隣人13



真上に昇った太陽が幾層にも重なった木々の葉を透かし、緑生す大地に光のシャワーを降り注がせる。

大きな隙間や僅かな隙間、葉を一枚透かした光や何枚もすり抜けてきた光、無数の光の音色を奏でている。

目を瞑り、麗らかな空気を肺いっぱいに吸い込み感受し、吐き出し、身体の隅々まで森の空気を行き渡らせる。


人間の寿命よりも遥かに長い時を知る森。

何百、何千回もの命を繰り返しながら、今あるのは産まれたばかりの空気。

両腕を広げて全身に幾重にも降り注ぐ木漏れ日を受ける。

身体に浴びる暖かい光、吸い込んだ空気がこの星が健康である事を教えてくれる。


『今、あなたの住んでいる町、あなたが働く地区、あなたが立っている場所

 私たちはそこに命を返すのです

 古からの伝承、星の危機に出現すると云われていたアルテマウエポン

 多くの人たちがその出現で傷を負い、命を落とした方も多く出ました

 アルテマウエポン体、恐ろしいモンスターでした

 彼らはどこを攻撃しましたか!?

 そうです体全て

 星の危機に星に仇するものを攻撃すると伝承されていたアルテマウエポン全てが

 魔晄炉を破壊するため出現したのです

 この星はとっくに答えを出ているのです

 軍事会社神羅が開発した魔晄炉我々に富をもたらした魔晄炉

 そこに現れたアルテマウエポン!それが星からのメッセージなのです

 魔晄炉は星の命を吸い上げてつくられていた

 今もう星の危機なのです

 たった今から我々が生きて来たこの星に命を返してゆかなければならないのです

 もう我々に猶予はありません

 ご存知の方も多いでしょう。私は軍事会社神羅出身です

 管理職に就いておりました

 私も始めは知りませんでした。魔晄炉、実に便利なエネルギーだと思っていました

 その恩恵にドップリと浸かって生きてきました

 けれど管理職になって初めて知りました

 魔晄の正体を

 でも、だからといって魔晄の利用を止めることはできませんでした

 なぜなら魔晄はあまりにも便利で、深く私の生活に根付いていたからです

 仕事も魔晄ありきでした。魔晄を利用しないなど社内だけでなく、他の会社にも出遅れる!

 魔晄の正体をしっても、その消費を止める生活などできませんでした

 ......結果がこれです

 あなたの子ども、あなたの孫。そのまた子孫

 あなたが今まで通り魔晄を使う生活を続けれいれば、そこにいる、あなたの子孫に未来はありません

 確かな事です

 今既にアルテマウエポンが出現し、多くの被害を出しているのです

 このままではそう遠くもない未来この星が終わるのです

 魔晄の正体は星の命です

 星の命とは我々祖先の命です!

 そして未来に生まれるはずの命ライフストリームこの星の命は巡っているのです

 あなたはこの命の飽食者ですか?

 あなたの国は、と聞いているのではありません、あ・な・た・は星の命を食い荒らす飽食者ですか?

 それともほんの少しづつ、ほんの少しづつでも不便を伴いながらも星に命を返していきますか?いけますか?

 あなたは命を未来に繋げられますかあなたは、あなたの子孫を守りますか

 私たちの生きる星はここです他には無いのです

 私たちはこの星に大きな借金をしてしまいました

 簡単には返せないほどの、手遅れ一歩手前の大きな借金です

 我々はこれから長い時をかけて星へ命を返してゆくのです!そうしなければいけない

 我々がこの星をここまで追い込んでしまったのです

 だからこそ我々が長い長い時をかけ復活させてゆくのです

 他の誰でもない、我々がやるのです!やらなければならない!

