迷い子6 「で、何があった?」 クラウドが緊急集合の理由を促した。 「攻撃が効かんヤツがおるのよ! ダメージ与えても直ぐに修復して、滅茶苦茶なパワーとスピードで突撃してくるモンスターがおる!」 興奮が覚めないセルフィが言うと、アーヴァインが声を震わせながらそれに続いた。 「スッゴイんだよソイツゥ!!僕、この館で見つけた使えそうな特殊弾…火炎弾、榴散弾、冷却弾……どうしてこの館にそんなものがあるのかは知らないけどとにかくあって、そのモンスターに使ったんだ全種類!ウウゥ」 「で?」 アーヴァインが話を止めてしまったのでクラウドが先を促したところ、ハシッ!!と震える両手でクラウドの手を握り、再び一気に爆発した様に話し始め…ようとしたが、その前にクラウドが握られた手を振り払い、「で?」と先を促した。 アーヴァインは手をワナワナさせながらも促されるまま話し始めた。 「死なないんだよ~アイツ!頭を吹き飛ばしても無いまま全力で追いかけてくるんだよ!!無いんだよ!?頭が!!無いの!!何で走るの!?何で追っかけてくるの~!! すっごい大きなゾンビで2m50cmくらいはあって、一応人型してるんだけど、で、でも、あ、あた、頭が無くても平気なんだよぉ~、勘弁してよ~!!なんで頭無いのに生きてるの~!!ねえクラウド!そんなのどう攻略したらいいの!? 皮膚が所々無くてさ、筋肉っぽいのとか筋っぽいのとかむき出しになってて、とにかくグロい!ヒットするとダメージはあるし動きも少しは止められるんだけど、直ぐに自己修復して凄い勢いで追いかけてくる! で、ダメージを与えたら与えた分だけグロくなって、骨とか内臓とかむき出しになってて、でも、でもメッチャ元気なんだよおぉぉアイツゥ!!!てか、鉛や火炎やら喰らった分だけパワーが増してるような気がした! 物っ凄っいスピードで!僕らの全力疾走よりも速くて!パワーも戦車レベル!もう本っ当っにっアバババ! あ、あいつ、僕らを追っかけてくる時に邪魔になったゾンビを片手で吹っ飛ばした!ゾンビがグシャーって汁飛ばしながら吹っ飛んでった! それに停まってた車にアイツぶつかったんだけど、車の方が吹っ飛んだんだ!しかもアイツは平気で真っすぐ!どこまでもどこまでも僕らを追って来るんだよぉぉぉ! ねえ、どうしたらいいと思うクラウド!?どうすれば良いの!?死なないんだよぉ!撃てば撃っただけゲッテゲテになって凄い元気で車をドッカーン!!て車が負けるって何?!ひゃあぁぁ~!!」 どれほどの恐怖を味わったのか勢いそのまま身振り手振りを交えて半泣きで表現したアーヴァイン。 おかげでキスティスもキロスも、実はクラウドもだが、既にグロはお腹いっぱいだったところへ投下され…… クラウドは鉄の傭兵精神で巧く隠したが、キスティス・キロスは「もう無理…」と、言いはしないが完全に顔面蒼白、震え涙目で「もう限界です...」「もう嫌」「帰りたい...」と、完全に態度に出ていた。 そこへセルフィの報告が更なる悪夢の世界へと突き落とした。 「なんかな?頭は悪いっぽいんや。追って来方とかスッゴイ真っすぐやし。細かい動きとか苦手っぽいし けどバンバン撃たれながらゲッテゲテになりながらすっごい元気に追いかけて来るし、しかも、何でか、「 S・T・A・R・S 」「 S・T・A・R・S 」「 S・T・A・R・S 」「 S・T・A・R・S 」て喉の奥で呪いみたいに呟き続けてんの!もう、今ここで!STARS辞めます!って言いそうやった!言ってもどうせ聞いてくんないから言うたらんかったけど!!そんな余裕も無かったけども!! とにかく!何か対応策を練らんと次アイツに見つかった時には逃げ切らんと思うわ!本気でアレはヤバイ! 見つかったら最後、鉄のドアをロックしてもドアぶん殴ってひん曲げてぶち破って追ってくるし!すっごいスピードで追いかけてくるし!!ね、どうしたらいいの!?