隣人12



ヴィンセントと人でガーデンの外に出るとチョコボが頭用意されていた。

クラウドの世界のチョコボも可愛かったが、この世界のチョコボは常に顔が幸せそうに笑っていて見る者まで釣られて笑顔になってしまう。


「チョコボでないと行けない場所に今から行く

行先はスコールからこのチョコボに伝えてあるから俺らはただ乗っていればいい」

ヴィンセントが乗っているチョコボを指した。


「嘘だろ...アイツ、チョコボとも話せるのか?俺だって喋れないのにヤバイだろアイツこそ人間じゃない……で、チョコボ語ってやっぱり、クェー、クェーとかアイツ、そんなの発音できるのか!?凄い!!

ヴィンセントは思わず吹き出してしまった。

やっぱりクラウドは変わっていない。

もしここで”その通り”と答えようものならクラウドは帰ってから早速チョコボに「クェクェ」と、延々何度も首を傾けながらも語り挑戦し続けるに違いない。


「スコールとチョコボの間には信頼関係がある。彼らは言葉が無くても通じる」

「そんなわけないどこに行けとかは言葉が無いと無理だろ

アイツ本当に何者召喚獣とも普通に話してるし、チョコボとも話せるなんておかしいだろ!で、本当はどんな能力者

なんとか真相を探ろうと躍起になっているクラウドを指し、ヴィンセントは言った


「お前と同じ」

「は

「星の運命がかかっている旅だったのにチョコボレースに入れ込んでチョコボ掛け合わせに入れ込んでチョコボマスターになり幻の海チョコボまで作ったお前と同じ

魔女から世界を救う旅だったのに、この世界のどこかにあるという”伝説”を頼りにチョコボの森探しに熱中して、挙句の果てに今から行くチョコボの聖域を本当に見つけてしまい、チョコボ達と信頼の絆ができるに至った

勿論お前と同じでスコールが熱中したのはそれだけじゃない。というかこれ以上ないってくらいに世界を救う旅に対して不真面目だった

お前と同じに

あぁ、言い方を間違えた...本懐である世界を救う旅以外のありとあらゆる事を物凄く真剣に追及していた、お前と同じで」

..................


トゲがありすぎるだろ、言い方に...俺は別に世界を救う旅に不真面目だったわけじゃなくて他に気になる事が色々あり過ぎて放置しておけなかっただけだと、思いはしたが、何か含みを持ったようわざとらしくににこにこしているヴィンセントに今は下手に言い返さない方がいいと判断し、クラウドは言葉を飲み込んだ。


そうして緑深い森に入ってどれほど乗っていたか、鬱蒼と木々が生い茂る中無数に降り注ぐ木漏れ日のシャワーをヴィンセントと乗ってるチョコボに浴びながら進むにつれ、次第に方向・時間の感覚が無くなっていった。

元の世界ではありえない澄み切った瑞々しい空気、清らかな陽光、命萌える草木、チョコボの温かな体温。

暫く人沈黙のまま景色や空気を楽しいんでいたが、ヴィンセントが思いついたように話した。


「スコールは人間以外の殆どのものが好きなのかもしれない

複雑なシステムを攻略するのも、乗り物操縦も好きだし、モンスターも召喚獣も精霊も動物も、強いものも可愛いものも弱いのも好きだ

仕事も厳しいミッションであればあるほど参加したがるしな」

「参加って、あのカッコイイ指揮官服を着て現場を指揮するってことか目立ち過ぎるだろ」

「アレは目立つために着ているんだ。スコールとキスティスは

かつてのセフィロスと同じ、歩く広告塔だ」

「………」

「今の姿を見ていれば想像もつかないだろうが、2年前魔女大戦が終わった時にはガーデンが3校とも修復不可能なほどに破壊され、早急に天文学的な金も人手も必要だった

だが当時のガーデンの世間での評判は地に落ちていた

諸悪悲劇の根源の魔女がガーデンの創始者であったり、民間に多くの犠牲を出した者がSeed候補生だったり、校長が途中で失踪したり…糾弾する者は枚挙に暇がなかったが援助を申し出てくれる者など当たり前に誰一人いなかった

だが"スコール・レオンハート"という個人だけは魔女を退治し、世界を救った英雄として一般人に広く知れ渡っていた

まあ、実際には魔女との闘いに真面目だったのは仲間達の方で、本人はこの上もなくどうしようもなく不真面目だったがな?無理矢理パーティに連れ戻しても「今はそれどころじゃないんだ!」と逆ギレしてまた消える始末だし?

あぁ……そう、そういえば私にもそんな仲間がいたな、かつて、…懐かしいな?」

「……………」

ニコニコ穏やかにわざとらしく言うヴィンセントだが、クラウドは返事をしないことに決めていた。

それにしても、しつこい。


「で、スコールは実はこの世界で最大国にして最も文明の進んだ"エスタ"という国の大統領の落とし種であることも有名だ

ガーデンは”スコール・レオンハート”に再起をかけることにした

だが気になる事には力を惜しまないが、興味の無い事には一切の労力を使わないのがスコール

スコールは人間に興味を持たない

人を覚える気も無ければコミュニケーションをとる気もない上に、無理矢理連れて歩いても直ぐにどこかへ雲隠れをしてしまう

魔女戦で彼のその性格を散々学んでいたメンバーは監視役にキスティスを貼り付かせた

ガーデン再起の始まりはSeed服で2人出かけていたが、制服メーカーがタイアップを申し出てきた

それが最初の協賛社だった

今はガーデンは3校とも建て替えられ、入学希望も後を絶たない

確かにスコールも頑張ったが、その50倍はキスティスを含めた周囲が頑張っている」

「………」

嫌味のように感じるのは、きっと今自分がネガティブになっているからだな?と、クラウドにしては珍しくポジティブに考えた。



「でも…俺はモンスターになるんだろ…変化が止まらなくて……退治される側になる…」

「なら、お前は私をモンスターと言うのだな」

「お前は召喚獣になったんだろ

俺もお前みたいなのが良い。召喚獣がいい...

