喪失の向こう側12(改装中) 夜になって、予定されていたレディとのツインバトルに向かうため、スコールの結界内から出た。 予定では一晩あれば片付けられる仕事だったが追加バトルが発生しそのまま続行、終わった時には陽も高く昇っていた。 2人ドロドロのボトボトに疲労困憊し汚れまくってレディの家に帰り、先にシャワーを浴び、続いてレディがお風呂に入っている間に気分転換がてら昼食&夕食を作り、掃除洗濯を済まし、大聖堂に帰りついた時には15:00を回っていた。 皆の夕食を作るうちに子供たちがそれぞれ学校から帰ってきた。 だが子供たちの様子が妙だ。 それぞれ何かを胸に留めているというか、言葉にしあぐねている様子だ。 ダンテに”造魔”だと言われたからだろうか。 今日こそセフィロスにはハッキリと教えてやらなければならないが、エリアスとザックスには…もう少しセフィロスが落ち着いてから教えようか…などと考えながら食事を作り続けた。 そして夕食時間になりレノも呼び食べ始めた。 レノは魔界属性のくせに人間との接触が深いせいか、栄養にならなくとも人間の食事を好んで摂る。 そしてレノも子供たちの空気がおかしい事にも気が付いていたが、言われない限り他人事には踏み込まない奴なので、やはり何も言わなかった。 「クラウド」 ザックスが何気なく話し始めた。 「ん?」 「今日、セフィロスが学校で…ッダーーーーーッ!!!」 突然セフィロスがザックスの顔に向け食事用ナイフを思いっきり投げつけ、反射的にそれを腕で庇ったことで見事に刺さった。 「ギャーーーーーッツ!!」 ザックスの隣にいて刺さるのをマトモに見てしまったバイオレンス嫌いのレノが本人以上にデカイ悲鳴をあげ一気に戸口に走り、隠れワナワナ震えながら顔3分の1だけ出し見ている。 「セフィロス!なにをやって…!ザックス!抜くな!」 ナイフが刺さったままの腕を掴みキッチンシンクにザックスを連れて行った。 「コレを抜いて水で傷口を洗う。そこまでは痛い。でもそれが終わったらすぐに痛くなくなる。我慢できるな?」 「う、うん!へーき!」 腕が震えて血を流し痛いのは分かっているが、ザックスが漢気で涙も悲鳴も堪えている。 刺された箇所周囲をギュッと握り、その痛みに条件反射で体を引こうとするが固定していて動かさせない。 一気にナイフを抜き、圧迫していた手を離し血が溢れ出すまま水を流したままの蛇口に突っ込んだ。 「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」「ギャーーーーーッ!!!」 ザックスの悲鳴に続いて聞こえてきた悲鳴にイラッとしたクラウド… 「うるさいレノ!お前は痛くないだろ!」と、ダイニングに怒鳴った。 ザックスが全力で腕を引っ込めようとするのを無視し固定したまま、やがて水を止めキッチンペーパーで水を適当に拭き取り 「ザックス、痛いのはもう終わりだ。見てろ」と涙がチョチョ切れている背中を叩き、血を流す腕を指した。 「ケアル!」 フワッ…と暖かい空気が傷口を撫でるとともに、傷口もフワリ…と塞がった。 消えた傷口と痛みに驚き、ザックスが患部を見ていると 「すごいー」 少し離れて見ていたエリアスが駆け寄ってきた。 そして「コレ痛い?」と言いながら消えた患部をパシパシと軽く叩いている。 「うーん……痛くない…?」 「わお!おもしろ~い。僕もやりたいー」 こうなって気が付く。2人はいつもと変わらない。 そうか、セフィロスがおかしいのか… 今といい、何があった。 嫌な予感がした。 「そうだな。今度誰かが怪我をしたら教えてやる。それより…」 「ねー、ザックス。もう一回怪我して。僕が直してあげる~」 「……勘弁して…」 悪意なくサラッと言うエリアスにザックスはたじろぎ後退った。 「エリアス、この魔法は確かに直ぐに傷が治るけど、本当だったらこんなに直ぐには治らない これはザックスの体に借金をして治したようなもので、借金には利息がつくだろ? 見た目ではわからなくてもザックスの身体は今から利息分余計に払うことになる。そうするとどうなると思う?」 「患部を中心に身体全体が本調子じゃない期間が長くなる…よね? でも僕はやってみたいからザックスはもう一回怪我をしたらいいと思う」 エンジェルスマイルで言うエリアス。 「お…俺の体、借金漬けにすんな…」 「へーき!へーき!ザックスと僕、仲良し。僕、魔法やってみたい。ザックス協力する。ねっ?」 エンジェルスマイル。本人も分かっていて微笑んでいる。 「ね、じゃねぇって……」 ザックスがエリアスから腕を隠しながらどんどん後退っている。 「エリアス、確かにお前はちょっとやそっとの怪我くらいなら直ぐにきれいに治ってしまうし痛みも大して無いが、ザックスの怪我はそうはいかない 魔法で治せば治しただけザックスの身体は脆くなっていく 脆いってのはどんどん壊れやすくなって抵抗力も無くなっていくって事だ エリアスはザックスがそんな風になってもいいのか?」 