喪失の向こう側13(改装中)

獣ヶ原は満天の星空。

明るく輝く月が無い分、光の弱い無数の星々やミルキーウェイまでも夜空に細やかに瞬いている。


ガウが寝入るのを待ち、クラウドはセフィロスに少し離れた本木を指した。

人、無言で歩いた。

サクサク…と草を踏む人の音、虫の鳴く音、それ以外にも夜中でも川辺には水を飲みにたくさんの動物たちがやってくる。

動物たちの立てる動作の音、警戒する音、弱肉強食の音、夜中でも川辺は眠らない。

木の根元に座ったセフィロスとクラウドは暫くその様子を見ていた。


「マリーに謝ったか

「着拒されてた。謝ってない」

あ…そういえばレディがそんなような事を言っていたような……ようやくクラウドは思い出した。

「まあ、それもつの結果だな」

「そうだな」


…おかしい。

セフィロスにはマリーへの罪悪感がない。

ガウには罪悪感を持っているのに。

実際に血を流したか、気持ちが気付ついたかの違いだろうか…。

違うよな、セフィロスはソルジャーだ。そんな事では左右されない。


「宝条はなんで殴った今までは我慢していたんだろ

「お前の子供でいるのを止めたから」

サラリと返したセフィロス。

「は

お前?…俺の事を”お前”?って言った?


