迷い子11



全員が出口に向けて走り出した。

シークレットルームに入った時と同じようにフロアから出るためにキスティスがコンピューターにパスコードを入力した。

「ん

エラー音が出て、井戸へ向かう階段の扉が反応しない。

もう一度入力したが再びエラーになった。

「コレパスコードが書き換えられてる!!


"緊急事態発生。至急この館から避難してください。あと分で当館は爆発します。館外へ至急避難してください"


「…Bルートで行きましょうパスコード解読してる時間は無いわ

フロアから一旦Bフロアに降り、電力室奥のエレベーターを使い井戸に出ることにした。

途中物置のような部屋の前を通った時にセフィロスが「先に行け、すぐに追いつく」と、一人倉庫に入って行った。


"緊急事態発生。避難命令です。至急退館してください。



あと分で当館は爆発します。館外へ至急避難してください"

フロア電力室のエレベーターに辿り着き、気が付いた。

エレベーターの操作盤の蓋が開けられ、中の部品が切られバッテリーが外され投げ捨てられて液体が流れ出ていた。

「こ・こっ、ぅ・う、うそぉっ!!上に行けるんはもうこれしかあ、あ、あ、わわわ!!

階段へのルートもエレベーターも封印され、完全に地下に閉じ込められた状態にセルフィが震え、パニック寸前になった。

他の全員もこの状況に一時頭が真っ白になった。

研究所、宿舎丸ごと吹き飛ばす威力のある爆弾がセットされているのが地下だ。

このままではどうやっても、どうあっても回避はできない。

そこへ荷物を持ったセフィロスが追いついた。

「セセ・セフィロスさんどうしようどうしようエ・エレベーターが壊されてますぅ!!

セルフィが半泣きで叫び、キスティス、アーヴァインはブルブルと震え、青ざめ縋る目でセフィロスを見ていた。

「退け」

セフィロスは壊されたエレベーター機械の前に立ち、物置から持ってきた荷物の中からバッテリー、ヒューズ、ドライバーを使ってエレベーターを再稼働させた。


"緊急事態発生。避難命令です。至急退館してください。あと分で当館は爆発します。館外へ至急避難してください"


小さなエレベーターなので人づつ乗って繰り返し運んだ。

最後に乗ったのはセフィロスとクラウド。

セフィロスの貧血はまだ治っていないらしく、青褪めた顔を隠すようにずっとうつむいていた。


"緊急事態発生。避難命令です。至急退館してください。あと分で当館は爆発します。館外へ至急避難してください"


最後の2人を待っていたキスティス達が中庭を走り抜け本館に向かいながらセフィロスに聞いた。

「どうしてエレベーターが壊されてるの予測できたんですか

「パスコードドアが使えないのならもうあのエレベーターでしか上へは行けない

だったらそれを壊せばSTARSは抹殺できる

証言者は消す。ウェスカーがそうだっただろう」

言われてみれば確かにその通りだ!と納得するが、こんな最低最悪の現場で、ここまで追いつめられていながらそこまで冷静的確な判断・観察…。

根本的な資質の差はもちろんあるが、セフィロスとは踏んでるハードなミッションの数が違い過ぎる…とキスティス達は実感した。


本館宿舎の狭い通路を全員で走り抜けている時、

「グウウオオオォォォ!!!」と雄たけびが聴こえてきた。

大広間に出てみれば、大階段上に所長の制服の破片を身に纏わらせたモンスターがいた。

ウェスカーを惨殺したモンスターに似ているが、それよりも一周りデカイ

元署長らしきモンスターが突進してきたので先頭にいたクラウドがモンスターに対峙しようと身構えた時、セフィロスがその前に出た。

「お前は皆を早く外へ出せ。コイツは私がやっておく」

まだ青い顔をしながら言うセフィロスにイラついたクラウドが更に前に出てモンスターを跳ね飛ばしながら言った。

「うるさい!お前が行け!」

そのクラウドの腕をセフィロスが痛みが走るほど強く引いた。

「先ほど言った事がまだ理解できないかここではやり直しがきかないのだ行け!!

