隣人16



時間後、クラウドが大空洞へ戻ってきた。


かつては自分が撃破されたはずの大空洞でたった一人、何をしていたのかセフィロスは未だかつて無いほど上機嫌になっており、まるで街頭キャッチセールスの様に一切返事をしないクラウドに何かと話しかけ続けた。

知ってはいたが、そのはた迷惑でしかない鋼のメンタルにクラウドは心底ウンザリしていたが表情には出さなかった。

どんな事であれ反応すればまたそれをネタにして話しかけてくるのが見え見えだったからだった。


突然奇妙な音が星の体内に響いた。


セフィロスがクラウドの見ている方向を見ると、それまで何も無かった空間に黒い穴がポッカリと開き、そこから人間が一人、ビュンッと、放り出された。


「何!?此処何処!?


吹き飛ばされて来たにもかかわらず、キッチリ受身を取り立ち上がるあたり、ナルホド...元戦闘員か、などと感心していたクラウドの横でセフィロスの訝る声がした。


...どういうことだこれは、なんだこの薄汚い女は」

プラチナブロンドのセミロングヘアーを後ろでつに束ねた女が"薄汚い"と言ったセフィロスをキッと睨んだ。


「此処何処!?貴様、誰スコール来訪キスティス青魔法、雷神何処!?サイファー無事!?

プラチナブロンドの女の片目は、よく見てみれば義眼だった。


「もう少ししたらあんたの仲間も来る。それまで黙って待ってろ

全員揃ったらスコールと一緒に説明をする」

プラチナブロンドの女はセフィロスに対した様に最初はクラウドを睨んだが、直ぐに「...承知」と黙り、再び辺りを見回した。

セフィロスはそんな彼女を無遠慮にジロジロジロジロ上から下まで、明らかに敵意のこもった視線でチェックしていた。

そんな敵意の視線に気がつき、プラチナブロンドの女もジロジロジロジロ負けずにセフィロスを睨み返した。

セフィロスの殺人視線を一歩も引かずに受けて立っている女の度胸に驚き、また一方で目の前のこの女にどこかで会っているような気もして、クラウドは記憶の中のプラチナブロンドの女を手繰り寄せていた。

しかしどこからもこの女と会った記憶が出てこなかった。


.........おまえ...どこかで俺と会ってないか

「否」

クラウドの問い掛けに胡散臭そうに答えた女だったが、セフィロスがその人の間に入った。


「クラウド」

大空洞に人で残った時に拾い集めておいた、アイテムの中のカードを枚クラウドに見せた。

「あ

目の前の女がショートカットになり、義眼をアイパッチで覆い軍服のようなものを着て、巨漢の男と共に描かれていた。

これだ……という事はこれから送られてくる奴は……


突如また例の変な音がしてきた。

するとさっきと同じ空間にポッカリと黒い穴が開き、声が遠くから段々近付きながら大きくなってきて...


「ぅぅぅぅううううううあぁぁぁぁああああ~~~!!!!どうぅぅええぇぇぇぇぇ!!何するんだもんよ~~~っ!!

転びはしなかったもののウェイトのせいでドッスンッ!!と地響きをさせて着地をした。

m越えている大男、プラチナブロンドの女と共にカードに描かれている男。


「雷神!!!


「ふ、風神!!?????ふうぅぅぅ風神ぃぃぃぃぃぃぃんあぁぁ会いたかったもんよ~~~~~っっっっ!!!

空洞内の空気がビリビリするほどの大声で、雷神と呼ばれる大男は風神と呼ばれた女に走り寄った。


「風神元気だったか!?ちゃんとメシ食ってたか!?看守に変な事されなかったか!?風神は美人だから心配だったんだもんよ~~~!!他の受刑者とはうまくいってたか!?ふうじいぃぃ~~~ん教えてくれだもんよ~~っっ!!心配してたんだもんよ~~っっっ!!会いたかっただもんよぉぉぉぉ~~~!!ふうじいいぃぃぃ~~~ん!!


ドスッ!!!


