喪失の向こう側8 レノは家事がオールラウンドでサッパリできず言葉も汚い上にウンザリするほどお喋りな奴だったが、基本プラス思考であることと、子供の面倒見が良く、エリアスのエネルギッシュギャン泣きにもめげなかった。(超音波泣きになると逃げる) 夜行性なので昼間は何の役にも立たなかったが、レノの(自称)バズーカが役立たずなせいで暇になってしまった夜が逆にクラウドにはありがたく、おかげでその間は大聖堂を離れて仕事をする事もアイアンホースとジョイントする事も出来て気分転換にもなり、意外にもレノとの生活は良い回転をした。 そんな日々が始まったある夜明け前、仕事を片付けたクラウドがアイアンホースで大聖堂に帰りつくと、エリアスを抱っこしたレノが”待ってた!”とばかりに怯えたように言った。 「よー、クラウド!お前の部屋、なんか物音がすんだけど何かいんの?超コエーんだけど!?」 悪魔が何言ってんだ、と睨みながら階段を上がりかけると確かに音がしていた。 部屋のドアを開けると…ここ数日で急激に大きくなってきていたセフィロスのマテリア…。 再誕した時は掌に乗る透明な翡翠色のどこから見てもマテリアだったものが、少しづつ大きくなるに連れ乳白色化し玉子のようになり、それからも成長し続け今では直径50cm程の楕円形になっており、見た目は少し緑がかった大きな卵になっていた。 もう身に着けておけない大きさだったので、ここ数日は部屋に置いて出かけていた。 外出前はタオルを敷いた籠に入れておいたものが、今はその籠は倒れ卵が床の上でクルクルと自転しており、部屋中のモノがカタカタと小さく動いている。 クラウドが一歩部屋の中に足を踏み入れると、部屋中のものが浮き上がり卵を中心にガシャーン!バターン!と飛び交い始めた。 「ギャーー!!ポルターガイストォォーーーー!!」 いつの間にかエリアスを抱っこしたレノも入って来ていた。 クラウドはレノを無言で押し返しドアを閉めた。 部屋の中にはクラウドと、部屋中を暴れさせる卵だけになった。 「セフィロス!」 諫めるようなクラウドの声に、飛んでいた物たちは一斉に力を失くした様にその場にガラガラと落ちた。 モノが散乱する中を卵に近付き触れてみた。 熱い。 「………」 卵を腕の中に抱き込み、部屋の扉を開け、外にいたレノからエリアスをもう片方の腕に受け取った。 「お疲れ、もう寝ていいぞ」 と、レノの返事を待たずに扉を閉め、部屋に籠った。 片方の手で抱いているエリアスに声をかけた 「エリアス もし意味もなくセフィロスが許せない時があった時は俺に言ってくれ 昔のセフィロスは色んな事を知らなさ過ぎて色んな奴らに利用され過ぎて........................そういうのも知ってたんだろうな…エアリスなら。 望まれる事は違っても、神羅に人権を無視して利用されていたのはセフィロスと同じだったからな… でもエアリスには大切に育ててくれた母親がいたし、管理してたタークスの連中も結構エアリスを尊重してた。…多分。 それにエアリスはザックスと出会えた。まあ、そういうのも全部彼女の人柄故だったとは思うけど でもセフィロスには何もなかった 誰よりも頭も良かった分、誰もアイツに追い付けずに、大切な事を教えられないまま、結果だけを要求され続けた。 エアリス 今度こそコイツが生き方を失敗しないように俺頑張るから、もしコイツを許せない時があったら親になる俺に言ってくれ 俺はコイツがあのセフィロスだって知っていて親になるんだ 頼むな?エア…エリアス」 想いを送るようにエリアスの額に自分の額をくっつけた時、もう片方に抱えていた卵が更に熱くなり、内側から眩い光を放ちはじめた。 