隣人8


 


少年体形に不釣り合いに大きな斬馬刀。

召喚獣の王バハムートを従えているくらいだ、戦闘能力は高いに違いない。

でも、多分、精神面が脆い。年少クラスに時々いるタイプ。

戦闘の才能はあるからとフォローをしても、結局何かと問題を抱えて年中になる前に消えてゆくタイプ。

凄くアンバランス。いるはずのない傭兵。

それとも見た目と中身が違うのか、脆そうに見えて実はメンタル逞しいの?随分な美少年だからいらない苦労もしてきたでしょうに…と、キスティスはクラウドへの第一印象を持った。


一方スコールのクラウドへの印象は”頭がチョコボ”…それだけだった。


クラウドはただ驚き意味が分からないままカオスを見ていた。

『元気そうだな。クラウド』

カオスの声が頭に響いてきた。音声ではない、頭に直接聞こえてくる。

「も、戻れよヴィンセント!!

かつての仲間ヴィンセントのリミットブレイク最終形態カオスに駆け寄りながらもクラウドには目の前の状況が全く理解できない。


召還獣最速のバハムート零式を召喚し、星の体内に現れた黒い穴に突進し、強烈な力で押し出そうとする力に全力で逆行突き進んで、そしたら前方に青色が見えた。

眩しい青色で近付けば近付くほど暗闇の中で明さを増してゆくソレに向かって突進した。

そして急に押し戻す力が無くなったかと思うと、突如真っ暗闇の世界から反転。



...青い空、緑の大地、蒼い海に囲まれた、今までに一度も見たことも無い程に美しく健康的な世界が広がっていた。

暗闇の中で見えた眩しい青は快晴の空色だった。


「ヴィンセント、ここはどこだ俺こんな場所知らないぜ

世界中を駆け巡って30年余り、今までに一度もこんな空の色、海の色を見たことがない。


『ここは普段お前がいる世界とは次元の違う世界だ』

「違う次元

頭に聞こえてくるヴィンセントの声にクラウドは違和感を持った。


『私については説明できるがクラウド、お前はどうやってこの世界へやってきた

「どうって...北の山に新種のモンスターが溢れてるから退治してくれって依頼を受けて、退治してたら結局今の穴に辿り着いて、でその穴を逆行したらここに出た

で、いつまでカオスになってるんだ。ヴィンセントに戻れよ」


『私は”召喚獣ディアボロス”

昔の姿も名も無くした。紹介しておく、私のオーナーだ』

「召喚獣……!?お前が!?

カオスが示した場所にはムチを持ったセレブ族っぽい女と、水晶で作ったような凄くキレイで珍しい剣を持った凄くカッコイイ男が立っていた。

そしてカッコイイ男の後ろにはカッコイイ飛行機があって、その美男美女の周囲にはグルリと今まで大空洞で闘ってきたモンスター達、ルブルムドラゴン・モルボル・メルトドラゴン・グレンデル・アルケノダイオス等々が取り囲んでいた。

「……あいつらか...モンスターを送ってきてたのは...

『いや…元凶は私だ。そんなつもりは無かったが、私のだらしなさがお前たちに迷惑をかけていたようだ。すまない』

カオスが俳優の様にすごくカッコイイ男を呼び寄せた。


『スコールすまない。キスティスのスランプの原因は私だった』

スコールは驚きつつもキスティスを呼び、ディアボロスの言葉を伝えた。

「え!?どういうこと!?

『キスティスのデジョネターの調子が狂い始めたのは、私をメインでジャンクションするようになってからだ

それまでは私をジャンクションしていてもデジョネーターを使わなかったから気がつかなかったのだ

今キスティスがデジョネーターでモンスターを退治できていない理由は、送っている先が私が昔いた世界だからだ

次元の狭間を通り越した、この青年のようにちゃんと人間が生きて住んでいる別次元の世界だ

だからモンスターは死なない。だから経験値も入らない

過去を忘れたつもりで忘れられなかった私のだらしなさが今の状態を起こしてしまった

スコール、キスティスに済まなかったと伝えてくれ。どうやら私は彼女の召喚獣でいる資格は無いようだ』


スコールは何かに気付いたように手早く詳細をキスティスに伝えると、ディアボロスに聞き返した。

「つまり『ディアボロス』をジャンクションしたまま次元魔法『デジョネーター』を使うと、モンスターは生きたまま『別世界』に送られる

『そのようだ。すまぬ』

「そしてその世界では、この星のように多くの人間が住んでいる

『ああ、彼クラウドは私のせいで送ってしまっていた大量のモンスターを片付けてくれていたそうだ』

カオスはクラウドをスコールに紹介した。


しかしスコールはクラウドをチラッ…と見ただけで一人で何か深く考え始めた。

..................