サプライズ再会の歓喜に噎び泣きながらプラチナブロンドの女を抱き締めようとしたmを超す大男の向う脛を、風神と呼ばれた女が思いっきり蹴った。


「雷神煩過声大過

「いってええええええええええええ~~~~~~風神相変わらずだもんよ~~っ!!嬉しいだもんよ~~!!

怒られても変わらず空気を読まず大きすぎる声で空洞内に声を響かせていた。

もう度と会うことは無いと覚悟していた者同士が涙ぐみ再会を喜び盛り上がる様子を冷めたい目で見ながら、セフィロスはクラウドに問いかけた。


「こやつらは囚人だろうそれにあの黒い穴は何だ

「アンタには関係ない。帰れ」

「来、サイファー

風神が不安そうに聞いてきた。

「名前は知らない。スコールの幼馴染みで、お前らの仲間で、明日が処刑日の奴」

「何!?

「ソイツが処刑されるから、今スコールとキスティスが命がけでこっちに送ってきてるんだ

ここはお前達のいた世界とは別次元

忘れんなよ、あれだけの地位のある奴らが負け犬のお前らを助けるために命がけで誰にも言えないミッションに挑んでる

この次元飛ばしに失敗したらスコールとキスティスは互いに証拠を残さず死ぬ用意までしてる」


雷神と風神は青ざめ、互いに見合わせ俯いた。


「そのスコールとキスティスというのは我々と同業者なのか

セフィロスの「我々」という言い方に眉を寄せたクラウドだったが、あえて抗議はしなかった。

人の話を自分に都合よく編集して聞く奴には何を言っても口下手な方が墓穴を掘る。

セフィロスが「同業者」と言うのなら、「政府付き隠密(GPS自爆装置付き←時々どこかに失くしてる)」も「何でも屋兼マテリア屋」も同業者でいい。

余計な会話はしないに限る。


「スコールはヴィンセントの今の仲間だ」

「ヴィンセント............ああ...あの赤いキチガイか。あいつは人間に戻れたのか

「え

セフィロスの意外な答えにクラウドは思わず聞き返した。


「あいつとは随分前にライフストリームの中で暫く一緒だった

俺と同じでライフストリームから弾かれていたが、あいつはキチガイじみた慟哭を繰り返し暴走を続けて多分もう人間には戻ることはないだろうと思っていた。完全なキチガイだった」


ずっとカオスのまま戻れなかった、それでいいと思っていた。と微笑んだヴィンセントの美しい顔がクラウドに思い浮かんだ。

その微笑みに至るまでにどれほどの激痛を潜り抜けてきたのだろう……。


「何言ってんだ、キチガイはお前だろ

キチガイのお前が言うんだから、ヴィンセントは正常だ」

「そうか。お前が言うのならそれが正しいのだろう

それであの赤い奴は人間に戻れたのか?俺にはとてもそうは見えなかったが

「……アンタに関係ない」

クラウドから心底軽蔑嫌悪の眼差しを向けられたが、普段からそんな目でしか見られていないセフィロスは、単純にクラウドの視線が自分に来たことを喜んだ。

そしてクラウドは「あぁしまった……」と、反応してしまった事を悔やんだ。

そんな二人を見ていた風神雷神。

……この2人の間に入ってはいけない…と早速タブーに気づきジリジリと距離を取っていた。


風神、雷神の時と同じ様に突如前触れなく空洞内に例の奇妙な音が響いた。

何も無かった空間に真っ黒な穴がポッカリと開き、ここにいる人と同じ囚人服を着た金髪の男が送り込まれてきた。


「「サイファー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

それまで意識的に気配を消していた人、風神・雷神がダブルで鼓膜が破れんばかりの叫び声をあげて走り寄った。


「お前達...

サイファーと呼ばれた男が驚いた表情で、走り寄る風神雷神を交互に見た。

スコールも威圧的な雰囲気を持った男だがコイツもそれに引けを取っていない。

傲慢不遜、無条件で人を従わせる類の男。


「サイファーサイファーサイファーサイファーサイファー

風神がサイファーに抱きついて泣いている。

「会いたかっただもんよ~~~っ!!サイファー!!