光はどんどん強く眩くなり目を開けていられずクラウドがついに目を閉じた瞬間、微かな衝撃と共に腕の中が濡れる感触がした。 目を開けると…… 殻が割れてパラパラと床に落ちており、腕の中には眩く白銀に輝く翼が何枚も重なって丸くなっていた。 驚き目を見張ったままでいると、最初に一番外側の輝く翼がメリ…メリ…と花が開くように外側へ開いていき、翼は開ききってグンと反らし伸び切り、羽根の一枚一枚まで力を漲らせ、そしてバサッ、バサッ…と翼をはためかせた。 翼の大きさは1mくらいあり、腕の中には抱えられず床に置いた。 続いて2枚目の翼...そして3枚目の翼...4枚目...と、次々と翼が開いていき、眩い翼5枚が全て開き切ると...最後に小さな小さな...5cmくらいの人間の赤ん坊が姿を現した。 赤ん坊を包んでいた白銀の翼は、2枚が頭から、3枚が身体から生えていた。 「…やっぱり…人外か…お前ってやつは……」 セフィロス… 思わずそう呟いたクラウドに反応する様に 「ミーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 セフィロスが再誕の産声を上げた。 ミニマムサイズなので産声もまるで蚊の羽音のような超高音だった。 するとそれに連動する様にエリアスが 「ニ゛ィィイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 超音波で泣き始め、するとセフィロスが開花した翼の中で虫のように細い手足をうにゃうにゃと動かし始めた。 「ミィィィーーーーーーーーーー!ミィィィィーーーーーーーー!」 「わー…いきなり超元気」 エリアスもウゾウゾと腕の中で動き始め落としそうになり、抱き直したが「ニャーーーーー!!!」ひときわ大きく泣き始め、じたばた激しく動いたのであやそうとしていると、今度はセフィロスが翼を大きくバッサバッサと動かし浮き上がり始めたので 「あ、ちょ、ちょっと待て!まて、とりあえずお前、洗ってやる!生まれたてでちょっと色々汚ねぇ!部屋中が汚れる!」 セフィロスを洗うために部屋から出ると、扉の所で聞き耳を立てていたレノがクラウドの腕の中のセフィロスを見て驚いた。 「まだいたのか あ、だったらエリアスをチョット頼む。コイツを洗って来る」 「あ、あぁ…」 神々しいヒトデを裏返した様なモンスターに気圧されつつレノはエリアスを受け取った。 クラウドは風呂場でセフィロスを洗いながら 「しかしコレ、服はどうしたらいいんだろうな...頭はともかく肩から腰までこれだけ大きな翼が生えてたんじゃぁなぁ...それに本体が5cmくらいか......うーん...............とりあえずティッシュペーパーを巻いておけばいいか...好きなだけ使えるしな」 差し当たった今後を考えながら撫でるように洗っていると、段々と翼が小さくなり皮膚の中に吸収されてゆき、逆に身体はどんどん大きくなって最終的に翼は消えてなくなり、人間の赤子と同じ体型、大きさになった。 「……お前の身体、一体どうなってんだ?……いや、人の事言えないか…俺も出た翼は体の中に戻るし でもだからって本体がデカくなるなんて事はないぞ!お前、風船かよ!」 クスクス笑いながら語り掛けながら産湯を浴びせるクラウドの手の中で、セフィロスは気持ちよさげに歯の生えていない口をパクパクさせ小さな手をうにうに動かしている。 「セフィロス、この世界には"普通"が無い 部族がたくさん混在しすぎてて『異質』ってものが無いんだ だから俺達にはこの世界は凄く生きやすいぞ? この世界は悪魔や魔物や傀儡や獣人もいるから凄い美形がたくさんいるし、逆にスゲェ崩れてるのも怖いのもたくさんいる あ、それにドラキュラみたいに死体が動いてるみたいなのも、ゾンビ族だけど元気で陽気なのもたくさんいる だからセフィロス、お前も全然特別じゃない。