迷い子2 「キスティス!」 凍り付いていたキスティスを入口と反対側の暖炉に先に辿り着いたクラウドが呼んだ。 「上の奴らはあそこに行かない限り多分放っておいても大丈夫だ!犬ほど攻撃的じゃないし、トロい」 クラウドに怒られ正気を取り戻し、震える足でなんとか暖炉の場所まで辿り着いたキスティスだったが、クラウドの足元には...自分が着ているものと同じエスタ防護服がビリビリに引き裂かれ、赤黒い血や黄色い脂肪や白い脳や肉や体液や器官や色んなものが体や顔や頭や防護服の裂け目から引きずり出され、喰い荒らされた元ブラヴォチーム隊員が無残な躯となって横たわっていた。 さすがにキャパを超えたキスティスは青ざめ震えながら後退った。 一方クラウドは無言で躯が身に着けていたドッグタグと銃と弾を回収した。 「これでS・T・A・R・Sの遺体が2つ。全員で6人だったよな。残り4人」 クラウドがドッグタグを渡そうとすると、キスティスがサッと手を引っ込め後ろに隠し、更に後退り、巧く歩けずバランスを崩し倒れそうになり転びそうになったところをクラウドに支えられ、そんな自分の行動に驚いたように愕然とし、無言で自分で立ち上がった。 「ま、待って…」「ちょ、ちょっとだけ待って…!」 キスティスは危険を承知で一旦防護マスクを外し、ダイニングの椅子の背もたれに両手をつき、ガクガクと震えながら深呼吸を3回繰り返し、真っすぐ立ち上がり自分で自分の頬を両方からパァーン!パァーン!パーン!と思いっきり張った。 自分でやっておきながら痛みで涙ぐみ両頬を抑えながらキスティスは蹲った。 だが自力で立ち上がった。 「大丈夫!」 「私は大丈夫!」 「私は大丈夫!」 自分に言い聞かせるように呟くと、掌をまっすぐ出し、クラウドからドッグタグを受け取った。 だがその手は、頬を張ったせいで紅くなっており、ガクガクブルブルと震えていた。 きっとキスティスは今までもああして色んな事を乗り切ってきたのだろう。 大丈夫でも大丈夫でなくても、状況が大丈夫でなければならない。「大丈夫!」以外の答えは無いのだ。 クラウドはこの時初めてキスティスに”職業:傭兵”の仲間意識を持った。 「ブラヴォチームは6名。隊長のウェスカー、以下隊員マリーニー、サリバン、エイケン、スパイヤー、デューイ SATは1陣400人、2陣100人、計500人。組織が違うからって詳しい事は教えてもらえなかった」 傭兵の顔を取り戻したキスティスが現状説明。 「草原にいたのもSTARSだった。コレ着てた」 クラウドは自分が着ている防護服を指した。 「恐らくアレは操縦役のデューイ。そしてこのスパイヤーが消えて、残りはマリーニー、サリバン、ウェスカー、エイケン さっきの銃声の主はこの人じゃないわね。明らか死体になってから時間が経ってる」 「……隣、行ってみるか」 クラウドが入って来たのとは反対側のドアを指すとキスティスは頷いた。 扉を開けると、そこはまるで迷路のように狭い通路が伸びており、通路の奥から何か…凄く嫌な、嫌な予感しかしない音がしてクラウドは人差し指を口に当てキスティスに黙って待機するよう合図をして先に行った。 忍び足で通路を進むと、突き当りを少し右に入った所に小さな休憩所のようなスペースがあり、そこで今、正に…………人型ゾンビの食事中の場面に出くわした。 クラウドはそのゾンビの異様な姿や、目の前で人間が喰われている光景に息を呑んだ。 そして喰いついていた身体から徐に顔をあげ、ゾンビはゆっくりと振り向き…目が合った。 と言ってもその目は完全に白濁していて、目が合ったというのは正確ではないかもしれない。 その顔は今食べていた人間の血で真っ赤に染まり、口はサメのように1本1本が尖った歯の間には細かな肉片や黄色い脂肪が挟まり、ボタリと歯の間から肉のような塊が落ちた。 「う…」 こんな世界知りたくなかった...