迷い子3



「キロスさんおっ久しぶりです~どうしちゃったの何でここにいるんです

「こんにちは、エスタの偉い人がどうしてこんなゾンビだらけのバイオ汚染の町に~

間もなく到着したセルフィとアーヴァインが挨拶がてらありえない状況について聞いた。

キスティスはできればクラウドとセフィロスに目の前のキロスが何者なのか説明したかったが、”エスタ大統領ラグナ・レウァールの親友でホワイトハウス事務局長のキロス・シーゲル”なんていうのは顔も込みで世界中に知れ渡った常識、説明すれば全員の不審を招くので2人には会話の中で察してもらう事にした。


「もう私は局長じゃなくなりました

週間前に辞表を出して一昨日までに引き継ぎも終わらせて来ちゃいました

私ももういい年ですから、もうこれからは好きな事をして過ごすことに決めました!」


ニッコリと笑うキロスだったが、週間前といえば...エルオーネを呼び出し、キロスが付いて来た日が16日前、スコールの死をマスコミに流したのが翌日。

辞職が本当なら、自分が辛辣かつ容赦なく2人の人格攻撃しまくった事が少なからず原因に、、、いや、まさか大きく関わっているのではないかとキスティスは非常に嫌な予感がしていた。

「好きな事がここでゾンビに囲まれて身動きが取れなくなっていることなんですか

そんな訳はないのは分かってはいたが、"お前にケチョンケチョンに言われた事がショックで辞職した"とは間違っても言われたくなかったため、キスティスはあえて攻撃的姿勢を崩さずにいた。

昔は確かに箸にも棒にも引っかからぬ傭兵失格人組だったが、今は世界の著名人リストに長年載り続ける正真正銘の殿上人。

自分の言葉が引き金になって辞職...など責任など持てない。"辞職は君とは全然関係ありません"と言ってくれないと困る。

そもそもそんな地位の人間が突然辞職をしたら絶対に世界的ニュースになっているはずだ。

でもそんな話は全く聞かない。

だから冗談なのだ。きっとそうだ!そうに違いない!…キスティスの額には汗が滲んでいる。


「だから君に会いに来たんですってば。誤解を解きたくて」

「誤解。そうですか。それはいいとして私、仕事中なんですけど

腕を組みキロスを睨んでいるが、キスティスは段々青ざめてきている。

『ヤメテー!オネガイ!それ以上言わないで!!』と思ってはいつつも、今のキロスの言葉に嘘が無い事にも気が付きつつあった。

そもそもエスタのホワイトハウス事務局長がバイオ汚染により閉鎖され、送り込んだSAT(特殊急襲部隊)もSTARS(無国籍特殊傭兵部隊)も行方不明になってるようなこんな場所にいるわけがない。

国の中枢に坐す最重要人物がこんな場所に来るのを、エスタ国が許すわけがない。

来ることが許されたとしたら、辞職して何の力も持たないただの人になった時だ。

どうしよう...。どうしよう…。あぁ、あの時、もう少しオブラートに包んで言えば…駄目よ!そうしたところできっとキロスは真意を悟ったわ!だったらどうしたらよかったのよ!止めてよ!こんな所に来られても、私だって生きて戻れる可能性が低いのに!キロスなんて今生きてるのだって奇跡よ!絶対に無理よ!そうなったら私はどうなるの!?私のせいで!?ホワイトハウス事務局長がなんて、やめてよ!知らないわよ!

そんな激しい動揺をキスティスはプロの傭兵としてmmも表に出さず、無言で腕を組みキロスを見下ろしていた。


「申し訳ない

でも、どうしても出来るだけ早く誤解を解いておきたかったのと君に聞きたい事も言いたい事もあって

でもこちらから呼び出したのではきっと君は聞かないだろうとも思って...

こちらにもあまり時間が無かったのもあり、色々と優先順位を付けた結果、事務局長を辞職し、全財産を処分し全国施設・機関に寄付し一文無しプーになって、ここに来ました

「はい?……い、今何て言いましたちょっと後半部分が聞き取れなかったんですが」

一文無しになったとか言ったような...気のせいか

きっとそうだ。話をするのとお金は全然関係ない。聞き違いだそう、ちょっと私は動揺しすぎてる!

気持ちを落ち着けようとしたキスティスだったが、キロスはまるで舞台主役俳優が公演後観客に向かって挨拶をするように両手を広げ、演技ばって腰から礼をし、晴れ晴れとした笑顔で言った。


「キロス・シーゲル46金無し、職無し、住所無し、恋人・家族無し何も持たない私の未来は無限に開いています

…………と言いたかったのですが、思いもよらず今すぐデスエンドになりそうな状況に只今大変困っています

プロに助けてもらわないと私は死にます!というかゾンビになって人の肉を喰うようになってしまったらどうしよう!………という状況です」

嘘か本当か笑いながら"死ぬ"とか……どうも今の状況を楽しんでいるように見える。

キスティスをはじめSeedメンバーはエスタホワイトハウス事務局長の地位の凄さを少しは知っている。

それプラスずっと独身を通してきたキロスは毎年世界の長者番付に名を連ねていた?

