隣人1 その宝石店は、顔が映るくらいにピカピカに磨き込まれた黒大理石の柱が入口へ案内するように両側に立っている。 入り口の扉は天井から床までの特注サイズの巨大ガラスで出来ており、アールヌーヴォー調のゴールドの縁取りがされている。 そのガラスドアを抜けると、店内の床は毛足長めの深紅の絨毯が敷き詰められている。 洗練された仕草で客を迎える店員達は皆一様に美しかったり整っていたりして、オーダーメイドの黒の制服を隙無く着こなしている。 随所随所に設置されたショーケースの土台は黒地にゴールドとクリスタルのアールヌーヴォー調の装飾が精巧にされている。 その上に鎮座するショーケースの中には1品1品にセキュリティの付いた宝石、どのプライスカードにもゼロがズラリと並んでいる。 外観、内装、店員、全てにおいて訪れる客をハッキリと選定しているセレブ御用達宝石店。 この宝石店では扱っている商品が、宝石・宝飾類以外にもう一つ、マテリアがあった。 宝石・宝飾類は「永遠の輝き」。 マテリアは「輝く命」。 マテリアは育て方によって様々な色や模様に成長・分裂し輝き、寿命は最長で約80年。 寿命が近くなってくると、まるで暖かい場所に放り出された氷のように輝きに曇りがかかりはじめ、表面から気化が始まり細かい皹が入ってゆき、大きな亀裂が入り、砕け、最終的にはドライアイスのように形も残らず消えて星へ還る。 寿命のあるマテリアなので「永遠の輝き」の宝石よりは比較的安価ではある。 だが逆に、後に遺すことのできない真の贅沢品なため、マテリアは俗称"貴族石"とも云われていた。 宝飾品として価値のある美しいマテリアは、皮肉なことに大抵は激しい戦闘によって生産・育成される。 たくさんの命・強いエネルギーが散り、ライフストリームへの大量の流れが生まれる戦場ではマテリアが結晶化しやすく、そういった場所でファイターが身に着け続けることで、育成・精錬・研磨される。 つまり、こういったハイクラス貴族石を扱う宝飾店は大抵、激しい命をやり取りをする戦闘員や戦闘部隊と仕入れ契約をしていた。 この日、店の金満セレブの表の顔とは対照的な裏手の窓一つないコンクリート壁、ポツンとある鉄製の扉の前に、大きなスーツケースを携えた高級スーツの男と、それを3日間護衛し続けた金髪の傭兵が立っていた。 高級スーツの男は懐から携帯を取り出した。 「あ、ぼっくでーす!着いたおー。あっけてぇー。...ん?えーとぉ..."セブンスレシピ!"いやんっ。...うっふふっ」 高級スーツの男は黙っていれば洗練された大人の男性なのだが、一旦口を開くとガラガラと自らイメージを崩していく。 程なく鉄製扉のドアロックが解除される音がした。 その扉を通り、狭い通路を歩き出すと背後でドアロックがかかる音が聞こえ、そのまま歩き続けるともう一つドアがあった。 ドアを高級スーツの男がノックし、ドアスコープに向かいダブルピースサインをフリフリしポーズをとると、ロックが外れる音がして扉が開き、店頭にいたオーダーメイドの制服を着た美貌の店員が中から迎え入れた。 「お久しぶりです、クラウドさん ウチの店長がご迷惑おかけしましてすみませんでした。皆でお待ちしておりました、どうぞ」 だがそれに返事をしたのは金髪の傭兵ではなく、高級スーツを粋に着こなしている男の方だった。 「ちょっとおぉぉう!それが命がけでアンダーミッドガルを縦断してきたボクに言う言葉~~??とりあえず"お疲れさまでしたテンチョー!"くらい言いなさいようぅ!!言うべき!!もう!ボクすっごい疲れてんのよぉう!労ってよ!ほら!はい!"てんちょ~!