隣人6



「まだやるのか?少しは休んだらどうだ

そしたら視点も変わって何か別の突破口が見つかるかもしれないだろ」


何戦目になったかもう数えられなくなったデジョネーター。

ガーデン副指揮官キスティスは延々続けていたバトルを一旦止め、溜息をついた。

...別の突破口って何

「知らん。それを見つけられるのはアンタだけだ」

確かにその通り。そんな事は十二分に分かってる、だからこそこんなに苦しんでる!………けど!

「分かってるけどあえて聞いてるの!何で!?何がいけないの!?


レベル100のモンスターばかりが集う”天国に一番近い島”で休みなくバトルを続けているスコールとキスティス。

ガーデン総指揮官スコールは”もう休め”とばかりに無言でポーションを渡した。

キスティスは受け取りはしたが、使わず手に持ったまま呟くほどの小さな声で言った。


「……前は…次元の間に送り込んで確実に存在が消えた手応えがあったし、終わればアイテムも残っていて経験値も上がったわ

今も以前と同じように飛ばしてるのに、どうしてアイテムもカードも出なくて経験値も上がらなくなってしまったの

何が、どこがいけないのどうして経験値が入らないってことは魔法が成功していないって事

他の青魔法はちゃんとできるのに、どうしてデジョネーターだけができなくなってしまったの

「デジョネターを使えるのはアンタだけだ。アンタにしか克服できない」

「分かってるわよ分かってるって言ってるでしょだからやってるんじゃない............本当にどうしようもなく!冷たい男ね少しは落ち込んでる女性に優しくしようとか思わないの!?

そう言いながらもスコールが正論を言っていること、自分がヒステリーで滅茶苦茶な絡み方をしている事も分かっている。

キスティスは怒りを通り越して悲しくなってしまった。

「……ごめん。八つ当たりして……。いつも付き合ってくれてありがとう」

「気にするな。聞いてないから」

聞いてないって!!!!

…本当に…謝った事すら後悔させてくれるスコールの見事な冷徹っぷり。

こんな男だから!…………出口の見えないスランプに付き合ってくれているのよね…。

でもトレーニング場所は毎回『天国に一番近い島』『地獄に一番近い島』に連れてこられる。

リミット技練習のためHPをレッドゾーンに入れたままLV100ばかり揃っている島でのトレーニングは遠慮したいのだが、それがスコールの指定なのだから仕方がない。

他の場所は「つまらん」と付き合ってくれない。



青魔法デジョネター。

モンスターを次元の狭間に飛ばして仕留める魔法は、どんなにHPの高いモンスターでもステータス攻撃のしつこいモンスターでも一発でバトルを終了させられる非常に効率のいい魔法。

だがそのデジョネーターがある日突然、発動はしてもなぜか経験値に繋がらなくなった。

デジョネーターで目の前からモンスターは消える。

だが経験値が入らない...つまり飛ばしたモンスターは死んでいない。

どこに飛んで行っているのかも分からない。となると、逆に非常に危ないことになる。

もしそのモンスターが人が住む街に飛んでいたら?

今のところ「突然モンスターが現れた」と騒ぎになっているニュースは無いが、ワープ地が未開の地だったらニュースになるのは遅い。


非常にマズイ状況に、キスティスを密かにフォローしたのはガーデン総指揮官スコールと、バラムガーデン暫定校長でありキスティスの親友のシュウと、校長秘書にしてガーデン操縦士のニーダの人。

デジョネーターという青魔法がリミット技なため、サポート無しでは訓練ができない。

だがスコールの指定する島には飛空艇ラグナロクを使わなければたどり着けない。

だがそうしてスコールと2人で忙しい仕事の間を縫うようにして、飛空艇ラグナロクで出かける姿を目にしたガーデン内では、噂がたち始めていた。


「ガーデンであなたと私がつきあってるって噂がたってるわよ。私のせいで...ごめん」

いや、半分は毎回目立つラグナロクを使うスコールのせいだったが、大元の原因はキスティスの不調から来ていた事からの謝罪だった。

だがスコールの答えはやっぱりスコールだった。

「ツマラン噂なんか気にするな」

「は!?ツマランって何よツマランって!!私と噂されるのがツマランっていうこと!?

