迷い子5



クラウドがラウンジに戻ると本棚の奥の壁の一部が少しづつせり上がっていくところで、その奥に細い通路が現れ始めていた。

「あ、クラウド。遅かったわね。解除よ」

キスティスがまだ流れ続ける汗をカウンターテーブルに置いてあったタオルで拭きながら嬉しそうに言った。


……どう見てもそのタオルはテーブル拭きに使っていた雑巾と思われたが、恐らくキスティス自身そんな事はどうでもよくなっているのだろう。

全ては現地調達。ピクニックじゃあるまいし、傭兵の基本だよな!と、クラウドは少し戸惑いながらも納得した。


「部屋の外にいた。あんた凄いな。良い曲だ」

「ありがとう…さすがに疲れたわ、ヘトヘトよ…ちょっと休憩させて」

「ああ、俺が中に行って調べてくる。座ってな」

「ありがと。お願い」

今まで張り詰め続けた緊張が解かれ、さすがに疲労の色が濃く出ている。

するとキロスが「お見事でした、女王様」と言い、キスティスの肩を揉み始めた。

どうやらキロスはそっち系のフィンガーテクがあるらしく、キスティスは非常に気持ちよさげに癒され表情で受け入れ、身を任せていた。


現れた隠し通路は人が一人通れる程度の幅、そこをmほど進んだ突き当りに台座付きの何かの胸像があり、その台座部分にゴールドのエンブレムがセットされており、よく見るとそれはキロスがダイニングで手に入れたエンブレムと全く同じ形、模様で材質が違うだけだった。

何となく予感がした。

先ほどキロスが言っていたギミック。

『良いライフルがあるけど取ったら部屋ごと潰される。壊れたライフルがあるので、それを代わりにセットすればギミック解除』

クラウドはラウンジに戻り、キロスに「木のエンブレム貸してくれ」と声をかけた。

キロスは何故クラウドが今そんな事を言いだしたのか分からなかったが、別に自分が持っていても誰が持っていても変わらないので、素直にクラウドに渡した。

隠し通路に戻ったクラウドは先ず、台座から金のエンブレムを外した。

すると、さっきはゴゴゴゴ……とゆっくりゆっくりせり上がっていった壁が一気にドッッシャーーン!!と地響きを立てて落ちて、隠し通路にいたクラウドは突然ラウンジと遮断された。

一応、金のエンブレムを元の場所に戻してみたが何も反応しなかった。

そこでキロスから借りた木のエンブレムを台座に嵌めると…閉まっていた壁がゴゴゴゴ…とユックリとせり上がっていき、グランドピアノの椅子に座って驚いているキスティスと、その肩に手を置いたままフリーズしているキロスと目が合った。

壁が天井まで上がり切ったところでクラウドは通路から出ながらキロスにゴールドのエンブレムを振って見せた。

「お前の事は今度から"半端男"と呼ぶ」

背後で再び壁がゴゴゴゴ…と、ユックリ閉まっていった。


「…ねえ…こんなのがこの先も続くの半端男」

キスティスが怯えたように、だがシッカリと毒を吐きながらキロスに聞いた。

「…続きます

つの国立研究所は選りすぐりの科学者たちを集めた町なので、不用意な情報の流出を避けるための仕掛けの指示を出していたそうです

ですが、どうもラクーンは担当した建築家と化学者達がやたらとそこに入れ込んだようで、こんな恐ろしい館が出来上がっていました。当時の市長は喜んでましたけど

というか私も十数年前に一度案内されただけですからそんなに細かくは覚えてないですー

ホント、すみません……」

今のはクラウドが気が付いていなければキスティスはまた最初からやり直しになるところだった。

だが一度切れた緊張の糸はそう簡単には戻せない。

難しいピアノを弾くことはできても15分間、誤差秒はベルリンの壁の様に高い。

キスティスと共に挑戦していたキロスには、その目一杯限界まで引っ張られた緊張の糸が見えていた。


「謝る必要は無い。実際アンタは凄く役に立ってる。アンタがいなきゃ多分このギミック自体にも気付けてない

ただ情報が中途半端だよなって話だ。半端男」

クラウドは楽しそうにキロスを口撃をした。

するとキスティスが心配する風を装って更に追撃をした。

「クラウド、気を付けた方が良いわよ

この半端男、スッゴイ執念深いから。絶対にどこかで洒落にならないカウンター入れてくるわよ

「へーじゃあ愉しみにしてるぜ、半端男。良いカウンターを入れてくれよ

更に楽しそうにクックックッ…と笑いながら言ったクラウド。

キスティスと人してキロスを苛めている図だったが、そんな笑い合う2人をキロスは心より尊敬できた。

仕事で己の持つ能力を最大限、それ以上に引き出して対抗し、たった一つの命を捨てる事を厭わない本物のプロ。

潔く傭兵だ。

普段高官・政治家に囲まれ、こいつは人間じゃなく贅肉と糞のカタマリだ、などとウンザリ辟易する時も多くあったが、全てを捨ててここに来てみれば…あぁ自分も十分染まっていたな…とキロスは気付かされた。