それを一気に投げ出した、と笑っている目の前の男…しかもわざわざこんな場所まで来て"死ぬ"から助けてくれとか言ってる。

傭兵全員にしてみれば、何言ってんの?何やってんの?この人、というところだが、キロスは大まじめに続ける。


「それでね、キスティス君。聞いてくれ。

ラグナはアルテミシアとの大戦が終わるあの時まで自分に子供がいた事自体知らなかったのだよ

決してスコールくんを無視していたわけじゃない

今更こんな事を言っても遅いかもしれないけど、本当に知らなかったんだ

この状況の中、何よりも先に話し始めたのがソレでキスティスの眼が据わった。


「…キロスさん。先ほども言いましたが我々も仕事中であまり時間に余裕が無いんです

あなたは急いでいるから閉鎖されているここにまでわざわざいらしたんですよね

でしたら先ずは急ぎの要件、優先順位の高い順番で仰っていただけますか

あ、いえ、ラグナさんがスコールの存在を知らなかったというのは驚いています

でも言ってみればそれはラグナさんとスコールの話で私は部外者ですよね。あなたも部外者です

そしてスコールはもういない

全然急ぐ必要のない話です。今言わなきゃならない事を先ずお願いします

「だからそれが今一番重要な事です私が急いでいる理由はスコールくんを失くしたラグナが今死にかけているからです

そして私がここにいるのは私がスコール君の死を信じていないから今ならまだラグナを救えると思うからここにいるのです

真剣に言い返してくるキロスだったが、キスティスにはスコールの死と、ラグナが死にかけているのがどうかかわって来るのか良く分からなかった。

「そういえばラグナさん静養中ってニュースになってましたがご病気でしたの

「我が子が亡くなったと聞いて後を追おうとしウォードに止められ

隙をついてまた後を追おうとし止められ!2週間前から彼は何も食べられなくなっており

胃液ばかり吐き続け、ついに胆汁と血まで吐き始めまして

今、彼はベッドに固定され睡眠薬ではなく麻酔を撃たれ、色々点滴で流し込みこちらの世界に戻そうとしているところです

でも心が戻ってこないんです!壊れたまま…どんどん壊れていくんです!お願いします!助けてください!」

絶句しているキスティス達にキロスは泣きそうに悲しそうな表情で言った。

「バカなんですアイツは。どうしようもなく……バカ過ぎて時々本当に腹が立ちます……

週間前にスコールくんが亡くなったとニュースを聞いて、ラグナは慌てて全てのスケジュールをキャンセルし、単身彼のマンションに行きました

…亡くなったのは丁度ガーデンからS・T・A・R・Sに移籍する狭間の…どこにも彼が所属して無い、会いに行けるのは彼のマンションしか無い、そんな時でしたね…

空っぽだったそうです

きれいに掃除され、不動産屋に引き渡すだけの状態になっていた

スコールくんや君の住んでるあのマンション、月契約なんだってね

ラグナはその賃貸空部屋を買い取ったそうです

もう主もいない、キレイに掃除された空っぽの部屋を

君ですよね、スコールくんの部屋を空っぽにしたのは。キスティス


「…………我々はいつ死んでもおかしくない職業についています

今もそうです。死んでもおかしくない

死人がモノを残せば周囲に迷惑をかけます

スコールと私は以前から互いに約束していました。どちらか生き残った方が死んだ者のモノを全て捨てる

何一つ残さずに捨てる

スコールは元々自分の死期を知っていたからモノは殆ど残っておらず作業はとても簡単でした」


作業は少なかったけれど、スコールのいなくなった部屋に入った時の気持ちを思い出すとキスティスは今でも泣きそうになる。

約束していた行動だったけれど、主のいなくなった部屋が悲しくて堪らず、なかなか作業が進まず、かといって誰にも手伝ってもらいたくなく、結局徹夜作業になってしまった。

そんなキスティスの様子に何かを察したキロスだったが、それでも引くわけにはいかなかった。


「長くなりますがお願いします、どうか聞いてください

昔、エルオーネが攫われてラグナが探しに旅に出た時、あの時はまだラグナどころかレイン自身も妊娠してるなんて知らなかった

レインの住んでいたあの町は余所者を嫌う閉鎖的な村だった

そこへもってきて結果的にラグナは妊娠したレインを一人残して旅に出た形になった

結果、村の人たちは余所者を増々排除するようになった。

レインは一人でスコール君を出産したが、産後まだ体調が戻っていない時にエルオーネ狩りの襲撃を受けて亡くなってしまった

ラグナもそうだがレインにも身寄りがいなくて、スコール君はイデアの孤児院に預けられた

その後ラグナはウィンヒルに帰ってきたが、村の人たちは誰一人彼を歓迎せず"レインは死んだ。余所者は早く出て行け"とりつくしまも無かった

近くに彼女の墓を見つけたが、当たり前だが子供の名前なんて書いてなかった

だが彼女の遺品を整理していて、どうやらレインが妊娠していたらしい事だけは分かった

それで門前払いの村の人達に何度も何度も食い下がり、子供の存在を聞いたところ"生まれる前に母体と一緒に死んだ"と言われた

ラグナは愚かにもあんな閉鎖的な下劣で愚鈍で醜悪な連中の言葉を信じてしまった

