君のもとへ2



「そういえば昨日ヴィンセントの会社の人に会ったんですけど、この前来てた本社の赤髪の人いたじゃないですか

よく喋る人あの人社長付きSPだったんですよ

SP

ティファの話に母が耳慣れない単語を聞き返した。

「セキュリティポリス!神羅の社長を警護してる人だったんです

あの人クラウドに守ってもらったとか言ってたけど、一人で平気な人だったんですよむしろ守る側馬鹿にしてる

憤慨を伝えたかったティファだったが、母は真逆に反応した。

「まぁぁ、カッコイイボディガードってことね……え~?なぁに今はそういうの”SP”って言うの

しかも社長だなんて!やっぱりあの人エリートさんなんじゃないの!

あ!でもボディガードって目立たなくてシュッとスーツを着こなしてるものじゃない?映画とかドラマだとそうよね!

正反対だったじゃない!あの人!ヴィンセントくんと同じバッチしてなきゃ絶対にわかんない!

神羅って入社するのも大難関でアッタマのイイ大学出の人ばっかり勤めてるって聞いたけど、ヴィンセントくんが社内で仕事がデキル人で、あの赤髪の人がボディガードって………本当、見た目ってあてにならないものね~」

女手一つで取り扱い要注意の息子を育て上げてきた女性とは思えぬほど、母は無邪気な人だった。


「…うん、それであの赤髪の人も実は神羅でちょっと有名人なんですって

あれだけ目立つ外見してるのに社長の警護に付くとビックリするくらい存在感が無くなって透明人間になったみたいに気配が無くなって、でも仕事が終わると途端にあの通り派手で人目を引く、すっごいお祭り人間になるんですって

「まあ…器用!」

「私はその話聞いた時怖くなっちゃった。だって存在を消すって簡単な事じゃないです…ですよね!?

ティファが厨房の中、クラウドの隣で焼き上がりをトレーに移しているザンガンに話を振った。

その隣にいるクラウドは聞いているのかいないのか、黙々と作業を続けている。

「存在を消すというのは『自我を殺し、周囲とシンクロさせる』行為

彼はあの気安い口調や外見の軽さとは逆の、タフでシビアで醒めたスピリットを持っている

俺はそう感じた

人と賑やかにしていても、本心は違うところに置いていて、自分を含めたその場を観察分析しているように見えた」

「私も感じましたあの人本音で喋ってない…っていうか、計算してるような感じがしました

クラウドまたあの人が来ても返事しない方がいいわよ、危険よあの人SPのくせに”守ってもらった”なんて!ふざけてる!

あの人クラウドに妙に絡んで来たし、何か嫌な予感がする!

またあの人が来てももう返事なんてしなくていいからね話しちゃダメよ!?うっかり返事したらあの人のペースに巻き込まれてきっといいように利用されちゃうんだから

丁度客足も途絶えていたのでティファが遠慮なく厨房のクラウドへ大きな声で話しかけた。

だが返事が無かった。

 

「……クラウド

やはり返事はなく一人黙々と作業を続けていたクラウド。隣にいるザンガンからティファに話しかけられているアクションをされ、初めて気が付いた様だった。

「何だ

「今の話聞いてた

「あ、聞いてなかった。何

「………どうしたの昨日から変よ

ティファだけではない。昨日から店の人達から何度も心配されるほどクラウドは調子を崩していた。それでも……

「何でもない」

決してその理由を言おうとはしなかった。

 

残念ながらティファの嫌な予感はこの時、既に当たっていた。

2日前、レノがミッドガルに帰る当日。

「クーラちゃん

例によって深夜、夜明け前。寝静まった街。

「予定変更で今日仕事に入ってそのまま帰る事になった。だから別れの挨拶に来たよ。クラちゃんに!