この2人の仕事は美しい。

ここラクーンでどんな結果が待っていたとしても、来て本当によかったと思えた。


「あんたはもう少し休憩してろよ。俺、ちょっと気になる事があるから。すぐ戻る」

言いながら部屋を出かけたクラウドをキスティスが慌てて呼び止めた。

「待って、ダメ。一人行動は駄目よ。クラウド、何が気になってるの教えて

「あー…大したことじゃないんだが…ダイニングの暖炉からエンブレムを取ったろ今あそこは取りっ放しの窪んだ状態だ」

「ええ、そうね

「もし俺がこの仕掛けを作るなら、あそこにゴールドの、このエンブレムを戻さなければ先に進めないようにする

そしたらどの段階まで仕掛けが解除されてるか一目でわかるだろ

あそこに木のエンブレムがあったら解除、エンブレムが無かったら段階解除、金のエンブレムが嵌っていたらピアノの仕掛けと台座の仕掛けが解除された段階解除済みってことだ」

「そ…」うね、その通りだわ。と言いかけたキスティスよりも段階くらい大きな声で「あ!!!」と、キロスが叫んだ。

「ちょっ!?耳元で叫ばないで半端男!!

「そうでした!!!そうだソレだ!!そのゴールドのエンブレムをあの暖炉に嵌めるんだ!!そうだったエンブレムじゃ中庭ギミックは解除できないそうそうだった

さっきのダイニングに戻って木彫りのエンブレムがあった場所にそのゴールドのエンブレムをはめます。

そうするとダイニングの何かが動いて小さな金庫が出てきて、その中にクレストがあるので取って、それが中庭キーアイテムになるのでした

で、もう一つのクレストはダイニング奥の部屋を抜けて、絵画が並んでいる通路があるので、そこのギミックを解除すると出てくるんでした

「あぁ、そこならもしかしてセルフィ達がもう解除してるかもしれない。さっき会った時にあの辺の鍵を開けまくってたみたいだったから。ちょっと聞いてみる」


クラウドはトランシーバーでセルフィを呼び出した。

『もしも~し。こちらセルフィ

「クラウドだ。そっちの進行状況を教えてくれ」

『えーとね、宿舎階の地図をゲットしました

それと南側の廊下はゾンビ犬がウロウロしてます。窓を突き破って突入してきます。チョーヤバイ気を付けて

絵画のギミックを解除してスタークレストをゲットしました

でもって絵画の通路にいる大量のカラスもゾンビです。超襲って来る数がやたらと多いから銃を使うと直ぐに弾が無くなっちゃうから逃げた方が効率良いよ

それで今は屋外に来て中庭のドアの額にスタークレストをはめたんだけど、ここにはあとつはめる必要がありそうです

でもってここにも犬のゾンビがたくさんいます。とりあえず犬は退治しておきます。以上セルフィからでした~』

「了解。こっちはピアノのギミックをキスティスが解除した。この後回ダイニングに戻る予定だ。一旦切る」

トランシーバーを切ってからキスティスに聞いた。


「あとつのうちつはこれからダイニングで手に入れる。

そうしたらどうする

キロスがキスティスの腕を解しながら答えた。

「あの~、絵画の方が解除済ならあっちまで行くのは度手間になるので、どっちが先でもいいのでダイニングの左奥を抜けたつ目の扉の部屋が噴水の部屋になってます

その部屋の奥の壁に大きな盾がかかっていて、その盾の裏に鍵があるのでそれを取ります。それと噴水の台座をズラすとクレストがつ隠されているはずです」

キロスは地図を示しながら言った。

「分かった。じゃあ俺はダイニングに行ってクレスト回収とついでに噴水の部屋に行って来る

ヤバそうだったら直ぐに引き返すか連絡を入れる。だからアンタ、もう少し休んでろ

そっちも何かあったら呼んでくれ」

クラウドは懐のトランシーバーを指して言った。

「クラウドありがとう。気を付けてね。でも本当に何かあったら直ぐに呼んで

私ももう少し気力が戻ったら追いかける」

まだ疲労の色濃いキスティスに手を振り、クラウドは部屋を出た。


先ずダイニングに行き、木のエンブレムの嵌っていた場所にゴールドのエンブレムを嵌めた。

するとガチンッと音がして、階ダイニングに飾ってあった柱時計が横にガガガ…とズレてゆき、柱時計のあった部分に埋め込み式の"金庫"が見えた。

キロスの言うその"小さな金庫"には鍵が付いておらず、蓋もガラス製だった。

"こういうのショーケースっていうんじゃないのか…まあ、隠してあるんだからショーにはなってないけど"と、クラウドは思った。

隠しショーケースからムーンクレストを取り出し、来た道を戻って噴水のある部屋の前まで来たら…死体があった。

ゾンビではない。単純に死体なのだが、エスタの防護服を着ている。つまりSTARSブラヴォチームの奴だ。

見た感じゾンビには喰われていない。

だが腕と胸はほぼ溶解して骨まで見えており、溶けていない部分の防護服は異常に摩耗して身体はおかしな方向に曲がって、まるで絞り終わったボロ雑巾のような状態になっていた。

死体の位置、向きからいって…コイツを殺した奴は噴水の部屋にいる

直径mの頭を持つ硫酸系の毒を放つ牙のある生き物、強い力で骨が肉を突き破るほど締め上げる奴。


『どんなに優秀な傭兵でもこんな現場で身内に計画的に裏切られたんじゃ生き残れない。

アンタの運の尽きはウェスカーのチームに配属された事だったんだ。アンタがマズったわけじゃない』

心の中で声をかけクラウドはドッグタグを外した。

『リチャード・エイケン』

これで死者ブラヴォチーム人。あとはサリバンが生き残ってるかウェスカー側に付いてるかだ。


遺体を通り過ぎ、扉を開けたらゾンビ化した植物が部屋の中央の噴水周辺に巣食って蠢いていた。

数株が天井に届くほど大きく成長し何本もの太い根...の様に見えるが多分触手なのだろう、植物のはずなのにまるで生き物のようにウネウネと動いていて、その中心で噴水が絶え間なく透明な水をザアアーーと噴き出し続けている。