ラグナは亡くしたレインと生きて生まれてこれなかった我が子を想い凄まじく落ち込み、泣き、吐き、暫くは廃人のようになっていました

立ち直るのにたくさんの酒と薬と…時間を必要としました

ラグナも昔から家族には恵まれていなくて……あんな時代だったからね

あ、関係ないですが私にもウォードにも肉親がいません

我々が仲良くなっていったのもそれがきっかけでした

仕事が長期休暇になっても我々には帰る家も、仲間内で語るような気安い家族の思い出も何もなかった

だから我々には良く分かりました

ラグナがどれほど家族というものに憧れ続け、求め続けてきたのか

ちなみにウォードも『家族』に憧れているのですが、アイツは選ぶ女が最低最悪なのばっかりで家族の形態になる前に壊れるんです

よりにもよって何故そんな女を…というのばかり選び抜きます。呪われた才能です

そして私は家族がいない世界で生きて来たせいか、別に欲しくないんです。いないのがデフォルトです

自由が好きです。生涯の友と言える存在もいますし

そんな我々、出来損ない傭兵人組でいるうちは楽しかったです

何でも互いに話した。女の話も、仕事の愚痴も、上司の悪口も、お気に入りの店の話も…でも仲間は所詮仲間です。家族とは違います

私は生涯の仲間がいればそれで良かったけど、ラグナとウォードは違った

街中で父親と母親と子供と…いかにも家族な人たちを見かけると、ラグナはずっと目で追うんです

ただずっと見てる。まるで時が止まったようにずっと、ボケー…っと家族連れを見てる

亡くなったレインと生きて生まれてこなかった我が子の事を思い出してるのか…ただいつまでも見続けていました

魔女大戦が終わった時にエルオーネから初めて"スコール君がレインとラグナの..."と聞いてラグナはショックを受けた後、ただただ戸惑っていた

だって死んだって信じていましたからね

いない筈の我が子…

生きて生まれてこなかった我が子を想い、醜態を晒しまくり死ぬほど吐き、泣き、叫んだ

実はその子が生きていて、あんなに大きくなって、しかもヒーローのように…って、本物のHEROですね

カッコよくて皆を率いて可愛い彼女もいて……

何度も言いますが彼はバカなので、どう対応したらいいのか分からなくなってしまったんです

だって死んでいるはずだったんですから

だから戸惑って、恥ずかしがって、…スコール君が完璧すぎたのもありました

性格が穴だらけのラグナ。周囲にも散々言われてますし本人も自覚してる

だからこそ"俺が親父だなんてスコール君が嫌がってるんじゃないか"とか"どんな顔して会えばいいのか分からない"とかね

そのくせスコール君が出席すると聞けばパーティだろうが式典だろうが最優先で出席、体調が悪くても必ず出席、でも話しかけどころか目も合わせられない

スコール君がメディアに写ったものは片っ端から集めて何度も何度も繰り返し延々再生して"カッコイイねぇ。""やっぱりレインに似てる"とか…更には探偵まで雇って彼の日常をサーチしようとしたりしていたので、さすがにそれは私が止めました、Seed相手に探偵が通用するわけがない。余計にこじれる

お前らは正真正銘の親子なんだから、つまらない事してないでとっとと会いに行けと言ってましたが、…まー、ダメでしたね

いい年こいたジジイがまるでアイドルに憧れる女の子の様に恥ずかしがって、照れて……、見てるこっちはもう気持ち悪いわ、じれったいわ、みっともないわ…

あれほど憧れていた父親にアイツ、なれていたのに…

家族ができていたのに…

ラグナがその半生をエスタの為にどれほど犠牲にしてきたか、共に生きて来た私はよく知っています

彼は本当は根っからのボヘミアンです。そんな彼がずっと大統領なんてものに縛られ続けた

人からはどう視えようとも"大統領"なんて職は彼にとっては捕まって檻に入れられたようなものです

それでも昔はこの任期が終わったらあそこに行こう、どこそこに行こう、誰それに会いたいとか我々出来損ない元傭兵人で言ってました

そんな話をする時は日頃のストレスも消えて楽しかった

それが休みを取る事すらままならない日々が続き、なかなか休日が合わなくなり、そんなプライベートな話もしなくなり、任期が過ぎても役職から外されず、周りは頭の良い人たちばかり

ラグナに力を与えておいてその力を利用しようとする人が山盛りの世界

頭の良い人たち同士の牽制の道具にされそうになり、そうはさせるか!…なんて日常ももうウンザリ辟易

もうとっくのとっくの昔から我々人はウンザリしてます、あんな世界

誰からもお願いされるばっかりで誰も俺達のお願いは聞いてくれない

他の連中は任期があるのになんで俺達には無いんだそうだクーデターを起こそうそして自由になるんだ…なんてたまに人で集まれるとヤケクソ気味に計画したりしましたが、結局それすらも暴かれ…

『クーデターなんてものはですね、政権のトップにいる人が起こすものじゃぁ~ないんですよ』なんてアホの子に言い聞かせるように言われて屈辱を味わい……分かってるよ!そんな事は!ただストレス解消に3人で楽しんだだけだ!

…………結局当たり前の顔をして任期を無期限で伸ばされ……

その結果が今だ!!

我が子の存在も知らずに、名乗り合う事もできないまま我が子に先に死なれてしまい……もう馬鹿々々し過ぎてアイツ...