うっかり羽根がバサァってなっても「ソレで飛べるの?」って聞かれて終わりだ。いいだろ! だからな、今度こそちゃんと自分の道を歩こうな 色んな事をちゃんと1つ1つ受け入れていって、少しづつ成長して… 昔みたいに"宿命"や”血”なんてものに振り回されて終わってしまわないように ………俺の残りの人生をやるから 俺、そう決めてここに来たんだ だからセフィロス、今度は自分を投げるな 今度お前がお前の人生を捨てた時、お前は俺を捨てたのと同じになるんだからな!よーく覚えとけ!」 クラウドの手の中で産湯に浸かるセフィロスは変わらず気持ちよさそうに、何かを訴えているかのように口をパクパクさせながら「あぐあぐ」言っている。 「よっし!キレイになった!NEWセフィロス爆誕だ!俺たち頑張ろうなー!」 クラウドはセフィロスを高い高いし、赤ちゃんセフィロスは楽しそうに手足をウニウニウニウニさせた。 翌日からエリアスとセフィロスを抱えながらのベビーシッター&デビルハンター生活が始まった。 が、これが想像よりも遥かに大変だった。 エリアス一人でも我慢・体力・気力の限界を試されているようだったのだが、エリアスとセフィロスが揃うと… 予想はしていたというか、2人の相性が相当悪いらしく互いに競うように主張する。 エリアスの世話をすればセフィロスがギャン泣き、セフィロスの世話をすればエリアスがギャン泣き 片方が泣き始めるともう片方も負けじとさらに大きい声で爆泣き、何故泣くのかに理由を聞いても当たり前に返事は無く爆泣き、そこから超音波泣きにレベルアップ、更にはひきつけにジャンプアップ。 もう何で何に謝ってるのか分からないが、とにかく爆泣きレベルがアップするごとに2人それぞれに謝ってご機嫌をお伺いしながら抱っこからの色んなお守りパターンを試しまくる。 それまではエリアスくらい我儘でエネルギッシュで主張が激しい子はそうそうはいないと思ったが、産まれてみればセフィロスも全然負けていない。 とにかく凄い。強烈。 爆泣きを苦心してあやして泣くのを止めさせても、30秒後にはハイハイで2人がそれぞれ思いもしない場所へ移動し、そこにあるものを壊したり逆に怪我しそうになったりしている。 思いっきり爆泣きをする2人に振り回されまくり、あやす方が半泣きになっている。 こんな事ならモンスターハンターの方が遥かに楽だ。バトルは勝てば敵はいなくなってくれる。エリアスとセフィロスには終わりがない。 それでもなんとかやっていけたのはスランプ中のレノが夜の子守りを引き受けてくれていたからだった。 レノは悪魔の子エリアス、そのエリアスと互角のパワーを持つセフィロスも、放っておいても勝手に成長し独り立ちできるのをよく知っている。 それでも地獄のような育児を放棄することはなかった。…交代時に立て板に水の如くギャーギャーと際限なく文句は言ったが。 そうしてキャッチボールのようにレノと交代しながら半年が過ぎるころには、レノが当番以外の日には夜な夜な出かけるようになっていた。 どうやら(自称)レノバズーカが復調しつつあるようだった。 「ファーーー!!ミニ魔王たちから解放されたぜーー!」と、ウキウキとシッポをヒュンヒュンとプロペラ状態で回転させながらいそいそと出かけて行く後姿は、共に育児で天国と地獄を見ている者としては頼もしくもありがたくも映ったが、レノが塒(ネグラ)を大聖堂から移す気配がないのは不思議でもあった。 復調したのなら戦闘力のないレノにとって大聖堂は危険な場所でしかないし、ミニ魔王達の世話をする必要もない。 