞥するとバーから出て行った。 そして次のオーダーをしようとメニューを手に取るスコールに、今度はクラウドが呆れたように言った。 「オーダーが通るような状況じゃないだろ」 机や椅子やテーブルの上のものがひっくり返ったり壊れたりしながらバーの片隅に山と固まり、定位置にいるのは床から作り付けの椅子に座っている2人だけだ。 「ガッカリだ!」 そんな事を言うスコールを宥めるようにクラウドは溜息と共に言った。 「もう直ぐゴールドソーサーに着くから。降りる支度しようぜ?」 |