迷い子4



キスティスは飼育員のノートを皆に見せながら今までに分かっている事と重ねながら経過を説明していった。


夜、警備員のスコットとエリアス、研究員のスティーブとポーカーをやった。

       スティーブの奴、やたらついてやがったがきっといかさまにちがいねェ。

       俺たちをばかにしやがって。


10 今日、研究員のおえら方から新しい化け物の世話を頼まれた。

        皮をひんむいたゴリラのような奴だ。

       生きたえさがいいってんで、豚を投げこんだら、奴ら、

       足をもぎ取ったり内臓を引き出したり遊んだあげくやっと食いやがる。


11 今朝時頃、宇宙服みてえな防護衣を着たスコットに突然たたき起こされて俺も宇宙服を着せられた。

       なんでも、研究所で事故があったらしい。

       研究員の連中ときたら、夜も寝ないで実験ばかりやってるからこんな事になるんだ。


12 昨日からこのいまいましい宇宙服をつけたままなんで、背中がむれちまって妙にかゆい。

        いらいらするんで、腹いせにあの犬どもの飯を抜きにしてやった。

        いい気味だ。


13 あまりに背中がかゆいんで医務室にいったら、背中にでっけえバンソウコウを貼られた。

        それから、もう俺は宇宙服を着なくていいと医者がいった。

        おかげで今夜はよく眠れそうだぜ。


14 朝起きたら、背中だけでなく足にも腫物ができてやがった。

      犬どものオリがやけに静かなんで、足引きずって見に行ったら数が全然たりねえ。

        めしを三日抜いたくらいで逃げやがって。

        おえら方に見つかったら大変だ。


15日 :エスタに集団暴行&食人の通報が入る。

16 昨日、この屋しきから逃げ出そうとした研究いんが一人、射さつされた、て はなしだ。      

    夜、からだ中 あついかゆい。

        胸のはれ物 かきむしたら 肉がくさり落ちやがた。

        いったいおれ どうな て


5月16日 :ラクーン内ウィルス疑惑によりエスタとラクーンを繋ぐゲート、エスタ側を閉鎖。

5月17日 :エスタからラクーンへSATが向かう。SAT消息を絶つ。

     :ラクーン側から妨害電波が出ているのを確認。

19 やと ねつ ひいた も とてもかゆい

        今日 はらへったの、いぬ のエサ くう 



21 かゆい かゆい スコットーきた                               


       ひどいかおなんで ころし


         うまかっ です。

 

      4


          かゆい

 

      うま

                        



