もう時刻は午前0時を廻っている。
いつもと違う仕事。仲間がたくさんいる、皆で結果を出す仕事。
本来なら俺のいる場所はスコールのポジション。
最低の仕事。
長い傭兵経験の中でも一番!最低!最悪だ!
累々と横たわる死体も、はみ出た臓物も、腐乱した躯も、そんなもの今までにも散々見て来た。
でもいちいち狭い通路のせいで!腐乱遺体を跨ぐか踏み付けるかするしかなくて!そんなのもわざとなんだろ!そうさせてるんだろ!
ウロつくモンスターもいちいちグロい!気持ち悪い!腐ってる!汚い、臭い!
もう戦闘能力とか関係ない!精神をやられる!
畜生!
畜生!畜生!畜生!
いったいスコールはいつになったら現れる!
こんな最低の現場!最低最悪だ!
何で出てこないんだ。お前のせいだぞ、スコール!バカ!バカ!
こんな仕事嫌だ!!帰りたい!エスタがどうなろうと知った事じゃない!知るか!俺には何の関係もないだろが!
帰りたい!もう嫌だ!前の世界に帰りたい!マトモな人間に会いたい!マトモな空気が吸いたい!!
スコール!どこ行ったんだよ!出てこいよ!頭がおかしくなる!
……俺もエスタに行ってスコール人形買って来ようか…
それでその人形に毎日愚痴ってやる。そしたらスコール、"お前な…"とか嫌な顔をしながら出てくるだろうか。
そんな召喚の仕方って……ないよなぁ。
でも、だったら、どうやったら出てくるんだ!畜生!
今頃何をしてるのかな…。
もう、本当嫌だ。こんなの嫌だよ…勘弁してくれ…。
静かな闇夜、どこからともなく聞こえるゾンビたちの声……。
クラウドは自分の力ではどうすることもできない事への思いを断つように溜息を一つ吐き、皆の待つ場所に急ぐ事にした。
「おかえり!キロスさん大丈夫そう?」
心配そうなセルフィにクラウドが答えた。
「最初の部屋に入って内側から鍵をかけてた
けど、熱が上がり始めてた。急ごう」
「私達は進むしかない!先に進めば血清のヒントもきっと見つかる!
あ、ところでコレのリジェネ、いつまでもつの?」
キスティスが2m50cmを指した。
「多分あと15分くらいは戦闘不能を保てる。ただコイツは誰かに操作されてる可能性が高い
だとしら俺達がここを離れたら、誰かが直ぐに復活させる可能性はある」
キスティス達の顔が青褪めたが、クラウドがその根拠を言った。
「ステイタス魔法が利かないのは、コイツには有効な脳が無いんだと思う
だが大雑把とはいえコイツは俺たちを認識してるし追いかけてくもる
ってことは誰かがコイツを遠隔操作してるって事だ
遠隔操作だから動きが大雑把になる、俺はそう思う」
するとセフィロスが次いだ
「ならばその受信機がこいつのどこかに仕込まれているはずだ
それを壊せばコイツは無力化できる」
クラウドは少し考えた後、中庭で唱えたフリーズと同じように弱いサンダーを口の中でトリプルで唱えた。
1度目のサンダーで2m50cmの全体が感電し跳ね上がり、そこへ更にサンダーがかかり体全体を電気が走っているのが目で見えるようになり、更に3回目に重ね掛けをしたサンダーで股間に感電が集中した。
「……………そこだ」
クラウドが嫌そうに言った。
「……なんちゅー場所に…。どこまでもエゲツナイわ…」
セルフィは呆れたように言った。
「でも理には適ってるよ。ここだとガード付けててもモッコリしてても怪しくないし、男はチョットそこを避けるし……」
眉を顰めつつアーヴァインが言った。
「女だって避けるわよ!……嫌だわ
私本当にこの犯人とは相容れない!」
唾棄する様にキスティスが言う横からセルフィが戦闘不能状態になっている2m50cmの腰辺りに座り込み言った。
「私はやるよ?急所攻撃。他の急所と同じに狙う。
ヌンチャクってどうしても至近距離戦になるからね。一撃でキメなきゃこっちがやられる。
『頭』って戦闘態勢に入ると大抵フルフェイスヘルメットしたりするやん?
