誕生12 「スコール!!」 リノアがスコールを血だまりの中から抱き上げた。 「スコール!!」 「スコール!!」「リノア!!」 亀裂の入った空間から出ようとした2人だったかが、その亀裂は鉄板のように動かない。 「下がっていろ」 セフィロスは再び呪文を唱え始め、正宗に魔法をかけ魔剣に変化させていた。 亀裂から声が聴こえてくる。 「やだぁ...やだよスコールゥ、置いていかないで...行かないでえええ!!」 血溜りの中で、もう何も反応しなくなってしまったスコールを抱きしめ号泣しているリノア。 「ねえ!!ねえ!!ねえええええ!!こんなの嘘!!嘘よおぉぉぉ!!!!! さっきの嘘!あれは違う!!違ううぅぅぅぅ!!! 私、っ、大丈夫じゃないよぅ!嫌ああぁぁ...やだああぁぁ!!いやあぁぁあぁぁぁああ!!!」 セフィロスの魔剣正宗が再び振り下ろされる。縦に2本の亀裂が入った。 リノアの声がもう少し近くに聞こえるようになった。 血塗れのスコールを血溜りの中で抱き締め続けるリノアも血塗れになっている。 「ねえ助けて、助けてぇ… ねえ、ねえ!ねえ!ねえぇぇぇぇぇ!!助けてえぇぇぇ!! 私、頑張ったよ!!また会えるって言ったじゃん!!こんなの嘘!!!!!!ねええ!!抱いてよぉ!!ねえ!!ねえ!!ねえ!ねえ!ねえ!!頑張ったよおおぉぉぉぉ!!!」 セフィロスの正宗が横に振りきられ、新たな亀裂3本目が入った。 「置いて行かないでえぇぇぇぇ!!誰に嫌われたっていい!世界中不幸にしたって!!恨まれたって平気!嫌われるのなんか慣れてる!!あなたさえいたら!!あなたがいてくれたら! こんなの嫌あああ!!ねえ!ねえ!待ってるって言ったよおぉ!!!スコールゥゥゥゥ!!嫌だよおぉぉ!!こんなの嫌ああぁぁぁ! 皆!誰もいなくなっちゃえ!!みんななくなっちゃえ!!みんな死んじゃえ!!世界中全部死んじゃえぇ!!スコール戻ってきてええぇぇ!! どうして私だけバケモノになっていくの!!どうして私なの!!こんなの嫌あああぁぁ!!嫌あぁぁ!!嫌ああ!嫌ああぁぁぁ!! 助けて!!スコール!!お願い!置いて行かないでえええええええぇぇぇぇぇ!!!! こんなのいやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」 リノアの断末魔のような叫と共に、スコールとリノアのいた魔空間に白濁がかかってきていた。 魔空間が閉じられようとしている。 魔剣正宗が4度目の亀裂を入れた時、丁度空間を四角に切り取るような状態になり、サイファーがその時空の境目を蹴り開けた。 魔空間はその時既に真っ白になっていて、サイファーが出ようとしたが、そこは真っ白な空間で何もなく、世界自体が無く、出る空間自体が無くなっていた。 「リノア!!!スコール!!スコール!!リノアーーーーーーーー!!!!!」 魔空間は閉じられ、タイムトラベルしていたはずのイデアの孤児院も現実の世界に戻ってきていた。 キスティスは泣き崩れていた。 サイファーは青ざめていた。 スコールは死んでしまった。 「やる事はやった。帰るぞ」 空気を読まぬセフィロスの堂々帰還宣言。 それはそうだ、セフィロスの裏ミッション『クソガキ死ね!』作戦は成功しているのだから。 セフィロスは上機嫌で帰還のデジョネーターを待っていた。 「キスティス…俺はどうしたらいい。教えてくれ、どうしたらスコールを救える? スコールもリノアも…………救うにはどうしたらいい」 世界の終わりのようにただただ泣き崩れているキスティスは返事どころか何も聞けない状態にいる。 「ハインの目的を変えればいいだろう。何を難しく考えている」 一般人が無能でダラダラと仕事が遅いのは、向こうもこっちも変わらんな!と、忌々しくもイライラしながら、早く帰ってクラウド攻略の新ミッションにかかりたいセフィロスは、サイファーたちが達成できないと分かっている答えを提示してやった。 「ハインの命が永遠なのは摂理。変えられない。ならば意思を変えればいい 害なのは時間圧縮とか人間に危害を与えるとかそういう類なのだろう? ならば何故そうするのか根本を突きとめてその考えを改めさせれば時間圧縮も危害も無くなる。単純な事だ だがそんなものはここにいても答えなど出ぬ!帰るぞ!(お山の)大将!デジョネーター!」 