「お前は俺に子供でいる事を望んでいた。だからそうしていた

宝条のような蠅が纏わりつこうとも放置し、教師やお前が歓迎するような大人しい優等生でいた

だがそんな仮面を被っていたところで無駄な時間を浪費しているだけだとこの前思い知った

だから俺のペースで生きる事にした」

「……」

セフィロスがゆっくりと…首を傾け顎を上げるようにして、茫然としているクラウドを睨みつけた。


「この前のアイツとの関係は

「………友達……」

「お前は友達とああいう事をするんだな。驚いた」

全く驚いた様子もなくあくまでも低音で答えたが、その視線には露骨な侮蔑が現れていた。

思いもしないセフィロスからの侮蔑の瞳に言葉が出ず、ついには目を逸らし俯いてしまった。


「学校も退学になったし、丁度いい機会だから自立する。大聖堂を出る」


思考が纏まらない。

急激すぎる態度の変化にどうしたいいのか、どう答えたらいいのか分からない。

知っているセフィロスと違い過ぎる。


「今まではお前の”子供”でいるためエリアス、ザックス、レディ、マリーも付き合っていたが、もうその必要もない

ガウには責任があるから会いに来るが、お前を含め奴らにももう会わない

時間の無駄だ」

低く落ち着き過ぎた声がセフィロスの揺るがない宣告をクラウドに突き付ける。



「俺が特進クラスを選んだのは、学校のアリバイ作りのためだ

あのクラスは自分から隣の職員室に行かない限りは完全放置の各個室、そこで何をしていようとも自由、いなくても誰も気づかない

結果さえ出せば単位が手に入り、テストの数字が良ければ優等生

使えるシステムだった。あのクラスのおかげで登下校さえ学校の連中に合わせておけば俺は何でもできた

だがあの煩わしい蠅が邪魔をした

俺が個室にいないのをわざわざザックス達にバラしに行った

アリバイに使えない特進になど用は無いから図書館に移動した

あそこは巨大で死角だらけで入館が制限される割には入ってしまえば互いに誰も関心が無い

当たり前だ。図書館なのだから

入館目的は特進と同じだったが、思いもかけずあの可愛い小猿を見つけた

それまで少し羽目を外し過ぎていたのもあり、良い癒しの時間になった」

セフィロスは離れたところで眠っているガウを指した。


優しくて、繊細で、強くて、意固地なクラウドを傷つけたくはない。

だが自分のやりたい事を我慢する気も無かった。

だから子供の仮面を被った。

そうしてクラウドを世俗や自分を含めた欲望や毒牙から守っているつもりだった。

悪魔ばかりを集めた家族ごっこの茶番にも付き合ってやった。

クラウドがそれを望んでいたから。

だが結局コイツは自分のものじゃなかった。既に他人のものだった。

そう悟った瞬間、愛しく感じていたものが何倍もの憎さに替わった。

固まったままマトモに返事すらできなくなっているクラウドに酷く胸が痛んだが憎さも止まらなかった。

傷つけていると分かっているが嘲笑が止まらない。


クラウドの何もかもが愛しい。

理不尽に、何故こんな感情になるのか。

子供の様な大人。

誰よりも近くにいながら、俺がとっくに成熟している事すら見抜けない間抜け。

だから憎い。

こんなに清廉で可愛らしく可憐でストイックで、そして淫靡に誘う男などどこにもいない

欲しい。

どんな事をしてでも自分のものにする。

誰にも触れさせぬ。

どうやってこの面倒なトラウマ持ちの子供大人を手に入れるか日々考えていた。

だが、既に他人のものだった。


アイツの胸で泣いていたお前。

まるで全てを預けるようにつのソファに重なっていた。

殺す。

お前が泣き顔を見せるソイツ。

死ね。

何の為の仮面だ俺がアリバイを作って優等生でいる間にお前はアイツに身を任せていた

死ぬがいい。

消え失せろ

お前も!そいつも!

他の奴に身を任すお前など粉々に砕けて消えろ


「クラウド、お前は俺の何を知っていた」


もっと傷つけもっと傷ついた顔を俺に見せろ

他人の痕跡をその身に残すお前に望むのはそれしか無い

もっと傷つき血を流せ流れるお前の血を俺に見せろそして死ね

他人の痕跡が消え失せるほど滅茶苦茶に跡形もなく傷つけそして死ね


「学校の時間帯、俺は殆ど学校にはいなかった

どこで何をしていたと思う

俺の保護者のお前なら分るだろう


もっともっと血を流せ

俺に泣き喚いてみせろ

立ち上がれぬほどに、お前が何者なのかも分らぬほどに崩壊するがいい!!

俺が今まで守ろうとしていたものは何だったのか。何だったのか他人の痕跡を体に残したお前か死ね

お前はいつからアイツのものだった!!


「答えろクラウド


壊れやすい繊細なお前

俺が今、壊してやる徹底的に!!

そしてお前は泣き崩れまた抱かれるのかアイツに!!

死ね!!

お前など死んでしまえ!!

俺のものにならないクラウド!!そんなお前など俺の前から消え失せろ!!


「う、嘘だ言ってみただけだ


目を見開いたままのクラウドの様子がおかしい

瞳に何も映っていない、焦点が合っていない

マズイ言い過ぎてしまった、いや、言い過ぎなのは分かっていたが

分かっていたが


「嘘だごめん


無意識に手を伸ばし触れようとした一瞬前に、クラウドがまるで糸が切れたマリオネットの様にその場にトサッ…と崩れ落ちた。

眼を開いたまま、凍り付いた表情で…………まるで時を止めたように…。

「違う違うんだクラウド

壊れた人形のままピクリとも動かないクラウドを抱き上げたが、何も反応が無い

腕の中でクタ…と壊れたマリオネットの様になっている。


息をしていない。


心臓が動いていない。



思い切り心臓の辺りを叩いた。


「クラウド!!

「クラウド!?


心臓マッサージを開始した。

何故だ

何で突然、何があった

クラウド!!

クラウド!!


「戻れ!!違うごめん違うんだクラウド戻れ!!戻ってこい!!


何故何があった!!

どうしてついさっきまで普通に……


「戻れ!!クラウド!!頼む逝くな!!戻ってくれ!!戻って来い!!


「戻れ!!

フッ…と、クラウドの瞳に光が戻った。

「クラウド!!


クラウドの視線がユックリと…たどたどしく動く。

思わずクラウドをきつく抱きしめた。

震えが止まらない。

止めろふざけるな!!止めてくれ

嘘だろう何で


何だこれは!何だこれは!!

一瞬にして奈落に突き落とされる!

真っ黒な絶望。

無理だ…こんなのは無理。止めてくれ!!

こんなの絶望よりも酷い。そんなものを知るくらいならこの命を絶った方がマシだ

何だこれは何故…無理だ!