てか、あんましユックリもしてられへん。アイツ絶対にそのうちここも嗅ぎ付けてくる! さっきアーヴァインが頭吹っ飛ばしたしセフィロスさんも両足スッパリやってくれたから少し時間は稼げたけどな!てか自己修復てなんやねん!今、言ってて自分で思ったわ!ゾンビがなに修復しとんねん!どんな理屈やねん!生物のルールに則ってさっさと死ねっちゅーねん!もう死んでるけども! もう、ホンマに嫌じゃ―――――――!!こんなん嫌やあぁーーー!!」 話しているうちに悪夢が蘇ったのか頭を掻きむしりながら叫び出したセルフィ。 アーヴァインがそんなセルフィを抱きしめた…というよりも、あまりの恐怖に互いに抱き合って震えていた。 「頭が無いのに追いかけて来るのか?」 慄く内心を巧く隠し平静を装ったクラウドの問いかけにセフィロスが応えた。 「どこを吹き飛ばしても追ってくるのだから要するに粘土細工のようなものと思えばいい。頭は飾りだ だが状況や我々を認識する器官はどこかにある。かなり鈍いようだがちゃんと追いかけて来るからな ポイントは奴が何故我々をSTARSと言うのか、の様な気がする 我々は今、エスタの防護服を着て顔もマスクで隠れている。どこにもSTARSを特定する部分が無い」 「そっそっかなぁ!?ポイントはアイツが何をやっても死なないってことじゃないかなぁ!?」 「黙れ」 アーヴァインがビビリそのままに反論したところをセフィロスが一言、沈黙を命令した。 そのセフィロスの視線の先には握った手を口に当てて"STARS認識"について熟考しているクラウドがいた。 皆それぞれに思うところはあったが、セフィロスの無言のプレッシャーにより全員がクラウドの答えを待つ状態となった。 クラウドが可能性をピックアップした。 「1、敵が事前にSTARSがエスタの防護服で突入するのを2m50のモンスターに摺り込んでおいた ウェスカーが敵側にいるんだ、そのくらいは教えていても不思議じゃない 2、俺達の情報を持った敵が俺たちの行動を監視していて、そのモンスターに何らかの形で情報を流している 3、一番単純な理由だ。この館…この町で生きてるのは俺達と敵側しかいない 敵側は安全圏に入っていて、そのモンスターは単純に生きている者を襲うため追っている」 クラウドの出した可能性に対しアーヴァインは震え躊躇いつつ言った。 「1番だったら君達みたいに僕らも着替えたら済む話だけど…きっとそう甘くはないよね、アイツ(ウェスカー)の性格を考えたら………うん、それは無い でも2番と3番だったら、とにかくアイツ(2m50cm)をナントカする以外には無いよ?だってアイツ、動きは大雑把だけど、確実に僕らを殺そうと追いかけてくる 次見つかったら本当に誰か一人くらいは犠牲になると思う とにかく滅茶苦茶な速さで周りの物を薙ぎ倒しながらどこまでも追いかけて来る!」 「なら次にソイツに会った時には必ず殺る、決定! 他にもそんなタイプがいるならその都度殺る、殺られる前に殺る!それで前に進む!これでいいな!」 相手の恐ろしさを知らないからそんな強気な事を言えるんだ!とセルフィが反論しかけたのを察してクラウドは更に一段声を強くして被せた。 「お前ら!逃げる時は逃げるだけで必死だったろ!逃げ切る以外に何も考えられなかっただろ! それで逃げ切って今気持ちが緩んでビビってる! 要するにお前らは今、余裕があるんだ! お前らここがどこだか、俺達が何でここにいるのか忘れてるだろ! 俺らは殺される前提でここにおびき寄せられてるんだ!ヤバイモンスターが出てくるのは当たり前だろ! 死にたくなきゃ戦え!ビビるのは無事この町を脱出してからだ!」 確かにその通り、たが、アーヴァインが反論した。 「でも、でも、じゃあどうしたらいいの?アイツは攻撃はほぼ効かないんだよ!?」 それに対するクラウドの答えも簡単だった。 「魔法は試したか?レイズとかアレイズはやってみたか?