 親から子へ、子から孫へ。

 生活が多少不便になってもいいじゃないですか、作業のつやつ増えても

 そんな事の一つ一つが麗らかな空気、真っ青な空、緑溢れる森林、眩い木漏れ日

 それへ繋がってゆくのです

 生れてきたことを毒付くような世界を子供や孫に渡しますか

 あなたの子孫を再びアルテマウエポンの脅威にさらしてもいいのですか

 あなたは子孫に"自分の利益だけを優先させた命の飽食者"と呼ばれたいですか

 どうか今、我々がやらなくてはならない事を自覚してください

 この星にはもう後が無いのです

 我々には後が無いのです子供たちの未来をあなた自身が創ってください

 魔晄炉の建設は絶対に反対します


リーブが国際環境保全会議で演説した内容があまりに過激思想だとニュースになったのを見たことがあった。

結局あれ以来新しい魔晄炉は建設されていないが、未だに魔晄炉は稼働している。

ただし年々魔晄消費には容赦のない倍率で税金が加算されていて、魔晄離れは進んでいる。


両手を降り注ぐ木漏れ日に向けて広げると指が眩い木々の色に染まる。

リーブ、アンタの理想がここにある...

ここにあるよ。リーブ

アンタは強いヤツだったんだな、知ってたけど………と思った時、何かの気配を感じた。

視線をそちらに向けると、黄色い大きなくちばしにつぶらな黒い瞳の小さなチョコボがいた。

野生の子チョコボだと思っていたら次々と四方からチョコボがワラワラと出てきた。

チョコボマスターとなって随分経っているクラウドだったが、10匹以上の集団野生チョコボを見るのは初めてだった。


チョコボの軍団に囲まれた。

クラウドの周囲がグルリと暖かなクリーム色の羽に囲まれている。

暖かな空気に大好きなチョコボの匂い、言葉にならない幸福感に満たされる。

心が温かい色で満たされてゆき思わず微笑んだクラウドに、最初に現れた子チョコボが嬉しそうにピョンと飛び上がった。

その可愛らしさに思わずクラウドは首を傾げ、微笑が漏れた。

お姉さんぽい若いチョコボもピョンと跳ね上がると、また別のチョコボもピョンと撥ねた。

それがとても嬉しそうで思わず「あは...」と声を出して笑ってしまう。

ずっと忘れていた無条件の温かい笑い。

チョコボ達の陽気なダンスが始まった。

チョコボはダンスが好き。どうやらそれはこの世界でも同じらしい。

クラウドの召還獣"チョコボ&モーグリ"のマテリアを手に入れた時もチョコボのダンスを見た後でチョコボたちに貰った。

暖かい場所、穏やかな空気、優しい場所で楽し気に踊るチョコボ達。

ただ温かいと思った。気持ちが癒されていく。

涙が出てしまいそうに、ただ温かい。どうしてチョコボはこんなにも温かいのか。

思えば自分で育てたチョコボ達も一緒にいると温かい気持ちになれた。忘れていた。


ただ温かい。

冷え切った指先も、心臓も、気持ちも……チョコボに温められる。

ずっと求めていた。欲しかった。


いつの間にかクラウドはチョコボたちに埋もれて一緒に眠りについていた。


その後再びヴィンセントが迎えにきたが、チョコボの森から出たがらないクラウドを宥めすかし、仕方なくチョコボ達に別れを告げると、今度は一番最初に挨拶をした子チョコボがピヨピヨ付いてこようとするので親チョコボがコチョコボを取り押さえ、そして親愛の証としてコチョコボのカードを親チョコボがクラウドにプレゼントしてくれた。


ヴィンセントと共にマンションに帰ると、部屋で待っていたスコールに「今朝はすまなかった」と謝罪されてしまった。

「別に訓練フロアはちゃんと弁償するから」と、自分の方が申し訳ないと思っていたのをスコールに先に謝られてしまい、戸惑いから逆に強気の言葉を返してしまって、クラウドは内心自分に呪いの言葉を吐いていた。

だがクラウドのそんな返事に、逆にスコールが驚いたようだった。


「言ってなかったのか

スコールがヴィンセントに聞くと、「お前から直接話した方がいいと思う」と答えた。


「そうか…あの後、アンタの召還獣達「チョコボ&モーグリ」「イフリート」「シヴァ」「ラムウ」「タイタン」「リヴァイアサン」「クジャタ」「ハーデス」「テュポーン」「オーディン」「ヴァルカン」「フェニックス」「ヘラクレス」「アレクサンダー」「トール」「ヴァルキリー」「バハムート零式」「カエサル」「キュクロプス」「ナイツオブラウンド」「ゲオルギウス」が出て来て、『クラウドに負い目は持たせぬ』と言って、彼らが訓練施設を以前よりも遥かにバージョンアップして創り変えてくれた

