隣人10 コーヒーの匂いと人の気配に目を覚ますと既に朝。 テラスで眠り込んでいたはずが何故かちゃんとベッドで眠っていた。 クラウドがベッドから降りるとその音に気付いたのか、部屋のドアが少し開いて黒髪長髪の美形が顔をのぞかせた。 「おはよう、クラウド」 漆黒の艶やかな髪に赤い瞳の絶世の美形ヴィンセントが部屋に入ってきた。 「...なんで俺、ベッド?」 テラスで寝たはずだが...と、ハテナマークを飛ばすクラウドに、ヴィンセントは美しくも凄艶な微笑みで言った。 「あれから少し小雨が降ってきてな、お前に入っていた私が部屋に入った」 「?…俺に?…お前?......?......!...!!」 意味が分からず昨夜の記憶を呼び覚ますうちにクラウドは目の前にヴィンセントが立っている矛盾に気が付いた。 目の前にいるのはカオスではなく、昔、共に戦った傾国の美人ヴィンセント・バレンタイン。 昨日のように召喚獣のような映像状態ではなく、実体を持ち、目の前に立ち、生声で喋っている。 「元の姿に戻ったようだ」 昔と同じ艶やかに美しい黒髪、昔と何も変わらぬ常に妖艶なオーラを纏う絶世の美形。 ヴィンセントを知る以前も以後も、ヴィンセント・ヴァレンタイン以上に息を飲むほど、時が止まるほどの美人は見たことが無い。改めて思う。 「お前、もう人間には戻れないって昨日言ってたじゃないか、肉体も無いって」 ヴィンセントは優しく慈しむように美しく微笑みながらクラウドに近づくと、相変わらず真っすぐに好き勝手な方を向いている金色の髪を指で梳いてやった。 一瞬クラウドはビクッと身を引いたが、我慢したように受け入れていた。 ヴィンセントはその反応が嬉しかった。 「永く肉体を失くしていたのは本当だ だから私をこの姿に戻したのは、お前」 「は?」 「ジェノバは意志の力で細胞を変化させられる だが私はライフストリームに散って以来人間に戻りたいなど思ったことなどなかった 自分がどんな姿をしていたのかも思い出せなくなっていた しかし昨夜お前が眠ってからこの身体が勝手に変化し始めた。驚いたぞ」 ……またヴィンセントが微笑んだ。 あの 陰気 で 根暗 で 鬱 で ジメジメして鬱陶しい あのヴィンセントが!微笑んでる! とりあえず人型への変化よりも、そっちの方にクラウドは密かに動揺していた。 その時ドアがノックされ、えらくカッコイイ軍の式服のようなものを着たスコール・レオンハートが入ってきた。 昨日のTシャツにジーンズというカジュアルな姿も凄くカッコ良かったが、今日の軍服は更に8割増しくらいカッコイイ。 その隙の無い完璧なカッコ良さにクラウドは動揺ではない胸の高鳴りと共に、目が釘付けになってしまっていた。 「おはよう、寝起きの所悪いが俺とディアボロス...あー、そこの赤いマントの人はこれからガーデンに行かなきゃならない 彼は30分くらいで自由になれると思うが、君はどうする?よければ俺と赤い人でガーデンを案内するが?」 指揮官服スコールの一挙手一投足、少し顎を向けるようにヴィンセントを示す仕草や、絶対に計算して作ってるに決まってる襟高が高い指揮官マントとか。 ただ部屋に入ってきた、それだけでクラウドは唯々ドキドキドキドキと高鳴りが止まず総指揮官スコールに見惚れて、そして”この人と仕事ができたらどんなに楽しいだろうか…どんな世界が見れるだろうか”と夢見始めてしまい、残念ながら当のスコールの話の内容はあまり耳に入っていなかった。 が、その当人に微かに不審の反応が見えて自分が問いかけられている事に気がつき、弾かれた様に正気に戻り大急ぎで記憶を遡り答えた。 「あ、………あ、えーと、そういえばアンタ、ガーデン総指揮官とかだっけ?もしかして一番エライ人?」 