迷い子7



倉庫の逆側の扉から奥中庭に出ると皮膚の無い犬が匹、更に庭に植わっていた数本の大きな木から真っ黒の蛇が十何匹と一斉にボトボトボトボトと降ってきた。

!!!ここは屋外やファイヤーやっ…」「アーヴァイン蛇をやれ。私は犬をやる」

セルフィの言葉に被せるようセフィロスが銃撃指示を出した。

早速ブラックブレイドの試し斬りとばかりにセフィロスは犬の首を「キャンッ」も言わせず鮮やかに落とし、それに続いたアーヴァインが同じく先ほどの部屋で見つけていたベレッタ92カスタムを連射しまくり、大量の蛇を一発も外すことなく撃ち抜いた。

「さすがスナイパーだな」

思わずクラウドが感嘆すると「えへへ~、すごい~」と嬉しそうにアーヴァインが照れた。


「ここはまだ初見の現場だ。どんな証拠やキーアイテムがあるか分からない。燃やしてしまえば元には戻せない」

セフィロスがセルフィに説明した。

「そっか…ごめんなさい。チョット考えナシやった」

セルフィが"ごめんなさい"と可愛らしく首を傾げたが、セフィロスは既に中庭のプールをチェックに向かっており、セルフィの可愛いサービスは空振りとなった。



「キロスもしかしてここが浄水施設か

中庭奥スペースの大半を占めている20m四方くらいのプール。

その中を覗き込みながらクラウドが聞いてきた。

それもそのはず、プール中の水は真っ黒で、風も無いのにユラユラと水面が揺れて悪臭を放っている。

「………昔はそうでした。

それにこんな剥き出し状態ではなく、全部にコンクリートの蓋がかかっていました

この設備は地下へ水を通しているので深いですし、落ちたら危ないですから…フタが……」


キロスには自分の目に映っているものが信じられなかった。

…………十数年前、当時の最新設備を凝らしたこの施設を案内してくれた館長や研究員達…

あの頃の彼らは未来への希望に満ち溢れて見えた。

施設のたくさんのギミックを自慢気に案内してくれた。

ラクーン全体が活気に満ち溢れ、羨ましいほどに世俗から切り離された無菌状態の、輝かしい未来へ向かう街だった。

あの未来へ向かう輝き、笑顔は嘘だったのか、最初からそのつもりだったのか………不気味にゆらゆらと蠢く黒い水面、生理的に我慢ならない腐臭が鼻孔を侵す…。


「これじゃ町の人が無事なワケ無い」

キスティスの言葉に全員が同意した。

「さっきの部屋にクランクがあったな

ここの六角穴にセットすればこの貯水プールの黒い水を地下に落せそうだ

ただし、それでここの水位が下がるとまた何か出てくるだろう。水面が不自然な揺れをしているからな

クラウド、やるか

「やってもいいがお前とは組まない」

「了解。クランクを取って来る」

会話は業務連絡のように進み、セフィロスは元の部屋に戻って行ったが、セルフィとアーヴァイン、キスティスとキロスはもの言いたげに視線を合わせていた。

詳しい事は何もわからなくても、この2人の関係が拗れているのは皆分かった。


セフィロスが直ぐに戻ってきて浄化槽の端にセットされている滑車状態のものにクランクをセットし、レバーを回すと黒いプールの水が一気にドドドド…という音を立てて地下へ引いて行った。

予想していたよりも深いプールだったようで、どこまでもどこまでも水位が下がっていく。

元あった水位線から10mほど下がったあたりから何かの形が見えてきた。

………バシャッバシャッズロロ…ズルル…ヌチャ……どんどん下がっていく水位にモンスターの蠢く形が浮き上がる。

……模様が見える。体の黄色と黒の縞が動くごとにざわざわと太くなったり細くなったり…そして脇腹に一列に並んだオレンジの目玉模様が浮かび上がったり消えたり。

噴水の部屋での大蛇は何物をも通さぬ固い鱗で全身が覆われていたが、ここにいるのは巨大化した猛毒ヒルといったところだ。


「援護が必要になったら言うから皆それまではプールから離れててくれ」

クラウドが指示を出し皆は数歩下がった。

水が底をつくゴポポ……という音がしたのでクラウドは更に進み出てプールにヘリに立ち、下を覗いた。

「うっ...」と思わず呻き声をたて、後ずさってしまった。

その反応にメンバーも思わずプールに駆け寄り中を覗くと「げえぇ…」「ひいぃぃ…」とアーヴァインとセルフィ。

即座に目を逸らし真っ青になり口を押え慌ててプールから離れるキスティスと、足に力が入らなくなりその場にへたり込むキロス。


プールの中にいたのは巨大縞々ヒルだけではなかった。

一番巨大なヒルが匹で全長20mくらい、その次に大きいサイズは10m級が10匹くらい、一番小さなもので人間サイズが無数…100匹以上いてそれぞれが同じ模様、黄色と黒の縞を太くしたり細くしたり蠢かせ、オレンジ~赤の一列に並んだ目玉は浮かんだり消えたりしながらズロズロぐねぐねデロデロと互いに絡まってプールの中で床一面に広がり、波の様に畝っていた。


