隣人14 スコールが部屋を出た後ヴィンセントが言った。 「明朝もう一度ガーデンの訓練施設に行こう。お前の召喚獣たちが作ったフロアを見てやってほしい さっきスコールも言っていたが、本当に訓練施設として使っていいのか悩むくらいの素晴らしい世界だ それとあのリヴァイアサンが謝りたいと言っていた 奴はただ本当にスコールが好きなのだ。信仰に近い ヤツが意に添わぬ契約に縛られていたのを助け出したのがスコールだったという経緯もある だからクラウド、彼に謝らせてやってほしい」 「助け出した?人間が召喚獣を?」 「前のオーナーにアクセサリーにされていた時期があってな 最初は違う者と契約していたのだが、金で前のオーナーに売られたんだ この世界は契約が絶対でリヴァイアサンもその縛りから抜け出せずにいた それをスコールがバトルで問答無用で奪い取った」 「召喚獣をアクセサリーにするって、どうやって? 俺らの世界みたいにマテリアになってるならともかく、この世界じゃ脳に入れるんだろ? 見せびらかしようがないじゃないか」 「昨日訓練所でスコールが見せたろ?ジャンクションを外して具現化させるのを品評会よろしく衆人環視の前でやるわけだ しかも子供がおもちゃの怪獣で遊ぶように、互いの召喚獣を遊びで戦わせていたり、パーティ会場でグラス1つを攻撃させたりもしていた」 「………………万死に値する」 ヴィンセントは口はしを釣り上げ白い歯を見せニヤリと笑った。 「あのリヴァイアサンもお前に勝てないのは分かっていた 召喚獣だからな。実力の差など一目で正確に分かる それでもお前を煽って攻撃を自分に向けさせた気持ち、わかったか?」 「……………」 クラウドはヴィンセントを睨んだ。 「スコールは人間だが、今のお前の気持ちを誰よりも、俺よりも分かっている 何かの機会があれば話してみるのもいい」 ヴィンセントの言葉にさすがにクラウドはムッとした。 「たかが20歳で地位も名誉も手に入れたカッコイイ英雄様に俺の何が分かる! 何もマトモにできなかった、大切な時に失敗ばかりした俺の事なんか分かるわけない! どんどん人間から離れていく俺の何が分かるってんだ!」 「……逆にお前こそスコールの何を知っている」 「だって!だってアイツ、最高にカッコイイじゃないか! あんなカッコいい奴見たことないくらいカッコイイ!足長いしスタイル良いし、軍服も滅茶苦茶カッコイイ! 羨む気も無くなるくらい何しても完璧にカッコ良くて、歩けば皆の注目を集めて、敬礼されて!フザケンナ! 俺なんかトラブルメーカーだのドブネズミだの言われ続けて、下級兵すら務まらなくて神羅から切り捨てられて、宝条に失敗作にされてセフィロスにできそこない呼ばわりされて、何なんだよ俺!!片っぽだけ羽が生えてくるとか!飛べねえよ!どこまで失敗作だよ! こんな俺の何が分かるってんだ!あのどこから見ても完璧な奴に!絶対に分かるか!!そんなんで”分かる”とか言うの、許さない!俺だってあんなカッコイイ男に生まれたかった!ああなりたかったよ!…………あんなのなんか、なんか、あんな奴!!」 ...............とにかくスコールはカッコイイと...カッコイイ奴に俺の事は分からないと…… ヴィンセントも驚く、クラウドの浅すぎる拒絶理由だった。 「スコールは今まで誰にもあのチョコボの聖域を教えたことは無い、お前だけだ それほどあの森はスコールにとって特別な場所だ だがあの場所が今のお前には必要だと思ったからスコールは教えた。知り合ったばかりのお前に クラウド。もう一度聞くがスコールはお前の事を何も分かっていないのか?」 「..................でも」 カッコイイは聞き飽きた、とばかりにヴィンセントは被せた。 「この世界の召喚獣は人間の脳に居場所を作る だがその脳は異生命の高エネルギーに侵入されるわけだから、当然負担がかかっている その結果軽くて記憶の圧縮、色んなことが簡単には思い出せなくなる。