迷い子9 セフィロスとクラウドは先に行ってミッションを進め、元Seedメンバーはキロスに血清を打つため来た道を戻る二手に分かれた。 血清は間に合ったがキロスの体力消耗が激しく暫くは安静にして体力が回復後、連絡し再合流することにして、Seedメンバーは先行組のセフィロス達を追いかけた。 その道すがら…… 「キスティス、ごめんなさい!私、酷い事いっぱい言った!」 許してください!とセルフィは頭をガバッと下げた。 「私やあの人たちの持っていた情報は説明のしようもないものだったし、スコールが死んだのも本当だったから… こちらこそごめんね?惑わせるような態度しかとれなかった でもクラウドにはちゃんと謝っておいてね?あの人、戦闘はプロだけど中身はデリケートな人だから」 セルフィも同意した。 「あの人、私がブチ切れたら作業止めて私の方ちゃんと向いてた こんなこと言ったらアレやけどあの人、やたら素直いうか……スレてないな」 アーヴァインが応えた。 「『傭兵』って言ってもクラウドは僕らとは違う特殊な環境にいたはずだよ~ 生れて直ぐ集団生活に突っ込まれた僕らとは真逆、人との接触が極端に少ないけど特定の人とは密接に、色んな事から目隠しをされて戦闘能力だけ伸ばされてきたと思う だからあんまり自分の事が分かってなくて、色んな事に無防備なくせに全部一人でやろうとする 逆にセフィロスさんは人を使うのに慣れてる。生粋の軍人育ちだとは思う ただし僕らの知ってるどの組織でもない、知る人も少ない完全に裏の組織の、しかも管理職の人だ セフィロスさんとクラウド、それとスコールの3人の共通項は、超人的戦闘能力と僕らとは存在が根本的に異質なところ スコールはママ先生の所にいた頃から特別な子だったし、成長するとどんどん僕らとはかけ離れて、今じゃ世界の英雄 セフィロスさんもクラウドもそういう異質な人だったはずだ なのにさ、僕らは彼らを全然知らないんだよね~ おかしいよね? あれだけの特別な能力や資質があるんだ。今まで無名でいられるわけがない 今回の仕事1つとってもそうだ、生きて帰ったら彼らは少なくとも僕らの世界では一気に有名人になる STARSがゲスト傭兵のままで終わらせるわけがない。エスタだって絶対に放ってはおかない。多分看板の無くなったガーデンも動く なのに彼ら…どっちかっていうとクラウドは僕らとはかけ離れた実力をそれほど隠そうともしてない ん~、特別だっていう自覚がない…って感じかな? だって僕ら見たことも無い魔法や技をフツーにバンバン使ってるし、逆に僕らの魔法が使えないんだろ? なんーんか…ねぇ~…彼ら、まるでどこかの異世界からポーンと突然飛んできたみたいだ」 お手上げポーズで「そんなわけないんだけどさ~」と、アーヴァインが2人に言うとセルフィは「うんうん!」と頷き、キスティスからは何のリアクションもなかった。 それを見て取ったアーヴァインはキスティスが2人の出身について、やっぱり何か知ってるな…と読んでいた。 キスティスは内心、(ほら!もうバレてるじゃない!クラウド、甘いのよ!)と、死にそうになっていた。 「あ、ほんでや、つまるとこスコールはどぉなっとん? なんでスコールはあんなことになってるの?元々ギガイケメンが、ちょお見ない間にごぉぉっついことになっとって… 最初見た時、なんでこんなトコにマネキンが立ってんの?って思ったわ」 「そうね、私も驚いた」 そしてキスティスはスコールの身に起こった事を、サイファー関連を省いてアーヴァインとセルフィに説明した。 「ハンチョ…どーも人間離れしてると思ってたけど、本当に人間じゃなかった……ってどんなオチや、それ!」 キスティスの説明を大人しく聞いていたセルフィが嬉しそうに笑い、そして… 「でも生きててくれた!あ、死んでるか。やっぱタダモンやない!さすがハンチョや!」 もっと嬉しそうに飛び跳ね笑った。 「スコールさぁ、安心して死ねとか言ってたよね~」 アーヴァインも嬉しそうに言った。 「言ってたねぇ。