と、吐き気を堪えているうちにのっそりとゾンビが立ち上がりのたのたゆらゆらとクラウドに向かって来た。新たな肉発見といった風に…。 突然クラウドの後ろからパンパンパンパンパンッ!ベレッタが連続で5発弾がゾンビに向け発射された。 だがゾンビは倒れず、揺れながら吸い寄せられる様にクラウドに向かって来ている。 クラウドは持っていたライフルを構え破裂音と共に空気を震わせ頭を打ち抜いた。 今度こそゾンビは倒れて動かなくなった。 キスティスは食べられていた人間…エスタの防護服を着ていた躯を確認し、ドッグタグ"マリーニー"と銃と弾を回収した。 クラウドはやりたくなかったが、ゾンビの方を調べた。 そのゾンビはとにかく姿が異様で、硫酸を頭からかぶった様に瞼も唇も鼻も耳も無く血管が剥き出しになっており、サメの様な歯と相まって、まるでゾンビというよりはモンスターと言った方が近い風貌だ。 更に驚いたことに、そのモンスターが身に着けていたのは…血や肉や臓器や体液や色んなもので酷く汚れてはいたが… 「……キスティス、コイツSATだ」 「ぇ!?」 驚くキスティスに、モンスターから剥ぎ取った身元証明所属SATと印字されたドッグタグを渡した。 「汚れてるが、これはエスタSATの軍服だ SATがゾンビ化してマリーニーを襲った…… ブラヴォーチームは残り3人、さっきの発砲音はこいつ 銃も身体も温かい。…とりあえず広間に戻ろう」 「え、えぇ」 モンスターのような風貌のソレが元SATだった事に戸惑うキスティスと共にクラウドは広間に向かったが、途中でまた狭い通路にドアを見つけたので開けてみようとしたが鍵がかかっていて開かず、更にダイニングの方から一斉発砲音が聞こえてきた。 ダイニングへの扉を開けた瞬間ロフトでセフィロスが44マグナム、アーヴァインがショットガン、セルフィがベレッタをゾンビに発砲していた。 「アーヴァイン!口に一発だ!無駄撃ちをするな! セルフィ!アーヴァインの援護に回れ!ゾンビとの距離を保たせろ!」 「「了解!」」 セフィロスがゾンビの頭を吹き飛ばしながらロフト右側回廊を周りながらアーヴァイン達に指示を出していき、アーヴァインは左回廊を進みながらショットガンで同じくゾンビの頭を吹き飛ばし、セルフィはベレッタでアーヴァインの後ろから援護射撃をしている。 1.5人分くらいの幅しかない細い回廊状態のロフトなのでセフィロス達にしろゾンビたちにしろ逃げ場は無い。 ゾンビ達はひたすら生者の血肉を求めて寄って来て、セフィロス達はそれを迎え撃っている。 そしてセフィロスとアーヴァインが最後9体目のゾンビの頭を撃ち飛ばした時、入口の反対側に来ており、丁度1階にいるキスティス達の真上にいた。 「今からそっちに行く!全員でゾンビの体を調べましょう!」と、キスティスが1階から声をかけた。 「え~~~~~~!!」 セルフィとアーヴァインが同時に叫んだ。 「初動捜査が肝心!今のうちに少しでも情報を入れるの!その中にSATかS・T・A・R・Sがいるかもしれない!こっちは元SATのゾンビがブラヴォチームの隊員を食べてたわよ!」 キスティスの報告にセルフィ達が絶句した。ついさっきはキスティスが絶句していた。最初に絶句したのはクラウドだった。 ダイニング2階での調査が終わり、ロビーに集まり互いに報告をし合うことにした。 先ずはキスティスがドッグタグを見せ、報告を始めた。 「ダイニング1階にあった死体はブラヴォチームのスパイヤー さっきホールで聞いた発砲音は、同じくブラヴォチームのマリーニー 発見した時にはエスタ元SATがモンスター化していて、それの餌食になっていた 外の草原の死体は恐らく同チームのデューイ。これでブラヴォチーム犠牲者3名、残りはサリバン、ウェスカー、エイケンの3名 あとそれぞれの銃と弾も回収してきた。もう必要ないものね、あの人たちには」 そう言い回収してきたハンドガン『カスタムハンドガン3連射式』『コルトS・A・A』『カスタムハンドガン2連射式』をロビー大階段2段目に並べ、弾を1段目に並べた。 