重症の場合は脳そのものの機能が破壊される いくら検査で相性のいい召喚獣を選んでいると言っても、自分のものではないエネルギーの塊を脳にジャンクションし続けていれば必ず大なり小なり記憶障害や精神病などの症状が出てくる この世界で召喚獣をジャンクションしている者はその危険性を分かっていてジャンクションしている つまりジェノヴァ細胞の弊害を知っていながら自ら取り込んでいるのと同じ」 戦士である限り 上を目指す限り、深刻な弊害があると分かっていても取り込むしかない。 力のぶつかり合いの世界では避けられない。 「……スコールも記憶障害とかあるのか?」 「あると言えばある。無いと言えば無い スコールはこの世界の誰よりも戦闘能力が高く召喚獣達との相性もいい どの召喚獣をジャンクションしてもスコールの脳への影響はそういう意味では無い だが彼は過去の色んな事をどんどん忘れて行くし、圧縮していく。眠ってる間に」 「?それって睡眠中の記憶の整理ってやつじゃないのか?普通だろ?」 「そうとも言うがその忘れ方が尋常じゃない。最初から覚えないし一切の痕跡もなく忘れる。天然の記憶障害 あまりの酷さにキスティスが仕事以外でも横に付くようになったが、そしたら更に居直って記憶や記録を全面的にキスティスに頼るようになったし、それを申し訳ないとも思っていない 人として根本的な要素が大きく足りてない その代わり召喚獣が休息するための召喚獣フロアなんてものが必要だと誰も気づかないような事に気が付き、その際にはどうすればいいか具体的に分かっているし指示をし、そして本当に造ってしまう」 「…もしかして俺とは違う意味で召喚獣寄りの人間って言いたいのか?」 ヴィンセントは微笑んだ。 「スコールのリヴァイアサンはお前のリヴァイアサンにも怒られたが、スコールにも怒られていた 1年ほど前に新システムが出来上がって、結果的にスコールの脳には召喚獣の干渉が無いと分かったが、それが分かる前、弊害があると云われていた頃からスコールはずっとジャンクションすることを選び続けた 戦場では常に複数ジャンクションしていたし、戦場でなくとも、日常生活でもシヴァだけは常に外さなかった そうして人として障害が出るのを分かっていながらジャンクションを選ぶのは、身を汚すとは言わないのか? 記憶が欠損しても、おかしくなっても構わないとジャンクションを選ぶ俺をお前は何と表現する!...とリヴァイアサンに怒っていた クラウド、想像してみろ オーナーを庇って大怪我をした挙句、オーナーのあるかないか分からないような心を酷く傷つけてしまった 今、リヴァイアサンはどういう心境だと思う?」 クラウドは困った様にため息を吐いた。 「......明日あのフロアに行くよ。リヴァイアサンに会う」 「ああ、そしてお前の召喚獣達が創った素晴らしい作品を見てくれ あの世界を作り出せるのは召喚獣の重鎮、お前の召喚獣達だからこそ。俺達が束になってもあの世界は作り出せない」 ヴィンセントが同じ”召喚獣”として誇らしげに微笑んだ。 翌早朝帰ってきたスコールに、自分の世界に帰る前に訓練フロアを見て行くことをクラウドが伝えると「一緒に行く」と案内された。 「.........すごい」 クラウドの眼前に広がってるのは...まるで... 光の洪水のような、気持ちが熱くなり溢れ出してくるような...満たされるような、両腕をいっぱいに広げて空気を吸いたくなる健康的で輝かしい世界。 そして訓練所向こう半分には暗く鬱蒼とした森や底の無い沼、木の陰には何か得体のしれないものの気配が蠢いている。 「...これ、お前達が...?」 クラウドの背後に半輪型で囲むようにしてズラリと並んだクラウドの召喚獣達。 訓練所は本来は人間が活動できるように創られているが、昨日召喚獣達が訓練所の天地創造を始めた時からスコールが通常は召喚フロアに設置してある魔壁・魔床・クリスタルを片っ端から訓練所に移動させ始めた。 今は訓練所が特設召喚獣フロアになっていた。 『お前の星の未来を再現した』円卓の騎士のアーサーが言った。 振り返るクラウドの顔には喜びの表情が浮かんでいた。 「…お、俺達の星………本当に?なれる…?…夢の世界だ……こんな……」 『お前がニブルヘイムから出ないまま母親と終わっていたのなら、この未来も無かった』フェニックスが謳った。 クラウドの瞳が微かに潤む。 