喪失の向こう側4 「こんな食事、生れてはじめてよ…」 朝日が眩しく差し込むダイニングルーム。 レディとマリーそれぞれの前にはシャキシャキ野菜たっぷりのサラダ、ドレッシングはオリーブオイルとレモン、ブラックペッパー、クレイジーソルトを使ったクラウド特製のもの。 牛乳入りフワフワトロトロのスクランブルエッグはマリーのリクエスト。 朝帰りのレディにはサニーサイドアップのオーバーミディアムを2つ。そして焼き目を付けたベーコンとソーセージ。 「アンタが寄越した料理本見て作った。明日はパンも焼いてやる」 「パンを焼く!?マジで!?」 「クラウドぉ、おいしいよぉ!」 マリーが頬を紅潮させ、床につかない足をパタパタさせフォークを持ってフルフルしている。 そのマリーの頭を優しく撫で、微笑んだ 「学校から帰ってきたらおやつ作ってやる 何が食べたい?」 信じられない言葉を言ってくれる可憐なお兄さんをマリーは瞳をキラキラさせながら見つめた。 朝食、それはシリアルと牛乳。 朝食、それは食パンとジュース。 朝食、それは昨日のデリバリーの残り。 朝食、それは「あー、冷蔵庫何もないわねぇ。学校行く途中でどっかお店に入りましょう」 そういうもの。 ところが目の前の素敵な朝食、こんな素敵で美味しいものはどこのお店でも見た事が無い。 「あ、あ、あの、あの…プ、プリン?」 本当にできる?言えばできちゃうの?と可憐なお兄さんの反応を見ながら言ったところ、ニッコリと頷かれてしまったので、「と、イチゴゼリーと、クッキーと、イチゴケーキと、アイスクリームと…」 好きな物を全部言い始めたところ、「マリー」と微笑まれ止められた。 「そんなに食べたら夕飯食べられなくなるだろ?1個! 明日また違うの作ってやるから」 「はわわわ…」 信じられない!本当に?本当に!?マリーは瞳をキラキラさせフルフルフルフル戦慄いた。 ママは大好き!最高のママ! だけど掃除もお料理も片付けも全然できないから、マリーがやらないと家がどんどん汚くなっていって、食べ物も何も無くなってしまう。 なのに! つい先週まで死体だった可憐なお兄さん!動き始めたら休み無く家中掃除し始めて片付け始めて動きが止まらず、朝起きたら家中ピカピカ!ウチがこんなにきれいだったなんて!嘘みたい!よその家みたい!! それだけで十分感激してたのに、こんな、こんな、今までに食べた事も無い美味しい朝食が出てきて!プリンまで作ってくれる!!夢のよう!! 「はわわわわ……」 娘のそんな姿を横目で見ていたレディ。 「……まあ、あれよ。私、料理下手だし。興味もなくてさ、クラウド、あなた良い奥さんになるわよ 私の嫁になんない?」 「ならない。これは仕事だからやってる。俺だって一人ならこんな事はやらない あと、マリーがまだ子供だからってのもある、子供は清潔な家で過ごした方が良いし色んなものを食べた方が良い それからアンタは"料理が下手"ってレベルじゃない」 「うん、まあ、そこんトコは否定はしない でもそんな事よりも、あなたシッターを仕事にしたら? ダンテのトコももう直ぐ生まれるし、ここまでできるならシッター兼ホームヘルパーになった方がモンスター退治なんかやるよりも相当儲かるわよ」 「金は生きていけるだけあればいい でも、迷惑かけて悪いけど、俺もモンスター退治に同行させてくれ 弱いままなのは駄目だ」 「うん、まあ……うん……」 口には出さなかったが、実はレディも娘のマリーとは違う意味で驚いていた。 ベッドで生き死にを繰り返していた時のクラウドは、あまりにも可哀想な被害者だった。 どんな壮絶な虐待を受けてきたのか胸が締め付けられ見ていられないほどに、あまりにも憐れな悲鳴をあげ、許しを乞い、解放を乞い、魘され続けた。 ところが意識が戻り回復してみれば、意志が強く意見を曲げず、かなりプライドが高く、悪魔であるダンテにもひるまない勝気さで、まるで別人。 眠っている時のあの哀願、悲鳴は何だったのか……人格が違い過ぎる。 「ハッキリ言って迷惑よ あなたがいる限りタフな現場には行けないし、あなたを早く帰さないとマリーが寂しがる まー、でもその分優秀なホームヘルパー兼シッターさんだからチャラでいいわ」 クラウドは返事として口だけで笑った。 朝食の後片付けが終わり、マリーを学校に送って行く前に自室に戻り、外出着に着替えた。 部屋を出る前にセフィロスの死体の変化を確認し、部屋を出た。 今日もセフィロスの翼が1枚減っていた。 残りの最後の1枚、背中の大きな翼が無くなったら完全人間型になる。 