全く…」 言葉ではスコールの無神経非常識発言に突っ込んでいたが、言いながらも微笑み合う元Seed3人の気持ちはそれぞれに 満たされていた。 幸福だと。 命果てる時、共にいてくれる人がいる。 それだけでいい。 こんな真夜中に、最低な場所での最低な仕事。 普通の生活をしていたのなら一生知ることのない世界。 喉ももうカラカラに乾いて口の中が気持ち悪い。 覚えのある感覚。 もう少ししたら喉の奥から乾いてきて断続的な吐き気に襲われる。吐かずにはいられなくなる。 そして吐くけど胃の中に何も入ってないから胃液ばかりが出てきて頭が痛くて胃液でやられた喉も痛くて声も出せなくなってきて膝に力が入らなくなって立っていられなくなる。 それでも渇きと吐き気が収まらない。 今までに何度も何度も何度も経験した。 今だって…言葉にするのも汚らわしいモノが服に髪に飛び散り最悪に汚れて自分が臭い。 もう周囲のゾンビと見分けがつき辛い汚らわしさだ。 忌み嫌われる仕事、人種。それが私達。 それでも今、幸福に満たされている。 生き残るために戦い続けてきた。人を殺してきた。モンスターの中で生きてきた。 敷かれたレールは畜生道だった。 これからだってそれしかできない。 でも慰めなんて必要ない。 だって スコールがいてくれる。 マトモな死に方はしない覚悟はとっくにできている。 だからこそ死は怖かった。分かっているから怖かった。 その時が来るのが怖かった。 …酷い拷問の末に死、死体を野晒しにされ、野犬に喰われ、切り刻まれ海の底に沈み、バラバラの白骨化 そうなったとしても それでも 死んだその先にスコールがいる。 私が、僕が、この世界で生き抜いた事、戦い抜いた事、そして死んでいくことをスコールが知っていてくれるのなら それでいい。 それだけでいい。 生き抜ける。 死に場所、見つけた。 「ところでこの話はここだけの話にしてね。少なくとも召喚獣達の姿が見えるようになるまでは。でないと無駄に面倒な事になる」 「そだね。あ、でもリノアはどうなったの? アルテミシアになったリノアは死んでしまったけど、時間を越えてハインが改めて入ったリノアは? 時間のリングを超えてきたハインはハンチョが喰ったんだよね? 解放されたリノアは?どこいったの?今も行方不明だよね?」 「さあ、、私もあれ以来今が初めてスコールと会ったから……」 スコールや召喚獣の件でいっぱいで、リノアの存在を忘れていた事をキスティスはこの時初めて気がついた。 が、その心配は自分がすることじゃないわね、と簡単に切り捨てた。 魔空間で見たリノアの慟哭。 あの時は動揺していて抵抗なかったけれど、後々冷静になってみればカナリムカついた。 たったあれだけの2人の場面で、どれほどリノアがスコールにベタベタに甘えていたのか透けて見えた。 ギガスペックイケメンは世界の財産なのよ! なのにあの雌はベタベタと甘ったれて独り占めしてマーキングして!とんでもない!許されない事よ! スコールのことだからその後はリノアを助け出しているだろうけど、その先のリノアなんてどうでもいい、知りたくもない。 知ればどうせ不快になる。 ………と、いう考え方が決して人様に受け入れられるものではないと知っているキスティスは、それ以上は何も答えなかった。 「セフィ、それはスコールとリノアの事だから僕たちは知る時が来たら知るよ。その時まで待てばいいんじゃない? 結局僕たちはスコールの事もリノアの事も何も分かってなかった 僕ら、リノアが議員になった時にけ~っこう見放したよね。フザケンナって そんな僕たちがこれ以上聞きたがったらダメだと思う」 「…頼りにならなかったのかな、私ら。……教えてくれてたら……」 「多分あの2人はお互いだけで関係が閉じてたんじゃないかな~? 元々スコールは人に相談するなんて選択肢は無い人だし なんとな~くだけど、リノアは2人の間に人が入ってほしくなかった…んじゃない? リノアってさ、結構独占欲強いっていうか~、嫉妬する体質だったんじゃない~? ホラ、グループの時も何だかんだ無理矢理理由をこじつけていつもスコールの隣に来てたでしょ。