『森羅万象万事相関一者帰存(世のすべての事象は繋がっており一者に還る) 貴様実践躬行我等扶持(お前の為すべき事はまだある、我々が支えてやるからやれ)』九天玄女。つい先日、北の大空洞で大苦戦中に出会った東洋の召喚神。 円卓の騎士 アーサー王:聖剣エクスカリバーを湖の中で授かり、死ぬ時に湖に返した。妻がいるが、近親相関、姉と関係を持った結果、子供が生まれ、妻はアーサーの親友と関係を持ち、アーサーと姉の息子とも関係を持つ。アーサーは息子と相打ちになり死ぬ。 九天玄女:中国神話の黒の女神。道教の仙女。性愛と戦いの武神。人の首と鳥の体を持つ。 『おまえ、エアリスから言伝を預かってきた』 ヴィンセントしか知らないはずの名前。 驚きクラウドが視線を巡らせると、酷い怪我をしたボロボロのリヴァイアサンが決まりが悪げに湖から顔だけを出していた。 もしかしてボロボロに傷ついている体を湖の中に隠しているつもりかもしれないが、クラウドの召喚獣たちが創った湖はクリアに透き通り太陽の光を思う存分受けて光り輝いているため、全身を覆う細かな鱗は剥がれたり浮き上がったりして白化し死んでいるところも、致命傷だったであろう裂傷がいくつもあるところも、彼特有の華やかな紫からブルーへの鮮やかなグラデーションのかかったヒレや水掻きがビリビリに破れ骨が見えてしまているところまで、残酷につぶさに見えてしまっていた。 さすがに昨日のバトルではここまで酷い怪我はしていなかった…。 何があった…思わずクラウドはまじまじと見てしまっていて、ふと気が付いた。 いつの間にか、昨日の3体からは想像もつかない、圧倒される数の見たこともない召喚獣たちが周囲に姿を現している。 『エアリスの言伝を伝える ”いつまで私を悪者にするのか。怒ってないのに謝られたら私が悪者になってしまう 言いたいことはたくさんあるけど、全部をまとめて1つにすると…ありがとう、クラウド。フローム、ザックスと私” と言っていた』
「………ありがとう、リヴァイアサン……」 涙が出そうなエアリスの救われる言葉だったが、今は目の前にいるリヴァイアサンのあまりに酷い大怪我が気になり、何があったのか聞きたかったが、多分聞いてはいけない、特に自分は聞いてはいけないのだろうと察した。 …華麗で美しいヴァイアサンだと思ったが、性格は相当不器用だ。 『それで金髪さん、その柔らかそうなお肌のお手入れはどうしているの?』 「…え?」 何が「それで」なのかわからないが、クリュタイムネストラと名乗ったブルネットヘアーの美女召還獣がクラウドの前に姿を現した。 すると次々と女形の召還獣が目前にポ、ポ、ポ、ポと、次々姿を現し真剣な目でクラウドを上から下まで下から上までチェックしつつ”早く答えろ”とばかりに答えを待っている。 「は?」 『ねえ、この金髪は天然よね。何をすればそんなに輝くの?』 ノルンという召喚獣が不思議そうに首を傾げている。 『ダメよ!私の質問が先!クラウドあんまりアタマ良くないんだから!1つ1つにするの!で、クラウド!どうしたら戦士のくせにそんな柔肌でいられるの?あとがつかえてるから早く答えてね!』 いや、ちょっと待って。ナニコレ?何の話だ? そもそも実体を持たない召喚獣に肌の手入れも何も関係ないだろ?と思いつつ、クラウドには肌の手入れになど答えられることなど何もなかった。 何故ならもう何日も空洞から一歩も外へ出ずに毎日毎時モンスターとの対決に明け暮れるばかりで、まともに眠ってすらおらず、肌がどうのとか、お手入れどころか風呂も洗顔さえもロクにしていない、鏡を見たのもどれくらい前だったか...1か月は過ぎてないと思うけどー...あれ?過ぎてたっけ?というレベルで答えられることなど何一つない。 そんな状態でどうしたらいいのか分からず、気圧され後ずさるだけのクラウドの反応を誤解したクリュタイムネストラが言った。 『ヤダ!アナタ、タダでは教えられないというの?意外にシッカリしてるのね! いいわ、何?何が欲しいの?おっしゃって?』 『クリュタイムネストラはマンイーターだ。教えてやる必要などないぞ、クラウド!』 腕を組み居丈高に宣言したのはクラウドの召還獣ヘラクレス。 