腕の中のクラウドが突然跳ね除け立ち上がり、ガウが眠っていた場所に走って行った。


ガウが起きていた。

傍に現れたクラウドを見上げ、目をパシパシさせたガウ。

クラウドは何も言わずにただ優しく頭を撫でた。

優しく優しく撫で続けた。

そんなクラウドを瞬きしながら見ていたガウ。

ポツリ…と、今まで聞いた事のない、甘い可愛らしい声で言った。


「ありがとぉね、クラウド」


そのまま吸い込まれる様にガウはまた眠りに落ちた。

しばらく無言でいた


「クラウド」

クラウドは唇に人差し指を当て、”黙れ”とメッセージ。

そのまま立てた人差し指を、獣ヶ原まで乗ってきた車に向けた。


また人で無言で車まで歩いた。

歩きながら考えていた。


クラウドのさっきの反応は何だ

何故突然心肺停止をした

それにその状態から、何故普通に眠りから覚めたような再始動になるんだ

造魔(傀儡)…

ゾッ…とした…

恐ろしい言葉が浮かぶ。

俺の造魔。

まさか…俺が望んだから…。


車のすぐ傍まで来た時、クラウドは振り返らないまま言った。

「行け。この車、やる」

沈黙の後にそれがクラウドの送別の言葉だと気が付いた。


ふざけるな!!

クラウドの腕を掴み引っ張り、バランスを崩した体はそのまま腕の中に入った。

腕の中のクラウドは抵抗する事も無く、まるで人形の様に抱き締められた。

普段のクラウドならこんな事は許さない。

「お前が…お前が誰かのものになるのが許せない

そんなお前を見るくらいなら…

言いかけた言葉を途中で飲んだ。

もう、その言葉は冗談は済まない。

全ての絶望がすぐ横にある。

お前は俺の言葉で簡単に死に、俺は絶望する。


「何で俺のものにならないんだ

クラウドは苛立ち怒鳴るセフィロスの胸に手を当て、押して剥がした。

だが両手をそのままセフィロスの胸に当てたまま、見続けた。

やがてその頬を両手で包み、優しく軽く触れるだけのキスをした。


「セフィロス……ラクーンのあの時、約束…守ってくれてありがとう……」

「約束ラクーン

意味不明の単語にセフィロスは聞き返したが、クラウドはそう言ったまま俯いてしまった。


「今度こそお前に幸せになって欲しくて……俺の…全てをかけてお前を育てるつもりだった

でも…やっぱり俺じゃ力不足だったんだな……」

俯くクラウドをセフィロスは上から抱き締めた。



クラウドは自分とセフィロスの間に畳まれている両手を広げる事で、囲っていた両手を剥がし、歩下がり、距離を取り、満天の星空の元、苦し気にセフィロスを見つめ続けた。

セフィロスがクラウドに歩近付くと、また歩下がった。


「クラウド」

セフィロスが手を伸ばすと、更に歩後ろに下がった。

そして真っすぐにセフィロスを見つめ、瞬く星々のように細やかな光を瞳に宿し言った。


「俺はお前から造られた造魔」


「……」


「お前が命令すればどんな事でも俺は”従う”」


驚愕の表情のセフィロスとは対照的に、クラウドは酷く疲れたように小さく溜息を吐く様に呟き始めた。

その小さく切れ切れに弱々しい声は相手に聞かせるようなものではなく、自分自身に整理をつけるための独り言の様で、遠くで聞こえる川のせせらぎ、虫の音にすら搔き消されそうなほどだった。