本当は昼に会いに来るつもりだったけど都合付かなくなっちまったからさ……チッ、予定狂っちまったぜ」

「?」

何でわざわざ俺に挨拶?と言おうとしたクラウドの顎にレノの指先が触れた。

それにクラウドが反応する前に唇を塞がれた。

唇によって。


焦点が合わぬほどの至近距離にある顔。

いつの間にか腰を抱き寄せられ体が密着している。

何がどうなっているのか、思わずフリーズしていたクラウドだったが、角度が変わり舌がぬるりと唇を歯列を割り口内に侵入してきた所で全力で抵抗し始めた。

が、何故か相手には動きを読まれているらしく手足を固定されてしまい、更に力を入れれば入れるほどそれが自分に跳ね返って来て、まるで蜘蛛の巣にかかったようにどんどん身動きが取れなくなっていった。

訳の分からない状態のまま口内を良い様に侵略され、動揺激しいままジタバタ暴れていると、ようやくチュパッ!と音を立て唇を解放した。

 

「惚れたよ。お前に」


顎を固定され強制的に至近距離で視線を合わせさせられ、衝撃と混乱と呆気にとられ過ぎたクラウドは、今も己の唇を指で撫でられているが気付いていない。

「仕事があるから今日はミッドガルには帰るけどマジでまた会いに来るぜ。クラちゃんに!このままじゃ終われない」

撫でて微かに開いていたクラウドの唇を、形が拉げるほどに強く一舐めし、薄い唇をテラリ…と淫靡に光らせた。

その輝きに誘われるように再び隙間から舌をねじ込み歯を割り、口腔内に潜む舌と強引に擦り合わせ、舐め上げ、舌先を尖らせて舌裏・横を刺激しながら抱いた腰のトレーナーとTシャツの裾から掌を侵入させ素肌に触れた。

うっかりやられっぱなしになってしまったクラウドだったが、直接肌に触れられたことで再び正気に戻り渾身の力を込め暴れだしたが、やはり暴れるとその力が自分に返って来て、その痛みに歯を食いしばったことで口の中に侵入していたレノの舌を噛んだ。

「あいってー、、」

楽しそうにレノは笑いながら言った。

「分かってくれたマジでお前、狙ってるの。伝わった?」

だが残念。クラウドはそのもっと手前から何が何だか頭がついていっていない。

レノの目的はティファと友人の橋渡しじゃなかったのか?ティファと同じ職場の俺に用があったんだよな?

その疑問に躓いたままだった故にレノの質問には”全然分からん”が答えだったが、その上軟派なチンピラだと思っていた奴に力負けした事も衝撃で、何も答えられずにいた。

「ライン入れる」

最後にわざと軽くチュッと音を立てて唇の横にキスをし、レノは去っていった。

クラウドはただ呆然と立ち尽くし、結局その日は朝の仕込みに遅刻してしまい、それを猛スピードで挽回しようとしたが、気持ちが混乱したまま大乱調になってしまい、結局何度もやり直しをして更に時間を喰うわ、欠品を出してしまうわ、材料を無駄にするわ、皆に心配されても答えられないわで、仕事上がりの疲れが半端ない上に何年かぶりに泣きそうなほどに落ち込んだ。


そして予告通り、仕事が終わったクラウドにレノのライン、電話攻撃が怒涛の如く始まった。

翌日も翌々日も「お前は一体いつ働いてんだ!」と言いたくなるくらいに携帯の着信音がチャラチャラ鳴りやまない。

『クーラちゃーん、トーク出てよぅ。話ししようぜぇ~

『いないのー

『よしわかった今から留守電の方に俺がお前の気に入ったトコ全部吹き込んでやっから有難く聞いとけ!