そんな時は『首』、『心臓』を狙う、でもそこも駄目なら……いくよ股間、バッキーン!!半端なガードなら私のヌンチャクには紙と同じや!
男も女も関係ないよ。私は死にたくないから一撃でキメる
剣だったら腕の一本でも切り落とせば戦闘不能になるし、銃も遠距離攻撃できるけど、どっちも私には体格的に扱えないからね。マグナムなんて撃ったら私の方が吹っ飛ばされて骨折してまう
けどヌンチャクは力が無くてもテクニックでいくらでも戦闘力あげられる。ね?ヌンチャクって凄いでしょ?」
そう言いながら2m50cmの貞操帯を外し終わり、言った。
「さ、威力のあるヤツで一発やったって!」と、御案内する様に掌を皆に向け、指先を2m50cmの股間に向けた。
思わずクラウドもセフィロスもアーヴァインも譲り合った。
「なに?今の私の話ちゃんと聞いてた?私やキスティスがハンドガン撃ちまくって弾の無駄使いしていいの?
それともタガーでザック!ザック!ザック!ザック!何回もこのモッコリを刺しまくれっていうの?」
「わ・分かった!ごめん!俺がやる!皆、先行ってろ!」と、青褪めたクラウドが手を上げた。
だがそうなったらなったで事の成り行きを見たがる女性軍の背を押すようにしてクラウドも2m50cmから離れてゆき、皆と一緒に通路を一つ曲がったところで、振り向きざまライフルで撃ち抜いた。
見事に股間が爆発抉り散ったが、クラウドは結果を検証することもなく先を急いだ。
「バカバカバカバカ!!バカバカ!!本当に最低の酷い仕事だ!ありえない!スコール覚悟しとけよ!マジで怒ってるんだからな!絶対に許さない!!」クラウドは心の中で語り掛けていた。
手の甲で額を抑えながら歩いていたクラウドの肩をセフィロスが労うように軽く叩いた。
が、クラウドはそれをビシッ!と容赦なく跳ね除けた。
そんな2人の歪な関係も段々キスティス達も慣れてきて「ヤレヤレ…」と見て見ぬふりで流した。
「ところでクラウド、さっきお前が戻っている間に変電室を探索していたんだが、新たな鍵とメダルが出てきた。
この鍵は変電室に入る前の開かなかった部屋の鍵の可能性がある、順で行くとお前の番だがもし良ければ代わろうか?」
「うるさい!」
不愉快な思いやりを見せたセフィロスから鍵を奪い取り、変電室に戻りそのまま突き抜け元の館に戻った。
狭い通路の角をたくさん回りながら通路に面したたくさんの扉1つ1つを調べたが
途中、通路の真ん中にいかにも邪魔な場所に重い銅像が、まるでダイニングのロフトにあったような状態で置いてあった。
割れた穴に嫌な予感がしたため、銅像を引きずってきて床の穴を塞いでおいた。
単純に踏み抜いたように見せかけてはあるが、穴の周囲には微量ではあるが数度も液体が落ちた痕跡や、細く短い毛のようなものが渇いた液体と一緒に床に張り付いている。
何かに使われている痕跡だ。
こんな場所で使われている穴などマトモなものであるわけがない。
そこから更に先に進んだ部屋のドアと手持ちの鍵が合った。
ドアを開ける前に部屋の中の物音を確認してみると……何か虫の羽音のような、鳥の羽音のような音が大量にした。
クラウドは壁に凭れドアの向こう側を推測してみた。
恐らく虫だ。鳥だったら囀りの声とかも聞こえるはずだ。
だが羽音からして虫でもかなり大きい…小鳥くらいの大きさはありそうだ。
そのデカイ虫がトラップか何かなのだろうか……
少し考えてみたが、考えれば考えるほど気持ちの悪い想像しかできない。
そもそも現実が予想の遥か斜め上を行く気持ちの悪さの連続だ。ならば想像などしない方がまだマシだ!…と、勢い扉を開けた途端、ヴァァァーン!!!一斉に物凄い羽音がして黒と青の塊がクラウドに跳んで来て、反射的にバンッ!と、扉を閉めた。
扉にはゴスゴスゴスゴスゴスッ!と太い矢のようなものが突き刺さる音がし、背後でも先ほど銅像で塞いでおいた床の穴から何かがキンキンキンキン!と突き刺す音がしていた。
虫のからくりが読めた気がした。
扉を開ければ虫の大群が一斉に飛び出し、同じく床の穴からも大量の虫が飛び出し挟み撃ち、逃げ場を失くして集中砲火。
