隣人2




いつ頃か、彼は一人で生きていくと固く決めていた。


ジェノヴァ遺伝子により上限の無くなった身体能力のおかげでできない仕事など無くなり、厳しい仕事を続けるうち、金に糸目をつけない危険な依頼の率が上がっていった。

そういった仕事もつ乗り越え、ノルマを終えれば傾れ込むように家に辿り着き泥のように眠る。

だが数時間後には疲れも怪我もリセットされ、また新たなノルマ消化に出動する。

彼は休み無く働き続け、忙しさを言い訳に、少しづつ「仲間」も「過去」も「自分」も切り捨てていった。


人の命は絶え間なく誕生し、留まらず成長し、枯れて死んでゆく。

まるで浜辺に打ち寄せる海の泡のように現れ、美しく儚く輝き、弾けて消える。

どんなに優秀で強い傭兵でも、どんなに人徳があり偉大な人でも老いはやって来るし、死ぬ時は死ぬ。

だからこそ人の人生で、だからこそ命は尊く美しい。


星を巡る戦い以後、クラウドは「約束」の何でも屋『ザックス&クラウド』を一人で開業した。

店が周年を迎えた頃、ミッドガルで新政府の官僚となっていたリーブから報告があった。

『ヴィンセントがルクレツィアを殺して行方不明になった』と。

クラウドは「へえ...」と言ったきり、それ以上は何も言わなかった。

皆で戦っていたあの頃、祠の中でルクレツィアからジェノヴァ細胞死滅能力を持った武器『カオス』と『デスペナルティ』を送られたヴィンセント。

あの時のヴィンセントを見て、嫌な予感がしていた。"そうならないでほしい"と、願っていた。


ジェノヴァ遺伝子により死ねなくなっていた女が時を経てヴィンセントに送ったメッセージ。

『私を殺して』

自ら望み、ジェノヴァ細胞の実験台になった。

その結果を受け止められずに長い時間をかけ、ジェノヴァ細胞を滅ぼす武器まで開発した。

科学者としては宝条以上に優秀なのだろう。

だが他人の痛みに死人の様に鈍感になれるところは宝条と似た者夫婦だ。

お前のせいでヴィンセントの時は止まり、悪夢の中を彷徨った。

ルクレツィアを殺したヴィンセントの苦しみは、それまでの比ではなくなっただろう。

そんな事すら考えられず、それとも知っていて、分かっていて、それでも自分の痛みだけを優先させたのか。

母親としても化学者としても結果(セフィロス)を受け止められず逃げ出した。

自分のした事に何つ責任を取らなかった女。

バカなヴィンセント。

何故あんな最悪な女の身勝手な望みを叶えてやった。

何故あんな女の為に自分まで殺した。

ヴィンセントが自殺したなどとは聞いてはいなかったが、まず間違いなく生きてはいないだろうと確信していた。

心の痛みにだって、耐えられる限界がある。


結局考えても憤っても仕方ない。

ヴィンセントは人生も命も捨ててしまうほどにあの女を愛した。

それが全てだ。


自分は違う。

誰かを愛することなどない。

薄情でいい。何もかもが留まらず通り過ぎてゆくのだから。

誰も好きになどならない、なった事もない。一人でいい。

いつか別れが来て、1人だけ、取り残されるのだから。


出合った頃はいかにも子供っぽかったユフィが駆引きの巧みな熟女になってゆき、ティファは美しく円熟した女性になっていった。

バレットの娘マリンが年上に見られるようになった頃、かつての仲間たちと関係を絶った。

連絡もしないまま引っ越しを繰り返した。

彼らがいなければ生きていけないわけじゃない。

もう誰もいらない。


そんなある朝、いつものように仕事の依頼地に向かうため何でも屋「ザックス&クラウド」の店舗のシャッターを開けると、前方から店に向かって歩いてくる男の姿に、思わずクラウドはフリーズした。