スコールの召喚獣がいい。俺、闇属性でトンベリとあのフロアで引き籠る」

「闇属性はバトルに有効なのが多い

先ほどあの闇属性フロアに他の召喚獣がいなかったのは、皆現場に出払っていたからだ

あのフロアには50体を超える闇属性召喚獣が登録していて皆錚々たる面々だ

そしてどの召喚獣もお前みたいに迷いだらけの召喚獣なんかいない。皆想像を絶する修羅場、絶界を潜り抜けてきている

お前にはまだまだあのフロアは早い

もっともっと迷え、苦しんで苦しんで色んなものを見て、体験して、お前自身で突き抜けろ

世界はお前が知るより無限に広く深く愛に満ちている

我々の仲間になる前に先ずは苦しみ抜き、傷つき果て、それでも生きて、そして真に愛される喜びを受け止められるようになれ』

「…メンドクセーよ...そんなのいらない。疲れる」

「投げるな。今が全てじゃない。眼に見えるものが全てじゃない。お前が理解しているものが全てじゃない

お前は生きてきたからこそ私と再会し、スコールと出会った

必ずいつか今の苦しみが必要な過程だったと思う時が必ず来る

過去が苦しいのなら、お前だけはお前である事を投げ出すな」

そう言うとヴィンセントはクラウドの頭をぽふぽふ…と叩いた。

……言葉の端々にヴィンセントの痛みが見えた気がした。

クラウドは何も答えられず、また長い時間が過ぎた。


長い沈黙を破り、また唐突にクラウドが喋った言葉は...脈絡がなかった。

「レベルの高いモンスターの居場所教えてくれ」

...

「ガーデンの訓練所ぶっ壊しちまったから弁償したい

ガーデンの皆、困ってるだろだからモンスター倒しまくってこの世界でのお金作りたい」

突然の話題の変換に戸惑うヴィンセントにかまわずクラウドは続けた。

「スコールに酷い事言ったし...

せめて壊したフロアの弁償をしたい。どこに強力なモンスターがいる

そんなクラウドに、ヴィンセントは微笑んだ。

「クラウド、この世界ではただモンスターを倒しても金にはならない」

「え

「モンスター退治以前に、この世界では武器携帯にはライセンスが必要なんだ

最初にスコールが言ったろ武器を持ち歩くなって、それにはそういう意味もあったんだ

それに武器所持のライセンスを取っても、モンスター退治にはまた別のライセンスが必要になる

特定の機関に所属してから、給料という形で金を貰う

モンスターの退治数は戦闘レベルに関係してくるが、給料には即座には反映されない

だからライセンスも何もないお前にはこの世界で傭兵として金を稼ぐ術はない

だから弁償なんて気にするな。スコールもそんな事は気にしていない

というか先に迷惑をかけたのはこちらなんだ

こうして"謝罪の記し"を示しているだろ

ヴィンセントはチョコボの首を軽くポンポンと叩いた。

「でも早く弁償しないとガーデンの連中が練習できないじゃないか。弁償したい」

ヴィンセントは嬉しそうに微笑んだ。

「ならどうするのが一番いいのかスコールに直接聞け

ああ見えてガーデンは傭兵養成校だから機密がたくさんある

私やお前が勝手な判断で動いてはかえって迷惑をかけることになる」

「ああ......そうか、だよな」


項垂れるクラウドの髪を微風が揺らした。

森の木の葉達がその風で、シャラシャラ、サワサワと涼しげな音を奏でた。

何か森の空気が変わったような気がしてクラウドが辺りを見回すと、前方には深い深い森の中、唐突に丸く開いた草原がポッカリと開いていた。

吹き抜けてゆく澄んだ空気が、シャラシャラ、サワサワと、木の葉達の踊りをなかなか止ませない。

乗っていたチョコボが歩みを止めた。


「着いたようだ」

ヴィンセントの呟きにクラウドが意味が分からず表情で問いかけると、ヴィンセントは仕草でチョコボから降りるように言った。

どんな乗り物も寄せ付けない深い森の奥の奥。

その光のシャワーは、芝苔の絨緞に様々な形の模様を作っている。

歩く道も無い奥深い森の中、チョコボ任せで進んできたにもかかわらず、とても麗らかで暖かい場所で、どこからともなく穏やかな生命が溢れ薫り、空気がとても穏やかで、ここが溢れんばかりの祝福を受けた場所だと分かる。


「スコールのお気に入りの場所だ。よく独りで来ている」

............

クラウドは降り注ぐ陽の中つい先ほど召喚獣達を一斉召喚していたスコールを思い出し、わざと悪意に塗れた言葉を吐いてしまった事を思い出し胸が痛んだ。


「暫くここにいろ、私はガーデンに戻る。後で迎えに来るから時間は気にするな」

「え

見知らぬ森の奥深くで急に一人にされ戸惑うクラウドに、


「ここでは言葉も記憶も時も必要ない。ここがどういう場所か暫くいれば分かる

お前は既に受け入れられている。が、私がいては、彼らは出てこない。」

ヴィンセントはカオスに変身し森を抜けていった。


深い森の中で一人になってしまったクラウドは周囲を見回した。



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