やはりこの仕掛けを開発した奴はどうしても人を殺したいらしい。
クラウドは溜息を一つ吐き気持ちを切り替え、目の前の部屋について再び検証し始めた。
部屋の真ん中に天井から床まで届く大きさのハチの巣があったのは確認した。
………だが、あれだけ大きな巣は出来上がるまでにカナリの月日を要したはずだ。
徹底した攻撃性と並外れた大きさ、青と黒の縞のデカイ腹に青い頭に黒の複眼……明らかに人工的に造られた蜂の集団だった。
この際だからファイアで一気に燃やすか…と考えてみたが、蜂を燃やしたつもりがハチの巣に燃え移って、もしかしたら重要なキーアイテムまで引火してしまうかもしれない、と思った時、アーヴァインが見つけたプラスチック爆弾を思い出した。
あの時、実は違和感を覚えていた。
何故あんな所に唐突にプラスチック爆弾があったのか。
あんなものをこの研究施設のどこで使うのか。
しかもあのプラスチック爆弾はカットした跡があった。
ということは、このフロアのどこかにカットした残りがある可能性が高い。
もしファイアを使ってハチの巣に引火して、その中に爆弾が仕込んであったら…
ファイアは使えない。
だが蜂の数が多すぎる。それ以上にハチの巣も大きすぎる。
あそこからさらに蜂が飛び出してきた場合、対処しきれない。
だがファイアは駄目だ。サンダーも引火する可能性が高い。
ウォーターか…ウォーターした後の水の行き場が大変だろうし、ウォーターでは蜂が始末し切れない。
ブリザドか…だがただのブリザドでは範囲が限定される。…召喚にするか…
「シヴァ!」
召喚したクラウドだったが、その当のクラウドが物凄く驚いた。
いつもの馴染のシヴァを召喚したつもりが………同じシヴァ族と思われる召喚獣たちが何十体と一気に現れ、クラウド本人もビックリするほどMPが根こそぎ無くなった。
これではもう次からは魔法、召喚ができない。
目の前にいる見た事もないシヴァ軍団のおかげでまだ何もしていないのに冷気で身震いするほど寒い。
「な・なななな…」
なんで!?なにこれ!?
「なんだ?クラウド。何をしたらいい?」
クラウドのシヴァが、どこで仲良くなったのか男のシヴァと仲良く腕を組んで微笑んでいる。……どうもシヴァ族というのはどれも美しいものらしい。
だが一つ、気になることがあった。
「なんとも…可愛いな、お前の主は」
「なるほどこれはディアボロスと同族だ」
他のシヴァ達も楽しそうに口々にクラウドに話しかけてくる。
だが一体だけ…見知ったシヴァがいない。
「今度からクラウドの召喚は順番で出ないか?」
男のシヴァがクラウドのシヴァに言った。
「それはダメだ。クラウドのシヴァは私だけだ」
「スコールのシヴァがいない…」
それまで和やかに話していたシヴァ族がピタリと話すのを止めた。
こんなにたくさんシヴァがいるのに、何も、誰も話さない。
そういえばスコールが転生した、あの時にもいなかった。
「アイツは天命を全うした」
クラウドのシヴァが優しく、哀し気に答えた。
「天命?」
「召喚獣は其々に天命を持つ。未だ持たぬ者も何れは持ち、それを全うし、新たな命へと変化する
我々の中でも特に美しかったあ奴の姿を観る事はもう叶わぬが、奴は森羅万象最も高上なる昇華を遂げた」
「……いないのか?」
シヴァ達が微笑んでいる。
シヴァ族の中の1体が謳い始めた。
「それは恋ではない
それは愛ではない
それは想いではない
あなたと私
そうとしかなれなかった
あなたと私
完全に溶け合った
あなたと私
どこまでも昇って行く
果てのないあなたのもの
それは私
それが私
あなたは私」
「氷の洞窟でヤツが我々に舞い謳って魅せた」
あの時…シヴァ2体が洞窟探検に行ったと思っていたが、シヴァ族の会合があったのか…。
謳い始めたのは1体だったが、続いて謳うもの、舞うものが現れ全員が同じ歌詞に舞だったので群舞となり、気温は際限なくグングンどこまでも下がってゆく。
それは比類なき美しい世界だったが、それは地獄のコキュートスも凍えるほどの極寒の世界にもなっていた。
変電室の方から皆が走って来る音がした。
「あ…」
ヤバイ。今の聞こえたかもしれない!