5月23日 エスタSAT第2陣出撃、消息を絶つ

5月30日 S・T・A・S・R・Sブラヴォチーム空から出撃、消息を絶つ。

5月31日 我々に依頼が来る。

6月  1日 我々出撃。今に至る。


「日記には飼育員以外に合計名以上登場しているわね

このうち研究者名が逃げ出し射殺され、警備員1名が飼育員に食べられている

なんだか日記だと行動がバラバラよね

エスタにSOS通報する反面、感染した飼育員を自由に歩かせて感染を広げようとしてるし

逃げ出そうとした研究者は射殺されてる

「バケモノ研究に加担してる者とそうでない者だろう

それとこの飼育員は多分ゾンビ化したのではなく、東館にいた元SATの奴の様にモンスター化したと思われる」

「え…」

セフィロスの指摘にキスティスが凍り付いた。

濃硫酸を被ったように皮膚が無く、眼球や歯が剥き出しだったあの気持ち悪いモンスター…

「この飼育員は生きたまま脳を含めモンスター化していき、ポーカー仲間だった警備員を喰い殺している

ゾンビは生者の肉を求め彷徨う

だがこいつは生きて感染して生者の肉を求めている。ゾンビとは根本的に違う」

「あぁ…そうですね。確かに。言われてみればこの人、死んだ形跡がない」


アーヴァインが手を上げて発言の意思表示をした。

「あの~少し方向が変わるけど、ずっと気になってたんで意見聞かせてほしいんだけど~

ラクーンがSOSを出して、SATが合計500名が投入された

それで全員行方不明

ベテランSTARSブラヴォチームが派遣された

結果、全員行方不明

でさ、なんで僕ら

言ったら何だけど僕らコレがSTARS初仕事だよニューフェイスお披露目

何でベテランが消息を絶った後に僕らが派遣されるの逆じゃない

最初にニューフェイスの僕らの実力確認&捨て駒的に投入して、その後で実力者投入。それなら分かるよ

でもベテランがクリアできなかったミッションにどうして僕らが突っ込まれるの

「…このミッションが入ったのって昨日だったよね

セルフィが聞くと、キスティスは戸惑ったように頷いた。

「じゃあ、やっぱり変だ~

上の人達は僕らの班にスコールがいないって分かってて依頼してるんだ。変だよ

自分で言うのも何だけど、僕らの知名度ってスコールがいてこそだろ~

いや、僕らだってS級だけどさ、一般的にはやっぱりスコールのいない僕らって、針の無いアナログ時計みたいな認識だよ

STARS側だって僕の実力なんて大して知らないだろ

そこにセフィロスさんとクラウドなんてSTARSどころか僕らだって知らない人たちだ

ただ単にスコールの知り合いってだけ、未知数の人間が増えただけだよ

そんな寄せ集めの僕らがどうしてSATやベテランが失敗したミッションのフォローなのおかしいよね


「アーヴァイン、STARSのベテランか管理職側に私達のヘリを撃ち落とせる実力を持ったスナイパーはいるか

セフィロスの質問の意図が分からないままアーヴァインは暫く考えたが、何かを思い当たったらしく表情が凍り付いた。

「誰だ」

「…………ブラヴォチーム隊長のアルバート・ウェスカー………………STARSに入隊が決まった時に挨拶した」

青褪めているアーヴァインにセフィロスが面白そうに言った。

「アーヴァイン、スナイパー同士の一騎打ち、愉しみにしているぞ」

セフィロスの楽しそうな雰囲気とは真逆に、アーヴァインは怒りの表情のまま無言だった。


「あの、すみません。セフィロスさん、今のはどういう話の流れなんですか

どうしてウェスカー隊長とアービンが一騎打ち

セルフィがセフィロスに聞いた。


「エスタSAT行方不明の後に出陣したSTARSブラヴォチーム。全員行方不明

その後に指名されたこのペーペー寄せ集めチーム。普通に考えて捨て駒部隊だ

何故こんな事件発覚から20日も経った逼迫時にSTARSは捨て駒部隊を送った

SATやFOXHOUNDのようにどこかの国属の特殊部隊ならまだフォローは効くが、STARSの様な無国籍傭兵部隊では結果が全てだ

国から依頼されたような仕事を回連続で失敗してはブランドダメージは深刻

何故こんな明らかな悪手采配をした

それは出撃采配に口を出せる奴が敵側に寝返っているからだ。…それか最初から敵が潜入していたか

キーワードは『STARSの管理側』 『今回のゾンビで我々が全滅すると確信している』

そういえば『我々の全滅を確信』しているから、本人特定上等で我々のヘリを撃ち落としたスナイパーがいたな」

セフィロスはわざわざアーヴァインに向けて言った。


「アーヴァイン。""というのはどれほど巧妙であっても相手がそれに引っかからなければ意味がない

特に今回の場合は我々が罠にかからなければ逆に敵側が終了の『Live or Die』

どちらかの死が相手を生き残らせる

そのスナイパーは我々が用意された罠に堕ちると確信していた。だから特定上等で撃ち落とした

私とクラウドは実力を知られてはいないから敵に舐められているのはお前達

特にアーヴァイン、お前だ

同じスナイパー同士、他の連中よりも互いを良く知っている

ウェスカーは自分のチームが全滅するのを知っていたから、前もって次の全滅候補のお前達を指定しておいたか、STARS本部に裏切り者の片割れがいるか

何れにせよお前の実力をよく知る者に、お前は確実に堕とせると読まれていたのだ」

セフィロスはサディスティックに楽しそうに話した。


セルフィは俯くアーヴァインを気遣うようにその腕に触れた。

それに気が付いたアーヴァイン、腕に触れているセルフィの手に自分の手を重ね「許せないよね~」と言おうとしたが、言えず、笑おうとしたがそれも失敗した。

「セフィロスさん、敵の目的はアービン

セルフィが黙ってしまったアーヴァインを庇うように、その腕に自らの腕を絡ませながら聞いた。

「それはない。アーヴァインは"ついで""カモ"だ」

容赦ないセフィロスの断言だったが、セルフィの表情は明るくなった。

「アービン『ついで』だって良かったね敵もチョットは油断してるかもよ!?

......あ、うん.....................じゃぁ......僕も『ついで』に......アイツを殺っちゃおうかな

無理に笑顔を作るアーヴァインを励ます様にセルフィがピョンピョンと撥ねながら応援した。

「うんうん殺っちゃえ殺っちゃえ~アービンの♪カッコイイトコ見てみたい~♪」

そう可愛らしく言った後で、スッと真顔になり、下からアーヴァインを真っすぐ見上げ言った。

「アービン、マジで殺んないとこっちが殺られるよ

私はまだ死にたくないこんなトコじゃ絶対に死にたくない!!アービンは!?

アーヴァインはセルフィを見つめ、セルフィはアーヴァインに頷いて見せた。

そんなセルフィにアーヴァインは目を瞑り...そして頷いた。


『セルフィとアーヴァインは付き合ってるの

人のやり取りを見ていたキロスが囁くような小声でキスティスに聞いた。

『アーヴァインの初恋がセルフィ。イデアの孤児院時代からよ。今は付き合ってるみたい』

『納得。なんだか彼らから物騒なラブラブオーラが出てます』

キスティスとキロスはお互い頷いた。

そして視線をそのままセフィロスに向け、ラブラブオーラを放っている人と並んでいながら人ナチュラルに氷点下オーラを保っているセフィロスに、キスティスとキロスは人で首を振り、そして頷いているのを見て、クラウドは不意を突かれ笑ってしまい、咄嗟に後ろを向いて顔を隠しはしたが肩はどうしても震えた。