移動の時も」 「あー…せや、せやった、別の班にしても突っ込んできて喧嘩売って… おかげでスコールがいっつもイライラ不機嫌で空気最悪で、私ら往生したわ」 「そうそう、でもそういうのも全部リノアの計算だったと思うよ~? だって僕ら、スコールの不機嫌と、隙あらば放浪に出ちゃって帰ってこないのに困り果てて、せめて不機嫌の原因だけでも解消しよう~って、2人を仲良くさせる協力までしたじゃん、皆でさ まあ、結果は酷いものだったけどさぁ でもああいう計画に素直に乗っかるリノアは……あれは天然じゃないよね~」 アーヴァインの中では確信になっているようだった。 「あれはなぁ…、苦い思い出やわ…。あれでスコールのリノア嫌いがはっきり確定してもうた…」 「でもあれはあれでリノア的には成功だったんだよ~。だってスコールはそもそも他人にあまり感情を動かさないマイペースな人 そんな人が他人に『大嫌い』なんて感情を持ったらさぁ、『大好き』になるのは簡単だね 天才とキチガイは紙一重、大嫌いと大好きも紙一重~ 実際にその後、そうなったよね」 「むむぅ~確かに…、あの態度のひっくり返りっぷりにはビビッタな…当時は同一人物とは思えんかった…」 「……あれから3年も経ってないのに、なんだかずいぶん昔の事のように思えるわ」 キスティスの呟きに、アーヴァインもセルフィもそれぞれ小さく頷いた。 その頃セフィロスとクラウドは猛スピードでミッションを進めていた。 とにかく時間が無い、少しでも先に進めておかなければ自分達はともかく元Seedメンバーの体力が加速度的に落ちてきている。 中庭奥から延びていた地下水道へ入って行ったが、地下水門の管理人のIDカードを胸ポケットに入れた男が頭を打ち抜かれて死んでいた。 その男をチェックすると懐に蜂の巣の中にあったノートや、配電室で見つけたメダルと似たものを持っていた。 それを収得し、更に地下水道を奥深くへ降りてゆくと、行く手を遮断するように高い位置から落とされる水量の多い滝がドドド…と視界いっぱいに爆音と地響きを立て落ちていた。 だが落ちる水の音でその先に道があるのが分かる。 ここが『水門』だ。 滝周囲を調べてみると手前のコンクリート壁に小さな金属板が張り付いており、その板を横にスライドさせると、先ず手元を明るくさせるスイッチが現れ、電源を入れると丸い形の窪みが3つ並んで点された。 窪みの形や大きさは…ハチの巣のノートのメダル、配電室のメダル、そして水門の管理人のメダルと合致する。 それぞれ3個所に手に入れたメダルを入れてゆくと、それまで爆音と地響きを立てて落ち続けていた分厚い水の壁がどんどん薄く静かになってゆき、数十秒とかからず一切のサイレントと共に滝がピタリと止まり、その奥に新たな道が現れた。 だがこの頃、クラウドはセフィロスに言葉にできぬ不審に近い違和感を感じ始めていた。 …まるで別人なのだ。 クラウドの知るセフィロスは復活以来、何を言ってもしてもシツコクゴキゲンにまとわりつく鬱陶しいセクハラ野郎だった。 しかし今のセフィロスは真逆…纏う空気が冷たく、パーソナルスペースを広く取り、仕事以外の全てを切り捨て凄い勢いで侵攻している…まるで昔の英雄時代を見ているようだ。 確かに状況はひっ迫しているし、何の間違いでかセフィロスが真面目に仕事をしているおかげで、これまでとは段違いの攻略速度になっている。 たが、…これは…………違う。 クラウドがいるのに視界に入れようともしない。 侵攻に集中するあまり存在を忘れているとかではなく明らか、意識的にクラウドを視界から外している。 あのセフィロスが。 英雄セフィロスが復活しミッション状況は劇的に好転したのかもしれないが………本当に好転しているのか? このセフィロスは大丈夫なのか? クラウドは言葉にできないまま、ただ戸惑っていた。 水門の向こう側のドアを抜けると地下に向かう荷物運搬用のエレベーターがあった。 