「お前はこの星に来て一度死んでる

その時に以前の記憶も能力も全てが初期化され、卵になって生れ直した」

クラウドの瞳は虚ろでどこも見ていない様だ。

「一昨日、スコールが俺をお前から隠したのはお前の殺意に俺が従いかけたから……

お前の殺意から俺を守るために結界を張ってくれた」


虚ろで伏し目になって何も見ておらず、小さな声で話しているクラウドはそのまま消えてしまいそうな程に儚く、セフィロスを不安にさせた。

「いつかお前にその能力が開くのは分かっていた

だから俺がお前を育てて、人を傀儡扱いしないよう、その罪を知る奴に育てようと思った

でも、俺じゃ力不足だ。お前は俺の手に負えるような奴じゃない

分かってた

そんなの最初から分かってた……けど……………」


星空に瞬く星々の輝きがクラウドの潤んだ瞳をキラキラと輝かせる。


「お前とアイツはどんな関係だ」

またそれか…と、クラウドはうんざりした顔をした。

「何度も言うが友達だ」

「なら質問を変える、何者だアイツ」

「召喚神。元人間」


草原を一陣の風が吹き抜け、草がサアァーーー……と波立ち音を立てた。


「クラウド、あの聖堂の違う塔に移ろう、人で」

「は

「俺一人で誰も知らない土地に行くつもりだったが止めた

お前を連れて行く

ただそうすると多分、レディもエリアス達も黙ってはいない

あいつらは敵に回すと無駄に厄介な事になる

だから大聖堂の違う塔に行く

人で暮らす。アイツらには邪魔させない

それにこれからはお前の仕事にも付いて行く

足を引っ張るのは分かっているが、安全な場所で教えられるよりも実戦の方がいい

怪我も厭わない。守られて戦ってもピンとこない

造魔の支配に関しては俺がなんとかする

どうするかは操作されるお前が考えても仕方のない事だ、俺が考える

任せておけ」


「え…………と、えー……それは止めようぜ……お前と2人とか無理過ぎだし」

案の定クラウドは早速逃げの態勢に入っている。

「俺はもう子供じゃない。奴らと雑魚寝も共同生活も辟易している

俺はお前の主なんだろ?お前、俺がどう成長していくのか見ていなくていいのか?」

「…………」


セフィロスは逃げようとするクラウドを抱き寄せ、先日の騙しキスとは違い今度はゆっくりと顔を近付け、最初から深く唇を重ねた。

そして微かに唇を離し、更に深く、クラウドの小さく薄い唇を弄ぶように舌先をチラチラと使い舐めて愉しんだ。

だが口内に舌を侵入させる前にクラウドが震え始め、無理矢理引きはがし逃げようとたので、再び掴まえ直し更に強く抱きしめた。


「お前が色々と曰く付きなのは分かっている。それも全部引き受ける

その代わり今日からお前の恋人は俺一人だ。お前が属するのは俺一人

これからお前が俺以外の誰かに縋りつくのは許さない。お前も相手も絶対に許さない

もしそんな事があれば何をしてでも、相手が神であろうが誰であろうが必ず未来永劫後悔をさせる」

ガクガクと震える手で無理矢理セフィロスを引きはがし、距離を取ろうとしたが足が縺れ、結局クラウドはその場にへたり込んでしまった。


「……ぃい…………だ……誰が恋人なんかなるかそんなの絶対に嫌だ

ベタベタ触るな!気持ち悪い………キスも気持ち悪いからやめろ

う……い、い、一緒に住っ……もヤダ。……嫌だい、………


吐きそうになって立ち上がろうとしても体が震え立ち上がれず、地面にペショ…と座り込んで青褪めて震えるクラウドと目線を合わせるためにセフィロスもしゃがみ、そしてニヤリと口端で笑った


「お前は根本から分かってない

俺はもう子供じゃない

俺はお前が欲しい

お前ともっと人の時間を持ち、もっと深く知り、繋がり、交わし合いたい

子供が決して望まない事をお前としたい」

「うるせえ聞きたくない!触るな!ホモなんか最悪だ!聞きたくない聞きたくない聞きたくない

次また言ったらもっとお前が嫌いになるいや、お前なんかこれ以上嫌いになれないくらい大嫌いだ今!この世界の全部の中でお前が一番嫌いになった!裏切りやがって!!