初見のショックから立ち直ったクラウドは、とりあえず腰を抜かして動けなくなっているキロスを引きずって遠ざけ、再びプールサイドに戻り暫くヒルたちの様子を観察していた。


「ハーデス

魔界ハーデスの窯の煙があふれ出し、プールの中を覆いつくし何も見えなくなった。

暫くして煙が引いてゆき、プールの中を観察していたクラウドが皆を集合させた。

中を覗き込むと、ついさっきは巨大・特大・大のヒルがプールいっぱいにグネグネと畝っていたのに、今は底にいるもの全部…麻痺した状態の小さなカエルがバラバラと100匹以上白い腹を見せてひっくり返っていた。

そしてその中の匹が何かの鍵を体から貫通させて死んでいた。


「多分アレが一番おっきいヒルだった奴だね。小さくなり過ぎて鍵の方が大きくなっちゃったんだ

それにしてもクラウド、凄い召喚獣使うね

ねー、今度私にも教えて

セルフィの言葉に、痺れたカエルたちを見たままクラウドは呟くように答えた。

「………………スコールに教える約束をしてた………………………スコールに教えるまでは誰にも教えない」

呟くような言葉の奥を察してしまったセルフィは一瞬泣きそうな顔をしたが、考えを振り払うように頭をブンブンと振り「じゃあぁ私あの鍵取って来るね」と、水位が下がると共に露出してきた梯子を使って下に降りて行った。

プールの底で何か鍵以外のものを見つけたらしくキョロキョロしていたが、やがて降りて行ったのとは違う方向に歩き出し、再び姿が見えた時にはプールの反対側に上がっていた。

「こっち側にも梯子があるよーっていうことはこっち方向にも何かあるんだよねー」と、手を振った。

キロスは持っていた地図と何度も見比べながら

「この中庭から先は地図にはありませんけど…」

「じゃあいよいよ秘密のお部屋に突入ね!皆、行きましょう!

キスティスが号令をかけ、全員プールに向かった。

途中プールの底でどうしても無数にいる白い腹を出して痺れているカエルを踏むことになり、その都度「キュ~ッ」「グエェェl」「ギョ~ッ」と声を出され、キスティスは青ざめ悲鳴を飲み込みながら進んだが、キロスはガタガタと震えるばかりでなかなか歩き出そうとしなかったのでクラウドが「早くしろあんまりユックリしてるとステイタス魔法が解除されて元のヒル軍団に戻るぞ」と、脅すと「はぅはぅ」言いながら膝をガクガクさせながら歩こうとするが、まだプールの中に入ってすらいないのに1歩歩くごとにペシャン…と腰が砕けてなかなか前に進まないのでキレたクラウドが更に脅した。

「言っとくが!俺のハーデスはそんなに仕事熱心じゃないからな。連続召喚はできないぞ(嘘)

奴らが元のヒルに戻ったら次に使えるのはミニマムくらいだ。あのオレンジの目玉が並んでるグロいヒルが小さくなるだけだぞ!お前、麻痺したカエルの中を歩くのと、ぐねぐね縞々の目玉のヒル軍団の中を歩くのとどっちがいい!」

「あぁ…は…吐く…い、息が止ま……」

脅しが裏目に出て、息も絶え絶えに涙目で完全に座りこんでしまったキロスにクラウドは溜息を吐き、背中を向けて座った。

「おぶされ」

「す、すみませ……」

「いい、時間が無い。それにアンタには違う場所で根性出してもらう」

キロスをおぶったクラウドはそのままプールに飛び降り、底は走って渡り一気に向こう岸に渡った。


「ひ~、ひょ、ひおんとうににすみません

れ、でももう、俺はこの館のいひょう(異形)の者達を作った奴らは絶対にぃ!ひゅるしません!!