「と、とりあえず分かった!部屋の中凍らせてもらおうと思ったがもう十分だ!ありがとう!それとスコールに早く出てこい!って伝えてくれ!」
召喚獣シヴァが其々に笑い全員一斉に楽しそうに消えた。
「今!スコールって言った!?」
一番に走ってきたセルフィが言った。
(セフィロス以外の)全員が必死な顔をしていた。
「…言ってない」
「嘘や!聞こえたで!絶対に言った!何があったん!?シヴァ召喚したんやろ!?何でこんな北極になっとんの!?シヴァってもしかしてスコールのシヴァ!?お気に入りだった!寒すぎ!死ぬ!」
「スコールなんて言ってない。俺は召喚獣シヴァを召喚しただけだ」
話は終わりだ!とばかりに皆に背を向けてクラウドは部屋のドアをソッ…と開けた。
すると部屋の中は先ほどとは一変していた。
拳大のモンスタースズメバチの大群がカキンカキンに凍って床に積み重なって山のように落ちており、部屋の中央の天井から床まで巣食っていたハチの巣からは冷気の蒸気がフワフワと立ち上っている。
セルフィたちはまだまだクラウドを質問攻めにしたかったが、喋ろうにもあまりにも極寒過ぎて歯の根が合わなくなってきていた。
「凍ってるけどこいつら鋭い針と牙持ってるから気を付けて」
クラウドは皆に部屋の探索を促し、天井から床までつながっているモンスターハチの巣を指した。
「俺はこの巣を削っていく」
そう言うと、バスタードソードで巣を少しづつ外側から削り始めた。
その間に他の皆は蟠りながらガクガク震えながらも周囲の棚とか鉢の中を調べたりしていた。
外側からどんどん削っていき、巣の直径が70㎝くらいになった時に巣の中央部分に女王蜂の巣が見え、その巣の下に何かビニール袋に包まって台座になっているものがあった。
「これ……もしかして…」
「プラスチック爆弾…」アーヴァインが言った。
ナパーム弾の下にプラスティック爆弾その下に更に何か、ノートの様なものが包まってあった。
気を付けながらノートを引き出すと、そのノートの間から何かメダルの様なものが零れ落ちた。
「クラウド、コレが入ってるってどうしてわかったの?」
キスティスがノートやナパーム、プラスティック爆弾を指して聞いた。
「分かるわけないだろ。でもトラップがあるとは思った
あの2m50cmモンスターやトラップだらけの館を作るような奴が、ファイアやサンダー一発でクリアできてしまうようなものをわざわざ何か月もかけて育成するわけがない」
「クラウドくんすご~い!ボクだったら速攻火炎放射器ぶち込むとこだったよ~」
アーヴァインが小さく拍手しながら言った。
「アーヴァイン、査定マイナス1。累計マイナス2!」
キスティスが睨んだ。
アーヴァインはセルフィの肩に縮こまって泣く真似をした。セルフィはヨシヨシ…と頭を撫でた。
プラスティック爆弾の下にあったノートの中身はとある研究者がその恋人に宛てた手紙の様になっていて、そこに重要研究室に入る為のパスワードが3種類必要だという事と、そのうちの2つのパスワードが記されていた、残りの一つのパスワードは……
「なんやねん"君なら分かるはずだ"って!なにが"愛するエイダへ"や知・ら・ん、ゆーねん!