試しに手持ちのファルシオンで数株薙ぎ払ってみたが、切れはするが直ぐにその根元から新しい太い触手が生えてきて、逆にクラウドを捕まえようと伸びて来る。

何を栄養源にしているのか知らないが、ともかくこのゾンビ植物は人間も捕食枠内らしい。

だがエイケンはコイツにやられたんじゃない。

コイツには硫酸は無いようだし、ボロボロに摩耗させるものも、骨が肉を突き破るほどに締め上げる力もなさそうだ。

植物のゾンビは何が致命傷なんだ切っても直ぐに再生するなら、どこをヤればいいんだ

とにかく部屋の真ん中でウネっているゾンビ植物をなんとかしないと、その向こう側の壁にある鍵のある盾まで辿り着けない。

というかゾンビ化してるくせになんで再生するんだ死んでるなら除草剤も効かないだろうし…ゾンビには回復薬がダメージになるんだが…

「あ

閃き、クラウドは懐からトランシーバーを取り出した。

「キスティス。ブラヴォチームの奴が見つかった。リチャード・エイケンって名前だ。死んでる」

『今からそっちに向かう

「駄目だ。噴水の部屋が狭すぎて人数がいると逆に動き難い。とりあえずこれが終わったらそっちに戻るから待っててくれ。それとキロスを出してくれ」

『クラウド、一人でやろうとしないで。何か仕掛けあるんでしょ

「アンタも一人でギミック解除したろ。俺は俺にできる事をやる。ここは人数がいたら逆に邪魔になる。それだけだ

邪魔するな」

『…………』

「早くしてくれ。こんな所で時間取られたくない」

『はい

キスティスが無言で渡したらしい、キロスの声に代った。

「植物の栄養剤とか活性剤はこの館に置いてあるか

『え、植物……あー、あると思います。植物の研究もしてますから

あるとしたらー………東階段下の物置にあると思います。応援、本当に行かなくていいんですか

「いい。お前、邪魔。終わったら戻る」

『…了解しました。気を付けて。P・Sもう少しだけ歯に衣を着せて頂けるとありがたいです。軽くハートブレイクです』


いつもコミュニケーションでいらぬ敵を作ってしまうクラウドは、キロスの冗談任せの返しが有難かった。

通信を切り噴水の部屋を出て東階段に向かい、荷物置き場でアンブレラ社製の栄養剤と成長促進剤を調達し、元来た道を戻った。

部屋の前まで戻るとエイケンの遺体を調べているセフィロスがいた。一人だった。


「向こうは鍵開け待ちになっている」セフィロスが言った。

「…………」

だからってなんでお前がここにいる。と、思ったが何も言わない方が良いのでクラウドは黙って通り過ぎようとした。

「クラウド、先にキスティス達を呼んでおけ。中には巨大なモンスターがいる」

それでも何も答えようとも連絡を取ろうともせず、部屋に入って行こうとするクラウドに何を思ったのか、セフィロスは状況の詳細を話し始めた。

「これは噛まれた箇所だけでなく周囲の服まで溶けている。しかも全身が骨折して表皮が荒く摩耗している

頭がm級の大蛇で固い鱗かヒレのようなものを持っているようだ

こんな奴相手ではお前しか戦えないのは分かっている

だからもしもの為にアイツラをお前のフォロー役で待機させておいた方がいい」

「………」

状況なんかお前に言われるまでも無く知ってる。…と心の中では反論していたが黙っていた。