この世界の学校というのはクラウドの知っていた"学校"とはまるで違っていた。 人間・獣族・妖精・魔族・神族・傀儡など、種族があまりにも多いこの世界では、"通常"とか"平均"とか"多数決"とかいう概念自体が無い。 例えば"魔族"という種族1つだけでも、見た目・能力・階級等が無数に分岐している。 ツノのある者、ない者。そのツノ一つとっても形や大きさが無数に分かれているし、翼のある者、無い者、その翼も形、大きさ、材質等無数に分かれ、大きな悪魔、小さな悪魔、パワー系、頭脳系、肌の色も紫・緑・青・赤・ゴールド・メタル、また変身するタイプできないタイプ、更には目的別、陰魔・使い魔・詐魔・戦闘系、更に広げればもっとモンスター寄りになって生涯学校とは無縁の者、とにかく全て一個体として同じ者が存在しない。比べる対象がない。 だから”通常”も”平均”も存在しない。 ただ1つ、この世界には絶対の決まりがある。 「実力社会」 そして、この世界では魔族が一番の力を持っていた。 魔族の能力は種族によって大きく差がつく。 最も基礎値が高いのが高等悪魔と呼ばれる種族。 全てのステイタスが他者全てを圧倒し、通常時は人間と姿が似ているのが特徴で、バトルになると能力に応じて様々な形に形態変化をし、武器も魔法も自在に操る。 ただ姿が人間に似ていると言っても、頭、胴体、手足のつくりが似ているだけで一目で誰でも高等悪魔と人間を見分ける事はできる。 何故なら高等悪魔は不自然なほどに美しい。 まるで造ったように完璧な美しさで、この世界ではダンテがそれに類した。 その高等悪魔であるダンテがセフィロスを自分たちと同じ"悪魔"だと断定したのは、その完璧な造形美と跡形も無く形態変化をするところからだった。 高等悪魔と見た目は良く似ているが少し違うのがトリッシュの様な造魔。 高等悪魔は悪魔と悪魔、悪魔と神族が直接交わって生れたものだが、造魔は魔界から出られない悪魔が陰魔インキュバス・サキュバスを通して人間の種・腹を使って自分の眷属として創った悪魔。 造魔の能力は高いが形態変化もしないし使える技も高等悪魔に比べ少ないため、高等悪魔と造魔の間には"支配する者"と"仕える者"の超えられない階級差がある。 ただ高等悪魔ダンテと造魔トリッシュの場合は……様々な紆余曲折の末に超えられない階級差を超え、更に立場が逆転しているという特例でもある。 "魔族"以外にも"獣族"や"傀儡""人間"”神族””幻影”等が存在しているが、"人間"は他の種族に比べ、頭脳・身体能力においてどの個体もドングリの背比べで際立って良いわけでも悪いわけでもない。いわゆる"その他大勢""モブ""エキストラ"的存在だ。 ただ、人間族はこの世界で一番の実力を持つ魔族にとって特別な価値があった。 悪魔同士や悪魔と神族は相性が非常に悪く、トラブルも起こりやすく、万が一関係が続いても子供が出来る確率は更に低く、ほぼ不可能ともいえた。 故に悪魔同士のカップルであるダンテとトリッシュの間に子供ができたのは、不可能を超えた結果であり、この世界だけでなく魔界からもその誕生が待たれるほどの奇跡の子だった。 ただ、大抵の場合はそういった不可能に挑戦するものではなく、魔族は人間の身体を利用した。 人間の身体・精神・能力は、魔族にとっては喰うもよし、子作りの媒体にするもよし、玩ぶ(もてあそぶ)もよしの捕食対象として価値の高い種族だった。 「行きたくない゛い゛ぃぃぃぃ!!やらああぁぁぁ!!!」 マリーを学校の門まで送ってきたレディとクラウド。 車の中でぐずり始めたマリーを校門前で降ろそうとすると、癇癪を起し始めた。 「何なのマリー!今までこんな事なかったでしょ!!どうしたってのよ!!ホラ!先生に迷惑かけるから!早く行きなさい!!降りて!!」 「ギイィィィヤアァァァーーーーーー!!やらああぁぁぁ!!マリーもクラウドと帰るぅぅぅ!!クラウドクラウドクラウドオオオオ!やらあぁぁぁ!!!!かえるううぅぅぅーー!!!ギャアアーーー!!わああぁぁぁぁーーーーーーー!!!」 先生に引き渡すため、先に車を降りていたクラウドの足を掴んで離さないマリー。 クラウドはマリーの手を掴んで引きはがし、その手を持ったまましゃがんで目線を合わせた。 「プリン作ってやらないぞ?」 「プリンんんんんんんっっっ!!わああぁぁーー!!!うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!ひっひっ!ぎゃあーーーーーーー!!!クラウドもいっしょおおおおおお!!マリーも行くううう!!ひゃああああああ!!!!!!」 子供の声は高い。 