風神に続き雷神もサイファーに抱きつこうとすると、サイファーは蹴りで雷神を遠ざけた。


「ぐえぇっふ...サイファーヒデエ!!でもサイファー変わってないだもんよ~サイファァァァァ~~~~~~!!!

......うるせえ...ちっと見ねぇ間に更にむさくるしくなりやがって。寄るんじゃねえ。それより...

「嗚呼、サイファー

先程セフィロス相手にガンの飛ばし合いをした女とは思えないほど、風神は涙をしとどに溢れさせ歓喜に震えている。

サイファーは風神の伸びた髪を大きな手で撫でながら、周囲を見回している。


「俺ぁ状況が飲み込めねえんだが、一瞬スコールと先生を見たような気がしたんだが...ここはどこだ


再び例の変な音が聞えた。

何も無かった空間に黒い穴がポッカリ空きスコールが送られてきて、今までのどの人よりもカッコよく着地した。

やっぱりスコールは特別にカッコイイ…。

もうどうしても条件反射の様にスコールに見惚れてしまうクラウド。

そのクラウドの様子を見ていたセフィロスの瞳の瞳孔が、スゥ...と細められた。


「成功おめでとう

クラウドが声をかけるとスコールは笑った。

「あとはキスティスにかかってる。彼女を信じるだけだ」

「大丈夫だよ、絶対に切り抜けて見せるさ、彼女な…」

「てめえ!!何しに来やがった!!!今更俺に何の用だ!!!俺らの事はとっくに裁判で決着がついてんだ!!!!!

怒りの導火線mmのサイファーがスコールとクラウドのホッとした空気を無視し殴りかからんばかりに怒鳴りつけると、その激怒のオーラに負けないスコールの不機嫌のオーラがユラリ...ユラリ...ユラリ...と大きく立ち上っていき、気がつけばサイファーを軽く圧倒するほどの怒りのブリザードを吹き荒れさせていた。

今までのクラウドとの親しげな優しい笑顔はそこには微塵も無い。


人前の口きくな、負け犬」


!!っっぶっっっっ殺す!!!!!

言いながらサイファーがスコールの胸倉を掴み上げるとスコールは片手でそれをバシッと振り払い、続けざまサイファーの腹にその長い足で膝蹴りをぶち込み、更に足の裏を使ってキックで吹っ飛ばした。

ゴロゴロと転がって行くサイファー。


「「サイファー」」風神と雷神が駆け寄る。

その人の手を振り払い、立ちあがりながらサイファーがゲホッ...と堪えきれない咳をしながらスコールを睨みつけた。


「全く弱くなったな。話にならない。

戦闘員のプライドは便所にでも流したか

鼻でスコールが笑った。


...うるせえ...今更何の用だ。ああ大統領の御子息様がよ」

何かがヒュンッとサイファーの前を横切り、着ていた囚人服にジワ...と、ひと筋の紅が浮き上がった。

胸に焼け付くような痛みを感じ、急に足に力が入らなくなりサイファーはガクン…と地に膝をついた。

同時に胸から腹にかけての囚人服がカパッと大きく裂け、血がダクダクボタボタと流れ出し鮮血が胸・腹・下半身へと大きく広がっていく。


嗅ぎ慣れた鮮血の臭いが立ち昇る。

その場にいた傭兵、戦闘員、元戦闘員全員が分かった。

ヤバイ...これは深い。何で命がけで助けたのに何故


溢れ出てくる血を掌で押さえてもドポドポと指の間から出てくる血は止まらず、腕を伝ってポトポトと地面に鮮血の模様を作っていく。

...ゆるゆると、信じられないようにスコールを見上げるサイファー。

氷のように冷たい瞳で見下ろすスコール。

サイファーを助け起こそうと手を出しかけた風神。

しかし、ビュンッと空気が切り裂かれる風圧に風神は反射的に手を引き、その一瞬後にギャンッと重金属の悲鳴のような音を立てて差し伸べようとしていた手の場所に何かが深く突き刺さった。

ほんの一瞬でも手を引くのが遅ければ風神の手はソレによって地面に突き刺さっていた。

青ざめスコールを見上げる風神。


スコールは変わらず冷徹な瞳でサイファーだけを見下ろしていた。

そしてサイファーは...信じられぬ思いで目の前に突き刺さっているソレを見詰めている。


ハイペリオン

ガルバディア軍に拘束された時に没収されたはずのサイファーの相棒。

刃先は、たった今付着したばかりのサイファーの血で紅く照らっている。


「今度こそ無くすな。」


............なに......