だがそんな頑ななクラウドの態度にセフィロスも諦めずに言葉を変え説得し続けた。

「クラウド、何もかも一人でやろうとするな。これだけ人数がいるんだ、お前だけが抱える必要は無い」

「…………」

「クラウド

喋っても喋らなくてもコイツは自分の意見を変えない。

だったら喋る必要なんかないし、俺も行動を変えない。

大体俺がコイツから怒られる意味が分からない!お前こそチームプレイはどうなった!何でこんな所にいるセルフィ、アーヴァイン早くコイツを呼び戻せ連れてけ

「クラウドゾンビの毒は生き物の毒とは違って厄介だ

しかもこれは硫酸系だ、噛まれなくとも毒がかかっただけで浸透してくる

そうなったらお前だって立ち直るのに時間がかかるんだぞ

その間キスティス一人でキロスを保護し闘う事になる!

彼女の38口径では全てヘッドショットしたとしても犬は発、人間は発最低でも必要

だが無駄なくヘッドショットできるほど彼女は銃に卓越していないだろうしかも逃げられない場所に現れる人間型ゾンビや動きが早く数が多い犬型、大量に一気に攻めてくるカラスもいる

そんなのを相手にして彼女がキロスを抱えて対応しきれると思うかクラウド!!

「うるさい早く消えろ

我慢しきれなくなってつい言ってしまった…あぁ…これでまた何か言われる、付きまといが長くなる…と絶望的な気分になった時、足音が聞こえて来た。


「クラウド!?

キスティスとキロスが通路から現れた。

するとセフィロスはホッとしたように空気が緩み、踵を返し通路に消えて行った。

ふ・ざ・け・る・な、お前が何をホッとしてる何のつもりだ

俺はお前なんかに心配されるような立場じゃないし、そんな事もしてない

畜生

帰りたい元の世界に帰っ……………違う、アイツのいない世界に行きたい

なのに現実はアイツだけが残るいつもいつもどうして

………いや、違うアイツのせいで俺が切り離されてるんだ

それでアイツだけがどこまでもどこまでも付きまとう。引きずり込む。

畜生こんなのばっかりだ!!畜生ウンザリだ!!大嫌いだ

どう言えばアイツは消えてくれる!!スコール教えてくれ!!大っ嫌いなんだウンザリだ

どういえばアイツは分かってくれる教えてくれどう言えばあいつはいなくなってくれるんだ!!


「…クラウド、私達は部屋の前で待ってるから

エイケンの遺体が気になってしまって…ごめんねここで待っていさせて

それでこの後はまた一緒に廻りましょ

やたらと気を使い言葉を選んで言って来るキスティスに居たたまれなくなり、クラウドは手を少し上げて返事にし、中に入った。

目の前では噴水に巣食ったゾンビ植物が変わらずグネグネバタバタと蠢いている。

キスティス達が外で待っている。

早く型を付けなければならないと思ってはいても、今の屈辱で胸がざわつき腹が立ち気持ちが落ち着かない。

集中できない。

今まで仕事中はちゃんと仕事に集中できていた!何があろうとも切り離せていた。

そうだ、アイツが仕事の領域にまで踏み込んできてるからだ畜生

助けてくれ、スコールもう嫌だもう本当に嫌だアイツをどこかへやってくれ!消してくれ!

駄目だ、こんな事を考えていても仕方ない。

今はとにかく仕事に集中だ気も漫ろのままミッションに臨むことの危険さはよく知っている!そうだ、俺は知ってるんだ!この目で見てきた!

