誕生10荷物の搬入が終わったと連絡がありクラウドとスコールが飛空艇に戻ると、ケットシーから"お願い"をされた。 「すんませ~ん、スコールはん サイファーはんチョット貸してもらえまへんか~? ちょっとこっちで色々ありまして~、セフィロスを使いたいんですが今コイツ色々ありますやろ? カモフラージュにサイファーはんを同行さして欲しいんですわ~。どないですやろ?」 ケットシーが左右にビョンビョン飛びながら愛嬌を振り撒きつつ頼みごとをしてくるが、中の人はaround80な偉い爺さんだと思うと複雑だ。 スコールがサイファーを見ると、不機嫌全開で腕を組み完全に横を向いている。 一方セフィロスは興味なさげに"どうでもいい"という表情で立っている。 「コイツの使用権は俺じゃなく、今はクラウドにある。聞く相手が違う」 思わずサイファーのこめかみに青筋が浮かんだが、怒りでプルプル震えながらもなんとか堪えているようだ。 「俺もどうでもいいよ。人に迷惑をかけなきゃ」 テメーのその分かりやす過ぎる性格なんとかした方がいいぜ!と、サイファーは心の中でつっこんでいた。 「ほんならお借りしますぅ~ じゃあウチのヘリ待機させてますんで~、、、オマエラあっち行け!」 ケットシーが大きな手でバイーーン!!とセフィロスとサイファーの背中を叩いたので、2人はよろけながら出口に向かった。 サイファーを見送りながら風神が「頑張!応援!」雷神が「なんかわからんけどサイファー頑張るんだもんよ~!」と言った。 だがサイファーにとってあまりにも不本意なミッションらしく「っっるっせええぇぇぇぇ!!!!!!」と船外から激怒の怒鳴り声が聴こえてきた。 飛空艇から出て、リーブのヘリを操縦し発進させながらセフィロスが呟いた。 「高くつくぞ」 「……うるせえ…」 互いに顔を見ないままサイファーが返事をした。 「だが、クラウドを巻き込まなかった事だけは褒めてやる」 「っるっせえ、だあぁぁぁっっってろ!!!」 「全く、(お山の)大将は腐った言葉しか言えないのか」 リーブからの急な仕事の依頼...というのは実は嘘。 事実はその逆。 サイファーがセフィロスに依頼をし、それをクラウドに怪しまれないためにリーブからセフィロスに、セフィロスからサイファーに...という形にしたのだった。 「今のうちに髪を染めておけ。30分で空洞に着く」 リーブがセフィロスの変装用に用意したグッズをまさかのサイファーが使うこととなった。 サイファーはヘリの後ろへ移動し、先ず髪、眉を黒く染め、ジーンズに鋲が山ほど打ってある革ジャン・マッドマックススタイルに着替えた。 北の大空洞に着くと、下へ降りながら途中の泉で髪を洗い、最下層までたどり着いた。 セフィロスが1つ、重力マテリアをサイファーに渡した。 「失敗は許されぬ」 「わぁってる!」 サイファーは魔法マテリアの"離脱"をガンブレードにセットし、セフィロスに向けた。 「デジョン!バラムへ!!」 セフィロスは真っ暗闇の空間に吸い込まれていった。 するとどこからか雨の音、雷の音と共に馬の足音が聴こえてきた。 「ありがとうな...オーディーン」 召喚獣オーディーンを見ないままサイファーは言った。 『そんな言葉が言えるようになったのか。随分成長したな』 オーディンは自らのマントを広げ、サイファーをその中に隠した。 すると今まで何もなかった空間に真っ黒な空間が広がった。 オーディーンはその真っ黒な空間に向かって飛び込み、真っ暗闇の中を駆け抜け、やがて眩しく輝く真っ青な色が見えてくると、真っ直ぐそこへ飛び込んだ。 降り立ったのはバラムガーデン近くの海岸。 召喚獣オーディーンは消えていた。 セフィロスとサイファーだけが美しく真っ青に輝く海、白い砂浜に立っていた。 「あれか?」 セフィロスが指さしたのは、新しく建て替えられたバラムガーデン。 「ああ...」 自分が壊したバラムガーデン。当時は何の迷いもなかったが、今では愚かすぎて思い出したくもない過去になっている。 「ガーデンのセキュリティは厳しい。ただの部外者の俺らが近づけば厄介なことになる。、、どうしたもんか...」 サイファーが考えると、セフィロスが聞いてきた。 「お前、このガーデンの中にいる者の中で個人の電話番号を知ってる奴はいるか?」 「...いるが何年か前の番号だ。変わってたらアウトだ」 セフィロスが少し離れたところで海水浴をしていたカップルを指さした。 「奴ら...男の方に携帯を借りて、その知り合いに電話して外に出てくるように言え もし番号が変わっていたら仕方ない。ガーデン代表番号にかけろ 偽名で呼び出せ。声を聴けばわかるだろう 借りる時にくれぐれもあのカップルを脅すな 声をかけるのは男の方 友好的に笑え。