紹介されたものの一言も挨拶しない、俳優のように凄くカッコイイけれども凄く失礼な男にクラウドは少しイラついた。


「ごめんなさい。結果的にモンスターを送っていたのは私です

私はSeedのキスティス・トゥリープ。得意なのは魔法全般

隣のこの変人さんはSeedのトップ、スコール・レオンハートです

戦闘全般は超人的だけど人間関係は最低の人

あなたは大きな剣を持っていらっしゃるけど、傭兵さん

セレブっぽい女は美しく微笑み人分の自己紹介をした。

こういう場合大抵は美女キスティスの”見られる”ことを研究しつくした上品な所作と微笑みに見惚れものだったが、クラウドは違っていた。

「戦闘全般が超人的ってどのくらいその水晶で作ったような剣は戦闘用

ハッキリとスコールに問いかけたが、残念。

恐ろしくカッコイイ男は答える気配以前に会話を聞いてもいないらしく何も反応しなかった。

無視、とも言う。

カッコイイからって何でも許されると思うんじゃねえぞお前スッゴク感じ悪いこっち見ろよと、スコールを睨みつけながらクラウドのイライラは増し増しになりつつあった。


「フフ...彼への質問、私が答えてもいいけれどその前に私の質問に答えてほしいわクラウドさん

まるで大人の女が少年を揶揄うような物言いにイラつき睨んだが、キスティスはクラウドのそんな反応をも楽しんでいるようで、更にイラついた。


「クラウド・ストライフ、傭兵歴35年。戦闘全般が超人的」と、分かりやすく喧嘩を売った。

キスティスは”伝説のSeedスコール・レオンハート”を前にして自分を”超人的”とか言ってしまう愚かな青年に呆れた。

そしてディアボロスは、スコールとキスティス2人への敵意を隠しもしないクラウドを窘めた。


『混乱させる言い方をするな。お前の見た目は未成年のままだぞ』

「俺、嘘言ってないお前こそ召喚獣ってなんだよ

『ああ、、どれくらい前なのか、私は………………自ら人であることを捨てしまったのだ

そしてライフストリームに自我も意識も霧散していき、長い年月ただ漂い続けていた。

そのまま消えていくものだと思っていたが、気づけば獣(カオス)の姿で無限空間を漂っていた。

個体となってはいたが、質量を伴う実体を失くしている事に気が付いた

だが、それもそういうものなのだろうと受け入れ、私は何も無く、時も無く、自我も無く、命も無く、ただ漂い、時代も次元もない無限の世界を漂い続け、長い長い時の経過と共に私の中の人間臭かった部分も霧散してゆき、いつしかカオスの姿も消えていった