まだ涙が止まっていなかったキスティスはセフィロスの驚くほどの冷静さと頭の回転の速さに呆気にとられ涙が止まり、五里霧中だったサイファーは、まるで元の世界に帰る前にゴミでも捨てるかのようにポイと放り出されたセフィロスによるロジックに絶句した。 「な、なんだか簡単に言われちゃったけど、それしかないような気がするわ」 「あ、ああ...そ...か、もしれん...」 サイファーは困惑したように化粧が落ちまくって若干幼い顔になっているキスティスと視線を合わせた。 「とりあえず、帰るわ。早くスコールに報告しないと アイツも近々つってたから、自衛だけはさせておかないと」 「そうね。それと早くこっちに帰って来るように言って そんな危険に晒されてる人がバカンスだなんて馬鹿じゃないの! それとあの時スコールはお腹を怪我してたから防具を24時間外さないように言っ...あ...」 キスティスからディアボロスが出てきた。 『もう遅い。今見たものは未来ではない。今現在だ』 「え……」 サイファーから表情が消えたのを見て、ディアボロスの声が聴こえないキスティスがサイファーに通訳を頼んだ。 だが、サイファーは固まったままだ。 『エルオーネは時間移動をしていない 今のは私が次元をワープし、ハインの魔空間をお前たちに見せていた現実だ』 「お...お願い、ディアボロスは...な、なんて...?」 キスティスからまた大粒の涙が溢れ出す。 言葉は聞こえなくてもサイファーの反応に嫌な予感しかしない。 早く、早く通訳をして嫌な予感を払拭して欲しい。 サイファーの眼は見開かれたままだ。 『セフィロス、ハインの目的を変えるのは不可能だ。空っぽのまま生きてきたお前とは違う』 「そうか」 アッサリと答えるセフィロス。 自分が空っぽのまま生きてきた自覚もあり、スコールが死ぬのも想定内。何も意外性も無い。 とりあえず早く帰ってクラウドに会いたい!慰めてやらねば! 『セフィロスが星の崩壊を望んだのは本人の意思ではない 単にコイツの空っぽな器の中にジェノヴァの意思が入り込んだだけだ だから復活したセフィロス(器)が新しい"エネルギー(クラウド萌え)"で満たされている今は、星の滅亡などこやつには何の魅力もない だがハインは違う。ハイン自身が人類滅亡を望み、魔女に入り込み、寄生し乗っ取る 自分が作った人間たちが奴隷にならないのなら、そんなものは必要ない。抹殺する。揺るがないハインの意思だ だがキスティスもサイファーも気に病む必要はない、今はスコールよりもクラウドの方が心配だ スコールがハインに襲われた時、クラウドは一緒にいた』 「(お山の)大将!デジョン!!早く!!!」 元の世界への帰還を激怒したように急かし始めたセフィロス。 「は?」 まだスコールとリノアについて知りたいサイファーをセフィロスが殺さんばかりに怒鳴りつけた。 「早くしろ!デジョンだ!とっくにミッションは終了している!愚図愚図するな!!愚図!!」 「デ、デジョネーター!」 セフィロスのブチギレっぷりに怯えたキスティスがディアボロスをジャンクションし直し、元の世界に送り返した。 暫くの沈黙と波の音だけが続き…サイファーが言った。 「あの毒蛇野郎、マジでクラウド病だぜ。マジでキチガイだ…」 『そう言ってやるな。今、セフィロスが"星の壊滅"などと言い出さないのはクラウドの存在があるからだ 以前アイツがジェノヴァに取り込まれた時は、本当に星が崩壊と紙一重まで追い込まれた アイツの真の恐ろしさはジェノヴァの”力”じゃない、誰も追いつけない速さで回転するあの頭 もしそれが間違った方向に進んでいたとしても誰もそのスピードに追い付けないから、誰もアイツを止められない」 「......もう、クラウドが気の毒でならねぇ...」 『お前たちもセフィロスも子供の頃から戦闘の中で生きてきた お前たちには仲間がいたが、セフィロスにはクラウドに殺されるその時まで本当に誰もいなかったのだ アイツは常にただ一人、ジェノヴァ因子の実験材料として戦闘員として『神羅』という『会社』の命令を果たし続けた 期待されたものよりも遥かに上の成績を残すアイツに周囲は喜び、同じ人として見ずに次のステージへと上げ続けた 比べるもののないアイツは”そういうものだ”と受け入れていたが、アイツの絶対的存在価値であった戦闘で、言わば自分の眷属であるクラウドに負けたことでアイツのアイデンティティは崩壊した。 