彼は死んだ。

腕の中で体温を失くしていったあの感覚を今でも覚えている。

だから違う。アレは、、、。

靡く黒髪。堂々と大股に歩く姿。

二度と期待なんかしない。

アレは他人の空似。

太陽のように眩しく暑苦しい奴が白い歯をキラリとさせニカッと笑って向かってくる。

……本当に

まさか隠し子…。

まさか…。


ついに目の前についにその男が立った。

見上げるほどの長身。


「ようクラウド久しぶりここ、社員一人足りてねーだろ

...........................ザックス


名前を口にするのにたくさんの勇気が必要だった。


でも、とにかく店の名は『何でも屋ザックス&クラウド』現在店員はクラウド人。

確かに名足りていない。それは確かだ。


その日から名実共に「何でも屋ザックス&クラウド」がスタートした。

ザックスはいちいち声がデカく、アクションも粗暴で大きくうるさく、鬱陶しく賑やかだった。

その煩さ迷惑さ暑苦しさにクラウドは確信した。

本人だ。あのソルジャー1stザックスだと。

すっかり誰とも深く関わらずに生きていたクラウドには、誰にでも何にでも絡んでいく”無計画”としか言いようのないザックスの行動のどれもにヒヤヒヤしながらイラつきながら、反面...救いにもなりはじめていた。

そんな生活が始まる中、クラウドにもザックスにも分からない根本的な謎があった。

何故ザックスは復活したそしてザックスが復活したのなら何故他のソルジャー達が復活しない

ソルジャー達が復活したなんて話はどこからも聞こえてこない。

当のザックス自身も何故復活したのか分からないと言う。

結局そういう"星の摂理"なんて”駒1つ”がいくら知恵を絞ろうとも、世界は見えないので、とりあえずは現実優先、店に舞い込む仕事を人でこなしていくことにした。


2人体制の店が活動するにあたって、1つ問題が起きた。

ザックスは一度死んでライフストリームに還った時点で身体能力・戦闘能力共にリセットされてしまったらしく、戦い続けてきたクラウドとの間に大きな差ができてしまっていた。

だがそこは不屈の元ソルジャーstザックス、クラウドに付き合うことで日々戦闘レベルを上げていきつつあった。

人でそうして店を回し始めてひと月ほど経ったある日、引っ越しを繰り返していたクラウドの居場所をどうやって調べたのか、今ではもうすっかり高級官僚となっていたリーブから”クラウドとザックスへ”呼び出しがかかった。

連絡を断ってから30年、引っ越しも15回以上。

クラウドの居場所どころか、ひと月前に復活したザックスの存在まで知っているなんて...さすが偉い人の情報網は違うなぁ、などと人で話しながら案内された部屋に入れば...

大きなデスクの向こう側に...すっかりジジイになったリーブと...その横に立っている銀髪の男...


セフィロス


予感はあった。

少なくともクラウドには。

ザックスが復活したのだから、ザックスのそれよりも遥かにジェノヴァが濃く、リユニオンした側のセフィロスが復活しないはずがない。それは想定内だった。

ただ予想外だったのは、疎遠になっていたとはいえ仲間だったはずのリーヴがセフィロスを紹介した事。

いや、元々はリーブもセフィロスも神羅の人間だから...いや、でもセフィロスは神羅本社も皆殺しにしてプレジデントも...あぁ、そうかリーブも神羅を裏切ったから......え、だから人が手を組んだでもそれはおかしいだろ。ならばあの対決は何だったのか...と、クラウドが混乱し始めていた時。