「少し違う。ガーデンは3校あって、俺は3校の傭兵部門の総指揮官 今から行くのはバラムガーデン。一番エライのはシュウという女性の校長 学校には普通部門、傭兵養成部門、傭兵部門がある。そして俺は2か月後にその傭兵部門も退席することが決まっている形だけの総指揮官だ ディアボ...えー、ヴィンセント?赤い人から聞いたが君も軍事組織出身なんだろう?傭兵学校は興味あるんじゃないか?」 「まぁね。他に行く所もないし、行く」 「私は一時スコールの中に入るが、このマンションを出たらまた出てくる」と手を小さく振り、ヴィンセントはスコールの中に消えた。 クラウドは部屋を出ていくカッコイイ指揮官姿の後をついてマンションから出たが、相も変わらずスコールから目が離せず、胸の高鳴りも収まらなず、自分でも困惑するほど子供のように気持ちが浮ついていた。 歩くスコールのマントが風を受けて靡いた時、不意に昔を思い出した。 子供の頃、テレビでセフィロスのCMを見た。 心の底から惹かれ、母に頼んでCMを録画してもらった。 何度も何度も繰り返し繰り返し憑りつかれた様にCMを観た。 何度見ても飽きず、カッコイイと思う気持ちは繰り返すうちに強くなっていった。 この英雄の隣に立ちたいと、まるで天啓のように思った。 画面の向こうの英雄の隣に立つ自分の姿を夢に見た。 そして… そしてあの時の自分が今となっては抹殺焼却したい過去になっている。 靡くスコールのマントを睨みつけた。 二度と夢なんか見ない!二度と騙されるもんか!絶対に騙されない!! 本当にカッコイイ男なんかいるもんか!そんなもの嘘だ!そんな奴に限って中身はどうしようもないんだ!! 『コイツだってどうせマトモなものじゃない!どこか絶対におかしなところがある!絶対に騙されない!二度と騙されないぞ!』 ………繰り返し頑張って自分に暗示をかけていたクラウドだったが、そもそもヴィンセントもキスティスも最初から「スコールは変人」だと言っている。 だがそういう(都合の悪い)忠告は、スコールの背中をギリギリと睨みつけるクラウドの中では「アーアーキコエナーイ」になっていた。 スコールとヴィンセントが所属するガーデンはマンションから車で15分くらいのところにあった。 傭兵組織があるというのに建物は未来っぽく装飾的開放的な形状で、こんなので防犯的に大丈夫なのか?と聞きたくなるくらいで、どちらかといえば傭兵というよりも「学園」の雰囲気の方が強い。 ただ校内を見る限りどこにも塵一つ落ちていないし、どこか構内に緊張した空気が漂っているところは軍事組織らしい。 廊下でたむろしていた5~6人の生徒が校内に入ってきたスコールに気付くと一斉に直立不動の敬礼をした。 教師らしき人やプロの傭兵らしき人たちもスコールに気付くと全員が立ち止まり背筋をピンッと伸ばし敬礼し、通り過ぎるまで直立不動そのままだった。 だが、中には視線だけはずっとスコールとその横にいるクラウド、そして傾国の美人ヴィンセントを追う者もいた。 「アンタやっぱりエライんじゃないか」 人波が切れたところでクラウドが感心したように言ったが、スコールの答えは... 「形だけだ。もういなくなるのを皆知ってる」 あまりにそっけなかった。投げやり、という表現の方が近い程だった。 円形の大通りから狭くなった通路に入るとやがて扉が見え、その部屋に入った。 「ここが図書室。ガーデンやバトルについての色んな資料が置いてある。 気が向いたら観に来たらいい。後でIDカードを作っておく。そのIDカードが無ければどの施設にもガーデンにも入れないからな」 「随分セキュリティの甘いトコだと思ったが、そこは神羅と同じなんだな!」 思わずクラウドはヴィンセントに話しかけた。 