キスティスとキロス、意外に波長が合ってる。


「この事件にはエスタ、ラクーンの高官が関わっているはずだ

モタモタしていたら自分が特定される危険を冒してまで敵がこの町に呼び込んだのは、エスタSAT、STARSくらいだ…分かる限り

つまりターゲットは最初から我々傭兵だったと私は考えている

そこで、SATとSTARSの共通点は何だ

「んー……戦闘能力高い肉体鍛えてます

セルフィが答えた。

「その結果、今のところ生きている奴はいない」

セフィロスが付け加えた。

「それってマジで餌ってことですか

セルフィが聞き返した。

「そうだったとしても単純に餌にする事が目的なわけではない

本当に餌にする事だけが目的なら喰い方が雑だし元SATはモンスター化して喰う側にまわっている

それに死んだりゾンビ化したものは放置しているから、あくまでも生きた我々に用があるという事だ

死んだ奴らと我々の違いは何か……」

そう言った後、セフィロスは少し考えてからキロスに聞いた。


「今回の事件はSTARSのウェスカー、そしてラクーン、エスタ共にカナリ地位の高い者が絡んでいる筈だ

あともう一つ大きなスポンサー、莫大な金をロクな見返りもなく出せる会社も絡んでいるはずだ

心当たりはないか

「……ラクーンシティはエスタのエネルギー省直轄で長官は半年前に着任したばかりで副長官もか月前です

裏切り者の三位一体なんてそう簡単には関係は固まらないはずですから、エスタのエネ長、エネ副は除外してもいいと思います

エネ長、エネ副以下はそのままラクーン市・所長になるのですが、ラクーンと似た組織がエスタには他につあります

そのつの研究所が互いに連絡を取り合い人員も交流し化学発展に貢献していく…という大義ですが

それは研究所が互いに見張り合う役目もあり、そんなに好き勝手には暴走できないようになっているはず………なんですが…

それとラクーンの研究所・市長はウィリアム・バーキンで、年前から着任しています

その前の所長は殺害されています

スポンサーといえばバーキンも、殺された前の所長のマーカスも製薬会社アンブレラ出身です

ラクーンシティに何かと出資していますし、パイプも強いです

スポンサーがいるなら恐らくアンブレラでしょう

カナリ出資している代わりにカナリ微細に各部門に口を出しているようです

逆に言えばアンブレラ抜きで秘密の研究開発はほぼ不可能でしょう」


キロスの親切で詳細な報告にセフィロスは何か考えるように完全に黙ってしまってので、間を持たすようにキスティスが皆に言った。

「キロスを私とクラウドの班に入れて護衛しながら脱出させる。…いい

「ええんちゃうキロスさん一人にでけへんし」

セルフィが言うと、他のメンバーも合意だと頷いた。


「あなたは私と彼のチームに入ってもらいます」

キスティスはキロスにクラウドを示した

「ただし彼と彼、人についての質問は受け付けません。彼らは今回限定の参加です

彼らのミッションへの参加条件は何も聞かないこと。聞いても彼らは何も答えません。OK

「残念無念」

セフィロスとクラウドを見ながらキロスは大して無念そうでもなさそうに笑った。


……読めない。

こんな場所まで地位も名誉もお金も何もかも捨てて来たっていうのに、何故こんなに反応が軽いんだろう。

言葉だけで「残念無念」とか……。どうしてこんなに軽く笑うんだろう。

キスティスにとってキロスはとにかく合点のいかない反応をする謎な生き物となった。

だが、今は自分の役目を果たさなければならない、と話を進めた。


「クラウドチーム陣形はその都度変わるけれど、基本クラウドが先発、私が後方とあなたの護衛

あなたには武器を持ってもらうけど戦闘には指示するまで参加しないで

チャンスだと思っても発砲、参加しないで

それとクラウドとは指示があるまで常にmは距離を空けて。戦闘の邪魔になる

後はとにかくゾンビに近づかない事を番に考えて行動して

そしてこの町にある水には一切飲まない、触れない事

それで早速だけど今、この建物は研究施設兼宿舎ってさっき聞いたけど、もしかして階が宿舎

研究施設はどこ

「地下階がバイオセーフティレベル…通称BSLの研究、地下階がBSL、地下階がBSLの研究です

階の中庭の奥にあるエレベーターで地下に行けます

但し中庭にはいくつかのギミックを解除しないと行けませんし、地下エレベーターは各フロアバラバラに付けているのでエレベータ-で一気に地下階とか階とかは行けません

それとエレベーターから降りてもその先にドアがあって各フロア専用セキュリティカードを通さないと先に進めません

ここの研究員であればそんな面倒な事をする必要は無いのですが、招かれていない外部の者はそうするしかない…というか、外部の者を排除するためのセキュリティであり仕掛けです

"ギミック解除は不可能です"と初代ラクーン所長は胸を張っていました」

「この町の浄水施設はどこにあるか知ってるか

「浄水施設.........あぁ、たしか...えーと...ここの裏庭...えーと...裏庭は...中庭を抜けた先に裏庭があって、そこにこの町全体に供給している浄化設備があったと思います」