しかも魔界の生き物なのだから魔界にいる方が快適なはずだ。 なぜ未だに大聖堂に留まっているのか。 そう思って聞いても何故かレノはヘラヘラと話を逸らし答えなかった。 しかし意外にもその疑問に答えをくれたのは、デビルハンター師匠のレディだった。 ただし 「チョット…アハハ、今まで知らなかったのォ~?アンタ、、ホント、アハハハ、アンタのアタマは本物の飾り物ね!アハハハ!ウマイ事言っちゃった!」の前置きがあった。 魔界通のレディによると、レノは元々単にスランプで破門にされたわけではなく、何か大元の悪魔にトンデモない事をやらかしての大逃亡中で、未だに抹殺指名手配は解かれておらず、復調した今ははぐれインキュバスとしてこっそりと魔界と人界を行き来し仕事を始めているしかった。 レノが大聖堂に来た理由はクラウド、そして未だに残っている理由もクラウド。 戦闘能力の無いレノは追手から安全地帯を探し逃げまわるのではなく、危険な場所でクラウドを盾にしているらしかった。 「当のアンタが気付いてなかったことに爆笑よ!アハハハハ!」 手をパンパン叩きながら笑っているレディだったが、ただ、「あぁ、レノらしいな…」と思った。 重要な事はレノがミニ魔王達の子育てを助けてくれていること。 レノがいなければミニ魔王2人も育てられない。 子育ての大変さに比べれば大聖堂に結界を張ることも駆除することも、物の数ではない。 それに元々自分も大聖堂廃墟に勝手に住み着き、勝手に水光熱関係を立ちあげ生活をしている。 同じなのだ。レノと自分は。 はぐれ者同士。 そんな平和な戦いの日々が過ぎてゆくある日の昼下がり。 車の助手席にマリー。後部座席には2体のミニ魔王。 いつもは学校への直通バスが出る駅まで送り迎えをしていたが、この日だけはそこを飛ばして学校の門に向かっていた。 マリーが神学校へ転校して約半年が過ぎ、ついに学生寮に入る事となった。 「いつでも帰って来ていいからな?」 寮生活の話が出てからは心配してばかりのクラウドに、マリーは困った様に笑った。 「もう!大丈夫!学校に友達もたくさんいるし、良い先生もたくさんいる。嫌な先生もいるけどね?」 繊細で気弱なマリーには寮生活への不安はたくさんあったが、それでも自分以上に繊細な人に逆に心配をされてしまうと『大丈夫!』と笑う以外に無かった。 寮に入る目的は”より深く神学を勉強するため”が、聞かれた時に答えるマリーの用意している答えだった。 嘘ではない。実際それが目的で理由もある。 だが決して言葉にはしない本来の目的があった。 神学校に入り、マリーが体験した我慢のならなかった事。 学校内一部の先生や生徒達がママ、”レディ”を"堕ちた女"の代名詞のように使っていた。 レディの巫女の起源は、ダンテの父親にして悪魔スパーダが魔王ムンドゥスに反旗を翻したところから始まっていた。 悪魔スパーダは人々を喰い散らす魔王ムンドゥスから人々を守るために孤軍立ち上がったが、その戦いに命を投げうち協力した巫女がレディの曾祖母だった。 その血筋であるレディや母親、祖母は教会の中では『人々を救った英雄スパーダと共に戦った巫女』という他の巫女たちとは一線を画した”聖なる巫女”と位置付けられていた。 そしてレディの母は司教と結婚し、2人の間に誕生した”レディ”は教会トップエリートの看板を、生まれた時から背負い英才教育を受け育っていた。 ところが若くして司教まで上り詰めたレディの父親の真の目的は、悪魔スパーダの力を我がものにすることにあった。 ある日、発狂した体を装い父親は妻を殺し、その”聖なる巫女”の血を身に浴び、法王、司教他周囲の教会関係者を惨殺し、更に無関係の多数の人間も殺し、悪魔スパーダの息子バージルと共闘を組み、スパーダの力を手に入れた。 