セフィロスの瞳には一切の甘さが無く、今までそんな目で見られたことのないクラウドはただただ驚いて、大きな目でセフィロスを見つめたまま時が止まってしまった。

するとセフィロスが見た事も無い程の寂しく悲しく、血を流しているかのような痛々しさで哀願するような瞳でクラウドを見つめ、ソッ...とその頬に触れ、囁いた。


「行ってしまえ、クラウド」


まるで生涯の別れをするような悲痛さに驚いて、やはりクラウドが固まってしまうと、キスティスが走ってきてクラウドの腕を引いた。

キスティスが走りながら

「セフィロスさん!待ってますから


"緊急事態発生。避難命令。至急避難してください。あと分で当館は爆発します。至急館外へ出てください"


クラウドがキスティスに引っ張られるまま、心ここにあらずで走っていたらキスティスに怒られた。

「シッカリしなさいクラウド!!呆けてる時間なんて無いのよセフィロスさんは必ず戻って来る!文句があるならその時に言いなさい!!

キスティスの活に意識が戻ったクラウド。

「…………ああ、言ってやるクソッアイツ

悔しくてならなかった。

何が何だか分からないが、セフィロスに見えているもの理解できている事が自分には見えず理解できていないのだけは分かって、異常に腹が立った。

町中がゾンビで溢れていた。その中をクラウドを先頭に三角陣形にし、後方真ん中にキロスを配置し進んだ。

ブロック進んだところで、後方から天をも突き抜けるほどの大爆発が、地も空気も激震させドオォォーーン!!と上がり、その後から巻き上げられた砂塵と共にパラパラパラパラと大小様々な破片がガツガツガラガラと降ってきた。

思わず皆が足を止める中、次爆発がドオォォーーーン!!と更に大きく爆発し、巨大火柱が天高く立ち上がった。

その様は宿舎・研究所爆破と言うよりは、研究所のある区画全てを爆破する規模だった。

思わず呆然と見ている仲間をキスティスが叱った。

「振り返らない!!とにかく前に走って

皆、プロテス、シェル上から降って来るものに気を付けて

キスティスはトリプルで自分とクラウドとキロスにプロテス、シェルをかけながら言った。

再び陣形を作って走り始めた時、先頭のクラウドが再び立ち止まり後方を見た。

キスティスが怒ったが、クラウドは聞いていなかった。


ゴウゴウと音を立てて巻き上がっている黒煙、そして突き抜けるように何度も上がっている火柱。その中で何かがヒラヒラと光りながらゾンビが絶命する音をさせながら近づいてくる。


やがてそのヒラヒラと光り輝くものはブラックソードの刀だと気が付いた。


長い長い刀。


あの長さを扱えるのは一人。

一区画全てを焼き尽くす激しい爆炎。


猛威を振るう炎の中の……………。


セフィロス………


片手に正宗。ゾンビたちを斬り分けながら、もう片手にはモンスター化した署長を引きずっている。


幾らか怪我をして血を流してはいたものの軽傷のようだ。


クラウドの記憶の中の何かがパチッと蓋を開けた。


炎の中のセフィロス


炎の中に消えていったセフィロス


あの時、……………そうか、コイツはウォールをかけてたんだ…


炎の中に平気で入って行くのが信じられなかった……町が燃えてるのが信じられなかった


何もかもが現実的じゃなかったあの時……


そうか……ウォールをかけてたのか…………

妙に納得してしまった。


「なんだ、まだそんなところにいたのか」


ホッとするように溜息を吐きながらも襲って来るゾンビを片手で切り裁くセフィロス。


「さっさと出るぞ、こんな所」

「そ、そうですね。ところでソレ、死んでる

キスティスが泣き顔をしながら署長の成れの果てモンスターを指した。

「殺した奴に用は無い。やはりコイツは血清を打つようにセットしていた

さっき打ってやったから多分数分で元に戻るだろう。これで証拠回収も捗るだろう」

セルフィもアーヴァインもキロスも……無言で泣き顔だった。

泣いているけれど、もうそんな水分が体のどこにも残っていなかった。

死地を脱出できた感動や、誰も死なずに済んだ安堵や……きっと人生でベスト3に入る感動だと思うが、全員涙は1滴も出なかった。

皆で出口を目指した。

後方研究所では未だ爆発爆炎を繰り返している。

適わない。

傭兵として、戦闘員として…

セフィロスには適わない。

足元にも及ばない。

セフィロスは結局、どうあっても英雄だ。

こいつはそういう存在なんだ。

英雄は、なろうと思ってなれるものじゃない。

全てが特別の、そういう形。そういう生き物。

それを人が”英雄”と名付ける。


出口が見えた時、向こう側からも気が付いたらしくワッと歓声が上がった。

その中から飛び出してきたのはラグナだった。


キロ・・!!