「なら第一目標は中庭だ

そこを突破しないと地下にも浄化設備にも辿り着けない」

セフィロスは先を促すようにキスティスを見た。

「重要な情報・アイテムを得た場合は連絡を入れてね。早めに情報共有しましょう

じゃあ改めて、キロスこの館のドア殆どに鍵がかかってるんだけどマスターキーとかどこかに鍵置き場があるの

「ありません。階は宿舎だから鍵は個人管理だし、地下はフロアカードキープラス各扉にそれぞれ違う鍵だったりギミック解除で行けるようになります

が、何度も言いますが初代所長は部外者侵入は不可能だと言ってました

バイオ研究ですから、誰にでも入れたら管理できませんから

それでもやるなら面倒ですが、この宿舎内にバラバラに分散されたキーアイテムをギミックを解除しながら回収していくしかないです

キーアイテムが揃って初めて中庭への扉が開けられますから

ただ救いなのは階の宿舎の扉はそれほど厳重ではなくキーピックが得意な人がいれば扉は開けられます」

言いながらキロスは例の大きな箱の中からキーピックを取り出した。


「何その魔法の箱何でも出てくるね」とアーヴァインが突っ込み

「セフィにおまかせ

セルフィがウィンクをしてキーピックを受け取った。

「そしたらクラウドチームはマリーニーの残してくれた鍵の部屋に向かう

セフィロスチームはセルフィのキーピックで解除できる部屋に向かう。それでいい


キロスはSTARSメンバーが的確な判断で迅速に仕事が進んで行くのを目の当たりにして、なるほど『プロの傭兵達』

そりゃこんな人たちから見れば僕らは遠足のようなものだったな…と、給料泥棒と言われても仕方ないと感心し見惚れていた。

「あ、待ってください。この中でピアノの演奏ができる人はいますか

そんなキロスの唐突な質問に全員の頭に「」マークが出た。


「…ピアノ

「マリーニーが言ってたんです。"ラウンジのギミックはピアノが弾けないと解除できない"って」

「ピアノだったらキスティスが巧いよ。私は木琴が得意~」

セルフィが木琴を叩くアクションをしながら言った。

しかし指名されたキスティスの表情は今ひとつ。

"先生"やってた時はけっこうピアノも弾いてたけど現場に出るようになってからは全然触ってない

スコールとリノアのあの時以来ずっと触ってない」

「あー…アレか…大失敗演奏会

私らバトル以外でジョイントは無理って悟ったよねー…あの時」

セルフィも残念顔になった。

あの失敗演奏会の企画者アーヴァインがキスティスの気持ちを軽くするために助け舟を出した。

「じゃあ最初にキスティスがチャレンジして大変そうだったらセフィがヘルプに入るってのは~

「そらアカン。キスティが無理なのに私が介入したらもっとクオリティ下がる

言ったやん。私ら音楽のジョイントは無理。無理、無理

キスティ、木琴かギターが必要になったら呼んで!!私はコレで頑張る

セルフィはニッコリとキーピックを手元でカチャカチャさせた。

「……了解」

そう言いながらもキスティスの表情はちっとも了解していなかった。

「じゃあキスティスがピアノを担当するとして、ラウンジに行く前に中庭のギミック解除のアイテムがダイニングにあるので先にそこに寄って欲しいのですが、いいですか

キロスがクラウドに言ったのだが…


「待て」


セフィロスが歩き始めたキスティス一行を呼び止めた。

「中庭への扉を解除するアイテムをこれからお前が取りに行くのか

「えそうですけど…それが何か

「つまり中庭の先にはまだSATもSTARSも行っていないということだな

「あ・あー…そういえばそうですね。そういうことになります

昼頃マリーニーに聞いたところ、ダイニングにあるキーアイテム…木のエンブレムなんですがね、そこに仲間の遺体があって何日か前からそこにあると言ってましたから

少なくとも中庭ギミックは解除されていないはずです

あ、………あーそうか分かった!!だから中庭から先、SATかSTARSがいたら、そいつは敵だ内部の人間と繋がってる…そういうことですね!?

「そういう事だ。行くぞ」

言うと同時にセフィロスは部屋から出てき、セルフィとアーヴァインが慌てて後を追った。

それを見送ったキロス。


「……あの人、滅茶苦茶頭キレるけど、けっこうな俺様ペースですね…」

そう言うと、キスティスが助言をした。

「そういうのを"スコールに似てる"って表現すると、スッゴイ殺人ビームを向けられるから言ったらダメよ

キロスがクラウドに視線を向け"そうなの"と目で問いかけた。

「アイツはスコールに徹底的に言い潰されてるからな」

「ほー。スコールくんが舌戦で彼に勝ったんですか

意外だ…とキロスの表情が語っていた。

確かに、

セフィロスがスコールに言い籠められたのは事実で、反吐が出るほど鬱陶しい存在なのも確かだったが、その2つは繋がってはいない。

コレルプリズンのボスコンテナでセフィロスがスコールに反論しなかったのは指摘された全てが事実であり反論できる立場でない事を自覚していたし、余計な事を言ってクラウドを傷つけたくなく、また今以上に嫌われたくなかったからだ。

目障りで鬱陶しくてならないのはそういうセフィロスの立場や思惑を全て読んだ上で、分かっていないクラウドの前で攻撃してくるところとか、とにかく癇に障るのは恐らくスコールの言葉に従う方がクラウドにとって一番良く、安心できる事なのだろうと納得できてしまうが、やはりあの悪意全開の言い回しや表情、わざとらしく露骨に全力で神経を逆なでしてくる腹黒さは俺と大して違わないではないかあんな奴こそロクなものではないなのに奴はクラウドから全面的に信頼され、自分はと言えば何を言ってもしてもしなくても嫌われている。確かに自分が嫌悪されるのは仕方ない。それだけの事をした。だがあの腹黒悪童餓鬼がクラウドに信頼されるのはおかしいだろう間違っている奴はそんな上等なものじゃない上等どころかマトモですらない!誰からもアタマオカシイ奴と評されているのに何故クラウドにはそれが通じないのか。死んで清々すると思えば復活した上に『神』とかどうかしている、狂っている。あんな悪童に力を与えたらロクな事には使わないそう思いながらも俺もロクなことはしなかったな...と連鎖反応のように常に己の罪に返ってきてしまい。その都度イラついてしまうからだった。


「『変人VS変人』という感じかなちょっと私には理解できない舌戦かなどう

キロスがキスティスに聞くと、キスティスが答える前にクラウドが訂正した。

「『本物の英雄VS偽物の英雄』だ!勝負になんか全然なってなかった

クラウド本人は冷静に正しく訂正したつもりだったが、それを聞いたキロスとキスティスは…ちょっとドン引きすると同時に"この人はクールキャラを装った実は子猫ちゃん"と、その視野の狭さにキロスは可愛い♡となっていたが、逆に男も女も可愛い系が好きではない(男美人も嫌い)キスティスは、かるぅ~くイラッとしていた。

”ちょっと…さっきのセルフィの話ちゃんと聞いてたあれは嘘は一つも無いわよ。

あれを聞いててもスコールを『本物の英雄』とか言っちゃうの何よそれ。色んなところ都合よく目を瞑り過ぎでしょ

言っておくけどスコールには"一途""可愛い""ツンデレ"も”美人”通用しないわよ狂信者も、ストーカーも男も女も年上も年下も人気者も昔っからスコールにはゴロゴロ掃いて捨てるほど纏わりついていたんだから!慣れっこなのよそんなものはそういうのを全部乗り越えて"人間なんかどうでもいい"って男なのよ!人の好意なんか飽き飽きしてるのあなたはまだ付き合いが浅いからスコールのそういうとこ分かってないのよね!!”

と、思いながらキスティスの口から出てきたのは違う言葉だった。


「さあこっちのチームも行くわよ


ダイニングへのドアを開け先に入ったキスティスとクラウドに続くことなく、キロスは通路側に留まりドアに縋るように顔半分だけを出した。

「そこの暖炉の上に木のエンブレムがはめ込まれてますよね。ソレ、ソレ外れるんです」

スペンサーの遺体を見たくないらしく、半分だけ出した顔も決して下を見ようとしない。

結局クラウドがスペンサーの遺体を乗り越え、暖炉の装飾となっていたエンブレムを外し、キロスに渡した。

「これ!中庭オープンに必要なキーアイテムです!」

キロスが嬉しそうに両手で持ち、人に示し「私、役に立つでしょ」とお道化たように言ったので、クラウドが

「中途半端にな」と突っ込んだ。

「あ、あー。あと中途半端ついでに、アレも後であそこを通った時にこのフロアに落しておいてください」

キロスは階部分のロフトにあるブロンズ像を指した

「あのブロンズ像、頸部に宝石が入ってるんです

キーアイテムじゃないんですけど、あれがあると確かチョット良い物が手に入ったと記憶しています」

するとキスティスが懐からロングウィップを取り出し、ヒュンッヒュンッヒュンッと回転させるごとに鞭のスピードを上げてゆき、ビシッとブロンズ像の首に重に鞭を巻き付けそのまま下へ引っ張り落とした。