「ああ、そういえばアバランチメンバーは神羅本社ビルに侵入した時、苦労したと言っていたな」 「そうさ、そもそも神羅ビルに入る以前にアンダーミッドガルからアッパーに行くのに散々木登りして、その後神羅のあの高層ビルを59階まで足で上った。 バトルよりもあっちの方が余程きつかった」 「アバランチメンバー?ディアボ...えーと、お前は違うのか?」 ヴィンセントとの話を漏れ聞いていたスコールが聞いた。 「クラウドも私も元々は"神羅"という軍事組織の傭兵のようなものだったんだが、2人とも結果的にドロップアウトした クラウドはテロリストとして"神羅"に反旗を翻し、神羅本社や施設を爆破・攻撃したりしていた そのテロリスト集団の名前が"アバランチ" 私はアバランチの主要メンバー数人が亡くなった後でクラウドにスカウトされたからアバランチメンバーとは違うのだ」 「……アンタ、本当にそんなナリで傭兵なんかできてたのか?」 傾国の美形、世紀を超える美形、歩けば歩いただけ人目を惹き付ける、そこらのモデルや俳優など足元にも及ばぬ美形にスコールは物凄く疑わしい目をヴィンセントに向けた。 「ヴィンセントは元々は神羅の調査部っていう通称"タークス"っていうのに所属してた。傭兵とは違う タークスが実際にやってたのは暗殺だよな?」 「いや、タークスだからって暗殺というわけじゃない。調査部も本当に調査専門もあったしスカウト部もあった。ただ私がいたのが暗殺部だったというだけだ」 「.....................」 益々ヴィンセントを疑わしい目で見るスコールに、思わずクラウドが言った。 「神羅兵の戦闘部隊の中ではソルジャーが一番のエリートだったが、ソルジャーとは別組織ではタークスが一番のエリートだった 今はもう神羅自体が無くなったが、あった頃はタークスは俺みたいな一般兵士からすれば雲の上のスーパーエリート様だった ソルジャー達だってタークスには一目置いてた」 「君は一般兵だったのか?その割には相当戦闘レベルが高いようだが?」 「神羅のシステムは特殊だったのだ。一般兵とソルジャーになる者の境目は戦闘能力の違いではなかったのだ」 「なら、その違いは何だ?」 「...まあ、この世界で言う、召喚獣をジャンクションしているかいないかの違いだ。大きな意味で言えば、だが 召喚獣でもそれぞれ個人との相性があるだろ あちらの世界ではジャンクションする召喚獣が1種類のみだったようなもので、その召喚獣とマッチするかどうかが境目のようなものだった」 「召喚獣が1体?…だが君がこっちに来た時に乗っていたのは召喚獣だよな?」 「あれは召喚獣バハムート零式。ヴィンセントの言ってる召喚獣とは根本的に全ての意味で別物だ 俺はその1種類だけだったジェノヴァとの相性が悪すぎた ちなみに一般兵には上級兵と下級兵があって俺は...」 話していたクラウドが突然、軽く手を挙げて中断した。 5秒後に図書室の自動ドアが開いた。 「スコール!いるかー!?」 勢いよく飛び込んできたのはゼル・ディン。 旧友スコールが一人だけでいると思って入って来たらしく、そこに陶器でできた人形のように妖艶で現実離れして美しい黒髪の人と、同じ金髪なのに自分の猫毛とは全く別種の輝く金髪のハンサムがいて驚いた。 「あ、え、と、失礼しました!あ、……じゃあ訓練所入口でも行ってようか?」 図書室に入ってきた時の逆再生のように身を引きながらゼルはスコールに問いかけた。 「いい、ここでやってしまう」 「え、でも......」 ゼルは明らか部外者のクラウドとヴィンセントに戸惑った。 「クラウド、俺は今から自分にジャンクションしている召喚獣を彼に渡す」 スコールは困惑しているゼルを示した。 