声が所々裏返り噛みながらキロスが涙目で言った。

「怒るポイントがズレてるわよ半端男!でも私もこいつだけは絶対に許さない!

どんなに凄い化学者であってもこんなもの作るなんて人としておかしい狂ってる!一生会いたくない!

キスティスが同調したが、そんな2人にクラウドは冷水を浴びせた。

「今夜中に会うかもしれないから心の準備はしておけよ」

「ひぇ!?

「水分補給を断たれてる俺達は今夜中にケリをつける

けりをつけるってことはこの町に残ってる敵全員と対決し、勝って出るってことだ

一旦帰るって選択肢は無い。そんな事、敵側がさせないからな

勝っても負けても決着は今夜中、時間が経つほど俺たちは不利になる」

言われて初めて自分がカナリ喉が渇いている事に気が付いたキスティス。

この時になって初めてセフィロスの「このミッションには時間制限がかかっている」の意味を身をもって理解した。


汚染された浄化槽の向こう岸に渡ると高い垣根と垣根の間に少し隙間があり、そこを抜けて曲がったところに作業用エレベーターが設置されていた。

エレベーターを稼働させる鍵は先ほどのモンスターの体内に入っていたものと合致した。

作業用エレベーターを使い地下に降りて行くと、新たに狭い通路にドアがいくつもある場所に出た。

いくつもあるドアの中で唯一鍵無しで開くドアを開けると……部屋中に凄まじい臭いが充満していた。

「うぐ……」

修羅の世界を生きてきた全員がよく知る臭いだが、鼻腔どころか眼や肌まで攻撃してくる強烈な臭いに、そこがバスルームだと気付くのに時間がかかった。

汚い浴槽の中には元が水なのか体液なのか、焦げ茶色に濁ってドロドロになって色々言葉にしたくないモノが浮いている。

「今までのパターンから言って…やっぱりあそこの栓は抜くべきよね…」キスティスが言った。

「さっきのパターンだと鍵は死体の腹の中やな………」セルフィが言った。

「ステイタス魔法は生きてるものにしか効かないんだよね……」アーヴァインが言った。

セフィロスは無言で浴槽の中に手を突っ込み、栓を抜き、その間にクラウドは部屋の反対側の捜索を始め、クローゼットを開けた。

するとクローゼットからゾンビが体出て来たのでザッシュソード一振りで体の首を身体から切り離した。

「…服着てない……」

クローゼットから出てきた男女のゾンビは体とも服を着ていなかった。

「浴槽のコレは単純に腐乱死体だ。頭を撃たれている

…ということは、この水は汚染水ではないのだな……」

滅茶苦茶超汚染されまくった茶黒いドロドロゲテゲテの水を弾くセフィロス。

その様子をうっかり見してしまったキロスが倒れそうになった。

クローゼットを探索し続けていたクラウドが、中から新たなファイルを見つけた。


TOP SECRET July 22

保安部長へ

X-DAYが近づいている。一週間以内に、以下の作戦を順に速やかに、順次実行せよ。

) STARSを研究所に誘込みB・O・W(生物兵器)と戦わせ実戦データを得よ。

)変異体を含むB・O・Wの胚を、一種につき個ずつ回収せよ。 但し、タイラントは廃棄処分とせよ。

)人員実験動物を含むアークレイ研究所の全てを事故に見せかけ処分せよ。


「……まあ、そうだよね

ここまで大掛かりなバイオハザードを起こすのは保安部長も巻き込んでなきゃ無理だ。…ってこ、コレ!!

セルフィがSTARSの部分を指さした。

「ナルホドね、敵側が欲しかったのはモンスターのデーター

各モンスターの能力を調べるために戦い慣れしてるSATやSTARSをモルモットよろしく投入

私達が勝つとモンスターのグレードがアップしていくのは、敵が私達の上限を測っているんじゃなくて、モンスターのデーターを取る為…瞬殺されたんじゃデーターの取りようがないからなのね」

