喪失の向こう側 11(改装工事中)

「何なの私のエキサイティンタイムを邪魔すんじゃないわよ

「悪い。頼みがある」

「あらぁ、めずらしー?」


陽も落ち切った月夜の下、人里離れた廃墟に巣食うモンスター達とレッツエンジョーイパーリィターイムしていたレディ。

突然現れたクラウドがあまりに深刻な顔をしているので、思わずモンスターに向けていた銃をおろし素直に聞く体制に入ってしまった。

「で?つまんない話だったらアンタを撃つけど?

半分冗談だが、半分本当。魔獣狩りを始めたレディはテンションアゲアゲで非常に危険だ。


「今日、昼間言ってたやつ。子供たちにバトルを教え始めたんだが

エリアスに魔法ファイアを唱えさせたら、ダンテとバージルが出てきた」

「え?アイツら出て来れるの?いつから?どうやって?」

「エリアスの呪文に魔界から呪文を重ねて、召喚の型にして出てきたんだろう、多分」

「呪文を魔界から重ねる?そんなの聞いた事…………あぁ、そっか、憑代がいなくても魔人化すれば召喚でこっちに出てこれるってわけね

あー、なーるほど!なるほどねぇ、考えたわね…すっごい強引!アイツらしー!考えたわねー!

感心したレディだったが、実はクラウドが気付いていなかったところでもう一つ驚いていた事があった。

ダンテの双子の兄バージルは息子ネロに会ったことがない。

それはネロが誕生する前にバージルが魔界に落ちていたという経緯もあったのだが…

”いくら可愛げのカケラもない息子っても、そこは一応一番に会いに行っとくべきじゃないの~?一応、息子なんだから。まあ、ネロもそんなの喜ぶようなタマじゃないけどさ~。冷めてるっていうか、ホント、悪魔らしい親子ってか、そんなトコもあの双子兄弟は真逆なのね”

レディは内心、思っていた。


「それでダンテの馬鹿が去り際に俺の事を"造魔"って言ったんだ。子供たちの前で」

「ん?あぁ、なるほど。”クラウドって造魔だったの!?誰の!?”ってなった

「そう。それと、今日セフィロスに呪文を唱えさせたが、たった1回の呪文でもう眠ってた細胞が開き始めた

多分次にやる時には…多分、俺はヤバイ」

「あー。わかるの?同じ細胞同士」

「うん。分かる。細胞で

セフィロスも何も言わなくても俺の正体が分かる」

「どうすんの?」

「アイツが細胞で俺の主だって気が付いてしまう前に、今日、帰ったら”他人を操る意味”を教える

分かってくれるまではアイツに訓練はさせない」

「あの子は人の言う事なんか聞く子じゃないわよ?」

「知ってる。俺だって今までにも散々思い知らされてる

でも、アイツは約束した事は絶対に守る奴だから

約束させる

俺はこの星に来てから何回も死んで復活を繰り返してる。今の俺に人間だった時の細胞なんて残ってないだろう

人間だった時だって逆らえなかったんだ。今はもう、アイツが望んだだけで、多分言う通り動いてしまう

それじゃ前の星と何も変わらない

俺は、今度こそ…アイツに間違えさせたくない

前の星の時だってアイツは誰よりも強すぎて頭が良すぎて、誰もアイツに追い付けなくて、間違いも正しい事も誰もアイツに教えられなかった

またそうなってしまう前に俺が教える

その為にこの星に来た」

「………」


クラウドには間違いであっても、セフィロスにとっては間違いではない。

クラウドにはそれが信念であっても、セフィロスにはその真逆が信念。

クラウドに育てられ成長してきたセフィロス。

2人を誰よりも間近で見てきたレディは、セフィロスとクラウドは魂の形が真逆であるのが見えていた。

クラウドが育てた恩恵を受けたのは、エリアスとザックス。悪魔なのにとことん人間臭く、甘い悪魔。

クラウドが追いかけて来てまで育てたセフィロスは…誰が育てたとしても、ああいう形にしか育たない。

クラウドがクラウドであるように、セフィロスはセフィロスにしかならないのだ。

誰が育てても、どんな環境にいたとしても。


「参考までに、アンタどう言って説得するつもり?」

「昔の話をするつもりだ。あいつのした失敗や俺の失敗や…

ただ、それはアイツと俺の話としてじゃなくてしたい

だから俺とアイツの本当の関係を伏せて話したい

本当の関係を知ってしまったら先入観で聞けなくなる

それでダンテ以外で俺とセフィロスの関係を知ってるのは、俺が目が覚めたあの時、あの場にいたアンタとネロだけだ。

ツォンもさっきの様子だとダンテから聞いてるようだが、きっとツォンは大丈夫だ。言わない

レノも知ってるかもしれないが、多分アイツも大丈夫だ

ネロはセフィロスが生まれてから一度も接触した事も話した事もない。会う可能性は低いし、会ったとしても多分大丈夫だろう。アイツの性格的に…」

「そうね、セフィロスとネロはお互いに大嫌いなタイプね」

「うん、だから一番危ないのは、いつも会ってるアンタなんだ

アンタが俺とアイツの関係について"知らない"を通してほしい

長くはない。今夜帰ったら話すから」

だが、それを聞いたレディはハァー……と額に手を当てながら深くため息をつき言った。

「アンタさ、本当に甘々だわね

アンタが説得しようとしてる可愛いセフィロスくんは悪魔として既にほぼ完成されてるわよ

今のアイツに足りてないのは、それこそ戦闘能力だけ

そんなのアンタ以外の全員がとっくに気付いてる

しかもアイツはアンタの甘々な性格もとっくに見切ってる

つまりね、アンタの今みたいな甘々説得なんかアイツに通じないっての

分かってないのはアンタだけ!」

だがそれに対するクラウドの反応は…やはり思った通り、揺るがないようだった。

強い瞳で真っ直ぐに睨んでいるクラウドにレディは諦め、言った。

「……そうね、そうよね、アイツが人の言う事聞かないように、アンタも聞かないもんね

挙句が星を超えてまで来てるんだもんね

はー…、好きにしたらいいじゃない

黙ってろっていうなら黙っててあげるわよ、私は自滅にしかならないって分かってるけどね!黙ってるわよ!」

「迷惑かけてごめん…」

天を仰ぎ両手を広げ嘆いた後、レディは

「ま、一応言うけど、負け試合なんかしないで今すぐ遠くへ逃げたら?