怯えさせたら終わりだと思え 相手と連絡が付いたら、携帯の履歴から掛けた相手の番号を消しておけ 行け!」 セフィロスの的確な指示にイラついたサイファーだったが、その指示の根拠が自分でも分かったため従った。 若い男が女に声をかけたら、そりゃ片方の男が警戒、敵意を持つに決まってる。しかもサイファーはハンサムだ。マズイ方向に転ぶに決まっている。 サイファーは懐に持っていた帽子を目深に被り、カップルに向かった。 「すいませぇ~ん」 笑顔笑顔笑顔笑顔。 <<<俺は良い人。良い人。良い人。良い人。>>> サイファーは徹底的に自分に暗示をかけまくった。 カップルがサイファーの方を見た。 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 笑顔 「すみませ~ん。ボク、あそこから出てきたんですけど。携帯を中に忘れてきてしまったんです~」 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔でバラムガーデンを指す。 「あそこの学校を見学に来たんですけど、携帯忘れたのに気が付いて戻ろうとしたんですけど、あそこ出たらもう入れないんですね~! あのー、申し訳ないんですけど、1回だけでいいんで携帯を貸していただけませんか?中にいる人に忘れた事伝えてゲートを開けてもらおうと思って!」 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔 <<見ろ!この笑顔!友好的だろ!とっとと携帯よこせ!!>> 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔 サイファーは超笑顔にメッセージを込めて真っすぐニッコリと男を見た。 が、男は反応せず事態は悪い方向に転がった。 「あ、私のお貸しします。どうぞ」 女の方が携帯を差し出してきた。 駄目なパターン発動だ。ここで借りたら後でマズイ事になる。 「あのー、でも女の子の携帯はさすがに彼氏に申し訳ないんで...貸してもらえませんか?」 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔で男に好青年をアピール!とっとと寄こせ!! 「……しゃーねーな!ほらよ!」 男が近くに置いてあったカバンから携帯を取り出し投げてきた。 「すいません。助かります!直ぐに済みますから!ありがとうございます!」 サイファーは礼を言いながらさり気なくカップルから離れ、昔、何度もかけようとしたが結局一度もかけた事が無かった番号、何度も見過ぎて迷い過ぎて暗記している番号にかけた。 『…はい?』 「キスティス先生か?」 『……………』 「先生か!?」 『あなたまさか…』 「(名前を)言うな!聞いてくれ!今、バラムガーデンの外にいる。一人仲間を連れてる。直ぐに出てきてくれ!凄く重要なことがある!緊急だ!」 『…分かった。でも今すぐそこを移動して。誰にも見られないように …炎の洞窟がいいわ。今なら誰もいないはず。でも念のため洞窟の一番奥にいて。私は10分くらいで着くと思う』 「わかった」 サイファーはグギギギッ!と顔の筋肉を動かし、再びニッコリ笑顔を作ってカップルに振り向いた。 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔! <<俺は良い人!良い人!良い人!>>呪文を繰り返す。 笑顔で履歴を消し、笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔で男に丁寧に携帯を返した。 「ありがとうございました!助かりました!お2人の時間お邪魔してしまって申し訳ありませんでした じゃ!ゲートを開けてくれるそうなんで!」 笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔で手を振って、ミッションステージ1クリア! ダッシュ! 「おい、毒蛇!こっちだ!」 蒼く輝く海、真っ白な飛沫、白い砂浜...この美しい景色に輝く銀髪を靡かせる男。 色彩的にはこの上もなく調和している。が、、、、何故かそこだけが切り取られたように邪悪な空気を漂わせている。 スゲーな、このオッサン...健全な空気から完全に浮いてら!とサイファーは秘かに感心しつつセフィロスを炎の洞窟に案内しながら考察した。 男性モデルのようにエレガントな姿態に誰が見てもドハンサム!と言うであろう完璧に美しい容姿、世界のトップモデル・俳優だってこの男ほどは美しく整ってはないだろうってくらいなのに……なのに印象に残るのはいつだって"美形"でも"ハンサム"でもなく、"邪悪"とか"毒"とか"狂気"とか"恐怖"ばかり。 