落ち着け、落ち着け

そう何度も呪文のように繰り返したが、クラウドにはなかなかクリアな思考が戻ってこなかった。


「チクショウ

両手で膝を支えて身体をくの字型に曲げてどうにか普段の精神状態に戻そうと頑張った。

エイケンの死亡状況は見て分かった。相手が硫酸を吐く力のある大蛇系モンスターだってのも、この部屋にいるだろう事も。

だが服の摩耗が固い鱗を持つ、とはつながらなかった。言われて気がついた。

でも危険な奴だって分かったからこそキスティス達を遠ざけようと思った。

俺が闘ってる間に少しでも彼女を回復させようと思った。

なのにアイツはキスティス達のスタンバイが必要だと言った。

確かにアイツの言う通りだ。一人でできるできないじゃない。チームプレイを考えなきゃならない。

畜生…!畜生!!


「あの人はどんな関係なんですか

「……知らない」

外の小声が聴こえてくる。聞くな音をシャットアウトしろ雑音に捕らわれるな!!集中しろ集中

今するべき事はつだ切り離せ今考えるべきはこんな事じゃない


クラウドは栄養剤と成長促進剤をとにかく噴水の根元にぶちまけた。

まるで怒りをぶつけるように徹底的にぶちまけた。

恐らくこれから起こるであろうキツイバトルを待ち構える様に、挑むように、望むように、『早く出てこい!!』とばかりに、空になった袋を触手に叩きつけた。


流れ続けていた噴水の色が透明から薬剤が混ざった乳白色に変わり始めた。

無臭だったものも最初は薬剤の臭いが部屋に充満し始め、どんどん臭いと色も変化し始めた。

薬剤の乳白色から緑色、緑から紫、茶色へと水が変化してきて、臭いも薬剤臭から植物が腐った臭いに変わってきて、そしてバタバタと蠢いていた触手は断末魔の様にバッタバッタグルグルと暴れ、やがてシュウウゥゥゥ…と、枯れて動かなくなった。

栄養剤と成長促進剤で死ぬんだからこの捕食植物も本当にゾンビ属性なんだな…と、感心しつつ噴水を通り越して奥の壁に飾ってある盾を外し、裏側にあった鍵を取った。

すると…足元あたりから何か大きなものがズルルル…ズルル…と動く音と微かに振動がした。

来るぞ…エイケンの死因がいよいよ来る…とクラウドは身構えた。


排水溝が詰まったのか、今まで流れ続けていた噴水の水が止まった。

台座がゴト…と動いたかと思うとゴト、ガゴンと根元から倒れ、頭の直系がmもある全身固い鱗に覆われた大蛇がその巨大な体に似合わぬ早さで一気に出てきた。

……………本当に大蛇だ……固い鱗で覆われた………

アイツ、マジでムカつく…死ね!!死んでくれ!!消えろ!!


大蛇の全長はデカすぎてまだ台座から全身が出きっていないのでわからないが部屋に出てきている部分だけでも既にmは超えている。

まだまだ台座から身体が出てくる。終わりそうもない。

しかも全身を覆う鱗が異常に硬く、出てくる時に当たる床をガガガガッと木くずを舞い上げ削りながら出てきている。

どんどん出てくる大蛇を避けながら倒れた噴水の台座の裏にクレストが埋め込んであるのを見つけた。

とにかく大蛇の顔の正面に立たない事、大蛇の頭を身体から切り離す事に集中し走り出した。


先ず一回目斬りかかったが、見た目以上に鱗が固くファルシオンが完全に跳ね返されて入って行かない。

剣が通常使っているパワーブレードであれば鱗も叩き割れたかもしれないが、今は無い。

全力で走り、飛び跳ね大蛇の正面から逃げ続けながら持っていたライフルを蛇の鎌首に打ち込んだ。

だが、なんとライフル弾すらも鱗が跳ね返した。

ということは…鱗の上からじゃどうにもできないって事だ

だが大蛇は全身鱗で覆われている。

ならば曲がって鱗が少し浮いたところを逆鱗からライフルで……いや、ライフルとファルシオンの両手持ちだ。

ライフルだけじゃ型がつく前にこっちの体力が尽きる。


ついに大蛇の尾が噴水の台座から出てきた。なんと全長30mはある。

部屋の分のが大蛇の体で埋まっている。しかも動きが早い。

その速さと固い鱗で部屋中の壁といい床といい天井までも削っていく。

部屋中いたるところで凄い速さで移動し続ける大きいドリルが廻っているようなものだ。

ほんの少しでも巻き込まれたらあの全身がボロボロに摩耗していたエイケンと同じになる。

しかも大蛇の前に立てば硫酸毒を浴びせかけられる、横に立てば固い鱗で削がれる、だからといって後ろに立って逃げても意味が無い、大蛇の鎌首を切り離さなければいつまでも今の状態が続く。