「……………」 エリアスがザックスに視線を巡らすと、ザックスは悔し気に俯いた。 「バトル訓練をしていけばそのうち嫌でも必要になってくる その時はエリアスに一番に教えてやる」 クラウドがエリアスの肩をポンッと叩くと 「ねえ、今日もバトル訓練するよね?だったらその時にモンスターを瀕死にして1度回復して。僕にも回復の練習させて」 「……俺、モンスターと同じレベルかよ……」 「違うよ。ザックスにやるのを止めたからモンスターに……、あ、そうか。同じだね!アハ!」 小悪魔笑顔が眩しいエリアス。思わずザックスはクラウドの腕に泣きついた。 エリアス、ザックスを連れてダイニングに戻ると、いたのは食事中のレノだけだった。 「セフィロスは?」 「どっか行った。おー!ザックス、マジきれいに治ってんなあ!ヨカッタ!ヨカッタ!」 あくまでも干渉しないレノだった。 「で、学校で何があった?」 食事を再開したザックスとエリアスに聞き、喋り出したのはエリアス。 「え…っとね…、学年をスキップする生徒が入る特進クラスは1階にある職員室の隣にあって、そこは基本ずっと自習の授業スタイルなの 分からない事があれば隣の職員室に聞きに行く感じ セフィロスはその特進クラスで僕らは普通クラス でもその同じ特進クラスにセフィロスの信者でストーカーが一人いてさ、6つも年上で人間のくせにモンスターみたいにキモくてしつこい奴で、普通学級にいたザックスの所にまでセフィロス情報を取りに行くくらい強烈なセフィロス信者。 セフィロスも最初はソイツの事を無視してたみたいだけど、とにかく絡んでくるらしくて、ここのところは特進クラスじゃなくて図書室で自習するようになってた 図書室は重要な本がたくさん置いてあるから2週間前に事前申請して、それが先生に許可されて初めて入れるんだけど、僕は元々そこをホームグラウンドにしてたの 授業に出るよりも図書室の方がずっとたくさんの事を知れるし、そういう勉強の仕方の方が僕には合ってるから で、今日。……ていうか昨日の昼からセフィロス、超絶機嫌が悪くてさ、ウザいなー…って思ってたとこにストーカーが図書室に入ってきた 「見つけましたよー、セフィロスくん。ヒ~ッヒッヒッヒ!」とか笑ってさ、あー、これはヤバイって思った で、「プレゼントです、ヒッヒッヒ!」って…リボンがかけてある箱を出してきた。 セフィロスが無視してるとソイツ、自分で箱を開けてセフィロスが読んでた本の上に置いた。 ナックルだった。 セフィロスはそれを取って、自分の手に嵌めた。 で、喜んだソイツの顔にぶち込んだ。 そのままボッコボッコに殴り続けた ソイツは最初の一発で気を失って、その後もボッコボッコ!のボッコボコ!殴られて気が付いてまた気を失って気が付いてって 血がいっぱい吹き出てて飛び散って、どこから出てるのか分からないくらい血だらけで、顔も最初に皮膚が裂けてグチャグチャに変形して、筋肉がブチブチに切れて、骨もとりあえず下顎、上顎、鼻、頬が折れてるの確認した! 顔がメコメコになって殴り甲斐が無くなったって感じで次にボディにかかって、踏んづけて、ジャンピングフットスタンプで肋骨をボキボキいわせ始めて口から泡立った血がガボガボ出始めて、そっか、殺すのかー…って、それにしても汚い殺り方するね、周囲血だらけにしてソレお前が掃除するわけじゃないだろ?…って思って、血の付いた本なんか読みたくないな…って思ったけど、でもセフィロスのいた辺りの本は全部読み終わってたからセーフだ、良かったぁ~って思って で、セフィロスはそこまでメタメタ汚い事やってるのに表情が全然冷静なんだ。やっぱアイツアタマオカシイね そのうちセフィロスが肉ダルマになったソイツを持ち上げて窓から捨てようとしたんだ。 図書室、7階にあるんだけど…地上を誰か歩いてたらどうするつもりだったんだろ…… で、そこに突然獣人の子が入った セフィロスが落そうとしたのを窓側に立って受け止めようと?止めさせようと?した。とにかく邪魔をしたんだ あ、その子はね、セフィロスが図書室に来て以来仲良くしてた子 チョット頭が弱くて、でも凄く素直な子だから皆に苛められちゃって教室にいられなくてセフィロスや僕が来る前から元々図書室に隠れてた子だったの その子は申請とか入館許可とか関係なくって、ただ大人しくしてるし、教室に戻せば虐められちゃうから特別に勝手に入ってた子なの で、その子が投げられた宝条を庇おうとして一緒に窓から落ちた」 「待て、………い、今、ほ、宝条って言った?」 「うん。僕達の6コ上。ヒッヒッヒ!とか笑って喋り方も歩き方も顔もすっごいキモイ! "セフィロスくんは美しいですねぇ"とか"セフィロスくんはやはり他の愚民共とは違いますねぇ"とか、、き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛いいぃぃ!アイツ、人間のくせにそこらのモンスターよりずっとキモい!!」 「………で、その獣人の子の方はどうなった?」 