それもそういうものなのだろうとただ流れ漂い続けた

永く、私を含め全てが留まらず漂う中、世界を揺るがす者が現れた。スコールだった

彼は”そんな事していない”と言うが、私は彼に召喚獣ディアボロスとして再形成され今ここにいる

だから正確に言えば私は『ヴィンセント・ヴァランタイン』の記憶を持っただけの、スコールに創られた召喚獣ディアボロスだ』


カオスから話を聞きながらクラウドは違和感の正体に気が付いた。

そう...ヴィンセントはリミットブレイクがかかると会話不能になっていた。デスギガデス、カリビアンビースト、ヘルマスカーそしてカオス。

全てに共通して変則バーサク状態になり、ヴィンセントの時とは正反対に相手が死ぬまで暴走状態でひたすら攻撃し続けるだけの獣と化し会話などできなった。

それにヴィンセントは自ら召喚獣というが、召喚獣と人間は会話などできない。

召喚獣というのは便宜上人間がそう言っているだけで、実質はエネルギー体の様なもので生きている次元も世界も、そもそも"生きている"という定義が人間とは違う。

人間がその強いエネルギーの塊をマテリアに保存し戦闘に利用しているだけであって、確かにそれぞれに特色はあるが人格とか性格とかがあるような類のものではない。

言ってみればマテリアと召喚獣の関係は"乾電池""電気"みたいなものだ。.........と、思っていたがこの世界では違うのか

それに見ているとどうもセレブっぽい女はカオスと会話ができないようだが、カッコイイ男の方は普通に会話をしている。

次元が違うと召喚獣の常識も違うのか?と、クラウドは自分の持っていた知識に不安を感じ始めていた。


「ディアボロス、俺に入ってくれ」

会話の流れを全く無視してハンサムが喋った。

するとカオスはクラウドの目の前で姿が薄くなり、ハンサムな青年の中に消えていった。

戸惑うクラウドに凄くカッコイイ青年がかつてのヴィンセントの声で『直ぐに戻る』と喋り、瞳を閉じてしまった。


カオスはどこに行った?すごくカッコイイ男に重なって消えて、すごくカッコイイ男がヴィンセントの声で喋った?何もかもが謎な状況にクラウドが戸惑っていると、再び水晶のような剣を持ったカッコイイ男からカオスが出てきた。

カッコイイ男はセレブ女に、原因が分かったからもう大丈夫だ、今日はこのままバラムに帰ろうと話し掛けていた。

そしてカオスは、クラウドに


『今回のことは迷惑をかけてすまなかった、原因が分かった以上今後はモンスターを送ることはない。誓う。

...で、クラウド、良ければ暫くこちらに滞在していかないか

懐かしい話もしたいし、この世界を案内したい。お前さえよければだが

滞在先は彼...スコールが家を貸してくれる。色々情報交換などしようではないか』


水晶のような剣を持ったスコールがクラウドの方に数歩歩いて来たが、その歩く姿にクラウドの胸は高鳴った。

カッコイイ……。

ただ立つ姿もカッコよかったが、動き、歩く姿は堂々としていてしなやかで...ヤバイ、これは正真正銘のカッコイイ男だ。ヤバイ、ヤバイ。

近くで見る瞳は淡蒼色でとてもドラマティックで……直感した。

この男はセフィロス側の奴だ。

何もかもが特別製の生まれつきの"特別な存在"

この男の存在の全て、一挙手一投足、瞳の動き、手の動き、何もかもが人をどうしようもなく魅了し捉える"そういう風に出来てる存在"

絶対的カリスマ、あいつと同じ種族の奴。この男は危険だ。


もう度と騙されない度と憧れたりしないアイツはただの人形でただの馬鹿で極悪ソルジャーで愚か者でただの変態ストーカーだった

何もかもが特別製だったはずの中身はどうしようもないお粗末な馬鹿だった

どうせこいつだって同じだカッコよく人を魅了しても、実は中身は空っぽなんだ大したことないんだそれに俺よりもずっと若いお前なんかろくでもないものばかり背負って、身動きが取れないまま生きる辛さなんか欠片も知らないだろう生きたままおかしくなっていく怖さなんか分からないだろ!!絶対に騙されないからな今度こそ絶対に憧れたりなんかしない!!二度と騙されないこんな奴ただのカッコイイだけの……カッコイイ…な、…でも……本当に…凄くカッコイイ……


「俺はスコール・レオンハート

彼、俺たちは彼を召喚獣ディアボロスと呼んでいるが、君にとってはカオス

今は我々の仲間になってもらっている

今回君の世界に迷惑をかけたのは俺の責任でもある

君がその対処をしてくれてたそうで、知らなかったこととはいえ申し訳ない事をした

それで君さえ良ければ俺の家に暫く滞在して疲れを癒していってほしい。できる限りの歓迎をする

俺は人暮らしで、暫くは殆ど家に帰らないから気兼ねなく使ってくれて構わない。カオスと積もる話もあるだろう

ただし滞在中、守って欲しい事がつある

、君の素性をこの世界の誰にも決して教えないこと、この世界の一般人としてふるまってほしい。

、だから出歩く時は武具・防具の一切を身に着けないでほしい。勿論その背中にある目立つ武器も

、夜も外出は自由だが、AM00までには必ず部屋に帰って来ていてほしい

...どうかな今のカオス、それからこの世界に興味は無いか


...ある...けど......

どうせ行くあてなんか無いし。

それに大空洞のモンスターはこれ以上送られないのなら、当分は山に出ることもないだろう。

異次元世界に興味あるし、このカッコいい男にも興味あるし、いや無いけど全然全然無いこいつはセフィロスと同じ人種だ俺はただヴィンセントに聞きたい事がたくさんあるだけだ


「ありがとう、君についてはカオスが保障しているし俺はカオスを信用している。

自由に動いてくれ。こちらに滞在する費用も、欲しいものも何でも揃えさせてもらう。

俺達はそれ以上の迷惑を君にかけてしまったから当然だと思って何でも遠慮せずに言ってくれ」


クラウドは口に出さないままライブラの要領で次々とスコールという男について分析し情報をインプットしていった。

"業務連絡のような喋り方をする"