「ひと月前に急に表れてな。度と以前のような過ちは犯さないと誓った

以来私の仕事を手伝ってもらっている

戦場にも行くし、モンスターハントもやっているから、もしかしたら君らと出先で会う事があるかもしれん

だがGPS付きの自爆装置を装着させているから、出先で見かけることがあっても放っておいて大丈夫だ

突然会っても驚かないように紹介しておきたかった」

そう紹介するリーブの横でセフィロスは真っ直ぐクラウドだけを見つめている。

その瞳は笑っていない。


長い銀の髪、190cm以上もあるザックスにも負けないズバ抜けた長身、均整の整った体躯、悠然とした仕草、鷹揚な物言い、それらを凌駕する斬りつけるような眼差し。

セフィロス・ソルジャーst

世界の英雄。

憧れ、裏切られ、入り込まれ、支配され、決別した…………はずの、セフィロス………。


憧れた長剣が銀色に閃いた時、身体が貫かれていた。

刀を伝い流れてゆく血と共に力が抜けていった。

ザックスが殺されていた。

ティファが血溜りの中に倒れていた。

燃える家の中でみつけた母の死体。

床中に血が飛び散って、その血が炎の明かりで真っ黒に見えて地獄が口を開けていると思った。

助け出そうとしたけれど、地獄の口が揺らめいていて、行かなきゃと思ったけど業火が襲ってきて近寄れなかった。…母に。

母さんは一人で俺を育ててくれた。

強くて優しくてちょっと抜けた母さん。

いつだって馬鹿みたいに俺を信じてた。

母さん、母さんが炎の中で焼けてゆく。

黒く燃えてゆく。



笑いながら悠然と業火の中に消えていくセフィロス。

何故何故そんなことを

村中が燃えてる。

俺の村...嫌いだった俺の村。

でも母さんが帰りを待っていた。

母さんだけがいつまでも信じて待っていてくれた。


いつだって帰りたかった。

でも帰れなかった。

どうしても。どうしても!

ヴィックスが鉄塔から降ってきて地面に叩きつけられた。

ジェシーが穴だらけになって血まみれになって、ウェッジがおかしな形に折れ曲がって...

俺は、俺は何をやっている。

入り込まれる。

俺が俺じゃなくなる。

...何かが...俺の中に...

やめろやめてくれ!!

触るな!!俺に入ってくるな!!

払いのけても、逃げても、入って来る。


「クラウド!!


「クラウド!!!


ザックスが真正面に立ち、セフィロスの視線を遮った。

狼狽えつつ覚醒したクラウドと、ニヤリ...と口元だけを歪めているセフィロス。

その微笑にクラウドの琴線が弾かれた。


炎の中へ消えていったあの微笑み。

俺に母さんを見殺させたあの時の嘲笑!!

ザックスを押しのけ、怒りに輝く眼をリーブに向けた。


「お前の裏切りはこれで二度目だ」

その瞳、その言葉の意味にリーブの瞳が見開かれ、セフィロスからも笑みが消えた。


「さよならだ、リーブ」

続いた言葉は

「サンダガ!!

上級魔法がセフィロスに落された。

咄嗟にリーブを庇いながら「シールド」を自分とリーブにかけたセフィロスだったが、計算外だったのは星を巡る戦い以来ずっと第一線で戦い続けたクラウドの戦闘力に対し、復活して間もないセフィロスの戦闘力はザックス同様とても対抗できるレベルではなく、セフィロスのそれを完全に貫いた。

感電、爆発し、浮き上がった床ごと弾き飛ばされ、気を失い倒れるセフィロスとリーブ。

扉を吹き飛ばされた隣室の秘書達が駆け込んでくる。

部屋の中は滅茶苦茶に破壊され、窓どころか壁ごと全て吹き飛び、庁舎に布かれているセキュリティ非常サイレンが館内に煩く鳴り響く。

シールドをかけられた上に、シールドをかけたセフィロスに覆いかぶさられながらも意識を喪失のリーブに、要人専用救急特別車と救急病院が秘書達によって手配される。


「来い!!

様々な人たちが駆け込んでくる中、凍てついた瞳のまま動かないクラウドの腕を掴み、ザックスは壁が吹き飛んだ部屋からそのまま外に飛び出て、庁舎パニックのどさくさに紛れ逃げた。

人が店兼自宅に帰り着いた時には、国の最重要人物が集まる庁舎がテロリストに襲撃されたというニュースだけが各メディアで繰り返し放送されていた。

だが、襲撃犯はいつまで経っても特定されなかった。あれほど分かりやすい状況であり、目撃者が何人もいたにもかかわらず。

そして”怪我人・死者はいない”と繰り返し流れされた。


クラウドは自分の部屋に引き籠り、ザックスの呼びかけにも応じなかった。

夜が明け始めてもまだ呼びかけに応えないクラウドに業を煮やし、ザックスは扉を蹴破り入った。


「いつまでグダグダしてんだここを出るぞ俺らこのままだと捕まる!!

他の荷物はできてるお前はあと3分以内で荷物まとめろ!!!

クラウドは出窓に腰かけ、片膝を抱えて座っていた。

「アンタだけ行け。やったのは俺だ。べつに捕まってもいい。...どうでもいい」

「こ…のっ馬鹿野郎!!!