「クラウド、他に気付いたこととモンスターゾンビの詳細をお願い」 キスティスが皆への情報伝達を促した。 少し考えた後クラウドが言った。 「ダイニング2階にいたゾンビは殆ど頭が無かったからイマイチ正確じゃないが、多分死体がゾンビ化した範疇だったと思う でも俺達が見つけたマリーニーを襲ってた元SATの奴はほぼモンスターだった 頭から硫酸を被ったみたいに瞼も唇も耳も無くて皮膚も溶けてて筋肉も溶けかけて血管も見えてて骨が見えてる部分もあった ソイツは俺が近付いた事に気づいて振り向いた 俺は足音を消してたし、奴の眼は白濁してたから見えてたとは思えない でも奴は真っ直ぐ俺に向かって来た 眼・耳が封印された状態で、使えるとしたら削げた鼻しかなかったと思うんだが、その時奴はマリーニーの死体に顔を突っ込んで食事中だった。だから鼻も利いたとは思えない アイツは何で俺がいることに気が付いたのか、俺の立ち位置もどうやって感知したのか分からない それとマリーニーはともかく、デューイとスパイヤ―は死後数日経っていた でもゾンビになっていなかった。喰われてたけどただの死体だった 逆に2階で俺が調べたゾンビ2体は新しかった デューイやスパイヤーよりも後に死んだ様に見えたがゾンビ化してた ってことはゾンビ化したりモンスター化するパターンは1つじゃないし蔓延してるウィルスも1種類じゃないって事だ それと今のところ単純に喰われてるのはブラヴォチームのみだ 他はゾンビとかモンスターっぽいゾンビになってる あとゾンビ化した奴は他のゾンビを襲わない」 「……ゾンビ化する者と、モンスター化する者、時間・工程・ウィルスの種類も複数 そして感染していないものが食料になる ゾンビ化、モンスター化した者の感知場所が不明」 キスティスが纏めて次の報告をセルフィに促した。 「あ、じゃあまず2階のゾンビから回収してきたハンドガン2つと弾とアーミーナイフとタガーね。置いとく~」 セルフィはキスティスが置いたのと同じ2段目1段目にハンドガン関係、3段目にナイフ関係をそれぞれ置いた。 「こっちは広間から通じる場所を調べてんけど、殆どのドアに鍵がかかってた それと女神の銅像のあるあの部屋」と、セルフィは右側の扉を指した。 「あそこでセフィロスさんがコレ見つけた」 セルフィは『バイオ研究所右館1階地図』を皆に開いて見せ、その端を指さし言った。 「コレ、バイオ研究所って書いてあるけど…でもここ、どう見てもちょっと金持ちの洋館とかホテルっぽい感じだよね。全然研究所な感じしないよね。設備も全然無いやん? もしかして1階だけがカモフラージュな感じで、2階が秘密の研究施設なのかなって思ってんけどそんな研究するようなスペースも無さそうやし…そもそもこの街自体が外部に秘密にされてた町やから、わざわざカモフラージュしたり秘密にする必要って無いよね?この"研究所"ってのシャレか何かかな?」 「対外部、対内外部、対ALL 研究には大抵シークレットレベルがある ウィルスを扱っているのなら恐らくこの館の中でもシークレットレベルに応じて警備が厳しくなっているはずだ 簡単に見つけられる物はシークレットでもないしフェイクの可能性もある それと2階で私が調べたゾンビ3体のうち2体が元SATだった 両方ともモンスター化はしていなかったが、カナリ傷ついた状態だった 残りの1体はここの研究員と思われ、ほぼ無傷のゾンビだった 無傷。つまり研究員は元SATと違って、襲われてゾンビになったわけじゃないという事だ それと我々は先発ブラヴォチームと同じ様に敵によってこの館に誘導され、ブラヴォチームと同じ動きをしている 今我々は敵の予定通り、完全に敵の手中に入った そこは覚悟しておいた方が良い」 「え、私達ブラヴォチームと同じ行動をしてるんですか?そんなん何で分かりますの?」 