『あ~ら・あら・あら、これはこれは...奥様に薬殺されたヘラクレス様 その後、ヒュラース君は見つかりまして?』 『お前こそ娘や息子達は達者にしているか?ろくでもない母親から生まれた子供にしては上出来だったな』 ギリシャ神話:ヒュラースはヘラクレスの稚児。泉の精に攫われたヒュラースを探してヘラクレスは英雄船アルゴーを降りた。 クリュタイムネストラ:愛人と共謀し夫を殺すが、自分の娘と息子に復讐され殺された。 「で、昨日途中から参加してた君は誰だ?」 スコールが見事に召喚獣たちに混ざっている。 ガーデン内で敬礼する傭兵や候補生たちを視界にもいれない人物と同じ人物とは思えない。子供の様なワクワク笑顔だ。 半分召喚獣みたいな奴だな…と感心していたクラウドだったが、スコールが声をかけた召喚獣は一目でわかる東洋の高位の召喚獣だが、クラウドも初見だった。 スコールもクラウドも知らない召喚獣が、ガーデンの結界の中にいること自体がおかしい。 「俺の召喚獣じゃないが?」 「え?」 驚きクラウドを振り向いたスコール。 スコールもクラウドの召喚獣だと思っていたらしい。 『俺が招呼した。こちらの御仁は我らに活力を与える』 「!?」 クラウドを見ていたスコールの視線がツツツ…と、その頭上に高く上がり、クラウドが振り向いた。 クラウドの背後を囲む召喚獣の中の1体、召喚神アポロン。 星を巡る戦い後クラウドが見つけた召喚獣で、もう30年近くの長い付き合いになるが会話をしたことなど一度もなかった。できるとすら思っていなかった。 『この程度の結界、徳高き御仁には無いも同然』 召喚獣のための召喚神。 煌びやかな民族衣装を何重にも纏い眩く輝く光輪を背後に、周囲には輝く太陽の様な大小円形のものがいくつかあり、それらを突き抜けるように更に強い輝きを召喚獣自身が放っているが、基本姿勢が床につくほどの長い袖で顔を隠している。 足元は白や金色の雲に覆われてフワフワと浮いている。 「………」 こんな素晴らしい召喚獣が野良なのか!ならばぜひウチの子に!と再び話しかけようとしたスコールに、ジャンクションしていたシヴァが中で囁いた。 『あれは召喚獣のための召喚神 人間の姿は見えてはおらぬし、声も届かぬ あれの業(わざ)は昨日で終わっている』 「……だから昨日は舞い続けていたが、今日は顔を隠し続けているんだな…スタンバイ状態か」 『眠っている。本体はここにはいない。 思念体をここに残しているのは彼女なりの考えがあってのことだ。お前の知る事ではない』 スコールは頷き、召喚神アポロンに話しかけた。 「ところで召喚神招呼は君のデフォルトの能力か?それともレベルが上がったから着いた能力か?」 『資質でもなければ潜在開放でもない。条件を揃えることで初めて招待できる神だ。お前もそのうち嫌というほど体験できる』 瞬間、訓練所を揺るがすほどの召喚獣たちの爆発的な笑いが響き渡った。 「!?」「??」 突然の、予期せぬ、召喚獣たちの爆笑の渦に訳が分からず見回すスコールとクラウド。 ヴィンセントも押し殺したように笑っている。 まず笑うことなどないスコールのシヴァまでも中で陰に微笑んでいる。 スコールやクラウドにはわからない、召喚獣達だけに共通の何かがあるらしい。 『クラ...ちん.........も~...............だ・いじょぉ.........び...?』 「ぁ、昨日はありがとぅ、キング、なあ、俺の世界じゃトンベリは敵としてしか出てこないけど、アンタみたいなのはこの世界のオリジナルか?俺の世界にもいるものなのか?」 『うー...うん......うん...ぼキ......キング...、トンベリいると.........キングいる~... スコールがねー...ぼくの...仲間に...酷い事するの~...ぼく......トンベリジジになって...んー...んー...ヒトジジ...ジ…ジジー……んー...スコールに...イジメやめて...ぼく...おおさま...みんな............たすかったの...の...』 「うっわ、酷でぇ」 何となく読み取れたトンベリ語に、クラウドは横目でスコールを見た。 