つい昨日…というよりも先程まで大切に育てていたセフィロスの豹変に負けないクラウドの豹変っぷり。

過保護親から一転、大嫌い!までいってしまうクラウドの激烈な拒絶にさすがの無神経セフィロスも戸惑った。

もうクラウドは気持ち悪さと怖さと寒気とでガクガクと震えが止まらず涙も再び出そうになりながら、パニックになり自分が何を言っているのか分からなくなっていた。


「クラウド。俺はお前と共にありたい

それが1番の希望だ

それができないのなら、お前が他の誰かのものになるのなら

そんなお前は見たくない。2度と会わない。視界にも入れたくない

どちらかを選ばせてやる

宣言されクラウドは座り込んだまま背中を丸め俯き耳を塞いだ。


「………なんでこんな奴ばっかなんだ……」


聞こえるか聞こえないかのようなか細い声だった。


「お前は何か酷いトラウマを抱えている

俺が無神経でお前に踏み込むのが危険な事も承知している

だがお前も何十年と経っても、その過去から逃れられないのなら、それは全く自己解決能力が無いという事だ

だからお前の過去の整理に俺が参加する

嫌なのは分かってるがどうせ今までも駄目だったのだから今更どうなろうと構わないだろう?お前もそれくらいの譲歩をしろ


変わってない……コイツは前のセフィロスと何も変わってない。

何でだ…あんなに大切に育てたのに…何でこんな嫌な奴に育ってしまうんだ。


セフィロスは両耳を塞いでいるクラウドの両腕を掴み外させ軽く口付た。

と、みせかけそのまま深い口付けにつなげ、舌でクラウドの口内に侵入していき、驚き奥に引っ込んだ舌を舐め絡ませ誘いながら、上顎を裏側から舐め刺激し始めた。

やはりクラウドが震え始めたが、構わず両腕を掴んだまま体を進めていき、座っていたクラウドはそのまま押し倒される形となった。


「……

セフィロスの体が被さる事でその加重を体に感じた時、突然クラウドはセフィロスを突き飛ばし車の反対側に走って逃げだした。

クラウドが隠れた反対側に廻るとガタガタと震え膝を抱え丸まっていた。

夜中なので顔色は分からなかったが、脂汗を浮かべ今にも吐きそうなところを震える手で口を押えていた。

見られていると気付いたクラウドはそのまままた車の裏側に逃げ込もうとしたが、それよりも早くセフィロスはクラウドを捕まえ後ろから抱きしめた。

だがクラウドはそれを突き飛ばした。

しかしセフィロスは咄嗟に手首を掴み、そして言った。


「今日はこれ以上何もしない。だから逃げるな

言っただろう、お前に自己解決能力は無い一人で抱えらないのに抱えようとするな

格好つけるな。何十年経っているのか知らないが、過去に引きずられ続けるお前はもう十分に情けないぞ


「……何で俺は死ぬべきだったんだ!何であの時ちゃんと殺さなかった!!畜生!もう嫌だ嫌だ!!全部嫌だ何でこうなるんだ何で!!もう嫌だ!全部!!どっか行け!!


震えが収まらず、もうこれ以上触れていたら悲鳴をあげて気絶しそうな状態だ。

セフィロスはきつく掴んでいた手首を解放した。

そして惜し気に笑った。

「手を繋ぐところから始めよう……セックスは当分先のお愉しみにしておく」




その時、ガウが苦しむ声が聞こえてきた。

セフィロスが走り出し、出遅れたクラウドがその後を追うように走った。


「ぅぅぅl……ぁぅぅぅ……がうぅぅぅぅ……」

「ガウ痛いのか!?

ガウの表情が苦痛に歪んでいる。

おかしい、もうガウは痛みの峠を越して力を入れない限り痛みはないはずだ。

「ぁぁがああぁぁぁ……」

だがガウは全身で物凄い汗をかいている。

抱えるクラウドもその隣にいるセフィロスも見えていないようだ。

「ガウ

魔法で強制的に眠らせたり痛みを飛ばしたりもできるが、何か違う。

ガウの反応が怪我から来ているものではない気配がするから下手な事はしない方がいい。

「ウウゥゥーーーーーーーーーゥゥ!!

ガウがギリギリと歯を食いしばりながら悲鳴をあげている。

「イイイィィィィーーーーーーアア…ァァ………」

その悲鳴の息が切れ始めた頃、食いしばっていた歯が少しづつ開き、声ではない音がガウの喉から出始めた。

空気を震わすその音は、一番近いものが以前スコールが召喚神として誕生した時に召喚獣達が謳って迎えたあの時の空気の震え。

音ではない、声でもない、超音波でもない空気の震え。

あの時は耳に聞こえるものではなくとも、召喚獣達が何を謳っているのか伝わってきた。

でもこれは違う、唱ではない。恐らく……悲鳴のような絶唱で何かを呼び出してる。

空気を震わす振動がガウの喉から出始め、段々と口が開かれて行くと同時にその振動が大きくなって行き、まるですぐ隣にある空間とバリバリと割られ裂かれるような振動となり、先ずセフィロスが倒れた。


ガウが口を最大に開けて大きく空気を震わせる悲鳴を絶唱した時、クラウドも意識を失った。

喪失の向こう側12   NOVEL   喪失の向こう側14

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