高層ビルを見上げるようにセルフィがセフィロスに聞いた。 「我々が乗っていたヘリの操縦士がヘッドショットされて墜落した 同じ場所にブラヴォチームのヘリも墜落していた カナリ喰われていたがソイツもヘッドショットされていた 我々もブラヴォチームもあと少し飛べば黙っていてもラクーン市街に着陸したのに敵はわざわざ犯人を特定される危険を冒してまでSTARSのヘリを撃ち落としている」 「え、特定て、セフィロスさん。も・もう敵を特定したはるんですか!?」 「私は知らん。だがアーヴァインは分かるだろう。スナイパー同士」 突然セフィロスに話を振られアーヴァインはビビった。 「え、と。まぁ、もしかして……って…」 「マジ!?誰なん!?どこのどいつや!?」 セルフィが聞くとアーヴァインは「そういうのじゃなくて…」と詳細を話し始めた。 「ヘリから飛び降りる時にもう一機ヘリが飛んでたの見た?狙撃するならあそこからしかないんだ 操縦席のフロントガラスから撃ち込まれてたからね 飛んでいるヘリから身を乗り出して、ホバリングしているわけでもないヘリの操縦士の頭を吹き飛ばすのはちょっとやそっとの腕じゃできない 軍用ヘリってさ振動が凄いし、そもそも上空は結構風があって揺れてたよね 自分のヘリも揺れてる、対象のヘリも揺れてる 上空風には煽られてる。そこでパァーン!! ヘッドショット命中~!」 ショットのアクションを入れて「神業だよね」と、アーヴァインは説明した。 「銃の世界って結構狭いんだ。弾もパーツも消耗品だしね キャリアが長くなってきたり、さっきみたいな難しい仕事を受けたりすると特殊パーツが必要になる 特殊なものはやっぱ創れる人が限られてくる で、レア物をスナイパー同士取り合いになったり、どうしても手配が付かない時は交渉したり職人の順番待ちになったり、そこで紹介されたり色々さ…良くも悪くも腕が上がって来るとスナイパー同士顔見知りになっちゃうんだ だから今は誰だか個人名はわからないけど、ソイツが僕の知ってる奴なのは多分間違いない」 「敵はアーヴァインに特定されるのを覚悟で撃ち落としに来た 何故特定されても構わないと判断したのか それは我々、そしてブラヴォーチームを全滅にできる自信があるからだ STARSはエスタ国から事件解明を依頼されて来ている それを敵に回せばエスタ国からも追われる 巨大先進国を敵に回す破滅願望でもない限り、そんな特定されるようなやり方をする奴はいない ならばなぜそんなやり方をしたのか ヘリ狙撃によって何が変わったか 元々我々は市街地に着陸する予定だった。だが狙撃によってあの草原に落ちた 草原と市街地との違いは何か 市街地には人型ゾンビはいたが犬はいなかった 今のところ分かっているだけで人型ゾンビは体力はあるが動きは緩慢 犬型ゾンビは動きが早く非常に攻撃的だった もし我々が市街地に着陸したらまず最初に人型ゾンビを発見しただろう。広い道路の市街地で動きの緩慢なゾンビ。我々は難なく逃げ切れただろう そしてこの町の異常性に一旦作戦の練り直し、エスタ本国へ報告するために引き返したかもしれない ところが草原に落ちた我々は今ここにいる。帰るルートも失くした つまり敵の目的は我々をラクーンから出さない事だ。更に… 墜落後我々がこの洋館に駆け込んだ理由は 1、墜落現場に一番近い場所だったから 2、周囲に他に家が無かったから 3、ゾンビ犬たちに追われていたから 結果が先発ブラヴォチームの遺体が既に3つ見つかっている 我々はブラヴォチームと同じ動きでここに誘い込まれている そういう事だ」 「あの、車がこの洋館の前に停まってたのは偶然ですか?」 キスティスが聞いた。 「あの車が停まっていようがいまいが犬に追われていた我々はここ以外には行けなかった だから罠としては意味が無い むしろあの車は我々の様にこの館に誘導された奴の車ではないか タイヤからブレーキ痕が続いていた。 