青褪めるサイファーが聞き返した。


「お前に戦闘以外の何ができる」


スコールは何でもないことにように返した。

サイファーの眉間に皺がグッキリと刻み込まれた。

少し離れた所に立っていたクラウドをスコールが眼で示した。


「彼はクラウド、これからお前達の面倒を見てくれる」


風神・雷神は紹介されたクラウドを見たが、サイファーはスコールだけを睨み付けたまま視線を動かさなかった。

相当貧血状態が酷いであろう顔は紙のように白く指先は震え、恐らく視界も殆どピンポイント状態でしか見えなくなっているだろう、その状態でスコール唯一人を射殺しそうな眼で睨みつけている。


「納得いかないかサイファー」

眉間に深い皺を寄せ殺すような眼をしているくせに何も喋ろうとしないサイファーにスコールが近付いてゆき、ゆっくりとハッキリと囁いた。


「そ れ が 弱い ということだ」


今まで誰にも見せたことの無いような見事に艶やかに極上に美しい微笑みを、スコールはサイファーに送った。

全てに恵まれたその艶やかな美しさは逆に惨忍さを感じるほどだった。


ソ レ ガ ヨ ワ イ ト イ ウ コ ト ダ


命の繋がりだけじゃない、それ以上のもっと深い強い繋がりを人の間に見たような気がした。


「負 け 犬 は な、サイファー


 何 を さ れ た っ て 文 句 は 言 え な い ん だ


 忘 れ て い た か


スコールは艶やかで酷薄な作り笑顔を消し、ハッキリと一言一言サイファーと目線を合わせ、その激怒に燃える瞳を見据えて言った。


「強 く な れ、サイファー、俺の為に」


紙のように真っ白な顔色をしながらも怒りに全身をブルブルと震えさせ、奥歯をギリギリと割れんばかりに食いしばっているサイファーに、スコールはとても満足したように微笑み、一歩...一歩...一歩...と、ゆっくりと距離をとりながら、血溜まりになっているサイファーの周囲を歩き始めた。


「俺が憎いだろ、サイファー潔く死にたかったんだろ傭兵として。悪者として...


一歩...一歩...靴音を鳴らし、サイファーを追い詰めるように、ユックリと周囲を歩く。

ピタリ、と靴音を止める。


「分かるぜ、その気持ちは、よく」


再びコツ...コツ...コツ...と音を立てて、サイファーの周囲を歩く。


「散華は戦士の美学だ、ってお前は言ってたよな、昔」


激怒に震え真っ直ぐ前を向き、貧血で目も見えなくなってきているサイファーは気がつかない。

風神・雷神が先程からサイファーの助けに入ろうとしているのを、スコールが眼で牽制していることに。


「残念だな、その選択肢はお前には無い」


コツ...コツ...と一定リズムで音をさせながら、わざと高めていく緊張感。


「何故なら」


張り詰める空気の中、人の間だけの弾き飛ばされそうな気力の勝負。

クラウドは身動き一つとれずに魅せられる。

決して後退しない人。

その力の均衡を破ったのは、やはりスコール。

緊迫した空気の僅かな呼吸の波間にフゥ...とサイファーの至近距離に入り込み、その耳元でサイファーにしか聞えない声で囁いた。

サイファーの瞳はみるみる驚愕に見開かれ、連れて自然と顎が下がり、自分を睨みつけているスコールを見詰めた。

見えているのか見えていないのか、スコールだけを見つめた。

だが、風神・雷神には聞えなくとも、ソルジャー能力を持っているクラウドとセフィロスにはスコールの声が聞えていた。


『俺がお前を守ってやるからだ』


.....................