「『ブラザーズ』というミノタウロスとセクレトの2体で一組になっている召喚獣だ。 召喚獣と人間は契約で成り立っている。だから通常は契約した者以外には召喚獣は協力しない。 だが召喚獣ジャンクションには契約以外にも必要要素があって、その中の一つがその人間と召喚獣の相性だ いくら契約をしていても相性が悪ければ召喚獣ジャンクションは人間側に悪影響を与える だから契約していない召喚獣でも相性がいい召喚獣がいれば契約主との交渉次第でそっちをジャンクションしたりもする」 「...つまり『ブラザーズ』はお前と契約してるけど、彼と相性がいいから彼に貸す?」 「そういう事、通常は召喚獣の人間から人間への移動は実体化は飛ばすが、今は君にブラザーズを紹介する意味で一度実体化させる...ブラザーズ!」 一瞬にしてスコールから現れたのは大きな図体をして赤い角を持つ「セクレト」と、小さな体で黄色の角を持つ「ミノタウロス」 召喚獣『ブラザーズ』 『兄ちゃん、アイツ...』デカイ図体の弟が黒髪のヴィンセントを見ている。 『黙れ!……スコール』小さい体の兄が弟の言葉を制しスコールに話しかけた。 「なんだ?」 『健闘を祈る!』 『あ!俺も俺も!お前なら絶対にでき...』 「ゼル!ブラザーズをジャンクションしろ!」 弟のセクレトが喋りはじめたところを被せるようにスコールが言うと、ゼル・ディンの中に召喚獣『ブラザーズ』が消えていった。 「セクレト、お前はいつだって重要秘密事項の中にいる自覚を持て」 「......セクレトがメンゴつってる」 ゼルが訳が分からないままスコールに言った。 「ゼル、街で問題を起こすなよ。お前は戦闘能力が高い分、一歩間違えると大問題になる」 「大丈夫だって!あ、そうだ。スコール、近いうちに時間取れないか?俺の今後の事についてちょっと話したい」 「分かった。後で俺から連絡入れる」 スコールがそう言うとゼルはこめかみにピシッ!と指を当てて、スニーカーの踵をパスッ!と打ち付け敬礼した。 「成功を祈る!」 スコールもカツッ!とピカピカに磨いた革靴の踵を打ち付け敬礼で送り出した。 「ブラザーズは私の正体に気が付いていたようだ。やはり召喚獣同士、正体は見えるか」 ゼルが図書室を出た後、スコールも2人を促し、3人で無人の廊下を歩きながらヴィンセントがスコールに言った。 「ディアボロスが元人間だったのは他の召喚獣たちの多くは、前々から知っていたらしい 今、召喚獣たちが驚いているのはお前のその姿だ。俺も驚いた お前みたいな男も世の中にはいるんだな。いや、"いた"か」 ヴィンセントが横目で睨んだが、スコールはそんな反応も楽しんでいるようだった。 ヴィンセントとスコールが並んで歩く姿が、クラウドには酷く…身を蝕むほどに羨ましかった。 そして理解できなかった。 完全ジェノヴァ体となったヴィンセントにとってスコールは直ぐに老いて死んでいく存在。 そう遠くない未来、必ず我々は取り残される。 なのに何故こんなに距離が近いのか。 スコールがいなくなった時のことを考えないのか?怖くないのか? 嘗ての、例外なく誰とも距離をとるヴィンセントを知っているだけに分からなかった。 一度広間に出て、中心のエレベーターから放射状に伸びているレーンで図書室の隣のレーンに入った。 「クラウドくん。今日この後、街に出るなら知っておいてくれ この世界は2年弱前まで魔女によって支配弾圧破壊が繰り返されていた 今はその魔女がいなくなって世界中で急速な復興が行われている だから俺達のような傭兵・SPの需要は高い。まだ治安も良くなっていない地域は多いし混乱もしているからな だが逆に人々はそれまで受けていた暴力や破壊、力による弾圧を深く憎み怯えてもいる その象徴でもある俺たちは必要とされてもいるが、深く憎まれ怯えられ蔑まれてもいる だから君が街に出る時は俺達と繋がっている事は一切隠した方がいい。