勿体ぶらんとキッチリ全部書いとけや!」
魔法シェルを全員にかけて口が回るようになったセルフィが叫んだ。
「セフィ、これは恋人に宛てた手紙だから。僕ら勝手に覗いてる状態なんだよ?」
「そんなわけないだろ。その恋人が万が一ここまで来たとしても"愛する"恋人にこんな手段で渡すわけないだろ
部屋のドアを開けただけで死ぬ」
クラウドがアーヴァインを窘めた。
「え、ということは、これは…」
「十中八九創作か、万が一手紙が本物だとしても犯人に利用されたものだ
残りのパスワードはどうせどこかにちゃんと用意されている
今までみたいに”簡単には手に入らない所”にな」
キスティスがため息交じりに話を引き継いだ。
「残りのアイテムは赤いカードと、プラスチック爆弾、………ナパームは危な過ぎるから置いて行きましょう
それとパスワード2つ、メダル2つ。
じゃあ次アーヴァイン探索お願い
その間に私たちは更にここを調べておくから」
「はぁ~い」
アーヴァインがショットガンを担ぎ走って行った。
「あ、そうだ。キスティス
俺、さっきちょっとトラブルがあってMP(マジックポイント)が殆どなくなってしまったんだ。悪い、魔法はもう無理だ」
クラウドは何気なく、軽くキスティスに報告したつもりだった。
「MP?」
セルフィが聞き返した。
キスティスが素早くクラウドに視線で会話のストップを指示し、クラウドはそれを読み取った。
「MPって何?」
セルフィが更に聞いて来た。
この世界では戦闘にHP(ヒットポイント)はあってもMPは存在しない。
それが通じるのは同郷のセフィロスと、向こうの世界の話をクラウド達から聞いているキスティスだけだ。
「……さあな」
クラウドは探索に集中するフリで背を向け、会話を打ち切った。
が、こういう返事がセルフィの逆鱗に触れる事を軍用ヘリの中での失敗から、残念ながらクラウドは学べていなかった。
「………じゃあいい
これ以上聞かない。だからさっきどうしてスコールの話をしてたのか教えて
キミ、誰かと話してたよね。そっちだけでいいから教えて!」
セルフィの声が一段低くなり明らかにギリギリで怒りを抑えていると強く伝わってきたが、でもだからといってどう返事をしたらいいのかクラウドには分からなかった。
「俺のシヴァとは話した。スコールの話なんかしてない」
そしてヘリの中の時と同じ様に…
「ふざけんなや!!聞ぃこぉえぇたぁゆうてるやろ!!自分!大概にせぇや!!
嘘つくならもっとマシな言い方しーや!!馬鹿にされてるとしか思えへん!!むかつく!!
自分!自分だけが知っとったらええねんな!そうやんな!!そういうことやんな!!
自分!スコールとどんな知り合いか知らへんけど!私らだって仲間だったんやよ!ずっと一緒に旅しとったんや!!なのにアンタはそんな私らの気持ちなんかお構いなしや!自分だけやんな!!
私らお互いに命預け合って戦っとったんやで!私らスコールの仲間やったんや!!自分、そんなん知らんか!どーでもええか!!知ったこっちゃないか!!
はぁ~!エッゲツナイ考えしたはるわ!!感心した!!見習わなあかんな!!見習いたかないけどな!!ファックや!!」
「セルフィ!」
あまりの言い様にさすがにキスティスが止めた。
だがそれも更なる怒りを誘発させた。
「うっさい!アンタも嫌いや!大っ嫌い!
ハッ、自分だけ知っとったらええ!!そんな奴ばっかや!!最低や!こんなパーティ!!
フザケンナや!!スコール好きだったんはアンタだけとちゃうで!一緒に命預けて戦ってたのはアンタだけとちがう!
