隣人3



北の大空洞

以前の最終戦大空洞には飛空艇で直接入った。

しかし今回の依頼は空洞内ではなく山自体に見たこともない恐ろしいモンスターが巣くっていて近づけないという事だったので、クラウドは山の麓から歩いて進むことにした。

依頼主は麓の住人達による自衛団。

彼らによれば今までに何人もの(自称)腕利き傭兵達、傭兵組織に依頼をしてきたが、結局どいつもこいつも"前金"”着手金”だけを受け取り帰っては来ず、未だモンスターは増え続け凶悪化する一方だという。

だから今回から報酬金は仕事完遂後に地元自衛団が山の安全を確認してから、全額一括渡しにする契約となっていた。


長く独りで傭兵を続けてきたクラウドにとっては「高額依頼金」も「凶悪モンスター」もどうでもよかったが、何よりも気になっていたのは「見たこともないモンスター達」という村人達の表現、そして「どいつもこいつも前金だけ受け取って帰ってこなかった」と。

本当に”帰ってこなかった”か、それとも”帰って来れなかった”か。

久々にこれから始まる仕事に期待していた。


暫く山の中を歩くと、村人の言う「山が異常」の意味が分かった。

出現するモンスターや精霊・幻影まで、初めて見る新種が数多くいる。

戦うことで得られるモンスター情報では、全くの新種もいれば同じ種族のモンスターでも亜種化したものもいる。

例えば炎属性モンスター『ボム』でも、攻撃手段や自爆を使う所は同じでも、微妙に見た目が違い、マテリア『みやぶる』も効かない。

何より亜種化したものや新種のモンスター達の特徴は、倒した後に妙なカードをたまに残すことがあった。

何のカードなのか、まるでトランプの様に裏面はすべて共通の絵柄だが、表面は倒したモンスターがそのまま閉じ込められたような妙に魂の籠ったようなリアルな絵が描かれており、なぜかどれにも左上に数字がつ記入されていた。


何故だか分からないまま、とりあえずモンスターや精霊たちを倒しながら情報やカードを集めながら山を登って行ったが、歩を進めるごとに出現するモンスターのレベルがどんどん際限なく上がってきていた。

おかしい。根本的におかしい。

この山だけが他の地域から切り離されたように、何もかもが”違う”のだ。


状況がよく分からないままとにかく闘い続け、登り続けた。

そうして標高が高くなるに連れ、動物や植物、昆虫などの生命の気配が無くなってきていた。

逆にこういう環境では決してありえない臭い、......血と...死肉の腐臭がどんどん強くなってきている。

土や岩石を真っ黒に染めているのは乾き固まった大量の血。

所々で見える白い欠片は白骨化した骨、そして主を失くした防具や武器たちが散乱している。

間違いない。自衛団が「前金だけ受け取って帰ってこなかった」と罵っていた傭兵たちの痕跡だ。

彼らは『帰れなかった』。


山の中腹辺りに入ると突風や濃霧がきつくなり、急斜面の崖と岩ばかりで足場が危うく視覚も遮られ、モンスターも軒並みLV100を超え、S級傭兵のクラウドでも進行は困難を極めていた。

だが決して戦闘からは逃げず、投げず、進行し続ける事で、予定していた進捗よりは遅れはしたが、ついに山頂空洞入口に辿り着いた。

山頂では眼下に分厚い雲海が広がり、別天地のように完全クリアになった世界に、クラウドはただ立ち尽くしてた。

そこには、捕らえられ喰われた人間やモンスター、精霊たちの残骸。

肉をこそぎ落された骨・羽・血肉付きの爪、妙な粘土の様に折れて潰れ曲がった手足が生ゴミの山となって散乱している。

ただ、傭兵として…同じ傭兵として…

山を下りたら地元自警団の連中に、帰れなかった傭兵たちを弔ってくれるよう頼もうとクラウドは目を閉じた。


山頂に一人、クラウドは何故こんな異常事態が起こっているのか、しばらく考えていたが分からない。

原因を潰さない限り、このまま山を下りても恐らく遠からず同じ現象が起きる。

どうするか。

山に入ってから7日は過ぎている。一旦下山して状況を村に報告するか、それともこのまま更に探索して原因を追究するか、考えていたところ突如、大空洞から巨大な何かが上空へ飛び出し、急激な体積の移動に真空になった大空洞内に大量の空気が引き込まれ、クラウドは一緒に引き込まれそうになった。