急ブレーキで止まった証拠だ」 …耳が良いっていうよりも、目も耳も洞察力も良いって事やね…、こんなくらい中、ブレーキ痕なんぞチラリとも見えへんかったわ。 セルフィとアーヴァインは目線を合わせた。 「このラクーンのバイオ汚染は個人の犯行ではない 複数犯であり、最低でもエスタ側上層部1名、ラクーン側研究者1名、ラクーン上層部1名、そして莫大な金を出せるスポンサー、最低でも今回の事件にはそれだけ関わっている。全てがエスタ本国に秘密裏だ 我々をラクーンから出さない理由にそれもあるのだろう もし我々が引き返し、エスタにこの町の状況を報告したとすれば私でなくともエスタ側も内部犯程度の推測はし、犯人捜査に乗り出す そうなればこれだけの人数が関わっている犯罪だ。どこからか足が付き、あとは芋ズル式。犯人側の負けだ。 犯人側はこのウィルス開発に莫大な金と時間をかけ地位も利用している。失敗するわけにはいかない」 「あの、すいません、セフィロスさん。ウィルスが偶然の産物の可能性は無いんですか? 偶然出来ちゃって知らない間に流出しちゃった事故とか… だって実際にこんなに大事になってるんだから、どんなに秘密にしようとしても逃げきれるわけないですよね 実際私達はエスタ国から依頼されて来てるのだし、その前がブラヴォチーム、その前がSATが2回、私達がもしダメだったとしてもエスタはきっと次を依頼するんじゃないんですか?」 「そこは間違いなくするだろう ただしそこにはタイムラグがある 実際SATが入ってから2週間、その前を入れると20日間この町は外部から完全に遮断されている 外部にほぼ全く情報を与えない状態で20日間 それだけあればカナリ色んな事ができる。特にここは化学者の町だしな、設備が揃っている そしてウィルスが研究過程の偶然の産物、そして事故で流出した可能性、両方ありえる 但しその両方が重なる事はありえない 今のところ見つかっているSATは3名ともゾンビ化、モンスター化している どれほど前からゾンビ化していたのか知らんが最長で2週間あれば感染し死にゾンビ化、モンスター化するウィルスであるのが確定した つまり、今の時点でこの町に生きた人間はいないと考えていい 理由は水汚染による経口感染、プラス接触感染の可能性が高い 経口感染については追々浄水施設を探し出し確認するが、20日も水なしで生きてる奴はいないし、ストックを使ったとしても水は飲料以外に何にでも使うし、このモンスターの中を生き抜いているとも思えない で、それだけ強いウィルスが研究過程で偶然できたとする その偶然出来たものに『事故』を起こさせるためには『事故』を起こす場所までウィルスを運搬しなければならない そして町一つを壊滅するほどの『事故』を起こせるほどにウィルスを培養量産しなければならない 感染源を水として住人誰もが気付かずに使用するほどに無味無臭無色にし、尚且つ水の中でも生き続けるほど安定させなければならない そこまでウィルスの正体特性を暴き、育てるためには莫大な金と時間が必要だ 偶然や個人ではできない 分かったか」 「はい!よくわかりました! でも先生、どうして水汚染による経口感染だって特定できるんですか?」 セルフィは学校の先生に質問する元気の良い優等生のように質問を返した。 そんなセルフィを横でアーヴァインが秘かにヒヤヒヤと見守っていた。 「経口感染だけとは言っていない。感染経路の中の1つだと言っている 他にもゾンビに噛まれて感染する接触感染、血液感染の可能性も高い モンスター化したゾンビと死体のゾンビ、崩れたゾンビと無傷のゾンビ。少なくともウィルスも経路も単種ではない ただ爆発的に感染した一番の経路は水汚染による経口感染ではないかと言っている 先ほども言ったように2階に無傷のゾンビがいた。大抵の奴は望んではゾンビにはならない つまり自覚無く病原菌を摂取したという事だ 例えば犯人が市民を騙して”予防接種等”と言って病原菌を集団摂取させたとする。