喪失の向こう側3

ベッドの微かな振動によって目が覚めた。

忘れていた穏やかな目覚めに周囲を見回してみると、ベッドの下にセフィロスの死体が転がされていた。

部屋は、知らない場所だった。

再びセフィロスに視線を戻してみると…大聖堂地下で見た時と何かが違っていた。

何だろう…。

しばらく考えて羽の数が減っていることに気が付いた。

ダンテと戦っていたセフィロスの最終形態は人間だった時の面影がどこにも無かった。

人間の形をしていなかった。

凄く大きな羽根が何枚もあって、宙に浮かんでいた。

ダンテとの戦いに敗れて羽根がたくさん散って地に落ちて、人間だった時の姿が何枚もの羽の中から現れた。

今は羽の数が枚に減って、より人間の姿に近付いている。

逆行………これがスコールの言っていた逆行現象なんだろうか。


改めて周囲を見渡した。

見覚えのない部屋。記憶のどこにもない。

先ほどから体に感じる微細な振動はどうやら下のフロアの奴が激しい音楽を大音量でかけているらしい。

以前何故かいた母子の家はマンション11階にあったが、今いる場所はカナリ地上に近い。

道を歩く人の気配がするから2階だ。


何故また知らない場所でベッドに寝ているのか。

何故セフィロスが同じ部屋にいるのか。

運ばれて来たのは確かだが、状況が変だ。

死体は物凄く持ちにくいし、重い。

特にセフィロスはデカイ。しかも形態変化した状態だから相当大変だったはずだ。

そんな大変な思いをしてここまで運んで来たはずなのに、何でゴミを捨てるように放り出してあるんだろう

銀色の長い髪が放り出された変な形のまま乱れ、茶色の床に散らばっている。


とりあえずベッドから降りることにして、身体を微かに動かしてみた。

今まではほんの少しの動きでも全身がバラバラに引き裂かれるような激痛が走ったが、今は浅い痛みがピリリッと走っただけで体は意思通りに難なく自然に動いた。

スコールの言ってた通り煉獄を潜り抜けたのか……

もう絶対に!あんなこと二度としないぞ!!と思ったが、同時にスコールに寿命的に回しかできないと言われたのを思い出した。

……この時空次元移動は40年寿命を消耗する。

だが俺にはその40年の寿命が残ってない。だから回だけ、よく考えろと言われた。

あと40年しないうちに俺に寿命がくるって事だ……。

実質55年くらい生きて来て、あと40年ないということは……結局人間と大して変わらない。

なんだ…そんなに絶望するものでもなかったな。

あと何年だろう…あと39年生きるのと年生きるのじゃ全然意味が違うからな。

セフィロスはあと何年だろう…少なくとも俺よりは長く生きるって言ってた。

コピーは元媒体よりも劣化するって言ってた

今の俺はセフィロスの細胞をコピーしたもので生きてる……。

…そうか……俺、セフィロスコピーだったんだ……

その割には俺に”英雄”のファクターがまるで継承されなかったな……。

全然悩まない迷わないお前のコピーなのに何で俺はこんななんだ。

俺にはいったいお前の何がコピーされてるんだ。

納得いかない……。


腐敗しない死体のセフィロス

その傍らにしゃがみ、放り出されて乱れた長い髪に指を何度も梳き入れ髪を整えた。

多分今が初めてだ。セフィロスに触ったのは。

当たり前だがセフィロスの躯は冷たく、何の反応もしない。

いつもどこまでも追いかけてきて、覚めない悪夢のようだったセフィロス。

こうして躯になってしまうと、まるで活動を停止したアンドロイド。

スコールとは全くタイプの違う造形美、、ヴィンセントは絶世の美人、スコールは神懸かり的に美しい男(実際神様だけど)、セフィロスは神に創られたような完璧な造形美。


セフィロス

お前はあと何年生きるんだろう

子供の頃テレビで見たセフィロス、その闘う姿に心酔した。

このソルジャーの傍に行きたい、同じ場所に立ちたい、共に戦いたいと夢見た。

母さんの懸念や心配を振り切って神羅に入った。

いつも他人の動向に目を光らせてる保守的な村の連中が大嫌いだった。そこから出られて、俺の本当の人生はこれから始まるんだなんて思った。

神羅で…兵士でいればいるほどセフィロスがどんどん遠くなっていった。

望んだ世界は自分とは違う世界なのだと肌に刷り込むように思い知らされた。