「落ちた時に宝条の下敷きになってしまって宝条と一緒に病院に運ばれて行った 多分ダメだね。7階から落ちた上にGのかかった宝条の体重が上からプレスしてるんだから」 そんな現場でエリアスが徹底した冷静な傍観者であったことにも驚いたがそれ以上に宝条までこっちの世界に来ていたことにクラウドは愕然とした。 その日、クラウドはセフィロスと話す時間も作れないまま夜22時を廻ってから学校から呼び出しがあった。 子供たちをレノに任せて学校に行ってみれば教師陣がズラリと揃っており、皆一様に疲れた表情をしていた。 先生の話では、7階から落ちた獣人の子の意識は戻らず、恐らくは今晩もたないだろう。万が一意識が戻ったとしても重大な障害が残ることは間違いないと医師から連絡があり 宝条は重症重体ながら処置され同じ病院に入院中だが同じく意識不明、回復したとしても傷跡も障害も重大に残るらしい。件の獣人の子がいなければ100%死んでいた。まだ心臓が動いていることが奇跡らしい。 宝条の親はセフィロスを訴える事を検討し、勿論治療費・慰謝料を含めた一切を請求するそうだ。 学校としてはセフィロスの退学は決定しているが、セフィロスと同居しているエリアスとザックスはどうするか、残るのなら今後どう対応してほしいのか…、宝条側との交渉方法はどうするのか、保護者に意見を聞こうという事になったそうだ。 「申し訳ありません。返事は1日待っていただけませんか?我々で話し合いたいので明日はエリアスもザックスも休ませます それと、もしよろしければ獣人の子が入院している病院を教えていただけませんか?先方の親御さんにも謝罪させていただきたいので…こちらにできる全てをさせていただきたいので…」 入学以来学年スキップを繰り返し、一気に最終学年まで飛ばした学校のヒーローである異星人セフィロスの義兄であり保護者の『異星人クラウド』 魔王ダンテの一人息子で何を考えているのかまるで掴めない高等悪魔エリアスと、魔帝三位直属の大使魔ツォンの息子で立派に悪魔だが、性格が全然悪魔じゃない陽気で健全で人懐こいザックスの『養父クラウド』 これだけ其々の方向に飛び抜けた個性の3人を育て、尚且つその世界では名が通っているらしい『デビルハンタークラウド』 事件後、彼への呼び出しがここまで遅くなったのは事件対応の会議ではなく、誰がその『クラウド』と話を付けるか、教師同士の擦り付け合いの結果だった。 結局、教師陣の半分が今日『クラウド』に対応し、もしそこで問題が起こった場合は、残らなかった半分の教師陣が次回対応するということで決着がついた。 だがそうして厳戒態勢で挑んだというのに実際に本人が登場してみれば……ナンデスカこの…いかにも繊細で壊れやすそうな、風が吹いただけでも傷ついてしまいそうな繊細な美青年は……そしてナンデスカこの礼儀正しさは。 「あ…あぁ。彼には親はいません。彼は孤児院の子です 彼のいる施設はこの地区で一番大きな施設で、あそこの職員もなかなか手が回らないようで病院には誰も行けないそうです。 しかもあそこは健常者…というか、本来あそこはあらゆる意味で日常生活に支障の無い子しか受け入れていないんです 今回セフィロスくんにやられた獣人は実は完全な獣として生活していた期間が長く、どちらかといえば”人”ではなく"獣"で、言葉もあまり通じません 施設でもなかなか生活に馴染めておらず、野生に戻すか検討していたところへ今回の事件で、どうも、、施設側は彼の手術費や入院費も払うつもりは無いようです 獣人はガウって子なんですけど、名字はありません。"ガウ"はニックネームみたいなものです。本人が"ガウ"と唸るので 十中八九今晩は越えられないでしょうが、万が一彼が回復しても多分…また元の獣の生活に戻る事になるでしょう 文化的な生活は彼には合わないようなので」 「………病院に行ってきます 本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」 深々と頭を下げるクラウドに教師陣はまた驚愕し、教師陣を代表してこれまでの経緯と事情を話していた教師はまた付け加えるように言った。 「あの、余計なことかもしれませんが宝条君のご家族がカナリお怒りのようです 行くならアチラと先に連絡を取った方がいいのでは……? 訴えるとか言ってましたから、大事になりそうですよ?」 それまでひたすらに頭を下げ続けたクラウド。”宝条”の一言に、ピーーーン!と纏う空気が変わった。 『クラウド』は頭を上げ、口端も片方だけ上げ、助言をした教師を見下した。 「お手数おかけしまして申し訳ありませんが、もし宝条からこちらに連絡が入ったら伝言お願いします 訴えたきゃ訴えろ!治療費も慰謝料も一切払わねえ!寝言、言ってんじゃねえ! ウチのセフィロスが大人しいからって随分調子に乗ってたようだが、そっちがその気ならこっちにも考えがある! 俺はセフィロスがやったような生ぬるいやり方はしないからな! お前らは一生後悔する準備でもしておけ! ……と、お伝えください。