トラブル回避のためだ もしガーデンと繋がっているように言われたら、ウチの"客"の一般人で通してほしい 今はガーデンも変革期前で何かと慌ただしいから、そう言い切れば通る」 「.........わかった」 クラウドの世界では傭兵は重宝されこそすれ、憎まれるなんてことは無い。 昔のソルジャー達の功績が大きかったのもあるし、この世界よりも遥かに世が荒れているのもあるだろう。 傭兵の力は人々を安心させる。必要なのだと皆知っている。 だから戦闘の無い日でも戦闘服を着たままでいる事にも、大剣を持ち歩くことにも疑問を持っていなかったし支障も無かった。 なのにこの世界では、こんなモデルの様にカッコイイ男がそんな身勝手な差別にあってるのだろうか…それにしてはどこから見ても軍高官服を物凄く堂々と着ているが…なんでだ?ガーデン内だからか? クラウドには目の前の完璧にカッコイイ男が街中でいわれのない差別を受ける姿が想像できなかった。 「さて、ここは訓練所。兵士のレベルに合わせてバトルのシュミレーションができる あくまでもシュミレーションで、ここのモンスターを倒せばバトル経験値は入るが、依頼を受けての仕事ではないから金にはならない その代わりモンスターレベルも100までなら自在だし出現数も種類も自分で決められる、ランダム出現もある やっていくか?やるなら施設の物でよければ武器は貸すが」 「いい、今更LV100を倒しても大して経験値にならない」 大空洞奥はLV130以上LV190以下のモンスターばかりと戦っていたクラウドにとってはLV100など今更なものだった。 驚くスコールに気づかないままクラウドは周囲を見回していた。「さっきから思ってたんだが、この学校?新しいよな?いつの開設なんだ?」 「2年弱前から各部署ごとに建て替えてる。一度学校の建物自体が壊れたしオーナーも校長も変わったし、学校の形態も変わった バラムガーデン自体の開校は14年前だ ところでLV100が経験値にならないとは、君の星ではそんなに凶悪なモンスターがウヨウヨしているのか?」 スコールには全く悪気は無かったが”お前がそれを言うか?”とクラウドの眼が据わった。 「昨日言ったろ ア・ン・タ・らが俺の星に際限なく送ってくれたLV100モンスターたちが着いた場所は、特殊な力のあるフィールドだったんだ そいつらが共喰いを繰り返して生き残ったモンスターは際限なくLVが上がって行って、誰も対応できなくなったところに俺が行った 最初は俺も何度も戦闘不能になったが、結局そいつら一つ一つを倒して今になった。 おかげで今の俺の戦闘LVは192だ!」 「…192…………見えない」 率直すぎるスコールの言葉にさすがにクラウドもムッ!とした。 傭兵業を35年もやっていれば今更小さな事にはこだわらない。だがクラウドにも琴線はある。 何十年経とうとも、何百回似たようなことを言われようとも、見た目を指摘されるのだけは大嫌いだ。 それが惹かれる人間から言われたのであれば尚更怒りに勢いがつく。 そこへ更にスコールは質問を重ねた。 「君は人間だろう?そもそもレベルは100以上になるのか?......うん?おかしいな?ディアボロスと仲間だったのならもう100歳とかとっくに超えてるはずだよな」 「スコール、私とクラウドは同じ召喚獣をジャンクションしているという意味で同族だが、私は一度死んで肉体を無くし召喚獣になっている時点で時の流れがお前達とは別物だ 今の私とクラウドを同じ括りで見るのは間違いだ」 「?」 ヴィンセントの答えにスコールは増々混乱した。 