いや、状況はもっと厳しい。

大蛇が方向を変える度に吐き出す硫酸が狭い部屋の床をダメージ床に変えてゆく。

しかも濃硫酸で溶かされた色んなものが霧となって部屋の空気を汚染し始めている。

とにかく部屋中、大蛇も含めて全てを踏み台にしてジャンプの連続で大蛇が鎌首を擡げた瞬間を狙いライフル弾を撃ち込み撥ね上がったところを更にファルシオンを深く突き刺した。

だがその作戦も動きの速い大蛇にはそう何度も効率よく成功するものでもなく、狙った回に回の率で剣を突き刺せるかどうかだった。

だがそうして連続ジャンプで大蛇から逃げつつ追い込んでいるうちにクラウドの息が上がってきた。

きつい。

だが短期で仕留めなければもっと追い込まれる。

硫酸でダメージ床になったものも、時間と共に床自体がなくなってきている。空気汚染もきつい。


「クラウド!!どうしたの!?

部屋の外からキスティスが叫んでいる。

「入って来るな!!気が散る!!

クラウドが答えた時、いつの間にか大蛇がクラウドの方に口を向けていた。

ヤバイと逃げたが一歩遅く、肩に硫酸毒を受けてしまった。

エスタの防護服がジュウウゥゥゥ…と溶かされていく。

硫酸が皮膚に到達する前に防護服を脱いだ…が、その下に着ていた私服まで硫酸が浸透し始めていたから私服も脱ぎ上半身裸になった。

幸い皮膚にはまだ到達していなかった。

再び連続ジャンプを開始し、床、壁、天井、噴水、大蛇、何もかもを踏み台にして後ろに回ったが、ライフル弾が切れたためファルシオンのみで対応した。

ファルシオンのみというのはつまり接近戦のみ。タイミングを間違えると良くて摩擦で削ぎ取られ、悪ければ巻き込まれて一貫の終わり。

とにかく吐き出される濃硫酸と巻き込みに注意しヒットアンドアウェイを繰り返した。

そうして息が上がりながらも戦ううちに体の異変を感じていた。

来る…これは来る…。

アレが出る…。

でも今は部屋を閉め切っているし、丁度上半身裸になっているし、誰にも見られる心配も無かったので、来るなら来てもいいと思いながら攻撃を続けた。

突然、背中の皮膚がバリッと血を噴き出しながら破れ大きな黒い羽根が広がった。

…………やっぱり出た...しかし毎回痛いなぁ...などと考えつつ、この状態になると戦闘能力が通常の30倍に跳ね上がる。瞬発力、移動力、腕力、全てが30倍に跳ね上がり、動きの速かった大蛇の動きが物凄くスローに見える。

突き刺していたファルシオンも一振りで根元まで入り、そして固い鱗を梃にして中で回転させた。

大蛇は硫酸毒霧を吐きながら断末魔の声をあげながらのたうち回ったが、ついにクラウドが鎌首と胴体を切り離した。

大蛇の胴体はまだバタバタドカドカとのたうち回っていて、切り離された首も口を空けたり閉めたりしているが、もう勝負はついた。

そうしているうちに背中の羽も消えていた。

倒れた噴水の台座からクレストを回収し、部屋から出た。


「クラウド血が

キスティスが駆け寄って来る。

「………部屋に入らない方がいい。硫酸霧が蔓延してる

鍵とクレストは取った。血は何でもない。怪我してない」

キスティスに鍵を渡した。

「え、でも大丈夫!?本当に怪我は無い!?

「無い。でも少し疲れた…」

「そうね、そうね凄い音がしてたキロス。服とかどこかに無い

「服は、…ここは宿舎でもあるから住人の部屋に行けばあると思いますよ

「そうだな。じゃあ俺ちょっと行って何か見つけてくる

歩いてるうちに回復するから、すぐ戻るよ」

クラウドが行きかけたがキスティスが問答無用でついて来ながら言った。

「ダメ一緒に行く。本当にクラウドお願い一人でやろうとしないで

私達はあなたの足手まといになるのかもしれないけど、迷惑をかけないようにするから、お願い!一緒に行動して!」

「………あっそう」

どうでもいいようにクラウドは返事をしてそのまま狭い通路を進んだ。

一人で行動する癖がつきすぎている自分に落ち込んでいた。

キスティスにお願いされてしまう自分が情けなかった。


従業員宿舎で着替えながらクラウドが言った。

「さっきの部屋。まず最初にデカイゾンビ系捕食植物がいた

実際にどうだったかは分からないけど多分人間も食料にするように造られてたっぽい

それを枯らしたら、下から全長30m位の硫酸を吐き出す大蛇モンスターが出て来た。エイケンはアイツにやられた。間違いない

何となくだが、敵の目的はやっぱり俺達を殺す事だと思う」

「全長30mって…………あなた随分簡単に言うけど、よく生きて出て来たわね...