だが元が人間であった父親に悪魔スパーダの力は制御できず、元よりそれを読んでいた悪魔バージル、その兄弟ダンテに追い詰められ、最期にレディ自身が父親にとどめを刺した。 その後、悪魔ダンテはデビルハンターとなり、兄弟バージルは魔界へ落ち、レディは巫女からデビルハンターへと転身した。 だが、どんな相手であれ命を散らす職業であるモンスター・デビルハンターは教会では卑しく汚れた職業と位置付けられている。 今現在も教会就きのモンスターハンター・ネロが表立って認められていないのはそうした背景がある。 ”レディ”を嘲笑う巫女たち。誰もが羨んだエリート巫女が堕ちるところまで堕ちたと罵る一部の教会関係者たち。 そういう奴らは大抵場所を選ばず、まるで軽い世間話でもするようにレディの”転落”ぶりを唾棄し「ああなるなら死んだ方がマシ」と嘲笑する。 それを耳にする度にマリーは身を隠し、彼らが信じる神を呪った。 神はママを救わなかった! ママは今も毎日、弱い人間達を守るために戦ってる。 ママの体は傷跡の上に傷跡が重なる武者のもの。それらが誇らしくはあれ間違っても軽蔑されるようなものではない。 なのに囲いの中で守られてる奴らが何を以て罵っているのか! なんてくだらない世界!なんてくだらない神! 神は誰を赦し、誰を救わずにいる!守るべきはこんな奴らじゃない! こんな汚れた愚かな奴らの賛美に何の価値がある!?そんな奴らに奉られている神なんてどうしようもなく偏って、愚かで傲慢で有害だ! 毎日賛美させられる神様を心底、我慢ならないほど軽蔑していた。 神や信仰を勉強すればするほど吐き気がするほどに嫌悪感が増した。 早くママとクラウドと一緒に戦いたい! だから今!できることは口だけの賛美歌を繰り返し繰り返し歌い、勉強しながら奉仕する事! 必ず帰るから!できるだけ早くママとクラウドのところへ! 「マリー、疲れたらママも俺もいつでも待ってるから、いつでも電話してこい。いつでも待ってるから」 いつの間にか校門前に車が停まっていた。 高い塀の向こう側は"神学校"という高い塀で囲われた、神が法律の特殊世界。 一歩この車を出てしまえばあの世界に飲み込まれる。 誰にも秘密の裏切者でい続けなければならない。 大嫌いな神。ママを救わない汚れた神。 毎日私の汚れた賛美を受け取るがいい。 そして私はデビルハンターになる。 役立たずの神!お前なんか悪魔と変わりない! 「大丈夫だよぅ、クラウド心配しすぎだよぅ」 上手く笑えないのに気づかれないように車を降り、正門に向かう。 これからが戦いの本番。 「マリー」 「ん?」 「帰って来れなかったら、せめて電話をしてくれ。"声が聴きたくなった"だけでいい エリアスやセフィロスの成長が見たくなったらいつでも見せに来てやる 俺やママはいつだってマリーと繋がってる、いつだってマリーからの連絡を待ってる。ずっと待ってる マリーが殺人犯になっても、モンスターになっても、ビッチになっても、俺達はいつでも待ってる 忘れないでくれ」 「クラウド酷いよぉ」 あまりに悲観的な言い方に笑ってしまう。 「ママも俺も、マリーが泣き虫の甘ったれだって知ってる 荷物が重いと思ったら一人で抱えるな。それだけは絶対に、絶対に約束してくれ 俺やママや皆、マリーがどんな悪い子になっても待ってるから!ずっとずっと待ってる!」 「だいじょう...」大丈夫だよぅ!と言おうとしたが、もう、クラウドがあまりにも泣きそうな顔をしているから、つられて泣けてきてしまった。 「じゃあね!」 泣いてるのを見られないように門を潜った。 クラウド、大丈夫だよ。 