「おぉ…ラグナくん。復活したのかい声が凄いね」

「キロ・・ゥゥ~何・ってんだ・・ぉ~君が・ゴホッ・こ・・バカ・・るなん・驚ゴホッ・だぁ

声が酷く擦れ割れていて聞き取り辛い上に喋っても半分くらいは声になっていない、とても喋れる状態ではないのを無理を押して喋るので喉と気管支が耐えきれず咳が出てきて、聞いてる方がその痛々しさに涙が出そうになるが、それでもゲッソリとやつれたラグナが喋るのを止めようとしないので周囲も止めず、キロスも普通に話した。

「そうかい僕はバカをやったとは思っていないよ。僕はいつだって僕に誠実だ。君こそ大丈夫なのかい

「俺は......頑張る・・...うん」

ラグナの酷く哀しいような優しいような悟ったような表情にキロスが「何かあった」と聞くと

......スコールくんが・ゴホッ・夢に・・き・・ぁ...

スコール・レオンハート死亡のニュースが出て以来、ラグナの前では完全禁句となっていた人物。

その名前がラグナ自身から出て、周囲に緊張感が走った。

「スコールくん、スッゲ・・カッコよく・・って・・・なん・・...30歳く・・・ゴホッ・・ス・・ールく・・・・ゴホッ・・れて...髪も・・なっ…て、スッゲーカッ・・かった・・よおゴホッ・・ッ・・フー...

だ・ら俺さ、ゴホゴホッ・・わ・わかったん・・......この子、い・・今も生きてる!!

スコー・・ん、生きてる・・あ・・ゴホッ・はチョッ・・違う世界に行っただけ・・ゴホッ・ゴホゴホゴホッ!!

顔は笑っていたがラグナの瞳からはパタパタと雫が止め処なく流れ落ちていた。

キロスも周囲もラグナのそんな流れ続ける滴を気にしないようにした。

キスティス達は水分補給に必死なふりをして人の会話を聞いていた。

「…………スコールくん、なんて

お・・教えない・・彼・・ボクだけ・・ヒミツ・

「何だよそれ」キロスが笑うとラグナが「だっ・・ズルイだ・・…み達と突然ラグナは怒りの表情でキスティス達を指した。

「君た・・スコールく・・と・思い出・・ゴホゴホッ・・くさんあるじゃ・・ゴホッ

キミ君は・・・ゴホッ・・スコ・・・んのマンションに・・・った、泊まった子!!・・ゴホッ

と、怒りの表情でクラウドを指さし、その指でセフィロスを指した。

「・・君・・同じミッション・・ハァハァ・・スコ・・くん・・遺言を聞い・・・だろ

君たちゴホゴホゴホッ・・フーッ、おな・同じパーティ・・・くさん旅してさフーッ・・思い出・・くさん・・じゃ・・・か

でも俺には、何一つないゴホッ、何もゴホッ何にも何一つゴホッゴホッ、一個も一カケ・・だか・・ゴホゴホゴホッ・・・ハーハー・・フーッ............教えない、絶対!!俺と・・コール・・・のヒミツ

夢とゴホッ・・ゴホッ・・俺の虎の子・・ゴホッ・・思い出・・絶対誰にも!!ゴホッ・・ゴホッ

「……ラグナくん。そういうのは唯一無二と言った方が良いよ。虎の子は微妙に意味が違う」

この期に及んで間違えるラグナに長年の付き合いでどうしても条件反射で突っ込んでしまうキロス。

「と・・か・・俺はゴホゴホッ・・最後・・ハー・・......ゴホッ

皆・・もういら・・ない・・ゴホッ・・言われるまで、ハァハァ・・やる事が何もゴホッ・・・、大統領・・やり抜く・・フー・・それ・・奥さんも子供も守れなかった............俺の..................・・ゴホッ・・.........