「アンタは体質に合わなかったんじゃなかったか?その埋め込む用の召喚獣が だから戦闘能力が高くても一般兵だったんだろう?それにディアボロスもその召喚獣を入れていないからタークスだったのだろう? それに合わないのを埋め込むと廃人状態になるのだろう?少なくともこっちの召喚獣ジャンクションはそうだが?だが今のは2人とも埋め込まれているように聞こえたが?……なんだ?」 クラウドがハッキリ敵意を持った目でスコールを睨んでいた。 それをスコールに問いかけられたクラウドだったが、無視して逆にヴィンセントの耳元に何か囁いた。 ヴィンセントは迷い逡巡していたようだがクラウドの怒りの表情に折れ、何かを囁き返した。 「お前の別れた女、魔女なんだろ? その女が暴走を始めたらお前が殺すのか?」 クラウドの悪意の反論にスコールを纏う空気がスッ...と冷えた。 無言のまま訓練所入口にある武器庫に歩いて行き、持っていた鍵で開錠すると中から両手剣を1本取り出し、クラウドに武器庫の中を見せ、言った。 「好きなものを選べ LV100のモンスターが相手にならないなら俺がなってやる レベル192がどの程度の者か俺が測ってやる」 そんなスコールをクラウドは鼻で笑った。 「測れるか? いいよ、やりたいなら相手をしてやるが武器なんかいらない お前程度の戦闘能力、素手で十分だ。あ、お前は使っていいぜ? 少しでも俺に傷をつけられたら褒めてやる ちなみに俺がソルジャーになれなかった理由はジェノヴァ細胞が合わなかっただけじゃない 神羅一般兵には上級兵と下級兵があって、俺は最後まで下級兵のままだった しかもその下級兵すら務まらなくて神羅に切り捨てられた最低の劣等兵だった! 来いよ!ガーデン総指揮官様のお前が!最悪の問題児だった俺にどこまで付いて来れるか! 全力で来ていいぜ!!」 無表情なスコールから闘気が立ち上り始めた。 対するクラウドからもユラユラと殺気が立ち上っていた。 『ディアボロス、お前にそのような芸当ができるとはな』 唐突に頭の中に響いた声に驚きクラウド、スコールが周囲を見渡すと、訓練所の中に設置された湖の中で何かが泳いでいた。 「……私ではない、クラウドが私をこの姿にしている」 ヴィンセントが湖面に向かって応えると、湖からの声は『その者、お前と同じ臭いがする』と答えがあり、姿を現した。 召喚獣リヴァイアサン。 表情など分かりはしないが、この世界のリヴァイアサンがヴィンセントと自分に敵意を向けているのをクラウドは感じた。 「……お前も俺の世界のリヴァイアサンと同じ匂いがするぜ」 クラウドが機嫌悪く言うと、湖の中の声は微かな嘲笑をもって答えた。 『私は彼、彼は私。同じだが、違うものである しかしお前とディアボロスは違うが、同 じ だ 』 「..................」 クラウドの瞳にハッキリと殺意が現れた。 「リヴァイアサン、何故こんな所にいる」 召喚獣フロアにいるはずの召喚獣が勝手に場所を移動している上に、会話が全く見えていないスコールが怒りを持って聞いた。 『ブラザースから伝わって来た。ディアボロスが人間に戻ったと 今、ここにいるのは私だけではない』 「............ここにいる召喚獣、姿を現せ!」 スコールが低い、明らかな怒りの声で言った。 すると木々や船や岩陰から姿を現したのは...『パシパエ』『ダイダロス』『ヨカナーン』どれもライト属性の若い召喚獣。 他にも召喚獣達がたくさん姿を現している気配がしたが、クラウドに見えたのはその3体のみだった。 注)パシパエ:ギリシャ神話ヘリオスの娘、ミノタウロスの母 ダイダロス:ギリシャ神話の工匠・発明家、イカロスの父 ヨカナーン:キリストを洗礼した洗礼者ヨハネ 『ごめんなさい、ディアボロスがとんでもなく美人になってるって聞いて...