サイファーは何かを言いかけたが言葉にならず、口を開きかけたまま何かを逡巡しているようだった。

ポーカーフェイスのスコールからは何も読み取れない。

それでも互いに逸らさない視線は、探り合うように絡み合う。

そして先に口を開いたのも、やはりスコールだった。


「忘れてなかったんだな、サイファー」

その言葉にサイファーは蒼白なまま弱々しく笑い、怒りに震えていた肩の力がフ...と抜けたようだった。


...お前は...忘れちまえばよかったんだ...

言うと同時にサイファーが意識を無くした。

気力で全身に漲らせていた力が抜かれ、クタリ...と血溜まりに崩れ落ちた。

スコールの威嚇が解かれ、風神・雷神が駆け寄る。

スコールがサイファーにケアルをかけたが、既に失血が激しく意識は戻らなかった。

スコールはサイファーの頭を蹴り飛ばした。

再び目を開けたサイファーは、僅かに戻った気力で凶悪に歪んだ顔でスコールを睨みつけた。


「お前が召還獣を嫌ってたのは、記憶への干渉を知っていたからなんだな」

サイファーを見下ろしスコールが言った。


...俺の記憶は俺だけのもんだ」

「負けて当然だ。ジャンクション無しで俺...いや、Seedにすら勝てるわけが無い」

「うるせえ


星の体内の壁がビリビリと振動する程のサイファーの絶叫、燃え上がる真っ赤な炎を思わせる圧倒的な熱量を帯びた怒り。

スコールは無表情でそれを受け止めた。

どうしても譲れないものがある。

負けても屈辱を受けても死んでも、譲れないのだどうしても。

だからサイファーは弱く、そして強い。



「生きろ

 お前達のせいで今でも苦しんでる人達が世界中に溢れてる」


スコールは、座り込んでしまっているサイファーと同じようにしゃがみ込み、同じ高さに顔を持ってきた。


「生きて苦しめ、魔女の騎士

 生きて償おうとしてたママ先生の分まで背負って生きろ

 犯した罪に苦しみ続けろ

 死なんかじゃお前の罪は償えない」


サイファーは地を這うような声で唸ったものの、言葉にはなっていなかった。

スコールは時計を見て、「シヴァ」と、召喚をかけた。

一瞬で具現化したシヴァはスコールを包み始める。

奇妙な独特の音が始まり次元のホールが開き始めた。

スコールはシヴァの中に姿を消しながらクラウドに「よろしく」と手を振った。

少し目元を高潮させたクラウドは微笑んで手を振ったが、サイファーがスコールに叫んだ。


「俺は!!召還獣なんか無くても誰よりも強くなる!!なれる!!

一瞬哀しそうな瞳をしたスコールだったが、最後に微笑みを残し、シヴァの中に完全に消えた。


「馬鹿野朗ーーーーーーーーー!!