お疲れさまでした~!"SEY!」 高級スーツの男は人差し指を顔の横で立てて、逆側の腕はクネクネった腰に当て労いの言葉を要求した。 「相変わらずすっごい元気ですね店長。こっちが疲れます」 美貌の店員は冷めた目を店長に向ける。が、実はその表情が自分の美しさを一番引き立たせると知っていての視線だ。 金髪の傭兵は今回の仕事、護衛完了、とばかりに今来た通路を戻ろうとした。 「あら、クラウドさん聞こえなかったかしら。皆が待ってますよ」 美貌の店員は店長に向けたのと同じ冷たい視線を金髪傭兵にも向けた。 「あんっ、クラさん!チョット休んでってぇ!ネッ?疲れてるでしょ!疲れたわよね!スッゴク大変だったものね!!どうぞ!どうぞ、どうぞぉぉぉ~。うふふぅん。ウチはぁ、良いコーヒー豆揃えてるのよぅ!クラさんコーヒー好きだものネッ!ンン...ネッッ!!」 高級スーツの男が一旦顔だけ後ろを向き、グルッ!と勢いをつけて超笑顔で振り向き、人差し指を唇の横で立て、金髪傭兵に向けて小首を傾げた。 3日間護衛し続けた傭兵は、既に背を向けてはいたが「ンン…ネッッ!」で彼がどんな仕草をしたのか分かってしまい、うっかり立ち止まってしまった。 溜息交じりにゆっくり...と嫌々ながらも振り返り「仕事は終わっ...」言いかけた時、美貌の店員がその先の言葉を遮った。 「帰るなら帰るで結構ですが、オーナーには挨拶していくべきではないですか? 仕事を依頼したのは店長ではなくウチのオーナーです。オーナーに報告しなければ仕事が終わったとは言えないんじゃありません?それともそんな一般常識は"何でも屋"さんには通じないのかしら?」 美貌の店員はハッキリと嘲笑い見下し言った。彼女が人から最も称賛される最も自信ある表情だ。 だが傭兵の答えは彼女の勝利の確信と自信を砕いた。 「通じない。じゃ、お疲れ」 金髪の傭兵は店長に挨拶し、あっという間に姿を消した。 唖然とそれを見送ってしまった美貌の店員。 すっかり100%「お疲れ♡コーヒー」を金髪美形青年クラさんと飲むつもりでいた店長が爆発した。 「お・おおお疲れじゃないいぃぃぃ~~~!!これからお疲れんのよおおぉぉ!!サ・サラッ!!チョット!サラ!アンタッ!感じわるぅぅい!バカバカバカ!!...バカバカバカバカバカバカ!!アナタ!アアア・・アンタッッッ!!彼の事全然分かってない!!バカバカバカバカ!!トンデモトンデモッッ!!何言ってくれちゃったのようぅぅ!!!イヤーーーーーツ!!帰っちゃったじゃないの!!帰っちゃった!帰っちゃった!お疲れぇぇぇえええ!!コーーーヒーーー!!!ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!うっそおお!!アンタッ!いつでもどこでもそのクールビューティが通じるとか思ってんじゃないわよっっ!!うっそおお!!アンタッッ!!ノオオォォーーーーーーッ!!!ギャアァァーーーッ!!アンタッ!いっつも何見てたのよ!!いっつも速攻帰る彼に更に帰る口実あげてどおおおおぉぉぉぉしてくれんのよおおおぉぉぉーーーー!!アンタアアァァァ!!!!!だからアンタは素人だってのよオオオオ!!セールスポイントも使い時を間違ってんじゃないわよオオォォォ!!!イヤァァァァ!!!彼とっっ!彼とウチの店で!事後(意味深)のマッタリ、うえっふふふのコーヒーブレイクゥゥゥゥゥ!!楽しみにしてきたのにいいい!!3日間振られまくったのよお!!ファイナルアタックにかけてたのおーー!いっしょおおぉぉけんめいネリネリしてネリネリネリネリした作戦考えたのをおおおおっ!!