あぁ、それは法的手段を用いるという意味です!俺がデビルハンターをやってるからって宝条や家族をウッカリ殺しちまうかもしれないとかそんな妙な勘ぐりはするなよ!でもギリギリで怒りを抑えてるんだからあまり刺激されたら責任持てなくなる!…と、お伝えください! それと先生方も特進クラスとやらは職員室の隣にあったとか?そこでセフィロスは随分宝条から迷惑を掛けられていたようですが?図書室に逃げ込むほどに! そこにすら宝条が追いかけてきた結果だったそうで…図書室は学校側が許可した者しか入れないそうですが 先生方も職務怠慢すぎませんか?先生方はセフィロスが迷惑を掛けられていた事をご存知だったんですか? という事で、宝条が訴訟を起こすというのならこちらも全てを表に出して、仲間の協力も仰ぎ徹底して抗争します では!失礼します!」 謝り倒しだった繊細で傷つきやすそうな美青年のいきなりの強気豹変ぶりに教師陣は呆気にとられ、その間にクラウドはプイッ!と職員室を出て行った。 ……なんだかその最後のプイッ!という仕草が妙に愛らしく戸惑った教師陣だったが、その後当人の放った言葉の危なさに戦慄が走った。 仲間、仲間って、、デビルハンター!?え、まさか魔王!?嘘でしょ!?て、徹底抗戦て?まさか、まさかまさか… そして怒りに任せて爆発してしまったクラウドも、自分の言ってしまった事に戦慄が走りまくっていた。 思いもよらないほど自分が喋れた!レディが降臨していたんじゃないかというくらい言葉がポンポン出てきた! 俺、成長した!!すごい!快挙! でも、言ったはいいもののどうしたらいいのか全然分からない! そうだ!帰ったら大企業に潜入して秘書をしていたツォンに聞こう!良い弁護士を知ってるかもしれない!そうだ、きっとツォンがこういうのには強いはずだ!……と、早速ツォンの背後に隠れる心積もりになっていた。 病院に着き、受付で今日運ばれた獣人の子に面会ができるか聞いたところ、変な顔をされ病棟病室番号を教えられた。 病室に行ってみれば…昏睡状態であるにもかかわらず、その獣人は一般の集合部屋で一切の治療を施されずに寝かされていた。 ……もしかしたら落ちた時のまま?見事な緑色の髪は血で固まり、顔には裂傷、身体も変な形になったまま……。 この世界に来て一度も病院に来たことが無かったから知らなかったが……恐らく、ここは治療費を払う当てがない人達なのだろう。 混濁、混迷、昏睡、重症、重体、死、どんな状態でも誰一人として一切の治療がされておらず、獣人の子のいた病室には合計8体が隙無く寝かされ、半分以上は既に死んでいた。 似たような部屋がフロアに6部屋あり、それぞれの部屋から苦痛の悲鳴や呻き声が聞こえても看護師がやってくる様子もなく、そもそも呼び出しベルも無く、看護師も控えていないようで、いるのは死神くらいだった。 実力主義のこの世界の裏面がここにある。 力の弱い者達、対価を持たない者たちがまるでごみ箱に捨てられるように廃棄されていく。 ガウの施設に連絡を入れた際、ガウは数年前に施設の前に捨てられていたため、放置する事も出来ず、かといって引き取り先も見つからず、今まで置いてはいたがそもそもが健常者用施設なのでガウは該当しないから万が一退院しても、もう引き取ることはできない。 病院にもそう伝えたそうだ。 そして病院は昏睡状態のままここに放置。 ここに獣人一人の命が捨てられようとしている。 クラウドは周囲に聞こえないようにガウに向けて魔法を使った。 「レイズ!」 昏睡状態の子に"フルケア"や"アレイズ"を使うのは危険すぎる。 ベッドに表示されているカードには「ガウ:15歳」と書いてある。 クラウド自身も同学年の中では一番のチビだったが、ガウは更にそれよりも小さい。 瘦せ細って華奢で小さくて……6歳くらいにしか見えない。 「レイズ!」 ガウの眉が歪んだ。 「頑張れガウ!もう一回いくぞ。レイズ!」 「…んっ…」 眉が盛大に寄せられた後、少しづつ目が開いてきた。 それはそれは、ルビーのように見事な紅い瞳をしていた。 「ガウ。気が付いたか」 「……」 ガウはただ真っ赤な瞳でクラウドの蒼い瞳を見ている。 一瞬後に「あ゛ぁぁぁあ゛あ!!」全身の痛みに気が付いたのだろう、同時一気に瞳孔が収縮した。 痛みに暴れかけたが全身が折れているため動けばもっと激痛が走る。 ケアルを使ってやりたいが、先の事を考えると使わない方がいい。 治療費を払えばきっとこの病院はちゃんと治療をするだろうし、普通の病棟にも移すだろう。 ならば先ずはガウにこの病院でユックリ体を治させて、その後の身の振り方はガウと話し合いながら退院するまでに決めればいいと判断した。 「ガウ、君は大怪我をしてここに運ばれた ここは病院だ 何も心配しないで今は体を治す事だけに集中してくれ 明日までに君の着替えとか差し入れとか持ってくる この後お金払って行くから、そしたらもう少しマシな病室に移してもらえるからな? ゆっくり休んで、元気になってくれ ウチのセフィロスが本当に申し訳なかった…ウチにできる事は何でもさせてもらうから、安心して身体を治す事に専念してくれ」 そう言い置いて病室を出て病棟会計に行き、ガウの手術入院費手付を払い、マトモな病室に移動してもらえるよう交渉していた時、不意に悲鳴が聞こえた。 