それが耳元で大絶叫するので、クラウドは耳をハレーションさせながら、会話不能になっているマリーの両手を離し、今度は涙で濡れるその両頬を掌で優しく包んだ。 「マリー、マリー。俺を見ろ。マリー」 「やらやらやらああぁぁぁーーーーー!!!くらうろぉぉぉーーー!!!マリーもかえるうううぅぅぅ!!! わあーーーーーーーーーーーー!!!うわーーーーーーーー!!わああぁぁぁーーーー!!!やらやらやらあああああああああああああ!!がっこぉきらいいぃぃぃーーー!!!!!!」 自分が通らない我儘を言っているのは子供のマリーにも分かっている。 でも可憐なお兄さんと一緒にいたい。 一緒だととってもとっても素敵な気持ちになれる。 とってもとっても素敵な時間を過ごせる。 学校は甘えさせてくれない。 自分がしっかりしてなきゃいけない。しっかりしなきゃ直ぐにボロボロにされる。 素敵で可憐なお兄さんはいっぱいいっぱい甘えさせてくれる。 優しくされたい。甘えたい。守られたい。学校なんて大嫌い! 子供ヒステリーにブースターが掛かったマリーの頬を包んだまま落ち着くのを、クラウドは耳をハレーションさせながら辛抱強く待った。 やがてマリーが涙やら汗やら鼻水やらでダバダバに泣きながら、自分の頬を包まれている感覚に気が付きアブアブ泣きつつ目をチラリと開けると、クラウドが目の前で晴れた浅瀬の海の瞳で自分を見ていた。 海……クラウドのキラキラの海……きれい…きれい……クラウドの海… 「マリーのママはマリーのために毎日一生懸命働いてる もしママが"今日は行きたくない""気分が乗らない"って仕事を休んだらマリーはどうなる? ご飯、食べられなくなるぞ?プリンも食べられなくなる、それでもいいのか?」 「あひいぃぃぃ~~~~!!いじわるいじわるいじわるううぅぅ!!やだやだああ!!!プリン~~!!ぷりんつくるっていったぁ~~!くらうろうそつきぃぃ~~~!!はぶっ、らべるううぅぅ~~~!!いじわるううぅぅぅ!!プリンンン~~~~!!いじわるううぅぅぅ~~~~~~!!! やらああああああああああああああああああ~~~~~~!!!!!!」 マリーの超音波爆絶叫に気を失いそうになりながらクラウドは閃いた! 子供の耳元での絶叫は武器になる……! 「マリー、俺はこれからママの仕事の手伝いをする 手伝いが終わったらここに帰って来てマリーと一緒にスーパーに買い物に行く。それから家に帰ってプリンを作る だからマリーがここで我儘言うとママが働きに行けない。俺も手伝えない。 手伝えないからここにも帰って来ない。だからプリンも作れない それでいいのか?このままママの仕事を邪魔するか?」 マリーが悔し気に涙をボロボロ流しながら、へぶへぶあぐあぐいいながらクラウドの服を握っている クラウドは優しく指でマリーのベショベショの涙を拭ってやり、キレイに微笑み、優しく目尻にキスをした。 「マリー、帰ったら学校の話たくさんしてくれ。たくさん頑張るんだもんな?全部聞かせてくれ。それで一緒にプリン食べよう。な?」 ……ポカン...としてしまったマリー、ウッカリ...ピタッと涙も止まってしまった。 同じく呆気に散られている獣族の先生にマリーを引き渡し、 クラウドはレディと共に車に乗り込み、モンスター現場に向かった。 現地に向かう車中、レディが感心した様に言った。 「ロリキラーね、あなた」 「自分の娘をロリとか言うなよ…」 車を運転しながらクラウドが嫌そうに言うと 「褒めてんのよ。天性の保育士だって」 「子供は好きだ。ついでに母子家庭で頑張ってる母親も好きだ」 クラウドのその言い草に鼻白んだレディ 「やだ!あなた私にも色目使おうっての!?100年早いわよ」 「…あのな、も、って何だ!変な事言うな!俺は母子家庭育ちだからシングルマザーは応援したくなる!それだけだ!」 「ん?あなたあの銀の悪魔の造魔なんでしょ?創られたのよね?母親とかいるの?」 「造魔って………いたよ、普通に」 クラウドの瞳にフッと影が射したのに気が付いたレディ 「これ以上は聞かない方が良い?」 「……亡くなったからな」 「そう。じゃあ、代わりに私も嫌な事1つ教えてあげる 私の家族は亡くなった母と、血のつながらない娘のマリーだけ」 暫くの沈黙の後、クラウドがポツリと言った。 「俺、この世界が好きになれそうだ」 レディも笑って「何より」と頷いた。 目的地に着き 車から降りながら「そういえばあなたの得意武器は何?」 レディがトランクを開けながら言った。 「剣。特に両刃の斬馬刀は得意だ。」 「あらぁ、ダンテと同じの!?