鍵のかかっていなかった部屋のクローゼットの中には...どういう職種の奴だったのかは分からなかったが、とりあえず大のメタルファンであるのだけは確かだった。

クラウドが着て出てきたのはその中でもまだ形が普通なだけマシなTシャツ。

黒地に縦書きで東洋の字がゴールドで書かれていて真ん中には極彩色の骸骨が笑っている。

袖にもゴールドの字で不明な東洋の字が書かれてある。

下半身は黒のレザーパンツ。

これ以外はビリビリに切りこみの入っているダメージ過ぎジーンズか、テカテカ派手なエナメルパンツか、メッシュがいかがわしいパンツか、妙な箇所に鋲がたくさん打ってあるショート過ぎるパンツしかなかった。

結果上下黒ということもあるが、妙にクラウドに似合って十代のロック大好き少年の様に可愛らしく仕上がってしまっていた。(セフィロス大喜び)

「アンタもピアノの仕掛けを解除したろ。似たようなもんだ

俺の方は本職な分まだマシだった」

キスティスは、自分は命がけじゃなかったし何度も挑戦できた...と思ったが、そんな事を言い合っても意味が無いし、恐らくクラウドはこんな言い合いを嫌うと思い、別の気になる事を聞いてみた。


「私達を殺すことにどんなメリットがあるの

「分からないが本気なのは分かる

あの部屋にいたモンスターはどう見ても造られたものだ

だがアレは殺す目的以外に使い道があるとは思えない。…よし続き行くぞ次は

クラウドの質問に答えたのはキロス。


「えーと、階の鎧の部屋でもう一つのクレストを回収します、ココ」

持っている地図をキスティスとクラウドに示した。

全員で歩きながらキスティスが言った。

「ところで犯人はこの状況でどこにいると思う

...多分...この館...の地下か、絶対に見つけられないような場所」

「やっぱり

「ヘリを撃ち落としてまでこの館に誘い込んだんだ。あのモンスターにしても相当本気だ

まず間違いなく俺たちの動きを監視している……か、結果を回収してるか」

クラウドの意見に他人とも頷いた。

「ねえ、私達のヘリを撃ち落としたウェスカー

この館にいるとしたら彼はいつ、この館に入ってきたのかしら

少なくとも彼は私達の後に館に入ってる。だって私達は墜落してここに走ってきたんだから

ここに入った後も私達はロビーを何度も行ったり来たりしてるし集合場所にもしてる」

「多分正面以外にも入口があるんだろう」

クラウドが言うと、キロスが地図をしばらく見て言った。

「この地図と実際はどこかが違ってるんでしょうね……」

「だとしたらその違いが大きなポイントになるわね

少なくとも犯人はその違いを利用してる」


鎧の部屋に着き、噴水の部屋で手に入れた鍵で扉を開けた。

部屋の両側にはたくさんの種類の鎧がズラリと並べてあり、部屋の中心にはいかにも邪魔な位置に台座付きの彫像がつ置いてあった。

「この彫像つをズラしてこの床の排水溝つを塞いでください。塞いでおかないと仕掛けが作動して何かよくないものが出てきます」

キスティスとクラウドそれぞれが台座で排水溝を塞いだ。

ズラした彫像が置いてあった場所には隠しスイッチがあり、それをキロスが踏むと入口にロックがかかり、塞いだ台座の下でシューシューと排水溝から何かが吹き上げる音がし、壁側の物置がズレてサンクレストが現れた。

暫く経つと物置が元の位置に戻り、床下で吹き上げていた音も止まり、入口のロックは勝手に解除された。


「これで扉解除のクレストが揃いました

クレストをはめ込む壁掛けに向かいましょうようやく外の空気が吸えますよー!」

人で歩き始めた時、トランシーバーが鳴りセルフィの叫ぶ声が聴こえてきた。どうやら走っているらしい。

『キスティス今どこにいる!?

「東の中庭に向かってる。まだ屋内よ」

『行っちゃダメヤバイすっごいヤバイ奴がいる回皆で集まろうホールにしよう

今すぐ全員ホールに向かって

言うだけ言ってトランシーバーが切れた。

キスティスがクラウドを見た。

「ヤバイんですって……」

「…行こう」


台座のある部屋を出て、階に向かう階段のある踊り場への扉をクラウドが開けて………直ぐに閉めた。

キョトンとしているキスティスとキロスに言った。

「体長2.5mくらいの毒持ってそうな蜘蛛が匹、それぞれ背中に体長30cmサイズの子蜘蛛を無数に乗せて通路と壁に足をかけてうろついてる。避けられない

本体を俺がやるにしても、蜘蛛の子は相当散らばる

外なら魔法で一気に片付けるけど、ここじゃそうはいかない。あんたら平気

キロスは顔色を悪くしながら高速でブンブン首を横に振った。

「足が無いのと多いのは...生理的に無理で...