悲鳴の聞こえた方を見ると…なんと、ガウが廊下を這いながらこちらに向かって来ていた。 「ガウ動くな!!君は全身骨折してる!!動くな!!」 ガウは激痛に悲鳴を上げながら泣きながら這うのを止めない。 「ガウ!止めろ!!治らなくなる!!ガウ!!」 クラウドが駆け寄り、強制的に動きを止めた。 「がえ゛る゛ぅぅぅぐるるぅぅぅがえ゛る゛ぅぅあ゛あ゛ぁぁぁあ゛あああ!!!」 「帰るって…施設にか!?」あそこはもう… 「ぞう゛げん゛オレのウ゛チ゛ぃがえるぅぅ!いでぇぇぇっぇ!!!いでぇよぉぉ!」 暴れようとするガウを抑え動きを封じた。 「ガウ!まず体を治さないと草原に帰っても動けない!草原はモンスターがいっぱいいるだろう!先ずは治すんだ!」 「がえるううぅぅぅ!!がえ゛るうう!!!がえるうぅぅぅ!!おでごんなどごでじにだぐねぇぇぇ!!」 「ガウ!ここは体を治す場所だ!死ぬ場所じゃない!」 「がえ゛る゛うぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁ…ぁぁぁぁぁ…ぁぁっぁ」 封じられていてもなんとかして逃れようと滅茶苦茶に暴れ始めたガウ 医者が出てきて「鎮静剤を打ちます」と、有無を言わせず打ち、ガウはあっという間に床に崩れ落ちた。 「これだけ暴れたらまたどこかの骨がズレたと思うので、今夜は集中治療室に移します」 「お願いします。明日また来ます」 「一つ、よろしいでしょうか」 頭を下げ、帰ろうとしたクラウドを医者が呼び止めた。 「この子は獣人です。しかも限りなく獣に近い。獣人は病院に来ても死んでしまう率が高いです 治療云々ではなく、環境の変化に獣は対応できないのです 特にこういう病院の様な自然界に無い臭いがする場所で、体を切ったり、得体の知れないものを塗られたり、針を刺され体に何か入れられたリ、怪しげな物を飲み込まされたり 我々が苦労して獣人に身体を治しているのだと分からせても、体が拒絶してしまうのです 治療が逆に害になる 私の経験上、この子はその典型的なタイプです 恐らく意識が戻ったらまた暴れ出すでしょう その際にはまた鎮静剤を打つことになりますがよろしいですか?」 「…………連れて帰ります」 「では意識が無いうちにできるだけの治療だけはしておきます。一応薬も出しておきますので、できれば使ってあげてください」 クラウドはガウが治療を受けている間にガウの施設に再び連絡をし、このままウチで引き取るという事と、ガウはどこの草原で生活をしていたのかを聞き出した。 また、レノに電話をかけ、このまま数日間はガウの故郷の獣ヶ原でガウの体を治すのに集中するからツォンと2人で何とかしてくれることと、セフィロスを退学させた事とエリアスとザックスの身の振り方をツォンに決めてもらうように伝言をし、レディにも暫く仕事に入れなくなった事を連絡した。 ガウが懐かしい風に目が覚めると、そこは草原。 真っ暗で何も見えなかったが、草の匂い、木がそよぐ音、獣の気配が確かにそこは産まれ育った草原だと分かった。 だがそこに…真っ暗な中に何故かぽや…と光るもの…金髪が浮かび上がっていた。 「グルルル………」何だコレ…と警戒声を出すガウ… 「気が付いたか、ガウ」 振り向いたのは蒼い蒼い海の色、薄く輝いてる。なんだかついさっき見たような気がする。 すごく優しい目をしてる。 「お前はまだ動けない。いいか、俺が動いていいって言うまで暴れるなよ そうじゃないといつまでも治らない 今はまだ麻酔が効いていて痛みがそんなに出ていないだろうが、そのうち一気に来る。そうなっても暴れるな 大丈夫、モンスター退治も食い物の調達もやってやるから、お前は治すために大人しく寝てろ いいな!絶対だぞ!」 ガウはたくさんしゃべられると何が何だかわからなくなる。 とりあえずわかったのは、オレはケガしてるからおとなしくねてなきゃいけないんだな。 タブンねてないとこの海のメのおとこがおこる! オレはいま、ちょっとだけあたまボケボケするからおとなしくしてやる。そうげんにかえってこれたし。 でもあとからゼンブ!ゼンブ!がいたくてあたまモゲそうでキモチわるくてゲボゲボでシんだほうがまし。 でも海のメのおとこが「我慢しろ!」ってなんかいも言う。 「痛いっていうのは良い事なんだ」って言う。 「ガウガウガウ!!」って言ってやった。かみついてやった!つばはいてやった!でも海のメの男ははなしてくれないんだ!ちくしょう! 「ガウ、痛いっていうのはそこが"優しくしてください"ってガウに言ってるんだ ガウが動こうとすると痛い痛い!ってなるだろ?それは体が”大人しくしてくれたら頑張って治します”って言ってるんだ 体の声をちゃんと聴け。そしたら体はちゃんと応えてくれる!」