ゾンビ系にはファイヤーが効くだろ? ソイツ、屋外にいるんだろ?火炎弾とかじゃなくて、もっと強い火力で試したか?」 「あ……」セルフィとアーヴァインが揃って声をあげた。 「アーヴァイン! お前よりもずっとキャリアの長いウェスカーが本気で殺りにきてるんだぞ! お前に気を緩めてる余裕なんか無い! それとセルフィ、多分ソイツはこの宿舎にいる限りは襲って来ないと思う 2m50cmなんてデカさだったら、こんな狭い通路の低い天井だらけの宿舎で身動きが取れない」 「あ、あ、そっか!」 笑顔になりかけたセルフィに、意地悪そうにクラウドが続けて言った。 「でも今から中庭に出るけどな?」 クラウドが微かに笑ってキスティスを指さした。 するとキスティスが泣きそうな顔のまま手をブルブルさせながら皆にクレスト3つを見せた。 「マジでぇ?」 再び青ざめたアーヴァイン。 「アーヴァイン!」 ビクッと反射的にアーヴァインがクラウドに顔を向けたその時にバシッ!…頬を叩かれた。 「いちいちビビるな!それがウェスカーの思う壺なんだぞ! お前は銃の腕も一流、勘も良い、だったら何でウェスカーにナメられた!何でお前なら堕とせると思われたんだ! お前はウェスカーの思い通りこのラクーンに呼び寄せられて、思い通りこの館に誘い込まれて、思い通りビビって、思い通り殺されるのか! お前、そんなんでいいのか!! 怒れ!もっと怒って怒りを味方にしろ! 相手はベテラン!お前はペーペー!ここはアイツが誘い込んだトラップの中! お前なんか全力で向かわないで勝てるわけがないだろ!そんなんじゃ本当に死ぬぞ!誰も守れないぞ!いいのか!それで!」 アーヴァインを見上げ睨みつけているクラウドは、最初の清廉で繊細な美青年の印象とは違い、メンバーを引っ張る頼りになるリーダーの姿だった。 クラウドは自分の頭をトントンと指さし「クールに」と言いその後で「怒れ」と追加アドバイスをした。 「うっ、ありがと、クラウド…… ちょ…ちょっとスコールを思い出し……った…」 微かに瞳を潤ませるアーヴァインにクラウドは口端を片方だけ上げて応えた。 "スコール、お前散々言われてるけどカナリ苦労してたんだな……アーヴァイン、ヘタレ過ぎだ………" そう思う端でセルフィがアーヴァインと真逆の爆発を起こした。 「ていうかもう全部、この館事全部!燃やして終わりにしない? もうウンッザリや!!こんなキモイのばっかり次から次へと!付き合いきれん!頭、おかしくなる!」 ……次はこっちか……気持ちは分かるが、とウンザリしたクラウドだったが、そんなセルフィを宥めたのは意外にも… 「気持ちはすごく良く分かりますが、それをやってしまったら状況はもっと悪くなると私は考えます 2m50の自己修復モンスターにしろ、クラウドくんが戦った大蛇にしろ、どう考えても異生命体です 確かにラクーンは隔離された街でしたが、管理はエスタの省庁側にあり、他にも6科学施設があり、そこと”異動”という形で互いに交流・監視し合わせてもいました つまり今回の騒動の根はもっと深いところにある。ラクーンだけでは終わらない 私は今回のこのラクーンバイオ汚染は敵側の狼煙(のろし)だと思っています 何故ならSOSはラクーン側から送られている。そしてラクーン側から情報が遮断され、町に入った者は全員死んでいる もしここで全て燃やしたら、敵側の証拠隠滅をしてやることになる 今我々にできる抵抗は、敵側が残した様々なモノを持って帰ることです そしてそれが最も敵側が恐れている事です 君たちの先輩マリーニーも、『飼育員の日誌』が重要な足掛かりになると思ったからこそ君たちに託した マリーニーが命がけで遺してくれたんです あれから推測できたことはたくさんあったでしょ? もし犯人グループの真の狙いがエスタ本国だったらどうなります? エスタは世界最大国です。重要人物も情報も溢れています そこでここのようなバイオ汚染を起こされモンスターを放たれたらどうです? 