ザックスはクラウドをイッチョマエの男として扱ってしまったことを激しく後悔した。

どれほど大人ぶっても、どれほどS級戦闘員になろうともクラウドはヘタレだ。

分かってしまった。

クラウドはセフィロスの視線だけで囚われた。


ザックスは自分の死後のクラウドとセフィロスの関りを知らない。

クラウドは当時の話を避ける。

だが結果はセフィロスはクラウドにライフストリーム送りにされた。諸悪の根源だった神羅ももう無い。ならば何の問題もない。そう思っていた。

今更気がついた。2人の戦いは単純なものではなかったのだ。

セフィロスは負けても、それ以上の酷い傷をクラウドに刻んでいた。

クラウドは戦いが終わって30年経っても、その傷を癒せずにいる。


「どーせここも住んで年も経ってんだ、な!?もう潮時だ、ホラ早く荷物纏めろ!!いぃ~ちにぃ~いさぁ~ん分以内に纏めなかったらお前のモン全部置いていく!!

いいのか!!ここにも直ぐに政府連中やセフィロスがやってくるぞ見られて恥ずかしいモンあんだろ!!見られちゃうぞ!!お前のハズカシイあ~んなモノもこ~んなものも!!チョットエッチなアレとか、ネタのお宝写真とか見られちゃうぞ!!今すぐ纏めねぇと知らない奴らがワンサカやってきて仕事顔しながらお前の誰にもヒミツのお宝を吟味検討しちゃうぞ

ンー、クラウド・ストライフはこういう趣味なんですね…意外と…なんつってメガネ野郎たちに検討会されるんだぞ!!

クラウドお前はそんな羞恥プレイがしたいのかそれがお好みか!!この変態男!!


…そこまで煽っても何も反応しないクラウドにザックスの焦りは募った。

口に出さない…いや、言葉にできないほどクラウドの傷は酷く根深いのだ。

平気な顔をしてるから何もかもが過去になっているのだと勘違いをしていた。

苦しんでいる事をクラウド自身が認めていない。

痛みがとっくに限界を超えている。

その痛みの混乱の真っ只中にいるのだ。

未だに。


ザックスにはこの先が読めた。

セフィロスは必ずやって来る。

そしてクラウドの逃げ場を無くす。今日の様に。


尚も動こうとしないクラウドを一発ぶん殴って部屋から引きずり出し、宣言通りクラウドのアレコレを全部置きっぱなしにして車一台で行き先を決めずあちこちを転々とし、か月後に流れ着いた新しい地でマテリア屋兼傭兵屋をオープンさせた。

今は駄目だ。まだ。

クラウドに用意ができていない。

セフィロスに対峙するだけの。

そしてザックスが何よりも驚いたのは、クラウドは他人に見られてハズカシイアレコレやヒミツのお宝を何1つ持っていなかった事だった。


「マジかお前ナニモンだあ、じゃナニお前、実践派!?あ、でも付き合ってる女いねぇよな!?ん~さては玄人さん専門!?」と言ったところでクラウドに本気でぶん殴られた。

だってありえない。クラウドの肉体老化は17歳で止まっている。

17歳の世界などエロ中心に動いている!少なくともザックスはそうだった!

それが『侮辱だ!』とばかりに可愛らしくも顔を上気させフンッフンッと怒るクラウドの下半身事情は、さすがにザックスはそれ以上突っ込んで聞けなくなった。

だが理解できない、17歳の漲る性欲はどこいっちゃった?と、大きな謎のままとなった。


店の運営はマテリア商売&護衛班はザックス、戦闘班はクラウドが中心とし再開した。

何の宣伝もせずにひっそりとオープンさせたが、クラウドとザックスの飛び抜けた戦闘能力の高さ故に依頼はどんどん増え、転居前に取引していた店や会社もその消息を探し出し更に依頼が増え、前以上に仕事に追われる日々が始まった。

そうしてヶ月程経った頃、珍しくザックスとクラウド人が家にいた時...............現れた。


「仕事で近くまで来たのだ。元気にしているようだな」

その口調から人の居場所はとうに知れていたらしい。

まあ予想はしていた。

以前の得意先が探し出せるほどだ、国家機関が探せないはずがない。


表情を無くしているクラウドに苦笑をしたセフィロスが宥めるように言った。

「庁舎の件の捜査は既に終了している。それにリーブの事はお前の誤解だ

あれではリーブが可哀想だ。もう一度...

言いかけたところをザックスが遮った。


「オニーサンウチの子に勝手に話しかけないでクーダサイネーウチの子とオシャベリ、タダじゃないヨ~!シカク必要よ~?ノ・ノ・ノ、オサワリ、モットダメダメネー!