「うるっせえ

宣言通り留守電に聞くに堪えない言葉を喋り始めるレノにイライラ我慢が限界突破しクラウドが電話に出て怒鳴ると、サラリとかわす。

『いるんじゃんよ。おっ話しようぜ、ク~ラちゃん

「この前も言ったよな!俺暇じゃない電話も嫌い変な呼び方もするなそれにお前、友達の伝言とかどうなったんだ俺関係ないだろ何でこんな事する

『あー、まずルードの件はな、俺も思ったんだよ、そういうのは人に頼るべきじゃねーって。自分で何とかしろって本人に言っといた

で、俺はお前に惚れた。言ったよなだから俺はお前に電話してる!

つーことで!今週会いに行っていい行ったらヤらせてくださいヤりたいですク・ラ・ちゃんと

「アタマ湧いてんじゃねぇ

『クラウドに沸騰中

キメセリフ風にビシッと言われ、咄嗟に携帯の画面を突き指をする勢いで通信終了させたクラウドだったが、直ぐにまたレノからラインが入った。

『とりあえず今週は土日曜が休みだからそっち行く』

『ちなみに行ったら絶対に捕まえる。逃げても無駄』

『捕まえたら軽く俺の欲望特急ノンストップになっちまう気がする』

『覚悟しとけ』


恐ろしく早打ち怒涛のレノの送信攻撃。読む傍からポンポン次が表示されていく。

もう我慢の限界どころか怒りと意味不明さとでクラウドはまたレノの着信に出る。

「お前本当に何なんだ俺お前にそんな事言われる覚えがない

『そらそうだろうよ。お前に覚えがあったら俺ら両想いってことになっちまうだろ?

両想いってならまた、会話の内容も変わってくる

ん~?なぁ、恋人同士はどんな会話をすると思う~?

とりあえず遠距離ときたらテレフォンセックスは必須だよな~?』

「ふ、ふざっけんな

『全然、でもねーけど、あんまふざけてねーよそっち行ったらお前の腰をガッツっとホールドして、ベロが疲れて喋れなくなるくらいチューしてやっから期待しとけあとケツ洗って…

ブツッ

何でこんな事になってるんだ!?と、クラウドは意味不明さと怒りで携帯を床に叩き付けたかったが、壊れてしまうのでギリギリギリギリと自分の手が痛くなる程握りしめた。



パン屋で働き始める前のクラウドは引き籠りで、そのルーツは既に幼稚園時代から始まっていた。

生まれた時から『天使が地上に舞い降りた』と称えられるほどに特別可愛らしかった外見のせいで同年の男の子からも女の子からも虐められまくり、人目を惹く美少年に育ってきた小・中学校では虐めの種類に色気が入ってきて、結果登校拒否になってしまい、あっという間に引き籠り完全体に成長してしまっていた。

その数年後、近所にパン屋さんが開店した。

母がそこのパンを気に入り通うようになり、そこの看板娘で学校の人気者らしいティファがクラウドと同じ年と知り、引き籠りの息子の話をしたところ、クラウドの部屋までやってきてくれた。

予期せぬ侵入者に部屋の隅で強烈に怯えながらも、必死で武器になっていない柔らかな言葉の棘を向けてくる来るチャーミングな美少年に、ティファは優しく暖かい笑顔を向けた。

当時ティファも心に傷を抱えていたが、その痛みがクラウドの痛みと共鳴し、クラウドに優しくする事でティファの痛みは和らいでいった。

何度も部屋へ通い、繊細な少年の怯えや警戒を労わる様に解いてゆき、クラウドはポツ、ポツと単語で会話できるようになり、会話で自己表現できるようになり、冗談が言えるようになっていった。

やがて手を繋いで外に連れ出せるようになった。

ガタガタブルブルと震えながら目に涙を溜めながら背中に隠れながらも必死に前に進もう、外に出ようとするクラウドを守り導く事でまだまだ荒んでいたティファの気持ちも穏やかになっていった。

そしてクラウド自身持て余していたマイナス思考を鍛える手段としてティファは武道を教えるようになった。

その武道の成長と共にティファはクラウドをティファのパパ、ティファの武道の師匠にして厨房のザンガンに紹介していった。

ティファがいるところでのみ話せたクラウドが、ティファ無しでもパパやザンガンとコミュニケーションが取れるようになってきた頃、ザンガンが”手伝ってほしい”とクラウドを厨房へ誘った。