世界の終わりです。脅しじゃありません。それだけエスタは世界を下支えする戦力も兵器も金も持っています」 「うん。まー、エスタがご立派な組織と戦力を持ってるのは知ってるけどねー。でも役に立ってなかったんだよね~。このバイオテロに関しては~」 キロスが年寄りくさくまだまだ説教を垂れようとするところを冷静になったアーヴァインがザックリと切り取った。 「アカーンで、アービン。キロスさん今良い事ゆってんねんから、黙っといたり!」 キロスの擁護をするふりをしてセルフィがアーヴァインに乗じた。 そんな2人を見ながらキロスは苦笑いをした。 キロスは年喰ってるからかエスタの重鎮連中に揉まれて来たからか、メンタルがタフだ。 話が長いのは困るが、戦闘力が無くても意外に頼りになる。 アーヴァインはその真逆だ。精神面がヘタレだが勘は良いし傭兵のセンスもスナイパーの腕も文句なく一流。 頭が覚めた状態のアーヴァインのままでいてくれれば相当頼りになる。 この冷静ささえ手放さなければ、会った事も無いがきっとベテランウェスカーにも勝てる、クラウドは思っていた。 「とにかく、もう絶対的に犯人を見つけて事の真相を探り出さないとこの町からは出られない そう思っておけばいいのよ。他に選択肢があると思うと逃げたくなっちゃうから それとこの館にはとんでもないモンスターがいる。次に見つけたらレイズ、アレイズ、それが効かなければファイヤー系をやってみる。 それと……1つ…言いたくないんだけど、一応皆で確認しておいた方が良いと思うから言うけど…」 そう前置きをしてキスティスが話した。 「1度目東階段前を通った時は人型ゾンビが4体ウロついていて始末して進んだ さっきここに来る途中2度目にそこを通ったら、背中に無数の子を背負った巨大毒蜘蛛が3体ウロついてた 巨大なのに動きが早くて子蜘蛛で拡散するっていう…胴体の幅が通路いっぱいにあって……う…っ… 最初に通った時は人型ゾンビだけでそんなものの影も形も無かった これはもしかして犯人がモンスターをレベルアップさせてる……んじゃないか…と思うんだけど…… 弱いのがやられたらもう一つ上のレベルのモンスター…みたいな ギミックだってあのピアノにしたって鬼畜レベルだし、噴水の部屋にしたってクラウドの戦ってる音だけでも、とんでもない音がしてた とりあえず生きて返す意思が無いのは分かるけど、これって何?できるだけ弱い戦力で始末したいのか、それとも私たちの力量を測ってるの?」 キスティスの報告に応えたのはセフィロスだった。 「何を測っているのかは分からんが、確かに測ってはいるようだ 但し敵側の最終目標がSTARSの命でないのは確かだ STARSの力量を単純に測りたいのなら、街一つを壊滅させ国を動かす必要などない 実質この町を管理していたのは製薬会社アンブレラだから、奴らの尻尾を捕まえた時に聞き出せばいい」 「え?」 「噴水の大蛇の鱗はライフルの弾も跳ね返し、全長が30m身幅が1m超えているのに攻撃スピードが70km超えていた。2m50cmの奴にしても同じ 奴らは人工的産物だし計画的に出現している。 あんなモンスターを作るには莫大な金が必要だし、あそこまで巨大なものは管理にも相当な環境と資金が必要だ 莫大な金というのは目的があやふやでは動かせない。特に国は出さない あのモンスター開発・管理にかかる金からしても、ラクーンシティはとっくの昔にエスタの手を離れ、アンブレラの研究室となっていたはずだ それと飼育員の日誌に出て来た射殺された研究員、あそこでは1名しか登場していなかったが、恐らく他にもたくさん殺されている 誰も彼もがこんな反社会的な研究に加担するわけがないし、特に他の研究所から移動してきた研究員はその異常性に気付くのも早いだろうし違和感も強い 恐らくそういう連中こそ積極的に餌にされたか実験体にされたはずだ で、キロス。