大きな音を立てて階ダイニングテーブル上で粉々に割れたのは首だけ。頭と胴の部分はガゴーンガゴンガゴンと空洞金属音を立てて撥ねたが形はそのままビクともせず床に落ちた。

テーブルの上には粉々に割れた首部分、とその中に詰められていた砂と…ゴロリ…と大きな赤いダイヤモンドカットをされたガラス玉がダイニングシャンデリアの光を受けキラキラと輝いていた。

「サスガだね!」

「傭兵歴13年ですから」

感心したように言ったキロスに「当然!」と言わんばかりに鞭をしまいながらキスティスはガラス玉をゲットした。


その後、マリーニーが攻略できなかったラウンジに向かった。

一度通った廊下を戻るだけだったので、うろつくゾンビはおらず楽といえば楽だったのだが、斬り離したゾンビの頭…腐った生首と胴体が狭い通路を埋めるように縦横無尽に転がっていて、尚且つ飛び散った体液が壁に惨劇痕跡を残しており臭いも相当なもので、キロスは腰を抜かさず悲鳴を上げずにガクガク笑う膝を手で補助しながら変な格好で歩くのが精いっぱいだった。

そして実はその後ろを歩いているキスティスも貧血を起こして倒れそうになる自分を無言で気合を入れ続け、足を意識して右、左、右、左、と前に出し続けた。

キロスの手前現役傭兵のプライドで意識を保っていたが、もしこの時クラウドと2人だけだったら遠慮なくガクブルしながら半泣きになり悲鳴をあげ吐いていた。


マリーニーに託された鍵を使って入ったラウンジ名は「月光」。

バーが設置されており、その直ぐ奥には様々なアルコールが置いてあり、隣にはテーブル席が卓ある。

研究員用宿舎のラウンジのせいか、普通は不似合いな造りつけの大きな本棚がある。

スライド式の2層構造になっており、全ての段にみっしりと本が埋まっていた。

「ちょっと待ってくださいねー」

キロスはラウンジのその本棚から何かを探し始めた。

本棚の向かいにはグランドピアノが設置されている。


「あの………………嫌な予感がするんだけど…まさか"月光"を弾けとか……言わないわよね

本棚から何かを探していたキロスの手がピタッと止まった。

「それです!それです!

振り返ってキスティスを指さした。

「マリーニーが"俺は楽譜が読めない"と言っていたからきっと何かの楽譜なのだろうと思っていたけど、それですねうんきっと間違いない

キロスが改めて"月光"の楽譜を探し始めた。


「……簡単に言ってくれるじゃないの

アレは前半のシンプルスローから後半のアクティブアップの切り替えが鬼なのよ私は素人なのあんなの無理弾けない指動かない

「うん。でも君しかできないってセルフィが言ってましたよね。ね

そう、つまり君にしかできないんですよここでアイテムを取っておかないとそのその先には進めないんです!ね分かります進めないんです!

つまり私達はここで終わり!

外との連絡手段は断たれてるし、君ができないと私達ここで死んじゃいます

本棚の中から楽譜を探しながらキロスはチラッと振り向きキスティスを見ながら更に悲しそ~うに言いながら追い込んだ。

「そういうのは悲しいなぁ

せっかくエスタのストレス職場から解放されたんですから、私これから色んな所に旅行に行こうと思ってたんですよー

バックパッカーみたいなね、何せお金一銭も持ってませんから~

現地で働きながら小銭貯めながら現地で使ってっていう……そういう生活なら私、どこでのたれ死んでもいいな…と思ってましたけど、ここでは嫌だなぁ……うん

何のためにここに来たのか分からなくなってしまうそうだ、私はここに何をしに来たんだっけ

……あ、あったあーりましたよ凄いですね分厚~い!私って役に立ってるなぁハイキスティス!あなたの出番です!頑張りましょうッ

キロスは楽譜をグランドピアノにセットし、立ったままで青ざめているキスティスをグランドピアノの前まで押して行き

「さあ~~あとは君が結果を出すだけですよ~

ドウゾ!!一流の傭兵さん座って座って!先ずは座りましょう!そうそう、そしたら後は弾くだけです!何事も挑戦ですよ!挑戦もしないで”できない”は命がけでここに来ている皆に申し訳ないですよね!