それを使い下へ降り始めると少し浸水した地下道が見えてきたが……その壁には人間と蜘蛛が混ざったような、全身ケロイド状態のモンスターが2体へばりついており、エレベーターが降りきる前に降り飛びかかって来た。 だがクラウド、セフィロス共にそんな事態は予測していたため、しゃがんだ姿勢でスタンバイし、飛びかかってきた蜘蛛人間をそれぞれ1体ずつヘッドショットで仕留めた。 直ぐにセフィロスは仕留めた初見のモンスターの遺体を観察し始めた。 ……元のセフィロスならば分析しつつ、クラウドが嫌がろうとも情報の共有をしていた。噴水の部屋の大蛇を推理した時のように。 今目の前にいる見慣れぬセフィロスに、クラウドは思わず”どこかで実は感染してしまっていてゾンビ化が始まっている?”などと疑ったりもしたが、血色は悪くはない。 そもそもセフィロスの存在自体が反則級モンスター。こんな場所でゾンビごときに殺られるようなタマではない。 …でもおかしい。絶対におかしい。何かがセフィロスに起きている。 確信していても、そこから先を結論に結び付ける能力はクラウドには無かった。 1本道の地下道の所々には大きなコンテナが何個か置いてあり、コンテナの間を縫うように進み2つ角を曲がると…道が無くなっていた。 壁ではなく、幅10mくらいの水路が突然始まっており、足場になるものがどこにもない。 泳がなければ向こう側の通路に辿り着けないが、水路の中は不透明な深緑色の液体で満たされている。 そして例によって水面がゆらゆらと不気味に揺れている。 それでもセフィロスとクラウドだけならば10mくらいは飛び越えられるが、Seedメンバーはそうはいかない。 何か策を練らなければ……と、クラウドがそう考える間もなく…… セフィロスは来た道を戻り、途中地下道に置いてあったコンテナをぐいぐいと押して来て、水路に落した。 大きな水飛沫音を立ててコンテナは落ちたが、その天井部分がちょうどイカダの様に水面に浮かび上がって来た。 セフィロスはまた同じように通路のコンテナを押してきて落とした。 クラウドも無言で手伝った。 通路にあったコンテナを全て落とし終わると、コンテナの天井で向こう側へイカダの橋ができていた。 先にセフィロス、続いてクラウドがコンテナで作った橋を渡り始めた時、突然大きくコンテナが揺れ、深緑の液体の中から体長が8mは超える巨大な鰐のようなものが出現した。 セフィロスはそのまま走って向こう側に渡り切ったが、鰐はイカダを一旦引き返そうとしたクラウドの方へ勢いそのまま追いかけてきた。 クラウドは逃げながら懐に持っていた、アーヴァインの見つけたプラスティック爆薬を鰐が口を開けた瞬間に投げ入れ、コルトS・A・A連射で信管代わりにし起爆させた。 その威力は思っていた以上に凄まじく、巨大な鰐は頭と体半分くらいが粉砕しどこに行ったのか分からず、残りの尾に近い腹辺りが爆発して鰐の開きになっていた。 地下水路辺り一面、ゾンビ鰐のヘドロの様な血肉と深緑色の正体不明の液体でベトベトに塗れた。 勿論そこにいたクラウドもセフィロスも同じように汚れた。 クラウドがセフィロスを見ると、セフィロスもクラウドを見ていた。 暫く何の言葉も無くクラウドを見ていたセフィロスだったが、少し困った様に笑うと、一人そのまま先に進んで行った。 ......何だアレ? 本当に見たことないセフィロス。 何だアレ? 何だアレ? 完全に困惑してしまったクラウドのところへSEEDメンバーが走ってきた。 「ギャーーッ!なにこれ!!…う…クサ、酷いなぁ…。クラウド、大丈夫?」 アーヴァインの問いかけにクラウドが我に返った。 「あ、アーヴァイン。プラスティック爆薬使った モンスターは退治したんだが、向こう側に渡る道も無くなってしまった。悪い」 と、渡る筈だったコンテナも一緒に吹き飛び粉砕解体されてしまったので道が無くなっていた。 「セフィロスさんは?」辺りを見渡しキスティスが聞いた。 『先に行ってる』とクラウドが答える前に、通路の向こう側からマグナムとリボルバーを連射する音が聞こえてきた。 