アンブレラが金を出しているのはラクーンだけか?他の研究所には出資はしていないのか?」 セフィロスが言った。 が、それを聞いた他の皆の反応はそれぞれに"…………ちょっと……あれ?今、引っかかたんですけど…"と思っていた。 しかし先ずは聞かれたキロスが答えた。 「えと、アンブレラとここまで強い繋がりがあるのはラクーンくらいです 実は本国もアンブレラのラクーンでの強権を何年も前から問題視していまして、なんとか関係を薄くさせようとしていたのですが、そもそも市・館長が2代目からアンブレラ出身ということもあり金も惜しまず出すのもあって、なかなか思うようにいかず………」 そう言いながらもキロスはキスティスに目配せをし、それを受け取ったキスティスが話を継いだ。 「あの、セフィロスさん、少しだけ伺いたいんですが…… 噴水の部屋、クラウドしか入っていなかった筈ですが… あの後クラウドが硫酸霧が出てるからって締め切ったんですが、いつ中を見られたんですか?」 キスティスは言いながらセルフィに目配せをした。 「ていうかセフィロスさん、私らの班やん?…なんか時々いなくなるなぁとは思ってたけど………」 「物凄い音が噴水の部屋からしていたから興味があった お前たちが去った後でどんなものと戦ったのか確認した あれはクラウドでなければ倒せなかった」 セフィロスはドヤ顔で宣言したが、クラウドは『自分は違う世界にいてここの話など何も聞こえていない。関係ない!』とでも言いたいかのようにそっぽを向いていた。 アーヴァインは「触るな危険」の2人だねと、こっそり思った。 結局とりあえずは6人全員私服になって一緒に行動をすることになった。 もし2m50cmが現れた場合、全員が私服に変えているので事前インプットで動いていた場合追って来ないはず。 追って来た場合はモンスターの可能性は2か3番、そうなった場合死なないモンスターとその場で戦闘開始となる。 クラウドを先頭に、キスティス、キロス、セルフィ、アーヴァイン、セフィロスの順で歩いた。 中庭に抜ける扉のある場所は1階が通路になっていたが、2階はテラスになっていて屋外の空が見えていた。 クレストを嵌め込むプレートの近くまで来た時にクラウドが歩きを止めた。 後ろを歩いていたキスティスがその視線の先を見たところ、2階のテラス部分にカラスが異常に群れてギャアギャアと騒いでいた。どうやら食事中のようだった。 ゾンビは非感染者の肉を求める…………ということはアレは… 「………さっきは犬に追われてて気が付かなかった…」 セルフィが青ざめて言った。 「…………」 クラウドが口の中で何かを呟いた途端、何十羽と群れ狂っていたカラスたちがテラスの内側外側関係なく全て凍り付き、ボトボトボトボトッ!と落ちた。 クラウドは1階にあった石像の台座部分を足場にしてジャンプし、2階テラスの手すりに掴まり、壁を蹴って体を回転させテラスに降り立った。 そしてカラスたちの食材になっていたらしいモノをよく見るためにしゃがみ込み、皆の視界から消えた。 「ワァ~オ!ニンジャだ!」思わずアーヴァインが小さく拍手をした。 直ぐに立ち上がったクラウドはテラスの手すりに足をかけ、蹴ってそのまま1階に飛び降りて来た。 その手にはドッグタグが握られていた。『ケネス・J・サリバン』 「……………………全滅………」 キスティスが呟いた。 「多分ここにその2m50cmが来てサリバンはあのテラスまでぶっ飛ばされた 首から肩にかけて粉砕骨折してた その後でカラスに喰われた感じだった。殆ど骨になってたから多分2日は経ってる でもここまで来れたサリバンは十分優秀だった 俺達は生きて帰ってエスタとSTARSに報告する……だよな?キスティス」 「…………ウェスカー……味方を裏切るなんて…絶対に許さない…」 怒りに震えるキスティスにクラウドが全く同じ目線の高さで 「そうだな、頑張ろうぜ」と、優しく頷いた。 