無理よ、ゲームオーバー

でも言っとくけどアンタがやってきた事は無駄じゃなかった

アンタの甘々子育てのおかげで上級悪魔のエリアス、下級悪魔のザックス、彼らはまるで人間みたいよ

あの子たちの成長は今までのこの世界には在りえなかった素晴らしい兆候

魔界も今はスパーダ一族が支配者だし、地上にはツォンもレノもエリアスとザックスもいる

この世界は変わるかもしれない

でもセフィロス、アレは生まれついての邪悪。そういう風にしか育たない奴

どうしようもない事なのよ

私に言わせれば、今のアンタにできることはとにかく遠くへ逃げること

またアンタのろくでもないトラウマを増やす羽目になる。断言できる。アイツの眼の届かない遠くへ逃げなさい!」


クラウドがこの世界に来て生き死にを繰り返し苦しみしとどに涙を流していた時の姿がレディの目に焼き付いていた。

あまりにも憐れで、どれほどの酷い体験をしてきたのか、うっかり拾ってきてしまったことを後悔した。

目覚めたクラウドの気の強さ、優しさから、その傷の癒せない深さが伝わってきて自分まで恐ろしくなった。


「逃げても意味がない

この星の造魔がどうかは知らないが、俺らの場合は距離なんか関係ない

セフィロスが望めば俺は星の裏側にいてもアイツの人形になる

だから…でも!

アイツは約束した事は守る奴だから!

俺はアイツに約束させる!だから!」


………つまりクラウドの今後は悪魔セフィロスの胸一つにかかってる、と。

自分で言ってる意味が分かってるのかしら…レディはため息が出るばかりだった。


あのさ、ホント分からないんだけど

距離は関係ないって言ってもさすがに次元が違えば解放されたんでしょ

なのにわざわざ追いかけてきてまで、しかもアイツを大切に守って、育てて

アンタがアホなのは知ってるけど、一体何がしたいの

フッ…と俯きながら溜息を吐くように微笑んだクラウド。

ヤダッ…この子、こういうところが独特なのよ!腹立つ!

儚げっていうか…フェロモン溜息っていうか、こんなモンスターに囲まれた場所で色気出してんじゃないわよ!

私より長く生きてるジジイのくせに!よくも”儚い”なんて言葉が似あうわね!恥ずかしいと思いなさいよ!チッ、何だっての!


「アイツはこの星に来て直ぐダンテに撃破されて死んだ

でも本当は、その前にもうアイツは自分を捨ててた

だからアイツの元々の支配者に乗っ取られて、あんな人間の跡形もない状態になってた……

言ったろ?セフィロスも元々は造魔だったって」

「あぁ、、ダンテの店の時…」

「アイツの大元の主は俺が殺した

だからアイツを操作する奴はいなくなってた

でもアイツ自身がアイツを放棄してしまったから、アイツの細胞から主が復活してしまった

俺は、アイツが悪魔なのは知ってる

でも俺はアイツがそういう奴だって知ってて追いかけてきたし、育てようと思って育ててる

だから俺が利用されるのならそれはもう、俺が駄目なんだ

だから俺がどんな事になったとしても覚悟ができてる

………それに俺、前の星で最低の事をしてたんだ…何人もの人を傷つけて、壊した

アイツの造魔になる前の事だ

俺、本当に取り返しのつかない事をして……それでも……そのまま逃げて、覚えてたら都合が悪かったから…忘れた

ずっと、忘れてた」

「…何なのよ、何を忘れてたのよ。この際だから言いなさいよ」

「いい、アンタに関係ない

でも、もう1つアンタに頼みがある」

「……何よ」

「もし俺がアイツに操られて、誰かに危害を加えそうになったら、俺を殺してくれ

アンタも知ってる通り俺は死んでも細胞に寿命が来ていない限りは復活する。何度でも復活してしまう

でも殺せばその時の暴走を止められるし復活するまでの時間を稼げる

嫌なのは分かってるが、頼む

俺は前の星でたくさんの人を傷つけて償わずに逃げてきた最悪の奴だからさ、気にしなくていい

アイツが罪人なら、俺も罪人なんだ。ろくでもないのは負けてない

セフィロスに操られたら、今度こそ、自分でやった事の責任を取りたい

頼む」



……何言ってんのよ。


アンタの悲壮な覚悟なんかアイツには通じない。

アイツは約束なんて守らない。

セフィロスが今、大人しくしているのはアンタを利用するためのポーズ。

知ってるのよ、情報が入ってくるから。

アンタはアイツの邪悪さを理解してない。

壊されるのが見えてるのに………こんな奴どうしたらいいのよ……。


不意に、夜の沈黙を破るようにクラウドの携帯が鳴った。


「…マリー?

「え?マリー?」

今は午前0時、神学校の寄宿舎は就寝時間のはず。

この時間の電話は規則破り…マリーがそんな事するなんて余程緊急の…。

「マリー、どうした?」


携帯の向こう側で何かを話している声がする。

クラウドは何も返事ができないままどんどん青褪めてゆき、そのまま倒れそうになって......チッ!マジでイラつくわ、このクソガキ!!

携帯を取り上げ、突き飛ばしてやった。

フラフラするくらいなら座れってのよ!本当にいちいち要領が悪い!そんなんだからアイツがとっくに成人してるのに気づかないのよ!バカ!!


「マリー」

『あ、ママえ、、どうして、、あ、私、、』

「マリー、今クラウドに言った事をもう一回私に教えて」

『あ.あの…セフィロスくんから電話があって…"クラウドは自分の知ってるどの造魔とも違う。何でか知ってるか"って聞かれたから、あなたの造魔だからでしょ?自分からできてるんだから誰と違って見えるのも、…当たり前…"って………』


やられた……やっぱり!ほらみなさい!何が「約束」よ、バカ!いきなり出し抜かれてる!……あのクソ毒蛇!……ていうかマリーもあの時は4歳だったわよね?あの時1回きりの会話をよく理解して覚えてたわね…ウチの子、もしかして天才?