だか・・キロ・・君も誰にも望まれなくなる・・ハァハァ・・一緒にやり抜こう・・ハー・・

なっ毒を食らわ・・皿までって・・ゴホッ・・いうだろ!?ゴホゴホゴホッ」

「……それを言うなら死なば諸共だと思うんだけどね…僕ら悪い事してるわけじゃないんだから」

スコールがラグナに何を言ったのか丸わかりな気がするんですけど……

誰もが思っていたがあえて黙って聞いていた。

「よっしゃ・・-放送入れ・・・・今からここ・ゴホッゴホッ・・ハァハァ・・焼け野原・すっから・・・・らやる事・山ほどあ・・ゴホッ撤収ー

「本当にいいんですかこの町には科学の最先端が詰まってるんですよ

エスタSATの制服を着た者が言った。

「君、そんなモノのためにウィルスのつでも漏れたら取り返しがつかないよ

最先端化学なんてものは人が未来に繋げるものだよ。人が安全に暮らせてこその最先端科学だ」

「そ・・俺も・・そう言・・・・ってたさすゴホッ・・キ・・・ん

「君はもういい加減に黙りなさい」

サスガにキロスが呆れたように言った。

避難してくる者など誰もいないだろうが、念のため避難放送をラクーンに流し始めた中、キスティスが言った。

「あの、ラグナさん。今まで誤解していてごめんなさい

これは慰めになるかどうかわからないけれど、エルオーネが私達を使ってあなた達の時代に移動していた時、私たちはキロスだったりウォードさんだったり固定していなかったけど、ラグナさん、あなただけはスコールでいつも固定されていました」

ラグナが驚いた表情でキスティスを見………一時止まっていた涙が一気に、ボトボトボトボトボトッと音が出そうな勢いで流れ始めた。

空気が巧く吸えないらしく、口をあけパクパクしながら胸を掻きむしり体をくの字に曲げボトボトボトボト涙が止まらない。

キスティスも泣きながら困った様に言った。

「いつも文句言ってましたよ。"どうしていつもアイツなんだ"とか"情けない奴"とか"コイツの頭の中はうるさい"とか

あなたにスコールとの思い出は無かったのかもしれないけど、スコールにはあなたのと想い出、結構ありましたよ

ついにラグナは両膝、続いて両手を地につき、嗚咽するように吠えた。

「…に...俺の...俺の子に......・・たい......会いたい...神様...・・・です......お願いします

...神様......俺の......スコール.........あ・・・っ・・会わせ・・・さい...・・ゥ・・.........!!

うん…まあ、あなたの息子がチョット変わった神様で、あなたはもう会ってるけどね…夢で。とSTARSメンバーは貰い泣きしながら心の中で思った。

後日、インフルエンザ休暇から戻り多忙を極めていたエスタ大統領の元に、正体不明の者から復職祝いの品が届いた。

箱の中には生前、伝説の英雄スコール・レオンハートが最も大切にしていたこの世に本しかないガンブレード。『ライオンハート』が入っており、同封された中に、どこかの闘技場で見た事も無いモンスター達相手に戦う『LEON』の姿が写ったDVD、どうもセコンド席が徹底的にカット編集され音声も消されているが、闘技場に入場してから優勝し賞金を受け取りステージを降りるまでが写っていた。

ラグナはライオンハートを執務室の常に自分から見える場所に飾り、DVDと共に生涯の宝物とした。

ある日、キスティスからクラウドに電話が入った。

「ラグナにライオンハート送ったわね

「知らない」

「あなたしかいないのよ。で、勘違いしたラグナから私に電話があってね、"DVDもありがとう今再生50回目ん60回目だったっけ~とか意味不明な事言うから、"何ですかソレ"って聞いたらね