「キング!俺はお前に不自由をさせているか!?」 スコールが腕組みをし、心外だ!と言わんばかりにトンベリキングを睨みつけた。 『うー...うん...なかま...たくさんで...おもしろい...よ~...?』 「今の環境に不満は無いな!?」 『うー.........うー...もっとぉ.........バトル出たいのー...おるすばん......他のこ...やれー...』 「そ...うん、それは...」 『ほうちょう...さびるー......ぷすっ!……ぷすっ!…やるのー……ぼく...おおさまー...ピカピカ...ピカピカ... スコール………買ったの……つかう~』 出会った時、トンベリキングはその巨大な体に似合わない小さなカンテラに小さなほうちょうを使っていた。 その後スコールはキング用のカンテラとほうちょうを特注で造らせた。 キングは大変気に入り喜んだが、残念な事にバトルに呼ばれないトンベリは使う機会が無いままだ。 「あー……じゃあ今度のデリングシティのミッションに一緒に行くか?」 『おー......おかいものー......おかいものー...すきー...すきー...すこーる...すきー...』 そして嬉しそうにズブズブと地面に埋もれて召喚フロアに消えていった。 ………ミッションに行くと言ったのであって、お買い物をするとは言っていない...が、トンベリキングはバトルでも何でもお買い物をしないと納得しない子なので、またデリングシティを何軒もハシゴさせられそうだ。 そうしてトンベリキングは散々スコールに必要なものも必要ないものも買い物をさせ、その戦利品によってセントラ遺跡は潤っていくのだった。 どこからともなく麗らかな歌声が聴こえてきた。 視線を巡らせば、歌姫セイレーンが芳醇であり濃密で麗らかな声で歌っていた。 歌姫は混乱の歌も歌えるが、癒す歌も、酔わす歌も、眠らせる歌も、煽る歌も歌える。 そうして麗らかな歌声がフロアー全体を穏やかな空気へと変え始めた時、突如その頭上に黄色い物体が現れ、ドーン!!と歌姫を押しつぶした。 ぐえっ...という、つい今聴こえていた美しい声とは結びも付かない声を残し、セイレーン戦闘不能...歌声は途絶えた。 そしてそこにある黄色い物体は... 「デ、デブチョコボ!!どうしてここに!?」 「で・でぶちょこぼ!?」 スコールの驚きと共に、クラウドもはじめて見る強烈なチョコボに感激した。 するとデブチョコボの羽根の中からひょこっ...と、昨日クラウドに付いて来ようとしたコチョコボが顔を出した。 「あっ、お前!」 「ピエェ」 元々笑ってるようなチョコボの瞳、やっぱりいつ見ても嬉しそうに見える。 クラウドもとても嬉しくなり、花が綻ぶように馨しく極上の微笑みを咲かせ、コチョコボを抱き寄せくちばしに目尻にキスをした。 「なあ、俺、今日帰るんだ。でもまた来るから、覚えといてくれよ?で、その時またお前のダンス見せてくれ。な?」 クラウドはコチョコボの頭を撫でた。 「ピエェ・ピエェ」と、嬉しそうに羽をパタパタさせるコチョコボ。 「......そこまで仲良くなったのか...」 スコールがクラウドを見ていた。 その黄色く眩い頭がチョコボ…から離れていなかったスコール、咄嗟の事とはいえチョコボの聖域を教えてしまったことを、この時激しく後悔していた。 が、顔には出てなかった。 「うん、凄くいい所だな。ナイスなダンスも見せてもらった。俺達友達になったんだ!な?」 クラウドは子チョコボを抱きしめた。 コチョコボも嬉しそうに「ピエッピエッ!」と返事をした。 「..................」 ...............勝手に俺のコチョコボと…………俺だけの聖域を...。 全然勝手でも何でもないが、スコールの表面に出さない理不尽な心の狭さは、クラウドには全く伝わっていなかった。 突如スポットライトがどこからともなくパアッ!と照らされ、お立ち台に昇ったコモーグリが嬉しそうに短い手足をぽくぽくさせて踊りながら登場した。 すると、戦闘不能になっていたセイレーンがムクリと起き上がった。 『クゥゥゥ......』 