そしてクラウドの厨房が板についてきた数年後、ティファのパパが病で亡くなり、ティファが店のオーナーとなり、クラウドの母親が手伝いで支える形となり、更に数年後に土地の区画整理に店が引っ掛かり、駅前に好条件で移転することができた。

つまり成人した今でもクラウドがマトモに接触できるのは母親、ティファ、ザンガン、そして移転の際にパート募集でやってきたエアリス、その御主人のザックス、ティファが”クラウドの幼馴染(お互い覚えてない)”と紹介したヴィンセントだけだった。

ティファが駄目だというものにはクラウドは最初から近づかなかった。

それほど幼少期に受けたトラウマはきつく深く、ティファはそれを覆うクラウドの絶対的な盾だった。


クラウド自身ティファに何もかも依存しているこんな関係は歪なもので、精神的に本当は子供のまま成長できていないのは分かっていた。

今のままではいけない、もう大人なんだからちゃんとした人間にならなければいけないと、いつも強迫観念のように思い続けていた。

それでもティファが選んだ優しく聡い人達で固められた世界は安全で、今でもたまに思い出す子供時代に体験した外の世界は残酷で恐ろしすぎて、自立しようと踏み出そうとする度に身がすくむ。

それでも、それでも今の状態は駄目だ!と己を鼓舞はしてみても……ティファが介在しない世界を知るのは1日延び、1日延ばし、そして現在に至り、自己嫌悪も根深くなっていく。

そこへ赤髪のレノが現れた。

クラウドの拒否などBGM程度にしか聞かず、甘く優しく楽しく饒舌に、逃げ道を塞ぐ。

 

その日、出勤してきたザンガンが陳列されているパンを見て開口一番クラウドに言った。

「何があった

「…………ごめん」

今日は土曜日、レノが来ると予告している日だ。朝から動揺が収まらず、既に天然大雑把な母からも心配されていた。

レノの予告が気になってどうしようもない。怖い。腕力ではあいつに敵わない。それはもう分かった。その上で何をされるのか怖すぎて泣きそうだ。思うたびに手が震える。

おかげでパンの形成にバラツキが出てどうしようもない。

こんなにヘタレで気の小さい自分にどうしようもなく腹が立つ。

仕事に影響を出させるアイツに腹が立ってどうしようもない。

 

「悪いと言ってるのではない。商品はちゃんとしている。ただ仕上がりが今までと違うものがある

何があった話せるのなら聞く」

「……何でもない」

「………困ったことがあれば皆がいるからな皆に話せなくてもティファになら話せるか

「うん。……ごめん。本当、何でもない……」

 

この優しく穏やかな店の空気を壊したくない。

変な目的を持った赤髪のレノの事など言えない。

恥ずかしい。

母を困惑させたくない。

ティファにどんな目で見られるのか考えたくもない。

今までだって今だって十分皆に気を遣わせている。

これ以上誰も煩わせたくない。変な事で負担になりたくない。

店を上がる時には殊更辺りを見回し見回し探りながら元凶がいない事を確認して、それでも嫌な予感は拭えないままに辺りを見回し気配に気を付けながら歩き始めたほんの50

「何そんなにビクビクしてんの

 

突然肩を抱かれ、そこに長い赤髪が見えた瞬間一気に走り出した。

が、直ぐに腕を掴まれたが、その掴まれた腕を軸にしてレノを投げ飛ばそうとした、が、それも読まれていたようで逆にその反動で自分が壁に背中から叩き付けられた。

痛みに顔をしかめ、本当に腹が立ち半目になり睨みつけるとレノは困った様に口端で笑っていた。

 