あれほど嫌い、軽蔑した村に帰りたくて仕方なかった。

あれほどに望んだセフィロスと同じパーティ。

堕ち切った自分を見られたくなかった。

それすらも罰なのだと思った。

自分がした事の。


セフィロス

気が付かなかったのか

あぁ……お前は無神経だからな。気が付かないか……

俺がスコールを好きになる、たかがその程度で気持ちが折れるほど

たかがその程度で俺を見たくもなくなる程、失望したのか

本当にバカだなお前は。

やっぱりお前は俺の事を何も分かっちゃいなかった。

…知ってたけどな、分かってないのは。

神羅時代、英雄だったお前のパーティに組まれる兵士は2種類いた。

実力でお前の隣に立つ者と、廃棄処分兵。

俺は神羅に見限られるだけの…それだけの事をしてきた。

納得してたんだ、自分でも。廃棄されることに。

もうそれで楽になれると思ってた。


本当に

本当に馬鹿だよ、お前。

……セフィロス

お前の追いかけた"クラウド"なんて最初からどこにもいなかった。


あぁ…そうか、俺が憧れたソルジャーstセフィロスなんてどこにもいなかったのと同じか

お互いさまか…

勝手に幻想を抱いて憧れて、追いかけて、恨んで、幻滅して…

結局元々は俺が分を弁えていればよかったんだ。

英雄の隣に立ちたいなんて思わなければ、何も知らないまま死ねた。

田舎の子供のまま、お前に村を焼き払われる事になっても母さんと一緒に死ねた。

そこで人生が終われた。

死にたかったなぁ…あの時。

何も知らないまま母と2人で。

1人の村人として、被害者のまま終われた。


セフィロスを抱き上げ今まで眠っていたベッドに横たえさせ、体勢を直しフトンを掛けようとして……死体に布団は必要ないか、と掛けるのを止めた。

またセフィロスの乱れた髪を指で直そうとしたが、何となく申し訳なくなり、触れなくなった。

俺が触るのをセフィロスが嫌うのじゃないだろうか。

要するに”キレイなの””手付かず”がいいんだろお前は…多分。

あぁ、俺自身あの頃を忘れてたから仕方ないか……、けどやっぱり鈍いよお前。



通路を誰かが歩いてくる音がする。

靴音と気配からして、多分オッドアイの母親と娘のマリーだ。

扉が開き案の定…

「あら、クラウドもしかして完全復活

「クラウドー

マリーが走って抱き付いて来た。

「うん。もう大丈夫。色々迷惑かけて申し訳ない

で、ここは前の家じゃないよな

「まあね、あー、ン、じゃあ下に来る

あなたは暫くここで生活することになってるから挨拶しておきなさいよ

今は珍しい奴も来てて丁度いいわ」

「え、お客さんがいるなら…」

「いいの、いいの。どうせここで暮らすならそのうちあの子とも会うようになるだろうから

クソ生意気なガキよ。ムカついたら殴っていいわよ。ま、そしたら殺しに来るけど。あなた死んでも生き返るからどうってことないわよね」

「…………」

何だその紹介の仕方…。


母親が指でクイクイと「来い」という仕草をしながら部屋から出て行ってしまったので、続くことにした。

あぁ、そういえば母親の名前、聞いてなかった

部屋から出たところで娘のマリーが手を繋いできた

それを見た母親がため息交じりに

「なんだかウチの子、あなたが気にいっちゃったみたい」

「アンタ名前なんていうんだ

「あら言ってなかったっけ"レディ(お嬢さん・女性)"よ」

「うん

「L・A・D・Y」

「………

「ママ、名前が無いの」

マリーが嬉しそうに見上げて説明してくれる。

「…あ、そう」

人それぞれ事情があるんだろう、とそれ以上は聞かない事にした。

"レディ"が名前、それだけ分かっていればいい。


廊下の扉を開けた途端、耳を劈くへヴィメタルだかハードロックだかの爆音とその振動がドカドカ体に響いた。

そんな爆音の中を下への階段を降りて行くとどこかのショットバーのような造りの店舗で、先ず目に入ったのが20代くらいのプラチナブロンドのえらくハンサムな青年。

青年が凭れている壁にはドクロだの、気味の悪い動物の顔にナイフがブッ刺してある面だの、剣を咥えた変な虎みたいなのとか...とにかく気持ちの悪いオブジェがたくさん壁に掛けてあり、ロクでもない趣味という意味でドカドカギャンギャン五月蠅いへヴィメタルな音とよく合っている。