あのニュースを聞いてから私らがどんな気持ちでいたと思ってんの!キスティなんかせいぜいそうやって自分らだけ知…………………………」
途中で言葉が消え、セルフィの口が開いたまま、溢れそうな涙を溜めていた眼が大きく見開かれたまま……凍り付いた。
セルフィのあまりの激怒に探索を中止し、そっちの方を向いていたクラウドがその突然の沈黙にセルフィの見開いた視線を追って振り向いた。
キスティスは下を向いていたのがやはり異変に気が付き、セルフィを見て、その視線の先を目で追った。
ただ何と無く聞いていたセフィロスも、唐突に訪れた静けさに何となく皆の視線の先を辿った。
「………??……スコ……………???............ル????」
戸惑いつつセルフィが言葉にした。
いつ、どこから入ってきたのか。いつの間にそこにいたのか、部屋の一番奥の壁にスコールらしき美丈夫が凭れて立っていた。
だがその人物は確かにスコール……だ…と思うのだけれど……なんか違う。
知ってるスコールから青年ぽさが抜け、男として完成されている。
髪が短かった時はストレートだと思っていたのだけど、今は膝下までの長さで毛先にゆらゆらと緩いウェーブがかかっている。カラーも所々金色やプラチナが混ざっている。
服装は白のワイシャツに黒地に細いピンストライプのスーツ。シャツは第二ボタンまであけて襟をスーツの外側に出している。
まるでファッションショーで歩いている男性モデル、よりも遥かに美しく、「あぁ、この人は人間じゃない」そう判ってしまう浮世離れをした美しい男。
「セルフィ、あまり怒るな。キスティスもクラウドも可哀想だ」
スコールっぽい美丈夫が喋った。
それ応えたのはセルフィ、キスティス、そして声を聞きつけて爆走で戻ってきたアーヴァインではなく
「スコール!!!!!遅い!!!!ずっと!ずっと待ってたんだぞ!!何やってた!!!お前!!あれからどれだけ経ってると思ってんだ!!遅い!!遅い!!馬鹿!!」
クラウドが誰よりも早く爆発した。
「そんなに経ってないだろ?それにお前、ちゃんとや…」
最後まで言う前に更にクラウドが被せた。
「"そんなに"じゃねえ!時間じゃない!!お前!俺がどんな……どんな!お前…!お前、どんな風に俺の前からいなくなったと思って…!!」
最後まで言う前にクラウドの瞳から涙がポロポロ出始めた。
それを周囲の皆に見られる前にスコールがグイッと黄色いチョコボ頭を抱き寄せた。
「ごめん。悪かった。迷惑かけた」
それがまたキスティスを誘爆させた。
「そうよ!そうよ!スコール!!あなた!あなた!私は死ぬところを見たのよ!!あなた!!私がどんな気持ちであなたの荷物を片付けたと………」
キスティスまでが泣き始めると
「あー、そうだったな。ごめん。ごめん、本当にごめん。それとありがとう、ごくろーさん」
キスティスの肩に手を置いた。
「ご、ごめんで済ますな!!バカ!!なんだよ!なんなんだよ!このクソ以下のミッション!汚ねぇ!臭い!気持ち悪い!最悪だ!最低だ!!馬鹿!!お前、何て仕事引き受けてんだ!信じらんねぇよ!お前がやれよ!冗談じゃねぇよ、こんなの!!
それに俺だってあれから色々あったんだぞ!!本当に色々……!!!!!」
スコールに抱き寄せられたまま涙が止まらないまま怒鳴りつけるクラウド。
「うん、そうだな。色々あったな。本当に…すまん
シヴァ達が今すぐクラウドの前に行け!って…なあ?ディアボロス?」
「当たり前だ。お前の鈍さは死んでも変わらん」
いつの間にかヴィンセントもそこにいた。
「え…と……どちらさま?え…と…」
セルフィがあまりに場違いな傾国の美人の突然の登場に戸惑いながら言った。
「あぁ、お前達にはこっちの方がいいか」と、ヴィンセントはディアボロスに姿を変えた。
「えええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
セルフィとアーヴァインが揃って叫んだ。
「前はできなかったが、今はスコールがいるからどちらでも自由にできる」
「クラウド、さっきはシヴァ達がすまなかった
ハデスは唯一召喚神なんだが、シヴァは仲間がたくさんいてな、あれ以来初めての召喚だったから皆勢いで来てしまったんだ。お前に挨拶したいって、悪かった」
クラウドはスコールを見上げ笑った。涙は止まっていた。
「お前のシヴァ…」
スコールは優しく微笑んだ。
だがそれはクラウドに踏み込ませない微笑だった。
「ね、ねえ…ハンチョ?…班長だよね?なんでそんな髪長いん?
てか、なんでそんなカッコでここおるん?いやいや、なんか年喰ってるよね?いやいや、いつからそこに?」
「セルフィ、最初に言っておくがクラウドもキスティスも何も嘘はついてない。俺は本当に死んだんだ」
「え、いや。意味わからんし?」
「俺は今、お前達からすれば召喚獣みたいなものだ
一番近いタイプがケツァクウァトル・エデン・ラムウみたいな奴だ
俺がここに現れたのは、まだ生きていた時にクラウドと契約してたから
あの時はこうなるとは思ってなかったが、俺はクラウドの召喚獣なんだ」
「は、いや、何言ってるん?」
全く理解できない状況説明にセルフィの混乱度が増してゆく。
「今のこの姿は昔の姿を模してるだけで
髪が長いのも色が所々変わったのも、俺が融合している召喚神の思念体と混ざった結果だ
本体はまた違う形をしている
アレだ、ディアボロスが本体で、さっきの美人さんがディアボロスの思念体、そんな感じだ」
「えっと、うん。全然ワカランけど、つまりハンチョ死んでないよね?ここにいるもんね?
