喪失の向こう側2



セフィロスだった奴がそこにいる。

ダンテに撃破された時のまま、放置されている。

あれから何日も経っているというのに腐りもせず、遊び過ぎてボロボロになったモンスターフィギュアのようにそこに打ち捨てられている。

だが、その捨てられたボロボロのモンスターフィギュアとクラウドの違いは、心臓が時々動くかどうかだけでボロボロなフィギュアであるのは2人とも同じだった。

 

「復活したな」

どこからか響いた声に、時々心臓が動く方の人形が応えた。

「……ス…コール」

姿を現したスコールは、返事の代わりに壁に凭せ掛けてあるボロボロの人形の隣に座った。

「お前…俺の…昔……知って…たのか

「知ってると言えば知ってる。知らないといえば知らない

お前の現在過去未来を含めたお前の形は視えてるが、お前の過去をその場で見たのかと言われれば見てない」

「……とっくに忘れたもの……ばかり夢で見…る

忘れてた……思い出すはずがない…お前が見せてるのか……たら…殺す」

「見せてもいないし俺はとっくに死んでる

記憶の封印は本人にしか解けない

真っ黒に塗り潰し、厳重に鍵をかけた記憶

ラクーンの炎の中でお前は1つ目の封印を解いた

その時から塗り潰した過去がチラつき始めたはずだ

ここへ来て生死を繰り返すうち、お前は自分で塗り潰した過去を暴いた

望んでいないというのなら、お前の身体が望んだんだろ、お前からの解放を」

「………」

「苦しいよな、クラウド

厳重に閉じ込めておいた記憶は色褪せず、摩耗せず、鮮明に蘇り、際限なく苛む

もうどこにも逃げられない

今のお前はあの時の子供じゃない」

「…………ちが…、お……おれじゃない!」

壊れた人形の瞳から雫がひとすじ、またひとすじと頬を伝う。

「逃げ場はないんだ、クラウド

お前自身が解放した記憶は、もうお前を逃さない

だがよく考えろ、今のお前は子供でもなければ、あの時の様に弱くもない

今のお前を責めているのはお前自身

お前を許してないのはお前だけだ

もう楽になれ」


お前なんかに何が分かる!

伝説の英雄、誰からも思いを寄せられていたお前なんかに何が!