面白かった、目の前で天地創造が見られて。物凄く豪華なフロアが出来てしまった使うのが勿体ない

アンタは彼らに愛されてるんだな。俺とは大違いだ」と、スコールは白く揃った歯を見せて笑った。


(↓勝手に登場召還獣の明細↓読まなくても支障無。)

ヴァルカン:「ギリシャ神話」ゼウスとヘラの息子。醜い容姿から、母ヘラに嫌われ遠ざけられる。しかし妻は神々の中で最も美しいと言われたヴィーナス。鍛冶の神。

ヘラクレス:「ギリシャ神話」ゼウスが人妻に手を出して生ませた子供。そしてゼウスの正妻ヘラに極悪非道に苛め抜かれた英雄。アルゴー遠征記では、愛人である美少年ヒュラースの為に船を下りたバイプレイヤー。嫉妬で疑心暗鬼になった妻に薬殺された。

トール:「北欧神話」オーディンの息子。Thursday(木曜日)の語源。雷神だという節もある(FF10の雷神召還獣トールはこれが基だよね)北欧神話最強の戦士。

ヴァルキリー:「北欧神話」オーディンに仕える女神達。生きて戦う戦士を応援し支え、戦って死んだ戦士達をヴァルハラ宮殿に連れて行く。そして宮殿で戦士達をもてなす役目も負っていた。

カエサル:「ブルータスお前もか」のローマの武将にして政治家。ユリウス暦(今の太陽暦の原型)を作らせた。

キュクロプス:天空神ウラノスと大地の女神ガイアの息子。その醜さから生まれてすぐに地底に埋められる。神々の戦いが始まった時にゼウスによって掘りこされ、お礼に雷霆をあげた。川神の美しい娘ガラティアに恋をしただ遠くから見つめ続けていたが娘には美しい恋人がいて嫉妬に狂いその恋人を殺してしまった。娘は嘆き悲しみやがて川辺に咲く葦へと変身した。美術分野ではこの神話の大名作が多い。