「…わかったわ。ありがと、元気で頑張ってね、マリー

ママも頑張ってる。愛してるわマリー」

『ママわ、待っ...ヒッ...ママ私、言ったらダメなことっ…!?ママァ

「大丈夫よ。何もダメな事なんて言ってない

でもマリー。あなたは暫く会ってないから知らないけど、セフィロスはもう大人よ。あなたよりずっと。体は少年だけど中身は狡猾な蛇。立派な悪魔に育ってる

気をつけなさい。これからアイツと話す時は狡猾な悪魔と話してると思いなさい

とりあえずセフィロスの携帯は着信拒否しておきなさい。会いに来ても会っては駄目。偶然会っても絶対に気を許さない

いいわね、マリー。セフィロスは悪魔!狡猾な蛇に噛みつかれて、アッという間に全身に毒が廻ってしまうわよ。最大級に気をつけなさい!でなきゃあなたの巫女のキャリアはそこでストップしてしまうわよ。気をつけなさい!」

『ママ...私、ヘグッ......私、、ママァ...

受話器の向こう側からの泣き声が酷くなる......マリー...あなたが悪いんじゃない。

悪魔とはそういうもの。仮面を被って油断させ、足元を掬い喉元に噛みつく

真っ青な顔したままのクラウドが携帯をとり返した。


「マリー、大丈夫だ

こっちは何も変わりない

学校は大丈夫か?意地悪されてないか?」

『クラ、…わ・わた......ひっ...クラウロぉ……へぐっ』


泣き虫のマリー、変わってない…マリー…なんで、あんな時のことを覚えてた……

「本当に夜遅くにアイツが迷惑かけた

怒っておくからごめんなじゃあな

空元気で携帯を切った瞬間にクラウドは地面に崩れ落ちた。


…言わんこっちゃない。

何が『償わせてほしい』よ!本当の咎人はアンタみたいに苦しんで泣いて赦しや助けを乞うたりしないっての!バカ!!

「悪魔は誰がどう育てようとも悪魔にしか育たないの!わかった!?」

……………ア、アンタは本当のセフィロスを知らない

前の星じゃ本当に誰もが憧れた英雄だったし、何度もアイツを殺した俺を、アイツは命を削って助けてくれた

アイツ、俺に血を分け過ぎたせいで立っていられなくなるくらい分けた!そんなんでモンスターと戦った!そんな馬鹿な事をするような奴なんだ!

アイツはマトモになれるんだ!今度こそマトモに生きなきゃ駄目だマトモに生きてほしいんだ俺がそうなってほしいんだから!俺が犠牲になるのなんか当たり前だ!


クラウドが青褪めたままガクガク震えながらユックリと立ち上がった。


「レディ」

ヒタリ…と真っすぐに私を見た。

あぁ……そう………………やっぱり………アンタは変えないのね。

全く厄介なガラス細工よ。


「アイツが悪魔なら、アイツの細胞で生きてる俺も悪魔だ

だから俺がおかしくなったら先に、造魔の俺を殺してくれ

アイツをちゃんと育てられなかった俺に責任を取らせてくれ、頼む

「………」

ウンザリよ。何コレ。

本当に……バカじゃないの…。

冗談じゃないわ!そんなものに誰が付き合うかっての!真っ平御免よ!

「アンタには迷惑ばかりかけて本当に悪いと思ってる...本当にごめん

………じゃあ……。マリーも傷つけてしまって……ごめん…」


そうして、すっかり相棒になったアイアンホースと共に月夜の闇に融けて行った。

なんだかアンタが弱々しい分、アイアンホースが気遣ってるように見える。


馬鹿ね。


馬鹿


人を見る眼もないくせに!あんな悪魔丸出しの奴にいつまで騙されてるの

腹立つ……。

なんで私がアンタを殺さなきゃならないのよ!馬鹿じゃないの!

アンタ私が育てた弟子なのよ馬鹿!!

弟子なんて面倒なものを取らない主義の私が我が家へ迎えてまでアンタを育てたのよ

分かってないけど、育てる方にだって色んな思いがあるのよ馬鹿

馬鹿馬鹿!!

誰が私のご飯作るのよウチの掃除、誰がするのよ誰が私のバトルをサポートするの!!

なんであんたはそんなに馬鹿なのやめてよ…もう誰も私の周りから消えないでよ……


セフィロス

お前がクラウドを傀儡化した時がお前の終わる時よ。

私がお前の首を落とす

クラウドは殺さない。だってウチの大切なハウスキーパーだもの

造魔は主を無くせば自由になれる。

セフィロスがいなくなればクラウドの本当の人生が始まる。

クラウド、弟子が生意気に師匠に要求するんじゃないわよ。

私は私の思うようにしか動かないのよ!


「ファァッックッッ!!!


月夜にデビルハンターレディの雄たけびが吸い込まれて行った。







「クラウド」

夜明け前、仕事から帰って来るのを待っていたセフィロスがエントランスで呼び止めたが、クラウドは一瞥しただけで歩を緩めずそのまま通り過ぎた。


「クラウド

無視された事に戸惑いながらももう一度呼び止めた。


「…………マリーに電話しただろう」

追いかけるセフィロスを振り返りもせず、歩き続けるクラウド。

セフィロスは戸惑いながらも後を追った。

「した。クラウドが俺の造魔だって聞いた。本当なのか?」

歩を止めたクラウドはコンクリートの上をジャリ...と音を立て振り向いた。

夜明け前、月明かりの大聖堂廃墟、そんな微かな音も大きく響く。


「何故直接俺に聞かなかった。何故騙すようにマリーに聞いた」

射抜くように見るクラウドのきつい瞳は、真っ直ぐにセフィロスを責めている。

「クラウドが正直に答えるとは思えなかったからだ

俺に教えたくなかったからバトルを途中で抜けたんだろ

だから昔の事を知っているマリーに聞いた。騙したわけじゃない

俺は知っているか聞いただけだ!」

 