何よどういうつもりなの!!今っ度こそハッキリさせましょうよ!!あなた、私がつまらないって言ってるの!?それとも女性としてつまらないって言ってるの!?そんなわけないわよね!!あるわけないわ!じゃあ何!私との噂の何がツマラナイの!?何でよ!!答えなさい!!


スコールは基本無表情だが、総指揮官と副指揮官で2人行動をすることの多いキスティスには通用しない。

リアクションの無いスコールの機微を読み取れるからこそ副指揮官をやっていられるのだ。

しかもこの時スコールは溜息まで吐いた。


!!この...その溜息何よ!!そのあからさまにウザそうな!メンドクサ…って顔!!そんなんだからリノアに見切られるのよ!!この!この!冷血男

「そっちに話が行くのか。もう終わった事だ。蒸し返すな」

「!………もう!!朴念仁ーー!!」


口から出る言葉はともかく、キスティスも本音ではとっくに分かっていた。

スコールはどうしようもなく優しくて、どうしようもなく不器用な男。

いつだって一番近くにいて、表情に出ない本音を誰よりも見てきた。

スコールは優し過ぎたのだ。


魔女討伐後、スコールはSeed寮を出てバラムにマンションを借り、リノアと同棲を始めた。

"こんな所でラブラブ生活に溺れてる場合じゃない、まだティンバーはガルバディアから解放されていない"とティンバーのレジスタンス仲間が説得に来たり、魔女とSeedが付き合うのはオカシイだろ...というガーデン内の声もあったが、2人の世界に入っていたスコールとリノアには届かなかった。

ところがその人が何の前兆も無く、たった半年で突然別れた。

誰に何と言われようともスコールの隣から決して離れようとしなかったリノアのバラムからの突然の失踪。

その後、誰に何を聞かれてもスコールは判で押したように『リノアと俺はもう関係ない』それ以外は何も答えなかった。

あの鬱陶しい熱々カップルの予兆なしの破局の真相を誰もが知りたく聞き出そうとしたが、スコールは有無を言わせない威圧と、全てを凍て尽くす極寒地獄の瞳で誰からの質問も許さなかった。

スコールのそんな徹底した沈黙に周囲も段々とリノアの件を口に出すのを憚り始めていたある日、突然意外な形でガーデン全員がリノアの失踪先とスコールとの別離理由も同時に知った。

リノアがティンバーの議員選挙に出馬していた。

『魔女』『未成年』『未婚』という絶望的なハンデを抱えての出馬。

おまけに選挙戦が始まれば、同一区の対立候補が

「リノア・ハーティリーは戦争屋(スコール)が恋人でバラムで半年間にわたり大量殺人犯(スコール)と同棲までしていた」と、ネガディブキャンペーンを展開した。

リノアは一切の言い訳をしなかった。

一方スコールは完全沈黙を貫き、繰り返し「俺とリノアはもう関係ない」と言い続けた。


.........そういうこと......


自分達が命を懸けてやってきたこと、怪我を負いながらも勝ち取った平和な世界。

闘いもしなかった一般人が今の平和に胡坐をかいて『戦争屋』『大量殺人犯』と軽蔑の眼差しで批判する。


ガーデン内のある者達は傷心し、ある者達は怒り、そして過去に今回のスコールと同じ体験・思いをした者達は密かに同情し悔しがった。

これが我々の現実。


魔女の恐怖から解放された時は世界中がスコール・レオンハートを『伝説のSeed』『英雄スコール・レオンハート』などと煩いほどに持て囃した。

レオンハート指揮官だけではない。魔女戦争ではガーデン校Seed、訓練生関係なく全員が命をかけて戦った。

世界の平和の為に。魔女からの解放の為に。今となってみれば鼻で笑うようなクサイものの為に本気で、命を懸け戦った。

なのにただ守られてきた一般市民が

喉元過ぎれば『頼んでない』『やりすぎ』『話し合いで解決できた』『金を貰って人を殺す傭兵』などと罵り軽蔑・嫌悪・差別をする。

…………そんなものだ世間なんて。

一般人なんかいい気なものだ。恥知らずはどっちだ。

何も知らないくせに。命を懸けて戦った事も死線を彷徨う怪我を負い生涯消えない痛みを背負っても、それでも戦場に向かう事しかできない生き方も、一緒に育った仲間が次々死んでいく痛みも知らないくせに。知らないくせに何を知った口を叩くか