…八つ当たりと分かっていても睨みつけてやりたかった。が、疲弊しきった体では横に座るスコールを睨むために首を捩じる事も、視線を動かす事すらもできなかった。

悔、哀、怒、疲、愛、謝、色んな感情が我を突き抜け、押し寄せ、受け止められず、ボロボロの人形の瞳からは、ただ一筋、また一筋と滴が零れ落ちる。


スコールがふわりと手を伸ばした。

生き死にを繰り返し硬直弛緩崩壊再生の波状を繰り返したその身体は、糸の切れたマリオネットの様にグニャリと腕の中に納まった。


温かい。

ただ温かい。

肌に伝わる温もり……。

とっくに捨てた。

永遠に捨てた。


どうしても止められなかった。

嘘だと…知ってた。

知っていて求めた……


ごめんなさい


言葉にできなかった。

記憶はいつもその言葉で塗り潰される。


温かく優しく心地良い腕の中で、再び眠りに落ちて行く。


微睡の中、声が聞こえてきた。

「セフィロスはこれから約半年をかけ消失へ向かう」

「今セフィロスの命はあの残骸の中に閉じ込められている

あの残骸は次世代セフィロスのサナギ

サナギは時間をかけて眠った後、その身を破って蝶になる

セフィロスはその逆

あのまま約半年、飲まず食わずで時代を逆行し子供になっていき、赤ん坊、卵、最終的に消滅、そこから次世代が誕生する

但し、サナギ時代に傷をつけると奇形の蝶が生まれてくるのと同じで、このセフィロスの残骸を守ってやらないと次世代のセフィロスが奇形で生まれてくる」

話の流れに嫌な予感がしたが、疲れ切っていたクラウドにはスコールの腕の中はあまりにも心地良過ぎ、他の事はどうでもよかった。疲れ切っていた。

心地よい腕の中で、ひたすら眠りたかった。


「そういえばクラウド

魔晄廃人のお前を担いで神羅の追手から逃げ続けたザックス

お前を生かして死んでいったザックス

アイツはお前を守ることに何のメリットがあったんだろう

馬鹿な奴だよなぁ

ソルジャーstとはいえお前を担いで何日もあちこち転々と逃げ続けるのはどれくらい不利だったんだろう

半端な根性じゃできなかったろう

移動手段だって宿屋だってそう簡単には見つからなかっただろう

そう思わないかクラウド

俺だったら絶対にやらない

何故なら自分一人なら確実に逃げ切れる

どこから見てもドラッグ廃人を背負ってたんじゃ逃げ切れるわけがない。通報もされちまう

リスクしかない」

スコールは腕の中の壊れた人形の顎を持ち上げ、自分に顔を向けさせた。

動かされた気配に薄目を開けた人形、至近距離でスコールと目が合った。


「お前はザックスが生きてる間に何か恩は返せたか


人の温もり…

拒絶し続けた。

気が付いたら本当に駄目になっていた。

でもそれでいい。

俺みたいな奴は誰にも赦されない。

 

「別に俺はセフィロスがどうなろうともどうでもいい

死のうが生きようが奇形だろうが、というか元々コイツは『人間の定義』からいけば奇形みたいなモンだ…俺もそうだったが

この先コイツがどんな新たな奇形になろうともこの世界には大した影響もない

だがクラウド、お前がコイツに次こそマトモに生きてほしいと望むのなら、お前がサナギのコイツを守り抜くのは当たり前の話…とはいえ、好きにしてくれ

どうせコイツを守るヤツはお前しかいないし、守らなくてもコイツは勝手に生まれ変わってくる

お前が殺したジェノヴァみたいに

ジェノヴァの場合は何度生れ直しても奇形だったがな」


スコールは人形の顎を解放し、再び腕の中へ優しく温かく、深く抱き込んだ。

「眠れ

深く、深く......深く

体力を回復させろ

 


つの靴音が大聖堂地下へ降りた来た。

迷うことなく真っすぐセフィロスの残骸がある奥まで降りてきている

そのつの靴音、片方は高いヒールを履いている

もう片方はアメリカンブーツの音をさせている

靴音がふいに止まった。

 

「レディの言ってた通りね」

ヒールの音をさせていたのは黒のレザーがクールに似合う造魔トリッシュ

「驚いたね、こりゃ…」

もう一人のアメリカンブーツの音を響かせていたのはセフィロスと戦って下した上級悪魔のダンテ

「……なるほどねぇ」

感心した様に言うダンテに、トリッシュが""と表情で問いかける

「銀の方と戦った時に羽が一枚足りてねぇな、とは思ってたんだ」

「あぁ、こっちと対になってたのね」

「フン、で、銀が死んだから対の金もここまで来て死んだと…」

「彼女の話じゃそうだったわね。金の方は銀が死んだ後、ここで死んでたけど

生き返ったりしてたから家に連れて帰ったけど、結局ここに戻ってきてしまったって

なんかペガサスみたいなのを呼び寄せて飛んでっちゃったって言ってたわ」

「…………なあトリッシュ、最近この世界の空気が微妙に変わってきてねぇか?」

「ア...空気は気が付かないけど...

ただこの金と銀も、金が呼び寄せたペガサスにしても異質よね

この世界にはいなかった種族」

「だよな

大体体ともさっき死んだみたいなツラしてやがるが、銀なんざ死んでから20日以上経ってるぜ

どうなってんだこりゃ」

「悪魔は死んだら魔界に堕ちる

金はともかく銀の方はどう見ても上級悪魔の姿なんだけどねぇ」

「まぁな。だがスコールが銀に関わってた時点でコイツラ相当怪しいぞ

それにこの世界の空気が変わったのも、あのクソスコールの臭いがしてならねぇ」

「ダンテ…あなた本当にスコール好きね。妬けるわ…」

「…ぶっ殺さなきゃ気が済まねぇ程度には気に入ってるぜ。あのクソ野郎!」

「アッソウ!で、どうするのコレ

「放っときゃいいだろ。俺ぁ死体をアレコレする趣味は無ぇ」

「でもレディは気にしてたわよ。金の方がまた苦しんでるんじゃないかって」

「……さては……今度は小姓を飼うつもりだな?あの女」

「…………そうかも」

2人で金銀を見下ろしていた時、どこからともなく声が聞こえた。


「ソイツラは異星人。金の方がもうすぐ生き返る


ダンテの眉が顰められたが、まるで目当てのものが現れたかのように口元は皮肉気に歪んだ。

両手はそれぞれが両脇ホルスターに収められたエボリー&アイボリーにかかり、隣にいたトリッシュは声の主を探した。

「あー、胸糞悪くなる声がするぜぇど~このクソ野郎だったかなぁ!?