キロスの顔は笑顔だが、強制で椅子に座らせ、ヤレ!と云っている。

目の前の楽譜を見たキスティスはそこに何か書いてある事に気が付き、再び「無理!!」と顔を覆い絶望した。


キロスがキスティスの読んだ楽譜を見たところ、最初のページに『誤差秒未満』と書いてあった。

「あー…何か思い出した

たしかこの鍵盤光るんですよね。そういえばそんな事言ってたなぁ

光ってる間に鍵盤を押さないと認識しないとか

ナルホド……不可能ギミック。初代所長の言葉は真実……になってしまうのかなぁ

解除は無理できませんか僕らは死んでしまうのどうしてどうして僕らは死んでしまうの


"月光"は決して短い曲ではない。

しかも非常に技巧と感性が必要な曲だ。

そんな曲を誤差秒以内で最後まで弾き切るというのは本当に無理…

キスティスはワナワナと震える自分の両手を見つめ口の中で「ムリムリムリムリ…」と小さく呟いていた。

それを見たキロス

「おやる気出てきましたね!?そうこなくっちゃさあさあヘルプしますよ何でも言ってください

「うるさい

耐えかねてキスティスはキロスに怒った。

やるしかないのは分かっている。でもそんな実力は無い。でもやるしかないのは分かっている。

そしてハァ~~…と長く深いため息を吐いた後、暫くピアノに突っ伏し、そして顔をあげ

「…………あなたは私が弾くのに合わせて楽譜を捲る役目

いい、後半は本当に早くなるから0.001秒でも遅れたら許さないわよ

それと失敗してもいちいち減らず口をきかないで集中の邪魔をしないで

キスティスは指をグニグニグニとストレッチした後、再び大きく溜息を吐いてから…弾き始めた。

とにかく弾くしかない。それ以外に選択肢が無い。


「はい私、傭兵としては失格でしたが、譜めくりはプロになるつもりで頑張ります

協力しますよ何でもご用命ください一流の傭兵さん

あぁぁ……ウザい!執念深い…キロス、凄く嫌な奴…やっぱり伊達に年喰ってない。

エスタ高官の中で長年ただ揉まれてきたわけじゃないのね…ウザ過ぎ。嫌味もいちいちヒネリが入ってる。

キスティスは内心思ったが、言葉にするのは止めておいた。更に執念深くなりそうな男だったから。

だがキスティス自身気が付いていなかった。そのまま自己紹介になっている事を。


光る鍵盤0.1秒の判定は本当に厳しかった。

しかも前半のスローは、そのスローシンプルさ故になかなか設定されたテンポと合わずエラーになり、後半は後半でアップテンポすぎて設定された鍵盤に指が着いてゆけずにエラーになった。

しかしキスティスはエラーになっても弾くのを止めずそのまま自分が納得いく箇所まで通しで弾くのを徹底的に繰り返した。

とにかく指が速さに追いつけるように、設定のテンポを指に覚えさせるように弾いて弾いてコンディションを上げ、設定に感覚を沿わせて行く以外に方法はなかった。

そうして徹底的に繰り返すうち、音楽関係はサッパリなキロスも譜めくりのタイミングが分かってきた。

緩急の激しいピアノを弾き続けるキスティスがどんどんと汗だくになって来るのは分かるが、ただの譜めくり役のキロスも全神経を使い何度も何度も何度も果敢に挑戦し続けるキスティスの緊迫した空気に中てられ、プツンッ…と切れてしまいそうなほどに張りつめきった緊張の糸が2人の間にあった


「このガラス玉はどうやって使うんだ

曲チャレンジの切れ目で人がまた最初からチャレンジしようとした時にクラウドがキスティスから預かっていた赤い宝石をキロスに見せた。

「あ、えっとですね、この部屋

この小さな部屋に豹のバストアップの像があるんですが、その豹の像には眼が入ってないのでどっちかにはめ込むと、何か良い物が出てくるようです」

キロスはセフィロスが見つけてきた地図を指しながら言った。

ちなみにセフィロスは「覚えたからもう必要ない」とのことだった。


「分かった。キスティス、行って来る」

既に 鍵盤に集中して叩き始めているキスティスは返事をしなかった。

「あ、そうだ。どこの部屋だったか良い感じのライフルが展示してある部屋があると思いますが、そこの部屋のライフルは取ったら駄目ですよ

取るとライフルを支えているバーが上がって部屋ごと潰れる仕掛けになってます。

どこかに壊れたライフルがあるんで、それが見つかったら良い感じのライフルと取替えて置いたらギミック突破です

ちなみにそれはキーアイテムとかじゃないんで、展示してあるライフルが必要ないなら取る必要も無いです」

「お前……本当に情報が中途半端だな」

クラウドは笑った。

部屋を出て狭い通路をダイニングルームに戻り、ホールを抜け西館に入った。

女神像の部屋を抜け躯が転がってる通路を抜け、角をいくつか曲がりキロスの言ってた豹の胸像のある㎡しかない小部屋を見つけた。

眼の無い豹の像が柱に嵌め込んであったので右目に赤いガラス玉を嵌めるとゴゴゴ…と柱が右反転し、像のあった丁度右後ろ位置に、拳銃ワルサーPPK38口径と弾薬が置いてあった。