だがそれでは最初から犯人が特定されるだろう。摂取させた連中も正気を失くすまでの間にたくさんの証拠を残してしまうしな 正体を隠したまま短期間で街一つが壊滅するほど爆発的壊滅的に病原菌を完璧にばら撒けるのは、やはり経口感染が一番可能性が強い 他にも飛沫感染・空気感染の可能性もあるが、その場合は先発ブラヴォチームが感染していないのはおかしいし我々も諦めた方が良い あともう一つ、草原の犬たちも経口感染の可能性が高い 奴らは十中八九研究施設の実験体だった奴らだ 環境整備・管理された化学者の町であそこまで野良犬がいる事自体がおかしい そして実験体というのは大抵は個体管理されている そうでなければ研究結果が正確に出せない 誰かが奴らに汚染された水を与えたか…まあ他に原因があったとしても、個体管理されたものを今の状態に野に放したのだろう おかげで草原に墜落した我々は強制的にこの館に逃げ込み、狭い通路、狭い部屋、封印だらけのドア ゾンビに出会っても前か後ろにしか行き場が無く、生き残るためには強制的に戦う以外にない あと忘れてならないのは今回の事件は時間も重要だ この町で一切の水分が摂れないからな 解決できるかはともかく脱出するまでに体力にも時間にも制限がかかっている これは決して忘れてはならない。症状が出始めたらもうレッドゾーンに入っている」 セフィロスが状況をまとめた。 キスティスが「ありがとうございます」と礼を言った後で「今、セフィロスさんが言った事で異議がある又は付け足す事がある人」と全員を見回し全員が沈黙した。 「じゃあ先ず、どうするか方向性を決めましょう 我々がこの町で孤立することはラクーン側から妨害電波が出ていた時点で想定内だった 持ってきたトランシーバーはさっき試したけど館の中は通じるけど、街の外には繋がらなかった とりあえず我々5人はコレがある限り連絡は取り合える 事件解決後私達が街を出る方法は自力脱出は不可能になったので、第二案にしてあった照明弾を上げて外にいるSTARSメンバーにヘリを飛ばしてもらう それと気になってるんだけどSTARSを狙い撃ちされたの? それとも敵は招かざる客であるSATやSTARSを始末したいだけなの? なんだかそれにしては手が込み過ぎてるような気がするのだけど...」 「今の状況では判別できんが、事実としてブラヴォーチームは今のところ殺されるか喰われるかどちらかだ」 セフィロスは事もなげに答えたが、キスティス達は一気に青褪めた。 「ま、ま、まさか、私たちも…く、喰われ…」 「今のところ発見されたボラヴォチーム3名全員が喰われている。SATはゾンビ化、モンスター化している」 「え・ぇぇ~...どっちも嫌やぁ~...」 セルフィ、アーヴァインが涙目で震えている。 「嫌なら食料になる前にゾンビ・モンスターを殺し、少しでも早く敵を捕らえ目的を達し、脱出する いつもやっている他のミッションと変わらぬ。素人に解決できるようなものなら傭兵は必要ない それよりも今重要なのは対ゾンビ攻略法だ どうせこの状態ではこの先ゾンビ系がメインで出現する可能性が高い」 「そ、うですね」 いつもやっているようなミッションと変わらないって……この人普段どんなエゲツナイ仕事してるの…とSeedメンバーは秘かに思っていた。 「え、と。でも先ほどダイニングでの戦いを見ていた限り、何だか既にゾンビ攻略法をご存知のようでしたけど…」 「ゾンビ攻略法ではない バイオ汚染された奴に喰いつかれたら仲間になってしまう可能性が高い だから近付かない。接近戦はしない 加えてこの館は大きいくせに各部屋が小さく通路も極端に狭い 使えるものは銃が一番効率的だ だが銃弾は消耗品だ。弾が限られている以上無駄撃ちはできない ゾンビは要するに死体だ。