セフィロスの返事に何も答えず、クラウドは再び階段を上り始めた。


「クラウド

セフィロスは走って追い越し、1段上の階段に廻り込み立ち塞がり、その歩みを無理矢理止めた。

自分を見下ろす目線の高さになったセフィロス。


…レディ…………どうしたらいいんだ……


どこで間違ったのだろう。どこが違うんだろう。

どうすれば軌道修正ができるんだろう……1段上のステップから自分を見降ろすセフィロスをジッ…と見つめたまま必死に考えた。

真っすぐに一切の悪びれも気後れする事も無く、射貫くように見返してくる視線。

たまらず目を逸らしたクラウドは、1つ溜息を吐いた。

立ち塞がるその横を通り越してダイニングに入って椅子に座りまた溜息を吐き、後から付いて来たセフィロスに指でテーブルの向かいの席を指した。


何も話してないうちにセフィロスの造魔だとバレた。

…長くなってしまう話だったので席に着き、ちゃんと向かい合って話すことにした。

が、ダイニングに入って来たセフィロスが座ったのは促された向かいの席ではなく、なんとクラウドの膝の上だった。


「は!!??


しかも、椅子に座るクラウドを跨ぐ様に座り、そのままピタッと抱き付いて来た。


「な、え!?えぇ!?!?

「クラウドは俺のもの?」


予想外の更に斜め上の更に圏外行動に思わず動揺し、条件反射でその肩を押して剥がそうとしたが、セフィロスはピタリと抱き付いたまま剥がれない。


「あ、え、え!??


何だ!?あれ何これナニコレ!?

俺は何を間違った?あれ!?どこで間違った!?

以前我儘を言ったマリーを諭したレディとどこが違った

レディが怒る時、マリーはちゃんと大人しくダイニングの向かいに座った。

..?……?あれえー…と。

あの時レディはどうやって席に着かせた………あ、あの時は俺が席に着かせたんだ!それにそもそもマリーはレディに口答えなんかしなかった!

お、俺はどうしたら!?

あ、あ!!少なくともこれは真面目な話しをする体勢じゃない!……よな

これは駄目だよな!?これは怒るべきだ!


動揺激しいクラウドのチープな言語と繊細な思考は既に崩壊していた。


「クラウドは絶対に俺が守る

「お、おお降りろ

クラウドの膝の上に座る事で目線が上になったセフィロスが見下ろしていた。

動こうとしないセフィロスを無理矢理降すため、腰を支えて降ろそうとした。

が、セフィロスは支えられて膝から降りるふりをしながら再び上体を前に倒し、抱き付いていた両手を腕から首に上げてゆき、クラウドの唇に軽くキスをした。


……ウッカリ……

あまりに自然なフェイントキスに呆気にとられ、一瞬思考が停止したクラウド。

やがて…今のは事故じゃない…と冷静に、ジワジワと頭の芯が理解し始めた。


セフィロス歳…。体格は成長が異様に早く、16歳くらいにはなっているが、それでもまだ生まれてから年しか経っていない。

何で…何が………何だこれ?どういう意味のキスだ?

いや、いやいやこんなキスは教えてない。意味も何もないだろう?

「なな、さ、ささっきから何なんだ!!な、何なんだ!!ふざフザ…

激怒のあまりやはり言語機能が崩壊しているクラウドだったが、セフィロスは首に回した腕を解く気配はない。

「ふざけてなんかいない

逆に聞くが今、俺が何をふざけてると思うんだ、クラウドは」

「え


ええ……ふざけてない……えーと、ふざけてない……あれ俺は何をふざけてると言った

残念ながら言語も思考もパニック中のクラウドは完全にセフィロスのペースにハマっているカモネギ以外の何ものでもなくなっていた。


「クラウドが俺に言いたいのはマリーに謝れって事なんだろ

だったら明日謝っておく」

「え、あ...えっと……うんマリーは傷ついてた

「分かった」

分かったって...あれえーと、えーと、違うそれは違う

全然話が思う方向に行かない…どうなってんだ!

戸惑い、こんな時レディはどう言っていたか、どうやって話していたか…と思い出そうとしたが、レディに”アンタじゃ無理”と言われたことを思い出してしまい、次の言葉『ほらね?』も想像がついてしまった。もうクラウドは泣きたくなった。


「とにかくマリーの不信感は消えなくても、せめて謝っておけ。傷つけたんだから

昨夜マリーからの電話で激しく動揺していたクラウドはセフィロスが既にレディによって着信拒否設定&面会拒否リストに入れられたことにも気付いていなかった。

もう何もかも全然ダメダメなのを後日クラウドは知ることになる。

「分かった

それでクラウド、明日から俺を仕事に連れて行ってくれ。もっと強くなりたい

「………………」


違う。全然違う何一つ伝わってない…というよりも、むしろセフィロスの思い通りに誘導されている気がして仕方がない!どう言えば通じるのか。

どう言えばセフィロスに”罪悪感”を理解させられるのか、そう、それを分かってほしい!どう言えば...

セフィロスは元々の資質が邪悪だ。でも凄く器は大きいし優しさだってある!だから更生できないわけじゃない!

だけどどうしたら道理を理解させられるんだ!?


クラウドはとにかく一度仕切り直すことにした。

「どけ。もう風呂入って寝る。お前は皆の所に行け

バトルには連れて行かない。そんな事をしてたら仕事にならない

そう言いながらセフィロスを膝から下そうとすると、ギュッと首にしがみついて来た。が、立ち上がりがてら首に回された腕を掴んで解き剥がし下した。

「クラウド

無理矢理降ろされても服を掴み離れまいとするセフィロスを見つめた。

「俺の望みはお前にユックリと大人になっていってほしい、それだけだ

それでも服を離さないセフィロス。

その手を握り、指を一本一本剥がしていきながら言った。

「セフィロス、本当に俺は大丈夫だ

それにお前が強くなりたい、大人になりたいと思うなら、頼むからユックリ丁寧に俺に育てさせてくれ

俺はどこにも行かないし必ずお前を凄く強くしてやる。必ず誰よりも強くしてやる

だが急いで大人になると必ずどこかに穴ができる。急げば急いだ分だけ大きな穴ができる

いつかその穴がお前の弱点になる

お前はたくさんの才能に恵まれてる。恵まれ過ぎてる

だから周囲もお前自身もたくさんの事を当然の様にお前に期待する

でもお前はまだ歳の子供なんだからそんなものに応えなくていいんだ!誰に望まれても応えるな!お前自身にもだ!