「アイツは大丈夫だから、とりあえずここを渡る事を考えよう」 落としたコンテナが人間の身長くらいの大きさで完全に沈んだところをみると、水深はかなり深い。 深緑色の液体も中庭の黒い水とは違ってはいるが、ゾンビモンスターも出てきたことからマトモなものじゃない。この中を泳いでは渡れない。 「てか、クラウド、ここの水だいぶ浴びちゃってるけど大丈夫?」 セルフィが心配そうに聞いた。 「俺もセフィロスも浴びてる。ヤバイと思ったらどっちも離脱する 今はとにかくミッションを進める方が優先だ」 そう言いながらどこかに渡れるような何かは無いかと探しているとキスティスが「…私、できると思う!」と言いながら懐からロングウィップを取り出した。 バラリと鞭部分が床に落され、キスティスが手首から腕、腕から肩、肩から全身を使いヒュン!ヒュン!と自在に回転させながら鞭に命を吹き込んでゆく。 まるでその鞭が一つの生命体の様に自在に回転しながら方向を変えながら、大きくうねりながら!天井の梁部分に向かって行きクルクルクル!と絡み巻き付いた。 「最初に私がやって見せるから同じようにやってね。順番はセルフィ、アーヴァイン、クラウドでいいわね 向こう側に渡ったらグリップ部分を送るから受け取って」 「……うまいもんだな」 思わず感心したクラウドが言うとキスティスが「こんなの初歩の初歩」と微笑んだ。 そして鞭にそのまま体重をかけ、向こう側へ慣性の法則によって飛び移り、グリップをこちら岸のセルフィに「受け取って!」と、送ってきた。 そうやって4人渡り切り、最後に渡ったクラウドがキスティスにグリップを渡すと、それまでシッカリと巻き付いていた鞭がキスティスが2回撓らせただけでパラッと解けて手元に戻ってきた。 まるで生き物のように緩急強弱方向自在に動く鞭にクラウドが感動していると… 「人間相手の時は鞭は無敵よ コンパクトに隠せるし一振りで複数攻撃も絶命させられるし、今みたいに色んな使い方もできる 手持ちが無くても現場にロープの一つでもあれば武器になる ただ今回みたいな場合は本当にダメ、最初っから絶命してるんだもの 頭を吹き飛ばすのが一番有効なんて…酷いわ」 セルフィと同じく自分の武器に惚れこみ自信も持っていたキスティスだったが、ウィルスに汚染された死体が相手ではどうする事も出来なかった。 「せやで!ヌンチャク、だって対人間だったら、スッゴイ武器になんねん!粉砕骨折ヨユーや! ケド、ここの奴らは骨折、させたってもボキボキゆわせながら...迫ってくんねんもん。もう最っ低や!」 喉の渇きが限界を迎えているようでセルフィが怒りながらも、少し言葉が痞え始めている。 そこまで渇いてるならもう黙っておけよ…とクラウドは思ったが、また下手な事を言って激怒されたら厄介なので好きにさせておくことにした。 突然大きな爆発音と建物を揺るがすほどの振動と爆風が伝わってきた。 「行こう!」 地下水路を曲がると皮膚を持たない4足歩行の人間のようなもので足の先が鋭く大きな爪になっているモンスターが頭を失くして3体、もう一つ角を曲がったところに3体いた。 斬り離された切り口が一閃である事、吹き出している体液が多いにもかかわらずセフィロスの足跡がどこにもない事から、無駄な動きの無い通りすがりの一閃、鮮やかな始末だったことが見て取れた。 モンスターをチェックしていると、離れた場所で短銃の軽い音で20発くらいの連射の音が聴こえ、一拍後また連射音が聴こえてきた。 「セフィロスさん、銃の腕前も凄いね。剣も凄いけど…」 セルフィが言うとキスティスもアーヴァインもそれぞれに同意していたが、クラウドは会話に加わらずそのまま先を歩いていた。 「無視すんなー!」 セルフィが追いかけてきてクラウドを叩き、言った。 「…俺?」 「そうだよー。クラウドに言ってたんだよー クラウドー、もしかして私さっき、酷い事いっぱい言っちゃっ、たから怒って、る?」 セルフィが歩くクラウドの前にまわって後ろ向きで歩き始めた。 …………セフィロスがモンスターを退治した後とはいえ、こんな危険地帯で信じられない無防備な歩き方だな。 