だが動いている つまり既に死んでいる体を撃ったところで意味が無い、故にヘッドショット、少なくとも口を粉砕すれば噛みつかれる心配は無くなる 以上から無駄撃ち無しのヘッドショットと接近戦禁止、そう言った だが失敗だった。1ショット必殺に拘るあまり頭を吹き飛ばし情報を消してしまった まだ情報が欲しい段階だから今後余裕のある時はハンドガンで応戦した方が良い すまなかったな、クラウド」 クラウドだけ!に分かりやすく優しくなるセフィロス。 その露骨さに呆れるキスティス達だったが、当のクラウドは返事どころか無表情で視線を逸らしたまま一切のリアクションをしない。 「……今から具体的にどう行動したらいいのかセフィロスさんの意見を聞かせてください」 どうにも扱いに困るこの2人の間の凍て付いた空気を「ん゛ん゛っ!」と咳ばらいをすることでキスティスは流した。 「たとえ誘導されここに来たにしても、原因を探るのなら外を出歩いて無駄に体力と時間を浪費するより、罠であっても隊員数が多いうちに手分けしてここを探る方が攻略の可能性が高い 何しろここは敵の手中だ」 「と、いう事でいい?」 キスティスが他3名に聞くと、それぞれが頷いた。 「セフィロスさん、なんだか凄いですね…キャリアが全然違う感じ」 ようやく方向性が決まりホッとしてキスティスが感心したように言ったが…… 「つまらん仕事はさっさと終わらせるに限る」 セフィロスが極自然に答えたそのセリフに聞き覚えがあったキスティス。 張っていた気が少し息抜きで弛んだ隙もあったか… 「…時々ビックリするくらいスコールと印象が重なる時があるんですよね…セフィロスさん」 本当に何気ない素直な、悪気の無いキスティスの言葉だったが、的確にセフィロスの逆鱗に触れたらしい。 今まで一貫して冷静・仕事と割り切っていたのが突然キーーーン!!と音がするように空気が張り詰め、キスティスを恐らく初めてマトモに<殺意を込めたターゲットとして>見た。 とはいえ防護マスクをしていて表情は分からなかったが、それでもキスティスの傭兵としての直感が『殺される!』と察知し金縛り状態に陥った。 『あの煮ても焼いてもどうにもならぬ生意気な悪童と俺が重なるだと?馬鹿を云うにも程がある。お前の眼は節穴以外の何者でもない。そんな目玉などとっととくり抜き、口も縫い付けておけ!(物理的に)』と、セフィロスは心の中で言っていた。が、それを言葉にするとクラウドに更に嫌われてしまうのも分かっていたので黙っておいた。 そしてセフィロスが理性で怒りと共に殺意も治め目を閉じた事で、呪縛から解放されたキスティスは脱兎の勢いで話題を流した。 「じ・じゃあグループを2班に分けます!さっきと同じ! 私とクラウドをA班!セフィロスさん、セルフィ、アーヴァインをB班。OK!? それとそこに並べた武器、皆1つづつ持って行きましょう!」 皆が遺体から回収してきた銃と弾を置いた階段を示した。 絶対に"嫌"は言わせない”決定事項です!!”な空気を漂わせながらキスティスの手は微かに震えていた。 しかし一方セルフィは意外にもセフィロスを気に入っていた。 共に戦う仲間として非常に心強かったから。 性格も頭もツンツンしたクラウドよりも、ちゃんと導いてくれるセフィロスの方がずっといい。 「ベレッタ貰うね~。弾も~頂戴 ゾンビだと思わなかったから銃弾、手持ちが少ないよ~」 上機嫌で言うセルフィにキスティスがアドバイスをした。 「ヘッドショットか首切り離し。相手はもう死んでるから気にしない!」 「じゃあ早速行動開始!左側のドアはもう行ける場所が無いから私たちは2階ロフトの奥から先に進むわ セフィロスさん達…は…?」 「一度元SATのモンスターを見ておく」 セフィロスは既に向かっており、セルフィも追いかけながら振り向き指でOK!と合図し、アーヴァインはハァ...と溜息を吐いて向かった。 アーヴァインはセフィロスが纏う空気が恐ろしかった。 傭兵能力は高く背中を預けられるタイプかもしれないが、決して信頼できるタイプではない。 