キスティスはプレートにクレストをはめ込みながら考えていた。 『クラウドは女性に優しい。 同じ土俵に立つ傭兵であっても、どこかフェミニスト精神で女性には優しく対応する。 このルックスでこの性格だったらさぞや今まで女性にモテてきただろうとは思うけれど、何故だかクラウドからは女性の匂いがしない。 こんな事を考えてる場合じゃないんだけど、でも女性経験がそれなりにある男性は話せばすぐに私には分かる。 話し方、目線の配り方、仕草、男はどこかに必ず女性の履歴を刻んでる。私はそういうのを見抜く自信がある。 でもクラウドからは全く女の臭いも履歴も読み取れない。 女性経験がカウントできないほどゼロに等しいかゼロか……………ゲイ…? ……多分、違う。 ゲイはゲイのオーラを持ってる。 セフィロスさんみたいに。 クラウドはセフィロスさんにストーカーされてるみたいだけど、多分、間違いなくこの2人にはその繋がりは無い。 ていうか実年齢がイマイチ理解できないのだけど、クラウドはとっくの昔から大人で、ずっと若い体のままでいるらしい。 だったら性欲もそれなりなはず。性欲を持て余す状態で何十年も生きていて、性欲の臭いも履歴も全く感じさせないってどういうこと? クラウドってなんだか一度も精通していないような穢れなさがあ……』 「あ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「「「なな!!どうした!?」」」 キスティスの突然の叫びにプレートに何かトラブルが起きたのか!?と、皆が一気に緊張をしたが、キスティスは鬼気迫る表情で微かに指先を震わせ、サンクレスト、ムーンクレストに続きスタークレストをプレートに嵌め込んだ。 『そうよ!不能なんだ!!クラウド!!!そうよそうよ!経験がないのは当然!勃った経験が無いのよ! だから女の履歴を感じないし、セフィロスさんのアプローチも違和感しか感じないんだわ! 精通前の少年!!絶対そう!!それだ!クラウドにはそれが一番しっくりくる!!』 最後のウィンドクレストを嵌めた時にギミック解除の音と共に、中庭への鉄の扉のロックが外れる音がした。 「キスティ?どした?ごっつい真剣な顔してクレスト嵌めてたけど、何か気になる事あった!?」 セルフィが聞いて来た。 クラウドに関する大発見についてセルフィと分かち合いたかたけれど、サスガにこんな下世話な話を人と分かち合っていいはずもなく、そんな場でもなく! でも凄い発見!!ていうか世紀の大発見!だってこんな食べ頃ハンサムが長年童貞とか!!童貞!ワオ!!こんな美味しそうな子が!!ワオ!! こんな美味しそうなのに不能!!すごい!あぁ、言いたい!誰かに言いたい!!この気持ち、誰かと分かち合いたい!! 帰ってクラウドと一生接触しない子と、この奇跡について共感し合って……ダメ、そんなの分からない。 未来がどうなるかなんてサイファー達が別次元へ、クラウドたちが私達の世界へ、ディアボロスがあんなに絶世の美人で、スコールが召喚神に………未来なんてどうなるか全然分からない。全く読めない。 そうだ!帰ったら匿名掲示板に書き込もう!
これを書くまでは死ねない!ネタ乙!とか言われようとも書く!絶対に死なないから!!書かなきゃ!書く!絶対に書く! 「………アンタ、凄い気合い入ってるな………」 何故か上気しハアハアしているキスティスに少し怯えながらクラウドは「飛ばし過ぎんなよ?」と心配した。 キスティスはゴクッ!と生唾を飲み込み、(と、飛ばす、、色んな意味があるわよね!)ウン!ウン!!と自己完結し頷いた。 解除された扉の前に立ち、開けずに扉の向こう側の気配を呼んでいるクラウドにセフィロスが言った。 「クラウド、コイツラも傭兵だ。活躍させてやれ」 ハッとしたようにクラウドが後ろのメンバーを見ると、上気したキスティスがテーブル拭きの雑巾で汗を拭いながら微笑み、アーヴァインが頷き、セルフィがウィンクをし親指を立てた。 