『スコール君の所に行って"俺がお父さんです"と名乗るんだ!俺がお父さんなんだーーーーーーーー!!"大好きですよ"と言わなきゃいけない言い忘れた!!だから死ぬスコール君に直接言うスコールくんのパパは俺だーーーー!!』って…ったく…今更何言ってんだ…だからとっとと会いに行けって何度も言ったのに。馬鹿が……

結局、何一つラグナの手元にスコールくんのものは残らなかった。

全く何一つ

…父親なのに

……あんまりじゃないですか……酷すぎませんか!?

大統領、大統領秘書、ホワイトハウス事務局長

私達は誰もそんなもの欲しがってなんかいませんでしたよ

私たちはいつだって自由になりたかった!旅をしたかった

望まれることの連続で義務がどんどん増えてきて、精一杯応えて!更にお願いが増えて!

その結果がこれか

今更こんな事を君に説明したところで当事者のラグナもあんな状態で、スコール君もいないんじゃ何の意味もないのかもしれない

けれど、この前君に会った時……君もとても辛そうだったから…

だからせめて君にだけは真実を伝えておこうと思いました

ここに来たのはそれもありました。環境や周囲に縛られ続けた結果、私達の誰一人救われていない

だから、こんな状況だからこそせめて君一人だけでも楽になって欲しい

…そんな筋合いでもありませんが、その為なら私は別に死んでもいい

そして死ぬなら……君たちと同じ考えです

死ぬなら何も残してはいけない。金も財産も。残せばトラブルになる

だから全部処分してきました。気持ちよく。ぱぁ~っとぱぁ~っとばら撒いてきました!!


でもね……おかしな話ですが、私はスコールくんの死を信じてはいません

私が信じてしまったらラグナは終わりです。間違いなく

ラグナはウィンヒルの連中の時の様にスコールくんの死をスンナリ信じてしまっています

そして後を追おうとしている

レインが死んだ時はギリギリ、本当にギリギリ、たくさんの酒、たくさんの薬で毎日慟哭し続け、酩酊し、オーバードースの日々でアッチに行きそうなのを、無理矢理こっちの世界に引っ張り戻しました

今回はきっと、もう無理でしょう…………もし、本当にスコールくんが死んでいるのなら

一度失った我が子をもう一度失うなんて、もう耐えられないでしょうアイツには

ラグナはそれほど家族を求めていました

本当に死んでいるのなら彼の散り散りに引き裂かれた魂は戻らない………私にはどうすることもできない」


耐えられなかった。

もうキスティスは無表情でいるのが限界だった。

ラグナをバカバカ言うキロスも救い難いバカ。

世界の中枢に居続けた男…冷静なふりしてやってることがラグナと同じくらい馬鹿だ。

何もかも処分してこんな場所まで命がけで何をしに来ているのか


「あのー…キロスさん

今更こんなこと言っても仕方ないかもしれないけどハンチョ…スコールは全然完璧な人じゃないですよ

ていうかハンチョっくらい欠けるところだらけの人、私他に知らない」


話を聞いていたセルフィが少しズレた事を言ったが、まぁそういうのもラグナへの土産話にでもしようかと、キロスは続きを促した。


「確かにハンチョのルックスは人類最高傑作かもしれないけど、確かに頭もメッチャキレるしバトルも最っ高に強いけど

でもそういうギガスペックなところを帳消しにしちゃうくらい性格が超欠陥品なの、あの人

しかも自分が欠陥品なの気にもしてないからすっごくタチの悪い迷惑不良品なの

人間のくせに人間に興味なくて、びっくりするくらい召喚獣野郎でチョコボフェチ

もうね、変態だね!ってくらい召喚獣とチョコボに入れ込んでるの

人間と話すように召喚獣とめっちゃ話せてコミュニケーションもとれてて、チョコボのどの子とも仲良しこよしなくせに、人間相手になると腹立つくらい超無口になるし、無表情だし、話しかけても聞いてもいないし、直ぐ忘れるし、間違って覚えてる

別にな召喚獣やチョコボが人間よりも下とかは私も思ってへんよ

けどハンチョに限って言えば、人間はカナリハッキリキッパリその辺に転がってる石と同じくらいどうでもいい存在で、召喚獣やチョコボは超重要みたいなの露骨にすっごい分かり易く!丸出し!

おっかしいよねぇ!?頭が

魔女大戦の時もね、実はカードゲームにハマってたんですよ、あの人!

知らなかったでしょ!?大戦のあの時ハンチョが頑張ってたのは魔女との対決じゃなくてカードゲームなの

で、やっぱりあの人頭キレるから一気にCCキングにもなってカードクイーンにも勝って

世界に枚しかない個人カード、私らのカードとかスコール本人とかラグナさんもキロスさんのも、とにかくパーフェクトコンプリートしてたんです

パーフェクトですよカードクィーンですらできなかった事ですあり得ない偉業です!!

なのに集めた個人カードがキモイて…キモイって、キモイてぇーーーーーー!!個人カードをぜーんぶカード変化をさせて潰した!!消滅させちゃったの

世界唯一だったLV10の個人カード全部全部『人間のアップなんかキモイ、遺影かよ』って……い、言うに事欠いて遺影って、い……いえー!?、う、だったら寄越せって話ですよっ

フツーーーね、個人カードなら潰す前に本人に一言くらいあるよねカード変化させるねいいくらいフツーーは言うよ!!!