「あら、本当に復活したわ。でもあの素敵な片翼の翼はどこにいったの

そう言った女は金髪ストレートのロングヘアでやたら完璧な創ったような、怖い程の迫力長身美女で妊娠してる。

「いよう、金髪ニーちゃん。アンタ異星人なんだって

声がした方を見れば、、、

咄嗟に近くの柱に立てかけてあった大剣を、男の心臓目がけて思いっきりブン投げた。

剣は驚いた表情の男の心臓を貫き、突き刺した勢いそのまま椅子ごと後ろの壁に磔られた。


セフィロスを葬った男。

プラチナブロンドで、人間にも召喚獣にもなるやたらと美形の男

なんなんだこの世界は。

どいつもこいつも創ったような美形ばっかりでプラチナブロンドだらけ。気持ち悪い



一方ダンテ達は、昨日まで死んでいた金色がお目覚めイキナリ大剣スパーダぶんどりの大暴挙攻撃。

全員思わず呆気にとられ絶句したが、その僅かな沈黙の間もやたらと音のデカイハードロックが煩く流れていた。

そして曲が切り替わったところ、壁に凭れていた方のプラチナブロンド青年のが「あ、俺この曲入れてるコイツら良い曲作るんだ」と、足でリズムを取り始め

続いてレディが爆笑をし、笑いが止まらないように切れ切れに言った

「やっだぁやられちゃった気を抜き過ぎよぉダンテ

妊娠してる金髪美女が

「スコールの言った通りね寝首かかれないように気をつけなさいよ、ダーリン

あ、もうかかれちゃったかアッハァ」と、パチンッと指を鳴らした。

その時……。


「……チッ

心臓を貫かれ、壁に磔られ死んだはずの男が舌打ちをした。

徐に腕が上がり、己を貫いている大剣スパーダに手を掛け、グイグイと引き抜きながら

「ここまで運んで来てベッドにまで寝かせてやった礼がコレかよ、ファック!!

あのクソスコールの知り合いだってのに、とんでもねぇVIP待遇をしちまった俺の優しさが憎いぜ畜生と思ってたのにファーーーーック!!アッッスッ!ダムブロークソディックスティンクホーーーッッ!!

俺のハートは傷ついたぜ兄ちゃんあ、シャレじゃねえぞコレチッ

ファック!!サノヴァビッチ!!マザー〇〇、□×▽±ビーー!!(放送禁止用語自主規制)ヘイ!ニーちゃん、なかなかのじゃじゃ馬だな□×▽±〇ΘΦビーー(自主規制)」

ダンテは見た目のドハンサムクールさからは想像もつかないほどのお喋りでフレンドリーな奴だったが、喋る言葉があまりにも眩暈がするほど汚過ぎてクラウドの耳が半分以上聞くのを自動拒絶していて、途中から何を言っているのか良く分からなくなっていた。