うそうそうそうそうそうそうそおおおお!!!クラちゃんとおぉぉぉ!!"お疲れw(親密)"のホッと一息コーヒーブレイクしたかったのにいいぃぃ!!きいいぃぃぃぃぃ!!!!サラのブスゥゥーーー!!ブスブスブス!!!イヤアァーーーー!!!素人ブーーーーーースッッ!!!クラさんと僕のスイート・スイート・スッウィィィィティィコーヒーブレイクタイムゥゥゥゥーーーーー!!どおおしてくれんにょおおおおおおおお!!!」 店長の絶叫×激しい地団駄×一人高速エグザイルに、店内にいた他の店員達が「何?」「何?」と集まり始め、美貌の店員は全く予想外の展開に焦り始めた。 「あ、あの…」 「え、嘘!!彼来てたの?は!?帰っちゃったの!?嘘!嘘でしょ!!」 パニックが起こり始めた。 「はあ!?!!ふざけんじゃないわよ!!!帰っちゃったって!!帰ったって!!彼!!」 店員からまた別の店員に動揺が広がっていく。 「はあぁぁーー????何でよ!!」 「信じらんない!!うそでしょ!!皆で待ってたのに!!超待ってたのに!!あなただって超楽しみにしてたじゃない!どうしてよ!!ウッソでしょ!!」 「ちょっと!!テンチョ!!!!!追いかけて!!」 「うぅ…無理よぅ...。クラさん伊達に超一流の傭兵じゃないわ...。頼りなげに見えるけどああ見えて超頑固だから、超超超絶頑固...。彼。正直...暴君レベルよ、もう絶対に無理...うぅふふ…」 と、言いつつも店長は意味深にポッと頬を染め呟いた。 「イヤーーーッ!!もーー!!キモーーーい!テンチョー何で顔赤くしてんのーーー!キモーい!キモイ!!超キモーーイ!!何があったのぉーーー!!」 「えぇ?…クフフフ?」 両手を頬にあて、答えないながらその辺詳しく聞いて!突っ込んで突っ込んで!な誘い受け仕草にイラッッ!の限界突破をした店員達の怒りは、店長を無視し再び傭兵を帰してしまった店員に向かった。 「サラッ!アンタナニサマ!!!皆でっ!皆であの超美青年とお話ししようって決めてたじゃないよ!!待ってたのにいいいい!!アンタッ!!何出しゃばって!その上帰しちゃってんのよ!!新人のくせに!売り上げも大して立ててないくせに!!」 別の店員も詰め寄る。 「勘違いしてんじゃないわよ!ブスッ!!アンタのクールビューティなんて所詮その程度だっつのよ!誰にでも通用するとか思ってんじゃないわよ!!馬鹿じゃないの!!何してくれてんのよーーー!信じらんない!私のクラさん返してぇ!!!」 「あ、あの!私!電話して戻って来てもらうように言います!」 震えながら美貌の店員が従業員控室に携帯を取りに走ろうとするのを店長が止めた。 「止めなさいサラッ!みっともないわよ!彼がお店を出た時点で今回の仕事は終わってるの!...…つーか電話出ないからぁっっっ!!彼っ!カレッ!基本電源切ってる人だからああぁぁぁぁぁっっっっ!!わぁーーーん!!仕事の邪魔ってええぇぇぇーーーーーーー!!!ボクのクラさん帰ってきてーーー!!ボクのご褒美いぃーー!うわーーん!!僕達のラブラブドッキュンコーヒータイムぅぅ!メインイベントオォォーー!!ノオオォォーーーー!!!」 「何が”僕達”よ!キモイわ!!」 もう完全に希望が断たれたことを悟った店員達の怒りが加速しサラに向かう。 「ァァアンタァァァア!?なんで勝手に彼に対応した!彼のこと知らない新人のくせに!!彼対応の基本的な事すら知らないくせに!!このっ!新入りドブス!!ブス!店長のブス!!今日の、いや!違うわよ!!私達には今週のメインイベント"クラウドくんとお茶を飲む会"どうしてくれんのよ!どうするつもりよ!!私たちの潤いどうしてくれるのよ!!