オ~ウ?オニーサン、ウチの子とオシャベリスルシカクアルーノ??ンン~~~?!アルノカナ~~??

セフィロスの眉間にビキッと縦皺が刻まれた。


OHオニーサンダメねーダメダメ!ブッブー!ダメダメダメッ!

オニーサン、ウチの子に話しかけるにはチョーット人殺し過ぎたネークッサイクッサイ血肉の臭いするネーアナタノー、ツミ!ゼンッゼンッ消えてナイネー...とっとと失せろやクソリユニオン野郎

ハイッライフストリームからやりなおしィィイ!!自分で首でも撥ねて死んでこい!!

眼で殺せるものならとっくに殺されていそうな眼力でセフィロスがザックスを睨みつけていた。

「バァァァカテメー程度の睨みがこの俺に通用すると思ってんのハッ相変わらずバカだね~このジジイはテメー、ちょっと自分に過大評価が過ぎるぜあ、ちなみにコレ親切で言ってっから!素直に聞いとけよジジイ!今後のためにな!

言葉ではふざけてはいるが、ザックスもセフィロスと同じく本気の殺意を放出しながら魔洸の瞳で一歩も引かず睨み返している。

その長身にして元ソルジャー同士の、地獄の雷鳴が轟渡りそうな迫力の牽制のし合いをクラウドはただ見ていた。


...表に出ろ」

絞り出すように言ったセフィロスにザックスは「ここにいろクラウド」と、言い残し人は海岸に向かって消えて行った。

小さくなって行く人の姿を目で追っていたクラウドだったが、フイ...と眼を逸らし、店の扉を閉め、自室に戻った。

日が暮れた頃、漸く戻ってきたザックスはズタボロに傷つき、血や泥・砂で汚れていた。

だがニカッと笑顔を輝かせると「あの野朗、当分は動けないはずだ」と言い終わると、その場に倒れた。


翌朝意識を回復させたザックスが「魔法で治る」と言い張り、予定通り仕事に出ようとしたが、魔法で急激に体を治癒させるのは体の細胞自体に負担をかけるので、長期的な目で見れば治癒には魔法は使わない方が良いため、クラウドはザックスを強制戦線離脱させた。

その分クラウドが人分の仕事をすることになり、モンスター狩り、戦場の傭兵、護衛業に飛び回った。


数日後、クラウドが出勤する前に、またセフィロスがやってきた。

普通に。ステイタス万全の状態で。

ザックスは骨折も裂傷も治っていなかった。

「休暇をもらった。暫くこの辺りで静養する。よろしくな、クラウド」

真っ直ぐ射抜くように見つめてくるセフィロスとは対照的に、クラウドは人形のように冷たく表情が無かった。

「てめぇ...ケアル使いやがったな

店頭にいたのにまるっと無視されたザックスが割って入ってきた。

「使ってなどいない。お前のような使い捨ての量産型とは創りが違う」

セフィロスが嘲笑しながら言うと、ザックスは指をパチンッと鳴らして嬉しそうにクラウドを指差した。

「この人俺と同じ使い捨て量産型そしてお前

セフィロスを指さした。

「お前はこの量産型にミンチ斬りにされて殺されちゃった!!イヤン

ザックスは体中に走る痛みを無視し顔の横で両手をヒラヒラさせて、嬉しそうにお道化た。

だがそれに対し小声でと突っ込んだのはクラウドだった。

「ミンチ斬りじゃない超究武神覇斬だ。変な名前つけるな」

「おうスマンスマンあの技マジすっげえよな今度教えてくれな、クラちゃん師匠同じ斬馬刀使い同士高みを目指そうぜぇ~!?

ザックスはクラウドとガッツリと肩を組むと、セフィロスに向かって親指を立てニカッと眩しく笑った。


......表へ出ろ」

「はぁ~~??オマエ...またかよ~何なのそんなに俺とヤりたいのどんだけ俺の事好きなんだよ鬱陶しいなぁストーカー野郎かよウッゼエ!!