ただ殆ど白...今までの世界ではモンスターにしかありえなかった虹彩の色、プラチナに近い薄い薄い蒼の虹彩に見つめられ、クラウドの背筋はゾクゾクと悪寒がしていた。

「…なんで死なない」

「ハッ兄ちゃん、俺と銀髪悪魔との戦闘見てたんだろそんでまだそんな質問か

「アンタ、どうしたら死ぬ

その質問に思わずダンテの表情が変わり、フッと隣にいたトリッシュを見て、思わず人でニヤリ…と笑った。

レディやネロが「何」と問いかけると、トリッシュが言った

「昨日ダンテが似たようなことをスコールに言ったのよ

ハァンこれはもうファミリー決定ねダンテ

トリッシュが微笑み、ダンテがウンザリした顔をしている。

そこでレディが指先をそれぞれに向けながら説明をし始めた。

「私達全員、初対面でダンテにぶち込んでるのだからアンタもファミリー決定

トリッシュ、今はダンテの奥さん。もう直ぐ出産予定

トリッシュは初対面で剣をあなたみたいに彼の心臓にぶち込んだ

ネロ、ダンテの甥っ子。初対面でダンテの心臓に剣を突立てた。アンタみたいに

そして私、ダンテと同業。初対面でダンテの眉間に発弾をぶち込んだ

私たち、最初から仲良しだったわけじゃないのよ」

「俺は今だって仲良しのつもりはないぜ」

20代プラチナブロンドのネロが訂正を入れた。


心臓を貫かれて死なず、頭を撃ち抜かれて死なないならどうやったら死ぬんだ

セフィロスはどうするつもりだったんだ

「言っておくが俺ぁウッカリしてやられたわけじゃないぜ

別にやられてもヘでもねえから受けてやっただけだからな

テメェらが揃いも揃って、この俺を愉しませるくらいクソ凶暴だったから受けてやっただけだぜ

全員が大笑いをしている……


「兄ちゃん、この世界の歩き方が分かるまで、あの悪魔と一緒にここにいていいぜ

クソスコールとのファッキンプロミスだからな

で、兄ちゃんはあのクソスコールとどんな関係なんだお友達とかじゃないよな

「……アンタは

「俺はダンテこの世界で一番強く、最高にイイ男

言い切ったダンテが目でお前も名乗れと促した。

「……クラウド」

「あの悪魔はクラウドの相棒か

「違う。悪魔でもない」

なら何なんだよ、とクラウドの次の言葉をダンテが促した。

だがクラウドは何も言う気配が無かった。

「………俺があの銀髪の悪魔を倒した翌日にはお前がその横で死体になってた

ちなみのその時のお前の姿はもう少し違ってたぜ

その翌日レディが心臓が動いていたお前だけを持ち帰った

お前は週間何度も生き死にを繰り返し、挙句にペガサスみてぇなのを召喚してあの銀髪の元に戻って行き、また死体になった

俺達がレディから聞いて大聖堂に行ってみればクソスコールが現れ、世界一強いダンテ様が世間知らずのお前の面倒を見てやってくださいませんか、どうかよろしくお願いいたしますっつーから仕方ねー、ここまで死体を体も引きずってきてやった

で、お前とスコール、お前と銀髪の関係はお前人間臭いが違うよな。人間と魔族のハーフか

「……俺とスコールは友達。銀髪は異星人と人間を融合して創られた

俺はその銀髪の細胞を人間に埋め込み創られた」

「友達ィあのファッキンクソスコールとおぉぉ!?

ダンテが気になったのはその一点のみで、それ以外の情報は割とどうでもいいようだった。

「そのスコールっての会った事ねーけど、スゲー楽しそうな奴だな」

ネロが言った。

「そうよねぇ。話を聞く限りすっごく、……美味しそう」

レディがゴクン…と喉を鳴らした。

ダンテは暫く不愉快そうにクラウドをジロジロ見ていたが、やがて納得したように頷いた。

「…ナァ~る……アイツはお前みたいなのには良い顔を見せるのか…

そうか、そうか、そうか……なぁるほど?」

そう言いながら更にクラウドをジロジロと上から下まで無遠慮に面白そうに眺めた。

マネキンの様な完璧なルックスで、まるでプラチナの虹彩で不躾に観られイラつきはしたが、その視線には厭らしさが入っていなかったので、泊めてもらった恩義もあり黙っていることにした。


ダンテが再び喋り始めた。

「そうだなぁ、、この世界の事つってもなぁ

つまりお前は銀髪と同じ体質なんだろ

アイツ程度の戦闘力なら……やっぱりレディの方が向いてると思うぜ

仕事のネットワークもレディの方が強いしな」

と、レディの方を見た。

レディはと言えば、何の打ち合わせもなかったにもかかわらずアッサリと引き受けた。

「ならそうしましょう?ウチも助かるし

私は純人間

ネロは悪魔と人間のクウォーター

ダンテは悪魔と神族のハーフ

トリッシュは造魔

あなたはこっちの世界に慣れるまでウチで暮らしなさい。

銀の死体も持ってきていいわよ。

あとウチに居候をするならそれなりに働いてもらうわ、戦闘以外でね」

そう言ってレディがウィンクした相手はクラウドの服の裾を握っている娘マリーだった。


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