今日の為にしてきた愛されネイル!!高かったのよ!!このネイル!!!どうしてくれんのよ!!!!!」 「ちょっとぅ!今どさくさに僕をディスったね!ちゃんと聞こえたわよ、ヨーちゃん!てかみんな、聞きなさいよ!僕とクラさんのスウィーティー…」 「うるさい!黙ってよ店長!!サラッ!!」 店員たちの怒りが留まるところを知らず爆発し続ける。 こうなってしまうと先ほどの強気な対応をてしまった美貌の店員は、ただただ震え小さくなるばかり。 「ご・ごめんなさい...あの...だって、普通どの業者もオーナーに挨拶していくから、そう言えば残ってくれると思って...」 そんな新人の返答が更に他の店員達の怒りに火をつけた。 「"普通"!?アンタ何言ってんの!!"普通"!?彼は"普通"なワケ!?他の業者と同じ!?いつもいつも他のどの業者にも作れないような超レアマテリアを納品してくれる彼が"普通"の業者と一緒!!アンタ!!目玉腐ってんじゃないの!?はあ!?それとも腐ってんのは脳みそ!?口!?」 「はぁー!?バッカじゃないっ!?っざっけんな!!!でしゃばりブスッッ!」 「いやあああ!!お茶ああぁぁ!!今日の為に化粧も髪型も気合い入れてきたのにいいぃぃ!!!チャンスだったのにぃ!クラさんの嫁になりたいいいぃぃ!!」 「ちょっ!なに図々しいこと言ってんのよ!ブス!クラさんの嫁はボクよ!!もう決まってんのよ!!アンタたちは指くわえて見てるジャガイモよっっ!!ポ・テ・ト!ポティトゥ!!ブスども!控えなさい!!」 「なああぁぁぁーーーんですってええぇぇーーー!店長なんか3日間も抜け駆けしたくせに落とせなかったんでしょ!!だから私が行くって言ったのに!!あああああよくも!許せないいいいいーーーー!キイィィーーーーー!!」 徹底的にブチ切れまくった店員達&店長の罵声、怒鳴り声抑える者のいなくなった中、低く重い声が響いた。 「お前達いつまで喋ってる!商品のチェックはどうした!お前たちが待っていたのは彼だけか!?お前達にお給料を払ってくださるのはいったい誰だ!ストライフ君か!?」 オーナーが怒りの表情で立っていた。 「彼の新作を待ってくださっているお客様はたくさんいらっしゃる! 彼の商品は直ぐに完売する。そしたらまた入荷に来てもらえばいいだろ!その時にはコーヒーでも紅茶でもご一緒してくれるよう私から頼んでおく! 店員である君たちがウチの品位を堕とすような言動はくれぐれもしないように!例え今、店にお客様がいらっしゃらなくとも、仕入れ業者に対してもだ!普段からそんな汚く、頭の悪そうな言葉を使っていればそのうちに必ず馬脚を露すぞ!万が一にでも今のような姿をお客様に見られるような事があれば、その場でクビにする!…冗談ではないぞ」 「も、申し訳ありません...。」 店員達の爆発炎上が一気に鎮火から氷点下ブリザードまで瞬間冷凍された。 「売り上げが欲しかったら1日も早くお客様にご来店していただけるように連絡しなさい。 君たちはお客様のための店員、お客様に当店自慢の美しいマテリアをお届けするためにいる店員だ!今、やるべきことをしなさい!」 「はい!すみませんでした!」 店員たちは争う様に店長のスーツケースを開き、中に入っていたマテリアを検品セットアップを始めた。 マテリアを1つ1つ手に取ると、店員それぞれに「わぁ...キレイ!」「見て見て!ほら!これ!」「素敵~...ホント...信じられない色...信じられない透明感...」と口々にし、マテリアに魅了されていた。 「店長」 オーナーが店長をオーナー室に呼び寄せた。 「どうだった?」 