セフィロス、子供でいる今の時間を大切に、丁寧に過ごしてくれ

お前はたくさんの才能に恵まれてるから、忘れてしまいそうになったら思い出せ!

自分に子供だって言い聞かせて子供に戻れ

大人の時間は嫌というほど長い、頼むから2度と手に入らない今の時間を大切にしてくれ」


全て剥がし終わったセフィロスの手を握り直し、瞳を合わせた。

「本当に強いソルジャーになりたいなら俺の言う通りにしてくれ

必ずお前を隙の無い本物のソルジャーに育て上げてやるから」

そんなクラウドをジッと見つめ返すセフィロス。


つ。絶対に嘘をつかないで答えてくれ」

「うん

「クラウドは誰のもの


夜中ベッドの隅に座り、休んでいるクラウド。

昔の星の話をしないクラウド。誰に聞かれてもどんな星だったのか生活だったのか誤魔化して答えない。

何故クラウドは卵に入った俺を持っていた。

俺がクラウドの主だったなら絶対に手放さなかったはずだ

なのに何故、クラウドは卵の俺を持ってこの星に来た

クラウドは造魔であることを隠していた。

人形が人形であることを隠すメリットは何だ?

クラウドは本当に俺の造魔なのか?

突然誰かに奪われたりはしないか。

自分の話をしない、そして親しい友も作らないクラウド。

コミュ障の一言じゃ片付けられない、絶対に何か重要な事を隠している。


「俺は俺のものだ」


16歳で時が止まっているらしいクラウド。

大人の男には無い細い腰。青年になり切らない体形。

お前が悪い。つけ入る隙をいつも見せてるお前が悪いんだ。


「風呂から出たら一緒に寝る」

「いや、だから...

言いかけたクラウドを遮った。

「一緒に寝る

「セフィロス、眠ってないんだろ今日も学校がある。ちゃんと寝ろ

「一緒でないと寝ない


腰に回した手をギュッと絞めてきつく抱き付いた。

今を逃したらまた当分クラウドの接触嫌いに付き合わされる羽目になる。

誰にも許していないからまだ俺も許していたが、唯一許されるボディタッチが手を繋ぐだけとか、いい加減馬鹿々々しくて付き合い切れない。



意外に使えないマリー。

だがあの露出狂女はもっと使えない。アイツは危険だ。

ツォンとレノは計画立てて環境を固めてからでないとこっちが火傷をする。

とりあえず当面のターゲットは露出狂の昔の話に出てきたネロとかいう高等悪魔だ。

ネロはエリアスの従兄。

だったら地上にいた頃のダンテと付き合いがあった筈だ。ならばネロがダンテから有効な情報を受けている可能性は高い。

あとはソイツをどうやって探し出すかだ。

高等悪魔は目立つから見つけるのは簡単だが、俺が探しているのがバレたらきっとクラウドは道を塞ぐ。

追跡の過程で露出狂の持っているネットワークに引っかかるのも危険だ。あの女は俺を敵認定している。

その両方の眼を避けて探すとなると……


「今日だけだぞ

溜息を吐き答えたクラウド。

甘いな、本当に。

クラウド、お前のそんな甘さが好きだ。簡単な大人だ。

”子供でいる時間を大切に”…か

勿論そうする。

俺が子供扱いされている今のうちに、クラウドのガードが緩い今のうちに至近距離に入っておく。

できれば素肌に触っても拒絶反応を起こさないくらいの距離感にまで入っておく。

本音は今すぐ俺のものにしてしまいたいが触られる事を極端に嫌う今の状態では時間をかけるしかない。

単純な性格のくせに落とす難易度が高いが、それだけ誰にも触れさせていないという事だ。

良い事だ。

俺の造魔だというのなら手に入れるのも容易いだろうが、そんな形で手に入れてもつまらない。

クラウドの全てが欲しいから。


「ずっと一緒が良い

「じゃあダメ。俺は独り寝が習慣だから。もう変えられないから」

「ならたまに

クラウドは噴き出し、俯きクスクスと笑い続ける。

可愛いな、本当に。

こんなに可愛い男、欲しくなるのも仕方ない。

クラウドの強固な接触嫌いを破るのは俺だ。他の誰にも触れさせない。

邪魔な奴は排除する。


「変な会話だ。金の交渉みたいだ

腰に回した腕、手首を掴んで剥がされた。

「ゆっくりゆっくり大人になって、ゆっくりゆっくり強くなる。一人では強くならない。約束できるか

流れ的に頷いておいた方がいいと判断し頷いた。

美しく微笑み頭を撫でられた。

「じゃあ、先に俺の部屋に行ってろ」と、クラウドが歩き出した。

「あ俺、クラウドの背中流してやろうか!?

「いらない

また笑った。

分かってる、俺がそうしたいから言っただけだ。

第一線で戦い続けてるくせに重要な部分が抜けてて、誰よりもきれいで可愛いクラウド。

必ず手に入れる。



クラウドがお風呂から上がり自室に戻るとセフィロスがベッドの上で機嫌よく座っており、隣をポンポンと叩いた。

ザックスと同じ行動に思わずクラウドは笑ってしまった。

クッションを壁に立てかけ背もたれの様にして座ると、セフィロスが「部屋の電気消す」と一度ベッドから降り、電気を消した。


窓から差し込む上弦の月明かりだけがセフィロスのシルエットを浮かび上がらせる。

そしてベッドに戻ったセフィロスはクラウドの隣ではなく、足の間に入ってきて、その身体を背もたれの様にして座った。

またまた…予想外の更に外の大気圏外の行動に驚きビクついたクラウドだったが、セフィロスの堂々とした引かなさに…どうやら今日はくっつきモードに入っているらしい、と浅くおめでたく解釈し諦める事にした。


「あのな、こんなの今日だけだぞ俺、くっつくの本当に苦手なんだよ」

困ったように言うクラウドを、月明かりの部屋の中セフィロスが振り向き、顔半分を仄かに照らし言った。

「知ってる。クラウドはくっ付かれるのも触られるのも嫌い

でも今日は特別!…だろ?