地に剣を刺し身を引くし堪えたが、砂利や砂埃は”何か”と共に空高く巻き上がり、直ぐに砂利や砂埃がザアザアガラガラと降ってきて、クラウドは目を開けるどころか呼吸も止めるほどだった。

手で顔を覆いながら無理に目を開け、上空を仰ぎ見れば...見たこともないデカイ飛行型のモンスターが背中の大きな翼をはためかせていた。

酷い土埃の中にいるクラウドの姿は上空にいるモンスターからは見えないはずだが...視覚ではない何かで認識しているのか正確にクラウドの位置を把握し、先制ステイタス魔法ペイン(毒・暗闇・沈黙)を命中させてきた。

今までとは段違いの戦闘レベルのモンスターだ。

この星ではもう戦闘能力値測定不能の強さであるクラウドにステータス魔法をかけられるモンスターなど存在しなくなっていたが、この突如現れたモンスターのペインに、ブライン・サイレスだけはなんとか防いだものの、毒を喰らってしまった。

「みやぶる」をかけてみたが、案の定通用しなかった。

モンスターの第2波、ストームブレスを直撃されダメージ5800を喰らってしまった。

クラウド残りHP4199

これでは一発で型をつけなければ3波目を喰らったら終わりだと今ではもう強すぎてバトルで使わなくなっていた「マスター召還ナイツオブラウンド」を召喚した。

登場するや円卓の騎士たちは各々9999×13人でダメージ129987を与えた。

だが、凶悪モンスターはまだ生きていた。

マズイと思ったが、避ける隙もないカウンター攻撃でテイルニードルを叩き込まれ、ダメージ3330。残りHP869

そのおかげでクラウド自身にリミットブレイクがかかり、超究武神覇斬の連続攻撃でダメージ149985

なんとかモンスターを戦闘不能に陥らせる事に成功した。が、次の瞬間、飛行モンスターがファイナルマジック・禁断魔法ホーリーを発動させた。

そして霧散。

クラウドは胸に焼けるような衝撃を受け、そのまま意識を失った。


どれだけ時間が経っていたのか、気が付けばそこは飛行型モンスターとの戦闘前と何も変わらない、辺りは生臭い血や腐臭が漂い白骨や肉片の散らばる吐き気のする場所のままだった。日も傾いていない。

時間が殆ど経っていない…という事は、気を失っていたのは一瞬だったらしい。

気を失う前の胸への焼けるような衝撃を思い出し、自分の胸を見ると…身に着けていた防具は直撃を受けた胸から腹にかけては前後共に完全に溶けて跡形も無くなっており、中に着ていた服も前後とも溶けて素肌が晒されていた。

「……………」

防具・衣服の前後とも溶けているということは、心臓も肺も胃も焼け溶け失くしたはずだ。貫通して焼けているのだから。


死んだはずだ。


確かにソルジャー体質になってからの傷の治りは日頃から驚異的だった。

だがそれは”怪我”に限ってだ。

ソルジャーでも欠損したものまでは復活しないし、何より命を落とせば復活など無い、はずだ。

なぜかセフィロスとザックスは復活してきたが、それだって復活までに30年以上もかかっている。

何故今自分が息をしているのか。


理解できぬ状況を暫く考えていたが、答えを見つけたところで結局それは推測にしかならない。

星の摂理など星の粒子1つに解けるはずもない。

考えても仕方のない事は考えない。

考えたくない。

事実は今の仕事の進捗が遅れているという事だ。

今やるべき事は・・・先ずは、先ほどの巨大飛行型新種モンスターの分析。

アルティメットエンドで戦闘不能にならずに超究武神覇斬で戦闘不能になったということは、あのモンスターの最大HP130000以上280000以下。

つまりそれは...アルテマウェポン以上、ルビー・サファイヤウェポン以下。そして攻撃力・速さとも今まで遭ったどのモンスターよりも群を抜いていたし最期のファイナルマジックを使うことも凶悪だ。