って言う。なんかいも言う。 それから「安心して寝てろ。ちゃんと守ってやる。頑張って痛いの治そう。な?」ってわらう。 クラウドはセフィロスくんのかぞくなんだって おにいさんなのかな 「ウチのセフィロスがごめんな?」っていうから 「セフィロスくんはわるくない みんなぼくのことパーっていって、いじわるするけどセフィロスくんはいつもやさしい だからとめようとしたの。セフィロスくんわるくないから。でもしっぱいしちゃった」 「セフィロスのために有難う、ガウは良い子だな」ってきれいにわらうからはくじょうしちゃった。 「オレ、デキソコナイだ ジュウジンなのにエサが狩れなくてシセツにすてられた シセツもがっこうもきらいだけど、メシはくえる…ってがまんしてたけどもうやだ メシくわせてくれるけど、もうやだ オレ、しんでもいい。ここにいる。もうどこにもいかねえ ここでしぬ」 クラウド、すごーくやさしくあたまなんかいもなでる なでるのうめぇなぁ。きもちいくなってねむっちまう。 「ガウ、お前の身体が治ったら狩りの仕方教えてやる それと狩りばっかりじゃ狩れない時もあるから、食える草や果実の育て方も教えてやる」って言う。 クラウドはセフィロスくんのにいさん。 セフィロスくんのにいさんのクラウド。やさしい。 オレもこんなにいさんいたらよかったなぁ。 クラウドはねるときもメがさめるときもいつもソバにいてくれた。 おきたらメシもちゃんとよういしてあって、口までいれてくれた。 きょうはメがさめたら「近くに川がある。体洗ってやる」って言って、クラウドがすっごくおおきなくろくてきんいろのキラキラしたカッコイイつばさをはやしてオレをかかえて川までとんでくれた。 ビックリした。 「クラウド、はね!はね!!とんでる!」って言ったら「異星人だからな」ってわらった。 イセイジンってスゲーな!オレもイセイジンにうまれたかった! 川に入ってすごくすごくやさしくあらってくれた。「痛くないか?」ってなんかいもきいてきた。そんなことないからなんかいも「すげーきもちいい」って言った。 ほんとうだよ。 オレ、こんなのされたことない。 あんまりあんまりやさしくさわるからないちゃった。 川のなかでよかったー。 「オレうごけるようになったらおかえしにあらってやる」って言ったら「俺は自分で洗える」ってクスクスわらってた。 そっか、そうだな…でも何かおかえしをしなきゃいけないから何かかんがえておこう。 ガウはうけたオンはわすれないからな それでクラウドは何がいちばんよろこぶかなぁ?ってかんがえてたらまたねむくなってきて、川のなかだったのにねちゃった だってクラウドの手はやさしいんだぁ 何かしゃべりコエがきこえてメがさめると、もう川のなかじゃなくてからだがかわいてて、あたらしいきれいなフクをきてた。 クラウドをさがすと、ちょっとはなれたところにくるまとクラウドと…… 「セフィロスくん!」 あ、きがついて2りがこっちにあるいてきた。 2りならぶと"ファミリー"なかんじだ。2りともどっこも1こもぜんぜんにてないけどチがおなじかんじ。 「ガウ、本当に申し訳ないことをしてしまった。本当にごめん」 セフィロスくんがねてるオレに手をついてあやまってきた。 わー…すごい。セフィロスくんはオレとぜんぜんちがって、がっこうのにんきもので、でもいっつもクールなんだ。いっつもみんながセフィロスくんにワー…っていう。 すごくにんきものなのにパーでキラワレモノのオレにいっつもスッゴクきれいなツルツルでサラサラのギンイロのかみのけさわらせてくれるんだ。 「セフィロスくんはわるくない。オレ、ヘンなことしちゃった。ごめんね? それとクラウドすごくやさしいね」 そういったらセフィロスくんがうれしそうにわらった。 ほわー…セフィロスくんてちゃんとわらえるんだ…しらなかったー。 「なぁ、レノ。俺ら4人いるが全員カラーがバラバラだぜ?ここまでバラバラなのも面白くね?」 「あ~?」 カラー?そういえばさっきからもう一匹…… 「俺は金髪と青い目、セフィロスが銀髪と碧、お前が紅い髪とライトグリーン、ガウはお前と正反対の緑の髪に紅い眼!な?俺ら見事にバラバラだ!」 「……クラウドにはレノがそう視えてるのか?」 セフィロスくんがヘンなかおしてる。 「え?……………あ、そうか!じゃあセフィロスにレノはどう見えてるんだ?」 「……………」 わー、セフィロスくんすごくヘンなかおしてる。なんだかきょうはセフィロスくんのおもしろいかおいっぱいみちゃった!いい日だー!とくしたー! 「だからよー、クラウドだけなんだって!変な事言ってんのは!素直に認めろって!赤髪チンピラがクラウドのメロリンチョ・ラブなんだろ~?!」 「ち・違うって言ってんだろ!!!このクソレノのくせに!レノのくせに!!世界が崩壊してもてめぇみたいなチンピラが俺の好みになるなんて絶対にありえないから!お前なんかただの敵だ!」 「ハイハイ、前の星で敵同士だったんだよな。…ったく、どんだけソイツに縛られてんだ もう忘れたら?」 