喪失の向こう側 最終章 プロローグ

月の光を浴び浮かび上がるフォルティナ旧大聖堂。

かつては魔界の住人や異星人達が家族のように暮らし賑わっていたが、現在そこに住んでいるのは異星人セフィロスと無数の魑魅魍魎達のみ。

元々ボロボロだった旧大聖堂はクラウド失踪以来15年、手入れをする者がいなくなり荒廃が加速し、蠢く魍魎たちによって城の外壁が休みなく波打っている本物の幽霊城へと進化を遂げていた。


インキュバス・レノと使い魔・ツォンは魔王就きの使命を果たし続けた結果、今では魔界の柱を担う大陰魔、大悪魔へと成長し、それに伴い重力・体積も大きくなり魔界から出られない純魔界の悪魔となっていた。


エリアス、ザックスはクラウド失踪後は異星人セフィロスと共にデビルハンター・レディの所属となり働いていたが、ザックスは父ツォンからの教えと本人の意思もあり、主君エリアス第一の従者として先鋒となり盾となり前衛で戦い続けた。

しかし上級悪魔のエリアスや異星人セフィロスとは違い、人間と使い魔の子である下級悪魔ザックスの身体は鍛えているとはいえ素質は人間と大して変わりない。

そんな者が桁違いの能力を持つ上級悪魔や異星人と同じパーティでしかも先鋒、前衛で戦い続ければ怪我は絶えず、時にはレイズが必要な大怪我も繰り返した。

下級悪魔ザックスはそれを魔法やオーブを使い強引に復活しそのまま先鋒に戻り戦いを続けた。

そうして身体に不自然な負荷をかけ続けた結果、その身体は基礎から脆くなり怪我をしやすく復活しにくくなっていった。

それでも「主君(エリアス)を守るのは従者の役目」と前線で戦い続けた結果、5年前の激しい戦いが続いたある日とうとうどんな魔法やオーブを使っても復活しなくなった。

下級悪魔ザックスに本当の死が訪れた。

だがその時はまだ激しい戦いが続いており、躯となったザックスをかまっている余裕もなく上級悪魔エリアス、異星人セフィロスがツインヴァンガード(2頭先鋒)となり、バトルを続行した。


そうして激しい戦いも勝利を収めた後「僕が始末していくから先に帰っていいよ」とザックスの躯を足元にエリアスらしい凛々しく美しい微笑みで仲間達を見送り、その場に一人残った。


翌日、目を覚ましたのは上級悪魔の能力を継承したザックス唯一人。

傍らにはエリアスの躯が横たわっていた。


エリアスは禁忌魔法反魂をその命を以て唱えたのだった。



『姿は見えず声も聞こえなくとも共にいる


  友より』



砂地にエリアスの字で書かれてあった。



躯と成り果てたエリアスを抱くザックスの慟哭が海の眠りを覚まし時化(しけ)を呼び起こした。

エリアスの字はあっという間に飲み込まれ消え去り、嵐が巻き起こり豪雨が日を跨ぎ一時も収まらなくなった。

街中いたるところで濁流が起こり始め、落雷が木々を割り、家を破壊し燃え上がり大火災が嵐の中各所で発生した。

更に地も裂けよとばかりに大地震が起こり地割れが起き、裂けた割れ目に濁流と共に家々木々が飲み込まれてゆき、裂けていない場所は地が液状化を起し次々と街並みが沼地に消え始めた。

デビルハンターレディー達が出動し束になって取り押さえようとしたが上級悪魔と化したザックスの慟哭は誰も止められず、最後は同じく上級悪魔ネロが魔界から魔王バージルを召喚し、ザックスを魔界に堕とすことで収まった。


自然豊かでのどかだった街並みはもはや跡形もなく、人々が踏み入れられない荒野の峡谷と化していた。


エリアスの躯を抱いたまま堕ちたザックスは魔界3位の洗礼を受け完全な純魔族となり、以来人間の世界に出る事は無かった。




聖堂エントランスを見下ろせる2階ダイニングの窓、…といっても既にダイニングとして機能しなくなって久しく、窓はガラスも窓枠も残っていない”窓があった空間”に腰かけ何を見るともなしに蠢く幽霊城と同じように月明かりに照らされ外を眺めている人物。

銀色の長い髪が月明かりを受け鈍くスラ…スラ…と流れるように輝いていて、結界の向こう側では微風が吹いているのが分かる。

蠢き続ける幽霊城の中にいるにもかかわらずそこだけ空間が切り取られたように異質に見える。


セフィロス21歳。

見た目は英雄時代と寸分違わないが、そこにいるセフィロスは昔とは明らかに違う人物になっている。


15年後に帰って来ると伝えておいた。今年に入ってからは仕事以外は大抵ああしている」


結界の中にいるクラウドは困惑していた。

人間らしく育って欲しいと願い育てていたセフィロス。6歳の時点で既に昔と同じパターンになり始めていて絶望した。

その後15年放置した(そんなつもりは無かったが)結果が何故あんな寂し気な、いっそ弱さすら感じるような人間臭い表情をするようになったのか。

何があればあんな風に育つのか。

俺だって凄く頑張って育児したのに何でもない顔して昔と同じに捻じ曲がって鬼畜のような奴に育っていたのに……

どうすればあんな不安気なやるせない表情をするようになるのか。

あんなセフィロスは知らない。


「『The Gate』の彼はたった2年半お前と付き合った後50年近く命尽きるまで、どんな絶望的な事実を目の前に突き付けられようとも、お前にだけ分かるメッセージを発し続けた。

決して諦めなかった。

その結果が新エリア誕生、その後サイファーに引き継がれあの星は回復へ向かった

セフィロスはこの15年ひたすらお前の帰りを待ち続けた

その結果が今のアイツのブレイク姿。戦った時にでもアイツの変身した姿を見てみろ

彼らはお前の代わりをつくれない

投げ出せば楽になるのは嫌というほど彼らは知っている。逃げ道も逃げ口上もいつもリアルに見えていた

それでも彼らはお前が行かない限り終われなかったし、セフィロスは待ち続ける」


四季折々の花を咲かせるチョコボの楽園。

雪景色の様な見渡すかぎり一面の花弁。

光の教会。

フラワーアーチを潜り抜ける完全プライベート空間のコテージ。

何度も通ったミッドガルの狭いパブを思い出すホテルの広いロビー。


誰にも秘密だったの2人の記憶。

会うのはいつも夜だった。


2人だけのメッセージ。

『The Gate』




「俺、もう直ぐ終わるんだろ


自分の事しか考えてなかった。

俺だけが取り残されていると周りを勝手に切り捨てていた。

何も見えていなかった。見ようともしていなかった。


「正解。そんなに先じゃない」


繋がりは一つじゃなかったのに。

会えなくても、命が違ってしまってもあの人は関係を繋いでいてくれたのに。

手を離さないでいてくれたのに。


「ありがとう、スコール」

これで思い残すことなく逝ける、と言うとスコールが吐息と共に微笑んだ。


「そうはいかねぇんだよ

もう一人、型を付けていけ」


アレか……

どの世界でも魅入られ恐れられる英雄でいながら空っぽの器。

嘗て一コマ見ただけのCMの雄姿に心酔し、その隣に立ちたいと夢を見て…、そしてあの人と出会った。


あいつにしてやれることは何だろう

俺の残り少ない時間で。



「結界を解く


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