キスティスが怒りに燃える瞳で冷静な口調で言った。

「胚を回収してタイラントは処分、つまりモンスター作成の工程はこの町の外

胚さえ取ってくれば同じものがいくらでも作れる……コレ、やっぱりキロスさんの言った通りだね。重要なものはとっくに外に出てる」

アーヴァインが力なく呟いた。


「おい」

セフィロスが腐乱死体の口の中から小さな金色の鍵を見つけた。

「その大きさだと部屋の鍵ではないですね。ていうことは...この部屋にはまだ探さなきゃならないものがある…」

「コレじゃないか」クラウドがファイルのページの途中にメモ書きがしてあった12桁の番号を指した。

「…あの部屋か」今のフロアを探索する途中にパスワード番号を入力してオープンするタイプの部屋があった。


バスルームには他に目ぼしいものも無かったので、そのパスワードの部屋に向かう事にした。

向かいながら

「つまりあの頭を撃たれていた浴槽のアレは保安部長だよね。で、結局あの裸の人は何なん

セルフィの疑問にアーヴァインが答えた。

「見たままじゃない

人分の服がクローゼットにかかってた

つまり人は裸の関係

そこへ部屋をノックする音。保安部長との関係を知られたくなくて人はクローゼットへ

でも実はその時点で人は既に感染してた

部屋に招き入れられた奴は浴槽の保安部長の頭に一発ズッキューン!犯人は去り

残りの2人はクローゼットの中でゾンビ化したまま出てこれなくなっていた、と

…こーんな極悪バイオハザードの主犯の一人のくせに、随分簡単に死んだね、保安部長」

呆れ顔のアーヴァインにセフィロスが続けた。

「今の答えに時間経過を加えると、違う答えが出る

口腔内との馴染み具合からいって、鍵は死体がレアな時点で突っ込んでいる

この環境で死後ここまで体が崩れるにはひと月はかかる

ひと月前はまだ水汚染は始まっていなかった

ということはおそらくクローゼットの2人はウィルスを皮下注射をされた

先ず最初に保安部長を射殺、その後2人を襲い、間もなく2人が意識混濁

その間にクローゼット内にトップシークレットのファイルとパスワードのメモを仕込み、仕上げにゾンビ化し始めた2人を入れクローゼットを閉じ、最後に保安部長の口に鍵を仕込んだ

全員射殺すれば一瞬で終わるものをわざわざこれほど面倒な事をしたのは、これらが我々へのメッセージかつ招待状だからだ

実際この情報を必要としているのは、モンスターと戦い生きてここから出ようとしている我々だけだ

他の誰一人としてこんな情報を求めていない」

「……もう、最低…」

言葉にしたのはキスティスだったが、セフィロスとクラウド以外の全員が涙目になっていたり溜息を吐いたり項垂れた。

だが実は平然としていたクラウドこそ誰よりも『帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい』と頭の中が悲鳴をあげていた。

今まで”最低だ!”と思ったどの現場よりかけ離れて汚く、臭く、理解の及ぶものが何もない、カスリもしない。一刻でも一瞬でも早くこの現場から離れたい、もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーーーーー!!と強く強く思っていたが、鉄の傭兵スピリットで耐え抜いていた。