そう言ってセフィロスはクラウドの両手を掴むと自分の身体の前まで持ってきてクロスさせた。


背中からセフィロスを抱きしめる形になり、えー...これは...さすがに嫌だ、と手を解こうとするとセフィロスが握ったまま抵抗をした。

「眠い。もう限界。動くな」

そう言うとセフィロスの体重がズシッとかかり、頭が頬に寄りかかってきた。


サラサラの銀の髪が月明かりに照らされ微かに輝いていた。




翌日、子供たちが学校に行っている時間帯。


「スコール」

『何だ

今までは呼べばすぐそこにいたのに何故か声が頭に響いて来た。


「相談がある」

分くらいかかる』

…分かった」

何でだ遠いところに行ってるのかいや、そもそもスコールに距離は関係あるのかと、思う間に下のフロアに人の気配がした。

今この聖堂には自分と爆睡中のレノしかいないはず。

歩く靴音は確かに人間のもの。

だが玄関から入ってきた気配もなく、そもそも下のフロアは魔界との通用門と正門、昔のセフィロスが戦ったホールがあるだけ。

靴音は階段を上って来ている。

何にしても下からやってきたのなら魔界の住人、靴音がしているということは人間型。

正門は今は封印されているから上級悪魔や能力の高い造魔ではない。

とすると通用門を使える中堅以下の魔族か、ツォンくらいかと思うが、ツォンはそもそも歩いては昇って来ない。歩いたとしても足音が違う。

だが聞こえてくる靴音が……どうもどこかで聞いた事があるような...歩き方に癖がある。

悪魔の足音じゃない。奴らはもっとキレイな音か、そもそも音をさせずに歩く。

この少し踵を引きずるような靴音……

どこかで聞いた……あ!!


「久しぶりだな、クラウド」

「スコール


人間だった時のスコールがまるで訪問するように部屋に入ってきた。

髪が短くカットされていて、服装もカジュアルなTシャツとデニムスタイルをしている。


……カッコイイ………。


「ど・どうした

「えそれは俺の方のセリフだと思うが」

スコールが艶やかに笑う。


キレイでカッコイイ男……。


「髪が短い

「ああ、切った。つい今まで魔界で遊んでた

そのままこっちに来たから短いままだ」

「え

そう言いながらスコールは人掛けソファの真ん中に座ったのでクラウドはベッドの方に腰かけた。

「あー、髪を切っても一度真体に戻るとまた髪が長い状態に戻ってしまう

思念体になる度に切るのは面倒だからいつもは長いままだが、さっきまで魔界で遊んでて、そのまま来たから短いまま

そういえばダンテが言ってたぞ"クソ悪魔が迷惑かけて申し訳ありませんでした。今後何か困った事があれば何でも協力します"って、何かあったようだな

「あー…、うん。それでちょっと相談があるんだが……」

起きた事をどうスコールに説明しようか考えている時に、クラウドは妙な事に気が付いた。


「スコール、下から来たってことは魔界への通用門を使ったのか

「そう」

「でもあそこは中堅クラスの悪魔までしか出入りできないんだろ

「悪魔はな。俺には関係ない

元々魔界に行ったのもあそこを使ったわけじゃないし

でも今は面白そうだから使ってみた。なかなか手の込んだ門で面白かった

「お前、何でもアリだな」

「だったらいいけどな」とお手上げのポーズを取った。

どうかしたのか

スコールは少し思案する様に沈黙した後、座っていたソファーのひじ掛けに足を乗せ、もう片方のひじ掛けに頭を乗せ寝そべった。

行儀の悪い恰好だが、そんな姿もまるで映画のワンシーンのようにキマっている。


「欲しい鍵がある。その鍵はこの世には存在しない。

創るしかない。創り方は分かっている

ただその創り方でカギを手に入れられる確率はgoogolpiex分の1であり、創れるチャンスは回のみ

それで失敗したら二度とそのチャンスは巡ってこない

ただし無数のパーツを集めていくことによって鍵ゲットの成功率を上げていくことはできる

ただしその無数のパーツっていうのも簡単には集まらないし、パーツゲットのチャンスも大抵回しかない

そのパーツゲットのチャンスを今回は逃した。そのストレス解消に魔界に行っていた

ま、そこそこスッキリしたし、また次のパーツゲットのチャンスにかけるんだがな

とにかく難しい

クラウド、お前ならこの難易度MAX鬼縛りプレイの鍵ゲットにチャレンジするか

「……よくわからないんだが、そんなに価値のあるものなのかその鍵」

「鍵は鍵だ。そこには『開かずの門』がある、はず……」

「ハズ

「門も創らなければならない。だが門は鍵を創った先にある…はず

ともかく鍵を作るのが全ての大前提になる。鍵ができて初めてその先に進めるようになる…と思う

価値があるかどうかは分からない。ただ興味がある」

「開かずの門と鍵を創る...か、......俺なら、やるそんなに難しいの面白そうだ!何が出てくるのか知りたい!興味ある

「だよなやっぱりそうだよな!やらずにはいられないよな!?お前なら通じると思ってた

スコールがガバッと起き上がって嬉しそうに笑ったので、クラウドも笑ってしまった。


「ただその無数に集めていくパーツが本当にいちいち難しくてな……今回みたいに予期せぬところで予想外の方向に転がるし」

「うーん、難しいってとこ、俺、今なら良く分かるぞ…俺は失敗してばっかりで全然ダメダメだけど

てか、それを今日相談しようと思ってた」


再びソファに寝そべり顔だけをベッドへ向けたスコール。

仕草でクラウドの話を促した。

「うん......