呼び出されたのよ、大統領官邸に

行ったらラグナが"一緒に見よう"って、あの人本当に仕事してるのかしら

超過密スケジュールとかニュースで言ってたけど、息子と同じで道草ばっかりしてるから勝手に多忙になってるんじゃないの

で、一緒に観たんだけど随分編集されてたわね

あのカットされてる部分。明らかにセコンド席よね

私の推測ではあのセコンド席にはあなた、セフィロス、バカ人組がいたんじゃないかしら

スコールも次元超えてまで何をやってるんだか…

なんだか腹が立ってラグナにDVDコピーして貰ってきたわ

あとキロスが私に自分の補佐官になってくれって、あの人何を血迷ってるのかしら

それとね、話は変わるけどセフィロスさんと連絡が付かないの

電話も住居も解約されてるし、ラクーン・ミッションの証言集めをしたいのだけどクラウド連絡先知らない

「知らない」

「そう。じゃあクラウド、スコールを呼び出してもらえない

ここまで探して見つからないのはきっと彼が絡んでる。…ってアーヴァインが言ってた

あ、それと伝言もお願い。"DVDカッコイイ、惚れ直した"って"できれば編集されてないのが欲しい"って」

クラウドは電話を切ったあと、「スコール」と呟いてみた。

「お前、何してくれてんだ」

いつの間にか部屋のソファーにスコールが座っていた。

人掛けのソファー、クラウドは躊躇なく隣にボスッと座った。

「あの人、アンタとの思い出を欲しがってた」

「知ってるよ

だがライオンハートは俺の分身みたいなものだった。あれ以来何かにつけ常に話しかけてくる

本当に煩い

何なんだ、アイツは黙ると死ぬ病気か

「アンタ、セフィロスの居場所知ってるキスティスが探してるんだけど

あ、キスティスがDVDカッコイイって。惚れ直したって」

「知ってる。セフィロスはもうこの世界にはいない」

「え!?

思いもしない、予想もしない意外過ぎる答え、しかも即答にクラウドは思わずスコールを凝視した。

セフィロスはスコールを嫌っている。スコールもセフィロスを認めていない。

だから人の間に自分が知らない繋がりがあるとは、全く思いもしなかった。

「俺がアイツを異次元に送った」

「は!?異次元!?

!?何でえ、俺の元いた世界じゃなくて!?

「違う

この世界とお前の世界は次元が隣同士

それぞれ独立した世界だが、同じルート上にある

例えるなら玉が連なったネックレスとかカエルの卵みたいな形の関係だ。それが隣同士

だから極稀に繋がってるルートの隣同士で次元を滑ってしまう事故が起きる

ヴィンセントの様に

ただそれは異次元とは言っても同じルート内での事

セフィロスを送った次元は全く違うルート、次元も時空も繋がりが無い

そこにも人間という種族はいるが、ここやお前の世界での人間とは別物の"人間"

アイツの希望は

"クラウドが現在、過去、未来、世界のどこにも存在しない世界に飛ばしてくれ"だった

だから希望通りルート外の世界に送ってやった、奴の寿命40年と引き換えに

奴は二度とお前の前には現れない」

「…なん……………お、俺のいない…って…」

「全てを失ってもいい、未来永劫お前を見たくないそうだ」

「……………」


あまりのショック過ぎるスコールの言葉に思考が停止した。

だが時間の経過と共に徐々にラクーンでのセフィロスのおかしな反応を思い出し始めていた。

モンスターワニが出て、セフィロスが渡って自分が残されたあの時、既にアイツはおかしかった。

ミッションに入った時はいつも通りだった。

……いつからだ…いつからおかしくなった。

どうして……

「何でだ…お、俺が……何したっていうんだ……」

スコールはソファーのひじ掛けに頬杖をつき、クラウドを見ないまま愉しそうに「さあな」と言った後、視線だけを戻し

「でもお前もこのままじゃ納得がいかないだろう

だからせめて奴が終焉を迎える時には奴のいる世界に送ってやってもいい

ただし奴の唯一の希望”未来永劫お前を見たくない”だけは約束だからな、守る

奴にお前が来たことは知らせないし、姿も見せない、声も聴かせない

だからお前はただ奴の終焉を”観る”だけだ。接触できないし、奴から何の答えも貰えない

それでも行くのなら、お前も寿命を40年くらい縮めるし、行った世界で週間くらいは断末魔の苦しみを続ける事になるし、見たくないものも見る羽目になる

当然奴にも同じ警告をした”かまわん”だそうだ

お前たちの様に肉体を持つ存在は、本来はルート外の次元時空なんか移動できない

できないものをやってしまうのだから肉体は崩壊する。

ジェノヴァ細胞で改造されていなければ、ルートから外れた時点で終わりだが、唯一ジェノヴァ細胞が崩壊しながらも再生をする。その崩壊再生の繰り返しが命を縮める事となり煉獄の苦しみになる