つい...』 『その男の世界にサイファ...』 「黙れ!」 ダイダロスの言葉をスコールが遮り最後まで言わせなかった。 だが召喚獣リヴァイアサンは黙らなかった。 『同じ”リヴァイアサン”でも私は彼とは違う。私は私の認めた者にしか力を貸さない』 既に殺意が宿っているクラウドを更に煽り続ける。 「そんなのどの召還獣でも同じだ!」 自分だけを嘲るのならともかく、いや、それも許さないが、共に戦い抜いてきた召喚獣たちまでも愚弄するのはクラウドは絶対に許さない。だが… 『言い換えよう、身体を汚した者には私は仕えない。お前とディアボロスからは同じ腐臭がする』 弾かれたようにクラウドが慄いた。 「リヴァイアサン!彼は俺の客だぞ!」 会話についていけず意味が分からないまま外野になってしまっていたスコールが、この時初めてクラウドに猛毒が射込まれていると知り怒鳴った。 『スコール、彼の正体は闇属性の半獣。人間ではない。お前が闘う価値など無い』 スコールが驚愕の表情でクラウドを見た。 リヴァイアサンから強く打ち込まれる猛毒、そしてスコールから向けられる驚愕の表情。 クラウドの弱った心を深く酷く抉った。 召喚獣リヴァイアサンがもう興味を失ったとばかりにまた湖の中に消えようとした時、 「待てよ」 青ざめたクラウドは痛みに耐えるように目を瞑っていた。 『事実だから何も言い返せまい、クラウドとやら せいぜい足掻くがいい 足掻いたところでお前がモンスターへ変化していくのを止めることなどできぬ おまえはそういう存在だ』 僅か時間が止まった。 突然クラウドの悲鳴がフロアに響き渡った。 「ハ――――デス!!!!」 その瞬間、フロアに雷鳴が轟き渡りフロア全体が闇の黒に染まり始めた。 「クラウド!!」 イキナリの強力召喚に驚きスコールが制止をかけたが既に遅く、訓練所フロア全体が紫色や黄色・黒・赤の禍々しい煙で覆われ、死の国の王ハデスが現れていた。 フロア全体にハデスの笑いが響き渡った。 『光の存在理由も知らぬ痴れ者め、闇に飲み込まれるがよい』 おどろおどろしい煙と共にハデスの姿が消えた時、湖のリヴァイアサンの姿も消えていた。 リヴァイアサンだけではない、そこにいた全召喚獣全ての姿が……カエル...小さい小さい...親指の先ほどのカエルが麻痺状態でたくさん色んな場所でひっくり返っており、木や空に留まっていた召喚獣達は上からボトボトビタンビタンと落ちてきたりもした。 究極ステータス攻撃「ミニマム・麻痺・沈黙・毒・カエル」、その場にいたガーデンの召喚獣達が残らずカエルに変えられた。 絶句するスコール。 見たこともない召還獣の見たこともないステータス攻撃。しかも全ての召喚獣にステータス攻撃が100%効いてる。 沈黙と毒は今までに何度も見てきてるし体験してきてるが、親指の先ほどのカエル...実体を持たぬ召喚獣達がカエルに...そして麻痺。 スコールは自分の召還獣達を元に戻すことも忘れて、隣にいるクラウドをマジマジと見た。 クラウドはリヴァイアサンだったカエルに向って苦しそうに、哀しそうに、辛そうに、今にも泣き出しそうに、だが言葉は怒りを向けていた。 「戻して欲しいか、リヴァイアサン!その醜くて!滑稽な姿から戻して欲しいか!! ならば!!俺に許しを請え!!闇の世界に堕ちた俺に!! 堕ちて、堕ちて、どこまでも堕ちていく俺に!汚れた俺に!戻してくれと願え!!許しを請え!!」 クラウドの悲鳴がフロアに響き渡る。 「簡単だろうリヴァイアサン!!ただ願えば戻れる!!貴様はただそれだけで戻れるんだ!! 何も無かった事にできる!!全てを元に戻せる!!」 