暗証番号のドアロックを解除し、中に入るとゾンビが体いたのでヘッドショット発で瞬殺した。

皆で部屋を探り始め、最初に見つかったのは机の中から出てきた、今いるフロアの見取り図。

その見取り図では今いる部屋の奥にもう一つ部屋がことになっている。

だが隣へ行くドアがあるべき場所には造り付け暖炉があるだけだ。

地図と現場が違う。

その暖炉を探ってみても奥はブロック塀の通常の暖炉で、どこにも隙間も動く気配もスイッチも無い。

だが暖炉の横には、いかにも場違いに大きなハンマーが立てかけてある。

「ハンマー…」

「……壊せってトコやね」

「壁の向こう側、動いてるゾンビが2体、閉じ込められてるゾンビが数体いる」

クラウドの言葉にキスティス達は耳を澄ませてみたが、やっぱり何も聞こえなかった。

「とりあえず壁壊さんと、どもならんアービン行けー」セルフィが言った。

アーヴァインが一応皆の反応を見たが、誰も異論は無いようだった。

「了~解~」

ハンマーを暖炉の壁に叩きつけると意外にも回目で壁がガラガラと崩れ、向こう側の隠し部屋が見えた。

暖炉の壁はそのままレンガが積み上げられていただけだった。

皆が入ろうとするのをセフィロスが止めた。


地図から見ても奥の部屋はカナリ狭い

今までのパターンからいけば突入後は恐らくゾンビ2体だけでなく、現在ロックされているゾンビが一斉に起動するしかけになっていると思われる

兵数の多さは逆に状況を悪くする

地図から鑑みてもこれから先も恐らく同じパターンが続く

この地図の範囲内の新しい通路、部屋を探索する時は先ず一人が偵察に入らないか

この部屋もまだ捜索中だし、分散した方が効率がいい

新しい部屋は最初に入った者が状況を確認した後に仲間を呼び込めばいい」

「そうね。その通りですね。じゃあ先ずこの部屋は誰が入る

「私が入ろう。言い出したのは私だからな。後の順番は皆で決めてくれ」

そう言うとセフィロスは暖炉を潜って向こう側の部屋に入った。

途端、セフィロスのマグナムの音が連続で発鳴り響き、皆が驚いて隣の部屋を注目する中、更に6発鳴り響いた。

静かになってから部屋からセフィロスの声がした。

「入ってもいいが、ここは検死室だ。検死官と死体がゾンビ化していた

9体全てヘッドショットした

安全は確保したが部屋は汚した。それと足の踏み場が無い」

ああぁぁ~~どんな状態か想像がついてしまったキスティスは真っ青になりながら膝をガクガクさせていたが、グループリーダーのプライドで死体置き場に入っていく決意をした。

「あの、私は……ここにいてもよいかな

後ろからキロスが言うとアーヴァインが続いた。

「僕も…あの、ちょっと~…えーと、こっちの部屋を探索してよいかな

キスティスは真っ青でガクガクワナワナしながらも口だけ強気で「アーヴァイン、査定マイナス!!」と言って中に入った。


隠し部屋になっていた検死室には白衣を着たゾンビが2体、検死台の上に1体、冷蔵保存ドロワーから6体出てきたところをヘッドショットされていた。

マグナムで至近距離からのショットなので…部屋中それはもう…3Dの飛沫模様だらけになっていた。

セフィロスは始末した9体を部屋の隅に重ねるように寄せているところだった。

「……セフィロスさんとクラウドは本当に我々とはキャリアが違いますね。尊敬します」

青褪め眉をひそめながらキスティスが言ったが、クラウドは内心”こんな所で無駄口をたたけるアンタの方がよっぽど凄いよ!俺は一秒でも早くここから出たい!”と思ったがそんな返事すらもできないほど耐えられないほど臭くて吐きそうで、目が回りそうになりながら必死に探索を続けた。

その結果、壁に設置された棚の中に赤いカードを見つけた。何に使うか分からないが、ともかく確保だけはしておいた。


検死室から出ると、アーヴァインが「いいもん見つけたよ~」と、レンガサイズのプラスティック爆弾を見せた。

「へ~ええやん。アービン、ただのヘタレやないもんな~」

「うん、こんな状況だし、きっとどこかで使えるよ~

「今あるアイテムは赤いガードと小さな鍵がつ、それとプラスティック爆弾

じゃあ順番で次は私が行く」

キスティスは鍵と赤いカードを持って使える部屋を探して廊下を歩いて行った。

暫くすると短銃を連射する音が聞こえてきた。

キロスが加勢しようと走りかけたところ、クラウドが止めた。

「本当に俺たちの力が必要になったなら、キスティスはちゃんと呼ぶ

銃声の度に加勢してたら個別探索にした意味が無い」

「そ・そうだね、すみません」

そうは言いながらも心配そうなキロスにセルフィが言った。

「キスティスを信じたって

さっきあの人"絶対に生きて帰る"ってメチャ気合い入っとったから、大丈夫だよ

「ハハ…これじゃ本当に素人と言われても仕方ないね…申し訳ない」

キロスは誰に言うでもなく自虐気味に苦笑いをした。


程無くキスティスから呼び寄せる声が聴こえた。

「皆来てつ目の通路を入った左側の金網の中よ」

全員が駆けつけると通路に撃沈されたゾンビが体、その先のフェンスの中にキスティス。

セフィロスが腐乱遺体の口の中から見つけた小さなカギは、フェンスにかかっていた南京錠の鍵だったらしい。

それを使い開けたフェンスの中は2つ並んだ大きな変圧器がフロアの殆どを占めていた。


「右側が最低電圧設定のパズルで、左側が最高電圧設定のパズルみたい

仕掛けはそれぞれの台に設置された5枠の数字を使って、最後の【=】の数字を既定の最高、最低電圧にするのだと思う

パネルの中で動かせるのは5枠の数字の間にある【+】【-】【×】【÷】

式が完成すると、それぞれの台の奥にあるシャッターが開く

開くとどうなるのか分からないけど、多分必要な事よね…先に進むためには

でもプラスマイナスだけならともかく掛け算割り算が入ってるから計算機が無いと……誰か計算得意な人いる


変圧器を見ていたセフィロスが勝手にパチパチと式を切り替え始め、あっという間にピーーという解除音が聴こえた。

「え早っセフィロスさん計算はやっ天才!?