意外~!」 と云いながらレディはクラウドを手招きし、トランクの中を見るように言った トランクの中は銃を中心に様々な武器のバリエーションがあり、剣も何種類かあった。 戦闘員一筋で生きて来たクラウドでも、見た目は普通の車なのにここまで物騒なモノのみを積み込んだ車は初めてだった。 「使えそうなの選んで。斬馬刀はそのうち手配してあげる」 クラウドが適当な剣を取ると、レディが銃を3丁と、バズーカの様なロケットランチャーのような大きなものをガシャン!と取り出した。 「…ソレ、アンタが撃つのか?」 レディは得意気に 「これが私の一番得意な武器よ! ちなみに本当は車よりもバイクの方が得意 今日はアナタの分の武器も必要だったから車にしたけど、アナタバイクは乗れる?」 レディがアクションでアクセルを回す仕草をしながら聞いてきたので、クラウドは"もしかしたら操作はそんなに変わらないかもしれない"とは思ったが 「俺のいた世界でのバイクなら得意だったけど、まだこっちの世界のバイクを見たことないから分からない」 「そう、じゃあ明朝私のバイク見て乗れそうだったらアナタに新しいの1台買ってあげる それで今度からは現場に行く」 「俺の知ってるバイクはカナリ高いんだが」 「そうね、私の知ってるバイクもカナリ高いわよ」 「そこまでしてもらっても…」 「へえ?じゃあアナタ、私とタンデムしたいの?」 「嫌だ」 「即答ね」 「前の世界でも、今までもそうだった。俺はタンデムはしない」 「なるほど、アナタは私のバイクの後について走って現場まで行くのね? ちなみに普通に130kmは出すけど」 「買ってくれ」 「最初からそう言えばいいのよ。面倒くさい子ね!」 ……そうなんだろうか……今の、俺が面倒くさい事を言ったのか?と、イマイチ納得できないまま前を行くレディに続いて少し傾斜のある荒廃した地を登って行った。 小山を登りきったところに廃墟があり、開きっぱなしだった大きな扉を通過した途端1匹のモンスターが襲ってきた。 レディがそれを難なく撃ち殺すとモンスターの姿は散り消え、代わりに赤い何か、、気体のようなモノの塊と緑色の同じく気体の様なものが残った。 「クラウド、その赤いのと緑色に近づいてみて」 クラウドが近付くと、その赤いのや緑色はスーッとクラウドに吸収された。 驚いたクラウドだったが、意外にもレディも驚いているようだった。 「なんでアンタが驚く?ナニコレ」 「赤いのはレッドオーブ、モンスターの血が結晶化した魔石の元のようなもの。集めてこの先に時空神像があるからそこに入れると武器や自分自身をパワーアップができたりするの こっちのグリーンオーブはモンスターの体液が結晶化したもので、これも魔石の元のようなもの。これは体力回復に使える。 これはね、人間には吸収できないの」 「…………」 人間には吸収できない。 でも今、吸収した…… 「人間がこれを集めるには道具が必要なの。こういう専用のね」 と、レディは嵌めていた籠手を見せた。 「何も付けずにこれを吸収できるのはダンテやトリッシュみたいな魔族か、モンスターか、時々吸収できる傀儡もいるわね で、あなたは吸収できる! ってことは、あなた今は人間のステイタスでもやり方次第で魔族並みに伸びる可能性がある 育成が楽しみになってきたわ!」 そう言いながら更に奥に進んで行き、モンスターを2人で退治しながら、レディはオーブをクラウドにのみ吸収させた。 遠慮するクラウドにレディは「この世界の初バトル祝いよ。素直に受け取りなさい」と笑った。 レディの戦闘能力はクラウドの知るソルジャー1stレベルだった。 俊敏性や判断力や胆力や、体力や身体能力、何もかもが自分の知っている人間の領域を超えている。 「こっちの人間は皆アンタくらい強いのか?」 「まっさかぁ!この世界の人間全ての中でも私の戦闘能力は3本の指に入る自信はあるわ。男を含めてね でも私が最も自信があるのは戦闘力じゃない!」 ニッと悪い顔をして笑ったので、嫌な予感がした。 「私が一番自信があるのは、全てにおいてのクールな判断力!そして!セックス!!」 凄いキメ顔で言われ、クラウドはただ溜息を吐いた。 「アンタさ、ホモよね。しかもネコちゃん専門 もっと言うなら今、不能?」 レディが何でもない事の様に普通にサラリと言った。 聞き間違いか?と思ったがに聞き間違いじゃないと判断した後に絶句して固まったクラウドを、レディは何でもない雑談をする軽さで追撃した。 「ウチで生き死にを繰り返してる時に何度も何度も何度も何度もずっと、ドバドバ泣きながら許して許して、ごめんなさい、ごめんなさいって延々魘されてたわよ アンタさ、結婚してた男と不倫してた?