ゲオルギウス:「キリスト教」白馬に跨った聖人ゲオルギウスが、龍に襲われる王女様を救い出し、龍を退治したという伝説。パレスチナで殉教。


知らぬ間にそんな事をしてくれていた召喚獣達に、自分の事しか考えていなかったクラウドはまた申し訳なく恥ずかしくなった。

「ウチのリヴァイアサンなど、そっちのリヴァイアサンに窘められて情けないくらいに凹んでいた

すまなかった。ウチのリヴァイアサンは俺を庇おうとしてわざと傷つける言い方をしたんだ

本当はヤツもそんな事は思ってない、わざとアンタが傷つく言葉を探して言った」

「いい、俺だって同じだ。アンタを傷つけるつもりで言った

俺、まだ自分に起こった事の気持ちの整理とかできてなくて………あの…ごめん」

たどたどしかったがなんとか言えたとクラウドは少し顔を紅潮させスコールを見たが、なぜかスコールは苦しそうな表情をしていた。

だが直ぐに表情を消し、話題を戻した。


「チョコボ&モーグリ、オーディン、フェニックス、俺も契約しているが、俺では召喚するのに条件が必要だったり、コントロールできなかったりする

それに見たことも無い高位の召喚獣があんなにたくさんそれにどれも桁外れの魔力だ

あんた本当に凄いんだな

「……まあ、傭兵歴長いし」

「ああ、結局実年齢何歳なんだ

「…………80超えのジジイ」

と、クラウドは自分の年齢を答える代わりにヴィンセントを指して言った。

「クラウド、私は実態を失くし魔空間に入った時点で人としての時は意味を失くしている

ということで私はノーカン私は人として生きたのは32で止まっている。スコール、クラウドは実年齢50近いジジイだ

ヴィンセントがクラウドの年齢をサラリとバラした。

「おまっノーカンとか卑怯だろ俺よりジジイのくせにジジイ呼ばわりすんなそんな事言うなら俺は人間年齢は16歳で止まってる

「召喚獣に人間の年齢は意味がないし、実際人としての命を失った時は今のクラウドよりも若かったお前はまだ人として生きているから人としてお前の方がジジイ

意外にもセコイ主張をするヴィンセントに思わぬスコールからの助太刀があった。

「でも実際そうだよな俺が前校長から"呪われたランプ"を貰った時に"そのランプは何百年も前から呪いが掛かってる。力を持てばランプの精の協力を得られるが、力を持たぬものが覗き込めば魔空間に飲み込まれる"と言われた

要するに人間が年でも召喚獣は100年だったり、人間が100年でも召喚獣は年とか、時の流れが違うんだよな

で、俺がランプを覗いたら”眠りを邪魔するな”ってディアボロスが攻撃してきた。つまりディアボロスは魔空間で何百年と眠りについていたという事になる

起きて活動していないって意味じゃ確かにノーカンだ」

クラウドが大きな目でジロリ…見ると、その意図を察したヴィンセントはアサッテの方向に目を逸らした。


「……お前さ、アッチの世界で人として生きてたのが32年だったとか言っても実際稼働してたの20何年かくらいだよな10年くらいはあのカタコンベで眠ってたんだろ

しかも召喚獣になってからも何百年と眠ってた

お前、それって”呪い”とかじゃなくてもう体質だよなどうしたらそんなに眠れるんだ本っ当っに羨ましいぜ

クラウドは明後日を向いたままでとぼけているヴィンセントを指さしスコールに言った。

「こいつ、俺が見つけるまでカタコンベの棺桶の中で眠ってたんだ、10年くらいずっと

「……俺が見つけた時はランプの中で眠ってた。お前、ベッドでは眠れない派か

クラウドとスコール、人で呆れたようにヴィンセントを見ると半ギレで反論してきた。


「私に言わせればおかしいのはお前たちの方だ

そもそも棺桶やランプで眠っていたのは私の意思ではない棺桶は宝条に閉じ込められたのだし、ランプはあの中が無限魔空間と繋がっていただけの話だランプで眠っていたわけじゃない

おかしいのは誰が考えたってお前たちだ

お前たちときたら世界の命運がかかっている戦いの中枢にいたというのに使われなくなった廃屋にためらいなく不法侵入し、馬鹿々々しいパズル解きに熱中し!!あまつさえ地下探検をした挙句に!言語道断!カタコンベにまで入り込み、何故そんな事をするのか全く理解できないが朽ちた棺桶の蓋を開けたり

俺は覚えてるぞ仲間たちに”やめろ””帰ろう”と散々心配されているのを無視してお前は棺桶の蓋開けに挑戦し続けた何度構うなと言ってもしつこく蓋をノックし続けた

根負けして棺桶から起き上がった私を迎えた時のお前の好奇心丸出しの顔は決して2度と忘れない

お前がどんな言い訳をしようとも、あの時のお前の表情が全てを物語っている

そして校長から"呪われたランプでレベルが低ければ魔空間に引き摺り込まれる。取り扱いには特に注意"と言われて渡されたその場でお前は中を覗き込んだ校長も驚いていたぞせめてセーブくらいしろとそしてその時俺が見たものは、かつて眠りを無理矢理覚まされた時に見たあのワクワク好奇心100%の顔だった

分かったかおかしいのは明らかにお前たちの方だなぜなら俺は!誰にも迷惑も心配もかけていなかったからだ


スコールとクラウドは眼を合わせた。

「迷惑なんかかけてないし...たまの息抜きくらいは...なぁ...

どちらかともなく言い、自己弁護の様にお互い頷き合ったが、ヴィンセントの反論は厳しかった。

「たまに!?たまの息抜きだと!?お前たちはメインが息抜きで、世界を救う戦いがオマケだったしかも実にどうなってもいいレベルの見事な放り出しっぷりの、自分の仕事が何だったのかすっかり忘れているほどの放りっぱなしのオマケだった

お前たちは揃いも揃って、周りを振り回し、混乱させ、呆れさせるほど実に不真面目なヒーローだったそんなどうしようもないロクデナシヒーローなところがお前たちはソッッッックリだ!!!いやソックリなんてものじゃない同・じ・だ!!