店長がオーナー室の扉を閉めると、応接用のソファーに座ったオーナーが、店長に向かいの席を勧めた。 店長は大きく息を吸うと一気に喋り始めた。 「本っっ当に大変でした!平原じゃモンスターの大群が襲ってくるし、宿屋に泊まれば夜中に銃撃戦が始まるわ酒場じゃ突然怖い連中に囲まれもしましたし昨日なんて泊まってたホテルごと爆破されたんですよう!本当に本当に死ぬかと何度も思いました!何度も何度ももう死んだ!ボク死んだ!て思いました!」 「...傷一つ負っていないようだし、随分元気に見えるが…」 (聞きたかったのはそういう事じゃないんだが)と内心思うオーナーの声は冷めたかった。 「ノゥ...全然元気じゃないですぅ。ボクもう寿命が半分縮まりました。 でも、やっぱり彼は最っ高の護衛でした。凄かったんですよぅ!もう、チョーカッコイイ!! ホテルが爆破された時も、ボクが部屋でバスローブ一丁で寛いでいたら...あ、ちなみにボク、バスローブの下にはパンツ履かない主義でっす!ぬはっ! そしたらイキナリ彼がドアをぶち破って入って来ましてね、「え!?なになにボク襲われちゃう!?」って思っちゃって!あはっ!そしたら彼、「出るぞ!」って...は?何?何事!?何が出ちゃうの!?と思う間もなく窓から...!信じられます!?泊まってたホテルの部屋、5階にあったんですよ!? 5階からイキナリ紐なしバンジー!!!ピューンって放り投げられたんです!!!えーーー!うそおおお!死んだ!ボクの人生イキナリ終わった!!予告なし!!今!一瞬前までホテルのアメニティのティバッグで紅茶をコップの中でチャッポチャッポ”早く出ないかなぁ~?”な~んて、まったり…だったのが突然!僕の人生が走馬灯のように駆け巡ったぁ...っ!! でも気が付いたら彼がスッゴイ勢いで走ってて、ボク気絶したんですね今にして思えば...放り投げられながら…。 ボク、彼に荷物担ぎされていて、ヤダ...どうせならお姫様抱っこがいい...なんて思ってたらぁぁぁぁ、後ろでドッッッッゴォォン!!ギャーーッ!!メテオが降ったんだワッッッ!!これが伝説のメテオ!!世界の終わりが再びやってきたんだわ!!今度こそ世界が終わった!って思いましたっ!! ...でも実際には泊まってたホテルが爆破全壊させられてただけでした。よくわからないけど偉い人が泊まってたらしいです...。マテリアと宝石は彼が保護してくれてました」 「......大変だったな。まだまだ下の世界は治安が悪いのだね」 店長が当時の興奮そのままに実況してくれるので、オーナーの耳が早くも疲弊し始めていた。 この店長のノリだけは、どう言っても直らない。しかしこれはこれで店長のファンがいるから良いとする事にしていた。 「ええ!!もう!そりゃもう!無理!本当!無法地帯でっす!きっとオーナーが思われているよりも滅茶苦茶な世界ですよう!アンダーミッドガルは! だって爆破されたあのホテルだってあのエリアじゃ一番安全でちゃんとした処だったんですよ!だから予約入れたのに、なのにあんな事になっちゃってぇ! あんなに大爆発で死にかけたのに、どうしてこっちで報道すらされてないの? 死にかけたっつーの!どうしてくれんのようぅ! 彼がいなきゃ本っ当に間違いなくボク肉屋で肉ミンチになって売られてたかもしれないんだから! それにそれにホテルだけじゃないんですぅ!他にも何度も何度も!!本当に何度も何度も!彼がいなきゃボク10回くらい死んでました!!!」 「......特別手当、提示したものよりも多く出すよ...」 「あ、はい!ありがとうございます!...でも!ボクもお陰様でオーナーが知りたがっていた事!