「学ばねぇなぁクラちゃんよぅ。もう俺の仕事聞いたんだろ

会社の奴が言ってたぜ。ティファちゃんが俺の事を聞いてったって

格闘は俺の本職。素人のお前は勝てねぇよ」

それでも押し退けて逃れようとしたクラウドだったが

「あ、待って待って、あぁ~焼きたてのパンの匂い~。最高~ほぁ~」

と言いながら顔を至近距離に近づけ匂いを嗅いだ。

「あ~この匂い、マジ最高

そう言いながらもクラウドが抵抗できないようにガッチリと抱き締めた。

「とりあえずメシ行こうぜもうお前の匂い嗅ぐと腹減って辛抱たまんねぇ

言葉では友好的な食事へのお誘いだったが、叩き付けられた背中の痛みに顔を顰めるクラウドを、身動きが取れないようにきつく抱き締め、レストランへ連行する姿は拉致以外の何ものでもなかった。

レノのニヤけた顔とは対照的に、クラウドはいかにも憮然と声を発した。

「お前、いつもこんなに人の意志を無視するのか

「あちゃんと意思汲んでんだろ」

「どこが

「アララ、自分で気づいてねーの

んじゃー…サービス!お前のためにティーチ・ユー!

オメー、俺に会ってから今までに一回も本気で嫌だとかヤメロとか言ってねーよ

本気で嫌がってねーのはOKと同じ

と、ゆーことで!今から俺は更にプッシュしまーす

何故なら!俺の目的はお前とメシを喰う事じゃねーからデス!

行儀悪くフォークをクルクル回転させ笑いながら言った。


本気だ!本気で迷惑している。何故それが伝わらない!?

パン屋以外の人とは関わりたくない。ヤダ!怖い!

レノと知り合ったあの早朝も、ああして早々にカタを付けなければ自分の怯えを奴らに見抜かれた。

そうなってしまうともう力は関係ない。mmも動けなくなって一方的に暴力を受けるだけになる。抵抗できなくなる。

だから嫌だ。本気で関わりたくない!

なのにコイツは楽しそうに「友達になろう!」みたいな顔して「ヤろう!」って言う。意味が分からない!

本気なのに!本気で嫌なのに!


クラウドは決意も新たにレノにちゃんと伝わるように言葉を一つ一つ区切って強く言った。

「イ・ヤ・ダ絶・対・に嫌だもう来るな触るな!見るな!喋るな!お前、きらい!

「……クラちゃんよ、そんな可愛い言い方して!とんだ小悪魔だな、ベイビー!

俺っち、そんな大サービスされたらもう、今、ここで野獣になっちゃうぜ?

心配すんなって!ホテルは予約済だ!お前んちでヤらせろとか言わねーから!駅前が一杯でうっかりラブホになっちまったが、結構面白そうな部屋だぜ。お前をVIPで招待してやる明日はそこからパン屋に行けばいいぜ近いしよ

 

ガックリ……項垂れた。

もう、もう、本当にどうしたらいいのか分からない。

ティファに相談したい。助けて欲しい。

そう思ったが、またこうして何でもティファに逃げようとする、こんな恥ずかしいことを相談なんかできない!と、クラウドは自分を戒めた。

 

一方レノは食事をしながらクラウドが母親と2人暮らしであることを確認し、「とりあえず家まで送る」と無理矢理付いていき、そのまま自宅に入り込んだ。

レノは元々口の巧さや強引さ、そして相手を視る力には自信があり、パン屋のクラウドも今までの女と同じように落とせる確信があった。2回は必要ない、1回で堕とせる。

それだけの自信がなければ3時間もかけて来たりはしない。

だがそれにしてもパン屋のクラウドの押しの弱さ、押せば押すだけどこまでもずるずると後退してく主体性のなさは異常だった。

これだけの美形でしかも可愛いく誘う男が成人していながら処女&童貞なのは奇跡&謎だが、この性格じゃ遠からずクズに捕まってガバガバビッチな未来予想図が見え見えだ。

だがそうなる前に俺がガッツリ気が済むまで喰い散らかしーの!ロスタイム6時間分は元を取ってサヨナラベイビー!グラスランドサイコー!