クラウドは内心思ったが、もしかしたらこの子は危険察知を自分に丸投げしてるんだろうか、だからこんな歩き方をしてるのか?と、思いつき、多分そうなんだろう。STARSに入隊する能力がありながら今こんな場所でこんな歩き方をしているのは…全面的に信頼しているからなのだろう。 甘え上手な子だな…と感心した。 だがセルフィは既にレッドゾーンに入っている。 キスティスも自覚症状が出ていて、それをうまく隠している。 ゴールが見えていないのに余裕を持たれても困る…が、また下手なことを言って爆発されてももっと困る。 とりあえずコイツラを生きて返すのが自分の任務だと、クラウドは覚悟をした。 ミッションが終わったらスコールに会うのだ。 スコールの仲間を死なせてしまっていては会うに会えない。 「怒ってない。惑わせてるのは自分でも分かってた」 セルフィは手を後ろで組みながら、変わらずクラウドを覗き込みながら後ろ歩きを続けた。 「セフィロスさん凄いね!仲間なんでしょ?で、セフィロスさん、どうして急に物凄く急ぎ始めたの?」 「仲間なんかじゃないし俺はアイツを凄いとは思っていない でもアンタラの体力はもうリミットがかかっている。急ぐのは当然だ」 そう言いつつクラウドにもセフィロスが急にエンジンをかけた理由が分かっていない。 「クラウドって、セフィロスさ、ん、分かり易く嫌いだよね。どうして?」 「…………」 唐突に無邪気を装った質問だったが、周囲をチェックする素振りでクラウドは質問を無視した。 角を曲がると少し開けたようなスペースがあり、そこには先ほどクラウドが退治した巨大鰐と同種のものが同じように頭を吹っ飛ばされていて、辺り一面に肉や血や脳髄が飛び散っていた。 「すごいね……これ、アレを咥えさせて撃ったんだろうね。さっきの爆発音、これだね」 広間の隅に数本立てかけてあった2mほどの大きさの業務用プロパンガスを指して言った。 「あんなのどうやって咥えさせたのかしら…」 キスティスの疑問にアーヴァインも「持ち上がんないよね~」と同調した。 クラウドは内心(普通に持ち上がるし投げられる)と思っていたが黙っておいた。 「アレかなぁ……ドーン!倒してー、ゴロゴロゴロ~!転がしてーワニくんの口の中にストラーイク!バキューン!」セルフィが銃を撃つマネをした。 「あ、そっか、そうね。すごいわ…そういうのきっと瞬間で判断してるのよね ていうか今回私達とっても楽してるわね。イイとこ無しね」 「うん。とりあえず得意な武器も魔法も封印状態がキツイね」 キスティスとセルフィが頷き合った。 キスティスでなければピアノの仕掛けは解除できなかったし、セルフィはたくさんの部屋の鍵を解除して回った。 そういうのはカウントしないのか?とは思ったが、それを口に出せばただでさえもお喋りなコイツラにネタを提供するだけだからとクラウドは黙っていた。 が、そんなクラウドの思いも虚しくレッドゾーンに入っているキスティス達の話は続いた。 「あの配電室は特に凄かったわ! あんな身動き取れない場所でお互い声もかけあってないのに動きが重ならないように一気に片付けていくんだもの 嫌ってても連携プレーはさすがね、クラウド!」 「…あんなの連携しなくてもどうとでもなってた 本当はアイツ一人で対応できる仕事だった。だから俺は途中で抜けた てか、もう喋るな。補給は無いぞ」 「分かったわ。ごめんなさい でもあなたとセフィロスさんの実力はこの星の誰をも凌駕してるって自覚しておいてね?」 キスティスが少し残念そうに言った。 が、それを聞いていたアーヴァインとセルフィ。 『……この星?…の?』 ??何か言い方、変じゃない?と、声には出さず視線で語り合った。 「わあ!凄い!」 通路を曲がると無数のカラスが撃たれて落ちて躯の道を作っていた。 「…セフィロスさんの両手撃ちも半端じゃないね~、全然外してない ヤバイ~僕、銃の腕で負けてるかも…」 と言いながら唯一、セフィロスがブチ切れている理由を察しているアーヴァインは、そのキレっぷりに背筋が寒くなった。 