でも敵はスコールだからね!そこまでは望んでへんかったけども!!せめて一言言えって話よ!!

なのにイキナリ無言でボンッボンッボンッボンッ自販機に小銭入れるみたいにボンッボンッボンッボンッ一気にオール連続消滅!!それが迷いなさすぎ、早すぎて私達が唖然としてる間に全部消えてた!!

この世界のLV10のカードが全部全て消滅した!!

……キレるでしょ。フツーに

でもスコール、何でキレられるのか分からないって真顔で言うんですよあのぶっ壊れ欠陥品!!

『アンタには大切なカードは無いん!?』って聞いたら"勿論ある"って、しょ…しょー…召喚獣のカードやら、LVの異星人やらトンベリキングやら自慢気に…もう、あの時は、あー…ハハハ…コイツ…ダメだ…本気で壊れてる、って…アタマオカシイって思いました

しかもソレやったのがね、魔女対決最終戦の時ですよこれからアルテミシアに最終戦を挑むっていう時!!

もうね、最終戦直前でスコール以外皆…ほぼ戦闘不能状態でした

なんていうのアレ…体力はあるんだけどチカラ出ぇへん、ヘロヘロや

私らメンタルやられちゃってもう、まさか味方にマインドブレイクやられるとは思わへんかった。油断したわ

まあそれでもスコール人で勝ったんですけどねアルテミシアに

アレ、今でも納得いかんわ。殆ど一人で戦ったって…そらオマエのせいやろ!!って話よ!!

それにね!!!!これは私達スコール班しか知らないトップシークレットだけど、魔女から世界を救う戦いの時、もう全然真面目にやろうとしないんですよアイツ

私達、行く先々で"頑張って"とか"応援してる"とか言われちゃって、そんなん言われるとチョットはエエカッコシイになっちゃいますよねっ、「ハイガンバリマース」とか答えちゃったり、ニッコリ笑顔作っちゃったり

でもハンチョ、そういうのガン無視してカードゲームやろうとするしレアカードとなると子供からも容赦なく巻き上げるし!!!

そんなんもいっつも私達がフォローして苦しいフォローもしたってんのに気が付けばハンチョはチョコボの聖域探しで旅に出たまま戻ってこないし、、

ヤバイ…こんなんヤバ過ぎ私らゴールに辿り着かれへんて、でもヤツはやっぱりギガスペックで一般人は私達じゃなくてあのギガスペックの迷惑不良品に期待MAXで、目だってハートマークになってて、ウルウルしちゃってり

こっちがウルウルだっつーの真逆の意味で!!

でも私ら、頑張って頑張ってなんとかかんとかあのアホを戦いに連れ戻して、最終戦に持ち込んで、ようやく終わって……

ところが戦後は戦後でスコールが異様に持ち上げられて、いや、分かるよ。確かにスコールはキメる時にはキメる。そして誰よりも強い。戦闘じゃ誰よりも頼りになる

でもな、正直頑張ったのは私らの方やん

すっごい頑張った…どうやってあのギガスペックの不良品を正常に動かすか、どうやって獣道に突っ込んでったまま戻ってこないアホをメインストリートに連れ戻すか

更に腹立つことに本人は迷惑かけてる自覚がゼロですからそりゃもー、堂々としたもんですもーーー本当にタチ悪い!!

…でもな、こんなん誰にも言えへんやん

世界が望んでるのはそんなんじゃなくて超カッコイイハンサムくんの英雄話だし!!誰もどっかの変態のイカレっぷりを話してくれなんて言わんしま、聞かれても話せんけどな酷すぎて!!

あの変態、マジで世界なんかどうなってもいい人だったから

あ、これトップシークレットね今初めて部外者に言ったんだからこの話、漏れたらキロスさんが犯人だからね

でもこれでスコールがどんだけ欠陥人間か少しは分かってもらえました!?

あれだけギガスペックな英雄が友達一人もいないのは伊達じゃないですから

本物正真正銘のイカレポンチですから

その点ラグナさんはアタマ悪いけど考え方が真っ当な人ですよね友人もたくさんいるし

だからあの欠陥ハンチョに気後れするような事は何一つ無いですよ私、ハンチョよりラグナさんの方が好きだし

上司にするならどっちがいいかって聞かれたら…ンー………やっぱりハンチョだけど……うん、強いしド変人だし遊び人だけど結果は必ず出すから一緒にいて面白いし結局ちゃんと前に進めてるし

でも仲間にするなら…ンーー……ンーー………やっぱりハンチョだけど強いしカッコイイし、なのに変人過ぎてあんな人絶対に他にいないからね

でも友達にするなら絶対にラグナさんヌケてるけど考え方がマトモだもん

あとラグナさんがスコールに会えなかったって悲しむこともあまりないですだって会ってもきっとガッカリ面会になったと思うんです

ハンチョ、そういう人の気持ち的なの人間ぽい、情っぽいやつ絶望的不感症だから

あのラグナさんが『パパですよーww』なんて名乗ってもハンチョ『あ、そう』か『フーン』か『で』とかで終わりだったと思うし。ハンチョって…」

「セ、セフィ…もうそのへんにしとこうか…」

ラグナフォローのつもりか延々スコールをディスり続けるセルフィ、一緒に聞いていたキスティスとクラウドの表情がどんどん険しくなってきている。

怒ってるよ…気付けよ、身内に敵作ってどうするんだよ。と、空気を読む男アーヴァインは秘かに焦りセルフィの口を大きな手で優しく塞いだ。


一方一切言葉は挟んでいないがスコールの変態不真面目っぷりの具体例が自身にもリンクするところがあり過ぎたクラウドは内心修羅場になっていた。

"俺ももしかして仲間にそんな風に思われていたんだろうか…"

そう考えて、以前ヴィンセントが言っていたのを思い出した。

"お前たちはソックリだ世界を救う旅以外にこの上もなく真面目だったところがな"

……俺は変人、欠陥人間、絶望的不感症とか連呼されるような立ち位置だったか!?俺、そんな役割だったか!?