セルフィが言うのと同時にシャッターがガラガラと開き、向こう側が見え始めた途端、セフィロスが言った。


「全員出ろここで銃を撃つなクラウド

メンバーの中で剣で戦えるのがセフィロスとクラウドだけだった。

シャッターの中にはゾンビが満員電車のすし詰め状態で詰め込まれていたらしく、既にコンピューターの隙間をゾロゾロと塞ぎ始めていた。

入って来た金網側は既にゾンビたちに塞がれてしまっていたが、開いたシャッターの奥にドアが見つかった。

セフィロスとクラウド以外の全員がそこから飛び出したが、途端キスティス達の悲鳴と共に銃声が一斉に鳴り始めた。

クラウドはシャッター奥へ向かいながら途中ゾンビ12体をザッシュソードで乱舞させ片付け、セフィロスを変電室に残しキスティス達のいる方へ出た。

そこには…キスティス達に倒されたゾンビたちを踏みつぶしながら、周囲の物をなぎ倒しながら吹き飛ばしながら、皆からの一斉射撃を受け顔や体のあちこちを吹き飛ばされボロボロになりながら、逃げるSTARSメンバーを追いかける2m50の巨体ゾンビがいた。


「クラウドレイズもファイアも効かん全然死なんどしたらええのーーーーーー!!!!

セルフィが全力で逃げながら、追いかけられながら、撃ちながら、息を切らせながら、仲間たちそれぞれが距離をとっていた。

犠牲者が出るのなら1人に抑える。

その1人が自分であっても意志は仲間が引き継ぐ。

口から出る言葉は音を上げていても、幼い頃より受けてきた英才教育により体はするべき行動をちゃんと判断し動いている。


ステイタス魔法がかからないパターンはつ。

相手の戦闘メンタルが術者よりも上回っていること。

もう一つはメンタル・脳自体が無い、或いは機能していないこと。

魔法S級のセルフィの魔法がかからなののなら、コイツは間違いなく後者。

ならば………

「ケアルガ

強烈なダメージを受けたゾンビは、その場に崩れ落ち動かなくなった。

「リジェネ

コンクリートに倒れていた巨大モンスターの身体がビクンッと撥ねた。

「これでコイツは当分動けない。けど、時間が経てばまた復活する。

皆、無事か

クラウドが全員の確認を促すと、思い出したようにそれぞれがゾンビの体液や血で汚れていたが皆一様に巨体化け物から解放された、山を越えたホッっとした空気が漂い始めていた。