弱みは絶対に見せられない。 信頼できるのは逆にクラウドの方だ。あの子はまず間違いなくツンデレさん。 あっちの方が可愛くていいなぁ...と、秘かに思っていたが、それを口にするとセフィロスに殺されそうな気がするので黙って流されることに決めた。 実は結構空気読んじゃうこの体質が嫌...と、アーヴァインはセフィロスから逃げたキスティスを恨んでいた。 キスティス達は大きな階段を上り右側のドアに入り、先ほどセフィロス達が撃ち殺しまくったゾンビたちの屍を踏み越えて奥右側の扉に辿り着いた。 銃を構えたキスティスをクラウドが呼び止めた。 「弾はどれくらい持ってる?」 「50」 「俺が先に行く。ファルシオン(剣)が使えるうちはコレでいく それまで弾は温存してくれ それと俺との間合いは4mは取ってくれ。動き難い 俺が動いていて援護し辛かったらしなくていい。距離の方を優先してくれ」 キスティスが頷いたのを確認し、クラウドが扉を右手で開けると…イキナリ目の前にゾンビが倒れ込んできた。 クラウドはそのまま大きく扉を開け反対の左手で右手を追うように倒れ込んできたゾンビの首を撥ね、その後ろにも直ぐにゾンビが控えていたので、振り切った左手を反動を利用してバックハンドで口に突き刺し貫き、先ず2体を始末。 目の前の2体がいなくなったことで扉の向こう側の状況が見えた。 狭い通路の向こう側が回廊型階段になっており、そこには残り4体のゾンビがこちらに向かってフラフラと迫って来ていた。 クラウドがベレッタ92でヘッドショットを1体目にすると、弾は1体目の口を貫通し2体目に頭にめり込んだ。 だが貫通した1体目はまだ倒れず向かってきたので2発目を撃つと今度は倒れた。2体目は1体目が倒れる前に既に倒れていた。 3体目を撃つと1発で撃沈し、4体目は2発で沈んだ。 「……コレ」 キスティスがゾンビ達が踏み越えてきていた遺体、服で隠れている部分以外の肉がほぼ削ぎ落とされていた死体が着ていた制服のエンブレムを示した。 『SAT』 「…こいつは初期の段階で死んだんだな。感染しないで死んだからゾンビやモンスター達の食料になった…」 クラウドは言いながらドッグタグを取り、キスティスに渡した。 再びクラウドが先頭に立ち、回廊階段を廻り1階へ下りると、そこはまた狭い廊下でゾンビが2体ウロついていた。 クラウドはゾンビを少しスペースに余裕のある踊り場に誘い込み、ファルシオンで難なく2体とも首を撥ねた。 2体ともSATの制服を着ていた。 階段を下りて直ぐの所にドアがあったので、右手でドアノブを握り左手でファルシオンの柄を握りしめ一気にドアを開けると… 「ぅわーーーーーっっ!!!ワアァーーーーーーーーーー!!わああぁぁーーーーーー!!!」 ビク!ビクッ!…その悲鳴の大きさに思わずクラウドもキスティスも度肝を抜かれうっかり後ずさった。 「あ!」 部屋の中で机を盾に隠れていたのは…エスタの防護服を着ている… 「キロス!?」 マスクをしていなかったため、キスティスが直ぐに気が付いた。 だがクラウドとキスティスはマスクをしていた為キロスには直ぐには分からなかった。 「え!?あ、あ、もしかしてその声はキスティス君か!?」 指が白くなるほど盾にしていた机を握りしめていたキロスの手はブルブルと震えている。 キスティスが無言でマスクを取ると、キロスはようやくホッとしたように全身の緊張を緩ませた。 「た、助かった…」 「あなた、何故こんな所にいるの?何故エスタの防護服を着てるの!?」 「はい。私は個人で勝手に来ました。君に会いに」 今まで緊張し続けていた反動か、キロスは一気に通常状態を通り越して腰砕けのヘロヘロ状態になっていた。 「え?私?何故?」 「話せば長くなります。今いいですか?」 キスティスはキロスを睨んだ後、「少し待って」と言い、トランシーバーでセフィロスチームを呼び出した。 |