クラウドが本気で嫌がっているのなど最初から承知の上。

だが甘い。

こんないい年して主体性のない甘々な男など、赤子の手をひねるも同然。

 

「お前さ、何でそんな自分に自信あるんだ

リビングのソファに遠慮なくどっかりと座り込み、出されたコーヒーを堪能するレノ。

対面に座ったクラウドは真剣な顔で聞いた。

 

「俺が自信を持っているようにお前には見えるなら、多分そうなんだろ?」

「何だよそれ」

レノのいい加減な答えにクラウドはムッとした。

「そんなもん考えた事ねぇから」

「自分のやり方や考えが間違ってるんじゃないかとか思わないのか!?相手を不快にさせてるとか迷惑かけてるとか思わないのか!?

「そりゃ間違いだらけだろうぜ?コンピューターじゃねぇんだから何だって間違うのは当たり前だ

そもそも男が男を口説いてる時点で”間違い”なんじゃねぇの?

でも間違うとか正解とか常識とか、大して重要なモンでもねーよ

間違ったからこそ見える事もあるし、たくさん間違ったから辿り着ける場所もある

間違ってると分かっていても直せない気持ちはやっぱり同じ立場にならなきゃわかんねーし

絶対正解だったはずの答えも時間や立場や環境が変わればいくらでも間違いにも嘘にもなる

そうすっとそれが本当に間違いだったのか、間違いとは何なのか怪しくなってくる

イケメンも、ブサ男も、アタマイイ奴もバカも、皆それぞれの立場にならなきゃ見えない景色がある

世の中勝ち続けてる奴に一度でも負けた奴の世界は絶対に分からないし、負け続けながらも退かない奴の気持ちはやっぱり他の奴には分からねーもんよ

そこで”分かるぜ”なんつったら、それこそ本当の間違いだ

相手に迷惑をかけるとか不快とかやりもしないで言ったって意味ねーよ

何もしなくったって存在自体が不快だと思う奴は思う

それに誰かに迷惑かけたとしても後で挽回すりゃいい。挽回できない事もあるが世の中の大抵の事は挽回できるもんだ

結局自分と他人の境界はどうしたってある

たとえそれがどんなに深く愛し合ってるように見える夫婦でも、生まれた時から仲良しの親友でもだ

つーことで、その程度のモンだぜ他人の意見なんか。参考程度に聞いときゃいいんだ。参考にならなきゃ聞く必要もねーぜ」

「……………」

「納得した

「……………分からない」

そう言いながらクラウドはコクン…と斜めに頷いた。

本当によく分からないらしい。


コイツ、バカだなぁと感心しつつ、その幼稚な可愛いさにレノの高性能アンテナがビーーーンッ!と反応した。(下半身ともいう)

「そーんな難しく考えんなって!

言いながらさり気なくソファから立ち、クラウドの隣に座り直し、その勢いそのまま押し倒し被さりながら囁いた。

「教えてあげたご褒美にヤらせて」

レノの下から逃れようとしたが、どうしても体の力が分散されてしまい、もがきはしても起き上がれなかった。

「ヤダって言ってるだろ!どけよ!!