まさか……皆に実はそう思われていた…とか……まさか。まさか


クラウドのそんな内心修羅場を知らぬアーヴァインやキスティスはどんどん表情が険しくなってきているクラウドを見て、スコールsageはクラウドを不機嫌にさせると判断し、一方同じくクラウドを見ていたセフィロスも根拠は違っていたがスコールsageは決してクラウドの前ではするまいと再確認していた。


「えっと、うん。ありがとう。セルフィ。ラグナに伝えておくよ。えっと……大変だったね

でも、それで本当に………本当に本当にキスティス

嘘とか…あのウィンヒルの連中のようについてはいけない嘘を付いているのではないのかい

そういう嘘は絶対についたらいけないんですよ取り返しのつかない哀しみを招きます

あ、いや、あの、できれば嘘でしたーって今は言ってほしいのですが

どうか、今、馬鹿な男の命が崖っぷちにいるんです

崖っぷちからね、今にも落ちそうなんです

ねえ、キスティス本当にもうこれ以上ラグナを嘘で苦しめないでやって欲しいんだが…

本当に一筋の光でいいんです。細い細い今にも消えてしまいそうな頼りない弱い光でいいんです。希望をくれませんか?

キスティスくん、実は仕事上の戦略で死んだことにしたとか大丈夫ですよこれでも元傭兵の端くれです

秘密は絶対に守ります実は戦略なんですよね生きてますよね彼」

キロスがまるで縋るように、キスティスの瞳の奥の嘘を見抜こうとするように聞いて来た。

だが子供の頃から命のやり取りを繰り返してきたキスティスの応えも心の中の台風荒波を微塵も感じさせず、淀み無く用意した答えをただ繰り返した。


「死にました」

「嘘や!!!!!!!!!

突然セルフィが叫び、キスティスを今にも殴り掛からんばかりに睨みつけていた。

「絶対に嘘や!!!

ついさっきまでスコールsageを言い続けたセルフィ。

スコールが死んでいる事に関しては絶対に受け入れないつもりらしい。

しかしキスティスも引かなかった。冷静な風を装い続けた。


「スコールを襲撃した敵の事はまだ誰にも言わなかったわね。この際だから皆に聞いてもらう

敵はハイン

アルテミシアやイデア、アデルの中に入っていた諸悪の根源のアイツ、エルオーネを追い回していたアイツです

ハインは神、永遠の命を持つ者

だからイデアとアルテミシアの時間の円の中に閉じ込めた

けれど本当はそれで終わってなかった

永遠に続く時間の輪の中でハインだけが輪を回転させ続け、ハインだけが成長を繰り返し、大昔に人間と戦い分身したようにまた秘かにアルテミシア以外の者に分身をし、秘かに成長し続け、魔力が桁違いになったところで時間の輪から飛び出して来た

そして時間の輪から飛び出してきたハインには世界滅亡以外に目的が増えていた

ハインは自分に敗北を付けたスコールが許せなかった

未来に飛ぶ前にどうしてもスコールだけは殺しておかなければ気が済まなかった

時間の輪を延々と回転させ続けたハインの魔力は桁違いで、襲撃されたスコールはハインが作り出した魔空間に閉じ込められ殺された

ただし、スコールも魔女大戦の時のエルオーネの時間移動の時に自分の最期の時を見ていた

いつ自分がどうやって殺されるのか知ってた

だから死ぬのが避けられないのならと、彼は事前に対策を練っていた

ガーデンからスコールが出たのもその一つ

そしてハインが現れ最期の時がやってきた時、彼は自らの命を懸けてハインと刺し違え、ハインをハインが作った魔空間に自分ごと引き摺り込み、閉じて行く魔空間ごとハインと共に消滅しました

私の召喚獣は時空を曲げる能力があって、その能力を使って私にスコールの最期を見せてくれました

なんとか救い出そうとしたんだけど、視る事は出来てもそこはハインが作り出した魔空間

どうしても干渉ができなかった。どうしても入り込めなかった

結局エルオーネがいても意味が無かった。私達が知ったのが遅すぎた

……もしかしたらそれもスコールの計画のうちだったのかもしれない。誰も巻き込ませないために

まあ、彼の事だからそこまで考えてなかった可能性の方が高いけど……

スコールはSTARSでも私達のリーダーになる予定だった

でももしかしたら最初から入隊する気が無かったかもしれない

今となってはもう分からない

ともかく死んでしまったから一緒にグループを組む予定だった私達元Seedはイキナリ頓挫した

だってスコールに代る人なんていない…………………あんな人……どこにもいない………………

……………………あんな…変な人…………………

……………………………………………

……結局以前スコールの紹介で知り合ったこの方たちに臨時で出てもらって今に至ります

正直私もこれからどうしようか困ってる

スコールのいないSTARSってピンと来ないし

どうしたらいいのか私にも分からないの」

言葉を詰まらせながらキスティスは俯いた。


流されまいとキロスは標的を変えた。

「君、スコール君のマンションの防犯カメラに写ってた人…だよね?