蒼い蒼い...魔洸色の瞳からキラリ...キラリ...とダイヤモンドが零れ落ちる。 ...キラリ......キラ......キラ...パラリ...パラパラ...と床に零れて消える。 戻れない自分、進行してしまったジェノバ体。 醜い片翼。 堕ちてゆく、堕ちてゆく、どこまでもどこまでも...もう戻れない...戻れない。 誰も戻ってきてくれない。 どんどん堕ちて行く。 ただ独り。 何もかもが、通り過ぎて行く。 何もかもを、無くして行く。 奪われて行く。 唯、穢れてゆく。 ...キラ...キラ... もう人間ですらない......バケモノになっていく...止まらない... 納得なんかしていない。受け入れてなんかいない。でも、そうなっていく... 身体が勝手に...... ...もう...何もない、何一つ... 「オールクリア!」 スコールの浄化の光と共に、召喚獣達が一斉に元の姿に戻る。 スコールは激怒の表情でリヴァイアサンを睨みつけるが、プライドを酷く傷つけられ激怒状態のリヴァイアサンにはそれすらも届かず全身が湖より光を放ちうねりながら飛び出す。 「止めろ!!リヴァイアサン!!」 スコールが制止したが、流れ出した勢いは留まらずリヴァイアサンは滝をのたうちながら上昇して行く。 「テュポーン!!」 広い訓練フロア内に再び響き渡るクラウドの悲鳴。 強烈な竜巻が巻き起こる。 「クラウドもう止めろ!!光属性に闇を飲み込めと言っても無理な話なのだ!止せ!!他の召還獣を巻き込むな!!皆が同意見なわけではない!!関係ない者たちを巻き込むな!!」 ヴィンセントの必死な声もクラウドには届かない。 リヴァイアサンがテュポーンの竜巻に巻き込まれながら大海嘯を巻き起こす。 テュポーンがリヴァイアサンを大海嘯ごと彼方へ吹き飛ばし、天地を引っくり返しフロアごと全壊滅させる。 『思考の盲目に力は無用、光だけでは何も存在せぬ』 ガイアの最終破壊獣テュポーン...ほんの数分前まで...南国のリゾート地のようだったフロアが見る影も無く、ただの工事解体現場に成り果てている。 クラウドの人間の領域を超えた魔力。 簡単に…一度の召喚で全召喚獣をステイタス異常にした。一度の召喚で訓練フロアを全壊させた。 ……獣の証明……。 ...キラリ...キラ.........キラ...... スコールはクラウドのその……流れる涙をただ、見ている事しかできなかった。 …………キラ………キラリ……… どれほど心が抉られているか察しはついてはいても、触れる事はスコールにはできなかった。 その痛み、傷の深さを知っていたから、触れる資格は自分には無いと知っていたから…動けなかった。 「ディアボロス!どこでもいい!クラウドを連れて行け!!後で連絡する!!」 ヴィンセントがスコールから自分の携帯を投げ寄越され、クラウドを抱えて訓練所の秘密の場所から外へ羽ばたき出た。 訓練所内ではスコールの「皆、出て来い!無事か!?姿を見せろ!点呼を取る!!」天地がひっくり返され姿が見えなくなった召還獣達を一気に召喚する声が聞えていた。 スコールは召喚をかけながら、クラウドを初めてチョコボ以外、戦士として分析した。 『ハデス』は冥界の王 『テュポーン』は大地の神ガイアの最終破壊獣、両方ともこの世界では見たことも無いS級召還獣達。 それを従え、ガーデンの召還獣達はなす術もなく一斉に巻き込まれた。 実体を持たない召喚獣達がステイタス攻撃をマトモに喰らった...。 あれは魔力が強力というだけじゃない。何か根本的に違う。 恐らくこの世界では彼に敵う者などいない。 誰一人として。 酷く悲しい瞳をしたスコールの口元には微笑みが漏れた。 「彼になら託せる」 隣人9 NOVEL 隣人11 |