今の状況をどう説明したらいいのか分からず、クラウドが拙い語彙の中で言葉を選んでいると、

「あー...お前、押されると弱いもんな口も廻らないし

言いたかった、聞いて欲しかった色んな工程を全てすっ飛ばしてイキナリ核心を突かれて言葉に詰まった。


「大丈夫だ。確かにお前は流される体質だし、セフィロスは強引に押し切るタイプでお前らある意味お似合いだが、なるようになる」

酷い云われようにクラウドがスコールを睨んだ。

「そりゃなるようにはなるだろうさで、今言った中のどこに俺が"大丈夫"な部分があった!?

「お前以外が大丈夫!アイツはもう昔みたいな巨大なアホにはならない。だが所詮アホはアホ、ロクなものにはならないが今度は少しはマトモに育つ…んじゃないか?

ただ、事、お前に関してはアイツは拘る。絶対に引かない。そこは諦めろ。無理」


拘る・引かない・諦めろ・無理と連続で畳みかけられ、ガックリと項垂れたところに更に…


「あきらメロン」


連続目であまりにも軽く言われさすがにキレた。

「お前えぇぇーー他人事だと思って

思わず走って寝そべるスコールの上に乗りあげそのまま首を絞めた。

温かい……」

触れたスコールの首、体に伝わってくる温かさに驚いた。

「あぁ、別に温度を上げようとしなくても思念体になって時間が経つと段々熱を持ってくるんだ

段々リアルに近くなっていくって感じかさっきまで魔界にいて思念体になって結構経ってるからな」


スコール…………温かい……


「これは俺だけじゃないぞ思念体を持つ召喚獣は大抵はそうだ。ヴィンセントもあの美人さんになってる時は体温があっただろ

上体を倒し、スコールの胸のあたりに頭を付けた

「……心臓の音がしない」

「無いからな。ついでに息もしてないから首を絞めても意味はないぞ

「重くない


体の上に大人の男人が乗っているのに全然リアクションが無い。

「だから今の俺は思念体。重さとか関係ない」

「………そっか…」

何となく、スコールの上に座った態勢だったのを足を延ばして完全に上に重なり寝そべった。

「これは

「うっわすっげえ重い潰れる

「テメ……」


思わず笑ってしまったらスコールも楽しそうに暖かく笑った。

だからそのままスコールをソファ代わりに、同じ様にひじ掛けに頭を乗せ、足をかけた。

温かい……

目の焦点も会わないほどの至近距離。


スコール、温かい…


スコールが天井を向いたまま話した。

「クラウド、たった一つしかセフィロスに望めないとしたら、お前はアイツに何を望む

「何だよソレ」

「アイツの親としてでも、眷属としてでも、ソルジャー同士としてでも、同星人としてでも何でもいい

たった一つ、お前の望みがアイツに適うとしたら何を望む


一つだけ…


「どうしたらいいのか分からなくなる時は大抵は焦点がボケて自分の足場が視えなくなっていたりするもんだ

お前もアイツも頭が悪いからいくつもは叶えられない。

たった一つ。そこに照準を合わせたらいい。

お前はアイツに唯つ、何を望む


つ…セフィロスに望む事……


「……今度こそ生きる意味を知って、幸せだと思える生涯を送ってほしい」

「アウト。今つ言った」

「ケチ

「えー

スコールを見つめた。


…………カッコイイなぁ…


つかぁ……たったつ…望むのは……


「今度こそアイツが幸せだと思える生涯を送ってほしい」

「ファイナルアンサー

「うん」

「アイツの幸福はお前と共に生きる事

お前を愛でる(めでる)事

アイツはお前さえいれば、そこがどんな環境であろうとご機嫌

お前がいてこそセフィロスの正気が成り立つ

何度生まれ変わってもそこは変わらないセフィロスの形

お前にジェノヴァ化からの逃げ道が無いように、アイツにもお前からの退路なんか最初から無い。どの世界に行こうとも

という事で、決まりだなお前がアイツにしてやれることは

簡単で良かったな後は行動あるのみ

「待て、待て待て

思わず肘をついて上体を起こし焦点を合わすようにスコールを見下ろした。


「それは無理。嫌だ

「ナルホド、ならアイツの幸福な生涯ってのは無しだ。簡単だな

「待て待て待てって

だ、だってお、俺はアイツよりも先に死ぬからそれは無効だ

「なんで人間が二人いればどちらかが先に死ぬのは当たり前だろ

要するにお前が死ぬまでにそれだけのものをアイツに残してやればいいだけの話だ。コレ、ファイナルアンサーな!」

「いや、待て待て待て

アイツ、バージン信仰だったよなだよな

だからこの星に飛んだんだよな俺、アウトだから

「……何だソレ

あれ

いかにも意外そうなスコールの表情。

あ、あれ違ったっけ俺、スコールから聞いたんじゃなかったか

「そもそもあんなザルな性格した奴が、そんなものに拘るわけないだろ


でも……いや……でも、確かに聞いぞ


セフィロスは……バージン好き……あれ清純派好きとかだったか?あれ?


どこかで………確かに聞いた、…どこで………いつだった………違った


セフィロスは………いや…違う。英雄は……


『英雄は』……………『お前の様な』……



…………蜂蜜色の……




身体が硬直した。



『神羅の英雄は、お前の様な』



思い出すな




思い出すな


「あ……」


『お前の様なノルディック系美少年が好きなのだそうだ』


…………止めろ…


汚い……汚い



ぎいぃぃぃ……!



泥棒



ドブネズミ



違う!

切り替えろ

ぎいぃぃぃあぁ………!