それとも兄弟か何かとしてたの?それで相手の妻にバレた?奥さん自殺とかした?あの魘されっぷりだと、長い事誰ともマトモなセックスできてないでしょ。そりゃー、あれだけのトラウマ抱えてたらできないわよね どうせバイクでタンデムできないってのも同じ理由なんじゃないの?自分は汚い?」 あまりに軽く言われたものの、その内容はクラウドの心臓を貫き、息をするのも忘れ、無意識に口を開け震え始めた。 「何があったかこの際どうでもいいけど、この世界じゃ不倫もレイプも性虐待もどこにでも溢れてる日常ネタよ ま、生活していけば分かるけど、悪魔も獣もモンスターも傀儡も混在してる実力社会 人間は力も無いし悪魔にとったらおいしい餌よ。魔族や獣族は気まぐれに喰い散らす 無知でバカで弱い人間は殺されても犯されても搾取されても利用されても文句は言えないの 人間が弱いのは最初から分かってる 餌として生まれてきたんだもの。喰われたくなきゃ少しでも早く賢く聡く強くなればいい アンタの世界がどうだったか知らないけど、この世界じゃ人間の幼さも非力も純粋さも免罪符にならない 上澄みの世界で生きられる人間なんてほんの一握り その一握りになりたいのなら、たくさんのラッキーを手に入れるため、少しでも早く賢く聡く強くなるしかない アンタも二度とクソまみれにされたくなきゃ少しでも早く強く!強く!誰よりも強く!賢くなりなさい!愚図愚図してると良くてトラウマを増やすことになる、悪けりゃ喰い散らされてThe Endよ。分かった!? さ、上に行くわよ~!」 スパッと話を一人で切り上げて先に進んで行くレディ。 だがクラウドは動けなかった。あまりにも突然のショックで精神が立て直せなかった。 そんなクラウドをレディが怒鳴りつけた。 「アンタが弱くて無知だったから犯られてたんでしょ!!アンタが悪いのよ!被害者が出たのなら、それもアンタが悪い!!それでファイナルアンサーで終わらして次行きなさいよ!グズグズと鬱陶しい!! 過去を無かった事にしたって、誤魔化したって事実は変わらない!自分でも分かってるでしょ!だから強くなりたいんでしょ!! この世界じゃ今のあんたは私よりも弱い!それが事実!アンタは弱い!分かる!? 今のあんたは女の私にすら守られなきゃ夜外も歩けないヘボい男なの!また犯られるわよ!ていうか喰われながら犯られるかもよ!そんなの珍しくないからね!それが嫌なら少しでも速く強くなりなさい! アンタは強くなる可能性があるんだから!自分の可能性を信じて戦いなさい!! 戦え!自分の可能性を信じろ!! そうする事でしか自分も誰も守れない!!」 止めろ!同じことを言うな!違う!違う!取引だ!全部!全部!取引だった!思い出すな! 全部!違う!全部!全部!!全部違う!全然違う!!ただの取引! 違う、言い訳、じゃない。俺は……。 …………言い訳… 言い訳、じゃない!!………そんなんじゃない!!取引……ただ、、、 クラウドが自分に言い聞かせるようにガクガクと震える膝を震える手で殴り付け、フラフラとレディに向かって歩き始めるとレディが言った 「クラウド、自分の腐っちゃった部分は仕方ないのよ…… 何年、何十年そんなものを秘密の宝箱にしまい込んだって腐ったものは元には戻らない 自分の腐った部分が嫌ならもっと強くなって、それ以上は腐らせない抵抗力を身につけるの 腐ってしまった部分が気にならなくなるくらいに、大きくおっきく!おっきく!成長したらいいの、それだけの事よ! いつまでも腐ったオカマみたいに古傷撫でまわしてんじゃないわよ!そういうのをクソオカマって言うのよ!! 分かったら上に行くわよ!クラウド!!」 「な、何、…お、俺は、違う、から…」 ビシッ!! レディの手加減なしのビンタがクラウドの頬に炸裂した。 「アンタ、自分が腐ってる事も認められないの?貧相なメンタルしてると思ったけど、思った以上にヘタレね 寝てる時のアンタ、動画で撮っておけばよかった…… ウチのマリーが憐れんで付きっ切りで看病するほど可哀想な男の子だったわよ! ごめんなさい!ごめんなさい!許してってさ!泣きながら許しを請うてたわよ!随分なトラウマをお持ちのようじゃなぁ~い?」 「………」 ただ俯くのが精一杯だった。 「まあいいわ、私はアンタにバトルを教える アンタの過去はアンタがケリを付ける!この話はもうナシ! 腐ってる事すら認められない奴に付き合ってやるほど私は暇じゃない!」 レディはクルッ!