念のため同じく空いていた左目の方にも宝石を当ててみたが反応は無かった。

カッコイイ銃だなぁ…とクラウドが手に取って感心していると、人が人走ってくる音がした。

音の感じからして最初にセフィロス、続いてセルフィ、アーヴァイン。

そして、その通り最初にセフィロスが顔を出した。

だが生憎クラウドのいた部屋は㎡しかないのでセフィロスに入口に立たれると自分が身動きできなくなる。

言ってみればロッカーの中に入っていて、そのロッカーの蓋を開けられたような状態だった。

アクションでセフィロスをシッシッと手の甲で払い、全員の横をすり抜けるように通り抜け、まず自分がスペースのある廊下に出た。


「キスティス達はどうしたの

セルフィが聞いた。

「今、ラウンジでピアノのギミック解除に挑戦してる。"月光"っていう凄い難しい曲だ。キロスが譜めくり役

俺にできる事は何もないから今他にできる事をやってる

あっちは暫く時間がかかると思う。そっちは

「セルフィにおまかせ

キーピックを再びカチャカチャいわせ「解除しまくりや。セフィ大活躍」と可愛く嬉しそうに言ったその仕草があまりに可愛らしく、釣られてクラウドも微笑んだ。

そのクラウドの予想外の微笑みにセルフィ、アーヴァインは驚き、セフィロスは不意打ちで心臓を撃ち抜かれ、うっかり倒れそうになった。


「あ、そうだ。キロスが言ってたが、どこかの部屋に使えるライフルが飾ってあるらしいが取るなってさ

罠だそうだ

違う場所に壊れたライフルがあって、それを入れ替えに置けば罠は回避できるそうだ。じゃあな」

「ありがとっね、クラウド、キスティスの方が長引くならこっちに合流する

廊下を戻りかけたクラウドにセルフィが言った。


「ピアノの部屋に戻る

どうするかはキスティスに聞く」

振り返り、そう言うとクラウドは廊下を戻っていった。

それを見送ったセルフィ…

「クラウドってすっごくキレイに笑うんだねー。ビックリしたあんなにキレイな微笑み方する男の人初めて見た」と、素直な感想を呟くと、アーヴァインが応えた。

「う~ん、クラウドって男っていうよりも、申し訳ないけど”少年”の方が近い気がする~

実際は僕らよりも百戦錬磨の年上なんだろうけどさ~」

そう言いながらセフィロスの顔色を探る様に見たアーヴァインだったが……

セフィロスはクラウドが去って行った方向を見続けており、2人の会話もまるで耳に入っていなかったらしい。


一方クラウドは西館を抜け、ホールに入り東館に戻ったところ、キスティスが更にパワーアップし果敢にチャレンジしている音が聴こえてきた。

とても美しく、哀しく、優しく、落ち着いた音色で始まる曲。

思わず足を止めて聴き入っていた。

哀しい音のような気がするのに、何故か優しく赦し労わるような音が前半、反転したように激しく闘い挑むような後半。

前半の曲調はいかにも"月光"だが後半の激しさはまるで月下で戦争をしている人間たちみたいだ。

まるで互いに譲れないなにかを懸けて戦う人間たちを静かに照らす月の光。

前半も後半も好きだなぁ。良い曲だ。...すごく良い曲だ。

このミッションが終わったらこのCD買おう、どうせ何年か何十年か向こうの世界には帰れない。

できるだけこっちの生活を充実させよう。

クラウドはその場に座り込み、キスティスのピアノに聴き入り始めた。


ゴールドソーサーのバトルスクエア以来、星を上げてのセフィロス探しが始まってしまった。

リーブによってセフィロスはスコールの世界へ何十年か身を置いていろ、決して帰って来るな。と達しが出た。

ところが当の本人セフィロスが断固拒否をした。理由はクラウド…

誰がどう説得しようがクラウド本人が命令しようが絶対にクラウドと離れて暮らすことについては断固!断固!断固!拒否!!の意思を曲げなかった。

あまりの身勝手っぷりにキレたクラウド、だったらいっそ全てを公表してセフィロス本人に過去の全ての責任を取らせたらいいと言ったが、リーブが止めた。

あれだけの災害を引き起こした犯人が未だ生きている事、不老不死である事。どちらにしても世間はおかしな方向に行ってしまう。必ず行く。セフィロスの邪悪なオーラがそうさせる。

それでパニックが始まれば同じソルジャー体質であるクラウドも無事ではいられない。クラウドだけではない、この星に更生に来ているサイファーたちの芽も摘んでしまう。

それでも嫌だ絶対にもう付きまとわれたくないウンザリだ絶対に嫌だ!!一人でどこへでも行け何もかもお前自身のせいなんだから俺は関係ないとクラウドは突っぱねたが、煮詰まったところでセフィロスが最強のカードを切った。


「クラウドと違う世界に住むなど、狂ってしまう」


その場にいた全員、特に当時のセフィロスが起こした大悪事を身をもって知っているリーブとクラウドはフリーズした。

狂ったセフィロスがどれだけぶっ飛ぶのか……あの悪夢……………

クラウドの他選択肢が全て消えた瞬間だった。


そうしてセフィロスがこちらの世界に飛ばされた時、隣には深く項垂れたクラウドがいた。

クラウドとセフィロスを見送る時にリーブが「サイファー達の事は任せてくれ。責任をもって真っ当に育てる」と言ってくれた事だけがクラウドにとっての救いだった。


こちらの世界に来るのなら、どうせならヴィンセントがいる場所がいいということでクラウドがキスティスに連絡を取った。

そしたら予想外、というか考えてみれば当たり前だが、こちらの世界はこちらの世界でパニックになっていた。

前日に"世界を救った英雄スコール・レオンハート"の死が発表されていた。

人類の完成体のような美形にして伝説の英雄、しかもエスタ大統領の息子。

スコール・レオンハート以上に現在も未来も幸福を約束された、神が造り神に溺愛されているような男がこんなにも突然この世から去るなど!……よもやこの世が終わるのでは!?とパニックになる人、泣き崩れ絶望し嘆き悲しむファンたち。

そしてテレビではこの世紀の大スキャンダルによりスコールの過去映像がニュースで繰り返し報道され、裏の世界の住人であるはずのSeedやバラムガーデン生徒達がガーデンを出入りする時にカメラやマイクを突き付けられる事態に発展していた。

しかもガーデンだけでなく傭兵の世界でも更なるパニックが起きていた。

召喚獣がいない一体もどこにもいない

スコールと契約していた召喚獣達だけではない、全て、一体の例外も無く全ての召喚獣が消失していた。

キスティスにスコール復活の時を見せてくれていたディアボロスもいつの間にかガーデンから消えていた。

行先はスコール復活のあの時を見ていたからキスティスには察しがついた。

しかしディアボロスは元々が引き籠り体質で今まで戦闘に借りだされる時以外は召喚フロアでじっと置物のようになっている召喚獣だったので、フロアから居なくなったままでいることなどありえず、キスティスも他の何も知らない傭兵達と一緒になって召喚獣(ディアボロス)消失パニックになっていた。

更に現場ではバトルのルールにも変化が起きていた。

召喚獣をジャンクションしていなくても魔法がジャンクションでき、魔法バトルもドローもできるようになっている。

しかもジャンクションもしていないのに契約している召喚獣のアビリティまで使える

今まで召喚獣をジャンクションしなければ決してできなかったバトルの絶対ルール。それが消えた。

「ディアボロスが帰ってこないのー

クラウドとセフィロスがこの世界に到着し、キスティスに会った第一声がソレだった。

ハインとのバトルに参加して大変な事になってしまったのではないかと、誰にも言えない事情を明かせる相手が思いがけず目の前に表れ、キスティスが暴走しかけた時……


「私はここにいる」

ヴィンセントがセフィロス、クラウドと並んで立っていた。

「ディアボロス

「キスティス、私はどこにも行っていない。他の召喚獣達もどこにも行っていない。

お前達は一時的に我々の姿が見えなくなっている。それだけだ」

相変わらず人型になると傾国の美人になるディアボロス。

美女の自覚のあるキスティスでも人型ディアボロスの隣には立ちたくはない。

スコールも確かに絶世の美形だったが、ちゃんと""として美しかった。だからその隣に立てるのは誇らしかった。

だがディアボロスの場合はどうも同じジャンルに立たれているような気がして、しかも自分が負けているような……気のせいなのは分かっているが、クラウド限定で出現するこの人型ディアボロス、実はキスティスはあまり好きではなかった。