「ちいぃぃーーーーーーーーーーーがうって言ってるだろおぉーーー!!」 クラウドがまっかになってボカスカ”レノ”をなぐってるけど、からかわれてるね、あれ。オレにもわかる。 だって”レノ”わらってるもん。 「……ガウにはアイツがどう見える?」 セフィロスくんが”レノ”をさした…… 「ことばをしゃべるすごい大きいコウモリ」 おもしろいコウモリだなぁ。しゃべるし、わらうし、クラウドをからかうし。 ケンカしていたクラウドと”レノ”が2りでピタッとオレを見た。 「んん?」 レノってよばれてるでっかいコウモリが言った。 「そっか、お前は"まだ"なんだな」 セフィロスくんとクラウドが目を合わせてた。 それで2りいっしょに「まだ?」って”レノ”にきいた。 ファミリーだ!2りおなじだ!たのし~い! 「この獣のボクちゃんは精通してねぇ。女なら生理が来てねぇ奴と同じ インキュバス・サキュバスの目的は子作りだ。生殖機能を持たないガキに淫魔は用はねぇ。力も通用しない」 「………………」 クラウドのメがせつめいしていたおおきいコウモリからツツツ…って、セフィロスくんにもどった。 クラウドとメがあったセフィロスくんはツツツ…ってメをそらせた。 おもしろいなぁ、この2人。 ”レノ”が「やあねぇ、セフィロスくんはとっく…ごはっ!」 こんどはセフィロスくんが”レノ”をなぐった。……いたそう… 「…………6歳……だろ、お前」 クラウド、デッカイメでセフィロスくんを見て、セフィロスくんめちゃめちゃメをそらしてる。 「よー!クラウド、ガウちゃんとセフィロスだけバラすのも良くねーよ。お前にも俺が蝙蝠以外に見えてんだ。いつが初めてだったか言えよ!」 ”レノ”がたのしそうにシッポをブンブンふってる。 オレ、こんなにおおきくておしゃべりでようきなコウモリはじめてみた。 「言っちゃえ!言っちゃえ!」 フンガッ!フンガッ!ってへんなおどりしてる~。おもしろいコウモリだぁ。 「オ・マ・エの初めてオ・イ・ク・ツ・デスカー!」 レノがクラウドのまわりをおどりながらてびょうししてる。 わぁ、クラウドがフルフルしてる…。おもしろ~い。 「………覚えてない!おわり!この話は終わり!」 「いつ?」 セフィロスくん、おわらせないんだね。 「しつこい!ガウ!俺、一度家に戻るけど、その間セフィロスとレノが残るから。安心していいぞ。直ぐ戻るからな!」 「うん!クラウド、ありがとお!」 ほんとうはおきあがって言いたかったけど、まだおきれない。 「じゃあな!レノ。ガウに変なこと教えたらぶっ殺すからな!」 「変な事ってどんな事デスカ~?…キャンッ!」 あ、クラウドになぐられた… レノはクラウドのパンチはいたくないんだ。わらってる。 「セフィロスも、戻ってくるまで大人しくしてるんだぞ この辺の獣は比較的おとなしいが、怒らせると怖いからな!」 「分かった」 クラウドはどろだらけのくるまにのってかえっていった。 セフィロスくんたちがのってきたくるまは夕日にかがやいてまぶしいけど、クラウドのくるまはぜんぜんかがやかない。へんなのー。 あ、そうだ。オレ、からだがなおったらクラウドのくるまあらってやろう!ピッカピカにしてやろう!あらってもらったからあらってかえすぞー!ってみおくっているうちに、またねむくなってきちゃった。 「………………ぉ…」 「ありゃダメだ。前にも言ったろ。アイツにとってセックスは地雷だって アイツは最近まで昔の記憶をガチで封印してた 何かの拍子で封印が解けちまったみてぇだが、思い出しちまった分、クラウドにとって過去は相当ヤバイ生傷のままだ。 隙あらばまた封印して忘れようとしてるくらいな 当分はそっとしといてやれ。追い詰めてやるな」 「…好きな奴がいるんだろ」 「あぁ……お前が言いたいのはすげえ神懸かり的美男の事だろ でもクラウドの生傷の相手は違うぞ? 何年経っても忘れられない、思い出したくない、そこまで命がけになるくらい本気だったって事だ 保証してやるよ。お前みたいな無神経野郎がクラウドの過去に踏み込んだら大惨事間違いなしだ クラウドが自分で話すまでは黙っとけ」 「……………」 「あー、そうそう!あともう1つ気になるのが赤髪のチンピラって奴なんだ 人間には淫魔が理想のタイプに見えるが、淫魔からはソイツのセックスの履歴やら好きなタイプが見えてる クラウドから見えるのは、、、まー、アレコレな過去と、本気の相手と、神懸かり的に美形の男だけ。……あと一人いるが、それはノーカンだな、恋の相手じゃなかったようだし最悪のヤローだし! とにかく赤髪の男はどこにも登場しない。なのになんでクラウドはあんなにハッキリと俺が赤髪チンピラだって言い切るんだ? 本当だったら俺がその本気の相手か、神懸かり的美形の男に見えるはずなんだぜ?なのに赤髪だけがカナリハッキリクッキリ見えるってのは……」 「黙れ」 「……面倒なヤツよのう、お前も おぉ、ガウちゃんもあどけない顔して寝てら!……15なんだってな。