クラウドの輝く金髪と髪型は人物特定余裕過ぎた。

クラウドは何も返事をしなかった。

「君も…この前会った人だね。スコール君と同じミッションに参加したとか

STARSでもSeedでもないのにSeedのトップのスコールくんと同じミッションに参加したのしかもそんなプライベートな話をしたの彼が…君に

キロスは今度はセフィロスを探るように見たが、セフィロスも何も反応しなかった。

「傭兵でSeed以外であと一流といったら…FOX HOUNDの方それともB・S・A・A

でもいずれにしてもスコール君の立場ならそういう人たちと同じミッションには入らない筈だよね

だってスコールくんは…えっと、実際はどうであっても世間常識では"世界を救った英雄"

ダイヤモンドとジルコニアは同列には置けないよね。彼に失礼だよねそんなの。違うそうだよね、キスティスくん」

セフィロスとクラウドから反応が無いと見切ったキロスは再び標的をキスティスに戻した。

しかし答えたのはセフィロスだった。

「お前はそんな事を言うために入口が封鎖されているこの町にわざわざやってきたのか

この館の入り口に停めてあった車はお前が乗ってきたものだろう


キロスはセフィロスに生理的な恐ろしさを感じていた

傭兵に時々いる…救いようのない、深い真っ暗闇を抱えた傭兵

人間ではない、傭兵という職業に深く浸かり過ぎ、モンスター化した生き物

キロスにはセフィロスがそんな生き物に見えていた。

「違います。あ、入口の車は私のですが、言いたい事はまだある

というかその前に言いたいことが今、つ増えました。

キスティス、やっぱり君は嘘をついている

どこに嘘があるのかは分からないけれど、でも確かに君は嘘をついている

何故嘘を吐く必要があるのか

つまり、やっぱりスコールくんは生きてるんだね!!そうだろう!!

「…そう思いたいならご勝手にどうぞ。せいぜい度と現れないスコールをいつまでも探し続けたらいいわ

あと言いたい事って何手早くお願いね、時間が無いから

腕を組み横を向き、眉を顰め目を閉じたままキスティスは口だけを動かした。

キロスはそんなキスティスの反応を見ていた。


「うん。そう、以前君がイデアの孤児院で言っていたサイファーの裁判の事ですが

あの判決は僕たちが出したものではないけど、でも私は妥当だとは思ってます

確かに彼は生粋の傭兵育ちでしょう。だから軍事法廷で…

分からなくもないけれど、でも彼は一般人に多くの犠牲を出し過ぎた

まるで敵意の無い戦うことなど知らない一般人に大量の犠牲者を出しました

だったら一般法廷で裁かれるのは当然でしょう被害者の多くは一般人なのだから

だから謝る事など無い傭兵育ち、軍人であることは一般人に多くの死傷者を出していい免罪符にはならない

……でも、本当はそんな事は君も分かっていますよね言われるまでも無い…

君も、スコール君も、他のSeedだってちゃんとその超えてはいけない線を分かってる

私も色んな式典で君とスコール君を何度か見かけた

見ていて分かりました。君たちは傭兵であることにプライドを持っている

だからこそ一般人との間に線を引く意味でも必ず軍服を着て人前に立つ

こんなご時世に軍服を着て壇上に上がるとは、随分な度胸だな…って最初は思ってたんだけど、あれ、要するに君たちの戦略でもあったんだね

君とスコールくんにしかできない戦略

以前、ラグナのデスクに軍服を着たスコールくんのフィギュアが飾ってあったんですよ。分のサイズ

結構大きいです。パーツを変えることでポーズを変えられるんです。実演してくれましたよ

『お前は一体大統領執務室で何をやっているんだ』突っ込まずにはいられませんでした

こんなのどうしたのか聞いたらエスタのショップで売ってたそうです。結構な値段を言ってました

ラグナは他の軍服シリーズも取り寄せていて、私服シリーズが無いから作ってくれるようにメーカーにお願いしてると言ってました。本当にバカですね

そんなくだらない事やってる間に会いに行けばよかったのに

…話が逸れましたが、君たちがそうして綺麗なお人形さんカップルの様に軍服を着て表に出る事でサイファー達のせいで酷い言われ方をするようになったSeedや傭兵達の地位・イメージを回復させようとしていた