「…扉のすぐ傍に3匹、少し離れて4匹犬がいる 扉の傍の3匹は開ければ直ぐに飛びかかってくると思う どうする?全部お前らやる?俺、手伝う?」 「アービン!早撃ちの魅せ処だ!行け!」と、セルフィが指さした 「オッケェ~イ!んじゃベレッタ貸して!」と、キスティスとセルフィにそれぞれ手を出した。 「中庭のは全部、僕にまっかせなさ~い!」 両手にそれぞれベレッタを持ち、小首を傾げ少女が大人にお願いする様にチャーミングに、しかし言葉は強気に 「扉を開けてくれたまえ、クラウドくん」と言った。 クラウドは笑い「いくぞ!」と言うと、一気に扉を手前に開いた。 途端、皮膚がズル剥け筋肉や血管がむき出しになったゾンビ犬が3匹…姿が見えた瞬間、飛びかかって来るよりも早くババンッバンバン…バンバン! 途中からセルフィとキスティスは耳がおかしくなってきて音が良く聞こえなくなったのでアーヴァインが何発撃ったのか分からなくなっていたが、手前の3匹が全部ヘッドショットで倒れたところでベレッタを放り出したので2人は慌てて受け取った。 そして一際大きなバァーンッ!バァーン!という音の連続に顔を上げると、ショットガンで植込みの向こう側から飛びかかったり走ってきたりしていた犬を2匹撃ち抜き、そして奥に歩いて行きながら走り出してきた残りの2匹をショットガンで始末した。 中庭に動くものがいなくなったのを確認したアーヴァイン、クルッと振り向き皆に言った。 「さっきの犬よりもヤバさがグレードアップしてる!」 撃ち殺されたゾンビ犬をチェックしていたセルフィが「してるね」と賛成した。 「クラウド!良い物があるぞ!」 庭の奥にあった小屋に進んでいたセフィロスが、中からクラウドを呼んだ。 「若干一名、どこまでもマイペースな人がいるね…」 ややウンザリした様にアーヴァインが言うと、セルフィが「いるね」と疲れた様に答えた。 大人しく付いて来ていたキロスが遠慮する様に言った。 「若干人生経験の長い私が言わせていただきますと 彼は自分が必要な時を心得ています ああして遊んでいるように見える時は君たちがちゃんと活躍していると彼が認めている時だと思いますよ?」 セルフィも溜息を吐きつつ言った。 「そういや、空気読まないマイペースなのは私ら慣れとったな ……まー、道から外れっぱなしでないだけマシか…」 「僕、スコールのマイペースさは好きだったよ………」 「……………過去形はちゃうよ」 「直ぐにさ…どこかに逸れて行っちゃうから、仕事に戻すのに皆でスコールの気の引き方とか興味の持たせ方とか、一生懸命考えたよね あの戦いはさ………楽しかった…」 セルフィはアーヴァインの腕に手を絡め、その腕に頭を凭せ掛けた。 「死んでない、絶対に…ね?」 セルフィが頭を凭せ掛けたままアーヴァインを見上げた。 「………」 アーヴァインが辛そうに声に出さず頷くのを見て、セルフィのスコールへの拘りの5割はアーヴァインの分なんだな……とクラウドは知った。 クラウドが最後尾で部屋に入って行くと、セフィロスが投げてよこした。 「!」 驚き思わず受け取ると、それは大剣ザッシュソードだった。ファルシオンの2倍くらい大きい。厚みも重量もあって切れ味も鋭そうだ。 「先ほどの大蛇でソレもボロボロだろう?新しい方に替えた方がいい。俺もなかなか良いものを見つけたぞ」 セフィロスは手に持っていた長剣ブラックブレイドを持ち上げた。 そんな2人の剣を見たセルフィが眉を寄せた。 「…チョット変過ぎません? セフィロスさんのソレもクラウドのソレだって、どう見ても何十万とか下手したら何百万ギルもする代物でしょ? しかも剣の中でもカナリ特殊な方ですよね?扱える人が凄く限定されとる。それこそセフィロスさんとクラウドしか扱えへんのと違う? ここバイオ研究施設ですよ?