……何か腹立つ。…………男が美人である必要ってあるの

キスティスのそんな内心にお構いなくヴィンセントは続けた。


「お前たち人間に見えなくなっただけで、この世界には今まで以上に様々な召喚獣が存在している

今まで次元の壁に阻まれこの世界に滞在できなかった存在も今は自由にそれぞれにこの世界を楽しんでいる

ただ、召喚獣と人間の関係はもう以前の様に契約が絶対でもジャンクションが必須でもない、マテリアも必要ない

バトルで召喚できるかどうかは今後の召喚獣と人間の関係が大きく関わって来る

今お前達に召喚獣が見えていないのは、まだお前たちが『容(かたち)無いもの』の観方に慣れていないだけの事だ

この世界に在る容無きもの達。バトルに限らぬ、そのエネルギーの存在と波長が合えば視える者には視えるようになる

だからキスティス、お前は今は誰に聞かれても何も知らぬで通せ

黙っていてもいずれそれぞれが気が付く時が来る

今、余計に情報を与えてしまうとお前が無駄な責任を取らされる」

勘の良いキスティスが、その変化について聞いた。

「もしかしてディアボロス............この世界のルールが変わったのって.........スコール

「そうだ。この世界の召喚獣だけではない『容無き者』達は全て彼の支配下に在る

この次元はスコールのテリトリーとなった

クラウド、お前の世界もそうだ。お前が今持っているマテリアにも召喚獣達はもう入っていない

だがいなくなったわけではない、お前が呼べばいつでも彼らは協力をする」

「スコールは今どうしてる


お前……自分の召喚獣達がもうマテリアに入っていないと話しているのに、先ず聞くのがそれか……手持ちのマテリアの確認もナシか、少しお前の召喚獣に同情する…と、召喚獣ディアボロスであるヴィンセントはクラウドのスコール病の重症さに引きつつも、隣で殺気を必死に押さえ込んでいるセフィロスに渇いた笑いが出た。


「色んな世界・次元を旅してたくさんの経験を積み、たくさんの命に触れ、そして凄い勢いで成長しながらテリトリーを広げていっている

見た目も思念体の方はほぼ完成体だが、真体の方はまだまだ変わる」

「思念体真体

「真体はスコールの本当の姿。私で例えたらカオスの姿が真体。今の姿が思念体

スコールの思念体も人間だった頃の姿とは少し違う」

「違う俺、見て分かる

「勿論分かる。間違えようがない。スコールはスコールだから

多分お前が最後に見た時から大体10歳くらい年をとったくらいの姿か…

それと今は神と人間の姿が融合した姿となっているから、人間だった時より少し神寄りの姿にはなっている

とにかく会えばちゃんと分かる」

ヴィンセントはクラウドに微笑み

「心配するな。そのうちフラッと現れる。…ではな」

消えかけたところをキスティスが呼び止めた。

「ねえあなた今どこにいるの召喚フロアには帰っているの

消えかけたヴィンセントが再び姿を具現化させ、艶然と微笑み言った。

「我々にはもうあのフロアは必要ない。あそこも今はもう空になっている

誰も戻らないから解体しても構わん

この世界はスコールの領域内、召喚獣はどこでも自由に存在できる

そして私は今はスコールの翼の中にいる

あそこには他にもたくさん容無き者達が棲んでいる

あそこが今までのどこよりも一番心地良いのだ」

「……あなたって…」

どうしても引き籠りなのね…後半部分は言葉にせず笑って消えて行くヴィンセントを見送った。

クラウドも嬉しそうに笑い言った。

「あの剣みたいな翼の中か」

キスティスとクラウドは微笑み合った。

「そう言われればそうね......スコールが再誕した時、たくさんの召喚獣があそこに入っていったわね

きっととても居心地が良いのね…」


ただ一人、 ずっと黙っていたセフィロスの機嫌は最悪になっていた。努めて表情には出していなかったが。

”あそこ””あそこ”と通じ合っている人。

スコールが再誕したその時、セフィロスは海竜巻で吹き飛ばされ岩に頭をぶつけライフストリームに行っていたからどうなっていたのか知らない。

……本当にいちいち腹の立つ悪童だ…と、こちらの世界に来て早々不愉快全開になっていた。

"死ね"と思ったが同時に"もう死んでる!死んだからインチキ臭い神になったんだろう!"とセルフツッコミを入れ、やはりどうしてもスコールが絡んでくるとセフィロスは忌々しさを表情に出さないよう苦心しなければならなかった。


クラウドたちはキスティスに誘われるままSTARSの傭兵テストを受け、入隊した。

そして初仕事がこのラクーンシティ。

クラウドも思っている事は表情・態度に出ないタイプなので傍目から見れば平静そのものだったが、内心はもう本当に直ぐにでも帰りたくなっていた。

今までで一番きつかったバトルは大空洞のソロバトルだったが、それとはまったく違った意味で今回がダントツで過去最悪バトルだった。

とにかく気持ち悪い!臭い!汚い!視覚、嗅覚がバトルじゃなくても常に攻撃されている状態で、あまりにも生理的に嫌悪感があり過ぎた。

クラウドはその場に座り込んだままラウンジに戻ろうとせず、目を閉じてキスティスの"月光"を変わらず聴き入っていた。


スコール。

アイツがいれば俺は迷わずにいられる。

悩むのは飽きた。同じ場所ばかりグルグルグル…どうせ悩んだって答えなんか出せないし、無理矢理出したってろくでもない答えしか出せない。分かってる。そんなの散々分かってる。

もう前に進みたいんだ。

けどスコール、どこが前なのか分からないんだ。自分のしている事が合ってるのかどうかも分からない。どう踏み出したらいいのか分からないんだ。

教えてほしい。


「………早く出てこいよ…スコール」

声に出して呟いてみたがやはり何も反応は無かった。


キスティスのピアノが止まった。

何かガゴンッと大きなものが動く音がした。

「あ…」

ギミックが解除された

休憩終了...とばかりにクラウドはラウンジに戻って行った。



迷い子3    NOVEL    迷い子5

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