ヴィンセントが怒りで顔を紅潮させ、細く美しい指先でクラウドとスコール交互に指しながら断罪したが、その紅潮した様子はあまりにも壮絶に美しく、人揃って秘かに"こいつは選択する職業を間違えたな。俳優にでもなっておけばよかったのに"と思っていたが、下手に口答えをするともっと後ろ暗いところを掘り起こされそうで2人とも沈黙を選んだ。

「ボス戦の時もお前は相手を倒すよりも先ずはドローぶんどるで...

まだまだ言い募ろうとするヴィンセントをスコールは手をあげ遮った。


だがそのスコールの視線は宙を彷徨って、まるで見えない何かと会話しているようだった。

...あれは...ジャンクションしている召喚獣と会話してる」

滅多に喋らないのに何百年ぶりかでたくさん喋ってしまったので、貧血を起こしながらヴィンセントがクラウドに教えた。


スコールの宙を彷徨っていた視線が、ピタリ...とクラウドに止まった。

怜悧さを感じるアイスグレーの瞳に真っすぐに見つめられ戸惑うクラウドにスコールが宣言した。


「頼みたい事がある、クラウド」


真っすぐに見据えられ戸惑ったクラウドだったが、とりあえず先を仕草で促した。

スコールの話しはこうだった。

今この世界に、政治犯として捕まっている人の人間がいる。

その人を刑務所からそのままクラウドの世界にキスティスのデジョネーターを使って脱走させたい。

その人は元ガーデンの生徒で、スコールの同級生でもあり、そのうち人は日後に死刑が執行される。

だから明日の夜には、クラウドのいる世界に送り込む必要がある。

彼らは確かに許されない間違いを犯しはした。だからこそ生きて償わせたい。

だが世界的に凶悪犯罪者として有名になってしまった彼らが普通に生活できる場所はこの世界には極僅かで、見つかれば殺される。

事実、奴らと同じ事件に関わった魔女がいたが、「マインドコントロール下にあって責任能力無し、そして魔女討伐部隊Seed創設者でもある。」という理由で無罪放免となったが、