わかりました」 今まで興奮して話していた店長が、最後の言葉だけは声を落とした。 待ってた答えがようやく貰えるのか...と、アサッテの方向を彷徨い始めていたオーナーの思考が戻ってきた。 今回の"店長の荷物運搬"の護衛は、長年の付き合いを盾にオーナーから傭兵クラウドに無理を通して受けてもらったのだった。 傭兵クラウドはどんなにレアなマテリアも調達してきたし難しい数量確保も商品運搬も引き受けたが"護衛"だけは今まで一度も受けたことがなかった。 護衛をしない傭兵など片手落ちもいいところだが、傭兵クラウドの場合それを補って余りあるほどの功績が他にあったため、仕事に困るような事は無く、だからこそ「やりたくない」「興味ない」と”護衛”だけは引き受けなかった。 だが、長年の付き合いと拝み倒しで傭兵クラウドにお願いした今回の『店長の護衛』の本当の目的は、店長による『傭兵クラウド・ストライフ』の正体解明だった。 難しい仕事なのは分かっていた。 だから今回の護衛旅行で店長が結果を出せなかったら、また何か理由をつけて店長を彼に張り付かせようと思っていた。 店長は好みの男が現れると本能が暴走してしまうところがあったが、ビジネス面ではクールな判断と臨機応変ができる、オーナーが最も信頼している人物だった。(信用できないとところも困ったところも多々あったが) 店長は更に少し声を落として言った。 「やっぱり彼、伝説のソルジャーさんみたいです。あの眼、コンタクトでした」 「そうか...」 オーナーが口の中で"やっぱり..."と呟いた。 傭兵クラウドと付き合ううちに違和感を感じ始め、年数と共に確信へと変わっていった。 メテオ後なぜか突然ソルジャー1stセフィロスを始めとする大半のソルジャーたちが掻き消え、残りのソルジャー達も廃人となり間もなく死んでいった。 メテオとソルジャーの関係が何なのか未だに謎のままだが、とにかく人間兵器ソルジャー達は一掃したように突然いなくなった。 今では伝説となってしまった過去。 かつては星の巨頭であった神羅カンパニー。 その神羅が創り出した人間兵器ソルジャー。伝説の怪物たち。 そのソルジャーと人間の見分け方はただ一つ、瞳だったそう。 「2日前にですね、山岳の谷間の川を渡ってる時に強盗団が襲ってきたんで・すぅぅぅぅぅぅ!もうホント!何なの!?...15人はいたかなぁ...。 イキナリきったなぁ~い、人相の悪ぅい連中が色んな凶器を持って現れまして!! 凶器ってアレですよ、もう絶対に!人殺し用!お前、もう、絶対に殺す気満々だろ!っていう!ぶっ殺凶器ですよ!そんなんギラギラさせて!ボクもう...もう、それで走馬灯が見えちゃって気絶しちゃいまして...ホント......終わった...今度こそボク終わった...って! で、気が付いたら僕は川縁で寝ていて、直ぐそこで彼が一人でたーくさんの強盗団をギッタンギッタン、バッタンバッタン!あのおーーーーきな剣で!ズバーン!バヒューン!ええ!ええ!...そりゃもう凄かった! なんだかもう映画を見てるようでした。...こう、血飛沫が飛び散ってるわ...水飛沫が飛び散るわ...川の水には血が混じって流れてきて...腕とかもヒューン!って飛んできて、ギャーーーッ!って。 ...ううぅ...なんだか凄すぎてキモ過ぎてキレイ過ぎて酷すぎて現実味が無くて......それに彼、そんなことになってる中心にいて暴れまわてるのに涼しい顔してて...。 でもその時彼の顔に血なのか水の飛沫なのかかかって彼の顔がずぶぬれになって、で、ポロッと彼の瞳から何かが落ちて...