そう言いながらエボリー&アイボリーの銃口が天井付近の壁にピタリと向けられた。

「金が目覚めたら面倒を見てやれ。この世界の事を何も知らない

半年経てばソイツは自ずと離れ行く」

聞いているのかいないのか、ダンテは口元を歪めたまま返事もせず天井付近に向かってトリガーを引きまくり連射しまくり、しまくった。

造魔トリッシュには見えていなくても上級悪魔のダンテにはスコールの姿がハッキリと見えているらしい。

休みなく撃ち込み続ける弾丸が、ガラガラバラバラと天井、壁を埃を立てながら崩していく。

モウモウと埃で空気が白くなりながら、落ちてくる破片がトリッシュやダンテ自身に当たりながらも、ダンテは半笑いのままこめかみに青筋を立てながら休みなく壁に絵を描く勢いで連射し続けている。

「どうやったらお前をぶっ殺せるのかゲロッたら、このズタボロ人形に俺流の教育をしてやってもいいぜ!イエァ!!

言いながらも連射し続けるので壁が彫り崩れて絵ではなく彫刻が出来上がりつつある。

「だったら死ね。死んで初めて俺と同じベースに立つ

今のお前じゃ魔人化しようが何をしようが俺にダメージ1つ与えられない

さあ、教えてやったぞ。クッソ弱えぇダンテ、金をよろしくな

消えかけるスコールにダンテがまだまだ連射しながら呼び止めた

「ヘイ兄ちゃんもう一つサービスしてけやこの前俺にぶち込んだのは何なんだ

再び姿を現わしたスコールにダンテは全力で大剣スパーダをぶち込んだ、、が、やはり壁に突き刺さるだけだった。

スコールが堪えられないように笑いながら

「金の方は銀がお前に殺られるところを見ていた

ま、見せていたのは俺だが

ちなみに金も銀と同レベルの戦闘力だ

愉しみだな、ダンテ

キレたダンテは、魔人イフリートモードになり爆炎をブチ投げながら

「調教ならまかせとけって俺流で可愛がってやるこの前は何をやったんだ!?

スコールは堪えきれない様に笑いながら、爆炎を出し続けるダンテに向かって指で円形の何かを描く仕草をした途端、ダンテの魔人モードが強制解除され尚且つ足の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。

そして何かがポトリとトリッシュの足元に落ちてきた。

その赤く輝く珠を「美しいわね...」とトリッシュは魅了されたように拾った。

「それはダンテの魔力を高密凝縮したものだ

今度喧嘩をした時はソイツを旦那にぶち込んでやれ

どんな銃にも対応する

それ一発で何日かコイツでも完全行動不能になる

ちなみにそれにダンテが触ると、どんどん魔力が吸収されてどんどんヤバイ弾になっていく

そういう意味でも使える

ただしその弾の使用期限は年。早めに使う事を勧める」

「………まさか」

トリッシュの手の中にある珠からスコールに視線を移したダンテ…

「この前お前が戦闘不能になったのはな、お前の体内でおまえ自身の魔力を爆発させたからだ

エコだよなチョロ過ぎるぜ、ヘボ悪魔

スコールは美しく笑いながら毒舌を吐き、掻き消えた。

 

ダンテは「HA!HA!HA!」とわざとらしく大きく笑いながら、一瞬後に地面をバァァァーーン!!と地殻変動が起きるレベルで殴った。

屈辱の激怒に震えるダンテの横でトリッシュがボソッと「イイモン貰った」と瞳をギラギラさせながら珠に見入っていた。

その悪魔の微笑にダンテは本気で青ざめた。

トリッシュはやる…必ず使う。つーか、使いまくる。楽しそうに。

コイツはそういう女だ。

 

「じゃあダンテ、この金と銀を我が家に運びましょうか

チョット大変だけど、この銀の方も運んでおかないと金がまたここに戻ってきてしまうわ」

...

「勿論あなた一人で運ぶのよ

身重の私に肉体労働をさせるなんて酷い事は言わないわよねダーリン、ハーン

トリッシュは貰ったばかりの珠を透かして、向こう側にいるダンテに猛毒の微笑みを音付き投げキスと共に送り、珠に力を抜き取られたばかりのダンテは力なく笑った。



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