次元の空間に消えて行くシヴァにサイファーは怒鳴ったが、叫び終わった時には次元の穴は跡形もなく消え去っていた。


ガックリ...と膝をつくサイファー。

風神と雷神は、ただ何も言えずそんなサイファーを見守るだけだった。

ガルバディアガーデンの戦闘の時と同じだ。

サイファーを止められるのも、動かせるのも、救えるのも...スコール。

スコール一人だけ。


「あのさ、スコール、ヵ月後にまたここに様子を見に来るぜ

皆の沈んだ空気を慰めるようにクラウドが声をかけると、サイファーは俯いていた顔を上げ、クラウドをジロリと睨んだ。

戦闘服を着てはいても何だか"悩める美青年"風なナヨっちいクラウドに、少し元気の出たサイファーは嫌な物でも見るような目で罵るが如く聞いた。


「てめえ、スコールのどんな知り合いだ」

ムッとしたクラウドは言葉の刃を返した。

「口の聞き方に気をつけろよ、負け犬テロリスト

俺はスコールにお前らの再教育を頼まれてる

これからお前達の仕事も生活も管理するが、お前達が救いようのないクズだと俺が判断したら殺してもいいとも言われてる

スコールとはそういう関係だ。分かったか、負け犬


サイファーのコメカミに青筋がビキビキと立つが、今は暴力に訴えられるほどの力が出ない。


「へーへー、威勢のいいこったな、お嬢さん

と負け惜しみ的に言った途端、傍観者を決め込んでいたセフィロスの鉄拳がサイファーの鳩尾にボキュッ!!と、クリーンに入った。

色んな事を分かっていないセフィロスだが、クラウドが”女”呼ばわり、扱いされるのを許さない事だけは知っている。


「「サ...サイファーッ!!」」

ケアルで応急処置をされたとはいえ、さっきスコールにザックリ斬り込まれた同じ場所にセフィロスにクリーンヒットさせられたことで、ついにサイファーは胃液を吐き出し痛みに転げ回った。


「汚い奴め。ところでクラウド、本気でこの品の悪い連中をお前の家に住まわせるつもりではあるまい

こんな野良犬連中、噛みつくくらいしかできないぞ

得体の知れぬ病気など持っていたら取り返しがつかぬ」


薄汚いでは飽き足らず今度は品が悪いとまで言われ、野良犬と侮辱され病気持ちの疑いもかけられ、女心を激しく傷つけられた風神はキキッとセフィロスを睨む。

そんな空気をクラウドは「あんたには関係ない」の一句で切り捨て、呼び寄せて置いたチョコボにそれぞれ人を乗せて大空洞を出て行ってしまった。



後日セフィロスがクラウドに会いにいってみれば店舗も住居ももぬけの空、途方にくれ方々探し回った挙句に見つけたのは自分のお膝元ミッドガル。

しかもその住居を世話したのは上司のリーブ。


「この前突然現れてな、どこでもいいから大人人が住めてマテリア屋を開けてチョコボとモーグリが飼えてバトル訓練ができるような場所を探してくれって...私は不動産屋じゃないんだがな」

と、深い皺を目尻に寄せて、ここ数年見たこともないほどの心からの笑顔を見せた。

ミッドガルでそれだけの条件を満たせる物件は破格に高いし滅多にないのだけれど、リーブは久々にクラウドと話せて嬉しく、無理矢理自分のお膝元ミッドガルで探した。


セフィロスは深い溜息をついた。

「一言ぐらい私に言ってもいいのではないか散々探し回ったのだぞ」

「私はお前がクラウドを追い掛け回すのを認めていない。今までに何度もそう言っている

お前は自分に都合よくしか人の話を聞かないからもう諦めてはいるが、私が自らクラウドの居場所を教えるワケがないだろう」

「私は随分とお前に尽してきた気がするが

「お前が星のために身を削るのは当然のことだ。違うか

メテオを呼び、星に大ダメージを与えたのだ。

死んでも星に尽すのは当たり前だ、というのがリーブの変わらぬセフィロスへのスタンスだった。


「……了解

疲れたからクラウドの所に行ってくる」

そうして部屋を出て行ったセフィロスの後姿にリーヴは深い溜息を吐いた。

本当に”懲りる”ということを全く学ばないヤツなのだ。

疲れていてもいなくともクラウドの所へ、休日でもそうでなくともクラウドの所へ、用事などあったためしがないのにクラウドの所へ。

ある意味迷いが無くて幸せな奴なのかもしれない。報われることも無いが。


一方クラウドはリーブが紹介してくれたミッドガル番街の大邸宅でサイファー達人と暮らし始めていた。

家の中ではクラウド・サイファー・風神が屋敷掃除管理部隊、サイファー・クラウド・雷神が料理部隊となり、新しくオープンした「何でも屋兼マテリア屋」では、戦闘員メンバーはメインでクラウド・サイファー、ショップ管理メンバーはメインで風神と雷神、そしてチョコボの世話はクラウドの担当となった。




「生きろ、生きて苦しめ」


ある良く晴れた日の昼間、チョコボの水浴びを手伝いチョコボも自分もびしょ濡れになって笑っていた時、ふとスコールの言葉がクラウドの中で蘇った。



サイファーはどんな記憶をスコールと共有しているのか。

多分それは人にとって嫌な記憶であることは間違いない。


「忘れちまえばよかったのに...」サイファーはそう言った。

そのくせ一人、記憶を消さないために絶対的に不利になると分かっていて召還獣のジャンクションを拒否していた。

スコール......