で、気が付いたんです。彼の眼。 ...ビックリするくらい、不自然なくらいにきれいなきれいなマテリアみたいな青色で、、、でもその後直ぐ彼、真っ黒のカッコイイサングラス掛けちゃったから見えなくなってしまったけど!!ボクは見た!! ボク、ソルジャーとか見たことない世代ですけど、でもすぐにわかりました。あぁ...ソルジャーなのね・・って マテリアの瞳でした ...オーナーは御覧になったことありますか?ソルジャーの眼」 「無いよ。私もこう見えてメテオ後の生れだ。ソルジャー絶滅後だ」 「そうですよね、でも彼の戦う姿とか瞳を見たらオーナーも確信します あれはソルジャーの眼......きれーいな…輝くマテリアの眼でした」 「......そうか...」 「そもそも考えてみればおかしいんですよね 長年第一線の傭兵でやってきて、毎回あんなにレアなマテリアを納品できるのに、彼って顔にも体にも傷一つ無いし日焼けも殆どしてないんですもの 肌だってシルクの手触り……だと思うんですぅ?彼、触らせてくんないんですよ!?んっ、ていうかぁ!見るのも嫌がるんです!!ヒドイ!!…でもそんなところも燃えるんですケドッ!」 「...この件は他言無用だよ。それに彼に察せられてもダメだよ」 「大丈夫です!川辺にいた時は死んだふりしてましたし! 多分、ボクが知ったことを彼が知ったら取引を一方的に切られて、多分あの店も畳んで姿を消してしまいます! 彼って見た目以上に超シャイなんですよね。うふっ…うふふふ…うふっw」 「...彼とウチと取引がここまで続いているのも、私が今まで何も詮索しなかったからだ 多分それだけだ。彼にとってのウチとの取引理由は。 他の店はどこも短期で切られてる あれだけのマテリアを用意できるんだ、詮索したくなる気持ちはよくわかる だから彼に近付きすぎてはいけないよ?気を許してもいけない 彼の秘密はウチが代償にするものが大きすぎる。彼はウチの店には無くてはならないのだから」 遠回しに”これを機に彼から手を引きなさい”と警告したオーナーだったが、ラブハンター店長には響かなかったらしい。 「そうなんです。その辺が難しいところなんですよね~!この、駆け引きがね~! あ、でも絶滅したはずのソルジャーがどうして残ってるのかしら。...多分、きっと彼だけですよね」 「……分からないが、1つ言えるのはリユニオンとやらをしなかった...のだろうな」 「あぁ、廃人になったソルジャーたちが繰り返し呟いてたとかいう? どうしてなのかしら、ソルジャー1stセフィロスも、改造途中のカプセルに入っていたソルジャーたちすらも根こそぎリユニオンで絶滅か廃人かどちらかだったんですよね?」 「それはあくまでも噂だ。その時代にいなかった我々には真実は分からないし、検証もされていない。私はソッチ方向には力を割きたくない。ただ彼の正体を知りたかっただけだ。分かった今は、もういい 店長、1回で終わらせてくれてありがとう。君は本当に信頼に応えてくれる素晴らしい店長だ できるだけ形で報いるからね。そしてこの件に関しては一切の他言無用。そして彼の眼の件は忘れてくれ」 「うふっ。もう忘れちゃいました! オーナー、ボクの方こそこのお店で働けて本当に本当に感謝しています ボクのようなアンダーミッドガル7番街育ちが、こんな夢のようなセレブな世界や方達とのお付き合いや、美しく輝く宝石たちやマテリアに囲まれて生活できるなんて... 今の生活がボクの子供の頃からの夢でした ついでにきれいな女の子たちも、繊細な硝子細工のようにキレイな傭兵さんにも出会えて、僕はこのお店で働けて幸せです!」 |