抵抗を封じられていても頑なに腕の中でもがくクラウド。

「なぁ、聞くけど何で駄目なの

俺はお前とセックスしたくて遥々休日を潰して来た

俺的には片道3時間、往復で6時間のロスタイムなんつーのは正直、正気の沙汰じゃねえ

それだけ俺にはお前が魅力的に見えてんだ。そんだけ狂っちゃってんの、お前に。そんだけお前とヤりたいわけよ

でもお前は絶対に俺とセックスしたくねー。んだよな

俺別に病気とか持ってねーんデスケド

チット傷ついちゃってんですケド?なんで俺の何がそんなに嫌なわけ

ちなみにチンコのサイズはマグナムつってっけど実は並サイズだ!安心しろ!」

「な、お、そ、そんなこと!か、関係な、お、お前の事知らないしそ、それに男同士はそんな事しない

「するぜ、普通に。ナチュラルに合体!できるの知ってるよな

「し、知らな…」

「なら教えてやる。俺、処女開発も得意だから!」

「いや、やだ!…………お、おま、お前の事知らない……退けったら!やだよ!

「何で?何が?お前は俺の事を知ればヤらせてくれんのなら教えてやるぜ、何でも。

何?俺の何が知りたい

「や………そ…んな…」

「情報なんかいくら集めても意味ねぇっての、結婚するわけでもねーんだからよ」


言葉でどんどん逃げ道を塞いでいくレノ。

体はとっくに逃げ道を失くしている。

もうクラウドはただスーパー至近距離、目の前のレノから半泣きで目を逸らす以外にできない。

 

「クーラちゃん逃げちゃだめですよー

決めるのはココ。ココは何て言ってマスカー

言いながらレノはクラウドの心臓の辺りを指先でトントンと軽く突いた。

クラウドの心臓はバクバクと早鐘を打っており、体を密着させているレノにもそれは伝わっていた。

「情報の多さが大事なら幼馴染や友達とセックスしときゃいいだろ

情報の多さが大事なら長年連れ添った夫婦が別れる事もねーよ

セックスはそうじゃないから楽しいんだ

情報なんか関係ねー。決めるのはいつだって、こ・の・辺・り!」

今度は手を広げ、撫でるようにしてわざと乳首の上を何度か指先で掠った。

「……」

「ドッキドキしてないかぁクーラちゃん

俺ともっと楽しいドッキドキしちゃおうぜー?」

もう本当に止めてくれと、レノの手首を掴んだクラウドだったが、その力は弱い。

逃れられない関係がそのまま力に表れていた。


レノは声を1オクターブ落とした。

「お前が全身で俺を誘うんだよクラウド

ミッドガルにいる時もお前の事を思い出せば俺のマグナム君がフル勃起した

勃ちっ放しも体に悪りぃから何回もお前を想像して抜いちった

「……さ、さっき並って言った…」

精一杯のツッコミだったが、顔すらも固定され目を逸らすしかできなくて、そこへ強引にキスをされ受け入れる以外なかった。

レノは角度をつけ更にキスを深くし、舌で唇を割り口内に滑り込ませた。

上あご、歯列の裏を舐めながら舌を絡ませ舐めこすり、強引にクラウドにも舌を使わせ唾液まで飲ませた。

クラウドの完全な戦意喪失を読み取っていたが、そのままではレノは許さなかった。


「クラウド、本当に俺がキモいなら鳥肌の一つでも立てて見せろ

それができねーならお前も俺とのセックスを愉しむんだよ

そんで俺のサイズをケツで測りな。そんじょそこらの”並”とはワケが違うぜぇ?」

唇も触れんばかりに耳元で囁かれた声に、クラウドは泣き出してしまいそうなのをこらえるしかできなかった。


 

純粋で汚れないと言えば聞こえはいいが、要はいい歳した男が無知で無防備でチキンなくせに、その自覚も無くクソみてぇなプライドで自分でなんとかしようとしているバカ。

守られ過ぎた大人子供。

処女にするように優しくキスをしてやった。

「俺に任せろ。上手いぜぇ一緒に気持ちイイこといーっぱいいーっぱいしような!

 

真っ白なクラウド。

お前をビッチにしてやる。


お前がどうなろうとも、周囲がお前を守る。

それで万事OK。

俺たちはお互い過去になり、二度と会うこともねー。

さすが俺!遠距離万歳!



   君のもとへ3   NOVEL

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