カラスの数が多すぎて弾が無駄になるから逃げろと言ったのはセフィロス。 だがきっと今はカラスがいればいるだけ打ち殺すのだろう。 そして弾が無くなれば捕まえて握り潰してでも殺す。かもしれない。 今はセフィロスの視界にだけは入りたくない、アーヴァインは思っていた。 扉があり、開けるとすぐそばにセフィロスが立っていた。 そして前方左側には天井から床まで貫いた太い円柱、恐らくその中はエレベーターなのではないか?があり、その周囲が透明な液体で満たされており、回遊プール状態になっていて、その中では明らかに凶悪な攻撃型の魚モンスターが数匹泳いでいた。 その回遊プールを渡った向こう岸には操作パネルがあり、尚且つカードを通す場所もあり、半分水没した扉もあった。 こちら側には少しだけ立つ場所があるが、向こう岸には何もないため液体を抜かない事には扉を開ける事も出来ない。 つまり円形プールを渡って行き、向こう側のパネルを操作しなければならない。 問題なのはプールの液体は透明であっても波紋の出方が水とは明らかに違う。モンスターが生息しているような正体不明の液体であること。 しかも液体に浸かってしまうと銃が使えなくなる。 そして何匹いるのかも分からない回遊プールの中の魚型モンスター。 そう考えているうちにセフィロスが魚型モンスターをその場でヘッドショットし始めた。 たちまち水がモンスターの血で赤く染まっていく。 撃ち終わるとセフィロスは銃3丁をアーヴァインに「持っていてくれ」と渡した。 「ぼ、僕ですか!?」 やべぇ!僕を巻き込まないでよぉ!…アーヴァインは半泣きだった。 撃たれたモンスターたちの血が広がってゆき、共喰いが始まり、わずかな時間で透明だった回遊プールが内蔵等が浮かぶ真っ赤なプールへと変貌し、水面はバッシャンバッシャン!と狂ったように波打っている。 暫く待ち、水面が落ち着いた頃、セフィロスが迷いなく飛び込んだ。 「カードをくれ。向こう側まで渡る。途中モンスターが出てもお前たちは撃つな」 『何故?』と、疑問を持ちながらも質問を許さない雰囲気がセフィロスから出ていたので、キスティスは黙って赤いカードを渡した。 受け取るとザバザバと水を掻き分け進み始めた。 血のプールはセフィロスの胸の辺りまであり、銀髪の髪がモンスターの血色に染まってゆく。 回遊プールの中心辺りまでセフィロスが来た時、周囲に波紋が近付き始めた。 「あ…」セルフィがその存在をセフィロスに知らせようとしたところ、クラウドがその肩を叩き、唇に人差し指を当て黙るように指示した。 波紋は3種、セフィロスの周囲を廻り始めた。 セフィロスの歩みが止まった。 波紋の円はどんどん小さく早くなっていく。 セフィロスが腰を落とした。 肩まで血のプールに浸かったかと思うと一気にブラックソードが閃き、水面が盛り上がり、たった今斬られたモンスターの割れた身が見え、振り切られたブラックソードの剣先から斬られたモンスターの血が壁に一線に迸った。 一瞬後に血の色だったプールの色が更に濃くなりドロドロとした液体が溢れ出し、するとセフィロスはプールの底を蹴って飛び上がり、中心側の円柱の壁を蹴り更に高く飛び上がると、そのセフィロスを追ってモンスター魚が水面からサメの様な鋭い牙だらけの大きな口を開けて飛び出してきて、ところがセフィロスは円柱に続きプール外側の壁を蹴りさらに高く天井近くまで飛び上がりそこから水面に顔を出したモンスターの頭にブラックソードを一気に突き刺し、更に突き刺したまま回転させモンスターの顔を真っ二つに割った。 残り1匹いると思われたが、それは1匹目、続いて2匹目の肉を喰うのに忙しくセフィロスは眼中にないようだったのでセフィロスもそのまま向こう岸に渡り切った。 そしてパスコードを入力すると、部屋に満たされていた水が一気に引いて行った。 水が無くなった事で残っていたモンスター魚がビチビチと魚の肉の海の中で跳ね上がっていたが、それはもう放っておいても死ぬので放置した。 セフィロスの全身はモンスターの血で真っ赤に染まっていた。 