セイレーンの顔が物凄い毒を含む、ライト属性とはとても思えない奇怪な容姿に変化してゆき、その美しいはずの身体も何か恐ろしく醜悪な形に変形し、ありえないがどう見てもセイレーンが闇属性にクラス替えしていた。 しかし周囲の召還獣達の視線に気が付くとセイレーンはサラリと元の美しい女性像に戻り、微笑んだ。 クラウドがその恐ろしい様変わりに目を離せずにいると、隣でヴィンセントが聞えないような囁き声で「見えない!」と暗に見過ごせ!助言した。 「クラウド、コモーグリとあの今は顔を隠してる召喚神は昨日このフロアの皆を応援してくれてた あの召喚神の舞は妖艶で美しく尊くて正に神の舞だったが、俺のコモーグリはとにかく可愛いんだ!」 スコールはコモーグリを抱っこしながらピコピコ耳をふにふにさせながら言った。 コモーグリも背中の小さな翼が嬉し気にパタパタさせている。 『ボク応援ならできるクポ。天照大神ちゃんといっぱい踊れたクポ。アマテラスちゃん優しいクポ セイレーンはいじめっ子だクポ』 モーグリは嬉しそうに胸を張り、あえて召喚神アポロンが名を明かさなかった召喚神の名をペロリと喋った。 スコールは眠っている召喚神の名を”天照大神”とぬかりなくチェックしていたが、クラウドはそんなものは右から左、意識がそこにはなかった。 可愛い…スコールの腕の中で小さな羽根をパタパタさせているコモーグリ……。 …コモーグリ、俺も抱っこしたい。温かそうだ…。チョコボよりもちょっと重そうだ。 本当にチョット重いかどうか抱っこして確かめたい。コモーグリの耳をフニフニしたい……柔らかそうだ…厚みも触って確認したい…。 友達になった可愛いコチョコボを抱っこしながら、「でもこの子も離したくない、でもコモーグリも抱っこしたい」コチョコボの重さや温かさをスリスリと甘受し顔を埋めながら「あ、そうだ、俺の世界のチョコボとモーグリは仲が良かったんだ。対で召喚獣になるくらいだからな。だったらこの世界のチョコボとモーグリも両方一緒に抱っこしても怒らないんじゃないか?」と考えながら抱っこしているコチョコボを見ると、首を微かに傾げ「?」と愛らしく目が笑っていた。 クラウドがキュン死している一方、スコールとコモーグリの話は続いていた。 「モーグリ、昨日はたくさん手伝ってくれてありがとう でも俺らもう仲直りしたから大丈夫だ、な?セイレーン?」 『誰が和解などするかタワケ!気持ちの悪い顔をこちらに向けるな!』 滅多にすることのない作り笑顔での和解提示をクリアに蹴り飛ばされたスコール。 もう諦めたように抱っこしているコモーグリに顔をうずめている。 コモーグリが柔らかそうなふにふにの手でスコールの頭をもふもふ撫でているのを見たクラウド…。 あぁーー……………欲しい……やっぱりアレ欲しい!コモーグリも欲しい! あのもふもふしている毛はどれくらいもふもふしてるんだろう、あのもふもふふわふわにキスしたい!腹は?ぷにぷになのか!?もふもふなのか!?駄目だ!やっぱり抱っこしないと分からない!あぁ触りたい!抱っこして俺も顔を埋めたい! 畜生!帰ったらチョコボ&モーグリに相談する! それで今度住む家はチョコボとモーグリが子育てできる家を探して、それで俺も一緒に子育てする!それでそれで触り放題…… 『…変態男共め……』 スコールは知っていたが、実はフロア自体が魔床で覆われ魔空間となっている今、口には出していなくともクラウドの心の声は召喚獣たちにつぶさにダダ洩れていた。 クラウドの背後に並ぶ重鎮召喚獣達は秘かに恥ずかしい思いをしていたが、一方スコールの方も召喚獣たちにバレているのを知っていて隠していなかったので、召喚獣同士「お互い様」と気まずく納めていた。 だが… 『アイツラ動物園で暮らせばいいんじゃないかしら?』 納得いかないのが、世紀を超え名を馳せた美女・悪女・魔女たち。 その美しさ、妖しさ、可愛らしさ、テクニックで名立たる英雄、男たちを篭絡、喰い散らかし破滅させた伝説の美女たち。その功績を称え恐れられ、ついたあだ名が「マンイーター」 数多の名立たるマンイーター達を前にしてケモノに顔を埋める人間モドキ2人…。 『役立たずチンコなどシュレッダーにでも突っ込んでしまえ!』 