だからこそ分かりました

君たちが口でどう言おうと本当はあの裁判、あの判決を君たちは理解している

でも受け入れられなかったのですよね一緒に育ってきた仲間だから

…ということで、私は君たちの事を否定しません

そして私達のしてきた事も間違っていたとは思っていない

と、いうことを言いたくて君に会おうと思ったのですが、一つ最後まで聞いてくれたお礼にさっきの『君の言葉には嘘がある』そう言った根拠を教えてあげます

でなければこの先君は同じ間違いを繰り返し、多分誰一人納得させられないでしょうから」

語りかけるように笑うキロスをキスティスは睨んだ。


「以前イデアの孤児院で会った時の君は必死だった

どうにかしてスコールくんを助けようとする気迫が全身から現れていた。非常に攻撃的だった

けど今日の君はひたすらに守りに入っている

守るために攻撃を仕掛けている。だが全然本気じゃない

線を引いた位置から踏み込ませないように必死で壁を作り、失言をしないように考えを巡らせている

君のそんな姿はセルフィにも伝わっているようですよ

セルフィはスコールくんを貶めまくることで君の壁を突破しようとしている

君という壁の向こう側にいるスコールくんを引き出そうとしているんですよ

私はもう確信したから構いません

でも君がその嘘をこれからも続けるのなら、以前のイデアの家で会った時の様に全てをかなぐり捨ててなりふり構わない気迫でスコールくんの為にスコールくんの存在を否定するか、もう諦めて真実を知る仲間を増やすか、どちら決めないとね。早めに

でなければなし崩しにバレますよ」

「バレますよ☆」

キロスの言葉尻を貰ってセルフィが笑顔でキスティスに言った。

キスティスは目を閉じたまま何も答えなかったが、組んだ腕から見える指先は強く強く、理性を保たせるように腕を握りしめていた。


「で、ですね。今日、お昼に少し前まで持っていた権力を利用しまして、封鎖されていたこの町に入りました

入って少し走ったら突然人が車道に倒れ込んで来て…私、あまりにも突然の事で撥ねてしまいまして

思わず車から出て確認しようとしたら…撥ねた人が既に死体、というか腐乱した死体で…ひえっ?と思ってると、その腐乱死体が起き上がってですね

パニックになって車に逃げ込んだのですがその死体が白濁した目で車の中を覗き込み、私を掴もうとして窓に阻まれるのですが、その窓に死体の皮膚がドロドロと残ってですね…オオ゛ェ…

私、更にパニックになって急発進で走り出したのですが、そうする間にも更にあちこちから死体が出てきまして、もう無理全然無理生理的に無理と、実は入口に引き返したんです

ところがこの町に入る時に入口で"バイオ汚染蔓延の可能性ありのため、疑いが晴れるまでは入る事は出来ても出られない"と念を押されていたわけで…

出してもらえず…

もうそうしてる間にも後ろからグイグイと死体達は来るし、再び車に乗って逃げに逃げ続けているうちに思い出したんです。この館を

ここはバイオ研究所兼研究員宿舎でもあるんですが、昔ここが完成しこけら落としの式をした時に私も参加しまして、その時にここの構造をザッと説明されて

戦争や事故に備えてここには様々な武器や血清やら小さな医務室も設置されていた事を思い出したんです

で、ここに逃げ込んだはいいが、気が付けばこの館の中もゾンビやモンスターがウヨウヨいるじゃないですか

だからといって振り向いても街にもゾンビがウヨウヨ

もうどうにも進退窮まり立往生していた時にSTARSのマリーニーが助けてくれまして

とにかく内側から鍵がかかるこの部屋に人で逃げ込んで…で、私がなぜここに来ているのかとか話をしまして

そしたらマリーニーが君たちにコレを渡してくれと」

キロスは立てかけてあった机の向こう側から冊のノートと鍵を出した。

「飼育員の日誌です

………人がゾンビになっていく過程が記されています

そしてこの鍵は突き当り左側の部屋の鍵です。この館の住人のための小さなラウンジのようです

マリーニーはこの部屋に入ったのですが、ギミックを解除できなかったと言ってました

それで時間くらい前に行方不明になっている他の隊員を探しに出て行きました

隊員同士連絡が取れないそうです」


キスティスはキロスに無言でマリーニーのドッグタグを見せた。

それを見たキロスは

「……………彼は私を助けてくれました

今日会ったばかりの人だったけれど…………つらいね」

弱々しく呟いた。

「キロス。こんな危険な場所にまで来てわざわざ教えてくださってありがとう。そしてごめんなさい

私の答えはとっくに決まってる

全てを敵に回しても、スコールがいなくても、私はスコールと共にいる

答えは変わらない

………で、あなたはこれからどうするつもり

キスティスの出した答えにキロスは惚れ惚れする様に「サスガだね」と笑った。


「うん、申し訳ないのだけど、良かったら君たちの後方支援をさせてもらえないか

一応足手まといの自覚はあるのでコレが手土産ということで…」

そう言いながら後ろにあった大きなBOXを開いて見せた。

そこには大量の銃弾、銃、薬品等が入っていた。

「すご…」

アーヴァインが目を輝かせ

「ええぇ!!

セルフィが嬉しそうに箱の縁に両手をかけピョンピョン飛び跳ねた。

「この館には他にもこれと同じBOXがいくつも設置してあります

僕はその場所を大体知ってる

それとこの館にはたくさんのギミックが設置されてる

それも少しなら知ってる

足を引っ張ると宣言しておいて言うのも何ですが、僕はこのままだと死んじゃうからね

現実問題この町から出してもらえなくなっちゃってるし。オネガイスマス!お仲間に入れてください!そして一緒にこの街を出ましょう!!

キロスは両手を合わせキスティスに上目遣いでお願いをした。



迷い子2    NOVEL    迷い子4

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