とてつもない負担が肉体にも精神にもかかるから別に行かなくても構わない

セフィロスはそれを引き換えにしても出たかったのだからそうした

だがお前は前の世界に帰る事もできるしこの世界に留まる事もできる

お前はもう自由だ」

説明をするスコールだったが、クラウドはそんな次元移動の話よりも前に引っかかった言葉があった。


「………セフィロスの終焉、て…」

「質量を伴った存在に個の永遠なんか無い

ジェノヴァは不死ではない

細胞の寿命が来るまでは何度でも再生する、それと人間に比べて多少長寿、それだけの事だ

ジェノヴァ本体を思い出してみろ、何度倒しても姿形能力を変えいくらでも再生してきた

だがジェノヴァ本体もジェノヴァプロジェクトで生産されたソルジャー達も、結局は全員死んでる

あれはジェノヴァ細胞に寿命が来たからだ

お前はジェノヴァ細胞でなく、ジェノヴァ細胞を改良した次世代セフィロスの細胞から創られているから生きている

あぁそうだ、ザックスは神羅兵時代のお前がジェノヴァ細胞と相性が悪かったように、改良したセフィロスの細胞と相性が悪くて復活しなかった

本来はそのままザックスも終わっているはずだったが、ライフストリームの古代種が30年かけてザックスのカケラを集めて復活させた

但し復活したザックスは相性の悪いセフィロス因子と寿命の尽きたジェノヴァ因子を抱えただけの、ガタの来た"人間"として復活していた

だから傷の治りも遅く、大空洞での復活もなかった

だがセフィロスもジェノヴァ細胞を改良しているとはいえ、大元のジェノヴァに比べれば寿命は短い

そしてそのセフィロスから生産されてるお前の寿命はもっと短い

コピーはどうしたって元媒体よりは劣化するからな

ちなみにヴィンセントもセフィロスのようにヴィンセントオリジナルで生産されたから他の誰とも違う生命体となっている

異世界でセフィロスはお前よりも先に終焉を迎えるが、それは神羅の英雄セフィロスが消滅するという意味で、宝条オリジナルのセフィロス因子はまだ寿命を迎えていないから、違う形で復活はする

但し、神羅の英雄セフィロスの復活は無い、全くの別物で生まれてくる

セフィロス時代の記憶も一切無い完全な別人だ」


スコールの話が衝撃の連続でクラウドはただただ、受け入れるかどうかは別として聞いているしかできない。


奴は今生身で次元時空を超えた負担が体に来て、肉体の崩壊と再生を繰り返している

あと週間はのた打ち回るが、復活してからは狂気に飲み込まれたまま破壊し戦い続ける

だがその世界は魔界と繋がっていて普通に悪魔も魔神も獣人も傀儡も人間も混在していて、復活したヤツの力は最弱の人間と大して変わらない

そこで力尽き果てるまで闘い抜いたセフィロスの終焉はこの世界での2日後

お前が行きたくなければ行かなくていい

だが行くのなら、セフィロスと同じように寿命も40年くらい短くなるし、暫くは肉体の崩壊と再生を繰り返し、紅蓮の苦しみに苛まれる

そして2度とこの星やお前の星にも帰れなくなる

なぜなら向こうの世界からここへ戻る時も同じく寿命を消費するが、お前の寿命はそこまで残っていないからだ

だからお前の時空移動は回だけ

行けば2度とその世界から出られない。どんなに気に入らなくともその世界で固定される

全てを捨てて寿命まで縮めて行くか、ここに残り今までの世界で変わらず過ごすか、考える時間は2日。どうするかシッカリ考えろ

後悔しないようにな

答えを出せなければ気が済むまで考えたらいい

所詮その世界ではセフィロスの暴走など大した事件にもなっていない。心配するものでもない

但し2日を過ぎれば、お前の知っているセフィロスはもうどこにもいない、死んでセフィロス因子を持つ新しい別の何かがあるだけだ」


全く思考が働かず途方に暮れたクラウドの瞳には、愉しそうに艶然と微笑むスコールの姿が映っていた。




迷い子完

迷い子10   NOVEL

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