そしてライフストリームに30年間も閉じ込められているうちにアイツを育ててきた『仕事』が次々と削ぎ落されていき、最後に残ったものが「クラウド」だった。 クラウドには気の毒だが、天地が返ろうとも、死が訪れようとも、アイツは決してクラウドを手放しはしない アイツにとってクラウドはそういう存在だ ま、色々間違ってはいるがクラウドのおかげでアイツは少しづつ人間的感情が芽生えてきている。大目に見てやってくれ』 「......あっちの世界でクラウドは相当、気の毒だぜ?」 『知っている。見えている だが"感情"を持つこと自体がセフィロスには慣れない事なんだ 望まれ続けた『仕事』以外の事はまだ初心者、多くを望んでやるな 言ってみれば今のアイツは殻を破って生まれたばかりの雛鳥だから 親鳥のクラウドを追いかけまわすのも無理はない。……そう思っておけ』 「……とりあえずソレ、クラウドに言っとくわ…慰めになるかどうか…ならねーだろうが…」 「ねえ、サイファー。スコールは本当に死んじゃったの?ディアボロスはなんて言ったの?」 話がズレたまま戻ってこないことに焦れたキスティスが戻そうとした。 キスティスが聞くのはもっともだが、サイファーはどうしてもそれだけは言葉にできなかった。 認める事が出来なかった。 つい今までディアボロスと饒舌に話していたのに、その話になると黙りこくる。 どうしても返事をしないサイファーにキスティスがオロオロとしていたところ、突然そのキスティス自身がディアボロスの声で話し始めた。 『キスティス、混乱するだろうが申し訳ない。今、声にするにはこの方法しかない スコールは確かに死んだ。今、目の前で起きたことがリアルタイム、ハインの魔空間で起きた事だ だが、大丈夫だ。それで終わりではないから』 「終わりじゃない?」 サイファーが聞き返した。 『スコールに自覚は無かったがハインを抹殺するのは他の誰でもない、スコール自身だ 他にいない。それがスコールの宿命。そう成るようになっている 今、リノア(アルテミシア)は未来に飛んだが、あの魔空間が閉じられようとしていた時、リノアの中のハインはワープ先の次元を開いていたが、その時にリノア自身はスコールに力の殆どを移動させていたのだ。自覚無く だから未来に飛んだハイン(アルテミシア)には殆ど力は残っていない 本来なら死体に力を移すことなどできないのだが、スコールは元々の事情が違っている』 「違うって?体質が人間じゃねーとか?」 バトルスクエアでの戦いを見たサイファーが冗談めかして言ったが… 『その通り。昔、お前たちがガーデンに入って間もない頃、学校は酷い状態だった お前もスコールも毎日惨いリンチを受けていた お前はいつも盾となりスコールを守ってくれていたが、それでも守り切れない時はあった 仕方のない事だ。お前だって子供だったのだから あの頃、実はスコールは一度死んでいたのだ 過酷過ぎたリンチに幼すぎる身体が負けた だが死ぬその直前、違う次元で1体の召喚神が誕生しようとしていた…が、消えていくスコールの命に次元の壁を越え、生まれ出る召喚神が共鳴し、引き込まれてしまった そしてスコールは命を繋ぎ、召喚神は命を失いスコールの体と融合した その時からスコールは実は半召喚神のような体質だったのだ だからどんな召喚獣とも相性が良かったし、声も聞けたし交流もできた。人並み外れた力も出した そして本来なら死んだ者への力の移行などできないが、スコールが死んだことによりスコールに命を預けていた召喚神が復活し、ハインの力を吸収した』 「ごめんなさいディアボロス、意味がちょっとわからないのだけど スコールは結局どこに行ったの?死んでないのよね?ハインを始末するのがスコールの役目だものね?」 『もう直ぐ始まる。次元を切り開いて見せてやる 我々召喚獣達はこうなる事を最初から知っていた。だから他の誰よりも多くの召喚獣達がスコールと契約した 我々はスコールと融合した召喚神が復活するのを永く待っていた その召喚神は唯一無二の能力を持つ者 召喚獣の為の召喚神 スコールは彼であり、今から生まれる神はスコール 復活!そして誕生が始まる!!』 ディアボロスが何かの呪文を唱えると、目の前に壊れた飛空艇と呆然と座り込んでいるクラウドが見えてきた。 |