やっぱスゲーよ。伊達に世界征服とか意味不明なもんを目指したわけじゃねーな、と感心した。 今も白いシャツに黒いジーンズ、片手の指をジーンズのポケットにひっかけて何気なく歩く姿態を見ても...やはり醸し出しているオーラは邪悪。 尤もポケットに引っ掛けていないもう片方の手で出現する雑魚モンスター達をタガーでザクザクと面倒そうに片付けながら進んでいるというのもあるかもしれないが。 「ここはガーデンの生徒がSeed試験を受けるために習得しておかなきゃならない試験場だ 決められた時間内にこの洞窟最奥部に行って、置いてある札を取って戻って試験官に渡すんだ」 サイファーが炎の洞窟について説明すると、セフィロスが周囲を見渡しながら言った。 「出現するモンスターは雑魚だが、この環境は未成年が入っていい場所ではないな」 確かに...洞窟内は噴き出す溶岩の熱風で肌が焼け焦げそうなほど熱いし、歩く足場は狭いしその両側で溶岩がボコボコいってるし。 いくら弱いモンスターでも戦っているうちにうっかり足場が狭いのを忘れてしまうと、一瞬にしてあの世逝きになってしまう。 それに弱いモンスターといっても中にはボムもいる。 ボムに自爆をやられたら弱い奴はそれで終わりだし、生き残っても気絶で20分も洞窟内にいたらそれだけで火傷で死ぬ。 「ガーデンの傭兵教育はこんなもんだ 子供だろうが弱かろうが傭兵なんだから死んだら死んだ奴が悪い。ヤられたらヤられた奴が悪い ガーデンじゃ幼い事も弱い事も"悪"だ。...って、昔はそうだった。今は違うみたいだが ま、そんな学校だったからよ、当時のガキにゃーこの炎の洞窟は逆にありがたい、便利な場所だったぜ」 「...なるほど、ここが"都合のいい捨て場所"か」 「そう、とりあえずマズイモンは片っ端からここに捨ててた だがそれも何年か続けてたら学校が立ち入り禁止にしやがった その後暫くはマズイもんは海に捨ててたんだが、やっぱここ程は便利じゃねーんだ。色んなモンが浮いてきちまったり、人目があったり、音がしたり色々とな 結局ここの立ち入り禁止のブロックを壊してまた捨ててたんだが、そしたら今度は学校が24時間見張るようになりやがって、ったく、ロクなことしやがらねえ 結局最後には他人に罪をかぶせるっつー技を覚えた」 懐かしそうに周囲を見ながら昔を語るサイファーだったが、セフィロスはそこにスコールの姿を重ねていた。 あのどこまでも可愛げのない煮ても焼いても喰えない、捻じ曲がった性格はこういった環境で培われたのだな...と。 程無く洞窟の入り口の方からモンスターの絶命する声と、ビシッ!バンッ!という音と共に鞭を振るうキスティスがやってきた。 美しく整えられた指で長い一本鞭を優雅に操り、まるで鞭が生き物か何かのようにキスティスは歩みを止めずどれも一発で絶命させてきた。 「よう、先生!元気だったか!?」 「そちらの方は?」 キスティスは身長190cm近いサイファーより更に大きい銀髪の男の放つ邪悪な空気を警戒していた。 「こいつはクラウドのストーカー。ロクなモンじゃねえが、とりあえず今回の計画にはコイツが必要なんだ」 未だかつて聞いたことも無いほど最低の紹介の仕方にキスティスは驚いたが、紹介された方も興味なさげにシレッとしているので、そういうのがアリな人なのね...と理解した。 「計画?」 『久しぶりだな。セフィロス』 突然キスティスからスー...と召喚獣が1体出てきた。 「あ!てめえ!!俺から"英雄の薬"ぶんどりやがった奴!!」 サイファーがディアボロスに怒ったが、一方のセフィロスはその召喚獣を見つめたまま、何もリアクションを起こさなかった。 だが暫くしてから「あ」と小さく言った後 「お前、クラウドと同じパーティにいたバケモノ。赤いマントのヤツが変身した奴だな...ということはライフストリームのキチガイか...」 ディアボロスはガックリきた。 セフィロスとの付き合いの長さはクラウドと大して変わらないはずだったが、タークス時代は完全に忘れられ、クラウド経由で"赤いマントの奴"と認識され、カオスの姿はただ単に"バケモノ"更に"キチガイ"。 覚えていないにも程がある。 「とにかくそちらはクラウドさんのお仲間なのね。で、緊急事態って?計画って何?スコールに何かあったの?リノアが失踪したことと何か関係があるの?」 「そうだよ!先生!!スコールがもう直ぐリノアに殺されるんだ!!」 「は!?」 残念ながらサイファーは、スコールが死ぬという情報を聞いて以来正確に情報が耳に入ってきておらず、正確な情報を色々飛ばして理解していた。 |