と前を向いて歩きだし、持っていた2丁拳銃をそれぞれクルクル回しながら 「さあぁぁ!!クソッタレ共をぶちのめしまくるわよ!LET'S ROCK!!」と、気合を入れ元気に闊歩した。 理由は何であれ、レディが話を切り上げてくれた事でクラウドは息をつけた。 これ以上関わらないでいてくれるといわれて助かった。 眠っている時の事など知らない! 知るか!そんなもの!眠らなきゃいいんだ! 俺はもう何もできない少年じゃない! そうして戦闘を繰り返し、日が暮れ始めた頃にマリーを学校に迎えに行った。 「クラウド、これ1か月分の食費。私は帰りは22:00過ぎるからマリーと先に寝てて」 車から出たクラウドに、運転席に移ったレディがお金の入った袋を渡しながら言った。 「アンタこれからどうするんだ?」 「これからが私の本番よ! アンタは早く私の本番に付いてこれるように強くなりなさい」 ニイッ!と笑って車で去って行った。 クラウドは手を繋いだマリーに「ママは(色々と)強いな」と言うと マリーは嬉しそうに誇らしそうに「うん!ママは悪魔より強いんだよ!」と言った。 「…そうだな…」クラウドのそれは誉め言葉ではなかった。 2人でスーパーで手を繋いだまま買い物をして、マリーが目に付く商品の1つ1つを説明して欲しがったがそんなにユックリもしていられなかったので、なんとか騙し騙ししながらマンションに帰った。 マリーが家で宿題をやっているうちにクラウドは夕食とプリンを作った。 「マリー、プリンは先が良い?後が良い?今だとホットプリンになるが」 「…………」 クラウドが見せたプリンはマリーが今まで見た事の無いプリンだった。 マリーの知っていたプリンはプルプルしていて甘くてクリーム色で茶色くてプルプルしている冷たいものだった。 だがクラウドが作ったプリンはオーブンから出てきてアッツアツでプルプルしていなくて黄色で茶色いのが無い。 「これぇ、プリンじゃない...」 マリーのガッカリした表情にクラウドもガッカリした。 「ごめんな、マリー。これが俺の知ってるプリンだったんだ 明日また作るからさ、どんなのがプリンなのか教えてくれるか?」 「プリン…」マリーの瞳にジワリ…と涙が浮かんだ 物凄く期待していただけにガッカリが半端じゃなかった。 「あー、ごめんごめん!俺が悪かった!明日頑張るから!な?」 泣き始めるマリーの前に膝をつき、マリーの頭をなでなでした。 その時、クラウドから夕食のクラムチャウダーの匂いがしているのにマリーは気が付いた。 クンクン鼻をヒクヒクさせ始めたマリーに「夕食にするか!」と、泣き出す前にクラウドは空気を切り替えた。 マリーと夕食を食べながら学校の事、この世界の話、プリンの話をした。 マリーがお風呂に入っている間に明日の朝食と夕食の仕込みをし、お風呂から出てきたマリーの髪をドライヤーで乾かしながら、またマリーの好物の話をした。 「マリー、あのプリンどうする?食べないなら俺が食べるけど」 「食べる…クラウド、一緒に食べよぉ?」 クラウドは笑って、乾いたマリーのサラサラの頭を撫でた。 マリーは嬉しそうに目元を紅潮させ、椅子から浮いている足をプラプラさせた。 クラウドはきれいで優しくてカッコ良くて傷ついた王子様。 守ってあげたい可憐な王子様。 大好き! 冷蔵庫で冷えたプリンをマリーの前に置いた。 「スプーンを1回奥まで突っ込んでみ?」 言われた通りマリーが突っ込んでみると、スプーンを入れた切れ目から茶色の液体がフワワワ…と出てきた。 「ふわぁ~…シロップ隠れてたぁ」 クラウドは微笑んだ。 プリンを掬って口に入れたマリーの顔が紅潮した。 「どう?もう冷たくなってるだろ?」 「あまぁ~い。プルプルらぁ~」手足をバタバタさせてマリーが喜んでいる。 「クラウドぉ中、プルプルゥ~らよぉ~!」 固かったのは表面だけで、その下はプルプルのフルフルで、一度ガッカリした分再浮上に勢いが付き、余程感激したのか、その後無理矢理寝かしつけるまで「プッルプルゥ~♪フルフルフルリ~ン♪ツルンルンプリンプリン♪」と変な歌まで作ってプリンの歌をクラウドに披露しまくってくれた。 その後レディが22時過ぎに帰って来た。 「おかえり」 「あら、起きてたのね」 「当たり前だろ、22:00ってまだ寝る時間じゃないぜ?」 「あなたならマリーと寝ちゃってるかと思ったわよ。ウチの子凄いエネルギッシュでしょ」 「子供はあんなもんだろ。夕飯は食べた?」 「まだ。何かある?」 「ある。直ぐ用意できる」 「んー、ならその前に私のバイク見せてあげる。いらっしゃい」 と、クラウドをマンション地下駐車場に誘った。 