私は絶対に負けない。だってママの子だもの! いつかママとクラウドと一緒に仕事するために!今は一人で頑張る! ある日の夜明け前、モンスターハントから帰って来たクラウドは、子守りに疲れ切ってヘロヘロになっているレノに以前から気になっていた事を聞いた。 「お前は人間界と魔界を行ったり来たりするんだよな?」 「そうだぜ~」 レノの疲労困憊な様子からいって2人は今日もオールナイトでエネルギッシュだったらしい。 それだけ騒ぎ続ければ昼間は大人しくなってくれるのではないか…と期待をするが、昼間もガッチリエンドレスでエネルギッシュに仲が悪い。 これが赤ん坊というものか、臨界点スレスレのエネルギーが全く尽きない。 「だったらダンテに"依り代でも何でもいいから早く戻ってこい!とっとと帰って来ないとエリアスの滅茶苦茶可愛い時期が終わっちまうぞ!"って伝言してくれ 確かにコイツらの相手は大変だけど、この時期を見れないのはサスガに親として可哀想だろ」 ダイニングの椅子にヘロヘロになったままだらしなく座るレノに言った。 「あー、それは確かにそうだけどよ、俺ぁアイツとは関わり合いたくねぇから それに魔界にはこっちの世界を視る鏡がいくらでもあるからいいんじゃねー?」 「え?こっちを視れるのか?」 「ああ、奴らぁ好きな時にコッチを覗いてる それにあの野郎、超絶凶悪なんだぜ!特にインキュバス族には最低最悪の野郎だ! 目が合っただけで"目が穢れた"ってぶっ殺しやがる。しかも30秒後には殺したことすら忘れてる 奴らにとって俺達ぁハエ以下だぜ…あのゲスインポ野郎が! ちなみにサキュバスには真逆。ケツ追いかけまわしやがって仲良しこよしだ。クッソムカつく…」 インキュバスは理想のタイプに自動的に視えると言っていた。 それが嫌い?…でもサキュバスは好き?…ということは… 「インキュバスの能力は悪魔には通用しないってことか?」 「ちゅーよりも、インキュバスの能力は男にはアンマシ効かねぇんだ インキュバスもサキュバスもヤりまくりてぇ理想の相手に視えるってのは同じだが、男にはそこにインキュバスの正体が重なって見えるし、それが高等悪魔になるともっとハッキリとインキュバスの正体の方が見えてる でも女にはインキュバスの正体は見えてない サキュバスの場合はその逆な。男には正体は見えない てかお前も見えてるんじゃねぇのか?俺の角とかシッポ」 と言いながらレノは自分の真っ赤な頭からピコピコッと生えている小さな可愛い角をテンテン、と触って見せた。 「ああ、うん。見える」 「俺様の真の姿は高潔なる蝙蝠系の姿なんだが、ダンテには理想の女が玉と竿付けてるのが我慢ならんみてーだ …ったく!そんなんで殺されたんじゃ、たまったモンじゃねーっつの!」 「…理想の女にそんなモノが視えたら嫌だろ」 「ボーーーシェッッッ!!! だっって俺、理想の女だぜ!!?そこに玉付きバズーカが付いてたら愉しみ増えたぜ!ヤッハー!くれえ考えるだろ! 俺は考える!!!」 「………お前って…」どこまでプラス思考なんだ... 「とりあえずレノ、嫌でも今のうちにエリアスの連絡係でも何でもやってダンテに恩の一つでも売っておけよ アイツは魔界のトップになったんだろ?でもってお前ははぐれインキュバス いつまでも殺されるのを怯えるよりも早めに恩を売って、魔帝の懐に入り込んでおいた方がお前の立場も良くなるし、安心できるんじゃないか?」 ジッ……と、クラウドを見つめたレノ。感嘆したように言った。 「お前、見かけによらずたまに頭いいな!!!」 レノの本音ダダ洩れ過ぎの誉め言葉に、クラウドもつい言い返した。 「お前はどんな時も俺をディスるのを忘れないな!クソレノ!」 |