ガーデン内で不穏な空気が湧き上がり始めた。

時代が変わったからといって我々の総指揮官、我々の英雄、我々の希望を人殺し呼ばわりなど絶対に許さない

Seedも、ガーデン生徒も、黙ってなどいるものか思い知らせてやる

そしてスコールの心の痛みを身近で見ていたキスティスに至ってはもっと手が付けられないほどに激高し学園内が目に見えて時化(しけ)始めていた。

だがそんなキスティスを諫めたのは意外にもガーデン暫定校長にして親友のシュウだった。


「スコールは沈黙を選んだ

ならば我々は指揮官の意思に従うのみだ。それが我々Seedのやり方だろう


シュウの言葉に納得したキスティスはニーダも巻き込み、ガーデンの不穏な空気を鎮圧することに周った。

結果的に『戦争屋スコール』の配下にあるSeedやガーデン生達は沈黙を守ることに徹した。

一般人などに理解してもらえなくとも構わない、理解など望んでなどやるものか

『沈黙』することが我々傭兵のプライドだ!プライドは誰かに守ってもらうものではない。自分で守るものだ


ガーデン内が落ち着いてきたある日、シュウがポツリ...とキスティスに言った。

「傭兵の宿命さ、『表』の世界は月より遠いのだよ」

もしかしてシュウも過去に似たような思いをしたことがあったのかもしれない。

キスティスは掘り下げては聞かずにおいた。

その痛みは今のスコールを誰よりも近くで見ているキスティスには伝わっていたから。


あれほど派手な恋愛ドラマを打ち上げたスコールとリノアの恋はたった半年で幕を閉じ、そして恋人を犠牲にした甲斐あってリノアは対立候補に僅差で勝ち、当選した。

だが議員リノアが”公約など、ただの建前ですよ!”と最も強く推し進めたこと、それは...戦犯サイファー・雷神・風神の死刑取り消し、裁判無効だった。

今までプライドで沈黙を守ってきたSeedたちや全ガーデンの生徒たちが完全にリノアの敵となった。

ふざけるなサイファーたちのせいでガーデン校がどれほどの被害を受けたのか、何人の生徒やSeedが傷つき殺されたか、どれほど世間にSeedの悪評を作ったか

一度は壊滅状態にまで追い込まれたガーデン校をスコールを筆頭にSeedや生徒たちがどれほどの苦労をして体勢を立て直してきたのか

お前はスコールと同棲までして嫌というほど見てきただろう我々がどんなに苦労したか!!

不器用で口下手なスコールがどんなに苦労してガーデンを引っ張ってきたのか、望んでガーデン代表になってるわけじゃないと知ってるだろう

そのスコールを対立候補に貶めさせ、踏み台にし、自分だけが日の当たる場所に出て、その結果が反逆者サイファー達の死刑取り消し嘆願!?


Seedやガーデン生徒たち個々がそれぞれの意思でリノア暗殺でもしそうな勢いの大波がうねり始めていた。

そしてガーデンに新しいルールが創られた。

『仕事以外でのあらゆる暴力・破壊活動には監視・罰則をもって対処する。』具体的には『放校・暗殺』と発表された。

リノアに対し行動を起こす者はいなくなった。ゲス女なんかのためにファミリー(ガーデン)を敵に回す気はない。


だがしかし『リノア・ハーティリー』は、全ガーデン生徒の完全なる敵・蔑みの対象となった。

スコール・レオンハート総指揮官がリノア・ハーティリーを守り続ける揺るぎない意思は悲しいほどに伝わって来た。

我々は指揮官に従うのみ。


我々がリノア・ハーティリーに攻撃を加える事は無い。

それが我々ガーデン傭兵のプライドだ!


だが、リノア・ハーティリー。お前は全Seed・ガーデンの敵

お前がどうなろうとも、我々が助力してやることは2度とない

機会さえあれば殺すかもしれない。


……それがガーデン校の裏のルールとなった。




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