あんなものが大空洞内部に何体もいるとしたら...一人では確実に無理だ。

ヴァンガードアタッカーはクラウドがやるとしても、フォロー役が必要だ。

だが今の様なモンスター達相手では、命がたった1つの人間ではどうにもならない。

ザックスも以前なら迷わなかったが、今の状態では無理だ。

だが現実的に一人では無理。

…一人だけ、心置きなく使い捨てにできそうな銀髪を思い出したが、その存在は瞬時に抹殺した。

どうすべきか悩んでいたところ、空洞奥からドーンドーンという地響き共にモンスターが上がってくる気配がした。

かなりの重力を持ったモンスターのようだ。

クラウドは立ち上がり、背負っていた斬馬刀の柄を手に取り、ヴォンッと一振り、勝算の見えない考えを断ち切った。

勝算が無いのなら算段する必要などない。モンスターが何者であろうとどんなLVであろうと戦うだけだ。

独りで。

死んだからって何だというのかむしろ望むところだ。

この呪われた身体は死ぬことでしか楽になれない。この命が終わるのならそれこそ待っていた瞬間だ


グオォォォゥ!!!と体の芯まで響くような声が間近に聞こえた時、クラウドは先手、ナイツオブラウンドを召喚した。

目の前に現れたのは、つの頭を持ち、身体に呪文のような模様が入ってる、やはり今までに見た事の無いモンスターだ。

ナイツオブラウンドの連続攻撃が始まった。

ダメージ129987で一発戦闘不能で霧散。

つ頭のモンスターは誰に攻撃されたのか分からないまま戦闘不能になった。

...なんだ、弱い」


先ほどの飛行型モンスターレベルを覚悟していたクラウドは拍子抜けした。

今のモンスターのHP129987以下。

そして今までモンスターのいた場所にまた例のカードが落ちていた。

「いったい何なんだコレ」

新種や亜種が落としていくカード。殆どが倒したモンスターが封じ込められたかのようなカード。

今のモンスターのカードには右上に水滴のマークが入っている。

ボムの亜種を倒すと同じ場所に炎のマークが入り、新種ブリッツとグレンデルには雷マークが入る。

属性の印なのだろうが、だから何だというのか。

分からないまま麓から集め続けたカードは既に50枚を超えている。

「多分、何かの役に立つんだろうけど…どうやるんだ?」

縦にしたり横にしたりして考えていたところまた奥から地響きと共に新種のモンスターが出現した。


オレンジに黒の模様の入った恐竜のような恐ろしく巨大なモンスター。

人間よりも10倍以上はデカイ。見るからにHPが高そうで、パワーがありそうだが知能は低そうだ。

恐らく物理よりも魔力に弱い。

「バイオ

思ったとおり簡単にステイタス異常になった。

一度の毒で8000近くのHPが削れるということは・・最大HP800000はある。

モンスターが巨大な尻尾を叩きつけてきたが、かわす事に成功。

あの尻尾に当たったら一発で追い込まれる。

「ブライン

かかった。ステイタス攻撃にも弱い。これでモンスターの物理はほぼ当たらない。あとはHPを削って戦闘不能に持っていけば...そう思ったが、カウンター攻撃でクウェイク魔法をかけられクラウドはHP2000を削られた。

......生意気に上級魔法も使うらしい。

「サイレス

かかった

ブライン・サイレスで物理・魔法共に攻撃を封じられ、バイオで一方的にHPが減っていく状態にして、その間に新種モンスターのデーターを取ることに集中した。

何ターン目かで一方的に戦闘不能になったモンスターの所には例によってカードが落ちていた。

あれ

拾い上げたカードに描かれてあったのは、倒したモンスターではなく、人間兵士の男が人描かれている。

今まで手に入れてきたカードは全てモンスター単体のみだった。

新しいカードに描かれている兵士人は…おそらくニコイチで描かれるほどに仲も良いのだろう。

何となく昔の仲間を思い出した『ウェッジとビックス』


彼らはもうとっくに星に還って新しい命になっているのだろう。

テロリストだったが、性格は2人とも全然向いていなかった。

死んでいくミッドガルを放っておけなかった奴ら。今度こそ争いの無い平和な世界に誕生できるといい。

そんな感傷に浸っているうち、また奥から翼を羽ばたかせ空洞を上ってくる気配がした。

現れたのは、体は小さいが紫色の体色をした眼の大きな嫌な感じのする飛行モンスターだった。

...こいつはステイタス攻撃をしてきそうだ。


余計なことなど考えるな。

原因を追究し大空洞を進み続け、新種モンスター達を根絶やしにする。

それだけだ。

それ以外の情報など必要ない。

クラウドは紫色のモンスターへ斬り込んだ。




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