皆が液体の抜けた回遊プールに降りて向こう側に渡った。 セフィロスのすぐ後ろにキスティス、その後ろにセルフィと並んでアーヴァイン、最後にクラウドがいた。 セフィロスがカードをスキャナーに通すと扉が開いた…途端、「避けろ!」と叫びながらすぐ後ろにいたキスティスをセフィロスが抱えて横に飛び避け、クラウドが前にいたセルフィとアーヴァインの襟首を掴み後方にジャンプしたが、伸びて来た触手が2人の足を捕らえそうになったのが見え、持っていた襟首を更に強く引いて2人を後ろに投げ飛ばした。 しかしその反動でクラウドがその場に留まってしまい伸びてきた触手に足を捉えられ、そこから一気に全身に巻き付かれ、開けたドアの向こう側に引き摺り込まれた。 セルフィとアーヴァインの無事は確認できたが、その触手には強力な麻酔効果があるらしく意識がスウッ…と落ちるように抜けかけたが、マズイ!これはヤバイ!と、意識と力を振り絞り剣を触手に突き立てたが、まるで鉄の様な材質で剣が入らず、ライフルで撃ったが浅く傷をつけるだけで弾が跳ね返された。 そして振り絞ったクラウドの意識は途絶えた。 真っ暗な世界に溺れる中、誰かが呼んでる声が聴こえ起き上がろうとしたら何かに抑えられた。 「まだ寝ていろ。2分経てば起きて良い」 声に聞き覚えがあり、目を開けると覚えのない場所...恐らく医務室に寝ていて腕には針が刺さっており、そこから赤いチューブが伸びて、そのチューブを目で追って行けば...セフィロスの腕にも針が刺さっていた。 ......え...... セフィロスとの間に繋がっているチューブの赤は血………。 これは輸血………。 セフィロスが血を流し込んでいる。 ………え…… セフィロスの血…… 「…………ジェノヴァ……」 声に出してみたら酷く擦れていた。 …この血はリユニオンする側の血だろ… 俺はリユニオンされる側……これってどういうことだ? 関係ないのか? 「お前は危険な状態だった。奴らの血を貰うより私の方が安全だ」 「何が…」安全だ 「お前は私の細胞から創られている。私の血が最も安全だ」 「?」 ……セフィロスの細胞?から…創られてる?…? どれくらい輸血したのか、セフィロスの顔色が悪い。 さっきまで血のプールを渡っていたから全身血だらけだったはずなのに、セフィロスも自分も着替えてサッパリしている。 何があった? 「知らなかったのか?宝条がお前に施していた実験はジェノヴァの細胞を使ったジェノヴァプロジェクトではない 私の細胞を使った私のリユニオンプロジェクトだ 実際お前はジェノヴァ本体の影響は何も受けなかった、だが私の影響は大きく受けただろう それが宝条がやった事の結果だ」 お、俺が……セフィロスから創られている…!? 確かに当時から違和感はあった。 セフィロスの意思にはどうしても逆らえなかったが、その大元のジェノヴァはどんなに形を変え何度出てきても大した敵ではなかった。 ジェノヴァはセフィロスの上位の筈なのに弱い、とは思っていた。 まさかその原因が…… 大きく動揺するクラウドに、貧血が酷いのかセフィロスは少し間をおいて言った。 「我々はこの星では不死ではない 不死が成立していたのはライフストリームと古代種が存在したからだ この星にはそのどちらも無い ただジェノヴァ細胞が不死なのは確かなようだからその先どうなるかはわからん カオスの様に肉体を失くしたジェノヴァ完全体になるかもしれんし、散った細胞のまま漂うかもしれん ひとつ言えるのは今までの様な短期での完全復活は無い、死んだら人間としてのお前は終わりだと思っておいた方が良い」 この星で自分に終わりが来る…… 俺はセフィロスから創られた…… 一気に困惑の極みに陥ったクラウド。 その横で座っていたセフィロスが腕から針を抜き、クラウドの方の針も抜いた。 「ゆっくり起き上がれ」 言われた通り起き上がるとセフィロスが言った。 「行くぞ。とっととこの仕事を終わらせる」 そう言って先に歩き出したが、どれ程の血を流し込んだのかセフィロスは青褪めフラついていた。 |