レディのマンションの駐車場はそれぞれ各車別に壁で隔てられており、各庫別にシャッターが下りている。 いつも車を止めている隣のスペースのシャッターを開けると赤色の見た事も無い型、ビッグスクーターと水上バイクとネイキッド型を合わせたような超大型バイクが格納されていた。 「1300cc、7速まである。平地で最速350km、乗ってみる?」 「アンタ350kmまで出せるのか?」 「良く出すわよ?主の云う事をよく聞く良い子!」 と、超大型バイクをポンポンと叩いた。 今までいた世界の常識がこの世界では塵に等しい。 人間の身で単身350kmもの外風に晒されたら間違いなく死ぬ。前の世界ではそうだった。 それが女性の身で「良く出す」とか……ゴキブリ並みの生命力だな…と思わずにはいられなかった。 「乗ってみる」 「OK!ただしぶつけたら殺す!あ、それとこの駐車場内だけにしてよ 今はもう外はモンスターだらけだから それとこのフロアだけで5速まで上げてみて」 1300ccのバイクで5速まで上げるとどうしても120kmは超えフルアクセル・フルブレーキになる。 それをマンション地下駐車場で走るのだから結構なテクニックが必要となる。 クラウドのそんな試し走行の様子を見ていてレディが止めた。 「OK!ストップ!明日朝一で知り合いのバイク屋に行くわよ!」 と、バイクを格納するよう指示した。 レディはその場でパンツ以外のモノを全て脱いだ 「……あのな…」 「うっさい、ここは私の家!」 レディは裸族。たとえそこに若い男がいようとも関係ない。習慣を変える気はない。 始めの頃はクラウドも非常に困惑をしたが、共に暮らして1週間以上も常に裸で過ごされた今は、呆れはしているが、裸のままで外に出ないでくれればもうそれでいい…と、諦めていた。 だが未だにどうしても許せないのは、レディはどこにでも服といわず下着といわず脱ぎ散らかしていくので、それを毎度拾い集めさせられるのがイラつくのだ。 「アンタ、本当に、、、、、、男みたいだな」 本当は"最低にガサツで図太い神経してる"と言いたかったが、雇い主でもありバトルも教えてもらっている為言い方を控えた。 ところがクラウドのそんな気遣いに対しレディの答えは… 「だからって私に欲情すんじゃないわよ! 男みたいな性格しててもちゃんとオッパイデカイしマ〇コ付いてんだから!」 と言いながら裸の胸をブルンブルン揺らした。 「………」 もう会話はしない方が良いと判断したクラウドは、反論はせずとりあえずクラムチャウダーとパンとシーザーサラダを出した。 「あと、アンタ用にプリン作っておいた」 「プリンて、私に食えっていうの?」 「大人用のプリンだ。マリーのとは味付けも配合も違う あんまり甘くないし固めだ」 「へえぇ~?甘くないプリン……ちょっとソレ先に食べたい」 クラウドがレディ用のプリンを出し「スプーンを1回底まで刺してから絡めて食べてみ?」と、カラメルを絡めるようにアドバイスした。 「?これ、プリンなの?」 匂いを嗅ぎながら「卵のいい匂いがする…」と言った。 「こっちの世界のプリンは違うみたいだが、俺が母に教えてもらったプリンはこれだった」 レディがカラメルをプリンに絡めて食べると… 「苦っ、甘っ!……な、なにこれ!!!!!チョット!!」 レディはパクパクとプリンを完食した。 「ちょっと!クラウド!!」 「うまかったか?」 レディの反応で何となく分かってはいたが聞いてみた 「結婚して!!!」 「…………………」 一気に目の座るクラウド。 「ホモだのクソオカマだの散々言ってぶん殴った相手に、よくそんな事言えるな」 「細かい事は気にしない!私が稼いであんたが専業主夫になる!完璧!!」 「どこがだ。アンタほんとに…(図太い性格してる)…感心するぜ とりあえず結婚はナシだけど、ちゃんと世話になる分は返すつもりだから」 「えー、期間限定~?でもこのプリン、マジで売れるわ!あなた最高!!もっと無い!?」 「無い。そのうちまた作る 俺にこれを教えた母は料理が上手でマメな人だった 俺は子供の頃は母のおかげで市販の出来あいのものを食べた事が無かったから、親元を離れてからも市販のものは苦手で、自分で………………………一人暮らしになってからも自炊が多かった」 クラウドの話が途中で間が空いたのに違和感を感じたレディは気になった事を聞いた。 「あなた何歳?」 「55歳、だけど、時空を超えるのに40年消費したって言ってたから実質95くらい?」 「………年をとらない種族?」 