口々に(小声で)呟がずにはいられなかった。 そして同じくマンイーターのセイレーン。 『我等の主(あるじ)がぶっ壊れているのは端から知っていた事だ 今は愛した男の創った世界がここに再現された事を慶ぼう これは結構な前夜祭。…そういうことなのだろう?』 セイレーンはクラウドの後ろの召喚獣達に聞いたが、答えたのは召喚獣たちではなく… 「……前夜祭?愛した男?」 スコールがコモーグリに顔を半分埋めたまま聞き返した。 『お前は黙ってろ!』 ビシッ!と制されスコールはまたコモーグリに顔を埋めた。 「我等って、…まさかお前もスコールの召喚獣なのか!?」 召喚獣と人間同士のように話すことも衝撃だったが、まるで人間同士のように喧嘩をすることも衝撃で、さらにはそこまで罵詈雑言を浴びせるセイレーンが契約をしていることがクラウドには信じられなかった。 『全く不本意だが、そういう事だ』 「…凄いなお前...こんなに嫌われてるのにちゃんと召喚できるんだな…凄い!」 称賛したつもりのクラウドの言葉にスコールの眉間には更に深い皺が寄った。 『出会いもジャンクションの相性も好き嫌いとは無関係だ だが私がスコールに召喚された場合、タバコ1本分の召喚時間を貰っている こいつに協力するには心の準備が必要だからな』 「………タバコ1本吸ってたら大抵のバトルは終わってるよ」 つまり契約はしているが召喚できてないって事か……スコール…。 『スコール、こやつとお前、そして我々は長い付き合いになる、心しておけ』 「グラシャボラス?」 コモーグリのぷにぷにの頬に自分の頬をスリスリし、セーレーンに傷つけられた心を癒されていたスコールに、グラシャボラスがクラウドを示し予言めいた言葉を言った時、訓練施設の1枚目のドアが開く音がして続いて2枚目、目の前のドアが開きキスティスが現れた。 「時間、かしら?」 それを合図に具現化していた召還獣、召喚獣フロアに行っていたクラウドの召喚獣達全員マテリアに戻ってきた。 「じゃあな、健闘を祈る」 「ああ」 スコールとキスティスが微笑んだ。 生死を共にする覚悟の出来ている同胞達。 「ヴィンセント、また来るから!」 「ああ、待っている」 そしてクラウドは最後まで抱っこしていたコチョコボの目元にキスをすると「また来るからな?」と言い、デブチョコボの前に置いた。 クラウドがキスティスに「いいよ。送って」と言うとヴィンセントが見る見るカオスの姿になりキスティスの中に消えた。 キスティスがクラウドを見る。 クラウドはスコールを見て、周囲の召還獣達を一通り眺めた。 まだこちらの世界のリヴァイアサンは申し訳ない顔をしてクラウドを見ている。 クラウドは思わずくくっ...と喉の奥で笑うと、落ち込むリヴァイアサンに、あっかんべっ!をした。 それにリヴァイアサンが、むっ!としたところで、クラウドはまたククク、と笑った。 「ピャッ」 コチョコボが走り寄って切るところでクラウドが叫んだ。 「キスティス!」 「デジョネ―ター!」 発せられた魔法と共に、一瞬にしてクラウドの姿は消えた。 キスティスがポッカリと空いたクラウドのいたスペースを見つめて「巧く送れた」と、ヴィンセントの声で呟いた。 「ありがとう」 スコールが言った。 「あなたは時間まで眠りなさい。 今夜は何があっても成功してもらわなきゃね、私の命もかかってるんだから」と、キスティスの声で答えた。 スコールはコチョコボの前でしゃがみ、小さな頭を撫で撫でしながら「アイツ、また来るってよ」と微笑みかけた。 「ピィ…」 「その時までに上手に踊れるようにしとかないとな?ついでに俺にも見せてくれ?」 「ピャッ!」 途端に元気になり撥ねたコチョコボ。 そしてスコールはキスティス副指揮官と共に指揮官室へのエレベーターに消えていった。 残った召還獣達。 イフリートが呟いた。 『なんとも...危うい男だな...クラウドという者』 ケルベロスが言った。 『危うく不安定なのはスコールも同じだ。意味合いは違うが』 どの召還獣の反応もまちまちではあったが、残らず、同意していた。 そしてどこからともなく声がした。 『我々のBIG BAN シヴァのためにも必ず成功させようぞ!』 |