「キロスさん腕、怪我してる

アーヴァインがキロスの二の腕を指して聞いた。

言われて初めてキロスも気が付いたようで腕を動かし、傷口を見ようとした。

「?…どこで切ったんだろう

「見せろ。シャツ脱いで」

キロスが脱いで傷口を見せると、クラウドの顔色が変わった。

傷口は切り傷ではなく、咬傷…歯形が付いている。

「エスナ

クラウドが強力解除魔法を使ったが、キロスには変化は見られなかった。

「エスナ

キスティスが魔法をかけてみたが、同じく変化は見られなかった。

「フルケア

セルフィも回復魔法を唱えたが、変化は見られなかった。

「…………大丈夫かな」セルフィが言うと

「も・申し訳ない。慌てていていつ噛まれていたのかも分からない

本当に君たちの足を引っ張るばかりで申し訳なかった

覚悟はさ・最初からできているからどうか私を外側からしか鍵のかからない場所に隔離して欲しい

そして今回の事件の真相をエスタに連絡し、君たちがこの町を出たら直ぐに町ごと完全に燃やし尽くしてほしい

今まで集めてきた証拠でかなりのところまで追いつめられるはずです。これ以上はこの町はあるだけ危険です。あってはいけない

君たちの足を引っ張ってばかりで本当に申し訳なかった。どうか後の事はお願いします」

スラスラと出てくる自分が犠牲者となった時の対応は、キスティス達と行動している間に考え続けていたのだろう。


確かに。

キロスが言っている事は理に適っており、感染した可能性が高いのならそうするしかないのかもしれない。

だがキロスはエスタを想い、ラグナを想い、キスティスを想い、今までの人生で築いてきた全てを捨ててここに来てくれた人で、皆を支えてもくれた。

そんなキロスを隔離監禁するような事は…キロスを残してこの町を燃やし尽すなど…


「ゾンビ血清の情報が何もないのだから、今はどうする事もできない

キロスを助けたいと思うのなら、我々は少しでも早く先に進むしかない

進むうちに血清に関する情報も得るだろう

それが間に合うようであればキロスに使えばいい

血清が効けばキロス自身が抗体になるかもしれない

だが今は彼を隔離する以外にはない

キロスが感染していたのなら、これからは熱が上がってきて動けなくなってくる…飼育員の日誌からいくとな

そんな状態では戦えないし、我々はこれからもっと侵攻ペースを上げていく

キロスは犯人にもモンスターにも解除できない<内側>からしか施錠できない部屋に隔離するしかない」

残りのモンスターを片付けたセフィロスが変電室から出てきながら言った。


「あの…内側では、もし私がゾンビになってしまったら自ら出てきてしまうのでは…」

困り顔で否定したキロスだったが、セフィロスの真意を悟ったキスティスがニッコリ微笑んで言った。

「そしたらその時よ。あなた一人殺すくらいEASYEASY

「…君って人は…」

キスティスの美しい微笑みに、思わずキロスも笑ってしまった。


「嘘だよ。キロスさんはきっと意地でも出てこない、そんなん皆分かってる

それよりも外側からのロックにしたら犯人が解除してしまうやん

それを皆、警戒してるんやでキロスさん、犯人に身柄確保されてまうよ

したらきっとモンスター化されるで?ええの?

「……私が一番最初にいた場所。あそこが内側からのみ施錠できます

さっきはウッカリ鍵をかけ忘れてたんです、今度は大丈夫

これ以上皆の足を止めたくないので人で戻ります

皆さんの幸運を祈ってます


キロスは片手を上げ、颯爽と変電室に歩いていき、ドアを開けて「ヒャッ」と言い、その場にへたり込んだ。

「全部もう動かないから踏んで行け」

サラリと事もなげに答えたセフィロスだったが、出現したゾンビの数、全て剣で始末した事からいって…検死室の比ではない状態になっているのは明らかだ。

へたり込んでガクガクに震えているキロスが思わず「ク・クラウドくん…い・い・一緒に…行こう」と涙目になり助けを求めた。

クラウドはキロスの方まで歩いていきながら楽しそうに「半端ジジイ」と笑った。

そしてキロスの手を取り「お姫様抱っこしてやろうか」と揶揄い交じりに言ったらキロスに涙目で「ぜ・ぜ・是非…」と言われてしまい、クラウドは更に笑ったが結局キロスをお姫様抱っこし、中に入って行った。

「クラちゃん、やっさし~い」アーヴァインが揶揄うように言った。

「そりゃー、あそこまで素直にビビられちゃったらしょうがないよね」

セルフィも笑った。


「さて、この怪物。どうしましょう…

暫くはこれで行動不能だけど、そのうちに必ず復活するでしょ

どうしたらサヨウナラできるのかしら。ていうかどうして死なないの

「最初から生きてないからだろう

生物でないからミニマムやレイズなどのステイタス攻撃が通じない」

「でもダメージを受けた個所は増殖して自動修復してる

修復も増殖も生きているからこそできるんじゃないんですか

「そうとは限らん

例えば本体は既に死亡していても内部が寄生体の巣窟になっている場合は本体は死亡しているからステイタス攻撃は通じない

だが本体がダメージを受ければ寄生体が修復をする。大まかな理屈はそんなものだ

実際私が切った両足を再結合した痕跡がある

こんな事をできるのは本体とは別の寄生体以外に無いだろう

こいつを二度と再生させないためにはコイツ単体ではなく、例えばこの中庭全てをファイガで焼き尽くすか、コイツを溶鉱炉、濃硫酸プールにでも投げ込むか……」

「クラウドのリジェネはどれくらい有効ですか

「知らん。俺はクラウドがLV100の頃のケアルガやリジェネしか見たことがない」

????この人、今まで組んでた人たちじゃないの?てか、LV100の頃?だったら今は?と、セルフィ&アーヴァインがキスティスに目で問いかけたが、キスティスは『だから知らないんだってば!そんなの本人に聞いてよ!多分答えないだろうけど!』と、首を振るだけだった。