それに納得しなかった被害者の遺族が魔女を私刑で磔刑にし火炙りにしてしまった。

だが今はこうして別の世界がある事を知り、次元移動の方法も知った。

そしてそれを知っているのはこの世界ではたった人、自分とキスティスだけ。

キスティスと人で彼ら人を次元移動させたい。

そして生活をさせてみて、やはり死刑になっていた方が相応しいとクラウドが判断したのなら、遠慮なく抹殺してくれていい。

.........だから


「一度だけでいい、彼らに償わせるチャンスを与えてくれないか」

それは”頼み”というよりも、もっと切羽詰った、他に道が無い、時間もない「yes or no」の話だった。

「つまり、その凶悪政治犯人の面倒を俺の世界で俺に見ろってことなんだろ

「彼らの裁かれた罪は『凶悪政治犯』だったが

人を多く殺したことを裁かれるのなら俺の方が遥かに数多く殺してる

俺たちは傭兵なんだ。ヤツの罪は戦いに負けたことで、裁くならそれを軍事法廷で裁くべきだ

一般人の法律なんか意味ない」


同じ傭兵のクラウドにはスコールの言葉はよく理解できた。

兵隊の世界に倫理や個人の意思などは無い。命令・依頼こそが絶対。どんな命令・依頼であれ、完璧に遂行してこそ一人前の傭兵。

傭兵が戦場で敵を倒すのは「人殺し」ではない、「命令の遂行」なのだ。

「引き受けたくないって言ったら

「どっちにしても俺は奴らを助け出す。もう時間が無い。彼らには文字通り明日が無い

アンタが受け入れないのなら、俺はこっちの世界で奴らを何とかする

だがその後は、キスティスにディアボロスをジャンクションしている時のデジョネーターは禁止させる」

「俺が来たルートを失くすってことか」

「勿論アンタを元の世界に還すまでは責任を持つ

だがその後は無い

アンタがどう言おうと俺がそっちに勝手に送りつけることはできるんだ

ただアンタはディアボロスの仲間だし、そうはしたくないから了承を得ている

アンタがそれを拒否するのなら、そんなルートなど必要ない」

人にモノを頼でるくせに随分と堂々としているな。と言ってやりたかったがそんな浅い反論ができるほどスコールはふざけていなかった。

スコールは『殺してもいい』と言っている。自分が命がけで救おうとしている命を。

ただ"生きて償わせてくれ"と。


「何故ソイツラに拘る

どうせ政治犯収容所なんて警備が厳重なんだろ、デジョネーターを使うにしてもちゃんと潜入できるのか帰路はどうなんだ

アンタ一応はガーデン指揮官だろ、そんな危険な事していい立場じゃないじゃないだ

「刑務所への潜入は今までに何度か繰り返している。今更捕まったりはしない

それにキスティスと人のミッションだ。デジョネーターは彼女しか使えない

もし失敗したらガーデンに迷惑をかけないよう人で始末をつける。打ち合わせも済んでいる」

「…………………」


失敗した場合は何の痕跡も残さず人で死を選ぶ。そうスコールは言っている。

命が繋がっている......。刑務所の連中とスコール。スコールとキスティス。

傭兵としてミッション中に一蓮托生な状況はよくある。

でもこの人の繋がりは仕事ではない。

少なくともスコールにとって刑務所の連中はデメリットしかないはず。

平和な世の中でガーデンが難しい舵取りを迫られている中、死刑宣告されるようなテロリストを脱走させるなど...

それでも命を懸けて脱走させるのか

スコール、人間に興味無かったんじゃないのか


日後に処刑されるヤツと俺とキスティスは同じ孤児院で育ちでガーデンに送られ傭兵としての教育を受けてきた

魔女全面戦争が勃発して対立するまでずっと、ヤツは俺の前に立ち続けた

アイツは根っからの傭兵だ。俺と何も変わらない。ただ、敗戦側の傭兵だっただけだ

確かにアイツは大規模破壊もしたし、被害者も甚大に出した

だがそれは俺も同じだ

俺たちは傭兵だ。闘って、血を流してこそ、だ

一般人のルールでなんか裁かせない

クラウドはスコールのアイスブルーの瞳を見つめていた。

真っ直ぐに見つめ返してくる憂う瞳、人の心を問答無用で鷲掴みにするような哀しく深い氷の瞳。

男だったらこんな風に生まれたかった、というくらいカッコイイ。

そのスコールの瞳にチラリと不信の色が見えクラウドは慌てて目をそらせた。


「明日の何時だ。送り込むのは

まだあっちの世界にモンスターを多少残してきてるから、先に行って始末しておく」

クラウドの返事にスコールはようやく緊張の糸を緩め、息を抜いた。

サイファー・風神・雷神の活路がようやく開いた。

脱走させることは死刑確定の時から決めていたが、その後の生きる場所がどうしても見つからなかった。

隠れて生きるだけならどこかの山奥にでも篭ればいいが、サイファーがそんな事を受け入れるはずが無く、それは彼の魂を殺すのと同じだったから。


「ありがとう」

「奴らが有害な奴だと思ったら本当に殺すぞ」

「ああ、任せる。でもできればその時は俺に言ってくれ。できれば俺が奴を終わらせたい

それと奴らを送り込んだ後、俺も度君の世界に入る。奴らと少し話す必要がある

それで一旦帰るが、またヶ月くらい後に週間くらい時間を作ってそっちの世界を見て周りたい

興味がある。いいかな

「ああ、今度は俺が案内する」

クラウドは笑った。

「よろしく。.........ところで、君にここまで協力してもらうお礼なんだが、俺にできることは何かないか

そう言ったスコールにクラウドは暫く考えた後


「今は無理かもしれないが、今度キスティスにデジョネーターを教えてもらいたい

俺も魔法のデジョンなら知ってるが、"デジョネーター"は少し違う

俺の世界からも自由にこっちに来たいからよろしく」そう答えた。




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