ザックスは全身の悲鳴を無視し斬馬刀を取り「で、今日はどこに行くぅ??」と、こめかみをピクピクさせているセフィロスにニカッ!と笑いかけた。


クラウドにセフィロスを近付けてはならない。

まだ駄目だ。

セフィロスに刻まれたクラウドの傷は未だ血を流している。


「ザックスバトル禁止

「だぁ~いじょうぶだってケアル一発元通りっ」と言うなり自分にケアルをかけ、剣を取り「ヤるぜ!!白髪ジジイ!!」とセフィロスを外へ誘った。

クラウドはため息をつき、殺意のガンの飛ばし合いをしている人を残し、予約の入っている戦闘現場に早めに出ることにした。

するとセフィロスが追いかけて来た。

「や…(役立たずの代わりに私が仕事を手伝おう

と言おうとしたところでクラウドに呪文なしでブリザガをかけられ、店頭にセフィロスの身入り氷像ができた。


翌日クラウドが仕事を終え帰ってみればザックスが昨日よりも更に重症化してベッドに寝ていた。

「バカ...

小さな声で呟いた。

あの後、復活したセフィロスとやりあったのだろう。


そしてクラウドはザックスに復活以来感じていた違和感を確信した。

元ソルジャーst、確かに戦闘能力の上がり方は目覚ましい。だが...異様に怪我の治りが遅い。

ソルジャー体質とは思えないほど遅い。

一度死んでるからだろうか...とも思ったが、だったら何故他のソルジャー達は復活してこない。

そしてセフィロスの怪我はソルジャー体質そのまま直ぐに治っている。

色々考えてみたが結局分からないことばかりで、今のザックスが少しづつ重症化していく状況をどうしたらいいのか答えは見つからない。

ザックスが目を覚ましたのは翌々日。

更に話せるようになったのはその夕方ごろだった。

クラウドにより絶対的に魔法治癒禁止と全てのマテリアを取り上げられたたため、今度こそ本当の強制的に週間経っても店番すらもできない状態で寝込んでいた。

だがクラウドはそうして寝込んでいてくれる方がまだ安心していられた。


ザックスがまだベッドから離れられない状況の中、セフィロスがまたステイタス万全の状態でやってきた。

「見舞いだ」

と言ったが、寝込んでいるザックスを一度も見ようとも容態を聞こうともせず、「帰れ」と連呼するだけのクラウドに貼りついた。


「休暇中で暇だ。他に行く場所を思いつかない。店番くらいならできるぞ

口実にもなっていない口実で、セフィロスは店舗に居座りを決め込み始めた。

...どんだけ休暇取ってんだ。ソルジャー時代じゃ考えられない暇さだな

もしかして役立たず過ぎてリーブに捨てられちゃった

いつの間にかザックスが店舗に降りてきていた。

「誰が役立たず...

セフィロスがザックスに反論しかけたところをクラウドが遮った。

「役立たずはお前も同じだ。ザックス」

「ごめんなさぁぁい。クラちゃんっっ

ザックスの口調はお道化ているが、顔色は未だ真っ青のままだ。

...同じ...

セフィロスの眉間に皺が寄った。


「先週今週とお前は受けた仕事を全てキャンセルしている。

俺達に依頼する客は本当に困っている人達だ。だからこそ他よりも高い金を払って依頼してる。どの人も待てる状況じゃない。

ソルジャーstやってたお前なら分ってるはずだ。一度依頼を受けたなら一番に客の事を考えろ」

「よしな…(ならば私が代わりに依頼を消化してやろう)」

と割り込んでこようとするセフィロスの言葉をクラウドは言葉で遮った。

「ザックス、コイツとの殺し合いをしたいなら勝手にしろ

だがアンタがそうする限り俺はアンタに仕事を回さない

結果が目に見えてるからだ

俺は今日からか月くらい出っ放しになるが、その間にアンタができそうな依頼が来ても絶対に受けるな

後で受けたと知ったら、俺はもうアンタと組まない

クラウドが冷え切った蒼い瞳でザックスを睨んでいる。


「う、スマン。すみません。反省してます...

俺がバカチンでした。謹慎します、コイツの相手もしません。誓います

スイマセンデシタ。ちゃんと自力で治癒します...