それで精通未経験とは恐れ入ったぜ」 「……本気の相手ってどんな奴だ」 「それはインキュバスのプライドに掛けて言えねぇな ちなみにさっきはああ言ったが俺はクラウドの初精通も初チン毛が生えてきた時もよーく知ってる クラウドがチン毛が生えてきたのを知ったのは、その本気の相手が教えてやったからだぜ インキュバス能力ナメんじゃねえぞお?よー、浮上しろよセフィロス!初恋ってのは実らないものだってぁ相場が決まってんだ!ドンマイ! お前みたいなブルドーザーは繊細な硝子細工クラウドには近づかない方がいいんだよ。放っといてやれ!」 「うるさい!クラウドの顔で言うな!!」 メがさめたらまっくらよるだった。 きょうは月のない日だ。くもりだからホシもみえないなー。 そばにセフィロスくん1りがいた。 「気が付いたか、ガウ」 「でっかいコウモリはどこいったの?」 「仕事」 「へー、すごいねぇ。よるもはたらくの、エライね」 「そうだな」 「どうしたの?」 「?」 「セフィロスくんなきそう」 「…………そうか」 「うん」 セフィロスくん……どうしたの? セフィロスくんがなにかいうのをまってたらまたねむくなってねちゃった 「………」 セフィロスくんのこえがきこえた。 「…クソッ!…」 セフィロスくん、おこってる? 「無駄に生活力があってサイバイバルに適応しててバトルも強くて……俺なんか必要ないじゃないか あんな奴……いない方が…………俺だって他にいくらでも………!」 ないてる? 「クラウドも……アイツも消えろ!消えてくれ!畜生!畜生!消えろ!…俺も!何もかも全部…!何でアイツなんだ!」 セフィロスくん きょうがまっくらよるでよかったね。 だれもみてない。 何もみえないまっくらまっくらよる。 明け方、やってきたクラウドは車の中から幾つかの保温器に入れた料理と、まだ温かさの残る焼き立てのパンを出した。 そして開いたままの車のドアからは大量の材木が積んであるのが見えた。 「ガウ、温かいごはん持ってきたぞ」 「……すっごくいいにおいがする…」 「だろ?焼き立てのパンは特別だからな!」と言いながら、クラウドはガウの身体を抱き起こし、パンをムシッ!と裂き、口の中に入れた。 「はむおおぉぉおお!」 「うまいだろ!」 「イテェ!!ウメエェーーーーー!イテイテ!イテッ!」 「落ち着け、暴れるな」 ガウはどんどん口に運ばれるものをはむはむはむはむ必死に食べ、クラウドはガウが飲み下すごとに色んな食べ物、飲み物を変えながら口に運んだ。 クラウドはガウを片腕で抱え、片手で食べさせながら言った。 「ガウ、お前に家を建ててやる。小さな小屋だが雨風や寒暖も少しは防げるようになる どの辺に家が欲しい?で、家が建ったらその周りに畑も作ってやる そしたら毎日狩りをしなくてもよくなるぞ」 「イエ?」 クラウドがガウの口にパンを突っ込む。 「ガウの家」 ガウがはむはむ食べ、飲み下し、聞く。 「オレのイエ?」 クラウドが温かい卵スープをレンゲに掬って飲ませる。 「使っても使わなくてもいい 使いたくなった時にガウだけが使っていい場所だ」 ガウが飲み下す。 「オレだけ?」 ”自分だけの場所”というものが良く分からなかったガウは、ルビーの様に真赤な瞳で「ほえー?」と、クラウドの海に様に蒼い瞳を見つめた。 その様子を傍らで見ていたセフィロスは何とも言えない表情をしていた。 その日からクラウドとセフィロスで「ガウの家」建設が始まった。 場所はガウが草原の中で目印にしていた大きな1本木が良く見える川に近い場所。 セフィロスはクラウドが始めた家建設を手伝いながら”サバイバル能力が異様に高い”とは思っていたが、まさか家を建てるスキルまで持っていたことに……また惹かれた。 自分でもウンザリしていた。 クラウドが何をやっても惹かれる。 楽しそうに料理をする姿も、バトル帰りで物凄く汚くなって帰ってくる姿も、月夜に輝く金髪も、空に飛び立つ片翼も、颯爽とアイアンホースを操る姿も、車を運転する姿も、ガウを抱き微笑む姿も、材木を抱え上げチェーンソーを操る姿も!! 何でもでき、度胸もあるくせに驚くほどに精神が脆弱なところも!!対人スキルが著しく低いところも! 何もかもにいちいち惹かれる!眼を奪われる。 朝が来たらクラウドに別れを言おうと思っていた。 本気だった。一人大聖堂で出て生きていくつもりだった。 こんな奴はいらない。スキンシップ嫌いが聞いて呆れる!他の男に抱きついて泣いてた!そのくせいつまでも過去を引きずって俺を近づけさせない! 俺の思い通りにならないお前なんかいらない! クラウドを見なくて済む場所へ。 どんなに厳しい場所でも、少なくともこんなに腹が立つばかりの出口の無い思いは捨てられる。 他人のものになったお前など見ていたくない! 本気で決意していた。 だが たかがチェーンソーにエンジンをかけたその瞬間だけで ガウに食事をさせているその姿だけで! それだけで! 離れられなくなる! お前の隣以外に、俺の居場所はいらないと確信してしまう。 |