「生きて苦しめ...

お前は生き続けることの苦しみを知っている。


大空洞でのスコールを思い出す度にクラウドは生きる力が湧いた。

スコールの哀しそうな静かな瞳を思い出す度に力が湧いた。

サイファー達との新生活は日々ドタバタドタバタ慌ただしく、サイファー達のいた世界・生活と、今の生活との違いをフォローしてやるのにも忙しく、日が大変な勢いで過ぎていった。


一方、スコールの世界では死刑を翌朝に控えた死刑囚と他二名の死刑囚が一夜にして厳重警備難攻不落で有名な政治犯刑務所から脱走したと世界を巻き込んだ大騒ぎになっていた。

一番に脱走ほう助を疑われたのは、まだ人が裁判中だった時に検察側の死刑求刑に対し強硬に反対していたスコールとリノアだった。

特にリノアに至っては政治家になってまでこの人の死刑撤回、裁判無効を求めていたので最も疑われた。

しかし刑務所側がこの脱走を期に警備を全て見直し、過去に遡り侵入者が入った形跡を全て確認したところ、可能性のあったのが脱走当日とその前日、さらに遡ってか月前に度あり、その日間全てにリノアにはアリバイがあった。

脱走前日とか月前の全日間は議員宿舎に泊まっており数人に目撃されている。そして脱走当日はなんと「サイファー死刑反対」と刑務所前で徹夜の座り込み反対運動を数人としていた。

翌朝になり取材に訪れた報道関係者たちに仲間数人と「死刑反対死刑反対」と叫びインタビューに答えていたところでサイファー達の脱走を現場で知ったという...


もう一人疑われたスコールについてはか月前のアリバイについては「職務についていた為守秘義務を行使する」と答えず、前日と当日については、前日は正体不明の金髪の男と自宅に入っていくのをマンションカメラがとらえており、翌朝ガーデンに金髪の男と出勤するまでマンションから出た形跡もなく、更にはマンションの隣の住人が夜遅くにベランダに出たところ隣から男人が会話をしている声が聴こえてきたと証言した。

小声だったので内容は分からないがライフなんとか...とか、召喚獣がなんとかとか...は聞こえてきたと証言した。

金髪の男への召喚要請についても「仕事の関係者なので彼へのアリバイ裏付け尋問も拒否する。身元も明かさない。守秘義務だ」と、スコールは突っぱねた。

そして脱走当日は、なんと巷で秘かな噂になっていたキスティスと一晩一緒にいたと証言した。勿論キスティスも「スコールと私の部屋で朝まで一緒にいました」と堂々と証言した。

マンション設置のカメラにも夜に人でマンションに帰ってきて、翌朝人で出勤する様子が写っていた。

そうしたことにより最重要容疑者であるスコールとリノア人のアリバイはほぼ鉄壁で捜査から解放された。


厳重警備難攻不落で有名な刑務所から死刑囚人が脱走したという世界を巻き込んだセンセーショナルな事件だったのだが結局その後の人の足取りもプッツリと消えたように途絶えてしまったこともあり、未解決のまま終息した。

だが事件は終息したが...スコール・レオンハートという人物をよく知るガーデン内の極一部の人間たちは…


「どうやったかは分からない。けど絶対にスコールが絡んでる。これはスコールの仕業だ。」

事が事だけに誰も口に出しはしなかったが、秘かに確信していた。

互いに傭兵育ちの身、スコールが何を思って脱走させたのか、どれほどの覚悟を以て行動したのか思い至ったため、誰もが口を噤んだ。


ガーデンはか月後に大変革を控えていた。





隣人 完  

隣人15    NOVEL

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