一方その頃キロスとクラウドは最初の部屋に着いていた。

「申し訳ない。足を引っ張ってばかりで」

「仕方ないよアンタジジイだから。今度からこんな無茶するな」

キロスは苦笑いをした。

「僕に今度は無いかもしれないよ?明日も無いかもしれない

………それに免じて嘘偽りの無いところを一つ教えてほしいのですが

気になってたんだけど、君は何故そんなに人を突き放すのかな

「面倒だから」

「それは嘘だ

多分、君は今までにもそう人に聞かれることが多かったんだろう

そしてそうやって用意していた答えを繰り返してきた

僕は君にそう聞いた人たちの気持ちが分かるよ

だって君は人に優しすぎるし、親切だ。とても分かり易く良い人だ

だから君の答えに相手がどんなリアクションをしてきたのか分からないけど、多分殆どの人はそれは信じてないと思う」

クラウドが睨むと、キロスは「まあまあ」と怒らないでと云うように掌をヒラヒラさせた。

「人を突き放すってのはね、相手が見えているからこそできるんだよ

見えてなきゃそんな事はしない………スコールくんやセフィロスくんの様にね

彼らは自然体で他人を求めていない、人に関心が無い

彼らの目に人は映っていても、彼らの意識の中では価値が低いから頭に入って行ってない

存在していないものは誰も突き放しはしないだろ

だからスコールくんやセフィロスくんが相手では、思わぬところで肩透かしを食う

思わぬところで酷く傷ついてしまう。期待した事が自分に刃になって跳ね返ってくる

でも君は真逆

自分に近付く者を突き放し悪者ぶるけど、こうして一緒に行動してみれば自分を犠牲にしてまでメンバーを守ってる

それに君のセフィロスくんへの気持ちだって、彼よりも遥かに……申し訳ないけど、比べられない程に強い」

クラウドが怒りの表情をして見せたが、キロスはクラウドを見ていなかった。

……毒が廻り始めているのか俯き、心なしか息が上がり顔色が上気し始めていた。

「その証拠に彼は君にどんなに突き放されても、それを歯牙にもかけていない

気にならないんだ。君の感情が

…………こんな事を言えた義理ではないがあえて言わせてもらう…

ラグナがスコール君に近づけなかった理由、本当は僕にも分かってたよ…

親子だと分かった後もスコールくんはラグナに何の関心も持たず反応もしなかった

どこで会っても……ラグナもスコールくんも組織のトップだからね、会おうとしなくても色んな場所で顔は合わせるんだ

でも…………いつも、戸惑い照れるラグナを彼は一切の熱量を持たずに流した

…ラグナは基本バカだけど、そういうデリケートな部分が意外に、人並み以上にデリケートだから、分からなくなってしまった…どうしたらいいのか

それでもスコールくんが息子なのが嬉しくて嬉しくて………生きていてくれたことが嬉しくてラグナは……」

キロスが浅い息を繰り返し始めていた。

「…もしスコールくんがラグナを、君がセフィロスくんを見る様な目で見てくれていたら、悲しみはしても、ラグナも何かリアクションができた。………謝る事も、悲しむ事も、言い訳も………させてもらえた…したかった……

君はとても強い感情、憎悪に近い気持ちを、常に、セフィロスくんに向けている

………ちょっとね、ソレは…彼のような人には、ご褒美だと思うよ、人に対し熱量を持たない人種には……

君から、そんなに強い感情を向けて貰えて……きっと、たくさん、嬉しい、御馳走だ……か、彼には」


キロスは俯き、指で額を抑え、そのまま顔を覆った。

自分が感染してしまった事を悟ったようだ。

「……頭が痛い…

…ジジイの辞世の句だと、思ってこのまま言わせて…」

キロスは顔をあげ、充血し始めている眼でクラウドをチラッと見てから瞼を閉じ、両掌を合わせ、指先を唇に付けた。


「優しいクラウドくんに出会えたことを感謝します

クラウドくんにいつか、大切な人の温もりが伝わりますように」


再び顔をあげると、驚いているクラウドにキロスは穏やかに笑って言った。


「僕の願い、結構効くんです。信じていいよ」


生きている年数でいったらキロスよりもクラウドの方が本当は長い。

なのにキロスの方がずっと物事がマクロ視点で見えている。

それは彼が正しく年を喰って来たからなのか。

それとも人間関係に揉まれ続けて厳しい環境の中で生きて来たからなのか。


「…………やるなら俺のいないところでやれよ…」

クラウドは、そう体裁を取り繕い答えるのが精一杯だった。

「こういうのはね、本人の前で言うのが一番効きます」と笑い

「行ってください…」と俯いた。


頭痛が酷いのか額を掌で抑え、息も荒くなり始めていた。

クラウドは部屋を出るためドアに近づいたが、ふと足を止め、少しだけ振り返り言った。


「血清、できるだけ早く見つける

頑張れ、キロス」


キロスは俯いたまま片手をあげて応えた。

クラウドが部屋から出ると、中から鍵のかかる音がした。




迷い子6    NOVEL    迷い子8

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