"笑わない" 

"圧倒的威圧感"

"一挙手一投足、何もかもがカッコイイ"

"哀しい、寒い眼をしている。...ように見えるが気のせいか。気のせいだな、コイツはセフィロス側の奴。マトモな神経なんかないはず。悲しむ感情なんか無い、きっとつまらない奴無神経な奴に違いない絶対にそうだ"

……途中から全くライブラになっていない事にクラウド自身気付いてなかった。


そしてクラウドが案内された飛行機に乗るとキスティスを副操縦席に、スコールが操縦し出発した。

"どう見ても20歳そこそこのくせにこんなハイテクでカッコイイ飛行機を操縦するんだ。

何でも当たり前に持っていて、仕草の一つ一つがカッコ良くて...本当にアイツみたいだ"

"…でもアイツよりカッコイイ"


そんな事を秘かに思っていたクラウドの視線に気づいたスコールは改めてクラウドを分析した。

"頭がチョコボ"

やはりスコールのクラウド分析はそこから動かなかった。

ジャンクションされていたヴィンセントが中で爆笑していた。

「珍しいなディアボロス、お前が爆笑とは

自分の分析が笑われていることが分かっていないスコールが頭の中にいるディアボロスに真面目に言った。


ディアボロスって、カオスだよなあいつが笑ってんのか

ヴィンセントが笑ったところなど今までに一度も見たことが無かったクラウドは驚いた。...まさか自分がネタになって爆笑されているとも思わずに。


案内されたスコールの家は、バラム港沿いの階建てマンションの階にあった。

そしてセレブっぽい美女の部屋も、同じマンションの上のフロアにあった。

スコールの部屋は全く生活感のカケラも無い、広い部屋の中にまるで仕事場のように大きなデスクと座り心地の良さそうな大きな椅子がドンッと置いてあるだけで寝室も同じく大きなベッドがドンッと置いてあるだけだった。

不自然なほどに何もなくてビジネスホテルの方がまだ生活感があった。

しかしスコールは各部屋にある収納の扉を次々と開け、中を示しながら言った。

TVとかオーディオとか色んな物は全部ここにしまってある。使うなら出して使ってくれ」

「どうしてしまってあるんだ使わないのか

「俺は使わない」

そう言うだけで、それに続く言葉は何もなかった。

備え付けか何かだったのか?


だが収納してあった家具・家電は作り付けのものではなく、他の電化製品もどうみてもつ買ったようなものだった。

つまりこの部屋には以前スコール以外の住人がいたが、今はスコールだけが住んでいる。

それとも家具付きで借りたか?…いや、多分、それはない。

箱の中にはたくさんの食器・調理器具・調味料までもが全て入れられ収納に突っ込んである。

やはり元々は一人暮らしではなかったのだろう。


「俺はこれから出るがクラウド君。ディアボ...カオスをジャンクションしてみないか

「ジャンクション

「そう。さっきディア...カオスから聞いた。君の世界では召喚獣も魔法も"マテリア"というものに宿らせるんだろ

だがこっちの世界にはそういうマテリアという便利なものは無くて、召喚獣は直接人間のココに宿らせていて、今カオスも俺のココにいる」と、スコールは自分の頭を指した。

「召喚獣はエネルギー体だから宿るものが無いとこの世界にはいられない。その媒体が君の世界ではマテリアで俺の世界では大きなくくりで言えば生命体だ

人間の脳もその中の一つだが、召喚獣は強いエネルギーの塊だから、それを受け入れる側の人間に適性が無ければその人間の脳にダメージがいく。

ガーデンに行けばそれを検査するシステムがあるんだが今ここには無い。

だがカオスが言うところ君とカオスは"同族"というもので、ジャンクションの弊害は出ないと言っている。

だからカオスをジャンクションしてみるかというか、そうしないとこれ以上カオスがここにいられないんだ」

「ああ、なるほど。いいよ。する」

クラウドもその説明を受けた時に同じジェノヴァ属性のヴィンセントにアレルギー反応が出ないのは確信した。

「ディアボロス

スコールは返事の代わりにディアボロスを自分から外した。


スコールからカオスの影が出るのと同時にクラウドは自分の中にカオスの気配を感じた。


『クラウド、邪魔する』

頭の中でヴィンセントが喋った。

「ヴィンセント!?うわっ


スコールとキスティスは、突っ立ったまま一人リアクションをしているクラウドに「後はよろしく」と、連れ立って家を出ていった。




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