違う


終わりだ


俺は何も知らない

何も




突然、スコールに背中を叩かれた。


トントン……トントン……トントン……トントン

ノックするような一定のリズム


気がつけば、そのまま下から抱き締められていた。



重なる身体が温かい……



…消えた。




……そうか、スコールが消したのか………


消えない罪……


……汚れ……




「お前は厄介な蟲を飼っている」



「凄く珍しい蟲だ

僅かな人間にほんの一時生息し、いつの間にか出て行っている

その蟲と似た蟲が俺の中にもいる

物心ついた時から、そして未だに棲み続けている

出て行く予定はないらしい

お前に棲み付いた蟲も出て行く気はないようだ

お前はその蟲にいつも振り回されてる」


スコールの指が言葉に合わせ何度も髪を梳き撫でてくる。

同じ…


何度も何度も……優しく…撫でてくれて…


優しかった


忘れようとして忘れた


蜂蜜色の優しい瞳…。


「その蟲は人を狂わせる

俺らの意思に関係なく、取り巻く何もかもを狂わせていく

その虫に 中 てられ通常では得られない幸福感を得る者もいれば、この世の地獄を味わう者もいる

その蟲のせいでどこまでも昇っていく者もいれば、際限なく堕ちて行く者もいる

その蟲に棲み付かれている者は、ある者には被害者面されながら強奪され、断罪され、唾棄されることもあれば

ある者には神の様に崇められ、身を裂き内臓を取り出され捧げられることもある

生きている事自体を否定される時もあれば、出会えたこと、同じ時代に生きた事を神に感謝する者もいる

その蟲のせいで周りの何もかもが狂っていく

その蟲の存在は宿主の意思とは全く関係が無い

クラウド

だからお前の中にいるその蟲をもう認めてやれ

お前がその蟲の存在を否定し続ける限り、お前はお前自身を責める事になる

狂わせているのはお前じゃない、お前に棲んでいる蟲

もう、その蟲を認めて赦してやれ

お前の過去を許してやれ、お前は悪くない。お前の蟲も、誰も悪くない

お前が蟲の存在を赦した時、お前はちゃんと眠れるようになるし、今よりも遥かに自由になるし、セフィロスの渇望の深さにも気付く」

「……………」

うん……

「ニブルヘイム時代、神羅時代、その後のお前の30年をセフィロスは知っていた

当然だ、アイツはお前とヴィンセント以外のソルジャー全員と記憶のリユニオンをしていたのだから

アイツはとっくにお前の全てを受け入れていた。お前が認めていない事も全て、そして知っている事も黙っていた。お前が傷つくから

アイツがお前の前から消えたのは、あのラクーンでのたった一瞬で怒り狂い、挙句ジェノヴァの力を使いそうになったから

だからお前との約束を守ってこの星に飛んだ」

「……俺のニブルヘイム時代も神羅時代も知ってたのか?」

スコールの温かい腕の中……安心したせいか涙が出てくる。


「アイツが何回ライフストリームを潜り抜けて来てると思ってる

お前だって一度はライフストリームに落ちてるんだから、どんなところか分かるだろ?

ニブルヘイム時代を合わせて、お前の周囲の誰も死んでないわけないだろ

それにリユニオンってのは力だけじゃない、知識も記憶も全部吸収されるんだ

お前の秘密の関係を知ってたソルジャーがいたんじゃないのか?

ソルジャーのその記憶、その目で見たもの全てがセフィロスに吸収された

お前はライフストリームに落ちて呆けたが、セフィロスは全ての情報を吸収するだけして正気のまま戻って来ていた

お前は何度もアイツをライフストリーム送りにした

その度にアイツはライフストリームでお前の情報NEWを吸収して戻って来ていたんだ

アイツはお前の何倍もお前に詳しかったぞ」


「………」

「あのセフィロスはニブルヘイム時代にお前がどんな子供だったのか、どれほど母親を慕っていたのか

神羅時代にお前に起きた事件も、お前を守り抜いた奴も、その後の30年も、決して自分が許されないだろうことも全部知っていた

全部知った上でお前を追いかけていたんだ

クラウド

アイツの渇きを甘く見るな

お前がちゃんと向き合わない限り……あの空っぽの器はこの先はロクな事は考ないぞ」


「………」


昔が蘇って……涙が止まらない。

何でこんな所にいるんだろう。

どんなに責められても、酷い目にあっても……幸せだった。

時が止まってくれればよかった

なんで待ち合わせの場所に行かなかったんだ

何で逃げてしまったんだ

…温かくて、優しくて、大きくて……受け止めてくれたのに…



何分か、何十分か経った時にスコールがポツリと言葉を発した


「クラウド」

「……………」

「セフィロスがこっちに来る」


その言葉に急に自分のいる現実に覚醒し、スコールと人きりだった世界からガバッと身を剥がしたと同時に部屋のドアが開いた。


セフィロスと目が合った。


「誰何で泣いてる」

!帰ってくるの早すぎないか!?

セフィロスがスコールを明らか敵意の籠った目で見ている。


""ときたか」

スコールはクラウドの身体の下から抜け出しながら笑いを押し殺しながら、ソファーからドアのセフィロスの真正面に歩いて行き、わざと見下ろした。

「初めまして

クラウドとは古い付き合いのスコールという

まだ学校の時間だろ?何でこの時間にこんな所にいる

それにここはクラウドの部屋、ノックもせずに何を勝手に入ってきている」



心臓がざわつき始めた。

嫌な、嫌なざわつき…

嫌な予感がする……この感覚には覚えがある。

意識が強制的に底の方に押し込まれて行く...この感覚...


セフィロスがスコールを殺すように睨みつけている。

眩暈。胸のざわつき

目の前のセフィロスから伝わってくる。

"殺意"が体の中に入り込んでくる。

相手はスコール。


「クラウドは誰のものでもないと言った」

スコールを睨みつけているセフィロス。

「俺はクラウドを縛るようなことはしない」

セフィロスに艶然と微笑むスコール。

スコールスコール煽るな!!スコール!!駄目だ!!

眩暈が酷くなり、薄れる意識と交代する様にスコールへの"殺意"が鮮明に浮き上がってくる。


スコールは分かっていたように振り向きニッと笑った後で、アクションで何かの呪文を作ったと思ったら、フッと体が軽くなり意識が戻った。

そして気が付いた。

スコールの結界の中に入っている。

…た、助かった…


「クラウド


セフィロスには自分の姿が見えなくなったらしい。


「クラウド


見廻し探している。


「明日には返す」


そのまま一歩下がりスコール自身も結界の中に入った。


「クラウド


セフィロスが探している。


セフィロス


たった一晩のバトル訓練で、たったあれだけで、、駄目だ…もうアイツのジェノヴァが完全に目覚めてしまった…。



喪失の向こう側10    NOVEL    喪失の向こう側12

 

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