科学者の町 なんでそんなモノがここに無造作に置いてあるの?それにソレ、メンテしたてですよね! 絶対おかしいですよね?」 「我々はウェスカーに招待されてここへ来ている そして力試しのようなゾンビ系のモンスターや植物や念の入り過ぎたトラップ、随所に置かれている薬品・弾薬・ヒント そして手持ち武器が使い物にならなくなった頃のコレ 手荒い新入生歓迎のようなものと思っておけばいい」 「………手荒過ぎやん…ホンマ許されへん…… てか、だったら何で私の得意武器ヌンチャクやキスティの鞭はプレゼントしてくれへんの!? なんかここに来てから銃やら弾薬やらアービンばっかプレゼントされ過ぎ!あいつホモなん!?」 「人に聞く前に自分で考えてみたらどうだ」 同じように小屋の中で見つけたベレッタ92カスタムをアーヴァインに渡しながら、面倒になったらしいセフィロスが会話を放り出した。 だがセフィロスの言うことはもっともだ。 聞く前に考えろ、確かにそうだ。 だが、その言葉には説得力がない。 聞いてもいないクラウドに助言し、ウザがられてるのに話しかけ、パーティを離れてまで仕事の成果をチェックしに行き称賛しているセフィロスも、あんましプロの行動とは言えない。 「…セフィもキスティスもさ、ここに来てから自分の武器使ってないだろ? ヌンチャクも鞭も対ゾンビ用には役に立たないから、今は専門外のベレッタで戦ってる だからプレゼントする意味がないんだよ。ヌンチャクも鞭も」 アーヴァインの優しい言い方もセルフィは受け入れられなかった。 「でもぉ~………私も欲しい~………こんなご褒美欲しいよ~…私だって頑張ってるよ~ご褒美欲しい~」 ザッシュソードを撫でながら拗ねるセルフィにクラウドは微かに笑った。 「アンタ、見かけに依らず鋼の心臓だな」 するとセルフィは「ん?」可愛らしく微笑み小首を傾げ、両手を後ろで組み言った。 「私が可愛いって言ってる?」 クラウドは堪えきれないようにクルッと方向転換をし肩を震わせ笑った。 「なんで笑う~?」 セルフィが心外だ!とばかりにプンプンすると、部屋の隅にあった机の引き出しの鍵をキーピックで解除しながらキスティスが言った。 「あなたの徹底したポジティブ思考がお見事・な・の・よ!はい、解除!」 キスティスと共に机の中を探っていたアーヴァインが『極秘』と赤丸で判子を押されたファイルを見つけた。 そのファイルはとある研究員の日記のようなものだった。
「キロスさん、アークレイ山中って何か心当たり有ります~?」 アーヴァインがキロスにファイルを見せた。 渡されたファイルを驚きの表情で読んでいたキロスはみるみる青ざめた。 「んー?何か心当たりあるカンジ?」 読んでいるキロスにアーヴァインが聞いた。 キロスの眉間には深い皺が入っていた。 「…………アークレイ山中は…このラクーンが発足した当初稼働していたもう一つの研究施設です……… 設備が古くなったので……12年前に活動を休止させてこの宿舎付き施設1本に絞ったと聞いていました 12年前は………まだ初代市・館長の代でした…………」 「つまりラクーンは初代から本国を裏切りアンブレラの駒になっていた… 納得だな、モンスターにしてもこの館の造りにしても、この小さな町で秘密裏にできるものではない」 セフィロスの容赦ない分析にキロスは怒りを必死に抑え、強く強く震える手でファイルを握りしめ俯いていた。 「半端男 裏切る奴は裏切るつもりでアンタに対面してるんだから見抜けなくても仕方ないし、そんな事を今更悔やんでも仕方ない だが裏切られてた事が本当に腹が立つのなら、このバイオハザードをエスタで清算してから旅に出てもいいんじゃないか? その方がスッキリしないか?…余計なことかもしれないけど……」 こんな時に遠慮がちに言うクラウドの心遣いにキロスが思わず… 「君、本当に20代?」 図らずも良いカウンターを入れてしまっていた。 |