年をとらないっていうのは精神年齢も成長しないのかしら、未だにそんな思春期みたいなネタで悩んじゃって、他にもっと傷ついたり憂慮するような事は無かったの?と、レディはドン引きしていた。 「俺は16歳で創られた時から人間の時は止まってるらしい。でもちゃんと寿命はある」 「死体の悪魔も?」 「細胞の寿命が来るまでは本当の意味での死は無いらしい アイツはこれからどんどん若くなっていって、最終的に消滅して、そこから新たな命として生れなおしてくる」 「ふぅ~ん。やっぱり魔族に近いのね 魔帝ムンドゥスがそれに似たサイクルみたいよ? 魔帝ムンドゥスを殺せるのは同じ魔族、しかも高等悪魔だけ。でもムンドゥスは死んでも何十年かかけて生れなおしてくる 高等悪魔はちょっとやそっとじゃ死なないけど、死んだら魔界に堕ちて出られなくなる あと魔界で悪魔としてレベルが上がり過ぎても重力を持ちすぎて魔界から出てこれなくなる ダンテの父親のスパーダがそれね あとこの世界にウヨウヨいるような低級悪魔や悪魔の眷属とかは、役割がこなせなくなると消滅していくの そういうのは見ればわかる 妙に影が薄かったり、どこかの暗がりでジッ...として動かなかったり。放っておくと霧散して消えていく あ、そうそう魔帝ムンドゥスはダンテの父親スパーダに殺され、何十年とかけて復活したところをダンテに殺されたの 復活サイクルからいって、次に復活する時は今トリッシュのお腹の中にいる子が倒す番ね でもってトリッシュは元々は魔帝ムンドゥスがダンテを殺す為に創った造魔 ダンテがムンドゥスを殺したから、その眷属だったトリッシュは解放された でもってラブラブしちゃって子供まで作っちゃったわけよ~!やあね!アイツラ!」 と、笑いながらレディは言葉とは反対に嬉しそうだった。 「アンタも最初はダンテの敵だったんだろ?それが仲間になったのか?」 「仲間?…うーん?同業者? ダンテは悪魔だけど悪魔退治屋だし、私もそう。ヤバイ仕事専門の同業者 仲が良いか悪いかは別として仲間じゃないわ。仲間は状況次第で敵になったりはしないでしょ?」 「……アイツ、ダンテは良い奴なのか?敵だったのが仲間になったり、結婚したり…」 「”良い奴”っての、定義が分からないんだけど ダンテはクソでごみ溜めな言葉しか喋れないクソ悪魔で、性格も悪魔らしく凶暴で捩じれまくり過ぎて逆に真っすぐに見える時もあるけど、でもやっぱり最低に捩れてクソ自画自賛な奴なんだけどピザとイチゴパフェが大好きでこの世界の誰よりも強くて女が大好き!そしてトリッシュに弱い! そういうのを総じて”良い奴”っていうなら、そうなのかもしれないわ」 「うん、全然良い奴じゃないのは分かった でもイチゴパフェが大好きって聞こえた」 「言ったわよ 何なのかしらね、何か拘りがあるみたいなの チョコパフェとかマンゴーサンデーとかアイスクリームとか"全然分かってねえ!"って、鼻にも引っかけないし他のケーキも全然ダメ。単品イチゴパフェだけが好きなの だからアンタ、間違ってもアイツにイチゴパフェなんか作ってやったらダメよ? "愛人にしてやる!"...絶対に言うから。アイツの場合は冗談にならないから。絶対有言実行だから それにアイツにそんな事言わせたらトリッシュが本気でぶっ殺しに来るから。アイツラ冗談抜きで真性の凶暴悪魔夫婦だから ……ところで眠くなってきた。寝る。後片付けやってくれる?」 あくびをしながらレディが言った。 「やるよ。お休み」 「お休み、あなた本当、良い奥さんになるわ。ディナーも凄く美味しかった 気が向いたらウチに嫁にいらっしゃい。私でもマリーでもどっちでもいいわよ んじゃ、明日は朝からバイク屋に行くわよ!」 後ろ手で手を振りながら部屋に入って行った。 完全な死体になっているように見えるけど、やっぱり違う。 レディの部屋で暮らし始めて1週間以上、もう完全な人間体に戻った。 俺が良く知っているセフィロスだ……でもやっぱり違う。眼を閉じているから。 あの射貫くような厳しくて強すぎる視線が無いだけで、まるで精巧に創られたアンドロイドだ。 ここまで完全に整ってる奴はこの世界の誰が見ても上級悪魔だと思うだろう。 「馬鹿な奴!」 まあ、いい。馬鹿はお互いさまだ。 俺はせめてお前の次の人生がマトモに出発できるように、復活したお前がちゃんと生きて行けるように、この世界での環境を整えておいてやる。 それがくだらない事でお前の命を終わらせてしまった俺の罪滅ぼし。 お前に貰った俺の残りの命、お前の新しい人生の為に使ってやる。 セフィロス、…これから生まれ直すお前になら償える。 償いたい。 それでもう…忘れたい。 |