ザックスの落ち込む様子にクラウドは意識的に口端を釣り上げ笑った顔を作り、言った。

「謝らなくていい。コイツを許せないのは俺も同じ。分かってる

けど、仕事に穴をあけるのはダメだ。だから。...早く治せ」

そう言うとクラウドは武器と荷物を持って扉を開け、追って来ようとするセフィロスの目の前でシャッターをガシャーンと下し、ザックスとセフィロスを店に残したまま出て行った。



その日の夜、ザックスはクラウドのケイタイに電話をしたが、電源を切っていて出なかった。

クラウドからメールが入ったのはそれから日後。


『ウータイエリアの商品運搬終了、このままコンドルフォートのグリーンローズに入る。連絡は日後に入れる』

ザックスが直ぐに折り返しかけたが既に電源が切られていた。

『ケイタイの電源を入れろ』とメールを送ったが、それから日間電源は入らず返信も無かった。

そしてようやくクラウドからメールが入った。

『砂漠地グリーンローズでの仕事だったんだから電源入れても意味ない。

仕事完了。振込を確認しておいてくれ。次のミンア島に行く。あと、できたマテリアを送っておく』

クラウドからのメールが入って直ぐにザックスは電話をした。

今度は繋がった。

「おまえなぁいくら砂漠つったってウチの携帯は衛星さんだぞ強がってんじゃねーぞ連絡を入れられないのは状況が厳しいからだろ分かってんだぞ元ソルジャーstさんをナメんじゃねー

『大丈夫だよ。俺はアンタみたいな無茶はしない

むしろアンタの方が危なっかしい。またバカなケンカしてるんじゃないだろうな

身体の具合は

「イヤイヤ、俺もう超健康体絶好調アイツもあれから来てないもうどっかで死んでっかもよ!?

俺、働けるぜてか働かせて働かせてくださいお願いしますクラウド様店番飽きました

とりあえず、お前の助手なんてどうよ

はったらきたーい働きたーーい、働きたーーーーいなーーーー!!

...なら明日からのミンア島、替わるか

あそこは元々アンタが行く予定だったところだし、事務所にある依頼書を見れば詳細が分かる』

「オウいいぜ、でもクラウドはそれでどうするんだ

『俺はこのまま元々の予定だった大空洞に行くことにする。店はしばらく閉めておけばいい。

ちなみに大空洞は磁場が狂ってるから衛星も入らないし、狩り範囲がカナリ広範囲だからから長丁場になる。

あ、でもザックス。ミンア島に発つ前に今回の砂漠化の振込確認と送ったマテリア受け取っておいてくれよ結構高く売れるの入ってるから』

「クラちゃん...すっかりシッカリさんになっちゃったわねぇ。カッコイイわよぅ。オジサン、サミシイ...

受話器の向こう側からクラウドの微笑む吐息が聴こえてきた。

...この前は悪かった。でもあんな奴相手にこれ以上無茶はしてほしくなかった』

「いい、分かってる。あの時は俺も頭に血が上り過ぎてたし、言われてちゃんと反省したぜ

お前のおかげで反省する時間だけはたーっぷりあったしな

つおーい、つおーい俺達には助けなきゃならん人達が山ほど待ってる

白髪ジジイは完全無視の方向でいこうな

『うん。...じゃ、大空洞のモンスター狩りが終わったら帰るから

もしかしたらか月くらいかかるかもしれないし、途中の連絡もできないかもしれないけど......

「ん

『誰かが部屋をノックしてる。

とりあえずそういう事で、じゃあなザックス

言い終わると、ケイタイの通信を切りながら、クラウドはドアに向かって言った。

「はい

「私だ」

ドアの向こうから聞こえてきたのは...セフィロス...の声。

ついさっきのザックスの声がリフレインする……。

「少し話さないか

クラウドは徐に、滅多に使わないマテリアをケースからつ取り出した。

「ミニマム

ドアに向かって放つと、ドアの向こうで対象がミミミミィー...と、縮小される気配がした。

クラウドがドアを開けると、すぐ足の下で手乗りサイズになったセフィロスがジタバタしながら何かをチルチルチル...と必死に叫んでいた。

ソレを摘まみ上げると部屋に持って入り、そのまま部屋を通り抜け、窓を開けた。

と言っても滞在していたのはホテル階で、転落防止窓は腕一本くらいしか開かなかったが、今回はそれで十分。


窓の隙間から腕を出し、きゃわきゃわきゃわ煩く動くソレを放り投げた。

運が悪ければ大通りの車に潰されてライフストリーム入り。

運が良ければ重症程度で済む。…それが運が良いのかどうかは分からないが。

どっちでも構わない。どうでもいいことだった。ただ目の前から消えていなくなれば。


翌日早朝、クラウドは大空洞のある山に向けて旅立った。





隣人1    NOVEL    隣人3

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