キスティスは傭兵のプライドで耐えた。

「へ・平気じゃないから子蜘蛛の方は私がやる。さ、叫ぶかもしれないけど気にしないで

だが既に顔色が悪くなり始めていた。

「了解。キロス、呼ぶまで出てくるな。扉も開けるな

少しでも開けたら直ぐに子蜘蛛が大量に入って来る。キスティスが出たら直ぐにドア閉めろ

行くぞ、キスティス

言うのと同時にクラウドはドアの外に飛び出した。


走り出し、先ず先頭の大蜘蛛の首を撥ね、奥にいる大蜘蛛に向かって行きながら2体目の蜘蛛の頭を剣で叩き割った。

後ろからついているキスティスはもう既に……

「イヤアァァァァーーーーーーーーーーーー!!」「ひいぃぃーーーー!!」とか「ニャ゛ャャャャーーーー!!」とか悲鳴を上げ号泣しながら最初の蜘蛛の背中から散らばり始めている子蜘蛛を38口径で撃ち殺している。

「キスティス無理ならいいが、できれば踏み潰せ!それじゃ弾が直ぐにきれる

クラウドが頭を叩き割っただけでは絶命しない体目の大蜘蛛の首を撥ねながら言った。

「いやああぁぁぁぁぁ!!!!!!むりいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!

「無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 「ヒャアァァァァ~~~~~~~!!!

泣き叫びながらも微かに残っている傭兵の理性が同意したのか38口径をしまい身近に迫ってきた子蜘蛛を地団駄のようにぐしゃぐしゃと勢いよく踏み潰していた。

「ひいいぃぃぃあぁぁぁぁぁ!!!」 「来ないでえぇぇぇーーー!!!」と叫ぶものの、散らばり始めた子蜘蛛は壁を伝い天井にも広がり四方八方から襲い掛かって来ていた。

「ギャアァァーーーーーーーーーーーーーーーイヤイヤイヤアァァァァーーーーー!!!

「キスティスとにかく噛まれるな何をしてもいいから噛まれるな!!

クラウドが匹目を退治しながら指示したが、キスティスはもう返事もできず白目になりかかっていて『ダメだ、アレは気絶する…』と思った。

その時突然ドアが開きキロスが走り出てきてフラフラになっているキスティスを守るように……いや、守りたいが現場を見た瞬間にそれどころじゃなくなって「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!」「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」とか、またキスティスよりも一段と壮絶な悲鳴を上げ、天井から落ちてくる蜘蛛を掃いながら断末魔的な踊りを披露しながら踏み潰していた…のか地団駄を踏んでいたのか。


「超・振・動!!


突然のキスティスの青魔法音波振動発動により、床だけでなく壁にも天井にも散っていた無数の子蜘蛛が一気に戦闘不能になりザアッゴスゴスゴスゴスと落ちて来た。

そして見た事の無い魔法を蜘蛛の子諸共背中から喰らったクラウドが呆気にとられていると半白目のキスティスはクルッと方向を変え再び


「超・振・動


再び無数の子蜘蛛達がザアッゴスゴスゴスゴスと、後ろにいたキロス諸共崩れ落ちた。

おかげで大蜘蛛体、子蜘蛛も全て全滅できたがキスティスは戦闘の勢いそのまま悪夢の世界の入ったままトんでしまい、キロスも戦闘不能になっていた。

クラウドは2人を突入前にいた部屋に戻し、ケアルをかけ、それぞれ耳元でパンッと手を叩き目を覚まさせた。

と、同時に人は蜘蛛の体液が飛び散りまくってデロデロになっている自分達のエスタ防護服を「ぎ゛も゛わ゛る゛い゛ぃぃぃ!!!」「ギャアァァァ~~~!!」と、一気に脱いだ。

べつに防護服の下に私服を着てるから構わないのだが『こいつら本当、似た者同士………』と、思っていた。


そうしてロビーに全員私服になって表れた人組、しかもキスティスとキロスはゲッソリ……やつれ果てて泣き崩れ髪を振り乱した跡があるのを見て


「………そっちも大変だったんやなぁ。こっちも死ぬかと思ったけど…………」とセルフィが言った。





迷い子4    NOVEL     迷い子6

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