憎まれっ子世に憚るゆーやん?ね?ハンチョなら、この世が滅んでも……っ...!」
死んでなんかいない!そう結論付けようとしたセルフィだったが、言葉にしながらもスコールがここにいる事、見た目の明らかな変化、本当に生きているのならそれら全てに辻褄が合わない、そして全然意味の分からないスコールの状況説明だが、それには辻褄が合っている。
分りたくなんかないけど分かってしまう。
このスコールは自分達と一緒に戦ったあのスコールではない。
もうあの迷惑千万超ガッカリハンサムハンチョではない、もう二度と一緒にミッションには入ってくれない。
二度と私達のリーダーにはなってくれない。
堪えきれずボロボロと泣き出してしまったセルフィにスコールは優しく言った。
「セルフィ、この世界が滅んでも俺はいるし、お前達が死んでも俺はいる
俺はただ人間の肉体を失くしただけだ、だから俺を遺していくのは肉体を持つお前達の方だ
お前達と一緒に戦う事はもう無いが、俺はお前達と最期まで共にいる
だから安心して死ね
どんな最期になってもお前たちの命が消えるその時まで俺はお前たちの味方だ
…というわけでクラウド
また暇になったら呼べよ。色々面白いことができるようになった」
「!!だから!どうやったら呼べるんだよ!先ずそれ教えろ!」
スコールが少し考える素振りをし、言った。
「ま、そのうちな」
「駄目だ!お前の”そのうち”は信用しない!教えろ!」
「そんなことないぞ?今もこうして…」
「シヴァ達に言われたから現れたんだろ!いいから教えろ!」
スコールはまた少し考える素振りをして言った。
「分かった。じゃあとりあえずこのミッションが終わったら早めにお前んち行く」
「よし!」
クラウドは両手を腰に当て、ポーズは強気だが、目をウルウルさせ鼻をスンスンさせながらようやく頷いた。
…目ウルウルさせちゃって……それって『召喚』じゃなくて『遊ぶ約束』っていうんじゃないの?てか、可愛い担当は私だと思うんですけど?…とセルフィは半目にしてクラウドを見ていた。
一方、可愛いのが好きではないキスティスは"ちょっと、何なの?自分ばっかり!"と、秘かに思っていた。
そして最後に走ってきたアーヴァインは、部屋のドア付近、自分の斜め前にいるセフィロスの気配に怯えていた。
手前にいるクラウド、セフィ、キスティス達は気付いていない。
スコールが現れた目的はクラウドじゃない、セフィロスだ。
涙を流しスコールに会えたことを喜び縋りつくクラウド、を見ているセフィロス。
クラウドに微笑みかけるようにして、クラウドを抱いたままセフィロスに微笑みかけているスコール。
きっとスコールの目論見は成功したのだ。
セフィロスの反応を見る限り。
「ねえ、ハンチョ。もしかして、まさか私達、もう会えないん?」
「まあ、この姿で会うのはこれで最後だな
だがこの世界の召喚獣のルールも変わったから、そのうちお前達も俺の本体の方をどこかで見るだろう
見たら多分俺だって分かる
今は一時的に召喚獣が見えなくなってるだけで、もう少ししたらお前達も見えるように世界が変わってくる」
そう言った後で「あ、忘れる所だった」と、思い出したように
「コレをキロスに打ってやれ。そろそろ危ない。頸動脈にな
もうアイツの力じゃ扉を開けられなくなってるからぶち破って入れ」
血清の入った注射器が入ったアルミケースをキスティスに渡した。
「じゃあミッション頑張れ!」
そう言うと、スコールはそのままス…と消えかけたが、再び姿を現してクラウドに「さっきはご苦労さん!そのうち良い事あるぜ!」と揶揄うように片方の口端をあげて笑い、そして消えた。
一瞬後にその意味が分かったクラウドは「あいつ!」と、微かに赤くなった。